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【コラム】韓国の死刑制度の行方(上)(下)
「何だって? 死刑執行を予告する記事を書くんじゃないのか」
受話器の向こうから、法務部の幹部の怒鳴り声が聞こえてきた。「20人を超えるのか」「明日早朝に執行
するのか」というこちらの質問には答えず、「“お前らは一両日中に死ぬ”という予告記事を書くつもりなの
だろうが、それは記者である以前に人間としてやってはいけないことだ」と告げた。1997年12月29日の午後
のことだった。
当時、ソウル地裁の記者室は、瑞草区瑞草洞の2棟からなる庁舎の西館12階の南側にあった。同じ階の
北側にはソウル地検公判部の検事室があった。裁判所を担当していた記者はいつものように廊下を歩いて
いたところ、偶然、死刑執行の指針が公判部に通知されたことを知った。「なぜよりによって、今この時期に
わたしの手で人を殺さなければならないのか」と不満を訴える声が聞こえてきたのだ。
その後、「○○○(死刑囚)はクリスチャンなので、牧師を呼んで最後の教誨を行うように。▲▲▲(死刑囚)
は仏教徒なので、僧侶に連絡を取りなさい。死亡確認書を発行するため、大学病院の医師たちを立ち会わ
せる」という話も耳にした。先輩検事は後輩たちに対し、死刑執行を絞首によって行うことや、臓器の提供を
希望した死刑囚の臓器を摘出する際の手続きなどを細かく指示した。
だがこの時点では、全国で何人の刑を執行するのか、具体的に何時間後に執行するのかなどの情報は
分からなかった。そこで法務部に照会したところ、ある幹部から説得される羽目になった。
「大統領府の決裁も得たのだから、あとは執行するだけだ。しかし、執行前に報道したりすれば、死刑囚
本人や家族にどれだけ苦痛を与えるか分からないのか。記者は知っている内容をすべて書けばいいという
わけではないだろう」
悩みに悩んだ末、記者はその日夜、「予告記事」を書かなかった。そして翌30日早朝、法務部は全国の
拘置所で23人の死刑囚に対し刑を執行した。死刑は文明国家の司法制度によって、犯罪者の生命を奪うと
いう、極めて例外的な刑罰だといえる。そのため、自らの手で死刑囚の生命を奪うことになる刑場担当の
検事や刑務官も、耐え難い苦痛を味わうことになる。死刑囚の最期の瞬間はかなり長期間にわたって脳裏
から消えず、しばらくは食事も喉を通らず、夜も眠れない日が続く、と訴える検事たちも少なくなかった。
この日の執行を最後に、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下では死刑の執行が行われ
ることはなかった。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは昨年から、韓国を「実質的な死刑
廃止国」に分類している。だが偶然なのか、韓国ではこの11年間に殺人犯が32%も増えた。法務部によると、
死刑が執行されていた1994年から97年までの4年間には、年平均で607人が殺人罪で起訴されたが、執行
を中止した1998年から 2007年までの10年間には、年平均で800人が殺人罪で起訴されており、その数は
32%も増えたというわけだ。アムネスティ・インターナショナルによると、死刑制度を廃止したり、執行を長期
間にわたって中止し、「実質的な死刑廃止国」に分類された国は129カ国ある一方で、62カ国が死刑制度を
維持しているという。お隣の日本では、昨年1年間に18人の死刑囚に対し刑を執行したのに続き、先月29日
にも4人の死刑囚に対し刑が執行された。また、米国や中国では随時死刑が執行されている。
だが、韓国で現在、死刑が確定し収監されている死刑囚58人は、大部分が「人間の顔をした獣」同然であり、
彼らの手によって命を奪われた被害者は数百人に達する。その家族や友人、報道に接した国民のことを思
えば、否定的な影響はとてつもなく大きい。
死刑制度の問題は、国民感情や法哲学、宗教、人権、文化といったさまざまな問題が複雑に絡み合う問
題だ。今回の京畿道女性連続殺人事件をきっかけに、死刑制度が再び論議を呼んでいるが、これが以前の
ユ・ヨンチョル、チョン・ナムギュ両死刑囚の事件のときのように、一過性の話題で終わらないことを願いたい。
李恒洙(イ・ハンス)記者(香港特派員)
朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 記事入力 : 2009/02/08 08:58:55
URLリンク(www.chosunonline.com)
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