03/05/06 00:50 160Qi7v3
目を閉じて、塔から身を投げたときの光景を思い起こしながら。
「もう二度と君に会えなくなると気付いた時、分かったんだ」
再び開かれた瞳は、目の前のリルムの姿をしっかりと捉えていた。
「俺は、リルムを失いたくない」
フィガロも夢も仲間も。
セッツァーの言うように、多くを求め過ぎているのかも知れない。
でも、こう思う気持ちは本心なのだから仕方がない。
「……迷惑かな?」
力無く笑うと、照れたように視線を外す。いつもは見せないそんな仕草を見な
がら、リルムは小さく笑みを浮かべる。
「へー、色男でも照れたりするんだ?」
揶揄するような口調は嬉しさの裏返し。
「自分でも驚いたよ。こんなに口下手だと思わなかったからね」
兄とは対照的に、女っ気の欠片もない弟に偉そうなことを言えないな、などと
苦笑しながら。
「いつかこの城へ来てくれる日を待ってるよ」
これだけを口に出すことが、今の彼には精一杯だった。
今までは、女性も夢も、追っている方が楽しいと思っていた。
だけど今は―
訪れる幸せを、静かに待ってみようと思うのだった。
砂漠の城を淡く照らし出す月光の下、二つの影が並ぶ。
肌に触れる冷たい夜気と穏やかな静寂が支配するこの場所が、やがて二人を祝
福する熱気と歓声に包まれるのは、そう遠い日の話ではなかった。
砂漠の王と風の覇者ー終ー