08/12/17 14:20:57 Lant+gYL
永楽帝―中華「世界システム」への夢 講談社選書メチエ
檀上 寛 (著)
彼は父朱元璋と同様,多くの女性を後宮に集めることに,並々ならぬ熱 意を示した。
特に朝鮮に対しては,永楽六年以来,たびたび美女の献上を 命じており,
朝鮮王朝はそのたびに屈辱的な思いを味わった。
永楽六年な どは,わざわざ婚姻を禁止して選抜を行ったが・・・・彼女たちが中国に向か う日,
二度と会えぬ子を思う両親や一族の哭き声が,いつまでも道にあふ れていたという。(p241)
・・・しかしそれほどまでにして集められた美女のなかで,永楽帝の寵愛 を受けた者は,
ほんの一握りにすぎない・・・・・・
永楽帝の持病に基づく精力 減退は,その傾向にいっそう拍車をかけたらしい
・・・・・記録によれば,宮 女と宦官の密通は,後宮内では決してめずらしいことではない
・・・・・拷問 に耐えかねて下女は罪を認めたまではよいが,
あろうことか永楽帝暗殺計 画まで白状してしまったのだ。
これをきっかけに,宮女や宦官が次々と逮 捕され,
連座者はなんと二千八百人。彼らは一人残らず処刑された。
(p214~2)
・・・・先に記した事件の顛末は,隣国の『朝鮮王朝実録』の記載に基づく。
朝鮮がこの事件に関心を持つのは,
自国出身の宮女たちの多くが事件に連 座して命を落としたからだ。
大国中国に隣接する朝鮮は,たえず中国への 「事大」を強いられてきた。
属国ならではの悲哀と憤りは,記述の端々か らもうかがうことができる。(p243)
永楽帝が死去した時,生前彼に仕えた宮女三十人が殉死を命じられた。
そのなかには,魚・呂の禍をかろうじて免れた朝鮮出身の韓氏も含まれて いた。
いよいよ殉死の当日となり,型通りの酒宴を終えた彼女たちは,
死 出の旅路に向けて別殿に連れていかれた。
そこにはすでに木の踏み台が並 べられ,彼女たちの到来を待ち受けていた。
同席した仁宗洪煕帝が別れの ことばを告げ,彼女たちはうながされて泣く泣く台の上に立つと,
つるさ れた縄の輪に首を通した。 合図の声が響きわたり,哭声がひときは高まったその瞬間,
傍らの宦官 が踏み台を押し倒して,彼女たちは次々と昇天した。
韓氏は死に臨み,自 分に仕えてきた乳母に向かって叫んだ。
-母さん,私はまいります。母さん,私はまいります。
その声が終わらないうちに彼女の体は宙を舞った。
・・・・後に帰国した乳母の報告により朝鮮出身者の末路が明らかになった・・・・(p243~4)