FF・DQ千一夜物語 第413夜at FF
FF・DQ千一夜物語 第413夜 - 暇つぶし2ch550:悪
04/02/23 10:10 FhmRWQZk
魔獣カイナッツォは、巨大な亀の本性を隠して玉座に座る。
自分の千年の知恵をもってすれば、王国の統治は容易いという自信はあったが、
そのような指令は受けていなかった。軍を用い、『クリスタル』なる宝物を探せばよい。
バロン国王なるカイナッツォは、政事をかえりみず殺戮に走り、
国土は荒廃し国民は退廃した。

こうして利用される人間というのは憐れだ。カイナッツォは憐れをもよおしたが、
だが考えてみれば、人間がどうなろうとおれの知ったことではない。
憐れな連中をいたぶってみるのも面白いかもしれず、
そのようなとき、カイナッツォは城下に出、市民をさらって食った。

このように短絡するあたり、やはりおれは邪悪な化け物なのだ。
口許の血を拭いながら、カイナッツォは考える。
だが考えてみれば、人間に邪悪呼ばわりされたところで、おれは痛くも痒くもない。
化け物の行動の決定因は、究極的には「面白いか、否か」でしかありえないのだ。
愉悦に浸りながら、カイナッツォはどこか暗澹としたものを覚える。

この国の王にしても、殺すつもりなどはなかったのだ。
あの老人が、あまりに激しく抵抗したから
つい、食べてしまっただけで…。死ぬとは思わなかった。


551:火
04/02/23 10:12 FhmRWQZk
「彼には土地勘もあれば人望もある。一筋縄ではいかない」
豪奢な真紅のマントを翻し、騎士は言った。

金で縁取られた壮麗な鎧は、どこかの国の将軍といったところ。
表情を殺した冷徹な視線、ゆるぎない長身、
少ない口数と油断のない慎重さの後ろに、絶大な自信をカイナッツォは見て取る。

「このバロン城は、世界でもっとも堅固な城だ。彼が現れたところで、
絶対に破ることはできない」

「正面からは、な」
玉座に鋭い一瞥を投げ、騎士はカイナッツォに背を向けた。
大理石の床にかつかつと鉄靴が響く。
カイナッツォはいまだ、騎士の名前を思い出せずにいた。
「カビ、ルン…ルン」

去りかけた『火のルビカンテ』の足がぴたりと止まった。
振り返らない。しかし、じわりと室温が上がった。

「警告はした」
声に静かな怒りを込め、赤の騎士は去った。カイナッツォは嘆息した。


552:風
04/02/23 10:14 UbYipyQJ
「聖騎士の力を侮ってはならない」
妖女は控えめに警告した。

高く結い上げた髪は白金にきらめき、光を宿して、ゆるやかに巻きながら流れ下る、
さながら渦を巻く風。やさしげなまなざしの奥には情熱を秘め、
知的に成熟した容貌の中にも、乙女の風情を失わずある…。
と、カイナッツォは女を観察した。関心は湧かない。

「青き星の人間に、おれを殺すことはできないのだ。彼が現れたら、
逆に食い殺してみせよう」

「彼は只者ではないぞ」
かすかに眉を寄せ、穏やかに告げる女を、カイナッツォは玉座から見下ろした。
ドレスを透かし、尖った胸からくびれた腰へ、女の曲線をなぞる。
フンと鼻を鳴らしたとき、女の名前を思い出した。
「…バリバリ、シワ」

『風のバルバリシア』は柳眉を逆立てて怒った。
「この忌々しい爬虫類! そんな口を二度きいてご覧、ずたずたにしてやるから」

後ろに控える侍女らしき三人が必死に抑え、なだめすかす。
妖女は憤然と腰を振りながら去っていった。カイナッツォは玉座に身を沈めた。


553:魂
04/02/23 10:17 UbYipyQJ
死んだ「本物」のバロン王が、亡霊となって出没するという。
よろよろと現れたベイガンは、両手を示し、カイナッツォに泣きついてきた。
「洗っても洗っても、血が落ちないのです!」

カイナッツォの目には血など見えなかったが、
ベイガンはハンカチで神経質に手を擦り続けた。
カイナッツォは玉座から、親衛隊長を不快に見下ろした。

「お前とて既に人間ではない。引き返せない道を、お前は選んだのだ。
最初から分かっていたはずだ」

「ああ、私は悪魔に魂を売ってしまった!」
何をいまさら、とカイナッツォは思った。
手を振ってベイガンを追い出す。一匹になりたかった。

「やつが来る…やつが来るぞ!」
ひひひ、とベイガンの狂気じみた笑い声が回廊に響いた。

(亀 おわり)


554: ◆2CDckY/JG6
04/02/26 09:31 YJ66sH26
3日に1レス。これ基本。

555: ◆2CDckY/JG6
04/02/29 08:56 SMX8nLyw
3日に1レス。これ基本。

556:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/01 14:24 Oqy0i4k3
ほし

557:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/03 18:01 vWN1rP/i
保守あげ

558:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/03 19:01 6UlqU3mU
アレ許はどうなった?

559:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/03 20:16 lOpnyuFi
神のサイト発見
URLリンク(senyaaru.fc2web.com)

560:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/03 22:25 biKuhjlJ
>>558
 アレ許って何??

561:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/03 22:38 Kvd7B+nx
>>558
>>560
URLリンク(www.angelfire.com)
荒しのせいで中断したらしいです。

562:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/04 23:32 G/TB4TGB
スレリンク(gline板:332-番)
SS板を作るかどうかで議論してた模様

563:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/05 01:10 7GxX6hih
 全レスはうざいかなーと思ってスルー気味になってますが、見てますー。
鯖の増量申請はまだ通らない模様……。

>>562
 見てきました。comic系の人が中心になって話が進んだようですね。
もともとFFDQは萌えスレ系でのSSもそれほどアンチはいないようだし、
格別にその板に引っ越しする必要はないようです(SS系は全てその板に
引っ越してこい、ということではないようですし)。

 ええと、544からのザ・サバイバーは保管しません、ごめんなさい。
怖すぎます (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

564:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 03:00 tCdkuips
ここに一本アップしてもいいですか。
DQ5ネタのSSです。
okが出ればのせようと思います

よろしくおねがいします

565:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 03:02 MbD6hnL0
ジャンルによる
主人公中心→5主人公萌えスレ
ビアンカ→ビアンカ萌えスレ
フローラ→フローラ萌えスレ
その他ならこのスレでも構わないと思ふ

566:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 03:06 tCdkuips
萌えという類のものはほとんど無いと思います
シリアスものです。
ビアンカやパパスなども出てきますが主人公は5の主人公です

567:ラトーム ◆518LaTOOcM
04/03/05 03:16 7GxX6hih
>564さん GOGOですよー。
 別にOKをもらわなくともSSを書いて構わないスレだと思っていたんですが
違いましたっけ?
 あと、各々の萌えスレに書きにくい事もあると思うので(もともとそのスレ
住人じゃなかったり、スレによってはSSを歓迎しないかも?ですし)該当キャラの
萌えスレがあっても、こちらに書いても構わないのではないかと思ってますが。
 まあ、キャラを不要に貶めたりして荒れるような事は勘弁願いたいですが。
そういう事になるのはSSの内容そのものじゃなくて、それに関する感想とか、
あとがき次第ではないかと思いますから。その辺は気を使っていただきたいかな。

 眼が覚めたのは564さんに呼ばれたのかな。不思議な感じ。


568:鬼畜兄貴 ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:21 tCdkuips
では久しぶりにDQ板にアップさせてもらいます

569:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:33 tCdkuips
      ~プロローグ1~





   2004年 7月 ヨーロッパ ポーランド





とある南の町はずれの山道にて―――



アダム「おじいちゃん、ほらもうすぐだよ。」

リュカ「アダム、もう少しゆっくり行ってくれんか。」
アダム「おじいちゃん、もう疲れたの?」

リュカ「うむ、歳のせいか毎年お墓参りに山へ登るのも楽ではなくなったな。」
アダム「あーあ、ママたち何やってんだろ、まったく遅いんだからなー。」

リュカ「二人は車を停めてから後からくる、私たちで先に行ってくれと言っておったぞ。
    ばあさんも最近は足が悪くて車イスでないと無理だからな。」
アダム「そう、じゃ早く行こうよ。おじいちゃん。」

リュカ「わ、わかったわかった・・・そうせかさんでくれ。」

.

570:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:35 tCdkuips
      ~プロローグ2~


アダム「ぼく初めてだよ、おじいちゃんのお父さんとお母さんに会いにいくのは。」

リュカ「そういえばそうだったな、お前にとってはひいおじいちゃんだよ。アダム。」



木漏れ日のまぶしい7月末、暑い日々が続く毎日。
ある一人の老人とその孫が、田舎の町はずれにある墓地へ墓参りに来ていた。



リュカ「ほらごらんアダム、これが私の両親が眠っているお墓だよ。」
アダム「ふーん・・・」



雑草が生い茂った墓には、こう記されてあった。

‘パパス・グランバーグ&マーサ・グランバーグここに眠る’

.

571:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:36 tCdkuips
      ~プロローグ3~


リュカ「わがグランバーグ家は代々このお墓に眠る、私も老い先みじかい命だ。
    もうじき父と母のもとへ・・・」
アダム「いやだよ、今からそんなこと言わないでよ。おじいちゃん。」

リュカ「ははは、これはすまん。」
アダム「ぼくたち家族でしょ、いつまでもずっと一緒だよ。」
リュカ「家族か・・・・」

アダム「そうだよ、家族じゃんか。」
リュカ「そうだな。・・・さぁ新しいお花を添える前にお墓の周りの草むしりをしよう。
    アダム、お前も手伝ってくれ。」

アダム「はーい。」



その老人と孫は墓の周りの草むしりを終えたのち、新しい花を添えた。



リュカ「あれからもう60年か・・・年月というのは矢のように過ぎていくものだ。」
アダム「ふーん・・・」

572:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:37 tCdkuips
      ~プロローグ4~


リュカ「今日私がここにあるのは、今まで大切にしてきた家族という宝物があってこそ。
    アダム、お前にはまだ全ては理解できんかもしれんがな。」

アダム「そんなことないよ、だってぼくのお父さんやお母さんは大切だもん。」

リュカ「その通りだな。・・・だがなアダム。家族というのは、いて当たり前、父や母は
    いて当たり前という考えにもなりかねん。失ったときのことを考えたことはあるか?」

アダム「そんなこと考えたこともないよ、だってお父さんやお母さんは元気だし。」

リュカ「私の幼いころはその逆だったのだよ、家族が明日にでも失ってしまうかもしれんという
    恐怖の中で生まれ育った・・・。」
アダム「・・・・・」

リュカ「あのようなすさんだ時代は二度と来ない保障はない。戦争という時代において
    私にとって何よりも大切だったのは、家族というものだけだった。」



老人はそう言うと、内ポケットから二つの「指輪」を出した。
.

573:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:45 tCdkuips
規制がひどすぎて全然載せられない
誰か手伝ってもらえませんか

574:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:50 tCdkuips
連投の規制が激しくて全然進みません。冒頭でもうアク禁寸前です
何でもいいから誰か書き込んでくれれば・・

575:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:53 tCdkuips
      ~プロローグ5~


アダム「おじいちゃん、その指輪どうするの。」

リュカ「今日はこの二つの指輪を私の両親に返しにきたのだよ、私にはもう必要ないのでな。」
アダム「えぇ?もったいないなぁ・・・」

リュカ「ははは、確かに今でも相当な値打ちがあるかもしれんな。だがこれはもともと
    この二人のものなのだよ。」



老人は二つのリングを墓の前に置き、目を閉じて祈った。



リュカ「・・・・・・・」

アダム「ねぇねぇ、おじいちゃんの生まれたとこってどんなところだったの?」
リュカ「うむ・・・」

アダム「ぼくの街のように美しいところだった?おばあちゃんとの出会いってどうだったの?」

リュカ「・・・・・」
アダム「ねぇ教えてよ。」
リュカ「そうだな、じゃあお前にも話しておこう。」


576:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:54 tCdkuips
      ~プロローグ6~


やがて老人とその孫は、墓のそばにあるベンチへ座り込んだ。



リュカ「私たち親子が住んでいた街は、今のような平和な時代ではなかったのだよ。
    来る日も来る日も地獄のような毎日だった・・・。アダム、お前があの時代に
    生まれなくて本当に良かったと思う。」

アダム「そうなんだ・・・」



リュカ「これは指輪をめぐる私の家族にまつわるお話といってもいい。親から子へ渡され、
    そして再び子から親へ。この指輪をながめていると、あのころの時代が今でも
    目にうかぶようだ・・・・」



雲ひとつない晴れた青空の木陰のもと やがてその老人(リュカ)は


                自分の孫に その生い立ちを語り始めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

577:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 03:56 tCdkuips





      戦場の花嫁




.

578:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:00 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE1


  第一章  ~赤い糸の幼年時代~




――私がまだ幼かったあのころ 今から60年以上も昔の話だ。



1939年 9月 ヨーロッパ ポーランド


第二次世界大戦が始まるこの年、英国政府やフランス軍が宣戦布告したのにもかかわらず
わがポーランド国はナチス・ドイツ軍による勢力がますます増強する一方だった。
そんな時代に生まれた自分を不幸だと呪ったのはまだ先のこと。

当時私は10歳、ドイツ語どころか英語すらもまだよく読めない年頃だった。



パパス「父さんはちょっと用があって出かけるが、あまり遠くまで行くなよ。
    遊ぶならそのへんの近所で遊びなさい。」
リュカ「はーい。」

579:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:01 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE2


パパス「それからドイツ兵を見かけたらおじぎをするのを忘れるな。やつらは私たち
    ユダヤ人に対して容赦しない、子供のお前といえどくれぐれも気をつけるんだぞ。」
リュカ「うん、わかった。」



私が生まれ育った街の名はサンタローズという。

だがこの街は貧困の差が激しく、ドイツ軍の領域のもとでは生きていくだけが精一杯だった。

同胞が無差別に殺されていく私の幼年時代、その暮らしは過酷をきわめていた。
街では機関銃を持ったドイツ兵がウヨウヨいる中、生きた心地もしないこの時代に
私と幼なじみのビアンカは、いつものように二人で遊んでいた。



リュカ「ビアンカ、その本どうしたの?」
ビアンカ「新しいご本よ、いいでしょ。」

580:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:03 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE3


リュカ「ボクも見たいな、読ませてよ。」
ビアンカ「だめよ、あなたにはまだ早すぎるわ。」
リュカ「どうしてさ。」

ビアンカ「だってあなたまだドイツ語が読めないでしょ。」
リュカ「キミは読めるの?」
ビアンカ「当たり前でしょ、わたしは12才だからあなたより二つもおねえさんなのよ。」



彼女の名はビアンカ・アンドリュース

ビアンカは私にとって友達であり、姉のような存在でもあった。
いつも私に絵本を読んでくれたり、ときにはお化け屋敷に一緒に行ったこともある。
だが彼女はときおり良からぬことも幼い私に教え込んでいた。



ビアンカ「右手をこうやって上げて・・・そうそう。」
リュカ「で、どうするの?」

581:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:05 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE4


ビアンカ「大きな声で‘ハイル ヒトラー’って言うの。やってごらん。」

リュカ「ハイル ヒトラー!」

ビアンカ「そうそう、あなたユダヤ人だからドイツ兵にからまれたときは必ずこれをやるのよ。」
リュカ「ビアンカ、これ何なんだい?」
ビアンカ「知らないけど、これをやらなかったユダヤ人がドイツ兵に撃ち殺されたのを見たのよ。
     いい?ちゃんと覚えるのよ。」

リュカ「うん、わかったよ。」



意味もわかってないのに、私は‘非国民同然の行為’を自分の身を守るために覚えたのだ。
のちに父からこっぴどく叱られたが、それでもなぜ怒られたのか当時は理解できなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~

582:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:10 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE5


パパスの家にて


サンチョ「さぁさぁ、夕食の用意ができましたぞ。」

パパス「リュカ、テーブルに食器を並べなさい。」
リュカ「はーい。」



当時の食事といえば、パンと野菜のスープぐらいがかなりのごちそうだった。
召使いのサンチョが夕食を作り、私がテーブルに食器を並べる。
つつましいながらも、三人で懸命に生きていた。

母は私が生まれてすぐドイツ兵に殺されたと父から聞かされていた。
なぜ殺されたのかは知らない、父に聞いても教えてくれない。



パパス「待てリュカ、誰にそれを教わった?」

リュカ「え・・・」
サンチョ「ぼ、ぼっちゃん、それは・・・」

583:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:12 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE6


パパス「どこで覚えたのか知らんが、決してそれをやってはいかん。いいな。」
リュカ「おとうさん、ハイルヒトラーって何のこと?ヒトラーって誰?」

パパス「この国を支配し、何の罪もない私たちユダヤ人を迫害するドイツ軍の親玉だ。
    意味も知らずにそんなことやっていると街の人たちに恨まれるぞ。」

リュカ「でもおとうさん、これをやらないとドイツ兵に殺された人たちも・・・」

パパス「いかんと言っているだろう!何度も言わせるな!」
リュカ「ビクッ」
パパス「・・・・怒鳴ってすまん、とにかくリュカ・・・戦争が終わるまでは私たち三人で
    この時代を生きていかねば。」

サンチョ「そうですぞ、ぼっちゃん。」

584:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:14 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE7


パパス「いいかリュカ。こんなすさんだ時代でも、私たちにはかけがえのない宝物がある。」
リュカ「たからもの?」
パパス「そう、家族だよ。私とお前、そしてサンチョもいるだろう。」
リュカ「うん。」

パパス「どんなことがあっても私は自分の家族を守りぬくつもりだ、お前もいつの日か
    自分の家庭を持つときがくるだろう。そのときにはきっと平和な時代がくるはずだ。」
リュカ「・・・・・」
パパス「それまではどんなつらいことがあっても生きていくことだ。お前の母さんも
    それを望んでいるはず。」

リュカ「ねえおとうさん。おかあさんはユダヤ人じゃなかったのに、どうして殺されたの?」
パパス「・・・・・」



この質問をすると、父は決まって沈黙するだけ。
もっともこの時期に本当のことを教えられていても、とうてい理解できなかっただろう。
.

585:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:16 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE8


リュカ「おとうさん、ボクのおかあさんってどんな人だったの?」
パパス「・・・・・」
サンチョ「さぁさぁぼっちゃん、スープが冷めますぞ。早く食べないと・・・」

リュカ「うん・・・」



この日を境に、私は二度と母の話をするのをやめた。
何を聞いても答えてくれないし、母の話をすると父もサンチョも無視するだけ。
思えば父は私に二つのことしか教えなかった。


「生きてくことが最も大事」「この世で一番の宝物は家族」


そんなこと言われるまでもなく分かっていたつもりだったのだが・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~

586:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:18 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE9


サンタローズ市街


リュカ「ビアンカ、今日は何して遊ぼうか。」
ビアンカ「そうね、また幽霊屋敷に行く?」

リュカ「いやだよ、オバケが出るもん。」
ビアンカ「あなた男の子でしょ、そんなおくびょうじゃ・・・あ!」

リュカ「どうしたの?」
ビアンカ「・・・・・」



ある日、昼間から大通りに数人のユダヤ人がドイツ兵に捕らえられているのを見た。
なぜ捕らえられていたのかは知らない、ドイツ兵がユダヤ人に対して虐待する理由など
あってないようなものだ。



リュカ「ビアンカ見てよ、あの人たちドイツ兵に・・・」
ビアンカ「しっ、指さしちゃダメよ。」

587:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:20 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE10


ドイツ兵の中でも特に、人間の皮をかぶった極悪非道の悪魔がいた。
やつらにとって人の命など何とも思っていない、特に私たちユダヤ人に対しては。

この日、数名ほどのドイツ兵が銃を構えながらユダヤ人を4人ほど捕らえていた。
現場で指揮を執っていたのは二人のドイツ士官。

やつらはドイツ語でしゃべっているため、子供の私たちにとっては何を話しているのか
さっぱりわからなかった。



ジャミ中尉「<これで全員か?>」
ゴンズ中尉「<たぶんな。>」

ユダヤ人A「わ、私たちが何をしたというのだ・・・」
ユダヤ人B「シッ、黙って。よけいなことを言うとまた怒らせることに・・・」
ユダヤ人C「・・・・」
ユダヤ人D「<俺たち何も悪いことなんかしてないぞ。>」

ジャミ中尉「<黙ってろ、無駄口をきくな。>」

588:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:26 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE11


ドイツ士官のジャミ中尉とゴンズ中尉は短気ですぐ銃を抜く。
自分で殺した人間の数なんて覚えてないだろう。
やつらが私たちと同じ赤い血が流れているなんて、とてもじゃないが信じられない。


ジャミ中尉「<どうするゴンズ。>」
ゴンズ中尉「<面倒だからこの場で全員片付けてしまおう。>」

ジャミ中尉「<そうだな。・・・おい、四方から発砲しろ。>」
ドイツ兵「<はっ。>」


ジャキン!


ユダヤ人A「な、何をするんだ・・・!」
ユダヤ人B「<待ってください!私たちが何を?!>」
ユダヤ人C「!」
ユダヤ人D「うわああああああ!」


ジャミ中尉「<撃て。>」


ダダダダダダダダ!!

589:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:28 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE12


理由も分からずに殺されたユダヤ人など星の数ほどいる。

幼い私とビアンカは、その狂った殺戮を身動きできずにただじっと見ているしかなかった。
明日はわが身かもしれないと考えると夜も眠れなくなる。



ユダヤ人C「た、助けてくれーーーー!!」

ジャミ中尉「<おい、一人逃がしたぞ。>」
ゴンズ中尉「<まかせろ、この距離からでも充分だ。>」


ダーン!


ユダヤ人C「うわああ!!」

ジャミ中尉「<ヘタクソめ、ぜんぜん当たらないじゃねえか。>」
ゴンズ中尉「<黙れ、今度こそ当ててみせる。>」

ユダヤ人C「だ、誰かーーーーー!」

590:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:29 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE13


ジャミ中尉「<はははははは!どうした!もっと必死で逃げろ!殺されるぞ!>」


ダーン!

ユダヤ人C「うあっ・・・!」


ドタリ


ゴンズ中尉「<見ろ、今度こそくたばったぞ。>」
ジャミ中尉「<バカめ、たかがユダヤ人ごとき何発ムダにしてんだ。>」



ビアンカ「ひ、ひどい・・・!」
リュカ「し、死んじゃったの・・・?」

591:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:32 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE14


ビアンカ「リュ、リュカ・・・もう帰りましょ。」
リュカ「・・・・」
ビアンカ「こんなとこにいたら私たちも殺されちゃうでしょ。」

リュカ「う、うん・・・」



この街に住んでいるうちは自分が生きているだなんて、とうてい実感が沸かない。

父がいかに「生きていくことが大事だ」なんて耳がタコになるほど教えこまれても
それは無理というものだ。

なぜなら10歳にして私は死という恐怖感をいやというほど味わされた。
この時代に生きているかぎり、「生」よりも「死」というものを目の前で学ばされる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~

592:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:40 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE15


サンタローズ市街 大通り前



ある日私が父からもらったお小遣いで、店でアイスを買ったときのことだ。



リュカ「ビアンカー、アイス買ってきたよー。」

ビアンカ「リュカ、そんなにあわてて走らなくても・・・」
リュカ「うわっ!」


ドテ!


