08/06/11 01:01:59
それきり女は口を噤んだ。
ただ、泣いた――
彼女の両の手に鉄の輪がかけられ、
両脇を婦人警官に支えられ、
凶行と、謎解きと種明かしが行われたこの小さな部屋から促されて出て行くときも、
ずっとずっと、泣いていた。
さめざめと。
外に降る、六月の雨のように。
いつか彼女の涙は涸れ果てるのだろうか。
涙が涸れ果てても、もう何ひとつもどってはこない。
たとえ罪を償う機会を与えられたとしても。
その罪を償ったとしても。
何ひとつとりもどせはしないのだ。
過去も、未来も、機会も、命も、あらゆる気持ちも。
永久に。
時間はもう戻らない。
それぐらいしか、僕には言えない。
我らが名探偵はどうしていたかって?
もちろん、自分の推理が正しかったことが証明された後は、
きっと…
夕食の献立のことでも、考えていたに違いない。