02/11/29 12:57
《午前8時四十分前後》
「愛する者の命のために。」
まっすぐなエリアの眼差しを正面から受け止めながら、セシルは答えた。彼女の問いに。
その言葉に、エリアの微笑が消え、何か別の表情が取って代わる。
「…そのために命を奪うのですか?沢山の、同じ、命を。」
我知らず手を握りしめながら、エリアは静かに言った。自分を押さえていないと、怒鳴りだしてしまいそうだ。
「僕にとって、命は“等価”じゃない。このゲームに参加してる全ての人間より、僕にとってのローザの命は重い。」
彼自身、冷たいなと驚くほどの声音でセシルが言う。まるで自分に言い聞かせるみたいに。
セシルは、ウソを言ってはいなかった。少なくとも今の時点では。
昔は、ゲームに参加する前は、そうは思っていなかった。全ての命は等価値だと思っていた。
だけど、気づいた。彼女が死んで。
彼女は何よりも大事だ。だから、他の命を奪ってでも彼女を生かす。
決意した時、彼はゾーマの操り人形になる事を決め、己を捨てた。
リディアと出会い、まだ僅かに心に残っていた己に気づき、再びソレを放棄した。
カインと出会って、再確認した。
セシルは今、誰だって殺せる。エッジでもカインでもリディアでも。ましてや知らない他人の命などそれ以前だ。
「…分かります、あなたの思いは…だけど、私にも背負うモノはあります!同じくらい、重いモノが!」
思わずそう叫んで、エリアは携帯していたミスリルナイフを抜いた。
エリアの心の中で焔(ほむら)が唸った。優しき水の心の中で、炎が怒りの産声を上げた。勇気の炎が。
その瞬間、セシルの表情が変わった。顔が強ばる。顔の裏で激情が爆発する!
どぉぅんっ!と、エリアの足下で黒の衝撃が弾け、ばっと雪が散る。周りに生えている木の一本が衝撃で倒れる。
剣の切っ先をこちらに向け、セシルが低く叫んだ。先ほどの黒の爆発も彼の仕業か。
「分かるものか…あなたに…!」
剣の切っ先に黒い光を集め、それをエリアに向ける。
…このまま話していたら、捨てたはずの己が戻ってくる。ソレは駄目だ。
ローザを生き返らせるためには、みんな殺すためには、何よりも、甘い自分自身が不必要なのだから。