10/05/14 18:34:44
名誉毀損が成立する条件は?
では、「法律に書いてあるんだから、他人の悪口を言えば罰せられる!」というものかと言えばそうでもない。
名誉毀損が成立するためには、いくつかの条件がある。
以下は、ネット掲示板での名誉毀損関連訴訟の草分けとして有名な、
ニフティ裁判での裁判所判断(これはネット訴訟を考える上で非常に有名な判例で、
法学生の論文のテーマにもよく見受けられる)
刑231/刑230/民709/民710に触れる行為(=誹謗中傷)があった
(1)を受けた原告(=この場合は被害者と同義とする)が社会的信用を失い損害を受けた
(1)と原告の被害・損害の間に関連性が証明された
(1)を受けた際に、原告は反論できない環境にあった
まず、(1)の誹謗中傷(侮蔑行為)が実在したかどうか。これはログも残るし証言も集まることから、証明されるだろう。
次に、(1)によって原告が社会的信用を失ったことが証明されなければならない(2)。ここでの社会的信用というのは、「実名を使って、働き、暮らしている、
実社会での名誉と信用」を意味している。
民法というのは、実社会での社会生活を調整するために制定された法律なわけだから当然といえば当然なのだが。
だから、ネット上で誹謗中傷を受けた場合で、原告(=被害者)が実名の場合(=その名前が、本当に社会生活上使われている実名であることが証明可能な状態にあり、それが広く知られている場合)は、
ここで名誉毀損が成立する可能性が生まれる。タレント、政治家、財界人など、不特定多数に対してプロフィールが公開されているような人物に対する誹謗中傷は、
芸名であったとしても社会生活を送る本人と容易に結びつけることができるので、
名誉毀損は成立する、ということだ。
続いて(3)は、「風が吹いたら桶屋が儲かった理由を証明せよ」みたいなもので、「風が吹く(=誹謗中傷)」と「桶屋が儲かる(=その利益損益)」の因果関係が説明できなければならない。
この因果関係の説明というのはなかなか立件するのが難しいものだそうで、
ここが焦点になる名誉毀損裁判も多いようだ。
さらに、ネット掲示板での名誉毀損話でキモとなるのが(4)。
自分が介入できない場所で勝手に名誉を毀損された、しかも自分にはそれに対して反論・撤回を訴える手段がない。そもそも名誉毀損を裁判所に訴える、
というのはそうした「失われた【社会的名誉】を回復するチャンスを与える(刑)」
「名誉が失われたことで【実生活の金銭・物品に出た損害】を取り戻す(民)」という目的のために行われるものだ。
掲示板での議論で、誹謗中傷を受けた人間が同じ掲示板で発言中だった場合、技術的にはその場で反論が可能だ。(言いたい言葉が思いつかない、というのは反論不能な状態とは違う)
誹謗中傷に誹謗中傷でやり返すような状態(=frame)の場合、明らかに反論の機会が与えられており、
また原告も被告も「相互に誹謗中傷を行っている」ということから、「一方のみの訴えに基づく法的解決にはふさわしくない」とされている。
結論すれば、ネット上での匿名の議論(相互に対等な立場で、お互いの社会生活上の実名・社会生活について知らない状態で発言し合っている)においては、
実社会での実名とネット上での匿名の関係が証明されない限り、誹謗中傷による名誉毀損は成り立たない(刑)
(1)により実社会での金銭・物品の損害が発生し、それと(1)との因果関係が証明できないと名誉毀損に基づく損害賠償は成り立たない(民)
よって、「匿名掲示板の発言者同士による名誉毀損裁判は成立しない」ということになる。