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■小学5年生の日常 細やかに
主人公は、思春期に足を踏み入れかけた、小学5年生の少年少女たち。彼らの、一見どうと
いうこともない日常のありさまを細やかに見つめ、その中に隠れている微妙な陰影を浮き彫り
にした作品だ。
大人の世界をのぞき見しかけた年代を中心に、大人たちも巻きこんで、さまざまな人物の
エピソードが描かれる。
成長期の真ん中にいる者たちには、いつもと同じ平凡な日常の中でも、どこか変化のきざし
が見え隠れする。毎日会っている気心の知れた友だちとの間にも、昔は気にもとめなかった
ような、わずかな気持ちのずれや温度差が、いつの間にかわだかまり、心を揺らす。
ほんのわずかのことだが、お互いが少しずつ変わり、日々人間関係が刷新されていく、
その「わずか」の手触りにこだわって、ドラマは進んでいく。
一見そっけないタッチながら、しっかりと心の機微をとらえる描写は、読んでいて心地よい。
控えめな表現だからこそ、すくい取れる気持ちというものがある。
だから、ドラマチックな展開よりはむしろ、大きなことが起きない穏やかな場面でこそ、
著者の筆はさえ、こまやかな緊張感が漂う。なんということはないシーンにこそ、キャラクター
の息づかいが生き生きととらえられている。
これから続く展開の中でも、ゆっくり変化していく者たちを、決して急ぐことなく、じっくり見つめて、
つきあっていきたい。そんな気持ちにさせてくれる作品だ。
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初出は「Wings」
asahi.com
URLリンク(book.asahi.com)