09/01/27 12:48:06
テレビ番組作りで生計を立てていた生活から、大学教員にトラバーユしたわけですが、
大学では折しも「IT革命の第2期」としての「来るべきブロードバンド化対策」が問題に
なっていました。こうした問題を考えるうえで、テレビの経験は大変役に立ちましたので、
大学に勤めるようになった当初から、10年経過した現在も、ネットワークなどメディア上の
コンテンツに関する仕事を、細々ながら続けています。
国際的に見て、日本が圧倒的な輸出超過になっている産業の1つが、メディアコンテンツです。
マンガやアニメ、ゲームは言うまでもなく、関連のグッズなどもなかなか大きなマーケットに
成長してきました。
そんな中で、日本国内では規制が全く緩く、しかし国際的には大変に問題になる要素が、
大きく分けて3つあります。
それは、1 暴力、2 セックス、そして、3 習俗のおのおのタブーです。
暴力については、欧米にも凄まじい表現が多々あると思うのですが、文化によって「残酷さ」を
測る基準が違うので、日本では見慣れた時代劇のチャンバラなどでも、ダメという文化には
ダメだそうです。が、もっとシリアスなのは性描写、とくに年少者が登場する設定のものは
極めて不道徳な「幼児ポルノ」ものとして、厳密に排除される傾向があります。
日本では「ロリコン」などという言葉が、割り方普通に使われ、「ナニナニ君はロリコンの
気があるから」なんて話が、冗談を含めて普通に聞かれることがあります。しかし欧米
キリスト教社会では、仮に冗談であっても「彼は幼児性愛の気がある」などと言おうものなら、
人間関係は決定的な影響を受けると覚悟した方がいいように思います。日本は性に関して
大変に寛容、寛容すぎるくらい大らかな一面を持っていると、関連のコンテンツトラブルの
話を聞くたびに思います。
こうした性描写と並んで、日本人がほとんど全く意識しないのが、子供向けアニメーションなどの
中にも出てくる、大人の振る舞いとしての「喫煙」です。前回記した欧州連合(EU)での
完全分煙化が端的に示すように、欧米では「タバコは健康にマイナスでしかない」という
ネガティヴイメージが十分に定着しています。バラク・オバマ最大のマイナス要素は喫煙者で
あることだ、とか、オバマ大統領の精神の平衡を保つためには、喫煙もやむを得ず、といった
話がニュース種になっているのをご覧になった方も多いでしょう。
子供向けのアニメーションなどで、普通の大人、それも視聴者が感情移入しやすい、
良いモノキャラクターの大人の喫煙シーンを描くことは、明らかに麻薬の一亜種である、
健康に百害あって一利ないタバコに、プラスのイメージを付与することに直結する、
と考えられています。その結果、日本で広くオンエアされた連続アニメーションでも、
「おじいさん」やら「ムーミンパパ」やらがパイプを吸ったりするシーンが、議論になったり
カットの対象になったりするわけです。喫煙シーンのために海外で買い手が引いてしまった
日本のアニメ作品は決して少なくないようです。いってみれば「喫煙シーン」が日本の
アニメ=ジャパニメーションの世界進出にとって「ガン」になっているわけです。
ここ8年ほどの間、米国共和党政権下で推し進められた、米国型のグローバリゼーション
全般に、私は大変強い疑問の念を抱いていますが、ことこうした表現を巡る「自由化」による
影響の逆輸入は、私たちが日頃見失っている、常識の意外な盲点を教えてくれるように思います。
日経ビジネスオンライン(伊東乾、一部抜粋)
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