ビアンカ「あーあ、だから言ったじゃ・・・ハッ!」

リュカ「いててて・・・ころんじゃった。ん?」
ヨシュア大尉「・・・・・」

リュカ「あ・・・」

593:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:42 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE16


お菓子を買って喜びすぎて周りをよく見ていなかった。
私の目の前にドイツ将校が立っていることに気づかなかったのだ。

しかもその将校の軍服のズボンには私のアイスがべっとりと・・・・


ヨシュア大尉「・・・・・」

ドイツ兵A「<このガキ、ヨシュア大尉のズボンによくも・・・>」
リュカ「ご・・ごめんなさ・・・」
ビアンカ「リュカ!」

ドイツ兵A「<ユダヤ人てのはこれだから始末に終えねえな。どうします、大尉。>」
ヨシュア大尉「・・・・・」

リュカ「あ・・・あ・・・」


私はこのときすでにアイスを片手に小便をもらし、恐怖で身体が動かなかった。
意味不明のドイツ語でしゃべっていても、このときだけは何を言ってるのかがよく理解できた。

どんなバカでもこの状況を把握できただろう。私は殺されると・・・


594:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:44 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE17


ビアンカ「<ま、まってください!ごめんなさい!ゆるしてください!>」
リュカ「ビ、ビアンカ・・・!」



私をかばいにやってきた当時12歳のビアンカが、ドイツ語を話していたのには驚いた。
といってもおそらく謝罪の言葉ぐらいしか身につけていなかっただろうが。



ビアンカ「<わたしたち悪い。ゆるしてください。あなたがた正しい。>」

ドイツ兵A「<どけ、お前も殺されたいのか。>」
ヨシュア大尉「<待て、下がっていろ。>」
ドイツ兵A「<はっ。>」



小便もらして恐怖で固まった私をかばうビアンカのその手は、ガタガタと震えていた。
そのとき私は思った。
こんなにおびえているのに、彼女を守ってあげられないなんて・・・

595:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:48 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE18


ビアンカ「うぅ・・・・」
リュカ「・・・・・・」

ヨシュア大尉「<こんな子供が片言とはいえドイツ語をしゃべるとはな。少女のほうは
       ユダヤ人ではないようだ、そっちの少年はユダヤだな。>」

ドイツ兵A「<ではこの少年のほうを?>」
ヨシュア大尉「<ふむ・・・>」



周りには通行人がたくさんいるのにもかかわらず、子供の私たちを助けてはくれない。
彼らは知っているのだ、ヘタなことに関わると自分たちまで巻き込まれるということを。

見て見ぬフリをするしかないのだ、現に私も今までそうしてきた。



ヨシュア大尉「<少年、お前は話せるか。>」

リュカ「う・・・・」
ヨシュア大尉「<口があるなら何か言ってみろ。>」

リュカ「あ・・う・・・」

596:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 04:58 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE19


もうだめだ、明らかに私に対して敵意を持っていると感じた。

たぶん次の瞬間、この将校は銃を抜いて幼い私の眉間に一発ブチ込むに違いないと思った。
やつらは子供を殺すことも朝メシ前だということを私は知っている。

何がなんだかわからなくなった私は、ついに‘あれ’をやってしまった。



リュカ「ハ、ハイル ヒトラー!」
ビアンカ「?!」

ドイツ兵A「<あん?>」
ヨシュア大尉「?」

リュカ「・・・・・」

ヨシュア大尉「<ははは・・・面白い子供だな、意味わかってるのか?>」
ドイツ兵A「<バカかこのガキ。>」

597:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:00 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE20


そのドイツ将校は、怯えきった私とビアンカを見据えるように言った。



ヨシュア大尉「<ここは車が多く通る道だ、遊ぶのなら向こうの広場で遊べ。>」

ドイツ兵A「<大尉、こいつらの始末は?>」
ヨシュア大尉「<もういい、行くぞ。>」

ドイツ兵A「<は、はい。>」

リュカ「・・・・・」
ビアンカ「・・・・・」



なぜ殺されなかったのかは今でもよくわからない。
そのドイツ将校は軍服のポケットからハンカチを出して、ズボンを拭きながら
ジープに乗って走り去っていった。

ともかくビアンカに教わった「あれ」のおかげで私たちは助かった。

だが今思えば、あのドイツ将校は最初から私を殺す気はなかったようにも思える。



~~~~~~~~~~~~~~~~

598:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:02 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE21



    同年1939年 9月27日



この年の秋をむかえようとしていた9月末。
ついにドイツ政府はイタリア軍、およびソ連軍を敵に回し、本格的に
このポーランドを侵攻してきた。


――第二次世界大戦勃発である。




パパス「リュカ、おいリュカ。起きなさい。」

リュカ「う~ん・・・」
パパス「すぐに荷物をまとめて出かける準備だ。」

リュカ「え・・?」
サンチョ「ぼっちゃん、とりあえず身の回りのものだけでもまとめてください。」


とつぜん朝早くからたたき起こされ、荷物をまとめて家を出ると言い出した。

599:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:06 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE22


リュカ「ね、ねぇ。いったいどうしたの?ボクたちひっこしでもするの?」

パパス「ドイツ軍からの命令なんだ、やむを得ない。」
リュカ「?」
サンチョ「ぼっちゃん、われわれユダヤ人は東の収容所へ送られるそうです。さあ
     ぐずぐずしているとドイツ兵にどやされますぞ。」

リュカ「う、うん・・・」



わけもわからずこの街を去ると言い出した。
なんでも東の収容所で強制労働させられるという。

父は元軍人だったが、働けることのできる者は全てドイツ軍の防衛ラインを築くよう
命令が下ったのだ。

あのドイツ軍のクソ野郎のために、なぜ私たちがそんな労働を・・・

600:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:12 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE23


パパス「くそ!金目のものが何もないときた。何か売れるようなものがないと
    いざというとき食べ物に困ってしまうかもしれん。」

サンチョ「だんなさま、このフライパンは?」
パパス「サンチョ、ふざけてる場合じゃないだろう。」
サンチョ「す、すみません・・・」

リュカ「ねーおとうさん、ボクの貯金いる?」
パパス「ははは、ありがとうリュカ。それはお前が大事に持っていなさい。」

サンチョ「しかし困りましたな、どれも金になりそうもない品ばかりで・・・」
パパス「やむを得ん、もしもの場合は私の指輪を売ろう。」
サンチョ「な、なんてこと言うんですか!奥さまとの結婚指輪を・・・!」

パパス「心配するな、そうやすやすとこの指輪は手放さん。私たちが餓死でもしないかぎりな。」
サンチョ「それはそうですが・・・」

パパス「そうだリュカ。」
リュカ「なに?」

パパス「この街とも最後かもしれん、今のうちにビアンカにお別れを言ってきなさい。
    しばらく会えなくなるだろうし・・・」

リュカ「あ・・・そうか・・・」


~~~~~~~~~~~~~~~~

601:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:13 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE24


サンタローズ 公園広場


リュカ「ビアンカ、ボクたちもう二度と会えないのかなぁ・・・」

ビアンカ「だいじょうぶよ、いつかきっとまた会えるわ。」
リュカ「ねぇビアンカ、今度会うときはボクがキミを・・・」

ビアンカ「なに?」

リュカ「ボクがキミを守ってあげられるようになるよ・・・」
ビアンカ「・・・・・」



ビアンカはポーランド人だったが、彼女はユダヤ人ではなかった。
もう会えなくなるのはとてもつらかったが、彼女までつらい思いをさせずに済んだと思えば
少しは気が楽になった。



ビアンカ「リュカ、私たちしばらく会えなくなるから、これをあげる。」

リュカ「何これ。」
ビアンカ「私のリボンよ。」

602:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:15 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE25


リュカ「ありがとう。・・・じゃあボクも。」

ビアンカ「?」

リュカ「ボクのターバンをあげる。」
ビアンカ「・・・あ、ありがとう。」
リュカ「ビアンカ、泣いてるの?」

ビアンカ「・・・・・」

リュカ「泣かないで、戦争が終わったらきっとキミに会いにいくよ。」
ビアンカ「うぅ・・・・」



このときビアンカは私には言わなかったが、彼女は知っていた。

東の収容所へ送られたユダヤ人は、誰一人として帰っては来なかったということを。
さんざん強制労働させられたのち、あとに待っているのは死のみ。
ドイツ軍は約40万人のユダヤ人を一人残らず消すつもりだった。



ビアンカ「リュカ・・・きっとまた一緒に遊ぼうね。」

リュカ「うん。」
ビアンカ「約束よ、必ずこのリボンを返してね。」
リュカ「わかった、キミもボクのターバンを・・・」

603:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:25 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE26


私たちはそれぞれリボンとターバンを交換し、再会を期しておたがいの約束を交わした。


いつの日か 再びこれを返しにくると。
いつの日か また一緒に遊ぼうと。

そしていつの日か私は 彼女を守ってあげられるようになると。


赤い糸で結ばれた約束は いつの日かきっと かなえられるときがくると。



――このリボンとターバンを交換するとき 



            それは 私たちが再会するときだと――




   第一章   ~赤い糸の幼年時代~

          完



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

604:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 05:35 tCdkuips
連投規制が激しくて全然書き込めないので第二章以降はまたあとにします

全部で5章までです。もうしばらくお付き合いを。


605:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:11 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE27



   第二章   ~灰色の少年時代~



サンタローズ公園広場   1939年


ジャミ中尉「<よーし、ではユダヤ人は全員そこに並べ。今から移送先をグループ別に分ける。>」

ゴンズ中尉「<おい、ゲマ大佐は?>」
ジャミ中尉「<間もなくお見えになるそうだ。>」

ゴンズ中尉「<そうか。>」



たくさんの住人が広場に集められ、私たち家族はこれから移送されることになる。



リュカ「おとうさん、ボクたちこれからどうなるの?」
パパス「シッ、黙ってなさい。大丈夫、私たちが離ればなれになることはない。」

606:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:13 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE28


サンチョ「だ、だんなさま・・・あそこを見てください。とんでもないヤツが現れましたぞ・・・」
パパス「何?・・・うっ!あ、あいつは・・・」

リュカ「(な、なんだろう、あのドイツ将校は・・・)」



私が‘そいつ’を初めて見たときの第一印象は、氷のような目をした悪魔にしか見えなかった。
ユダヤ人は「ゲマ大佐」という名を聞いただけで胃液が逆流してくるほど身の毛がよだつ。

それは泣く子もゲロを吐く冷酷非道のドイツ軍の指揮官、ゲマ大佐。通称‘氷のゲマ’。



ジャミ中尉「<ゲマ大佐、ユダヤ人すべて集合させました。>」

ゲマ大佐「<ほっほっほ、ごくろうさま。>」


やがてゲマの指示どうりにユダヤ人はいくつかのグループに分け、トラックに乗せられて
次々に移送させられていく。

当時は何を基準にゲマが私たちをグループに分けているのか理解できなかった。
おそらく‘働ける者’と‘そうでない者’を分けていたんだろう。

607:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:15 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE29


ゲマ大佐「<ふむ、あなたは向こうのトラックに乗りなさい。あなたはそっち。>」

住人A「<は、はい。>」
ゲマ大佐「<あなたたちはそちらのトラック、あなたは向こう。あなたは・・・>」
住人B「<はい・・・>」



やがてゲマ大佐は私たち家族の前へやってきた。



ゲマ大佐「<ふむ、あなたはそっちのトラックへ。>」
サンチョ「<は、はい。>」

ゲマ大佐「<そこのボウヤは向こうのトラック。>」
リュカ「・・・・・」

ゲマ大佐「<何をしているのです、早く行きなさい。>」
リュカ「え・・・?」
ゴンズ中尉「<おいガキ、お前はこっちだっての。>」

リュカ「サンチョさん・・・!」
サンチョ「(ぼっちゃん・・・お元気で・・)」

608:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:18 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE30


さよならの言葉もなく、サンチョとはここで別れることになった。
サンチョとは血はつながってはいなかったが、のちに戦後になっても彼の消息はつかめなかった。
おそらく始末されたのだろう。


ゲマ大佐「<では次、えーと・・・>」
パパス「・・・・・」

ゲマ大佐「<あなたはさっきのボウヤと一緒のトラックに。>」
パパス「(ほっ・・・)」
リュカ「(よ、よかった・・・)」


サンチョとは別れることになってしまったが、父は私と一緒のトラックのようだ。
私たちはお互いほっと胸をなでおろした、だがそのとき・・・


ゲマ大佐「<うん?待ちなさい。>」
パパス「ギクッ!」
ジャミ中尉「<どうかなされましたか、大佐。>」

609:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:26 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE31


ゲマ大佐「<そこのあなた、ちょっとこちらへ来なさい。>」
パパス「(ま、まずい・・・)」
リュカ「?」


ゲマ大佐は父を呼びつけた。
そして父はなぜかゲマとは目を合わせようとしなかった。だがゲマは父の顔をじっと見つめ
まるで不信な目で父を見据えた。


ゲマ大佐「<名を名乗りなさい、ユダヤ人。>」
パパス「<トンヌラ・エニクス・・・>」

ゲマ大佐「<トンヌラ・エニクス?ユダヤ人にしてはずいぶん変わった名ですね。>」
パパス「<・・・・・>」

ゲマ大佐「<だが不思議ですね、なぜか見覚えのある顔だ。このボウヤはあなたの子ですか。>」
パパス「<い、いいえ・・・私は独身です。>」
ゲマ大佐「<・・・・>」


父とゲマ大佐が何をしゃべっているのかはわからなかった。
だが父はこのとき異様なほど冷や汗をかいているのは分かった。

まるで自分の正体を見破られることを恐れているかのように。

610:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:28 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE32


ゲマ大佐「<念のためあなたにもう一つ質問しますよ、ユダヤ人。>」

パパス「<は、はい。>」
ゲマ大佐「<マーサという女性をご存知ですか?>」
パパス「(うっ・・・!)」



理解できないドイツ語の中で、私はこの「マーサ」という単語だけは何とか聞き取れた。
マーサとは死んだ私の母の名だ。

なぜこのゲマ大佐が母の名を知っている?



