08/12/23 11:51:30
日本一の歓楽街、新宿歌舞伎町のど真ん中で「こころ」という名の4歳の女の子が父親と路上で暮らしていた。虫歯だらけの
笑顔。垢(あか)まみれのおなか。「豊かなはずの国で、なぜ」。半年間、彼女を撮り続けた韓国人カメラマンが、写真集「歌舞伎町
のこころちゃん」(講談社)を出版した。
権徹(ゴンチョル)さん(41)が初めてこころちゃんと会ったのは去年9月。新宿コマ劇場前の広場だった。遊び相手となるうち、
彼女が父親と路上生活していることを知った。
ジュースを買い与えようとすると、父親が飲んでいるのと同じドリンク剤を選んだ。父親がいない昼間は、ゲームセンターで
ゲームを眺めながら、時間をつぶしていた。
こころちゃんがシャツをまくり上げ、垢で黒ずんだおなかをかいている姿を見たとき、権さんの好奇心が吹き飛んだ。歌舞伎町を
12年間撮り続けて初めて受ける衝撃。人として助けたいという思いが、取材対象としてカメラのシャッターを切る行為を押しとどめた。
父親は日がな1日、路上で酒を飲んで暮らしていた。権さんは「仕事をするつもりはないのか」と詰め寄ったが、「どうしようも
ないんだ」とうなだれるだけ。別々に暮らす妻から月に1、2度、小遣いをもらっていたが、その妻もネットカフェを転々としていた。
「これは親子の問題ではなく、社会の問題ではないのか」。知り合って1ヶ月、やり場のない怒りが込み上げる権さんに、こころ
ちゃんは笑いながら聞いてきた。「カメラを持っているのに、何でこころを撮らないの?」。権さんはこころちゃんの撮影を始めた。
3月、こころちゃんが突然、いなくなった。母親が児童養護施設に連れて行ったと、権さんは人づてに知った。
年の瀬、こころちゃんはあと数日で6歳になる。そして、周囲が遊び場だったコマ劇場も大みそかで52年の歴史に幕を閉じ、
父親と通った敷地内の食堂も閉店する。店員の中国人女性の陳さん(38)は、厨房の中のいすにちょこんと座って、笑っていた
姿を思い出す。「私は帰国するけど、大きくなったこころちゃんとまた会いたい。歌舞伎町じゃないところで」と、つぶやいた。
権さんは、こころちゃんが1日も早く、父母と一緒に暮らせるよう、写真集の印税を親子に寄付する。「写真集には続きがある。
満開の桜の下で、一年生になるこころちゃんを撮りたい」
ソース(東京新聞 12/22 TOKYO発)
URLリンク(www.tokyo-np.co.jp)
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--その後、取材を始めたきっかけは?
ある日、こころちゃんがシャツのすそをあげてお腹を掻(か)くのを見かけたんです。垢(あか)で黒ずんでいました。寒い冬が
始まれば風邪をひいてしまうかもしれない、死んでしまうかもしれない、と焦りました。
そんな姿を見かねて、一緒にいた父親に現金を渡したこともあります。でも、父親はそれでビールを買ってしまうような人でした。
「それでも、あんた親なのか」と怒鳴ったこともありますが、話を聞くうちに「どうしようもない」という気持ちもわかるような気がしました。
--それがこの写真集で伝えたいことですか?
取材の過程で、日本は豊かな国ではなかったのか、という疑問が強くなりました。歌舞伎町に遊びに来る人たちは、こころちゃん
に無関心でした。これは父親一人の責任じゃない、社会全体に責任があると思います。こころちゃんの姿は私たちに何かを
問いかけてくれる。理不尽な現実を社会にぶつけてみることは価値があると考えています。
別ソース(毎日新聞、12/10付)より抜粋。
URLリンク(mainichi.jp)