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▲横溝正史著『犬神家の一族』の韓国版装丁(チョン・ミョンウォン訳、シゴン社刊)
今年9月、韓国の文学小説月刊ランキングに異変が起きた。8月29日に翻訳出版された横溝正史の『犬
神家の一族』が、国内人気作家を差し置いて3位に食い込んだのだ。今なぜ、横溝正史なのか?韓国版
『犬神家の一族』(以下『犬神』)を出版した大手出版社、シゴン社(sigongsa)の単行本開発室
ナ・ヒョクジンさんに話を聞いた。
「韓国の推理小説界は『犬神』烈風ですよ」と話すナさん。発売と同時に1刷で準備していた5000冊を
あっという間に売り終え、10月13日現在は4刷目に突入、すでに1万6000部を販売している。韓国のベ
ストセラーの中には10万部以上売れるものもあり、それに比べると少ないようだが、「短期間で、推
理小説という限られたジャンルの、しかも50年前の古典作品がこれだけ売れるのは異例の事態」だと
いう。
『犬神』がヒットした理由のひとつとして、日本のマンガ『金田一少年の事件簿(韓国語タイトル:
少年探偵金田一)』が、韓国では96年から翻訳出版されており、すでに多くの読者に親しまれている
ことをナさんは挙げる。皆さんもご存知の通り、マンガの主人公である金田一少年は、『犬神』を始
め横溝作品に登場する探偵・金田一耕助の孫という設定。金田一少年の決め台詞「ジッチャンの名に
かけて」は、韓国人にも愛されるところとなったが、しかし横溝が創作した金田一耕助のことは広く
知られておらず、長らく「ジッチャンて誰やねん」状態だったのである。
シゴン社では以前から、2005年7月に『獄門島』、2006年8月に『八つ墓村』、2007年7月に『悪魔の手
毬唄』を韓国に紹介してきた。「金田一少年の祖父という噂で本を手に取った人が、今まで横溝正史
の世界に触れ、すでに固定ファンとなっていたことが、今回のヒットの要因だったと思います」とナ
さん。「稲垣吾郎さんが出演した金田一耕助シリーズのドラマなどを見て、横溝ファンになった人も
多いようですね」とも分析する。
また韓国では今、日本のミステリー小説がにわかに脚光をあびており、今回の『犬神』人気をあおっ
た。宮部みゆき、東野圭吾の作品は、読む人を選ばない人気で韓国でもベストセラーに。さらに綾辻
行人、有栖川有栖、乙一、京極夏彦、島田荘司など、大衆的ではなくともミステリーファンを唸らせ
る多彩な作家がここ数年で多く紹介され、『犬神』のような「本格推理小説」が受け入れられる土台
が生まれていた。
韓国人が見た横溝作品の魅力について、「作品の完成度の高さはもちろんですが、グロテスクであり
ながら美しい描写が絶品。それらのシーンはある意味日本的ですよね」と話すナさん。シゴン社では
今後も横溝作品を韓国に紹介していく予定。3作品がすでに日本とのライセンス契約を終えており、
「多作品も契約を進めたい」と意気込む。本家が先か孫が先かはともかく、日本を代表する名探偵が
世界の人々にも愛されるのはうれしい限りである。(清水2000)
ソース:exicite韓国で今、横溝正史がヒットするワケ
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