ゲマ大佐「<どうしました、答えなさい。>」
パパス「<・・・そ、そのような名は知りません。>」

611:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:30 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE33


ゲマ大佐「<・・・・・・>」
パパス「(うぅ・・・)」

ゲマ大佐「<ふん、まぁいいでしょう。行きなさい。>」

パパス「<は、はい。>」
リュカ「・・・・・」

パパス「さぁリュカ、トラックへ。」

リュカ「う、うん・・・」



とりあえず無事に私たち親子は難をのがれたようだ。

だが父はしばらく私の顔も正面から向いてくれようとせず、申しわけなさそうな態度だった。
あのゲマ大佐と何を話していたのかは知らないが、会話の中で母の名が聞こえたことに関して
父に聞こうとしたがやめた。


どんなことがあろうと私は父を愛しているし、信じている。
きっといつか真実を話してくれる、そのときが来るまで待ってあげようと決めたのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

612:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:33 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE34



    1940年 2月



召使いのサンチョと別れて、もう一年が過ぎようとしていた。
私たち親子は何とか労働収容所で生き延びていく生活を続けていた。



ポーランド 東部労働収容所にて


リュカ「おとうさん、サンチョさん元気かなぁ。」

パパス「そうだな・・・」
リュカ「きっと生きてるよね、殺されてなんかないよね。」
パパス「あぁ、きっとサンチョも元気でやってるさ。」



石を懸命に運ぶ父や労働者のユダヤ人をながめながら、私はヒマさえあれば
ビアンカのリボンを出しては彼女のことを思い出していた。
.

613:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:37 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE35


リュカ「ビアンカも元気かなぁ・・・」

ユダヤ人O「おい坊や、どうしたボーッとして。」
リュカ「え?あ、いやなんでもないよ。」
ユダヤ人O「んじゃまたコレ頼むわ、コートのほころび。」

リュカ「あー、ずいぶんボロボロになっちゃっいましたね。」
ユダヤ人O「あぁ、もう穴だらけさ。まあもう少しすればあったかくなる季節だがな。」
リュカ「えーと、12ゴールドですね。」

ユダヤ人O「よし、じゃ頼む。」
リュカ「まいどありー。」



このときにはようやく私も働けることができるようになった。
といってもつくろい物の仕事だが、小遣いかせぎ程度はかせげる。
石を運んだりする肉体労働は、年齢的にまだ不適格だそうだ。
.

614:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:41 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE36


ドイツ兵「<よーし休憩だ!一時間の間に各自昼食をとっておけ!>」

パパス「ふぅ、やっと休憩か。」
リュカ「だいじょうぶ?」
パパス「あぁ、昼メシにしよう。配給係りへ行ってパンを二人分もらってきてくれ。」

リュカ「うん、わかった。」



すでに私の家族はもう父一人しかいなくなった。
だがこんなひどいところにいながらも私たち親子の絆はより深く、より強く結ばれたような気がした。

母も亡くしてサンチョもビアンカもいない。たった一人の父だけは失いたくはなかった。



~~~~~~~~~~~~

615:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:43 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE37


ユダヤ人H「パパスさん、一緒に昼メシ食わないか。」

パパス「あぁ、いま息子にパンを取ってきてもらっているところだよ。」
ユダヤ人H「そうか、じゃあ今のうちにちょっと話があるんだが。」
パパス「どうした?」

ユダヤ人H「なぁパパスさん、あのウワサを聞いたか?」
パパス「ウワサとは?」

ユダヤ人H「知らないのか?私たちユダヤ人はアウシュヴィッツ収容所へ移送されるそうだぞ。」
パパス「また移送か・・・次から次へと。」

ユダヤ人H「あんた何も知らないんだな、アウシュヴィッツ収容所がどんなところだか
      知ってるのか?」
パパス「知らないな、ここよりももっとひどいところなど想像もつかん。」

ユダヤ人H「なんでも俺たちユダヤ人はガス室へ送りこまれて皆殺しにされるそうだぞ。」
パパス「バカな・・・ドイツ軍はわれわれを一人残らず消す気なのか?」

ユダヤ人H「ここに送られてきたユダヤ人の数を見ろ、最初にいたときの半分ほどに
      減ってきているだろ。」
パパス「むぅ・・・」
ユダヤ人H「やつらドイツ兵は俺たちに何も言わないが、あのゲマ大佐がここへ来るときに
      決まってユダヤ人を10名ほど連れていく。そして彼らは二度と帰ってはこない。」

パパス「・・・・・」

616:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:47 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE38


ユダヤ人H「だが俺たちはあきらめてない、実は以前から仲間とこの収容所を脱走する計画を
      極秘に立てていたんだ。」
パパス「何だって?」
ユダヤ人H「これは謀反だよ。あんたも協力してくれないか、元軍人だろ?」

パパス「し、しかしそんな計画がドイツ兵に漏れたら大変なことになるぞ。」
ユダヤ人H「計画は厳重に内密進行させてきた、情報が漏れることはない。」
パパス「しかし・・・」
ユダヤ人H「あんたドイツ軍にこんな仕打ちをさせられて平気なのか?あんたや俺の家族も
      やつらに殺されただろ。」

パパス「私にはまだ一人息子がいる。」
ユダヤ人H「息子さんのためにもこのまま放っておくわけにはいかないはずだ。ヘタしたら
      あんたの息子さんもアウシュヴィッツ収容所へ・・・」

パパス「ま、待ってくれ。息子が戻ってきた、その話はやめよう。」
ユダヤ人H「わかった・・・」


リュカ「もらってきたよ、おとうさん。」
パパス「すまんな。」

617:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 10:50 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE39


ユダヤ人H「やぁリュカ、元気か。」
リュカ「こんにちは。」

ユダヤ人H「こんな小さな子でももう働いているもんなぁ、えらいな。」
リュカ「石を運ぶのはまだムリだけど、ズボンがやぶけたりしたらボクに言ってね。
    1cmにつき1ゴールドで直してあげるよ。」

ユダヤ人H「ははは、しっかりした坊やだ。」

パパス「さぁリュカ、お前も食べなさい。」
リュカ「はーい。」


わずかな安らぎのひとときの昼食を、私たちは楽しんでいた。


パパス「む・・・そうだリュカ、お前に渡しておくものがある。」
リュカ「なに?・・・もぐもぐ。」
パパス「この指輪はお前が持っていろ。」

リュカ「おとうさんこれ・・・おかあさんとの結婚指輪じゃないか。」
パパス「私にもしものことがあったときの場合だ、いざというときはそれを売って
    お金にしなさい。」

リュカ「や、やだよ・・・」
パパス「リュカ、気持ちはわかるが生き残るためだ。万が一ということもある。くれぐれも
    ドイツ兵たちにバレないように隠しておくんだぞ。」

リュカ「・・・・・」

618:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 10:52 50K1Eh7d
支援カキコ
がんがってください

619:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 11:01 50K1Eh7d
遅かったか?(;´Д`)

620:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:16 tCdkuips
ありあとうございまs
連投規制でもうしにそうです

621:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:19 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE40


父は大切にしていた母との結婚指輪を私にゆずった。
このときから私はイヤな予感がしていたのかもしれない、父を失ってしまうんじゃないかと。



パパス「売るのがイヤだったらお前がずっと持っているだけでもいい。だがドイツ兵たちには
    見つかるなよ、できればどこかへ隠しておいてほしいんだが。」

リュカ「なんでそんなにこの指輪を隠したがるの?」
パパス「い、いやその・・・」
リュカ「?」

パパス「あぁそうそう、知ってるか?その指輪は‘炎のリング’といってな、炎の聖霊が
    宿っているという伝説があるのだよ。」

リュカ「ふーん・・・」

パパス「母さんがつけていた指輪は‘命のリング’といってな、命の聖霊が宿っているという
    似たような伝説があったんだ。」
リュカ「ほかにも同じような指輪があるの?」

パパス「あぁ、詳しくは知らんが‘水のリング’という水の聖霊の指輪があるらしい。」

リュカ「へぇー。」

622:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:20 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE41


パパス「お前が炎のリングを持っているとすれば、いつかこの世界のどこかにいる
    ‘水のリング’を持った人に出会うときが来るかもしれんな。」
リュカ「だとしたら何なの?」

パパス「ははは、お前のお嫁さんになる人のことだ。」
リュカ「えぇ?」
パパス「お前のお嫁さんはどんな娘なんだろうな、私も見てみたい。」

リュカ「や、やだよ。今からそんな・・・」
パパス「ははは。」



わずかな休憩時間、昼食をとっている私たちの前に数名のドイツ兵と
あのゲマ大佐がジープでやってきた。

ブロロロロ・・・・キキキィィッ!

ガチャリ



ユダヤ人H「ゲッ、またあのゲマの野郎が・・・」
パパス「まずいな・・・リュカ、向こうのほうへいってろ。」

リュカ「う、うん。」

623:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:22 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE42


ジャミ中尉「<労働者は全員そこに並べ!ぐずぐずするな!>」

パパス「何事だ・・・?」
ゴンズ中尉「<ゲマ大佐からお前らユダヤ人にお話があるそうだ!さっさと集まらんか!>」

ジャミ中尉「<おい小僧、お前もだよ。>」
リュカ「うわ!な、なにするんだ・・・!」
パパス「<乱暴はよせ!まだ子供なんだぞ!>」

ジャミ中尉「<黙って集合しろ!まったくトロトロしやがって!>」


ゲマ大佐「<ほっほっほ、全員集まったようですね。>」

ユダヤ人H「いったい何事だ?」
ユダヤ人I「さあな、どうせロクな用じゃない。」

ゴンズ中尉「<ゲマ大佐、どうぞ。>」



ゲマが私たちの前に現れるときは、決まって悪いことが起きる。
また例によってムチで虐待するか、気に入らないユダヤ人を射殺するかのどれかだ。

だがこの日はそんなことよりも、もっと非道な仕打ちにやってきたのだ。

624:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 11:24 50K1Eh7d
>>620
よかった。初のリアルタイムで楽しみながら読ませてもらってます

625:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:25 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE43


ゲマ大佐「<あなたたちユダヤ人の中で謀反をたくらんでいるとの情報をつかみました。
      これはかなり確かな情報です。>」

ユダヤ人H「!」

ユダヤ人T「謀反だと・・・そんなバカなことをするやついるのか?」
ユダヤ人R「お、おれじゃないぞ・・・」

パパス「・・・・・」
リュカ「おとうさん、あいつ何をしゃべっているの?」
パパス「シー、だいじょうぶ。お前には関係のないことだよ。」

ゲマ大佐「<そのような愚かな計画を単独で犯すとは思えません、おそらく犯人は複数でしょう。
      犯人を一人一人捜し出すのもかまいませんが、私は面倒なことが嫌いです。>」

パパス「・・・・・」

ゲマ大佐「<謀反をたくらんでいる輩は今すぐ名乗り出なさい、さもないとこの場にいる
     すべてのユダヤ人を一人ずつ射殺していきます。>」
ユダヤ人H「!!」
ユダヤ人E「な、何だって・・・?!」
ユダヤ人J「バ、バカなことを!」
ユダヤ人K「ヤ、ヤバイぞ!あいつマジで殺る気だ・・・!」

リュカ「な、なに?どうしたの?」


わけがわからない間に、幼い私の目の前で信じられない光景が繰り広げられた・・・・
.

626:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:28 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE44


ゲマ大佐「<まず一人目。>」


ダーン!

ユダヤ人E「うあっ!」


ドタリ


ゲマ大佐「<二人目。>」


ダーン!

ユダヤ人J「がっ・・・!」


ドタリ

.

627:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:29 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE45


ゲマ大佐「<はい三人目。>」


ダーン!

ユダヤ人K「げっ・・・!」


ドタリ


ゲマ大佐「<つぎ四人目。>」


ダーン!

ユダヤ人U「うぉぉっ・・・!」


ドタリ


ゲマ大佐「<なかなか犯人が名乗り出ませんねぇ、ぐずぐずしていると全員
      死んでしまいますよ?>」


リュカ「うわああああ・・・お、おとうさん・・・!」
パパス「な、なんてひどいことを・・・!」

628:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:31 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE46


まるで人をゴミのように撃ち殺していくゲマ大佐の目は、これっぽっちも
良心の呵責などなかった。



ゲマ大佐「<続いて五人目。>」

ユダヤ人H「うぅぅ・・・!」

パパス「<ま、待ってくれ!>」
ゲマ大佐「<ん?>」

パパス「<わ、私が犯人だ・・・・だからもうみんなを殺すのはやめてくれ・・・>」
ゲマ大佐「<ほぅ、やっと名乗り出ましたか。>」

ユダヤ人H「(パパスさん・・・!)」

ゲマ大佐「<あなた一人の犯行とは思えません、仲間の名を言いなさい。>」
パパス「<仲間などいない・・・私一人の計画だ。>」
リュカ「おとうさん!いったい何をしゃべってるんだよ!」

パパス「リュカ!頼むから向こうへ行ってろ!」

629:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:32 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE47


そのときユダヤ人Hが突然その場から逃げ出した。



ユダヤ人H「くっ・・・!」


ダダッ!


ジャミ中尉「<ゲマ大佐。>」
ゲマ大佐「<ふん、こんなことだろうと思っていました。撃ち殺しなさい。>」

ジャミ中尉「<はっ。>」


ダーン!


ユダヤ人H「うあっ・・・・!」


ドタリ


パパス「ひ、ひどい・・・ひどすぎる・・・。」
リュカ「うわあああん・・・」

630:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 11:33 50K1Eh7d
(・∀・)ドキドキ

631:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:34 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE48


次々に人が殺されていく光景を目にした私は、もはや足もガタガタに震え
立っていられないほど恐怖感に怯えた。



ゲマ大佐「<さて、もう一度聞きます。あなたも謀反の仲間なのですか?>」

パパス「<き、貴様らなど・・・貴様らナチスなど地獄へ堕ちろ!人間の皮をかぶった悪魔め!>」
ゲマ大佐「<おや?あなたの顔をどうも見覚えがあると思ったら・・・>」

パパス「(し、しまった・・・!)」

ゴンズ中尉「<どうかしたのですか、大佐。>」

ゲマ大佐「<ほっほっほ、私もモウロクしていました。このユダヤ人はあのグランバーグですよ。
      あなたは元軍人パパス・グランバーグですね。>」
パパス「!!」

ジャミ中尉「<グランバーグ?もしやあのマーサ様の・・・!>」
ゴンズ中尉「<本当ですか!大佐!>」

リュカ「(な、何の話を・・・?)」

ゲマ大佐「<あなたウソをつきましたねユダヤ人。トンヌラ・エニクスなんて偽名を使って
      この私を騙そうと?マーサとはあなたの妻のこと、そしてそこにいるボウヤは
      あなたの息子さんですね?>」
パパス「う、うぐ・・・!」

632:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:37 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE49


ゲマ大佐「<わがナチス・ドイツ軍の総統閣下から命令を受けています。マーサ様の夫を
      見かけたら、ただちに殺せとの総統じきじきのご命令です。>」

パパス「<た、頼む・・・息子だけは見逃してくれ!こ、この子だけは・・・>」
リュカ「おとうさん!」




     ダァーンン!!




パパス「うあああっ・・・!」

リュカ「!!」
      


パパス「リュ、リュ・・カ・・・!」


ドタリ


リュカ「うわああああああああ!!」

633:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:40 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE50


ゲマ大佐「<ほっほっほ、子を想う親の気持ちというのはいつ見てもいいものですね。」
ジャミ中尉「<こ、このユダヤ人があのマーサ様の夫だったとは・・・>」
ゴンズ中尉「<大佐、こいつまだ息があるようです。>」

ゲマ大佐「<何ですって?>」


目の前で撃たれた父を前に、私は父の最期の言葉を聞いた。
そしてその信じがたい事実に驚愕した。


パパス「リュ、リュカ・・・聞こえるか。」
リュカ「お、おとうさん!」

パパス「リュカ・・・本当にすまない、実は・・・お前の母さんは生きているんだ・・・
    私にかわって母さんを・・・」

リュカ「おとうさん!しっかりして!」

パパス「本当にすまない・・・す、すべてユダヤ人である私がいけなかったのだ・・・・」
リュカ「ど、どうして・・・!」

パパス「リュカ、よく聞け・・・実はお前の母さんはドイツ人なのだ・・・」
リュカ「!!」

634:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:41 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE51


パパス「そもそもナチスドイツ人とユダヤ人が恋に落ちることがいけなかった・・・・
    すまん・・・すべて私たちの責任だ・・・お前にはつらい思いを・・・」

リュカ「お、おとうさん!」


ダァーンン!!


パパス「うあっ・・・!」


ガクリ


パパス「・・・・・・・」

リュカ「うわあああああ!!」


ゲマ大佐「<ほっほっほ、パパス・グランバーグよ、安心なさい。お前の息子は
      わがナチス・ドイツ軍のアウシュヴィッツ収容所で死ぬまでドレイとして
      総統閣下のために働いてもらいます。>」

リュカ「お、おとうさん・・・・!」

635:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:43 tCdkuips
     戦場の花嫁    PAGE52


こうして幼い私は 間もなくアウシュヴィッツ収容所へ送られることになる。


父が殺されたこの日 忘れもしない1940年2月13日のことだった。


父の最期の言葉を聞いたその事実 当時の私にはあまりにも重く あまりにも残酷だった。



     母は生きている そして母はナチス=ドイツ人。



だがそんな父の言葉もむなしく 私を待っていた運命は 過酷なドレイの日々だった。




     第二章   ~灰色の少年時代~

           完



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


636:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 11:47 tCdkuips
ちょっと休憩。
このぶんだと午後で終わりそうだ

もう規制がうるさくてやんなる
間に書き込みがあるとめちゃくちゃ助かります。

637:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 11:47 50K1Eh7d
GJでした。(・∀・)
続き期待してまってます。とりあえず飯食ってきます。

638:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:35 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE53



  第三章   ~闇の思春期時代~



ベルリン  ナチス・ドイツ軍本部 総統室にて


ゲッベルス「<総統、ゲマ大佐が戻ってきたようです。>」

総統「<ここへ呼べ。>」
ゲッベルス「<はっ。>」


ガチャリ


ゲッベルス「<大佐、入りたまえ。>」
ゲマ大佐「<はっ、失礼します。>」



ナチス・ドイツ軍の総統ヒトラーの前に、ゲマ大佐がやってきた。


639:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:37 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE54


ゲマ大佐「<ハイル ヒトラー!ゲマ大佐、任務より一時帰還してまいりました。>」

総統「<ご苦労。では任務報告を聞こう。>」
ゲマ大佐「<は、ポーランド東の収容所にてユダヤ人パパス・グランバーグを発見。
      ただちに命令どうり任務を遂行いたしました。>」

総統「<ふむ。で、例のものは?>」
ゲマ大佐「<は、それが・・・どこを探しても見あたらなくて・・・>」

総統「<パパスには確か息子がいたはずだ、子供のほうも調べたんだろうな。>」
ゲマ大佐「<は、ですがボウヤのほうも・・・>」
総統「<そんなはずはないぞ、あの指輪を手放すバカがどこにいる。>」

ゲマ大佐「<も、申し訳ございません・・・>」

総統「<いいか大佐、あの指輪を何としても探し出すんだ。この世界には伝説の三つの
    指輪が存在する。‘炎のリング’‘水のリング’そしてこの私が持っている
    ‘命のリング’だ。」

ゲマ大佐「<はっ、充分心得ております。>」

総統「<ではもう一度おさらいするぞ、よく聞け。>」
ゲマ大佐「<ハイル ヒトラー!>」


640:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:38 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE55


総統「<三つのリングを手にした者は!>」
ゲマ大佐「<世界を手に入れることができます!>」

総統「<三つのリングを制する者は!>」
ゲマ大佐「<世界を制する者であります!>」

総統「<三つのリングを所有する者は!>」
ゲマ大佐「<世界の覇者であります!>」

総統「<三つのリングを持つ資格のある者は!>」
ゲマ大佐「<ナチス・ドイツ軍ヒトラー総統であります!>」

総統「<よし、わかったら何としても指輪を探してこい。もう下がれ。>」


ゲマ大佐「<ハイル ヒトラー!>」



