09/04/19 11:13:38 6cIz4MAu
徳川頼宣の家臣の従士が盗みを働いた。怒った頼宣はその組の
頭・水野甚三郎を呼び寄せた。
「愚か者め、お前は組にこんな阿呆がいることにも気づかなかったか!
即刻、切り捨てて来い!」
「なんと、あまりのことを仰る!親の心子知らずといいます。どうして
組の人間全ての心まで知ることができましょうや。このような辱めを
受けては、もはや上様にお仕えすることはできませぬ!」
そして甚三郎は髪を小刀で切ると城を去ってしまった。翌朝、甚三郎が
気になった頼宣は甚三郎の小舅・水野重良に甚三郎のことを尋ねると、
重良は答えに困って平伏した。そこに家老・安藤直次がやって来て
「重良殿、すぐに甚三郎を呼び戻すのです」と2、3度繰り返して言った。
これを聞いて頼宣はこう言った。
「帯刀はなぜそんなことを言うのだ。あいつはわしに責められて勝手に
出て行ったのだ。呼び戻す必要などあるまい」
「親の心子知らずといいます。組子全ての心中を把握するなど不可能です」
直次が甚三郎と同じことを言うので、頼宣は反論したが…
「ムッ!だがな、かつて父上は従士が奥女中に恋文を送ったときに、
その従士頭だった松平若狭守を改易したという先例がある!」
「権現様は仏でも神でもない、ただの凡夫であらせられました。どうやら
子というものは親の行ったくだらぬことまで学んでしまうようですな?」
頼宣の顔をじっと見つめながらそう皮肉ると、直次は退出したという。