09/04/05 22:19:44
どこのクラスにも1人はいるものだ。どこか超然として、大人びた子供。騒がしい教室の中で、
その子の周りだけ空気の流れが違うような、かといって孤立しているわけでも特別人気者
というわけでもない。
本作の主人公・小5男子の杳(はるか)が、まさにそれ。亡き母の代わりに小1の妹・清(さや)
の面倒を見て、仕事で忙しい父を支えて家事もこなす。友達や大人への気配りも満点で、
時に文学的なセリフを吐いたりもする。ガキっぽい三十路の叔母に〈あんた本当は小学生の
皮かぶった大人なんじゃ……〉と言われるのもむべなるかな。
そんな杳と、“ザ・子供”的無邪気さを振りまく清の何げない日常を瑞々(みずみず)しく描く。
特に大きな事件が起こるわけではない。隣に越してきた少女が写真で見た幼い日の母に
そっくりだったり、杳が1年生のときに一緒に登校していた上級生の男子が突然訪ねてきたり
する程度。
けれど、そのひとつひとつの出来事を通して、少しずつ世界が広がっていく感覚が、懐かしくも
あり羨(うらや)ましくもあり。つまりそれが成長というものなのだろう。
主にボーイズラブやファンタジー系の作品で知られる作者だが、本作では持ち味の繊細さは
そのままに、地味ながら心にしみる家族のドラマをつづる。
一方で、ファンタジー的展開のエピソードもあり、お笑い担当(?)の叔母の存在も効いている。
作者自身にとっても、世界を広げる一作となるに違いない。
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初出は「Webスピカ」。
※[評者]南信長さん
asahi.com
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