04/03/05 13:01 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE65
ヘンリー「ひ、ひでえ・・・」
リュカ「・・・・」
ドイツ兵C「<その腐った根性たたき直してやる!>」
マリア「<ど、どうかお許しください・・・!>」
ドイツ兵C「<いーやだめだ、確かお前はドレイになったばかりだったな。この際だから
自分の立場というものを徹底的に思い知らせてやる!>」
バシ!バシ!バシ!
マリア「<ひぃぃっ・・・!>」
ユダヤ人V「ひどいもんだ・・・誰か何とかしてあげられないもんかねぇ。」
リュカ「なんてことを・・・」
ヘンリー「・・・・・」
私は父が死んだその日から、すでに理性というものは失いかけていた。
ここでの虐待も黙って見過ごすほど、もう私の堪忍袋のヒモはとっくにゆるんでいた。
651:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:04 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE66
リュカ「ヘンリー、悪いけどボクはもうガマンできな・・・あ、あれ?」
驚いたことに私がドイツ兵に向かっていくよりも前に、ヘンリーに先をこされた。
ドイツ兵C「<なんだお前、何か文句があるのか。>」
ヘンリー「<あぁ、大いにあるね。女は殴るためにあるんじゃない、抱くためにある。>」
ドイツ兵C「<ほぅ、抱いたこともないくせにイッパシの口をきく生意気なガキだな。>」
気がつくと私も足が勝手に動いていた。
リュカ「大丈夫かい?キミ。」
マリア「<い、いけません・・・私にかまうとあなたまで・・・>」
リュカ「(ドイツ語・・・?)」
マリア「<お、お願いですから私にかまわないで・・・あなた方のためです・・>」
リュカ「<悪いけどその頼みはきけないや、ボクたちそれほどガマン強くないんでね。>」
652:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 13:04 50K1Eh7d
もう始まってたか。支援カキコと。
653:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:06 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE67
ドイツ兵C「<どいつもこいつもユダヤ人の風情で逆らいやがって!少しは学習できんのか!>」
ヘンリー「<あいにく俺たちはもの覚えが悪いんでな。>」
リュカ「<殺すことしか能のないドイツ兵よりはマシだけどね。>」
ドイツ兵C「<こ、この口のへらねえガキどもめ・・・!おい!こいつらにたっぷりと
教育してやるぞ!>」
ドイツ兵X「<フン、覚悟しろ。>」
ドイツ兵Y「<ユダヤ人め・・・>」
ヘンリー「おいリュカ、今さら降りるなんて言うなよ。」
リュカ「キミこそ、命は大切にしたほうがいいよ。」
マリア「<や、やめてください・・・その人たちは関係ないです・・・>」
654:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:07 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE68
この乱闘さわぎでドイツ兵を二名ほどぶちのめしてやったが、お釣りはそれ以上に返ってきた。
血ヘドを吐くほど殴られ、ヘンリーは鎖骨を骨折、私はあばらを二本ほどやられた。
だがそれだけで済んで奇跡といえよう。
本来ならば私たちのこめかみに銃でズドンと一発、それで終わりだ。
私はもはや最終的に意味のない戦いを挑むようなバカに成り下がったというべきだろうか。
ここにいるドイツ兵たちと戦ったところで、何の得にもならないのだ。
意識ももうろうとしながら、やがて私たちの前に一人のドイツ将校が現れた。
リュカ「うぅ・・・・」
ヘンリー「ぐっ・・・・」
ヨシュア大尉「<何だ何だ、この騒ぎは。>」
ドイツ兵C「<は、ヨシュア大尉。ご苦労様です。>」
ヨシュア大尉「<ご苦労様じゃない、この騒ぎはいったい何だ。>」
ドイツ兵C「<は、この二人のドレイが歯向かってきて・・・>」
655:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:09 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE69
ヨシュア大尉「<この女は?>」
ドイツ兵C「<は、その・・・ドレイ女も反抗的だったので・・・>」
ヨシュア大尉「<・・・・・>」
マリア「<(お、お父さん・・・)>」
ヨシュア大尉「<(マリア・・・・)>」
リュカ「(だ、誰だ・・・?)」
この男はどこかで見覚えのある顔だった。だがどこで会ったのかはすっかり忘れていた。
そのドイツ将校は私たちをじっと見据え、やがて淡々と指揮を執りはじめた。
ドイツ兵C「<大尉、処分のほうは?>」
ヨシュア大尉「<まぁいい、この女の手当てをしてやれ。>」
ドイツ兵C「<はっ。>」
ヨシュア大尉「<こっちの二人は牢屋に閉じ込めておけ、だがその前にそいつらも
手当てしてやれ。かなりの重傷だ。>」
ドイツ兵C「<は、はい。わかりました。>」
~~~~~~~~~~~~~~~~
656:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:11 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE70
牢屋内
リュカ「ヘンリー、大丈夫かい。」
ヘンリー「あぁ・・・何とかな。お前は?」
リュカ「あばらをやられたけど大丈夫だよ、手当てもしてある。」
ヘンリー「まいったな、けど石を運んでいたよりはマシかな。」
リュカ「ボクたちまでどうして手当てしてくれたんだろ、昔はこんなんじゃなかったはずだ。」
ヘンリー「あぁ、状況が良くなってきたって証拠さ。」
リュカ「状況?」
ヘンリー「頭つかえよリュカ、やつらどうして俺たちを殺さなかったと思う?」
リュカ「さぁ・・・」
ヘンリー「たまには新聞よめ、イタリアもソ連も宣戦布告してるんだ。ドイツ軍はすでに
味方なんていない、もはやナチスが落ちるのも時間の問題さ。もう意味なく
ユダヤ人を殺すようなマネはおおっぴらにできなくなったってことさ。」
リュカ「でもドイツ軍のヒトラー総統はまだ政権をにぎってるよ。」
ヘンリー「だがヤツはこないだの演説で暗殺されかかったって記事を読んだ。けっきょく
未遂に終わったけど、どうやら犯人は内部の犯行ともウワサされてる。
ドイツの中には反ナチス派もいるってことさ。」
657:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:13 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE71
リュカ「ヒトラーが生きているうちはまだ平和なんて言えないよ・・・」
ヘンリー「もうすぐだ、もうすぐでドイツは必ず降伏する。戦争ももうじき終わる。」
リュカ「ヘンリー、ボクこの収容所で妙なウワサを聞いたんだけど。」
ヘンリー「なんだよ。」
リュカ「ここで働かされているユダヤ人は、全て抹殺されるって・・・」
ヘンリー「そんなのただのウワサさ、現に俺たちまだこうして生きてるだろ。」
リュカ「でもここにはガス室が設備されていて、そこにユダヤ人を入れて殺すらしいよ。
ここにいたユダヤ人の数が日に日に減っていくじゃないか。」
ヘンリー「仮にそれが本当だとしたら、なおさら早いとこ・・・ん?」
リュカ「どうしたんだい。」
ヘンリー「しっ、誰か来たみたいだぞ・・・ドイツ兵か?」
リュカ「どれどれ・・・」
収容所の牢屋に先ほどの少女がやってきた。
そして驚くことに、あのドイツ将校も一緒に・・・・
658:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:15 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE72
マリア「<さ、先ほどは助けていただき、ありがとうございました。>」
リュカ「<キミはさっきの子か・・・ケガは大丈夫?>」
マリア「<はい・・・申し遅れました、私はマリアと申します。>」
ヘンリー「<マリアか、かわいい名前だ。>」
マリア「<そしてこちらはヨシュア・ローゼンヴェルグ大尉です。>」
ヘンリー「<げ、こいつがあのヨシュア大尉だったのか・・・>」
ヨシュア大尉「<・・・・・>」
その将校は何も言わず、黙って私たちの牢屋のカギを開けた。
ガチャガチャ・・・・カチャン
キィィーーー
ヨシュア大尉「<出ろ。>」
リュカ「<は、はい。>」
ヘンリー「<どうも。>」
659:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 13:15 50K1Eh7d
カキコ
660:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:16 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE73
マリア「<お父さん、やっぱり危険じゃないかしら・・・>」
ヨシュア大尉「<そんなこと言ってられるのかマリア、急がないと手遅れになるぞ。>」
リュカ「!」
ヘンリー「<お、おとうさん?>」
マリア「<ご紹介できなくてすみません、実はヨシュア大尉は私の父なんです・・・>」
リュカ「<ということは・・・>」
マリア「<はい、私はマリア・ローゼンヴェルグ。ドイツ人です。>」
ヘンリー「まいったな・・・彼女がドイツ人だったとは。」
リュカ「よ、よせよヘンリー・・・」
ヨシュア大尉「<娘のマリアを助けてくれたそうだな、お前たちがユダヤ人であろうと
何であろうと恩人には違いない。礼を言う。>」
リュカ「<あの・・・>」
ヨシュア大尉「<何だ。>」
リュカ「<い、いえ。何でもないです。(どうもこの人見覚えがあるような・・・)>」
661:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:19 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE74
ヨシュア大尉「<時間がないので手短に話す、実はわがドイツ政府は危機に陥っている。
ソ連軍の攻撃も押さえられないどころか、イタリア軍まで参戦してきた。
それに総統閣下の暗殺をもくろむ輩も日に日に増えていくいっぽうだ。
残念だがドイツ降伏は時間の問題だろう。>」
ヘンリー「(バーロ、人殺しの政権なんぞつぶれちまえばいいんだ。)」
ヨシュア大尉「<お前たちも感づいているかもしれんが、実はこの収容所には毒ガスを
設備しているガス室がある。>」
リュカ「!」
ヘンリー「<げげ!ウワサは本当だったのか!>」
ヨシュア大尉「<ユダヤ人は全て抹殺しろとの総統の命令だ。だが娘のマリアまで一緒に・・・>」
ヘンリー「<独裁者め・・・>」
リュカ「<あなたの娘さんはドイツ人じゃないですか。どうして彼女までドレイに?>」
ヨシュア大尉「<マリアは反逆罪としてドレイにさせられたのだ。>」
マリア「<だってお父さん!こんな政治は間違っているわ!戦争ですべて事が解決するわけ
ないじゃないの!お願いだからヒトラーには従わないで!>」
662:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:23 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE75
ヨシュア大尉「<マリア、私は軍人だ。何がどうあろうと上官の命令は絶対なのだ。>」
マリア「<上官がユダヤ人を殺せと命じれば、お父さんも殺すのね・・・>」
ヨシュア大尉「<・・・・・>」
リュカ「<それで大尉、どうする気なんですか。>」
ヨシュア大尉「<娘を連れてここを逃げてほしい。>」
ヘンリー「<まじかよ・・・>」
ヨシュア大尉「<ここにお前たちの荷物も用意した、脱出の手口と経路はすべて地図に書いた。
それから収容所のマスターキーを渡す、きっと成功するはずだ。>」
リュカ「・・・・・」
ヘンリー「ど、どうするリュカ。」
リュカ「・・・行くよ、やるしかないだろ。」
ヘンリー「そ、そうだな・・・」
663:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:25 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE76
ヨシュア大尉「<さぁマリア、この二人についていけ。>」
マリア「<お父さんも一緒に・・・>」
ヨシュア大尉「<だめだと言っただろう、私は任務を離れるわけにはいかん。>」
マリア「<お父さん・・・>」
ヨシュア大尉「<マリア、戦争はもうじき終わる。お前は平和な時代に生きて幸せをつかむんだ。>」
マリア「<うぅ・・・>」
ヨシュア大尉「<お前の言うとうり、私は悪い父親だったよ・・・だがもうあとには引けん。
いつまでも元気でな・・・私はいつでもお前を愛している。>」
マリア「<お、おとうさん・・・!>」
私はその父娘のやりとりを聞いて複雑な想いがよぎった。
憎きナチスでも、中には彼らのように家族を愛して懸命に生きていこうとしている人もいると。
だがそれはそれ、これはこれ。父がナチスに殺された恨みは今でも忘れてはいない。
664:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:27 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE77
ヘンリー「<おい、行くなら早くいこうぜ。>」
リュカ「<マリア、さぁ行こう・・・>」
マリア「<は、はい・・・>」
ヨシュア大尉「<娘を頼む、それから・・・>」
リュカ「<何ですか。>」
ヨシュア大尉「<お前のその指にはめている指輪のことだが・・>」
リュカ「(し、しまった・・・)」
ヨシュア大尉「<・・・・・・>」
リュカ「<あ、あの・・・これはただの安物の指輪で・・>」
ヨシュア大尉「<総統閣下がそのリングを狙っている、くれぐれも気をつけることだ。>」
リュカ「<え・・・>」
ヨシュア大尉「<お前は不思議なやつだな、ナチスに対して敵意を持っているのは感じるが
なぜか私やマリアに対しては敵意を感じられん。こんな形でお前たちと
出会いたくはなかった・・・。>」
リュカ「・・・・」
ヨシュア大尉「<お前の目はどことなくマーサ様に似ている、気をつけて行けよ。>」
リュカ「<え?い、今なんと・・・?>」
ヨシュア大尉「<さぁ行け!ぐずぐずするな!>」
リュカ「<あ・・・は、はい!>」
665:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:29 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE78
ヘンリー「おいリュカ!行くぞ!」
リュカ「う、うん。」
マリア「<さようなら、お父さん・・・>」
こうして私とヘンリー、そしてマリアの三人は収容所脱出を図った。
ヨシュア大尉「<生き延びてくれ・・・マリア・・・>」
私が幼いころに出会ったあの将校、それが彼だったと気づいたのは脱出してからのこと。
のちに戦後になってから知ったのだが、このヨシュア大尉は翌年の1945年の4月に戦死したそうだ。
胸には聖母マリアの十字架を抱いたまま、ソ連軍の砲撃によって地に伏した。
ナチス・ドイツ軍の将校として享年45歳、その生涯を閉じることになる。
666:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:32 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE79
一方、私たち三人は無事アウシュヴィッツ収容所から脱出に成功。
マリアはカトリック教の教えを学んでいたため、とりあえず安全な町に隔離させ
近くの教会にシスターとして身を捧げた。
ヘンリーも同様に、マリアとともに戦争が終わるまで同じ町にとどまることにした。
のちに彼ら二人はその恋が実り、戦後1952年の春に結婚。翌年に長男を出産する。
息子の名はコリンズ・ラインハット。
そして私は戦争がまだ終わらない時代に、生存を確認するべく実の母を捜すことになる。
ナチス・ドイツ人の母マーサを捜し始めてから、すでに二ヶ月がたとうとしていた。
私の生まれ育った街サンタローズはすでに崩壊、住人どころかドイツ兵の一人として
誰もこの街にはいなかった。
.
667:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:34 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE80
この国のどこかにいる母マーサに会ったところで、私はどういう態度で再会すればいいのか。
私の父を殺した憎むべきナチス・ドイツ軍、そして母もドイツ人。
父と母の間にどんな出会いがあって 私が生まれたのかは知らない。
だが私は父を信じている。「生きてくことが最も大事」「この世で一番の宝物は家族」。
戦争という時代において 敵対している者同士が 愛し合ってはならぬという決まりはない。
どんなことがあろうと 私は私の家族を 信じて生きていくだけだ・・・・。
第三章 ~闇の思春期時代~
完
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
668:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:37 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE81
第四章 ~青きその青春時代~
1945年 2月
ポーランド 西の都 サラボナの街にて
リュカ「ふぅ、とりあえず今夜はこの街にとどまることにするか。」
アウシュヴィッツ収容所から脱出したのはいいものの、母を捜し出すための情報が
何もなかったため、最初の二ヶ月間は国中をさまよい歩いた。
リュカ「どこか働けそうなところがあればこの街にしばらくいてもいいんだけどなぁ。」
*「おいそこの兄ちゃん、野菜買っていかないか。どれも新鮮だぞ。」
リュカ「あ、いえけっこうです・・・」
*「そこのあなた、ニワトリはいかが。タマゴも生めるしお肉も最高よ。」
リュカ「あ、あの・・・けっこうですので。」
669:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:39 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE82
路上で売りつけようとする商人たちをよけながら、私はふらふらと
街の商店街を歩いていると、ある一人の少女に出会った。いや、ぶつかった。
ドスン!
リュカ「うわ!」
フローラ「きゃっ!」
ドテ!
リュカ「す、すみません。大丈夫ですか。よそ見しながら歩いていたもので・・・」
フローラ「い、いえ、私こそごめんなさい・・・」
それはいかにもどこぞの富豪の令嬢のような気品ある少女だった。
そして倒れた少女を起こしてあげようと、私が手を差しのべたそのときだ。
これが運命的な出会いだとは、あまりにもベタな展開で今思い返すと吹き出してしまう。
指輪をめぐるこの少女との出会いが のちに‘運命的な再会’を果たすことになるとは・・・
670:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:40 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE83
リュカ「ほんとにゴメン、さぁつかまって。」
フローラ「は、はい・・・ハッ!」
リュカ「?どうしたの。」
フローラ「・・・・!」
このときは少女が何に対して驚いているのかわからなかった。
あとから知ったが、どうやら私の手の指に光る指輪を見て驚いたそうだ。
フローラ「あ、あの・・・ごめんなさい!失礼します!」
リュカ「ね、ねぇちょっと・・・」
足早に走り去っていった少女を、私はぽかんと口を開けたまま見ていただけだった。
リュカ「なんだよあの子・・・」
~~~~~~~~~~~~~~
671:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:41 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE84
宿屋 受付にて
リュカ「すみません、部屋あいてますか。」
ダンカン「お一人さまですか?」
リュカ「そうです。」
ダンカン「空いてますよ、少々お待ちください。」
リュカ「はい。」
年月というものはあっという間だと言うが、それとともに記憶のほうは
すぐに忘れてしまうものだ。
悲しい思い出は忘れることはできないが、それ以外のことはすっかり忘れてしまう。
このとき私とこの宿屋主人は、お互いまだ誰なのか気づいていなかった。
私たちは知り合いだったというのに・・・
672:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:43 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE85
ダンカン「・・・・あんた、身分証明書見せてもらっていいかい?」
リュカ「え?どうしてですか。」
ダンカン「いいから早く。」
リュカ「ごめんなさい、証明書はドイツ兵に取り上げられてしまって。」
ダンカン「ほぅ。」
リュカ「あの、お金なら足りると思うんですけど。」
ダンカン「すまんな、部屋はもう一杯だよ。他をあたってくれ。」
リュカ「え?」
ダンカン「ほらほら、そんなとこに立ってたらお客さんのジャマだろ。」
リュカ「ま、待ってくださいよ。さっき部屋空いてるって・・・」
ダンカン「知らないね。」
リュカ「・・・・・・」
戦時中はレストラン、ホテル、喫茶店はおろか、ろくに店で買い物ができなかった。
どいつもこいつもユダヤ人だとわかるとケムたがって追い払う。
673:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:44 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE86
ダンカン「おい、早く出て行ってくれないか。」
リュカ「ふーん、あんたボクがユダヤ人だと気づいて・・・」
ダンカン「面倒なことには関わりたくない、この街だってドイツ軍の領域なんだ。」
リュカ「あんたドイツ軍でもないくせに人種差別か、同胞として恥ずかしくないんですか?」
ダンカン「おい、いい加減にしないと警察へ通報するぞ。電話一本でかけつけてくるぞ。
それともドイツ兵に連行されたいか?」
リュカ「何だと・・・おい、ちょっとこっちへ出て来い。」
ダンカン「な、なんだ。やるのかボウズ。」
長いことドレイ生活をしいられてきたおかげで、頭に血が昇るのも早くなってしまった。
昔はおとなしい子だったのだが・・・
ダンカン「このガキめ!通報されたいのか!」
リュカ「うるさい!ボクはおまえみたいな偽善者を見るとムカついてくるんだよ!」
674:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 13:46 50K1Eh7d
sage
675:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:46 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE87
もみあっているうちに、やがて宿屋の二階から一人の女の子が降りてきた。
ビアンカ「どうしたのお父さん、何を騒いで・・・」
ダンカン「あ、ビアンカ!すぐに警察を!」
リュカ「わかったよ!出ていけばいいんだろ!」
ダンカン「あぁそうさ、出ていけ!ユダヤ人は迷惑だ!こっちまで殺されてしまう!」
ビアンカ「お父さん、そんな言い方しなくても・・・あら?」
リュカ「ばかやろー!こんなとこもう二度とくるもんか!」
ビアンカ「・・・・」
リュカ「なんだよ、どいてくれ。」
ビアンカ「・・・・・・」
リュカ「どいてくれって言っ・・・ん?」
ビアンカ「そ、そんな・・・まさか・・・」
リュカ「え・・・・」
676:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:48 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE88
ビアンカ「あ、あなたなのね・・・」
リュカ「あ・・・あ・・・」
赤い糸の約束は果たされることになった。
その女の子は首に紫色の布を巻きつけていた。その布には見覚えがある。
母を見つけるよりも前に、この日は一つの願いがかなった。
その女の子はみすぼらしい格好をした私を前に、目に涙をためながらこう言った。
「私の大切な リボンを盗られました ドイツ兵のしわざでしょうか。」
そして私も目をうるませて彼女にこう答えた。
「いいえ 犯人はユダヤ人です ボクもターバンを没収されました。」
677:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:50 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE89
どんなに年月が経とうと、私たちの間に再会の言葉はいらなかった。
赤い糸の再会は今日、果たされた。
気がつくと私は使い果たしたはずの涙をこぼし、彼女を抱きしめていた。
リュカ「ビ・・ビアンカ・・・!」
ビアンカ「リュカ・・・!」
ダンカン「え?え?い、いったい何がどうなってるんだ・・・?」
~~~~~~~~~~~~~~~
678:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:51 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE90
宿屋 事務所にて
ビアンカ「もう、お父さんったら。リュカのことすっかり忘れて・・・」
ダンカン「いやーすまない、こんなに大きくなっていたから気がつかなかったよ。」
リュカ「ボクもダンカンさんだとは気づかなくて・・・」
ダンカン「ははは、私もフケたからなぁ。」
ビアンカ「リュカ、私はずっと信じていたわ。あなたがきっと生きていると。」
リュカ「うん・・・」
ビアンカ「パパスさんは?」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「そう・・・・」
ダンカン「・・・そ、そうか。さぞ苦労してきたんだろうな。うちでも母さんが
ドイツ兵に殺されてね。」
リュカ「でもダンカンさんたちがこの街に住んでいたなんてビックリしたよ。」
ダンカン「あぁ、あれからあちこちの街をてんてんとしてな。ようやくこの街で
小さな宿屋を経営することができたんだ。」
679:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:54 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE91
ビアンカ「リュカ、今日は泊まっていけるんでしょ?」
リュカ「そのつもりだったんだけど・・・」
ビアンカ「・・・お父さん。」
ダンカン「わ、わかってるさ。もちろん泊まっていってくれ。い、いや金なんて
払わなくてもいいさ。ユダヤ人だろうと関係ない。」
ビアンカ「ごめんねリュカ、実は私のお母さんが殺されたのはユダヤ人を泊めて
しまったからなの。だからお父さんもそのことで・・・」
リュカ「そうだったのか・・・。わかった、ボクやっぱり他のとこへ行くよ。」
ビアンカ「い、いえいいのよ。私たちは大丈夫だから。」
ダンカン「そ、そうだよリュカ。頼むから気にせんでくれ。」
リュカ「でも・・・」
チリン チリーン!
