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1月から米カリフォルニア大学バークレー校の大学院で「日本報道論」を教えている。半年間の
講座のテーマには、私が長く科学記者をしてきたことから、最先端から伝統工芸まで幅広く扱う
「ものづくり」、そして、基地移転問題で揺れる「沖縄」を選んだ。
講義の初日、ありきたりではないがそれらしい日本の風景を紹介しようと、スライドの冒頭に
お台場のガンダムを登場させた。が、学生たちは実物大のアニメロボット像だということは
わかってくれたようだが、残念ながら何のロボットかがわからない。
「トランスフォーマー?」「じゃあボルトロン!」。後者は、80年代に日本で放映された「百獣王
ゴライオン」などをシリーズ化した米国の番組で、こちらではガンダム以上に根強い人気がある。
トランスフォーマーも日本の玩具がルーツだし、あたらずといえども遠からず。まあよしとしよう。
とにかく、日本のアニメロボットが長年この国に「輸出」されてきた証拠だ。
ワシントン支局に勤務していた2002~06年、米国のアニメ専門局では先のガンダムを含め
日本の作品が連日放映されていた。この国で、こうした非英語圏の番組が多数放映されるのは
異例のこと。これが近年のブームの牽引役となったのだが、今この局での日本作品の放映は
土曜の深夜のみになってしまった。一種の「日本離れ」だ。政権も交代したし、ワシントン在勤の
頃に比べ、風向きの違いを感じることがある。
日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告書によると、北米での日本アニメ関連の市場は03年を
ピークに縮小傾向が見られ、番組の数や放映時間も下降に転じている。テレビ番組の
ネット配信や映像メディアの変化で、ビデオ・DVDの市場が縮小している影響も多少あるが、
鉄鋼を上回る市場規模として注目された北米へのアニメ輸出が曲がり角を迎えているのは確かだ。
似たような右肩下がりの傾向は、世界に占める産業ロボットの台数などにも見られ、携帯電話や
カーナビでは、独自の技術路線による海外市場からの孤立、いわゆるガラパゴス化も
指摘されている。ソフト・ハードとも日本製品の勢いが衰えてきたように見える。しかも、
折からの不況に加え、このところのトヨタ報道と、元気になる要素は少ない。
バークレー校には政治や歴史、宗教などの各分野で日本研究を専門とする学者がいるが、
彼らは「ひきこもり」や「鎖国」というキーワードを用いて、日本が自信を失い内向きになることを
危惧する。「製品の輸出国から、文化や環境で影響を与える国への移行」(ダンカン・ウィリアムズ
日本研究センター長)との見方もあるが、もっと危機的な事態かもしれない。
米国で最初に日本のアニメを支持してくれたのは、政治にも経済にも無縁の好奇心旺盛な
子供たちだった。ゲーム機やウォークマンを気に入ったのも若い世代だ。それが日本製品の
個性であり強みだった。今の日本製品は彼らの目にどう映っているのだろう。同じように輝きを
放っているのか。そこが気になる。
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