~~~~~~~~~~~~~~~


641:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:40 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE56


アウシュヴィッツ収容所   1944年


リュカ「よいしょ、よいしょ・・・」

ドイツ兵A「<おら何をしてんだ、それで力入れてんのか?>」
リュカ「うぐ・・・」



地獄というものが本当に存在するとしたら、それは私にとってここ以外にありえない。

亡き父を想いながら毎日石を運ぶドレイ生活。
‘炎のリング’は今となっては父の形見になってしまった。

あのときゲマ大佐が父を殺した直後、死体を調べて何かを探していたようだった。
今思えばやつらは父の指輪を探していたようだ、やつらの目的は父の命だけではなく
この指輪が目的だったとは・・・。

だがどんなに父の死体や私を調べたところで指輪が出てくるはずもない。
なぜなら父が殺される直前、私はとっさに危機を察して指輪を飲み込んで腹の中へ隠したのだ。

のちに吐き出して今は肌身離さず持っているが。


642:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:43 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE57


ドイツ兵A「<おらおら、こんな石の量じゃとてもじゃないが足りないぞ!>」

ユダヤ人S「うぅ・・・」
ユダヤ人L「はぁはぁ・・・・」

リュカ「ふぅ・・・」

ドイツ兵A「<モタモタするな、日が暮れてしまうぞ。>」


ともかくここへ来てから時の感覚は失われた。
政府が私たちに何をしてくれているのか知らないが、外の世界にいたときよりも
過酷な日々を送っていた。

この当時で私はすでに15歳。


ヘンリー「リュカ、大丈夫か。手伝ってやるよ。」
リュカ「あ、あぁ・・・ありがとうヘンリー。」

ヘンリー「お前はいつまでたってもドレイになりきれないやつだな、その点俺は
     自分でもドレイとして身についたと思うよ。」
リュカ「ははは・・・」

ドイツ兵「<よーし!今日はここまでだ!各自部屋へ戻れ!>」

ヘンリー「おっと、ようやく作業終了か。行こうぜリュカ。」
リュカ「うん。」


643:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:48 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE58


だがここでできた友人もいる、彼の名はヘンリー・ラインハット。

私と同い年ほどの少年で、少し口は悪いが根はいいやつだ。
見かけによらず教養も身につけており、もともとは貴族の長男だったという。
彼の言うことだからどこまでが事実かは知らないが。

私はこの収容所でドイツ語は彼から教わった。
さらに収容所の仕事についても彼からいろいろと教えてもらい、ときには
ドレイとしての実生活まで学ばされた。



ヘンリー「ほら、一本やるよ。」
リュカ「ど、どうしたんだいタバコなんか・・・」

ヘンリー「仕事あとの一服は最高だぞ、ドイツ兵に見つかるなよ。」
リュカ「う、うん。」



ヘンリーは収容所の中でも盗み、商売、闇売買、なんでもやった。
ユダヤ人は商売にすぐれた人種だとは聞くが、彼の場合はそれ以上だ。


644:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:50 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE59


リュカ「ゴホッゴホッ・・・!」
ヘンリー「はっはっは、お前いいかげんにタバコぐらい吸えるようになれよ。」
リュカ「だ、だってこんなものどこがおいしいんだか・・・ゴホッ。」

ヘンリー「いいかリュカ、この収容所にいるかぎり敵はナチスだけだと思うな。」
リュカ「どういうことだい?」

ヘンリー「考えてもみろ、ユダヤ人同士とはいえここは堀の中だ。ここじゃ社会主義も
     独裁政治もヘッタクレもない、外で何が起こってようと関係ない。
     敵はすぐ隣にいるんだ。」

リュカ「あいかわらずだな、キミは。」

ヘンリー「俺たちがもともと住んでいたユダヤ人居住区も閉鎖されたそうだが、考えてみりゃ
     あのカベに囲まれたわずか0.24平方kmのせまいとこに押し込められているよりゃ
     ここのほうがずっとマシさ。」

リュカ「こんなとこがいいなんてよく言えるな、キミはどうかしてる。」

ヘンリー「俺こそ普通の人間さ、まいにち女っ気のないこんなところで強制労働だぞ。そりゃあ
     男としてタマるものはタマるだろ。」
リュカ「??」


645:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:52 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE60


ヘンリーは私と同い年のくせして変なところにカンが鋭く、悪知恵も働けば機転もきくやつだった。

おかげでむさくるしいドレイ仲間の攻撃から、シャワー室でケツを防備することだけは覚えた。
確かにここにいる以上、敵はナチスだけではなかったのだ。



リュカ「ヘンリー、そういえばゆうべかなり歳くったおっさんのドレイに
    寝込みを襲われそうになったよ。」

ヘンリー「ほう、お前ねらわれやすそうな顔してるもんな。」
リュカ「ど、どんな顔だよ。」
ヘンリー「だいたいお前さ、そんな高価そうな指輪してるから狙われるんだよ。」
リュカ「あ、これ?」

ヘンリー「親父さんの形見とはいえ、肌身離さず持っているとしまいにゃドイツ兵に
     取り上げられるぞ。」
リュカ「大丈夫だよ、この指輪だけは相手が誰であろうと絶対に手放さない。」

ヘンリー「指輪だけならまだしも、貞操だけは守っておけよ。飢えた野獣どもがたくさんいるし。」
リュカ「またそれか・・・」
ヘンリー「なんかアレだな、お前はオッサンに好かれるタイプなんかな。」

リュカ「やめてくれよ・・・」


646:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:55 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE61


私は夜の防備として、ヘンリーからこんなことを学んだ。

毎晩ベッドの中には鉄パイプを仕込ませ、洗濯室へは決して一人では行かないこと。
仮に複数で襲いかかれた場合は「助けてくれ」などと叫んでもドイツ兵は来ない。
そういう場合は「脱走だ!」と叫ぶのが一番の安全策だとのこと。

