08/10/25 18:06:49 tjCtfkDs
>>571
門番「今取り次いで参りました。先客がおりますので別室で待っていただきたい。」
十兵衛を部屋に案内し門番は奥に消えた。
十兵衛が暇を持て余し始めた頃…。
門番「失礼いたします。主の指図で夕餉をお持ちしました。」
材料こそ質素だが一つ一つに手をかけ技を込めた料理が次々と並んでいく。
門番「本当であれば主も貴殿と共に夕餉を楽しみたいのでしょうが、向こうも話が混み合っておりましてな。
話が終わり次第こちらに参られましょう。
ん?あぁ、その糠漬けが気に入りましたか?」
どれもこれも美味いのだがこの糠漬けだけは輪をかけて美味い。料理の上手い女中がおるものだ、と十兵衛が呟いた。
門番「この料理は全て拙者が作ったものにございます。日頃から主と共に台所に立ち包丁の技を教え込まれていますので。
それでもまだ主の料理には及びませぬ、本来なら主自らが腕を振るうつもりだったのでしょうが…話が長引いておりましてな。
ただその糠漬けだけは主が漬けたものです。拙者が漬けるとどうも上手くいかないもので…。」
照れくさそうに笑う門番は十兵衛がものを言う前に部屋を出て行ってしまった。
十兵衛が全ての料理を平らげた頃門番はまた現れて膳を下げ、お茶と書物を十兵衛に渡した。
門番「申し訳ないが今しばらくお待ち頂きたいとのこと…時間潰しにこれを…なんでも主が古今和歌集を写したものだそうです。」
見ればなかなかの達筆。十兵衛は黙々とそれを読み始めた。