09/04/09 16:29:20
>>1のつづき
興味深いことに、統合失調症の患者はこの錯視を起こさない。
彼らは凹んだ顔を凹んだ顔として知覚する。米国では1000人中7人ほどが患っている統合失調症は、
幻覚や妄想、計画能力の低下などを特徴とする疾患だ。
このような現実からの解離は、ボトムアップ処理とトップダウン処理のバランスが
取れていないことが原因ではないかと、一部の心理学者は考えている。
この仮説をテストするべく、ホロウマスク錯視を使った研究が行なわれた。
Dima氏と、ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)のJonathan Roiser氏は、
統合失調症患者がなぜこの錯視にだまされないのか突き止めようと考えた。
そこで、統合失調症患者13人と、比較対照群として健常者16 人を被験者に、
fMRI(脳スキャン)を使って脳の活動を測定し、凹面と凸面の顔の三次元画像を見せた。
結果は予想通りで、統合失調症患者は凹面の顔を凹面と知覚したのに対し、
健常者は誰も知覚できなかった。
Dima氏とRoiser氏は、動的因果性モデリング(DCM) という比較的新しい技術を用いて
fMRIのデータを分析した。この技術によって、被験者がタスクを実行中に、
脳の領域間での結びつきに違いがあったことが突き止められた。
健常者が凹面の顔を見ているときには、トップダウン処理に関与する前頭頭頂ネットワークと、
目から情報を受け取る脳の視覚野との間で結びつきが強くなった。
一方、統合失調症患者にはそのような結びつきの強化はみられなかった。
錯視において健常者の脳は、この結びつきを強めることで自らの予想する視覚(通常の凸面の顔)が
優勢になるように処理し、それによって、実際には見えているが自らの想定には
存在しない視覚情報を圧倒するのだと、Dima氏は考えている。
一方、統合失調症患者の場合は、このような脳の経路をうまく調整できず、その結果、
凹面の顔を現実として受け入れている可能性があるという。
凹面の顔が凹面として見えるのは、統合失調症患者だけではない。
酒に酔っている人や、ドラッグでハイになっている人も、この錯視には引っかからない。
この場合もやはり、脳が見ているものと、見えると予想されるものとがうまく結びつかない状態が、
アルコールやドラッグによって引き起こされている可能性がある。