08/10/21 00:35:01
「ウォンとドルの交換レートが1ドル=1400ウォン以上に急上昇(ウォンは急落)するやいなや、保有する1億ドルを市場で
売りました」
今月10日。韓国の鉄鋼最大手、ポスコがドル売却を発表する異例のプレスリリースを出した。「今日は1445ウォンに急上昇
しましたが、結局は1309ウォンで取引を終えました」。さらに読み進めると「ポスコがドルを売ったから、ウォン安に歯止めが
かかった」と訴えたい意図がにじむ。
前日の9日。ウォンの対ドル相場は1ドル=1485ウォンと、約10年7ヶ月ぶりの安値をつけた。対円でも100円=1400ウォン台と、
ウォンの価値は昨年夏から半減。するとウォン安に反応するように、輸出企業が大量のドルを売ったとの情報が流れた。
ポスコだけでなく、サムスン電子や現代自動車など韓国を代表する輸出企業が9日以降、一斉に数億ドル規模のドル売りに
動いたとみられる。
輸出企業のドル売りには伏線がある。「ドルを持っていて、ウォンが下落してから売ればもうかると考える企業が少しあるようだ」。
李明博大統領は8日、青瓦台(大統領府)で開いた軍人OBとの午餐会で、輸出企業を暗に批判。発言を受け、企画財政省の
国際金融局長が緊急会見で畳みかけた。「今の状況で大企業がドルを握りしめるのは国にとって良くないし、企業も被害を受ける
恐れがある。輸出企業の役員らに会い、話し合いを求めたい」。ウォン安を止めるため、輸出企業にドルを売れと命じたも同然
だった。
米金融危機でドルの調達コストが上昇しており、輸出企業は原材料の輸入に使うドルを手元に置きたい。ウォンに換えるにしても、
ウォン安が止まるまで待った方が得だ。だが「ウォン安の戦犯にされてはたまらない」(大手輸出企業)。政府圧力による民間企業版
「ドル売り介入」は、政府がなりふり構わずウォン防衛に乗り出したことを物語る。
政府は介入のほか、為替スワップ市場への100億ドル供給などでウォン安を招くドル不足解消に手を打ってきた。だがウォン安は
収まらない。1997年の通貨危機の過去を引きずる韓国にとって、ウォン安は不安をかきたてる。それがさらなるウォン安を呼ぶ
負の連鎖に「早くくさびを打ち込まなければならない」との政府の焦りは募るばかりだ。
「専用窓口はこちらです」。韓国の大手銀、企業銀行は8日から「ドル集め」キャンペーンを始めた。海外旅行で残ったドルを
預金したり、ウォンに両替したりする際に手数料の免除特典をつけた。タンスに眠るドルをもかき集めようというのだ。似たような
取り組みは地方銀行にも広がる。こうした光景は通貨危機下で外貨不足を補うため、市民が純金のアクセサリーなどを差し出した
10年前と重なる。「国家総動員」ともいうべきウォン防衛策が広がり始めている。
ソース(日経ヴェリタス 10/19号 59ページ 「熱気流」)