10/04/06 11:24:36
(´・ω・`)がな
72:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 11:18:00
私にとつては、美はいつも後退りをする。かつて在つた、あるひはかつて在るべきであつた姿しか、
私にとつては重要でない。鉄塊は、その微妙な変化に富んだ操作によつて、肉体のうちに失はれかかつてゐた
古典的均衡を蘇らせ、肉体をあるべきであつた姿に押し戻す働らきをした。
三島由紀夫「太陽と鉄」より
73:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 11:18:58
私はかつて、彼自身も英雄と呼ばれてをかしくない肉体的資格を持つた男の口から、英雄主義に対する嘲笑が
ひびくのをきいたことがない。シニシズムは必ず、薄弱な筋肉か過剰な脂肪に関係があり、英雄主義と強大な
ニヒリズムは、鍛へられた筋肉と関係あるのだ。
三島由紀夫「太陽と鉄」より
74:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 11:20:06
私が求めるのは、勝つにせよ、負けるにせよ、戦ひそのものであり、戦はずして敗れることも、ましてや、
戦はずして勝つことも、私の意中にはなかつた。一方では、私は、あらゆる戦ひといふものの、芸術における
虚偽の性質を知悉してゐた。
もしどうしても私が戦ひを欲するなら、芸術においては砦を防衛し、芸術外において攻撃に出なければならぬ。
芸術においてはよき守備兵であり、芸術外においてはよき戦士でなければならぬ。
三島由紀夫「太陽と鉄」より
75:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 11:20:55
かつて向う岸にゐたと思はれた人々は、もはや私と同じ岸にゐるやうになつた。
すでに謎はなく、謎は死だけになつた。
三島由紀夫「太陽と鉄」より
76:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 11:21:54
私の幼時の直感、集団といふものは肉体の原理にちがひないといふ直感は正しかつた。
三島由紀夫「太陽と鉄」より
77:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/07 11:22:45
私には地球を取り巻く巨きな巨きな蛇の環が見えはじめた。
すべての対極性を、われとわが尾を嚥(の)みつづけることによつて鎮める蛇。すべての相反性に対する嘲笑を
ひびかせてゐる最終の巨大な蛇。私にはその姿が見えはじめた。
三島由紀夫「太陽と鉄」より
78:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/08 13:02:10
私はそもそも天に属するのか?
さうでなければ何故天は
かくも絶えざる青の注視を私へ投げ
私をいざなひ心もそらに
もつと高くもつと高く
人間的なものよりもはるか高みへ
たえず私をおびき寄せる?
均衡は厳密に考究され
飛翔は合理的に計算され
何一つ狂ほしいものはない筈なのに
何故かくも昇天の欲望は
それ自体が狂気に似てゐるのか?
私を満ち足らはせるものは何一つなく
地上のいかなる新も忽ち倦(あ)かれ
より高くより高くより不安定に
より太陽の光輝に近くおびき寄せられ
何故その理性の光源は私を灼き
何故その理性の光源は私を滅ぼす?
三島由紀夫「イカロス」より
79:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/08 13:02:34
眼下はるか村落や川の迂回は
近くにあるよりもずつと耐へやすく
かくも遠くからならば
人間的なものを愛することもできようと
何故それは弁疏(べんそ)し是認し誘惑したのか?
その愛が目的であつた筈もないのに?
もしさうならば私が
そもそも天に属する筈もない道理なのに?
鳥の自由はかつてねがはず
自然の安逸はかつて思はず
ただ上昇と接近への
不可解な胸苦しさにのみ駆られて来て
空の青のなかに身をひたすのが
有機的な喜びにかくも反し
優越のたのしみからもかくも遠いのに
もつと高くもつと高く
翼の蝋の眩暈と灼熱におもねつたのか?
三島由紀夫「イカロス」より
80:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/08 13:03:05
されば そもそも私は地に属するのか?
さうでなければ何故地は
かくも急速に私の下降を促し
思考も感情もその暇を与へられず
何故かくもあの柔らかなものうい地は
鉄板の一打で私に応へたのか?
私の柔らかさを思ひ知らせるためにのみ
柔らかな大地は鉄と化したのか?
堕落は飛翔よりもはるかに自然で
あの不可解な情熱よりもはるかに自然だと
自然が私に思ひ知らせるために?
