09/08/27 12:29:19
両親と妹、祖母が夕飯の食卓を囲む頃。ケンヤ(19)(仮名)はパジャマ兼用のジャージー姿で起き出してくる。
向かうのは食卓ではなく、すぐ横のパソコンだ。
オンラインゲームにログインすると、目は画面にくぎ付けになる。聞こえるのはヘッドホンからのゲーム音だけ。
一段落すると食卓の皿をつかみ取り、キーボードの上でかき込んだ。
長身のケンヤの丸まった背中を見ながら、父親(50)は言う。「食卓からパソコンまでのわずか1メートルが、
とてつもなく遠く感じる」
ゲームは朝まで続く。「このやろう!」。深夜の大声に、家族が目を覚ますこともある。
◇
ケンヤがゲームに出会ったのは中学2年の夏休み。共働きの両親の目が届かず、学校にも行かなくていい。
昼夜逆転したゲーム三昧の毎日。休みが明けてもパソコンの前から離れられなくなった。以来6年間、ほとんど
家の外に出ていない。
中学校の卒業アルバムは同級生が届けてくれたが、卒業式には出なかった。単位制高校も入学手続きをした
だけですぐ辞めた。
父親は息子をゲームから引き離そうと何度も試みている。海水浴に誘ったり、ドラム演奏を勧めたり。だが、
その都度「ゲームの方が楽で面白い」の一言で、パソコンの前に戻っていく。
ゲームを始めるまで、野球と水泳に明け暮れる活発な少年だった。今、現実社会に友人は一人もいない。
それでも画面の向こうには「仲間」がいる。ケンヤは自らやゲーム上の友人を「ネトゲ廃人」と認める。
◇
オンラインゲームの醍醐味は、インターネットでつながった他のプレーヤーと力を合わせて強い敵を倒せる
ことだ。連帯感を味わえる一方で、1人が抜けると仲間が苦戦を強いられるため、「学校がある」「眠いから」
といって自分だけ先に抜けにくい。プレー時間は自然と長くなる。
引きこもりの相談を毎年200件以上受けているNPO法人・教育研究所の牟田武生理事長は、「原因の6割は
ゲーム依存」と明かす。中国や台湾では、長時間プレーした少年が死亡したとして社会問題化した。
◇
他人のパスワードを無断使用したとして、栃木県警に不正アクセス禁止法違反容疑で書類送検された当時
高校2年のヤスシ(19)(仮名)。動機はゲーム上の「妻」(29)に「離婚」されたことだという。会ってみると、
今風の普通の若者だった。
ヤスシが「年上の妻」と知り合ったのは2007年秋。正確に言えばゲーム上でキャラクター同士が出会っただけ。
チャットで意気投合し、「軽いノリで結婚した」。ゲーム内でキャラクターを結婚させるとその能力が上がるからだ。
だが、思いは微妙に変化していく。ゲーム内で一緒に戦う機会が増え、「好き」「会いたい」と言葉を交わすよう
にもなった。メールは毎日、ケータイでも週1~2回話し、修学旅行の土産を送ったこともある。
やがてヤスシは、女性が他のプレーヤーとゲーム上で会話するだけで「仲良くするな」と非難するようになる。
けんかと仲直りを繰り返した末、女性から「離婚」を申し立てられた。
カッとして、ゲーム内の別の友人に、以前聞いていた女性のパスワードを教えてしまった。パスワードを悪用して、
女性のアイテムを奪うと知りながら。警察がやってきたのは、その数か月後だった。
「当時は夜中の2~3時頃までゲームをして、キャラクターの中に自分が入りこんでた感じ」とヤスシは振り返る。
事件は審判不開始で終わったが、その後、ゲームはほとんどしなくなった。元の「妻」の顔は知らないままだ。
今、付き合っている彼女に、“結婚歴”を打ち明けると笑われた。
YOMIURI
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