07/10/17 00:09:12 0vhPE294
でも鬱注意。
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ちりりん、ちりりん。
樹海に響く鈴の音。呪い師の呪術の鈴の音。
しかしその音はどこか優しく、それは呪いではなく子守歌によく似ていた。
枯れ果てた巨木に背中を預ける小さな少女。
全身を鎖に繋がれ、漂う空気は腐臭、その瞳は地獄の釜の底のように暗く重く平坦だ。
カースメイカー。忌むべき呪いを操る呪術師。
その存在を好く者は多くない。彼女らは存在自体が嫌悪と恐怖の対象であり―
それ故に、今の今まで絶える事はなかった。
しかし、その場にはそんな社会一般の常識を、完全に無視した少年がいた。
さらりとした金髪に白銀の鎧、年若いがキリリとした顔立ちの少年。
パラディンとして聖堂に使えた騎士だ。カースメイカーとは真逆の立ち位置にいる輝かしい地位にいる人間。
それが、カースメイカーの少女の膝枕でぐっすりと眠っている。
一件奇妙な取り合わせだが、２人にはそんな事をものともしない絆があった。
―物心付いたときには２人ぼっちの姉弟だった。
ある時弟は、「騎士になる」と言って出ていって、私は残された。
仕送りだけはあったけど、私の心は荒んでいった。
ずっと、あの子は私が助けてたのに。ずっと、私が姉であって、母親代わりだったのに。
置いていかれ、私は荒んだ。
だから、嬉しかったんだ。立派な鎧を着込んでこの子が迎えに来てくれたとき。
栄養不足で背も伸びず、子供の頃のままのような私を、大きくなった弟が迎えに来てくれたとき。
私は、この子のためになろうと決めたのだ―。
ちりりん、ちりりん。
眠りを誘う呪いの鈴の音は、少年をぐっすりと眠らせていた。
……だから、そのざっくりと裂けた脇腹の痛みも感じることなく、実に穏やかに死へと向かっていた。
少女の胸元にも致命傷となりうる巨大な擦過傷があるがそちらは気にもとめない。
自分を忘れないで居てくれた愛しい弟に、せめて安らかな死出の眠りがあるように。
薄れ逝く意識の中、呪い師は必死に弟を呪う。汝、幸せに逝くべしと。
ちりりん、ちりりん。
樹海に響く鈴の音。呪い師の呪術の鈴の音。
どこか優しく、呪いではなく子守歌によく似た鈴の音は、やがて止まった。
君達は一縷の望みを抱いて動かなくなった彼女らを助けようとしてもいいし、
せめて安らかに眠れるよう、手厚く埋葬してもいい。
彼女らの旅立ちの邪魔をせぬよう、無視して先へ進むのも自由だ。