09/09/03 16:54:58
>>452
みつけた
コーヒー哲学序説(抜粋)
寺田寅彦
コーヒーが興奮剤であるとは知ってはいたがほんとうにその意味を体験したことはただ一度ある。
病気のために一年以上全くコーヒーを口にしないでいて、そうしてある秋の日の午後久しぶりで
銀座(ぎんざ)へ行ってそのただ一杯を味わった。そうしてぶらぶら歩いて日比谷(ひびや)へんまで来ると
なんだかそのへんの様子が平時とはちがうような気がした。公園の木立ちも行きかう電車もすべての常住的なものが
ひどく美しく明るく愉快なもののように思われ、歩いている人間がみんな頼もしく見え、要するにこの世の中全体が
すべて祝福と希望に満ち輝いているように思われた。気がついてみると両方の手のひらにあぶら汗のようなものが
いっぱいににじんでいた。なるほどこれは恐ろしい毒薬であると感心もし、また人間というものが実にわずかな
薬物によって勝手に支配されるあわれな存在であるとも思ったことである。