03/04/16 01:26 y+1YmJ10
「兄貴ー!」
頭上彼方から降り注いだ弟の声に、エドガーは我に返る。上空を見上げ一つ頷
くと、塔の先端まで歩きはじめた―リルムを救出した時と要領は同じだ。何も
難しいことではない―と、二人は考えていた。
しかし。
「……!?」
突然、エドガーの足下が波打つように揺れ、視界が大きく歪む。
一方、上空のマッシュ達も下から吹き上げる強烈な熱風に煽られながら
辛うじて飛行を続けていたが、これでは今の体勢を保つことで精一杯だった。
塔の完全な崩落が近い―地上と上空の三人は、それを悟った。
「兄貴!!」
「セッツァー!」
マッシュとリルムの声がほぼ同時にこだまする。倒壊寸前の塔にいるエドガー
と、飛空艇の尾翼に炎が迫っていた。
「マッシュ!」
もしもの時はこの場を離脱しろ。エドガーは飛空艇の弟やセッツァーに向けて
そう伝える―万が一、自分が地上に戻れなかった時のために。
「……セッツァー」
リルムは塔に残されたエドガーと、操縦桿を握るセッツァーを交互に見やった。
今の自分には何もできない、そんな無力感に苛まれながら。
振り返らずに、セッツァーはその声に応えた。
「―そう簡単に引き下がる訳にはいかないな。俺を誰だと思ってる?」
彼らしい不適な笑みを浮かべると、リルムとマッシュに向けて言い放った。
「覚悟は良いな……突っ込むぞ!」
これが最後のチャンスだろう。塔が崩れるのが早いか、飛空艇が炎に巻き込ま
れるのが早いか……。
その前に、エドガーを助け出す。
「ファルコンよ。今一度、俺に付き合ってくれるか?」
“世界最速の男”―風の覇者セッツァーと、それぞれの思いと命を懸けた、
真剣勝負だった。