ビアンカ「あ、お父さん。お客さんよ。」
ダンカン「おっとまずい、じゃあビアンカ。リュカを頼むよ。」
ビアンカ「うん。」
~~~~~~~~~~~~~
680:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:55 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE92
宿屋 受付前
ダンカン「いらっしゃいませ、お二人さまですか?」
ルドマン「いや、悪いが客じゃない。ちょっとお尋ねしたいことがあってな。」
フローラ「・・・・・」
ダンカン「はぁ、何でしょう。」
ルドマン「この近くでみすぼらしいユダヤ人の少年を見かけなかったかね。髪は黒髪で
黒の瞳、身長は・・・」
フローラ「お父様、たしか170と少しくらいだったと思います。」
ダンカン「あ、あのぅ・・・あなたは警察の方で?」
ルドマン「いやいや、ご心配なさるな。ドイツ軍の使いなどではない。」
ダンカン「(黒髪で黒の瞳、身長170と少し・・・リュカのことだな・・・)」
ルドマン「ここに泊まっている客でそういう少年はおりますかな?」
ダンカン「・・・・・」
ルドマン「・・・どうなされた、ご主人。」
681:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:57 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE93
ダンカン「あ、い、いえ・・・申しわけありませんが、そのような少年は
ここには泊まっておりませんが。」
ルドマン「そうですか、邪魔しましたな。フローラ、行くぞ。」
フローラ「はい・・・」
ダンカン「(ふぅ・・・何なんだこいつら・・・)」
リュカ「ねぇダンカンさん、やっぱりボクほかのとこで泊ま・・」
ダンカン「バ、バカ!出てくるんじゃない!」
リュカ「え・・・」
フローラ「あ!」
ルドマン「どうした、フローラ。」
フローラ「お父様、あの方です!」
ルドマン「なに・・・?」
リュカ「あれ、さっきの女の子じゃないか。どうしてここに・・・」
ルドマン「ちょっと失礼、きみの手を見せてもらえないか。」
リュカ「?」
ルドマン「噛みつきはせん、きみの手を見るだけだ。」
リュカ「な、なんですかあなたは・・」
ルドマン「おぉ!本物だ!本物の‘炎のリング’だ!」
リュカ「!」
フローラ「お父様・・・」
682:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:59 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE94
ルドマン「き、きみ。この指輪をどこで?」
リュカ「これは父の形見ですけど。」
ルドマン「いやー!これは驚いた!まさに運命的な出会いとはこのことだ!きみ、ちょっと
私の別荘まで来てくれんか。」
リュカ「ちょ、ちょっと・・・」
ルドマン「フローラ、何を恥ずかしがっておる。こっちへ来なさい。」
フローラ「は、はい。」
ルドマン「紹介しよう、私の娘のフローラだ。」
フローラ「は、はじめまして・・・」
リュカ「あのぅ・・・」
ルドマン「いやーこんなに早く娘のいいなずけが見つかるとは思わなかった!」
リュカ「はぁ?」
683:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:00 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE95
ダンカン「ちょ、ちょっとあなた。どこの方が知りませんけど何を一人で勝手に・・」
ルドマン「ええい離せ、私を誰だと思っている。」
ビアンカ「どうしたの?さっきから騒いで・・・」
リュカ「あ、ビアンカ。」
フローラ「!」
ルドマン「きみきみ、その指輪は炎のリングといってな。・・・まぁいい、面倒な説明は
あとだ。娘の指を見てみなさい。」
リュカ「え?」
ルドマン「いいから私の娘の手に光るものをごらんなさい。フローラ、ほらお見せして。」
フローラ「はい・・・」
リュカ「あれ?これは・・・」
684:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:01 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE96
何がなんだかわけがわからなかったが、のちに改めて紹介された。
まずこの富豪の紳士はルドマン・カルバートという名のフランス人だそうだ。
そしてその娘がフローラ・カルバート。
ヨーロッパ各地にいくつもの別荘を所有しており、このポーランドにも二つほど
別荘を持っているそうだ。
そんなことはどうでもいいが、なぜこの私に興味を持ったのかが疑問だった。
あとから聞いた話によると、正確には私ではなく私の持っていた「指輪」が目的だったそうだ。
父の形見であるこの‘炎のリング’にどれほどの興味を持っていたのか知らないが、
これはあんたらのような富豪に売る気はないとはっきり言ってやった。
ところがそうではなかった。この指輪が欲しいわけではなかったのだ。
私はこのフローラという娘の指にはめていた指輪の正体を聞いて驚いた。
彼女がはめていたのは‘水のリング’という指輪だそうだ。
そういえば昔、父からこんな話を聞いたことがある。
685:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:01 50K1Eh7d
ガンガレー
686:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:02 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE97
あぁ、詳しくは知らんが‘水のリング’という
水の聖霊の指輪があるらしい。
へぇー
お前が炎のリングを持っているとすれば、いつかこの世界のどこかにいる
‘水のリング’を持った人に出会うときが来るかもしれんな。
だとしたら何なの?
ははは、お前のお嫁さんになる人のことだ。
えぇ?
お前のお嫁さんはどんな娘なんだろうな、私も見てみたい。
や、やだよ。今からそんな・・・
ははは。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
687:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:03 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE98
まったくバカげた話だった。
彼女は小さいころから‘水のリング’をはめていたそうだ。
大きくなっていつか結婚するとき、‘炎のリング’を所有している者に
嫁ぐのが夢だったとのこと。
親バカのルドマンはそんな娘がかわいくてしかたなく、今まで言い寄ってきた
フランス人の金持ち坊ちゃんたちのプロポーズを次々に蹴っ飛ばしてきたという。
親子そろって夢見るお星さまのイカれたフランス人だった。
私はこの世間知らずのフローラお嬢さまに、面と向かってこう言ってやりたかった。
「あのね、おじょうちゃん。サンタクロースなんてほんとはいないんだよ。」と。
ともかくこの日はいろいろなことがありすぎて、なんとも疲れた日だった。
ビアンカとの再会、フローラとの出会い。
私には母を捜すという大事な目的があるが、実は前から少し考え始めてはいた。
父を失った今、戦争が終わったら私も将来のことを考えねばと。
私にも家庭が持てるだろうか。
こんなユダヤ人に誰が嫁に来てくれるんだろうかと、まだ16歳のころから
真剣に考え始めていたのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
688:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:05 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE99
ダンカンの宿屋 二階にて
ビアンカ「だいじょうぶ?。」
リュカ「あーもう疲れたー。」
ビアンカ「うふふ、さんざんだったわね。ルドマンさんたちは別荘へ帰ったらしいわ。」
リュカ「かんべんしてほしいよ、なんでボクがこの指輪をしてたってだけで
いいなずけなんてさ。」
ビアンカ「素敵じゃない、小さいころから夢見てた指輪をした王子さまを待ち続けて・・・」
リュカ「あのねビアンカ、ひとごとだと思って勝手な想像しないでよ。」
ビアンカ「いいじゃない、女の子ってそういうものにあこがれるものよ。」
リュカ「この指輪はもともと父さんのだよ、もしこの指輪をボクじゃなくて他の誰かが・・・
例えば男じゃなくて女が持っていたとしたら、彼女どうする気だったんだろ。」
ビアンカ「さぁね、知らないわ。」
リュカ「相手が女でも結婚するつもりだったのかな。」
ビアンカ「しーらない。男の子って夢のないことばかり言うのね、あなたも昔はそんな子じゃ
なかったのに。もっとかわいかったよ。」
リュカ「長いことドレイ生活で男を相手に貞操を守ってきたせいかな。」
ビアンカ「え??」
リュカ「あ、い、いや・・なんでもないよ。」
689:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:06 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE100
ビアンカ「あ、そうそうリュカ。夕食のお買い物につきあってくれない?」
リュカ「え、でもボクは・・・」
ビアンカ「泊まっていくんでしょ、遠慮することないのよ。それにあなたちょっとやせすぎよ、
もっと栄養のあるもの取らないと。」
リュカ「そ、そうかな・・・」
ビアンカ「ほら早く、行くわよ。」
リュカ「わ、わかったよ。そんなに引っぱるなって。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
690:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:07 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE101
一方そのころ―――ベルリン ナチス・ドイツ軍本部 総統室
一人のドイツ士官が総統室へやってきた。
ガチャリ
ドイツ士官「<ハイル ヒトラー!西区から受けた連絡をご報告にきました!>」
総統「<言ってみろ。>」
ドイツ士官「<は!西の都サラボナの街において、水のリングを所有しているフランス人の
家族を発見したとのことです!>」
総統「<何だと?>」
ドイツ士官「<ジャミ中尉とゴンズ中尉が現場に向かっています!>」
総統「<よし、指輪を入手したら連絡をよこせと伝えろ。>」
ドイツ士官「<ハイル ヒトラー!>」
~~~~~~~~~~~~~~~~~
691:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:08 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE102
サラボナの街 商店街通り
リュカ「ビアンカ、まだ買うつもりなのかい。」
ビアンカ「えーと、ジャガイモにタマネギでしょ。トリ肉にパセリと・・・」
リュカ「そんなにたくさん買ってどうするんだよ。」
ビアンカ「あなた毎日なに食べてたのよ。」
リュカ「豆だよ。」
ビアンカ「ダメよ、もっと栄養つけないと。今夜は私がおいしいもの作ってあげる。」
リュカ「そっか、それは楽しみだな。」
ビアンカ「えーと、あとは・・・あら?」
リュカ「どうしたんだい。」
ビアンカ「ちょ、ちょっとリュカ・・・あれ見て。ルドマンさんたちじゃない?」
リュカ「え?」
そこには先ほどのルドマンと奥さん、それにフローラもいた。
彼らはなぜかドイツ兵に捕らえられていた。
692:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:09 50K1Eh7d
支援
693:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:09 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE103
ルドマン「<ま、待ってくれ。話せばわかる。私たちはただ・・・>」
妻「あ、あなた・・・!」
ジャミ中尉「<三人ともそこへひざまずけ。>」
ゴンズ中尉「<おい、お嬢ちゃんもだよ。そこへひざまずけ。>」
フローラ「う、うぅ・・・助けて・・・」
私はひとめ見てわかった、こいつらの顔は忘れない。
ドイツ士官のジャミ中尉とゴンズ中尉だ。
ジャミ中尉「<もう一度聞くぞ、お前ら家族は水のリングを持っているはずだ。>」
ルドマン「<し、知らない・・・>」
ジャミ中尉「<ウソつくな!お前ら家族が指輪を持っていると連絡を受けている!>」
フローラ「(お、お父様・・・もう指輪を出したほうが・・・)」
ルドマン「(バ、バカを言うな・・・あの指輪は家宝なんだぞ・・・)」
フローラ「(でもこのままじゃ私たち殺されて・・・)」
ゴンズ中尉「<おい!何をゴチャゴチャ言ってる!さっさと指輪を出せ!>」
ルドマン「<だ、だからそんな指輪は知らないと・・・>」
~~~~~~~~~~~~~~
694:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:10 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE104
リュカ「ビアンカ、ここで待っていてくれ。あの人たちを助けにいく。」
ビアンカ「だ、だめよリュカ。あなたまで殺されるわよ。」
リュカ「そうはいかない、ほっといたらあの人たち殺されてしまうよ。」
ビアンカ「お願いだからバカなことしないで、せっかく助かった命なのに・・・」
リュカ「バカなのはあの家族さ。」
ビアンカ「え・・・」
リュカ「ここを動くなよ。」
ビアンカ「ま、待って!リュカ!」
私は銃を突きつけながらも指輪を出そうとしないルドマンに腹が立ったのだ。
娘まで殺されてしまうかもしれないのに・・・
ルドマン「<指輪なんか知らない!本当だ!>」
ジャミ中尉「<どう思う?ゴンズ。>」
ゴンズ中尉「<ウソくせえな、隠してるに違いない。>」
695:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:11 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE105
ジャキン!
フローラ「きゃあ!」
ルドマン「フローラ!」
ジャミ中尉「<10秒待ってやる、指輪を出さないとこの娘の頭を撃ちぬく。>」
ルドマン「<や、やめてくれ!指輪なんか知らないと言ってるだろう!>」
フローラ「お父様!」
ジャミ中尉「<どこまでもしぶといオヤジだ、まぁいい。じゃこの小娘を殺す>」
フローラ「いやああああ!!」
リュカ「<待ってくれ!>」
ジャミ中尉「<ん?>」
ゴンズ中尉「<なんだお前。>」
リュカ「<指輪はその女の子が持っている、たぶんポケットの中を探せばあると思う。>」
ジャミ中尉「<何だと?>」
フローラ「リュ、リュカさん・・・!」
ルドマン「き、貴様どういうつもりだ・・・!」
リュカ「・・・・・」
696:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:12 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE106
ゴンズ中尉「<おい、おじょうちゃん。ちょっと失礼するぞ。>」
フローラ「うぅ・・・」
ジャミ中尉「<どうだ、あったか?>」
ゴンズ中尉「<ゲ、ほんとにあったぞ・・・これが水のリングに違いない。>」
ジャミ中尉「<ほぅ。>」
ルドマン「く、くそぉぉおおお・・・!わが家宝の指輪が・・・!」
ジャミ中尉「<おい兄ちゃん、どこのどいつか知らんが教えてくれてありがとよ。>」
リュカ「・・・・・」
ジャミ中尉「<ん・・・おい、お前どこかで会ったか?>」
リュカ「<さぁね・・・>」
ジャミ中尉「<ふん・・・まぁいい。おいゴンズ、もう行くぞ。指輪を本部へ届けねば。>」
ゴンズ中尉「<あぁ、わかった。>」
ようやく二人のドイツ士官はその場を去っていった。
.
697:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:17 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE107
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「リュカ!大丈夫?!」
リュカ「大丈夫だよ、なんともない。」
ビアンカ「よかった・・・!」
フローラ「あ、あの・・・」
リュカ「ケガはない?フローラ。」
フローラ「は、はい・・・」
ルドマン「おい!どういうつもりだ!わが家宝の指輪を!なぜドイツ野郎に引き渡させた!」
リュカ「・・・・」
ルドマン「おい何とか言え!このままで済むと思っているのか!あの指輪は貴様のような
ユダヤ人が一生かかっても買うことのできない高価な・・」
リュカ「うるさいね・・・」
ルドマン「な、なぬ??」
リュカ「そんなことよりも奥さんや娘さんの心配でもしたらどうですか。」
ルドマン「な、なんたる無礼なやつだ!そうか!貴様はドイツ軍の手先に成り下がった
ユダヤ人だな!この非国民め!」
リュカ「そんなに指輪が欲しければボクのをあげますよ。」
ルドマン「?!」
ビアンカ「リュカ!」
698:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:18 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE108
今日まで大事にしてきた父の形見である炎のリング、私はあっさりとルドマンにゆずった。
だがもし父が生きていたら私と同じ行動をとっていたような気がしたのだ。
娘や奥さんまで銃を突きつけられていたのだ、迷わず指輪よりも命のほうを選んでいただろう。
私や父パパスにとって、本当の誇りというものはこのような犬死ではない。
たとえ他人事でも生きていくことが何よりも大事なのだ。
ルドマン「お、おい待て!なぜ私に炎のリングをそうやすやすとくれるのだ!」
リュカ「ビアンカ、行こう。」
ビアンカ「え、えぇ・・・」
ルドマン「ま、待ってくれ!お前はいったい・・・!」
フローラ「・・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~
699:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:19 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE109
――その夜 ダンカンの宿屋にて
リュカ「ごちそうさまー。」
ビアンカ「よく食べたわね。」
ダンカン「ははは、男の子はたくさん食べなきゃな。」
リュカ「ビアンカ、ほんとにおいしかったよ。キミがこんなに料理が上手だったなんて。」
ビアンカ「あらなによ、私は女らしくないっていうの?」
リュカ「い、いや・・・」
ダンカン「はっはっは。リュカ、こんな娘でもよかったらもらってやってくれないか。
毎日おいしいスープを作ってもらえるぞ。」
ビアンカ「ちょ、ちょっとお父さん。こんな娘ってなによ。」
リュカ「ははは・・・」
チリン チリーン
ダンカン「おっとお客さんか。」
ビアンカ「いいわ、私が出る。」
~~~~~~~~~~~~~~
700:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:21 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE110
受付前
ビアンカ「いらっしゃいませー。あら、あなたは・・・」
フローラ「こんばんは・・・」
ビアンカ「フローラさんね、何かご用?」
フローラ「すみません、ちょっとリュカさんに・・・」
ビアンカ「リュカー!フローラさんが来てるわよー!」
リュカ「そ、そんなに大きな声出さなくても聞こえるよ。」
ビアンカ「うふふ、じゃあごゆっくり。」
リュカ「どうしたの、フローラ。」
フローラ「あの・・・」
リュカ「ん?」
フローラ「ごめんなさい、あの・・・ちょっと外へ出ませんか。」
リュカ「あ、あぁ・・・うん、わかった。」
~~~~~~~~~~~~~~~
701:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:22 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE111
サラボナの街 商店街通り
フローラ「先ほどは助けてくれてありがとうございました。」
リュカ「いいんだよ、それより無事でよかったね。」
フローラ「あの・・・ビアンカさんという方はリュカさんとはどういうご関係で?」
リュカ「あ、うん・・・幼なじみだよ。」
フローラ「素敵な方ですね。」
リュカ「そ、そう?」
フローラ「リュカさん、私あのときのあなたの行動が信じられなかったんです。」
リュカ「あのときって?」
フローラ「何のためらいもなく指輪をドイツ士官に差し出したじゃないですか。」
リュカ「うん、ごめんね。ああでもしなきゃルドマンさん指輪を出そうとしなかったよ。」
フローラ「でもおかげで私たち助かりました。」
リュカ「命は大切にしないとね。」
フローラ「私、小さいころからあの指輪をずっと大切にしてきたんです。でもドイツ兵に
銃を突きつけられたら、いくら私でもやっぱり・・・」
リュカ「そうさ、それが当たり前なんだよ。ちっとも恥ずかしいことじゃないよ。」
702:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:23 EO4JwW6H
ガンガレ
703:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:24 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE112
フローラ「でもそのあとリュカさんは私の父にあっさりと自分の指輪をゆずったじゃないですか。
あなたのお父様の形見を・・・」
リュカ「うん、でも・・・父さんがもし生きていたら、ボクと同じことしてたんじゃ
ないかなぁって思ってさ。」
フローラ「リュカさん・・・あなたがあの高価な指輪を命と引き換えにあっさりとドイツ士官に
ゆずったこと、そしてそのあと自分の父の形見をあっさりと他人にゆずった行動、
うまく言えませんけど・・・私なんか感動しました。」
リュカ「そ、そうかな・・・」
フローラ「あなたは私に‘生きる’という意味を教えてくださったような気がします。
どんな学校の先生でも教えてもらえることのできない貴重な体験をしました。」
リュカ「・・・・」
フローラ「やっぱり私まだ子供でした、夢ばかり見てた世間知らずの女です。
リュカさん、これはあなたにお返しします・・・」
フローラは‘炎のリング’を私に差し出した。
リュカ「フローラ・・・」
フローラ「大丈夫です、父には言ってありますから。かなり落ち込んでいたようですけど。」
704:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:25 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE113
リュカ「ありがとう・・・キミは素敵な子だと思うよ。」
フローラ「うふふ、ほめても何も出ませんよ。」
リュカ「ははは・・・」
フローラ「私そろそろ帰ります、付き合ってくださってありがとうございました。」
リュカ「あ、送っていこうか。」
フローラ「大丈夫ですよ、別荘はすぐ近くですから。」
リュカ「フローラ、お父さんを大事にしてね。」
フローラ「えぇ、もちろんです。」
リュカ「・・・・・」
フローラ「リュカさん。」
リュカ「なに?」
フローラ「ビアンカさんは本当に素敵な女性だと思います、大事にしてあげてくださいね。」
リュカ「え・・・」
705:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:26 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE114
フローラ「うふふ、戦争が終わったらいつか将来、ご結婚なさるんでしょうね。
ビアンカさんを幸せにしてあげてください。」
リュカ「ちょ、ちょっと待ってよ。ボクたちはそんな・・・」
フローラ「じゃあおやすみなさい。」
リュカ「あ・・・」
この年の4月、ソ連軍戦車隊がベルリン市街に突入した。
いよいよもってナチス・ドイツ軍の敗退が余儀なくされた。
総統アドルフ・ヒトラーは‘水のリング’を手に入れたが、彼の暗殺をもくろむ者が
次々と現れ始めた。
この当時でヒトラー暗殺未遂事件は40件を超える。
706:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:28 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE115
カルバート一家は数日後にサラボナを離れ、故郷フランスへと帰国した。
やがて私はフローラとは二度と会うことはなかった。
戦後何年もあとになってから新聞で読んだが、フローラはフランスの青年実業家と
結婚したそうだ。青年の名はアンディ・R・ジュネ。
幸せな家庭を築いて、夫はのちに名誉市民として表彰されたそうだ。
そして私は依然として母の情報は何もつかめないまま、とりあえずダンカンの宿屋で
世話になることにした。
このサラボナも安全とはいえないが、ビアンカを守るためにも
この街にとどまっておいたほうがいいと思ったのだ。
707:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:29 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE116
だがそれもつかの間、この二ヵ月後にサラボナは戦場と化す。
反ナチス派がドイツ軍に戦いを仕掛けてきたのだ。
結果は反ナチス派が勝利を勝ち取ることになるが、建物はほとんど崩壊し
見るも無残なホロコーストと化す。
この当時で殺されたユダヤ人の数は20万人を超える。
私の将来は どんな未来があるのか どんな運命が待ち受けているのか。
戦火の中で迎える青春時代 青く燃え上がった炎とともに
指輪はじっと時代を見つめ 戦場の炎の調べを唄うようだった。
第四章 ~青きその青春時代~
完
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
708:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:31 EO4JwW6H
わくわくさん。
709:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:31 0olQCRLU
hu- tukareta
間に書き込んでくれている人ありがとお。
いよいよ最終章とエピローグのみでs
710:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:32 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE117
最終章 ~純白の明日~
1945年 4月
サラボナの街 ダンカンの宿屋にて
ビアンカ「おはようリュカ、今日は起きるの早かったね。」
リュカ「ふぁー・・・おはよ、ダンカンさんは?」
ビアンカ「お父さんは用事があって今朝はやくから街へ出かけたわ。」
リュカ「そう。」
フローラたちが帰国してから早二ヶ月が経とうとしていた。
私は結局この宿屋の仕事を手伝いながら住みこませてもらうことになった。
711:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:33 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE118
リュカ「おー、おいしそうだね。朝ごはん?」
ビアンカ「だめよつまみ食いは、座って待ってなさい。」
リュカ「これちょっとだけちょうだいね。」
ビアンカ「あ、こら!だめだって言ってるのに!」
私とビアンカは、もうこのころにはお互い昔以上に仲も進展していた。
言ってみれば友達以上、恋人未満というやつだ。
彼女のことは好きだが、どうもまだそれ以上の感情を伝えられないというか
微妙な年頃だったのだ。
今はお互いこれでいいのかもしれない。
ビアンカ「さぁリュカ、できたわよ。」
リュカ「あーおなかすいた。」
ビアンカ「まだお客さんも来ないみたいだから先に食べてて。」
リュカ「いただきまーす。」
712:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:35 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE119
ここでの生活にもようやく慣れ始めてはきたが、実は頭の中は母のことで一杯だった。
今ごろどうしてるのだろうか、ちゃんと食べるものは食べているんだろうか。
寝るとこや住む家はちゃんとあるのだろうか・・・と。
だがそんなことを考えながら食事を続けていると・・・
ビアンカ「・・・ねぇリュカ、大事なお話があるんだけど。食べながらでいいから
聞いてくれる?」
リュカ「なに?・・・もぐもぐ。」
ビアンカ「あのね、もしあなたに再会したら、これ話していいのかどうかずっと悩んで
いたんだけど・・・」
リュカ「だから何。」
ビアンカ「あなたお母さんを捜しているって言ったよね。」
リュカ「うん・・・ボクたちがまだ小さかったころは死んだなんて聞かされてたけどね。
実は生きているんだって、父さんが死ぬ間際に言ってたんだ。」
ビアンカ「・・・・・」
713:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:35 50K1Eh7d
(´ー`)y─┛~~
714:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:36 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE120
リュカ「大丈夫だよ。戦争ももうじき終わるし、きっとこの国のどこかにいるさ。」
ビアンカ「あ、あのねリュカ・・・」
リュカ「なんだよ、どうしたの。」
ビアンカ「わ、私・・・あなたのお母さん、実はどこにいるか知ってるの。」
リュカ「えぇ?!」
朝早くからビアンカの口から思いもよらぬ発言を聞いて、一気に目が覚めた。
どうしてそれを早く言わないのかと。
ビアンカ「ごめんなさい、私あの手紙を読んでしまったの・・・」
リュカ「ビ、ビアンカ。母さんの居所を知ってるのかい?教えてよ!」
ビアンカ「で、でもリュカにはつらすぎると思って・・・」
リュカ「手紙って何のことだよ!誰の手紙?!」
715:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:39 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE121
ビアンカ「あなたのお父さんのパパスさんよ、息子のリュカへって書いてあるわ。
リュカたちがサンタローズの街を去ったあとに、あなたの焼けた家から
手紙を見つけたの。」
リュカ「ビアンカ、頼むよ。その手紙を読ませて。」
ビアンカ「でも・・・」
リュカ「父さんからの手紙なんだろ?大丈夫だよ、ボクはもうどんな事実でも
受け止められる覚悟はとっくにできてるんだ。」
ビアンカ「リュカ・・・」
リュカ「お願いだよ、その手紙を見せてくれ。」
ビアンカ「わかったわ・・・。」
ビアンカはそう言うと、焼けかかった一枚の手紙を持ってきた。
私はこの父からの手紙にどんな事実が書いてあろうと、すべて受け止められる覚悟は
