03/11/04 22:43
「フロリダは相変わらず暑いな」。ターミナルビルを出るなりアスファルトが溶けてそうな熱波が俺を襲う。
ワレット(電子サイフ)をポストに押しつけてしばらく待つとレンタカーがやってきた。ちゃんと冷房が効いてる。
こう言うところだけはステイツはたいしたもんだと思いながら、トランクに荷物を詰め込む。
待ち合わせにはまだ時間があるし、機内食は味気なかった。軽く何か食うか、と思った俺は
ナビに告げた「サンホセの吉野家」『びーふぼうるれすとらん吉野家 ふろりだ北店、了解シマシタ』
自分で運転してもよかったが、ちょっと考え事がしたかった。ナビに任せるとしよう。
今日は2103年11月5日。フロリダに来たのは我が社のSISS(先端宇宙ステーション)内プラントがトラブったから。
フロリダ支社でEUチームと打ち合わせの後、地上局で遠隔マニピュレーション。
状況によってはこのままSISS直行も。宇宙旅行は婚約者との新婚旅行にとって置きたかったんだが、仕事は仕事だ。
と、彼女のことを思いだしてると吉野家に着いたようだ。オレンジ色の看板に漢字で吉野家。
自動ドアを開けると「イラッシャーイ」。2mはある黒人のマスターの挨拶まで日本語だ。
つゆだく大盛りにみそ汁と卵。どれも合成なんかじゃない本物だ。
器も硬質ガラスじゃなくて床に落とすと割れるどんぶり。
20世紀初頭の創業から何も変えてない、それがこのレストランの誇りだそうだ。
スプーンでは味気なかったので、箸を頼むとこれまた20世紀から何も変わっていない割り箸が出てきた。
うまい。今じゃ決して安くない非合成食が、ここでは24時間、手頃な値段で食える。
決済をしてまた車に戻る。ワレットをクレイドルに置くと、ディスプレイにさっきのレストランのCMが。
『牛丼一筋200年の吉野家ついに宇宙へ!これからはSISSでもいつもの牛丼がお召し上がりいただけます。』
…。ま、一人で先に宇宙旅行も悪くないか。