空の青は一つの仮想であり
すべてははじめから翼の蝋の
つかのまの灼熱の陶酔のために
私の属する地が仕組み
かつは天がひそかにその企図を助け
私に懲罰を下したのか?
私が私といふものを信ぜず
あるひは私が私といふものを信じすぎ
自分が何に属するかを性急に知りたがり
あるひはすべてを知つたと傲(おご)り
未知へ
あるひは既知へ
いづれも一点の青い表象へ
私が飛び翔たうとした罪の懲罰に?
三島由紀夫「イカロス」より
81:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/15 17:10:50
聞くところによると、例の「風流夢譚」掲載のいきさつについて、中央公論の嶋中社長がその掲載を反対した
にもかかはらず、あたかもぼくが圧力かけて掲載させたやうに伝はつてゐるらしいんです。
これはとんでもない誤解で、推薦した事実さへない。第一、新人の原稿ならいざ知らず、深沢さんといへば
一本立ちの作家ですからね、だれそれの推薦なんてあり得ないぢやないですか。世間ではよく、ある出版社の
背後にはこれこれといふ作家がゐて、その作家の言ふことならきく、といふやうな考へを持つ人がゐるらしいが、
それは“編集権”の存在を知らない者の言ふことで、編集権を侵害しないといふモラルは、ぼく自身いつも
守つてきたはずだ。ただ例外があるとすれば、“文学賞”の審査員になつたときくらゐのものだらう。
そのときだつて、技術顧問的な役割で、作品の芸術的な判断以外の社会的な影響にまでは、タッチしないものだ。
三島由紀夫「『風流夢譚』の推薦者ではない―三島由紀夫氏の声明」より
82:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/15 17:13:50
かういふ事情を知つてゐれば、ぼくが「風流夢譚」を掲載するやうに圧力をかけたなんていふことがナンセンス
だといふことがよくわかるはず。しかし、それにもかかはらずぼくの名が使はれたとすれば、それは一部の者が
苦しまぎれの逃げ口上に使つたのではないか。さう思へば使つた者にも同情の余地があるのだが、迷惑うけるのは
こちらだからね。ともかくふりかかつた火の粉ははらひ落としたいといふのが本音だ。
この際、次第に大きくなる風説―新聞雑誌でもそんな書き方をされてゐるんで―の誤解をときたい……。
(談)
三島由紀夫「『風流夢譚』の推薦者ではない―三島由紀夫氏の声明」より
83:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 13:20:38
伝播の速い世の中では、今日の独断も、明日の通念になる。あなたがロマンチストと言つて下さつた以上、
明日から私はロマンチストでとほりさうです。いづれにせよ、人がかぶれといふ帽子を、私は喜んでかぶる
つもりです。たとへそれが、あのルイ王がかぶらされたといふ三角帽子であつても。
ただ私の何とも度しがたい欠陥は、自分に関する最高の通念も、最低の通念も、同じやうに面白がること
なのです。これはほとんど私の病気です。おしまひにはいつもかう言ひたくなる。
「何を言つてやがる。俺は実は俺ぢやないんだぞ」これが私の自負の根元であり、創作活動の根源です。そして
これが、あらゆる通念を喜んで受け入れる私の態度の原因なのです。
三島由紀夫「オレは実はオレぢやない(村松剛氏の直言に答へる)」より
84:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 13:21:04
私は不断の遁走曲であり、しかも、いつも逃げ遅れてゐる者です。子供のころ、学校で集団でイタヅラをすると、
いつも逃げ遅れるのが、私ともう一人Kといふ生徒でした。そこで私とKはつかまつて、先生から、鉢合せの罰を
うけるのでした。こんな痛い刑罰はない。しかしKのオデコにはコブができないのに、私のオデコにだけは
コブができた。これが爾後、私の宿命となつたやうに思はれます。
三島由紀夫「オレは実はオレぢやない(村松剛氏の直言に答へる)」より
85:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:04:08
○偉大な伝統的国家には二つの道しかない。異常な軟弱か異常な尚武か。
それ自身健康無礙(むげ)なる状態は存しない。伝統は野蛮と爛熟の二つを教へる。
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より
86:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:05:47
○承詔必謹とは深刻なる反省の命令である。戦争熱旺(さか)んなりし国民が一朝にして
平和熱へと転換する為に、自己革命からの身軽な逃避が、この神聖な言葉で言訳されてはならない。
