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◇「人々の懸け橋に」--通訳と翻訳家
EUの多言語政策を黒衣として下支えしているのは欧州委員会の翻訳・通訳部門のスタッフだ。
約1750人の翻訳家と約550人の通訳が書類や会議をさばく。両部門の予算はEU全体の約1%に
あたる約11億ユーロ(約1700億円)で、EU市民1人当たり年約2・5ユーロに相当する。
6年前に通訳部門から翻訳部門に移ったギリシャ人のヨハニス・イコノモさんは32カ国語を操る。
「ハンガリーのお年寄りが欧州委員会に寄せた陳情の手紙から、ギリシャ国民の暮らしを変える
EU法案まで、翻訳で人々の懸け橋の役割を果たせるのがうれしい」多言語の習得を通じて知った
のは「いかに私たちが交じり合っているかという事実」だという。「例えばギリシャ語とポーランド語
の『ティーカップ』の発音は似ている。自分の遺伝子にはポーランド人の祖先の記憶が刻まれてい
るのかもしれない」と語る。英国に併合された過去を持つアイルランドでは国民の大半が英語を話
すが、政府はアイルランド語の教育に力を入れている。政府の要請でアイルランド語がEUの公用
語に加わったのは昨年1月。加盟から34年かかった。
アイルランド人翻訳家のション・オ・リエンさんは「多言語を学ぶことでアイルランド人としてのアイ
デンティティー(帰属意識)が弱まることはなかったが、欧州人意識が強くなった。自分の中で二つ
の調和が取れている」と説明する。
◇「英語だけでは不十分」--多言語政策担当委員に聞く
オルバン欧州委員(多言語政策担当)は毎日新聞と会見し、「国際競争力の点からも英語だけでは
不十分」と多言語政策の意義を強調した。
--欧州単一通貨ユーロは成功しています。なぜ言語は統一しないのですか。
幾多の紛争、戦争を体験した欧州の歴史的経緯からだ。かつての敵同士が平等な立場で交渉に
臨むには相手の言葉と文化を尊重する仕組みが必要だった。加盟国民に母語で情報を提供する
という民主主義の問題でもある。小国の文化も尊重され、誇りを持つことができる。米国と異なり、
私たちは「単一の文化・言語」を推進するつもりはない。
--英語をEUの共通語にすべきだと考える言語学者もいます。
国際的な意思疎通のため英語は一層、必要になっているが、企業や国家の競争力の点から見て
も、英語だけでは不十分だ。日本、ブラジル、ロシア、中国などの言語の使い手は欧州には少なく、
中小企業は言語能力を競争力につなげるノウハウを持っていないことが多い。今回、初めて域外
言語の学習を促進する計画を始める。
EU域内では人の移動は自由だが、言葉が障害になっている。他の加盟国で暮らし、働いている人
の割合はわずか2%だ。EUには失業率が高い国も、労働力不足の国もある。労働者が多言語能力
を身につければ就労機会が増え、労働力の適正配分にもつながる。
--移民を社会に統合する効果は。
EU人口の約4%はアフリカ、中南米などの域外出身者だ。EUが豊かさを維持するには今よりも
多数の移民が必要になる。移民が溶け込むには受け入れ国の言葉を話せることが前提条件だ。
--欧州で地域主義、民族主義が高まっているように見えます。
EUは地域言語、少数言語を含め言語の多様性を推奨している。だが、人々が言葉を分離主義、
民族主義、地域主義の道具に使うのには反対だ。
◇欧州の言語状況
EUの東方拡大に伴い公用語の数が増加。域内には23の公用語のほかに約60の地域言語・少数
言語を話す人々がいる。さらに、アフリカ、中東などから流入する移民が持ち込む言葉が加わり、
多言語状況に拍車をかけている。EU域内には少なくとも175カ国の出身者が暮らしていると推定
されている。また、EU加盟国民約5億人のうち約1000万人が他の加盟国で働いている。
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