ともかく私はムスコの使い方を学ぶよりも前に、ケツの穴を守ることを真っ先に学習した。
輝かしい15歳の闇の思春期をむかえるとともに、純白の青春時代を夢に描く毎日。



ヘンリー「男ってのは性の限界点に達すると、異性だろうと同性だろうと関係ないんかな。」
リュカ「・・・・・」
ヘンリー「まぁせいぜい仲間にケツを狙われないようお互い気をつけようぜ。」

リュカ「でもヘンリー、ついこないだ女の子のドレイが入ってきたじゃないか。」
ヘンリー「知ってるよ、けっこうかわいい子だったな。」

リュカ「なんであんな子がドレイに?彼女どう見てもユダヤ人じゃないだろ。」


647:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:56 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE62


ヘンリー「なんでもいいが彼女の場合はケツだけじゃ済まないぞ。ヘタすると・・」
リュカ「だからヘンリー、どうしてキミはそういう基準しかものの見方ができないんだよ。
    ケツだの何だのって・・・」

ヘンリー「ははは、そういうお前だって男なんだぞ。ムリせずに困ったときは俺に言え。
     ドイツ兵から買ったポルノ雑誌を何冊か持ってる。」

リュカ「ちょ、ちょっと待てよ。キミはドイツ兵からそんなものを・・・」



こんな時代において、ヘンリーのような人間が案外生き残れるのかもしれない。

戦争というのは始まりと終わりだけを注意していれば安全だと彼は言う。
中間はいかに目立たずに、いかに上手に立ち回れることが生きるための教訓とのこと。
長いものには巻かれろってやつだ、何とも彼らしい生き方だ。


だがそんな個人主義のヘンリーが、思いもよらぬ行動をとったときの事件がある。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


648:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 12:58 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE63


ある日のこと、いつものように労働をしていたときのことだ。


ヘンリー「おいリュカ、あそこ見てみろ。」
リュカ「え?」
ヘンリー「あれだろ?お前が言ってた女は。」

リュカ「あ・・・」


そこにはむさくるしいドレイ男たちの中、ただ一人だけ女の子がいた。

マリア「<ふぅ・・・>」


ヘンリー「くぁー、ドイツ兵も残酷なことしやがるよな。こちとら女日照りで苦しんでるってのに
     あんなかわいい女のドレイを見せつけやがって。」
リュカ「よ、よせよヘンリー。聞こえるぞ・・・」

ドイツ兵A「<何をブツブツ言ってる、お前ら。>」

ヘンリー「<あ、いえ何でもないっす。>」
リュカ「・・・・・」


649:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:00 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE64


事件はそのとき起こった。
その少女が重い石を運んでいるところ、あやまってドイツ兵の足に石を落としてしまったのだ。


ドスン!


ドイツ兵C「<ぐあっ!>」
マリア「<はっ!い、いけない・・・!>」

ドイツ兵C「<こ、この小娘!俺は堤防じゃねえぞ!足の上に石を落としやがって!>」
マリア「<す、すみません!うっかり手がすべって・・・>」

ドイツ兵C「<うるせえ!女だからって容赦しねえぞ!>」


バシ!バシ!


マリア「<ああああ・・・!>」



相手が子供だろうと女だろうとドイツ兵にとってはただのドレイにしかすぎない。
その少女はドイツ兵にムチでさんざん痛めつけられていた。


650:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:01 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE65


ヘンリー「ひ、ひでえ・・・」
リュカ「・・・・」


ドイツ兵C「<その腐った根性たたき直してやる!>」

マリア「<ど、どうかお許しください・・・!>」
ドイツ兵C「<いーやだめだ、確かお前はドレイになったばかりだったな。この際だから
      自分の立場というものを徹底的に思い知らせてやる!>」


バシ!バシ!バシ!


マリア「<ひぃぃっ・・・!>」



ユダヤ人V「ひどいもんだ・・・誰か何とかしてあげられないもんかねぇ。」
リュカ「なんてことを・・・」
ヘンリー「・・・・・」


私は父が死んだその日から、すでに理性というものは失いかけていた。
ここでの虐待も黙って見過ごすほど、もう私の堪忍袋のヒモはとっくにゆるんでいた。


651:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:04 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE66


リュカ「ヘンリー、悪いけどボクはもうガマンできな・・・あ、あれ?」


驚いたことに私がドイツ兵に向かっていくよりも前に、ヘンリーに先をこされた。


ドイツ兵C「<なんだお前、何か文句があるのか。>」
ヘンリー「<あぁ、大いにあるね。女は殴るためにあるんじゃない、抱くためにある。>」
ドイツ兵C「<ほぅ、抱いたこともないくせにイッパシの口をきく生意気なガキだな。>」


気がつくと私も足が勝手に動いていた。


リュカ「大丈夫かい?キミ。」
マリア「<い、いけません・・・私にかまうとあなたまで・・・>」
リュカ「(ドイツ語・・・?)」

マリア「<お、お願いですから私にかまわないで・・・あなた方のためです・・>」
リュカ「<悪いけどその頼みはきけないや、ボクたちそれほどガマン強くないんでね。>」


652:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 13:04 50K1Eh7d
もう始まってたか。支援カキコと。

653:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:06 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE67


ドイツ兵C「<どいつもこいつもユダヤ人の風情で逆らいやがって!少しは学習できんのか!>」

ヘンリー「<あいにく俺たちはもの覚えが悪いんでな。>」
リュカ「<殺すことしか能のないドイツ兵よりはマシだけどね。>」


ドイツ兵C「<こ、この口のへらねえガキどもめ・・・!おい!こいつらにたっぷりと
       教育してやるぞ!>」
ドイツ兵X「<フン、覚悟しろ。>」
ドイツ兵Y「<ユダヤ人め・・・>」


ヘンリー「おいリュカ、今さら降りるなんて言うなよ。」
リュカ「キミこそ、命は大切にしたほうがいいよ。」


マリア「<や、やめてください・・・その人たちは関係ないです・・・>」


654:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:07 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE68


この乱闘さわぎでドイツ兵を二名ほどぶちのめしてやったが、お釣りはそれ以上に返ってきた。

血ヘドを吐くほど殴られ、ヘンリーは鎖骨を骨折、私はあばらを二本ほどやられた。
だがそれだけで済んで奇跡といえよう。
本来ならば私たちのこめかみに銃でズドンと一発、それで終わりだ。

私はもはや最終的に意味のない戦いを挑むようなバカに成り下がったというべきだろうか。
ここにいるドイツ兵たちと戦ったところで、何の得にもならないのだ。


意識ももうろうとしながら、やがて私たちの前に一人のドイツ将校が現れた。



リュカ「うぅ・・・・」
ヘンリー「ぐっ・・・・」


ヨシュア大尉「<何だ何だ、この騒ぎは。>」

ドイツ兵C「<は、ヨシュア大尉。ご苦労様です。>」
ヨシュア大尉「<ご苦労様じゃない、この騒ぎはいったい何だ。>」

ドイツ兵C「<は、この二人のドレイが歯向かってきて・・・>」


655:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:09 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE69