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より
87:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:09:37
○デモクラシイの一語に心盲ひて、政治家達ははや民衆への阿諛(あゆ)と迎合とに急がしい。
併し真の戦争責任は民衆とその愚昧とにある。源氏物語がその背後にある夥しい蒙昧の民の
群衆に存立の礎をもつやうに、我々の時代の文学もこの伝統的愚民にその大部分を負ふ。
啓蒙以前が文学の故郷である。これら民衆の啓蒙は日本から偉大な古典的文学の創造力を
奪ふにのみ役立つであらう。―しかしさういふことはありえない。私は安心してゐる。
政治家は民衆の戦争責任を弾劾しない。彼らは、泰西人がアジアを怖るゝ如く、民衆をおそれてゐる。
この畏怖に我々の伝統的感情の凡てがある。その意味で我々は古来デモクラチックである。
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より
88:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:14:18
○日本的非合理の温存のみが、百年後世界文化に貢献するであらう。
○ナチスもデモクラシイも国の伝統的感情の一斑と調和するところあるために取入れられ
又取入れられ得たのであると思ふ。これを超えて、強制的に妥当せしめらるゝ時、
ナチスが禍(わざはひ)ありし如く、デモクラシイも禍あるものとなるであらうと思ふ。
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より
89:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:16:59
○偏見はなるたけない方がよい。しかしある種の偏見は大へん魅力的なものである。
○芸術家の資質は蝋燭に似てゐる。彼は燃焼によつて自己自身を透明な液体に変容せしめる。
しかしその融けたる蝋が人の住む空気の中に落ちてくると、それは多種多様な形をして
再び蝋として凝化し固形化する。これが詩人の作品である。
即ち詩人の作品は詩人の身を削つて成つたものであり、又その構成分子は詩人の身に等しい。
それは詩人の分身である。しかしながら燃焼によつて変容せしめられたが故に、それは
地上的なる形態を超えて存在する。しかも地上的なる空気によつて冷やされ固められ乍ら。
○人生は夢なれば、妄想はいよいよ美し。
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より
90:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:37:27
○退屈至極であつた学習院の学友諸君よ。
諸君らに熱情ある友情の共感をもちつゞけることができるほど、僕は健康な人間ではなかつた。
君らがジャズを愛好するのもまだしも我慢できた。君らが一寸も本を読むといふことを
しらないで、殆ど気高くみえるほど無智なことにも我慢できた。
だが僕には我慢ならなかつた。君らと会ふたびに、暗黙の内に強いられたあの馬鹿話の義務を。
つまり君たちが、おそろしく、さうだ慶応年間生れの老人よりも、もつとおそろしく
退屈であつたことを。―戦争が僕と君らを離れるやうに強いた。今では、昔より、僕は
君らを愛することができるだらう。尤も君らが僕の目の前にゐないことを前提としてだ。
―なつかしい「描かれる」一族よ。君たちは君たちの怠惰と、無智と、無批判の故に、
描かれるべく相応に美しくなつてゐる筈だ。僕には「桜の園」の作者となる義務があるだらう。
(君らがゑがかれるために申分なく美しくなつた時代に)
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より
91:名無しさん@お腹いっぱい。
10/04/17 14:40:31
○流れる目こそ流されない目である。変様にあそぶ目こそ不変を見うべき目である。
わたしはかゞやく変様の一瞬をこの目でとらへた。おお、永遠に遁(に)げよ、そして
永遠にわたしに寄添うてあれ。
○神界がもし完全なものならそれが発展の故にでなく、最初からあつたといふことは注目すべき事実だ。
○どのやうな美しい物語にも慰さめられないとき、生れ出づるものは何であらうか。
それを書いた瞬間に、すべては奇蹟になり、すべては新たにはじめられ、丁度、朝警笛や
荷車や鈴や軋(きし)りやあらゆる騒音が活々とゆすぶれだし、約束のやうに辷(すべ)り出す、
さういふ物語を私は書きたい。そしてそのやうな作品の成立がもはや恵まれずとも怨まない。
平岡公威(三島由紀夫)
昭和20年9月16日「戦後語録」より