できていたつもりだった。
父が死ぬ間際に言い残した言葉は今でも頭に残っている。
だが母がナチス=ドイツ人だからって、それがなんだというのだ。
悪いのは総統ヒトラーなのだ、この国を侵攻しユダヤ人を虐殺する憎きナチスなのだ。
そう言い聞かせ、そう信じてきた。
だがこの手紙は それ以上のことが書いてあった・・・
~~~~~~~~~~~~~~
716:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:39 EO4JwW6H
ヽ(゚∀゚)ノ
717:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:40 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE122
わが息子リュカへ――
リュカよ、この手紙を読んでいるということは、私は何らかの理由で
お前のそばにはいないのだろう。
お前には全てを話すときが来るまで、真実はまだ伏せておいたほうが良いと思ったのだ。
今まで何も話してやれなかったことを許してくれ。
すでに知っているかもしれんが、お前の母マーサは純血のナチス=ドイツ人だ。
もう聞き及んでおろう、悪名高きナチス・ドイツ軍の総統アドルフ・ヒトラーの名を。
そしてお前の母の旧姓はマーサ・ヒトラー。そう、ヒトラーの実の妹なのだ。
つまり私にとってヒトラー総統は義理の兄なのだ。
お前の気持ちはわかっているつもりだ、だがどうかマーサを憎まないでやってくれ。
マーサは国を亡命しようとわがポーランドへ逃げてきたのだ。
兄であるヒトラーが政権を握る前から、マーサはヒトラーとは意見が合わなかったらしい。
マーサと出会ったころは私は当時軍人だった、私たちは敵国同士だったが恋に落ち
ついに駆け落ちまでして二人でポーランドへ逃げた。
718:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:41 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE123
だがナチスはそれで黙ってはいない、すぐに追っ手を差し向けられ
私たちは亡命者として国を追われる身となった。
ヒトラーは私とマーサの結婚が決まったころ、私への暗殺命令を下したらしい。
そのときに暗殺命令を受けたのがゲマ大佐だ。
ゲマは血まなこで私を追っていたようだが、かんじんの情報が不充分だったため
私たちは何とかドイツ士官にも身元がバレずにサンタローズの街に住むことができた。
そして何とかお前を無事出産することができ、ようやく私たちは幸せをつかんだと
心の底から思っていた。
しかしお前を出産させてすぐのことだ、私の留守中にマーサはドイツ兵に身柄を拘束された。
私は赤ん坊のお前を抱いたまま身を隠すのが精一杯で、マーサを救ってやれなかった・・・。
本当にすまない、いいわけがましいが今私が捕まれば殺されるだけだったのだ。
719:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:42 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE124
しかもヤツらの狙いはこの私だけではなかった、私の持つ「指輪」が狙いだったのだ。
この世界には三つの伝説の指輪があるそうだ。
‘炎のリング’‘水のリング’そして‘命のリング’。
この三つのリングを手にした者は、覇王のチカラを手に入れるという言い伝えがある。
確かにどの指輪もかなりの値打ちはあるが、指輪のチカラというのはただの迷信だと思う。
だがお前がもしその指輪を手にしていたら充分気をつけろ。ヒトラーはそれを狙っている。
早めに売ってしまうか捨てるかどちらかにしろ。それは私たちユダヤ人にとって危険な指輪だ。
リュカよ、お前の母マーサはおそらくヒトラー総統のもとにいるはず。
反逆者は殺される運命にあるが、いかにヒトラーといえど身内を死刑にするとは思えん。
720:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:45 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE125
戦争が終わったら、一度母さんに会ってやってくれまいか。
マーサはつらい思いをさせたお前に対して、心から謝罪したいそうだ。
息子によってどんな仕打ちも受けると。
だがこれだけはわかってくれ、リュカ。
私もマーサも、お前を産んだことに関して 少しも後悔などしていなかった。
私もマーサも、お前のことは心から愛していた そしてこれからも。
私たちにとって かけがえのない 愛する家族なのだ。
―――パパス・グランバーグより
~~~~~~~~~~~~~~~~
721:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:46 50K1Eh7d
。・゜・(ノД`)・゜
722:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:46 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE126
この手紙を読んで間もなく、私は食欲がなくなった。
母がヒトラーの妹だと知って急にめまいが起こり、今朝食べたものをすべて吐き出してしまった。
あの悪魔の親玉の妹が母マーサだなんて・・・・
この私の身体にもあの総統ヒトラーの血を受け継いでいると思うと、ますます胸クソ悪くなり
一日中便器とにらめっこをした。
最後には吐くものがなくなって胃液に血がまざっていた。
伝説の三つの指輪のことなどどうでもいいが、じゃあ母は今どこで何をしているというのだ。
ベルリンのナチス本部で、ヒトラーと一緒に次の攻撃目標でも相談してるとでもいうのか。
私はこの日から何を信じていけばいいのかわからなくなり、道を失うことになる。
間もなくサラボナの街は戦場と化す運命にあるが、もう母のことを考えるのはやめた。
目の前にある現実だけ見て生きてゆこう、そうでも考えないかぎり生きていけない。
私はもはや 生きていく理由を探すために 生きているようなものだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
723:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:48 EO4JwW6H
。゚(゚´Д`゚)゜。
724:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:48 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE127
ベルリン ナチス・ドイツ軍本部 総統室
コンコンコン
ゲッベルス「<誰だ。>」
*「<私です、総統にお話があります。>」
ゲッベルス「<総統、マーサ様が・・・>」
総統「<入れろ。>」
ゲッベルス「<はっ。>」
ガチャリ
ゲッベルス「<どうぞ。>」
マーサ「<失礼します。>」
725:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:49 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE128
ヒトラー総統の前にマーサがやってきた。
総統「<何しに来た。>」
マーサ「<総統、連合軍がノルマンディーに上陸したとのことです。>」
総統「<知っている、それがどうした。>」
マーサ「<ソ連軍の侵攻を止められないそうです、このままだと防衛ラインを
突破されると思います。>」
総統「<何が言いたい、はっきり言ってみろ。マーサ。>」
マーサ「<兄さん・・・もう降伏なさってください、これ以上戦ったところで・・・>」
総統「<黙れ!指輪を手に入れるまでは絶対に降伏などせんぞ!>」
マーサ「<あんなもののためにいったい何万人のユダヤ人が殺されたと思っているんです!
窓の外を見てください!今にもクーデターが起こりそうなんですよ!>」
総統「<お前があんな男と駆け落ちなどしなかったらこんな事態にはならなかった!
身内じゃなかったらお前をとっくに撃ち殺しているところだぞ!>」
726:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:50 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE129
マーサ「<ではいっそのこと殺してください!私はもう耐えられないんです!>」
総統「<ほぅ、お前までもが私を裏切る気か。>」
ヒトラー総統はワルサーPPKを抜いた。
ジャキン!
マーサ「<う、うぅ・・・さぁ殺しなさい!>」
総統「<私にお前を殺すことはできないと思っておろう。違うか?>」
マーサ「<うぅ・・・>」
ゲッベルス「<閣下!>」
総統「<お前は黙ってろ!>」
マーサ「<私の夫を殺しただけでも飽き足らず、何十万人というユダヤ人を虐殺・・・
どのみちベルリンが落ちるのは時間の問題です・・・兄さんの政権も
ここまでです・・・。>」
727:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:53 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE130
総統「<私にどうしろと言うのだ、え?>」
マーサ「<無条件降伏を・・>」
総統「<ふざけるな!>」
バシ!
マーサ「<うぐっ・・・!>」
総統「<いいか・・・もう一度そのようなふざけたことを言ってみろ。妹のお前でも
脳天に風穴を開けて、夫パパスの死体ともども海へ放り込んでやるぞ・・・>」
マーサ「<うぅぅ・・・>」
728:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:57 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE131
総統「<連れ出せ。>」
ゲッペルス「<は、はい。>」
マーサ「<に、兄さん・・・あなたは自分が殺されでもしないかぎり、戦争をやめようとは
しないのですね・・・>」
総統「<だったらどうしたというのだ、お前が私を殺すか?>」
マーサ「<たとえ血を分けた兄妹といえど、そうするしかないのなら・・・>」
総統「<フン、笑わせるな。・・・おい、早く妹を連れ出せ。>」
ゲッベルス「<はい。>」
マーサ「<うぅぅ・・・>」
ゲッペルス「<マーサ様、こちらへ・・>」
マーサ「(兄さん・・・やはり私があなたを殺すしかないのね・・・)」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
729:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:58 EO4JwW6H
(((( ;゚Д゚)))
730:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:59 50K1Eh7d
( ̄○ ̄;)
731:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:01 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE132
サラボナの街 ダンカンの宿屋にて
ビアンカ「リュカ!リュカ起きて!」
リュカ「う~ん・・・」
ビアンカ「さっさと起きなさい!大変よ!」
リュカ「な、なんだどうしたの?」
ビアンカ「反ナチス派の残党がこの街に逃げ込んだらしいの!ドイツ軍が戦車で
この街へ向かってるらしいわ!」
リュカ「なんだって?!」
この日、東の地区で激戦を繰り広げていた反ナチス派の連中がサラボナの街へ
逃げ込んできた。ドイツ軍は装甲車まで用意してこの街を砲撃してきた。
戦争ならよそでやってくれと言いたいが、そうもいかないのが今の時代だ。
私たちには武器も戦うすべも何もなかった。
ただ生き残るということだけで精一杯だったのだ。
732:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:02 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE133
ビアンカ「早く逃げるのよ!建物の中は危険だわ!」
リュカ「わ、わかった!」
ダンカン「ビアンカ!私のサイフを知らんか!」
ビアンカ「お父さん!今はお金より逃げることが先よ!」
ダンカン「し、しかし金は少しくらい持っておかないと・・」
だがドイツ軍の攻撃はさっそく開始された。
ズガァァンンッ!! ――ッドォォンン!!
ビアンカ「きゃああ!!」
リュカ「ビアンカ!こっちだ!早く!」
ダンカン「うひゃああああ!!」
~~~~~~~~~~~~~
733:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:03 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE134
商店街大通り
反ナチス派A「<死ねやあああああ!!>」
ズダダダダダダ!!
ドイツ兵P「<うああっ!>」
ジャミ中尉「<こ、この野郎!>」
ダダダダダダ!!
反ナチス派A「<うおぁぁっ!>」
734:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:04 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE135
ゴンズ中尉「<おいジャミ!残党はまだ残ってるのか!>」
ジャミ中尉「<わからん!それほど残ってはないと思うが・・・!>」
反ナチス派B「<バカめ!>」
ゴンズ中尉「<ハッ!危ない!ジャミ!>」
ジャミ中尉「<!!>」
ガツン!
ジャミ中尉「<うあああっ・・・!>」
~~~~~~~~~~~~~~~
735:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:07 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE136
商店街裏通り
リュカ「大通りは危険だ、銃撃戦の流れ弾に当たってしまうよ。」
ビアンカ「街の人たちは無事に逃げられたのかしら・・・」
ダンカン「わからん、もうこの街のどこも安全な場所などない。」
リュカ「しばらくここに隠れていよう、ドイツ兵もそれほど残ってはない。
もしかしたら反ナチス派が勝つかもしれないよ。」
ビアンカ「そうだといいけど・・・」
この日の戦いでたったの半日で建物は崩壊され、ドイツ兵はもちろん
街の住人も何人か犠牲者が出た。
だが反ナチス派は勇敢にも最後まで戦いぬき、ついにドイツ軍の装甲車まで破壊した。
彼らの戦いは火炎ビンやわずかな機関銃だけだった。
だが作戦が良かったのだろうか、生き残ったドイツ兵たちは囚われ、街の広場に全員
集められて見せしめの処刑が行われた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
736:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:08 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE137
公園広場
ビアンカ「リュカ、もう安全よ。」
リュカ「ビアンカ、あそこ見てみなよ。」
ビアンカ「え?」
ダンカン「ドイツ野郎が処刑されるようだな、自業自得だ。」
反ナチス派「<おい、何か言ったらどうだ。クソ野郎。>」
ジャミ中尉「<フン・・・>」
反ナチス派「<何も言うことはなしか。>」
ダーン!