ヨシュア大尉「<この女は?>」
ドイツ兵C「<は、その・・・ドレイ女も反抗的だったので・・・>」

ヨシュア大尉「<・・・・・>」

マリア「<(お、お父さん・・・)>」
ヨシュア大尉「<(マリア・・・・)>」

リュカ「(だ、誰だ・・・?)」



この男はどこかで見覚えのある顔だった。だがどこで会ったのかはすっかり忘れていた。
そのドイツ将校は私たちをじっと見据え、やがて淡々と指揮を執りはじめた。



ドイツ兵C「<大尉、処分のほうは?>」
ヨシュア大尉「<まぁいい、この女の手当てをしてやれ。>」
ドイツ兵C「<はっ。>」

ヨシュア大尉「<こっちの二人は牢屋に閉じ込めておけ、だがその前にそいつらも
        手当てしてやれ。かなりの重傷だ。>」

ドイツ兵C「<は、はい。わかりました。>」


~~~~~~~~~~~~~~~~


656:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:11 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE70


牢屋内


リュカ「ヘンリー、大丈夫かい。」

ヘンリー「あぁ・・・何とかな。お前は?」
リュカ「あばらをやられたけど大丈夫だよ、手当てもしてある。」
ヘンリー「まいったな、けど石を運んでいたよりはマシかな。」

リュカ「ボクたちまでどうして手当てしてくれたんだろ、昔はこんなんじゃなかったはずだ。」
ヘンリー「あぁ、状況が良くなってきたって証拠さ。」
リュカ「状況?」

ヘンリー「頭つかえよリュカ、やつらどうして俺たちを殺さなかったと思う?」
リュカ「さぁ・・・」

ヘンリー「たまには新聞よめ、イタリアもソ連も宣戦布告してるんだ。ドイツ軍はすでに
     味方なんていない、もはやナチスが落ちるのも時間の問題さ。もう意味なく
     ユダヤ人を殺すようなマネはおおっぴらにできなくなったってことさ。」

リュカ「でもドイツ軍のヒトラー総統はまだ政権をにぎってるよ。」

ヘンリー「だがヤツはこないだの演説で暗殺されかかったって記事を読んだ。けっきょく
     未遂に終わったけど、どうやら犯人は内部の犯行ともウワサされてる。
     ドイツの中には反ナチス派もいるってことさ。」


657:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:13 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE71


リュカ「ヒトラーが生きているうちはまだ平和なんて言えないよ・・・」
ヘンリー「もうすぐだ、もうすぐでドイツは必ず降伏する。戦争ももうじき終わる。」

リュカ「ヘンリー、ボクこの収容所で妙なウワサを聞いたんだけど。」
ヘンリー「なんだよ。」
リュカ「ここで働かされているユダヤ人は、全て抹殺されるって・・・」

ヘンリー「そんなのただのウワサさ、現に俺たちまだこうして生きてるだろ。」

リュカ「でもここにはガス室が設備されていて、そこにユダヤ人を入れて殺すらしいよ。
    ここにいたユダヤ人の数が日に日に減っていくじゃないか。」

ヘンリー「仮にそれが本当だとしたら、なおさら早いとこ・・・ん?」
リュカ「どうしたんだい。」

ヘンリー「しっ、誰か来たみたいだぞ・・・ドイツ兵か?」

リュカ「どれどれ・・・」



収容所の牢屋に先ほどの少女がやってきた。
そして驚くことに、あのドイツ将校も一緒に・・・・


658:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:15 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE72


マリア「<さ、先ほどは助けていただき、ありがとうございました。>」

リュカ「<キミはさっきの子か・・・ケガは大丈夫?>」
マリア「<はい・・・申し遅れました、私はマリアと申します。>」
ヘンリー「<マリアか、かわいい名前だ。>」

マリア「<そしてこちらはヨシュア・ローゼンヴェルグ大尉です。>」
ヘンリー「<げ、こいつがあのヨシュア大尉だったのか・・・>」

ヨシュア大尉「<・・・・・>」


その将校は何も言わず、黙って私たちの牢屋のカギを開けた。

ガチャガチャ・・・・カチャン
キィィーーー


ヨシュア大尉「<出ろ。>」

リュカ「<は、はい。>」
ヘンリー「<どうも。>」


659:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 13:15 50K1Eh7d
カキコ

660:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:16 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE73


マリア「<お父さん、やっぱり危険じゃないかしら・・・>」
ヨシュア大尉「<そんなこと言ってられるのかマリア、急がないと手遅れになるぞ。>」

リュカ「!」
ヘンリー「<お、おとうさん?>」

マリア「<ご紹介できなくてすみません、実はヨシュア大尉は私の父なんです・・・>」
リュカ「<ということは・・・>」
マリア「<はい、私はマリア・ローゼンヴェルグ。ドイツ人です。>」

ヘンリー「まいったな・・・彼女がドイツ人だったとは。」
リュカ「よ、よせよヘンリー・・・」

ヨシュア大尉「<娘のマリアを助けてくれたそうだな、お前たちがユダヤ人であろうと
        何であろうと恩人には違いない。礼を言う。>」

リュカ「<あの・・・>」
ヨシュア大尉「<何だ。>」
リュカ「<い、いえ。何でもないです。(どうもこの人見覚えがあるような・・・)>」


661:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:19 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE74


ヨシュア大尉「<時間がないので手短に話す、実はわがドイツ政府は危機に陥っている。
        ソ連軍の攻撃も押さえられないどころか、イタリア軍まで参戦してきた。
        それに総統閣下の暗殺をもくろむ輩も日に日に増えていくいっぽうだ。
        残念だがドイツ降伏は時間の問題だろう。>」

ヘンリー「(バーロ、人殺しの政権なんぞつぶれちまえばいいんだ。)」

ヨシュア大尉「<お前たちも感づいているかもしれんが、実はこの収容所には毒ガスを
        設備しているガス室がある。>」

リュカ「!」
ヘンリー「<げげ!ウワサは本当だったのか!>」
ヨシュア大尉「<ユダヤ人は全て抹殺しろとの総統の命令だ。だが娘のマリアまで一緒に・・・>」
ヘンリー「<独裁者め・・・>」

リュカ「<あなたの娘さんはドイツ人じゃないですか。どうして彼女までドレイに?>」

ヨシュア大尉「<マリアは反逆罪としてドレイにさせられたのだ。>」

マリア「<だってお父さん!こんな政治は間違っているわ!戦争ですべて事が解決するわけ
     ないじゃないの!お願いだからヒトラーには従わないで!>」


662:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:23 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE75


ヨシュア大尉「<マリア、私は軍人だ。何がどうあろうと上官の命令は絶対なのだ。>」

マリア「<上官がユダヤ人を殺せと命じれば、お父さんも殺すのね・・・>」
ヨシュア大尉「<・・・・・>」

リュカ「<それで大尉、どうする気なんですか。>」

ヨシュア大尉「<娘を連れてここを逃げてほしい。>」
ヘンリー「<まじかよ・・・>」

ヨシュア大尉「<ここにお前たちの荷物も用意した、脱出の手口と経路はすべて地図に書いた。
        それから収容所のマスターキーを渡す、きっと成功するはずだ。>」

リュカ「・・・・・」
ヘンリー「ど、どうするリュカ。」

リュカ「・・・行くよ、やるしかないだろ。」
ヘンリー「そ、そうだな・・・」


663:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:25 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE76


ヨシュア大尉「<さぁマリア、この二人についていけ。>」
マリア「<お父さんも一緒に・・・>」
ヨシュア大尉「<だめだと言っただろう、私は任務を離れるわけにはいかん。>」

マリア「<お父さん・・・>」

ヨシュア大尉「<マリア、戦争はもうじき終わる。お前は平和な時代に生きて幸せをつかむんだ。>」
マリア「<うぅ・・・>」

ヨシュア大尉「<お前の言うとうり、私は悪い父親だったよ・・・だがもうあとには引けん。
        いつまでも元気でな・・・私はいつでもお前を愛している。>」

マリア「<お、おとうさん・・・!>」



私はその父娘のやりとりを聞いて複雑な想いがよぎった。
憎きナチスでも、中には彼らのように家族を愛して懸命に生きていこうとしている人もいると。

だがそれはそれ、これはこれ。父がナチスに殺された恨みは今でも忘れてはいない。


664:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:27 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE77


ヘンリー「<おい、行くなら早くいこうぜ。>」
リュカ「<マリア、さぁ行こう・・・>」
マリア「<は、はい・・・>」

ヨシュア大尉「<娘を頼む、それから・・・>」
リュカ「<何ですか。>」
ヨシュア大尉「<お前のその指にはめている指輪のことだが・・>」
リュカ「(し、しまった・・・)」

ヨシュア大尉「<・・・・・・>」
リュカ「<あ、あの・・・これはただの安物の指輪で・・>」

ヨシュア大尉「<総統閣下がそのリングを狙っている、くれぐれも気をつけることだ。>」
リュカ「<え・・・>」

ヨシュア大尉「<お前は不思議なやつだな、ナチスに対して敵意を持っているのは感じるが
        なぜか私やマリアに対しては敵意を感じられん。こんな形でお前たちと
        出会いたくはなかった・・・。>」
リュカ「・・・・」
ヨシュア大尉「<お前の目はどことなくマーサ様に似ている、気をつけて行けよ。>」

リュカ「<え?い、今なんと・・・?>」


ヨシュア大尉「<さぁ行け!ぐずぐずするな!>」

リュカ「<あ・・・は、はい!>」


665:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:29 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE78


ヘンリー「おいリュカ!行くぞ!」
リュカ「う、うん。」

マリア「<さようなら、お父さん・・・>」



こうして私とヘンリー、そしてマリアの三人は収容所脱出を図った。



ヨシュア大尉「<生き延びてくれ・・・マリア・・・>」





私が幼いころに出会ったあの将校、それが彼だったと気づいたのは脱出してからのこと。

のちに戦後になってから知ったのだが、このヨシュア大尉は翌年の1945年の4月に戦死したそうだ。
胸には聖母マリアの十字架を抱いたまま、ソ連軍の砲撃によって地に伏した。
ナチス・ドイツ軍の将校として享年45歳、その生涯を閉じることになる。


666:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:32 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE79


一方、私たち三人は無事アウシュヴィッツ収容所から脱出に成功。

マリアはカトリック教の教えを学んでいたため、とりあえず安全な町に隔離させ
近くの教会にシスターとして身を捧げた。



ヘンリーも同様に、マリアとともに戦争が終わるまで同じ町にとどまることにした。
のちに彼ら二人はその恋が実り、戦後1952年の春に結婚。翌年に長男を出産する。
息子の名はコリンズ・ラインハット。



そして私は戦争がまだ終わらない時代に、生存を確認するべく実の母を捜すことになる。
ナチス・ドイツ人の母マーサを捜し始めてから、すでに二ヶ月がたとうとしていた。



私の生まれ育った街サンタローズはすでに崩壊、住人どころかドイツ兵の一人として
誰もこの街にはいなかった。

.

667:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:34 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE80


この国のどこかにいる母マーサに会ったところで、私はどういう態度で再会すればいいのか。
私の父を殺した憎むべきナチス・ドイツ軍、そして母もドイツ人。

父と母の間にどんな出会いがあって 私が生まれたのかは知らない。



だが私は父を信じている。「生きてくことが最も大事」「この世で一番の宝物は家族」。



戦争という時代において 敵対している者同士が 愛し合ってはならぬという決まりはない。



どんなことがあろうと 私は私の家族を 信じて生きていくだけだ・・・・。




    第三章   ~闇の思春期時代~

         完



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


668:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:37 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE81



   第四章  ~青きその青春時代~



    1945年  2月  


ポーランド 西の都 サラボナの街にて


リュカ「ふぅ、とりあえず今夜はこの街にとどまることにするか。」



アウシュヴィッツ収容所から脱出したのはいいものの、母を捜し出すための情報が
何もなかったため、最初の二ヶ月間は国中をさまよい歩いた。



リュカ「どこか働けそうなところがあればこの街にしばらくいてもいいんだけどなぁ。」

*「おいそこの兄ちゃん、野菜買っていかないか。どれも新鮮だぞ。」
リュカ「あ、いえけっこうです・・・」
*「そこのあなた、ニワトリはいかが。タマゴも生めるしお肉も最高よ。」

リュカ「あ、あの・・・けっこうですので。」


669:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:39 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE82


路上で売りつけようとする商人たちをよけながら、私はふらふらと
街の商店街を歩いていると、ある一人の少女に出会った。いや、ぶつかった。


ドスン!


リュカ「うわ!」
フローラ「きゃっ!」


ドテ!


リュカ「す、すみません。大丈夫ですか。よそ見しながら歩いていたもので・・・」
フローラ「い、いえ、私こそごめんなさい・・・」



それはいかにもどこぞの富豪の令嬢のような気品ある少女だった。

そして倒れた少女を起こしてあげようと、私が手を差しのべたそのときだ。
これが運命的な出会いだとは、あまりにもベタな展開で今思い返すと吹き出してしまう。

指輪をめぐるこの少女との出会いが のちに‘運命的な再会’を果たすことになるとは・・・


670:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:40 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE83


リュカ「ほんとにゴメン、さぁつかまって。」
フローラ「は、はい・・・ハッ!」

リュカ「?どうしたの。」

フローラ「・・・・!」


このときは少女が何に対して驚いているのかわからなかった。
あとから知ったが、どうやら私の手の指に光る指輪を見て驚いたそうだ。


フローラ「あ、あの・・・ごめんなさい!失礼します!」
リュカ「ね、ねぇちょっと・・・」


足早に走り去っていった少女を、私はぽかんと口を開けたまま見ていただけだった。


リュカ「なんだよあの子・・・」


~~~~~~~~~~~~~~


671:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:41 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE84


宿屋 受付にて


リュカ「すみません、部屋あいてますか。」

ダンカン「お一人さまですか?」
リュカ「そうです。」
ダンカン「空いてますよ、少々お待ちください。」
リュカ「はい。」



年月というものはあっという間だと言うが、それとともに記憶のほうは
すぐに忘れてしまうものだ。
悲しい思い出は忘れることはできないが、それ以外のことはすっかり忘れてしまう。

このとき私とこの宿屋主人は、お互いまだ誰なのか気づいていなかった。
私たちは知り合いだったというのに・・・


672:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:43 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE85


ダンカン「・・・・あんた、身分証明書見せてもらっていいかい?」

リュカ「え?どうしてですか。」
ダンカン「いいから早く。」
リュカ「ごめんなさい、証明書はドイツ兵に取り上げられてしまって。」
ダンカン「ほぅ。」

リュカ「あの、お金なら足りると思うんですけど。」
ダンカン「すまんな、部屋はもう一杯だよ。他をあたってくれ。」
リュカ「え?」

ダンカン「ほらほら、そんなとこに立ってたらお客さんのジャマだろ。」

リュカ「ま、待ってくださいよ。さっき部屋空いてるって・・・」
ダンカン「知らないね。」
リュカ「・・・・・・」


戦時中はレストラン、ホテル、喫茶店はおろか、ろくに店で買い物ができなかった。
どいつもこいつもユダヤ人だとわかるとケムたがって追い払う。


673:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:44 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE86


ダンカン「おい、早く出て行ってくれないか。」
リュカ「ふーん、あんたボクがユダヤ人だと気づいて・・・」
ダンカン「面倒なことには関わりたくない、この街だってドイツ軍の領域なんだ。」

リュカ「あんたドイツ軍でもないくせに人種差別か、同胞として恥ずかしくないんですか?」

ダンカン「おい、いい加減にしないと警察へ通報するぞ。電話一本でかけつけてくるぞ。
     それともドイツ兵に連行されたいか?」

リュカ「何だと・・・おい、ちょっとこっちへ出て来い。」
ダンカン「な、なんだ。やるのかボウズ。」



長いことドレイ生活をしいられてきたおかげで、頭に血が昇るのも早くなってしまった。
昔はおとなしい子だったのだが・・・



ダンカン「このガキめ!通報されたいのか!」
リュカ「うるさい!ボクはおまえみたいな偽善者を見るとムカついてくるんだよ!」


674:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 13:46 50K1Eh7d
sage

675:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:46 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE87


もみあっているうちに、やがて宿屋の二階から一人の女の子が降りてきた。



ビアンカ「どうしたのお父さん、何を騒いで・・・」

ダンカン「あ、ビアンカ!すぐに警察を!」
リュカ「わかったよ!出ていけばいいんだろ!」

ダンカン「あぁそうさ、出ていけ!ユダヤ人は迷惑だ!こっちまで殺されてしまう!」
ビアンカ「お父さん、そんな言い方しなくても・・・あら?」

リュカ「ばかやろー!こんなとこもう二度とくるもんか!」

ビアンカ「・・・・」
リュカ「なんだよ、どいてくれ。」

ビアンカ「・・・・・・」

リュカ「どいてくれって言っ・・・ん?」


ビアンカ「そ、そんな・・・まさか・・・」


リュカ「え・・・・」


676:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:48 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE88


ビアンカ「あ、あなたなのね・・・」



リュカ「あ・・・あ・・・」



赤い糸の約束は果たされることになった。

その女の子は首に紫色の布を巻きつけていた。その布には見覚えがある。

母を見つけるよりも前に、この日は一つの願いがかなった。
その女の子はみすぼらしい格好をした私を前に、目に涙をためながらこう言った。



「私の大切な リボンを盗られました ドイツ兵のしわざでしょうか。」



そして私も目をうるませて彼女にこう答えた。



「いいえ 犯人はユダヤ人です ボクもターバンを没収されました。」


677:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:50 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE89


