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村上春樹さんの講演要旨
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【エルサレム16日共同】作家の村上春樹さんが15日行った「エルサレム賞」授賞式の
記念講演の要旨は次の通り。
一、イスラエルの(パレスチナ自治区)ガザ攻撃では多くの非武装市民を含む
1000人以上が命を落とした。受賞に来ることで、圧倒的な軍事力を使う政策を
支持する印象を与えかねないと思ったが、欠席して何も言わないより話すことを選んだ。
一、わたしが小説を書くとき常に心に留めているのは、高くて固い壁と、それに
ぶつかって壊れる卵のことだ。どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは
常に卵の側に立つ。壁の側に立つ小説家に何の価値があるだろうか。
一、高い壁とは戦車だったりロケット弾、白リン弾だったりする。卵は非武装の
民間人で、押しつぶされ、撃たれる。
一、さらに深い意味がある。わたしたち一人一人は卵であり、壊れやすい殻に入った
独自の精神を持ち、壁に直面している。壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを
守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を
冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。
一、壁はあまりに高く、強大に見えてわたしたちは希望を失いがちだ。しかし、
わたしたち一人一人は、制度にはない、生きた精神を持っている。制度がわたしたちを
利用し、増殖するのを許してはならない。制度がわたしたちをつくったのでなく、
わたしたちが制度をつくったのだ。
(初版:2月16日10時6分)