ジャミ中尉「<がっ・・・>」
ドタリ
737:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:10 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE138
反ナチス派「<お前はどうだ?このユダヤ人殺しが。>」
ゴンズ中尉「<さっさと殺せ。>」
反ナチス派「<言われるまでもねえよ、ブタ野郎。>」
ダーン!
ゴンズ中尉「<うぐっ・・・>」
ドタリ
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「ね、ねぇリュカ。もう行きましょ。」
リュカ「・・・・・」
738:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:11 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE139
ビアンカ「リュカ、もう行きましょうってば。」
リュカ「ははは、脳みそぶちまけてら。いい気味だ。」
ビアンカ「え・・・」
リュカ「あっはっは、ざまぁみろってんだ。ドイツ野郎め。」
ビアンカ「や、やめてリュカ。何を言ってんのよ・・・」
リュカ「あーーーーっはっはっはっは!!」
私はユダヤ人をさんざん虐殺してきたジャミ中尉とゴンズ中尉の最期を見届けた。
不思議と何の感動も安心感も得られなかった。
ただ胸が悪くなるだけだった、もう笑うしかなかった。
あの悪魔どもが死んだというのに、やってることはやつらと結局変わらなかった。
銃を頭に突きつけて引き金を引く、一瞬のうちにバタリバタリと倒れていくその様は
幼いころ目に焼きついた虐殺と何ら変わりはなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
739:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:12 50K1Eh7d
(;´Д`)
740:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:14 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE140
―――その夜
ダンカンの宿屋にて
ダンカン「いやー、ハデに崩壊されたけどまだ何とか住めるようだ。よかったよかった。」
ビアンカ「ひどいわね・・・水は出るかしら。」
ダンカン「出るみたいだぞ、風呂もまだ使えそうだ。ビアンカ先に入ったらどうだ。」
ビアンカ「そうね。ねぇリュカ、シャワーでもあびたら?」
リュカ「いいよボクは・・・あとで。」
ビアンカ「リュカ・・・」
ダンカン「どうしたんだリュカのやつ、なんだか元気ないな。」
ビアンカ「・・・・・」
~~~~~~~~~~~~
741:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:15 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE141
宿屋 二階
コンコンコン
*「ねぇリュカ。私だけど、入るわよ。」
ガチャリ
ビアンカ「あ、横になってたの。もう寝るとこ?」
リュカ「べつに・・・・」
ビアンカ「・・・・・」
リュカ「何か用かい。」
ビアンカ「い、いえ・・・なんか元気なさそうだから。」
リュカ「そんなことないよ。」
ビアンカ「リュカ、まだ寝ないのならちょっと散歩にでも行かない?今日はめずらしく
星が見えるわよ。」
リュカ「今日は晴れてたんだから夜に星くらい見えて当たり前じゃんか。」
ビアンカ「・・・・・」
742:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:17 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE142
リュカ「悪いけど今日は疲れてるんだ、部屋にいるよ。」
ビアンカ「そう・・・」
リュカ「ビアンカ、火もってる?」
ビアンカ「え?・・・あぁ、マッチならそこのテーブルにあるけど。」
リュカ「ちょっともらうよ。」
シュボッ ボボボ・・・
ビアンカ「ちょ、ちょっとあなたタバコなんて吸うの?」
リュカ「ヘンリーからもらったタバコがまだ一箱あまってたんだ。」
ビアンカ「ヘンリー?」
リュカ「なんでもないよ、キミも吸うかい?」
ビアンカ「い、いらないわよ。」
この夜はなぜか私は気分がイラつき、何もする気になれなかった。
そんな私を見てビアンカはさらに話しかける。
743:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:18 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE143
ビアンカ「フローラさんってきれいな子だったよね、すごく上品で気品があって・・・
私とは大違いよね。」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「リュカってああいう子が好き?」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「ねぇ。」
リュカ「うるさいな、ボク疲れてるんだよ。」
ビアンカ「・・・・リュカ、いい加減にスネるのやめなさいよ。」
リュカ「なに?どうしてボクがスネるんだよ。」
ビアンカ「あなたが考えてることくらいわかるわよ、昼間処刑されたドイツ士官のことで
頭がいっぱいなんでしょ。」
リュカ「うるさい!あんなクソ野郎は死んで当然なんだよ!」
ビアンカ「じゃあどうしていつまでもスネてんのよ!あんた男でしょ!」
リュカ「ビアンカ!あの処刑を見て何とも思わなかったのか!あいつらがどれだけ罪もない
人たちを虐殺したか知ってるだろ!」
ビアンカ「知ってるわよ!」
744:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:19 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE144
リュカ「おかしいんだよ・・・あの処刑を見てボクは何の感動もなく何の喜びも得られなかった・・
ただ気分が悪くなるだけだったんだよ・・・」
ビアンカ「リュカ・・・それが正常の人間なのよ、あなたは間違ってないわ。」
リュカ「正常だって?こんなのマトモじゃない!ボクがこの数年でキミよりもどれだけ
地獄を見てきたか知っているのか!」
ビアンカ「わ、わかってるわよ・・・」
リュカ「いーやわかってない、この際だから笑える話を聞かせてあげるよ。」
ビアンカ「や、やめて。私が悪かったから・・・」
リュカ「ボクがアウシュヴィッツ収容所から脱走したのは知ってるだろ、その道中にある川で
一人のユダヤ人の女性を見かけたんだ。」
ビアンカ「やめて・・・!」
リュカ「彼女いったい川で何をしていたと思う?なんと自分の赤ん坊を生きたまま川に
沈めていたんだよ。」
ビアンカ「いや!もうやめてったら!」
745:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:21 0olQCRLU
リュカ「なぜこんなことしてるんだろうとボクも思ったよ、でも次の瞬間その理由がわかった。」
ビアンカ「うぅ・・・」
リュカ「ビアンカ!その理由をボクに聞いてみろ!聞け!」
ビアンカ「リュ、リュカ・・・」
リュカ「女性の後頭部にマシンガンをつきつけたドイツ兵がいたからだよ!赤ん坊を沈めたあと
彼女も脳天ブチ抜かれて自分も川に落とされたんだよ!!」
ビアンカ「うぅ・・・」
リュカ「わかるか!あのナチどもが処刑されたってのに気分がよくなるどころか、
ますますイラついてくるボクの気持ちが!」
ビアンカ「お願いだからやめて!」
746:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:22 0olQCRLU
リュカ「必死で捜していた自分の母親は実は悪魔の妹だったと知らされた気持ちがわかるか!」
ビアンカ「もうやめてったら!必死で生きようとしてるのはあなただけじゃないのよ!!」
バタン!
ビアンカは部屋を出ていってしまった。
リュカ「・・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~
ビアンカ「うぅ・・・・」
.
747:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:23 EO4JwW6H
(゚Д゚;≡;゚д゚)
748:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:24 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE145
ビアンカに八つ当たりをしてただけなのはわかっていたつもりだ。
だがどうしようもなかった。
どこにこの怒りをぶつけたらいいのかわからず、このやりきれない気持ちを押さえられなかった。
私には戦うすべも武器もない、ただ生きていくことが精一杯だ。
確かにユダヤ人である私のほうが、ビアンカの10倍は地獄を味わってきたかもしれない。
だが彼女のほうがよっぽど‘生きる’という意味を理解していた。
私は「死」というものの恐怖感から「生」を守り続けてきただけだ。
それにくらべてビアンカの場合は、「人生」を守るための「生」だった。
うまく言えないが、これが私とビアンカの決定的な違いだった。
だが人間はそれほど強くはない、まだ10代の私にとって恐怖に立ち向かえるほど
勇気もないし力もない。
人生の半分も生きていない私にとって、‘戦争’というものはあまりにも巨大な敵すぎた。
遠くのほうでかすかに鳴り響く砲撃の音を耳にしながら、私はベッドに横たわって
目を閉じていると、やがてビアンカが再び部屋に戻ってきた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
749:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:26 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE146
コンコン・・・・
*「ねぇリュカ・・・起きてる?」
リュカ「・・・・なんだい。」
*「入るね・・・」
ガチャリ
ビアンカ「・・・・・」
ビアンカは服を着替えて部屋へ戻ってきた。
リュカ「なんだい、今度は夜這いにきたのかい。」
ビアンカ「リュカ、あなたっていつまでたっても子供ね・・・」
リュカ「・・・・」
750:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:27 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE147
服を着替えてきたビアンカの目は、涙をふきとったあとがうっすらと見えた。
今まで別室で泣いていたようだ。
それを見た私は急に自分がなさけなくなり、こっちまで泣けてくる思いだった。
リュカ「ビアンカ、さっきはゴメンね・・・」
ビアンカ「うぅん、いいの・・・」
リュカ「わかっているんだけど、どうしようもないんだ・・・」
ビアンカ「リュカ、人はそれほど強くはないのよ。私だって泣くし、あなただって泣くの。
でもそれが何だっていうの?」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「戦争があろうとなかろうと、人は誰だって必死に生きていこうとしてるのよ・・・」
リュカ「ビアンカ・・・・」
やがてビアンカはみつあみをほどき、ベッドに横たわっていた私の隣へ来た。
彼女は私の隣で横たわりながら、そっと話しかけてきた。
751:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:28 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE148
ビアンカ「リュカ、今のあなたの気持ちが私はわかるとはもう言わないわ。
でもあなただって私の気持ちがわかる?」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「愛する人のために生きていこうとする人もいるのよ、どんな家族だって
愛があったからこそ生まれた家族なんだし・・・」
リュカ「ビアンカ・・・」
ビアンカ「あなたのお母さんだって、好きでドイツ人として生まれたわけじゃないよ・・・」
リュカ「わかったよ、もういい・・・もういいよ・・・」
752:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:30 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE149
戦火の中で迎える私の少年時代、やがて迎える青年時代。
震えるビアンカの手を握りながら 背中にそっと手をまわしながら私は思う。
‘愛する者のために生きていこう’と。
戦場の時代でビアンカを抱いたそのぬくもりは、今でも私の心に焼きついている。
破壊の時代に生まれた私たちの愛 いつかきっとくる純白の明日を祈ることにした。
やがてこの年、1945年4月30日、ナチス・ドイツ軍 総統アドルフ・ヒトラー自殺。
指に‘水のリング’をはめたまま、頭部を撃ちぬいて死亡した。
母マーサが持っていたはずの‘命のリング’は発見されなかったそうだ。
753:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:31 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE150
歴史上ヒトラーは自殺とあるが、本当のところは身内によって殺害されたという説もある。
私はなぜかこの事件の裏に、母マーサが関わっているような気がした。
ちなみに父パパスを殺害したゲマ大佐は、ついに指輪を見つけることなく
1945年4月31日に味方のドイツ将校によって殺害される。
ソ連軍との激戦を繰り広げていたさなか、その指揮を執っていた最中に
背後からあっさりと頭部を撃ち抜かれたという。動機は不明。
ゲマを殺したドイツ将校の名は、ヨシュア・ローゼンヴェルグ大尉。
だがその殺害直後、彼もソ連軍の砲撃によって地に伏す。(第三章のエピソードより)
同年5月2日、ベルリン陥落 第三帝国の崩壊。
ナチス・ドイツ軍は完全に敗退し、ついに5月8日ドイツは無条件降伏。
――第二次世界大戦終結である。
.
754:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:33 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE151
ドイツが無条件降伏宣言をしたこの2年後、ビアンカが妊娠した。
結婚式を挙げたかったが、故郷サンタローズはまだ廃墟のままだったので
子供はサラボナの街で出産させた。
産まれた子供は双子の兄妹だった。
男の子のほうはティミー・グランバーグ、女の子はポピー・グランバーグと名づけた。
出産のちビアンカの体力が回復してから、私たちは赤ん坊を連れて
故郷サンタローズの街へ帰ることにした。
だがその道中、ついに私にとって最後の運命の出会いが待ち受けていた。
なんとソ連軍が捕らえたドイツ軍の捕虜の中に、母マーサを見つけ出した。
母は国境近くで50名ほどのドイツ兵とともにロシアの兵に捕らえられ、
ソ連の収容所へ移送されようとしていたところだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
755:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:34 EO4JwW6H
Σ(゚Д゚)<カアチャン!?
756:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:35 50K1Eh7d
∈(・ω・)∋
757:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:35 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE152
ポーランド 国境近くにて
リュカ「ねぇビアンカ、そろそろ代わってくれないかな。」
ビアンカ「何言ってんのよ、あなたパパでしょ。」
リュカ「でも二人も抱いてるから重くて・・・」
ティミー「バブバブ・・・」
ポピー「オギャー」
私たちが子供を抱いて、歩いてサンタローズの街へ戻っていたときのこと。
ダンカン「かわいいなあ、二人とも。おとうさんとおかあさんにそっくりだ。」
リュカ「そ、そうかな・・」
ビアンカ「サンタローズまではまだかなり距離があるわ、このぶんじゃあと一週間は
かかりそうね。」
リュカ「えぇ?一週間も赤ちゃんを抱いて歩くの?」
ビアンカ「ほらほら、早くしないと日が暮れるわよ。パパ。」
758:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:37 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE153
リュカ「あーあ、もうやんなっちゃうな・・・ん?」
ビアンカ「どうしたの?」
リュカ「ビアンカ、あれなんだろ。」
ビアンカ「え?」
そこには鉄条網で囲まれた捕虜用のキャンプがあった。
ダンカン「あぁ、ソ連軍に捕まったドイツ兵の残党だよ。」
リュカ「・・・・・」
~~~~~~~~~~
ソ連兵A「{持ち物を全て出せ。}」
マーサ「{これで全部です・・・}」
ソ連兵A「{なんだこの指輪は?}」
マーサ「そ、それは・・・!」
ソ連兵A「{おい、この指輪は没収しておけ。}」
ソ連兵B「{了解。}」
マーサ「うぅ・・・・」
~~~~~~~~~~
759:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:38 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE154
そこにいた50名ほどのドイツ兵の中に、たった一人だけ女性の捕虜がいた。
ビアンカ「女の人までいる・・・」
ダンカン「怖いねぇ、女のナチか。」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「リュカ、早く行こうよ。」
リュカ「ま、まって・・・まさかあれ・・・あの人・・・」
ビアンカ「どうしたの?」
私は母の顔は知らない、だが不思議なことに私はその女性が母マーサであることが
なぜかひとめ見てわかった。
760:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:39 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE155
リュカ「ま、まさかそんな・・・そんなバカな・・・!」
ビアンカ「ど、どうしたのリュカ!」
リュカ「か、母さん!」
私は鉄条網の向こう側にいる母に向かって叫んだ。
リュカ「か、母さん!あなたが母さんだよね!そうでしょ?!」
ソ連兵A「{おい、なんだあいつは。}」
ソ連兵B「{なんかこっちに向かって叫んでるぞ。・・・おい女、お前の知り合いか?}」
マーサ「え・・・」
リュカ「母さん!ボクだよ!リュカだよ!」
マーサ「・・・!(リュ、リュカ・・・!)」
まさかこんな形で出会うとは思わなかった。
あまりにも残酷な再会、そして悲劇の運命だった。
761:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:40 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE156
リュカ「ね、ねぇ母さん!なんとか言ってよ!ほ、ほら見てこの子!ボクの子だよ!
ねえ!母さん!」
マーサ「う、うぅ・・・!」
母は必死に泣きそうなのをこらえながら、こっちを見ようとしない。
ソ連兵A「{おい女、あいつはお前の身内か?}」
マーサ「{い、いえ・・・}」
鉄条網の向こう側にむかって叫ぶ私を、母は無視するだけだった。
リュカ「ど、どうしてこんなとこに・・・待って母さん、ボクが何とかする。」
マーサ「(だ、だめ・・・お願いだから向こうへ行って・・・)」
762:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:42 0olQCRLU
ソ連兵A「{おいお前、何をしている。}」
リュカ「すみません、この人はボクの母なんです。お、お願いです、どうか助けてあげて
ください。このとうりです!」
ソ連兵A「{向こうへいけ、このドイツ人たちはソ連へ移送される。}」
リュカ「お願いです!この人を助けてください!お願いします!」
マーサ「(う、うぅ・・・リュカ・・・お願いだから行って・・・)」
言葉の通じないソ連兵に、私は必死で無駄な説得を続けた。
頭を地につけて土下座しながら私は必死に頼んだ、彼女を助けてあげてくれと。
763:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:43 0olQCRLU
だが鉄条網の向こうにいる母は、涙を流しながら私に言った。
「私はあなたの母などではない 赤の他人だ」と。
それでも私は叫んだ、叫び続けた。
「ようやくあなたを母さんと呼べるようになったんだ。」と。
「あなたの孫の顔を一度だけでもいいから見て。」と。
私は声が枯れるまで鉄条網の向こう側にいる母マーサにむかって叫び続けた。
母は涙ながらに訴える。「あなたなんて知りません 人違いです。」
だが私にはこう聞こえる。「本当にごめんなさい 幸せになってね。」
764:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:44 0olQCRLU
やがて母はソ連の捕虜収容所へ移送され、このときを最後に私は二度と母とは会えなかった。
私がこの世に生まれて 最初で最後の 母との会話だった。
そして1950年 母マーサはソ連捕虜収容所で銃殺されたとのこと。
遺体は焼却されたが、指輪と一緒に遺骨の一部を回収させてもらい、故郷サンタローズへ持ち帰る。
今私の手元にあるのは父の形見‘炎のリング’そして母の形見‘命のリング’。
私とビアンカの結婚式にはこの指輪は使わなかった。
これはもともと両親のもの、いつか父と母のお墓へ戻すと決めていた。
ようやく私たちがサンタローズの街へたどり着いたのは、これより一週間後のことだった。
そしてこの6年後、私とビアンカのささやかな結婚式を挙げることとなる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
765:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:46 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE157
1953年 春
サンタローズの街
ティミー「おとうさーん、おかあさーん。早くしないと式はじまっちゃうよー。」
ポピー「まったくおそいんだから、二人とも。」
リュカ「ご、ごめんごめん。あ、ビアンカ、ショール持った?」
ビアンカ「え、えっと・・・あるわ!大丈夫!」
リュカ「じゃ急ごう!式がはじまっちゃうよ!」
ポピー「おとうさんサイフ持った?」
リュカ「え、あ・・・しまった!忘れてた!」
ビアンカ「早く早く!急いで持ってきて!」
リュカ「わ、わかった!」
766:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:47 0olQCRLU
ティミー「あーあ、やんなっちゃうよなー。」
ポピー「ほんと、まったくグズなんだから。」
ティミー「でもさ、なんで結婚する前にぼくたち生まれたんだろ。」
ポピー「ばーか、あれよあれ。できちゃった結婚ってやつよ。」
ティミー「そっかぁー、やることは早いんだね二人とも。」
ポピー「ほんとよね、ふだんはグズなくせして。」
ビアンカ「な、なんてこと言うの二人とも!どこでそんな言葉覚えてきたの!」
ティミー「あはは!逃げろ逃げろ!」
ポピー「きゃはははーーー!」
ビアンカ「こら!待ちなさい!」
767:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:48 0olQCRLU
私たちの未来に ようやく春がおとずれようとしていたこの年。
希望に満ちた純白の明日は 矢のように年月は経ち 60年の歳月が流れた。
たった一つのかけがえのない 家族というものを築いて・・・・
最終章 ~純白の明日~
完
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
768:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:49 50K1Eh7d
。・゜・(ノД`)・゜ マーサ
769:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:49 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE158 ~エピローグ~
――そして現在へ戻る。
2004年 7月
ポーランド 南の田舎町の墓地にて
老人は孫を前に語り終えると、一息ついた。
リュカ「ふぅ・・・・」
アダム「・・・・おじいちゃん、つらい思いをしてきたんだね。」
リュカ「うむ、でも今は違うぞ。かわいい孫もいるし、息子たちもいる。」
アダム「うん。」
リュカ「アダム、お前はお父さんとお母さんは好きか?」
アダム「当たり前じゃんか。」
リュカ「そうか、それはよかった。」
770:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:51 EO4JwW6H
長編乙ですた。
マーサー・・・せつねぇ・・・・
771:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:51 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE159
アダム「あ、でも・・・ときどき学校のテストの点が悪かったりするとすごく怒るよ。
そういうときは嫌いだな。」
リュカ「はっはっは、そういうときもあるだろうな。」
やがて息子と娘がようやく墓地へやってきた。
息子は車イスに乗った老婆を押していた。
ティミー「いやー、ようやく着いたか。」
アダム「おそいよー、何してたんだよティミー伯父さん。」
ティミー「ははは、すまんすまん。駐車場が込んでたもんでな。」
ポピー「アダム、いい子にしてた?」
アダム「あ、ママ。」
772:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:52 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE160
ポピー「ちゃんとおじいちゃんのお手伝いした?」
アダム「したよ、ちゃんとお墓にお花もそえたよ。」
ビアンカ「アダムや、ごほうびにお菓子を買ってきたよ。」
アダム「やったー!おばあちゃんありがとう!」
ビアンカ「あんまり食べ過ぎちゃだめですよ、ママにしかられるわよ。」
アダム「はーい。・・・ところでおばあちゃん足の具合どう?」
ビアンカ「大丈夫よ、今日は天気もいいから具合がいいわ。」
グランバーグ一家はこのとき一ヶ月ぶりに再会した。
ビアンカは足の具合が悪く、車イスのまま墓参りにきていた。
大人になったティミーとポピーが墓参りをしている間、
やがて老婆のビアンカは老人のリュカのそばへやってきた。
773:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:54 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE161
ビアンカ「あなた、指輪は・・・」
リュカ「あぁ、お墓の中に埋めたよ。」
ビアンカ「そう・・・」
リュカ「もう私たちには必要ないからな。」
ビアンカ「あれからもう60年になるのね・・・」
リュカ「そうだな、時代も変わった・・・」
ビアンカ「そうですね、あの時代のときよりもはるかに文明が栄えましたねぇ。」
リュカ「うむ、変わりすぎてワシらではとうてい追いつかん。」
ビアンカ「でも、いつまでも変わらないものもあるわ。」
リュカ「ほぅ、なんだね。」
ビアンカ「家族よ、私たち家族の絆があるわ。」
リュカ「そうだな・・・家族か・・・」
暑い日々が続くポーランドの7月、空は雲ひとつない晴々とした青空だった。
774:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:55 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE162
ティミー「さぁ、お墓参りも終わったしそろそろ戻ろう。」
アダム「伯父さん、今日は遊園地に連れてってくれるんだよね。」
ポピー「あら何よ、そんな約束したの?」
ティミー「ははは、そういやすっかり忘れてたなぁ。」
アダム「なんだよ、約束したじゃないかー。」
ティミー「わかったわかった、とりあえず下山しよう。・・・お母さん、車イス押してあげるよ。」
リュカ「あぁ待ってくれ、ばあさんは下まで私が押していく。」
ビアンカ「あら、どういう風の吹き回しかしら。」
リュカ「お前の車イスを押すぐらいの力はまだ残っている、心配せんでもいい。」
ビアンカ「うふふ、はりきりすぎるとまたギックリ腰になりますよ、おじいさん。」
リュカ「バカにするな、こう見えても私は・・・」
ポピー「はいはい、お二人さん。もうそのくらいにしてそろそろ行きましょう。」
アダム「ねぇ早く早く!遊園地いこうよ!」
775:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:56 0olQCRLU
戦場の花嫁 PAGE163
すさんだ時代を生き延びてきたが、それでも私たちは一つの家族を築くことができた。
だがどのような時代でも、人はやはり生きていくことを誇りに持つだろう。
私たちにとって名のある高価な指輪なんていらない。
家族という名の絆のリングがある。
生きていくことが大事、家族というものが宝物。
私にとっては これだけで充分生きる理由が成り立っている。
残りわずかな余生 されどかけがえのない人生。
人は遅かれ早かれ いずれ死を迎える。
776:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:57 0olQCRLU
だが人生の出会いの中で その愛が芽生えれば そこに新しい家族ができよう。
命に終わりはあっても 家族に終わりはない。
それは希望に満ちた 終わりなき未来であろう。
戦場の花嫁
完
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
777:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 15:58 EO4JwW6H
ってまだエピがあったーーーー!