どんなに年月が経とうと、私たちの間に再会の言葉はいらなかった。

赤い糸の再会は今日、果たされた。
気がつくと私は使い果たしたはずの涙をこぼし、彼女を抱きしめていた。



リュカ「ビ・・ビアンカ・・・!」

ビアンカ「リュカ・・・!」



ダンカン「え?え?い、いったい何がどうなってるんだ・・・?」



~~~~~~~~~~~~~~~


678:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:51 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE90


宿屋 事務所にて


ビアンカ「もう、お父さんったら。リュカのことすっかり忘れて・・・」

ダンカン「いやーすまない、こんなに大きくなっていたから気がつかなかったよ。」
リュカ「ボクもダンカンさんだとは気づかなくて・・・」
ダンカン「ははは、私もフケたからなぁ。」

ビアンカ「リュカ、私はずっと信じていたわ。あなたがきっと生きていると。」
リュカ「うん・・・」

ビアンカ「パパスさんは?」
リュカ「・・・・・」
ビアンカ「そう・・・・」

ダンカン「・・・そ、そうか。さぞ苦労してきたんだろうな。うちでも母さんが
     ドイツ兵に殺されてね。」

リュカ「でもダンカンさんたちがこの街に住んでいたなんてビックリしたよ。」
ダンカン「あぁ、あれからあちこちの街をてんてんとしてな。ようやくこの街で
     小さな宿屋を経営することができたんだ。」


679:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:54 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE91


ビアンカ「リュカ、今日は泊まっていけるんでしょ?」
リュカ「そのつもりだったんだけど・・・」

ビアンカ「・・・お父さん。」

ダンカン「わ、わかってるさ。もちろん泊まっていってくれ。い、いや金なんて
     払わなくてもいいさ。ユダヤ人だろうと関係ない。」

ビアンカ「ごめんねリュカ、実は私のお母さんが殺されたのはユダヤ人を泊めて
     しまったからなの。だからお父さんもそのことで・・・」

リュカ「そうだったのか・・・。わかった、ボクやっぱり他のとこへ行くよ。」
ビアンカ「い、いえいいのよ。私たちは大丈夫だから。」

ダンカン「そ、そうだよリュカ。頼むから気にせんでくれ。」

リュカ「でも・・・」

チリン チリーン!

ビアンカ「あ、お父さん。お客さんよ。」
ダンカン「おっとまずい、じゃあビアンカ。リュカを頼むよ。」

ビアンカ「うん。」

~~~~~~~~~~~~~


680:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:55 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE92


宿屋 受付前


ダンカン「いらっしゃいませ、お二人さまですか?」

ルドマン「いや、悪いが客じゃない。ちょっとお尋ねしたいことがあってな。」
フローラ「・・・・・」

ダンカン「はぁ、何でしょう。」
ルドマン「この近くでみすぼらしいユダヤ人の少年を見かけなかったかね。髪は黒髪で
     黒の瞳、身長は・・・」
フローラ「お父様、たしか170と少しくらいだったと思います。」

ダンカン「あ、あのぅ・・・あなたは警察の方で?」
ルドマン「いやいや、ご心配なさるな。ドイツ軍の使いなどではない。」

ダンカン「(黒髪で黒の瞳、身長170と少し・・・リュカのことだな・・・)」

ルドマン「ここに泊まっている客でそういう少年はおりますかな?」
ダンカン「・・・・・」

ルドマン「・・・どうなされた、ご主人。」


681:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:57 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE93


ダンカン「あ、い、いえ・・・申しわけありませんが、そのような少年は
     ここには泊まっておりませんが。」
ルドマン「そうですか、邪魔しましたな。フローラ、行くぞ。」
フローラ「はい・・・」

ダンカン「(ふぅ・・・何なんだこいつら・・・)」

リュカ「ねぇダンカンさん、やっぱりボクほかのとこで泊ま・・」
ダンカン「バ、バカ!出てくるんじゃない!」
リュカ「え・・・」


フローラ「あ!」
ルドマン「どうした、フローラ。」
フローラ「お父様、あの方です!」
ルドマン「なに・・・?」

リュカ「あれ、さっきの女の子じゃないか。どうしてここに・・・」

ルドマン「ちょっと失礼、きみの手を見せてもらえないか。」
リュカ「?」
ルドマン「噛みつきはせん、きみの手を見るだけだ。」

リュカ「な、なんですかあなたは・・」

ルドマン「おぉ!本物だ!本物の‘炎のリング’だ!」
リュカ「!」
フローラ「お父様・・・」


682:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 13:59 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE94


ルドマン「き、きみ。この指輪をどこで?」
リュカ「これは父の形見ですけど。」

ルドマン「いやー!これは驚いた!まさに運命的な出会いとはこのことだ!きみ、ちょっと
     私の別荘まで来てくれんか。」

リュカ「ちょ、ちょっと・・・」
ルドマン「フローラ、何を恥ずかしがっておる。こっちへ来なさい。」
フローラ「は、はい。」

ルドマン「紹介しよう、私の娘のフローラだ。」
フローラ「は、はじめまして・・・」

リュカ「あのぅ・・・」

ルドマン「いやーこんなに早く娘のいいなずけが見つかるとは思わなかった!」
リュカ「はぁ?」


683:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:00 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE95


ダンカン「ちょ、ちょっとあなた。どこの方が知りませんけど何を一人で勝手に・・」
ルドマン「ええい離せ、私を誰だと思っている。」

ビアンカ「どうしたの?さっきから騒いで・・・」

リュカ「あ、ビアンカ。」
フローラ「!」


ルドマン「きみきみ、その指輪は炎のリングといってな。・・・まぁいい、面倒な説明は
     あとだ。娘の指を見てみなさい。」
リュカ「え?」
ルドマン「いいから私の娘の手に光るものをごらんなさい。フローラ、ほらお見せして。」

フローラ「はい・・・」

リュカ「あれ?これは・・・」


684:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:01 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE96


何がなんだかわけがわからなかったが、のちに改めて紹介された。

まずこの富豪の紳士はルドマン・カルバートという名のフランス人だそうだ。
そしてその娘がフローラ・カルバート。

ヨーロッパ各地にいくつもの別荘を所有しており、このポーランドにも二つほど
別荘を持っているそうだ。

そんなことはどうでもいいが、なぜこの私に興味を持ったのかが疑問だった。
あとから聞いた話によると、正確には私ではなく私の持っていた「指輪」が目的だったそうだ。

父の形見であるこの‘炎のリング’にどれほどの興味を持っていたのか知らないが、
これはあんたらのような富豪に売る気はないとはっきり言ってやった。


ところがそうではなかった。この指輪が欲しいわけではなかったのだ。
私はこのフローラという娘の指にはめていた指輪の正体を聞いて驚いた。

彼女がはめていたのは‘水のリング’という指輪だそうだ。

そういえば昔、父からこんな話を聞いたことがある。


685:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:01 50K1Eh7d
ガンガレー

686:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:02 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE97



     あぁ、詳しくは知らんが‘水のリング’という
               水の聖霊の指輪があるらしい。
             
          へぇー

    お前が炎のリングを持っているとすれば、いつかこの世界のどこかにいる
          ‘水のリング’を持った人に出会うときが来るかもしれんな。

         だとしたら何なの?

             ははは、お前のお嫁さんになる人のことだ。

                   えぇ?

         お前のお嫁さんはどんな娘なんだろうな、私も見てみたい。

                 や、やだよ。今からそんな・・・

                         ははは。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~


687:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:03 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE98


まったくバカげた話だった。

彼女は小さいころから‘水のリング’をはめていたそうだ。
大きくなっていつか結婚するとき、‘炎のリング’を所有している者に
嫁ぐのが夢だったとのこと。

親バカのルドマンはそんな娘がかわいくてしかたなく、今まで言い寄ってきた
フランス人の金持ち坊ちゃんたちのプロポーズを次々に蹴っ飛ばしてきたという。

親子そろって夢見るお星さまのイカれたフランス人だった。

私はこの世間知らずのフローラお嬢さまに、面と向かってこう言ってやりたかった。

「あのね、おじょうちゃん。サンタクロースなんてほんとはいないんだよ。」と。

ともかくこの日はいろいろなことがありすぎて、なんとも疲れた日だった。
ビアンカとの再会、フローラとの出会い。

私には母を捜すという大事な目的があるが、実は前から少し考え始めてはいた。
父を失った今、戦争が終わったら私も将来のことを考えねばと。

私にも家庭が持てるだろうか。
こんなユダヤ人に誰が嫁に来てくれるんだろうかと、まだ16歳のころから
真剣に考え始めていたのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


688:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:05 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE99


ダンカンの宿屋 二階にて


ビアンカ「だいじょうぶ?。」

リュカ「あーもう疲れたー。」
ビアンカ「うふふ、さんざんだったわね。ルドマンさんたちは別荘へ帰ったらしいわ。」

リュカ「かんべんしてほしいよ、なんでボクがこの指輪をしてたってだけで
    いいなずけなんてさ。」
ビアンカ「素敵じゃない、小さいころから夢見てた指輪をした王子さまを待ち続けて・・・」

リュカ「あのねビアンカ、ひとごとだと思って勝手な想像しないでよ。」
ビアンカ「いいじゃない、女の子ってそういうものにあこがれるものよ。」

リュカ「この指輪はもともと父さんのだよ、もしこの指輪をボクじゃなくて他の誰かが・・・
    例えば男じゃなくて女が持っていたとしたら、彼女どうする気だったんだろ。」
ビアンカ「さぁね、知らないわ。」

リュカ「相手が女でも結婚するつもりだったのかな。」
ビアンカ「しーらない。男の子って夢のないことばかり言うのね、あなたも昔はそんな子じゃ
     なかったのに。もっとかわいかったよ。」

リュカ「長いことドレイ生活で男を相手に貞操を守ってきたせいかな。」
ビアンカ「え??」
リュカ「あ、い、いや・・なんでもないよ。」


689:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:06 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE100


ビアンカ「あ、そうそうリュカ。夕食のお買い物につきあってくれない?」

リュカ「え、でもボクは・・・」
ビアンカ「泊まっていくんでしょ、遠慮することないのよ。それにあなたちょっとやせすぎよ、
     もっと栄養のあるもの取らないと。」

リュカ「そ、そうかな・・・」

ビアンカ「ほら早く、行くわよ。」
リュカ「わ、わかったよ。そんなに引っぱるなって。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


690:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:07 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE101


一方そのころ―――ベルリン  ナチス・ドイツ軍本部 総統室


一人のドイツ士官が総統室へやってきた。

ガチャリ


ドイツ士官「<ハイル ヒトラー!西区から受けた連絡をご報告にきました!>」

総統「<言ってみろ。>」

ドイツ士官「<は!西の都サラボナの街において、水のリングを所有しているフランス人の
       家族を発見したとのことです!>」

総統「<何だと?>」

ドイツ士官「<ジャミ中尉とゴンズ中尉が現場に向かっています!>」
総統「<よし、指輪を入手したら連絡をよこせと伝えろ。>」

ドイツ士官「<ハイル ヒトラー!>」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


691:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:08 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE102


サラボナの街  商店街通り


リュカ「ビアンカ、まだ買うつもりなのかい。」

ビアンカ「えーと、ジャガイモにタマネギでしょ。トリ肉にパセリと・・・」
リュカ「そんなにたくさん買ってどうするんだよ。」

ビアンカ「あなた毎日なに食べてたのよ。」
リュカ「豆だよ。」
ビアンカ「ダメよ、もっと栄養つけないと。今夜は私がおいしいもの作ってあげる。」
リュカ「そっか、それは楽しみだな。」

ビアンカ「えーと、あとは・・・あら?」
リュカ「どうしたんだい。」

ビアンカ「ちょ、ちょっとリュカ・・・あれ見て。ルドマンさんたちじゃない?」
リュカ「え?」


そこには先ほどのルドマンと奥さん、それにフローラもいた。
彼らはなぜかドイツ兵に捕らえられていた。


692:名前が無い@ただの名無しのようだ
04/03/05 14:09 50K1Eh7d
支援

693:K ◆6VG93XdSOM
04/03/05 14:09 0olQCRLU
      戦場の花嫁  PAGE103


ルドマン「<ま、待ってくれ。話せばわかる。私たちはただ・・・>」
妻「あ、あなた・・・!」

ジャミ中尉「<三人ともそこへひざまずけ。>」
ゴンズ中尉「<おい、お嬢ちゃんもだよ。そこへひざまずけ。>」

フローラ「う、うぅ・・・助けて・・・」


私はひとめ見てわかった、こいつらの顔は忘れない。
ドイツ士官のジャミ中尉とゴンズ中尉だ。


ジャミ中尉「<もう一度聞くぞ、お前ら家族は水のリングを持っているはずだ。>」
ルドマン「<し、知らない・・・>」
ジャミ中尉「<ウソつくな!お前ら家族が指輪を持っていると連絡を受けている!>」

フローラ「(お、お父様・・・もう指輪を出したほうが・・・)」
ルドマン「(バ、バカを言うな・・・あの指輪は家宝なんだぞ・・・)」
フローラ「(でもこのままじゃ私たち殺されて・・・)」

ゴンズ中尉「<おい!何をゴチャゴチャ言ってる!さっさと指輪を出せ!>」

ルドマン「<だ、だからそんな指輪は知らないと・・・>」

~~~~~~~~~~~~~~



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