08/03/18 21:36:32 rSCCHntg
冒険者ギルドに行くと、目新しい広告を発見した。
「カースメーカーと一緒に6階ダメージエリアを歩いてくれるレンジャー大募集!」
「必要資格:警戒歩行」
「宿賃支給」
給金は悪くなく、採集係として幾つかのギルドを点々とした私には最適な条件だった。
警戒歩行のMaxLVを取得していることを伝えると、すぐに採用された。
仕事の内容は簡単だった。
カースメーカーの少女を連れ、樹海磁軸から6階のダメージゾーンへと向かう。
そこで、2人ともHPが1になるまで歩き回り、磁軸から町に帰ってくるだけ。
この役目の辛いのは、宿賃が保証されているとは言え、瀕死になるまでダメージエリアを歩く必要がある…
…ということではない。
嫌がるカースメーカーの手を無理やり引き、任務が終わると自分だけが宿でゆっくり身体を癒すことによる、罪悪感だ。
湯につかり、露天風呂から空を見上げると、少女の細く、青白い手が思い出された。
冷たく、それでいて僅かに波打つ生命の脈動は、床についても生々しく脳裏に呼び起こされた。
宿のロビーで、ある高名なギルドが竜をしとめた話を聞く。
そのギルドには凄腕のカースメーカーがいて、竜を仕留めたのもペイントレード―痛みを呪いに変えて繰り出される秘術―だったらしい。
ドラゴンには、呪われるような謂れは無いんだよなあ―私は、たまらず呟いた。
呪われるべきは、私だ。
痛みを与えたのは、他ならぬこの手だ。
少女の頬を伝う涙を拭い、カースメーカーとしての宿命を諭し、幾日もその命を刻み続けた。
翌日ギルドに顔を出した私は、役目を辞する事を伝えた。
視線の端に少女の姿が映ったが、―少女は僅かに口の端を上げただけだった。