すんませんすんません・・・・
改めて乙でした。
最後ほのぼの家族になれてよかたー・・・。・゚・(ノ∀`)・゚・。
778:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:58 0olQCRLU
<おことわり>
本作で登場した人物、ナチス=ドイツ軍のアドルフ・ヒトラー及びゲッベルス大臣。
この二人以外はドラゴンクエスト5に登場するキャラクターを引用したものです。
実在する人物とは何の関係もありません。
物語のストーリーも架空でありフィクションです。
また、舞台となったポーランドにおいても、ワルシャワをモデルとした
サンタローズという架空の街です。その他のサラボナなどもドラゴンクエスト5から
引用したものです。そのような街は存在しません。
ただしアウシュヴィッツ収容所は実在したものです。
ちなみにこのアウシュヴィッツ収容所の「ガス室」については
当時の関係者の証言だけで、実際にそのような毒ガスを装備したガス室が
あったかどうかは未確認だそうです。
ユダヤ人大量虐殺においても、本作で出したような殺人シーンはあくまで架空の話です。
実際に起こった虐殺はこのようなものではなく、もっとひどいものだったそうです。
第二次世界大戦によって、たくさんの犠牲者を出した全ての人々にご冥福を祈ります。
779:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 15:59 0olQCRLU
戦場の花嫁 <登場人物>
リュカ・グランバーグ
ビアンカ・アンドリュース
パパス・グランバーグ
ティミー・グランバーグ
ポピー・グランバーグ
アダム・グランバーグ
ヘンリー・ラインハット
マリア・ローゼンヴェルグ
フローラ・カルバート
ルドマン・カルバート
ダンカン・アンドリュース
サンチョ・ゴブリン
ゲマ大佐
ジャミ中尉
ゴンズ中尉
ヨシュア・ローゼンヴェルグ大尉
マーサ・グランバーグ
アドルフ・ヒトラー
ゲッベルス大臣
780:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 16:00 50K1Eh7d
GJでした。長編でしたが楽しませて読ませていただきました。
ただ主人公の性格が変わりすぎたのはビックリでした。
781:鬼畜兄貴@あとがき ◆6VG93XdSOM
04/03/05 16:01 0olQCRLU
現代版の「指輪物語」があるとしたら、ドラクエの世界で
それが生かせないだろうかと思って書きました。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」とはまるっきり違いましたが。
過激な暴力シーンが多いところから、「シンドラーのリスト」や
「戦場のピアニスト」のほうがかえって近い雰囲気を持っているのかもしれません。
ドラゴンクエスト5のストーリーの流れに乗せながら、第二次世界大戦を舞台に
描くというのは、難しいようでそうでもなかったように思えます。
なぜならドラクエ5はもともとこの戦争に近いようなテーマを感じる気がしました。
今回のテーマは‘家族’と‘生きる’といったとこですが、ドラクエ5も
同じようなテーマだと思います。
笑えるようなシーンはほとんどなく、全編にかけてシリアスものに挑戦しましたが
こういう話に少しでも共感してくれる人がいたらいいなと思います。
しかし決していい話だとは思ってませんし、戦場の時代に生きたこともない自分は
戦争というものがどういうものかわかってないし、戦争について語れるほど知識もありません。
自分としては歴史の勉強が少しできただけでも、書いた価値があったと思ってます。
読んでくださったかたがた ありがとうございました。 書き込みを協力してくれた
人たちに感謝です。
782:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 16:05 0olQCRLU
オワリ
783:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 16:07 50K1Eh7d
>>781
乙でした。今までにないパターンだったし大変興味深かったです。
最後はほのぼの感でえがった。
ヽ(´ー`)ノ
784:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 17:41 vi09853h
この話で、DQのキャラを使う必然性って何?
785:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/05 20:51 Srp3jQVm
>781
なるほど、この内容は萌えスレ向きじゃないでしょうね。
大作、乙でした。
786:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 22:44 EcQ65yql
>>784
DQ5好きの想いが高じて自分にこの話を書かせるに至った、ということではないでしょうか
787:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/06 03:16 D/8AtCnK
>>784
俺も途中まではそう思っていた。
だが、最後まで見てたらそんなのどうでも良くなってきた。
最後に、この言葉をKさんに。
「お疲れさま、ありがとう」
788:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/06 07:37 teDF/9o2
萌えとかは関係無しに、非常に良かったよ。こんなのは初めて見た。
DQ5のストーリーとナチスの話を重ね合わせるという離れ技にびっくりした。
話の流れや登場人物の配役に違和感が無いのにもびっくり。
Kさん、長編お疲れ様でした。ありがとう!
789:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/06 08:28 SATgEZ0X
>ビアンカ「大きな声で‘ハイル ヒトラー’って言うの。やってごらん。」
>リュカ「ハイル ヒトラー!」
ここだけは萌えた(w
ナチヲタ大喜び
790:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/06 15:45 gwW1VmuF
>>784
強いて言えばDQ5は家族がテーマの一つだからじゃないかね。
#ヒトラーはイブールでもよかったのではとも思う。
791:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/06 20:03 xM9SSlEO
Kさん、昨日、リアルタイムで読ませていただいてました!
なぜかアク禁になっていた為、支援できず(泣)申し訳無い。
現代版?DQ5でしたね!
感動しました(゚∀゚)
792:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/06 23:18 YxgcfasV
すごくよかったよ(・∀・)イイ!!
793: ◆qeFFDQ/roc
04/03/09 01:44 kDnZnGg5
>ラトームさん
やっぱダメだったかー( ̄ε ̄)>サバイバ
まあシャレなんで怖がらんでくださいw
794:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/12 02:36 PCtRZqoE
保守
795:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/12 22:45 ps/ew6Hg
>>793
おひさしぶりです。
あれを読んで怖がらない人は少数派では (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
今度は怖くないものをきぼん……。
796:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/16 07:40 2Feyd2wC
3日に1レスの人が来ない…
797:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/16 19:07 Vcb/N9aJ
あげ
798:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/16 19:15 ryVyQn+G
>>796
叫んでみよう。きっと来てくれるはずさ。
(ノ゚Д゚)ノ カコイイホシュマッテルヨー
799:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/16 21:51 l1J/S6wN
応用編
たぶん七日バージョンでくるんだと思うね
800:K ◆6VG93XdSOM
04/03/17 02:29 yRNWMHle
sinnsurega tattara atarasiinokaite nokketemo iidarooka
801:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/17 19:59 iJbv6I1o
ひっさびさに千一夜サイト、更新しました。
容量増加依頼がやっと通りましたよー。何か手違いがあったそうで、料金サービス
してもらいましたヽ(´∀`)ノ ワーイ
アグスレ、千一夜前スレ、恋するFF小説スレ、本当はクリアリが好きスレからで
合計29本。今までの累計は518本になったようです。目標までの折り返しに達し
ましたね。あと何年くらいで目標に達するのやら。
URLリンク(www3.to)(ブックマークはこのページにお願いします)
保守人な方を初めとして、皆様いつもありがとうございます~。
>>800 次回作ではもう少し空白行を少なくしてレス数を減らしていただいた方が
読み易いのですが…。upするのも大変でしょうし。こう感じたのは私だけかな?
作品は楽しみにお待ちしていますです。
もしかして801ゲト?
802:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/17 20:10 iJbv6I1o
あと、ログも更新しています。
エロパロ板が人大杉でログを拾いにくくなっていたりするのですが
どうしましょう、と思いつつ。
宿題はまだ終わっていないので、しばし更新モードになる予定…です。
いつも予定は未定ですみませんが。
803:雫夜 ◆sizukTVGK.
04/03/17 21:57 roHvCkEQ
>ラトームさん
更新乙(*^д゚)bです。
SSの作者名なのですが、FFT『ライオネルの小唄』は雫夜ではなく、鈴さん作です。
訂正お願いします。
804:昼寝士 ◆BIdtzyaiEw
04/03/17 22:35 YBuatuEL
更新お疲れさまでした。そろそろこちらも溜まってるログ整理を再開しようと思います。
ところで、サイトの方でテンプレ作り直しの話が出ていましたが、特に作り直す
必要はないように思いますが……
805:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/17 23:17 iJbv6I1o
>>803
訂正しておきました。スミマセン
>>804
注意書き部分の訂正がちょっと気になっているのです。フォルダ名には
日本語を使わないでください程度かな。
テンプレ自体も、検索ロボットよけタグを入れようかと思ってますが。
訂正といっても其の程度です。
ただ、長篇テンプレ含めて一気にダウンロードできた方が良いだろうと
思うと、作り直した方が便利なのかな、と。
806:K ◆6VG93XdSOM
04/03/18 01:53 45zJogs5
改行にこだわりがあるのでこのけいしきは変えられないや
つめると逆に読みにくいと思ってるんですよ。
しかたない ほかでアップしよう
807:K ◆6VG93XdSOM
04/03/18 02:12 45zJogs5
…←これ初めて学んだ たしかにこっちのほうがぜんぜんいい。
・・・←これずっと前からすごくやだったので勉強になた
808:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/18 02:40 o0KbHNNy
>>801
∧_∧
オツカレチャ━━━(´∀` )━━━ソ!!!!!
/ ヽ
/ 人 \\ 彡
⊂´_/ ) ヽ__`⊃
/ 人 (
(_ノ (_)
809:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/18 14:48 3U1skcpJ
この板で専ブラ入れてる椰子はいないのか…
810:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/18 16:24 LTtA0zr5
どういうことですか?>>809
811:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/18 23:28 lCneaMRR
>K ◆6VG93XdSOMさん
別に私が空白行が気になるだけですので(それについて他の方の
賛否は特に書かれてないですし)無理にほかでアップしようと思われなくても…
と思いますが。
>>809
? 専ブラ使いですが何かありましたか??
812:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/19 01:31 n3csk0Co
>ラトームさん
更新お疲れさまでしたー!
保管人の皆様もお疲れさまです。
すみません、訂正をお願いしたい箇所が……。
「今は居ぬ犬、今そこに居る君」がギコガードさんの作品で、
「A dog meets boys」と「惑いの城」が拙作になります。
あと、「ある部屋での出来事」もギコガードさんの作品だったと
思います。
ちなみに、「女の子組談話室」も実は拙作だったり……。
あ、これは直さなくて全然構わないのですが。
保管対象になるとは思ってなかったので、今回見つけて
驚きました(更新時は見落としていたようです)。
ただでさえSSが膨大なのに、あんな即興ネタまで。
ありがとうございます。
813:ナナシクラゲ ◆Sj469/wPAw
04/03/19 02:12 n3csk0Co
あわわわ、名乗り忘れました。
812はナナシクラゲでございます。
814:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/20 19:06 88c8rk0I
>ナナシクラゲさん
スミマセン! あとで訂正を入れておきますm(._.)m。
女の子談話室の作者も訂正しておきますね。
815:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/24 05:17 /9+h0DfR
4日に1レス。これ応用。
816:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/25 18:56 ZwFF8VnH
キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・* !!!!! >3日に1レスの人
817:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/25 18:58 2vj5uOHS
>>816
違いますよ。
818:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/25 21:16 BcT8Xt0c
>>815-817
ワロタ
819:K
04/03/26 04:18 KFcCbv6I
新しいのが完成したのでupするまえに宣伝しにきました
このスレは1000近いからこの↓クソスレを再利用しようかとおもいます
スレリンク(ff板)l50
また前みたいにちょっと長いので、リアルタイムで書き込みを手伝ってくれる人を
募集したいです。upは28日の夜11時ごろからスタートします。(日にち変更可能)
その時間帯にもし誰かいれば、良ければ誰か一文字でもいいのでよろしくおねがいします
今回はDQ4を使ったネタです