【小説】ポケモン ドリームワールドat POKE
【小説】ポケモン ドリームワールド - 暇つぶし2ch600:名無しさん、君に決めた!
08/01/23 19:07:44
>>597に色々突っ込みたいと思いつつスレ容量を心配しながら600

601:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 09:29:11
今日あたり来るかな?

602:1/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:32:42
スレ容量が足りるか不安だけども…
投下します。

603:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 18:36:34
キタ━(  )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━(  )━ッ!

604:1/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:37:22
『壁』から出た瞬間から、そこは既にテレキシティの中だった。
樹木のようにそこらに高く生え揃っているビル群、観光者を誘惑するための様々な看板、
アスファルトで舗装された道、そして前の村や森とは比較にならぬほどのポケモンの密度。
真上を見上げれば、青い空の下に電線が縦横無尽に走っている。
耳から入ってくるのは小鳥のさえずりでも葉擦れの音でもなく、ポケモン達のざわめきと雑踏。
都会特有のくどいぐらいの賑やかさは、まるでぼくらを歓迎しているかのように、
断続的に、止むことなくぼくらの周りを取り巻いていた。

「いかしまー、予想していたよりも、すっごい都会だなァ……
 一回家族旅行で行ったオオガネシティ並の都会っぷりだよ」
ぼくらにとっては都会なんてそんな珍しい物でもないはずなのに、
辺りにある近代的なモノの一つ一つに興味が惹かれてたまらない。
田舎から初めて都会に上京して来た人とか、たぶんこんな気分なんだろうなァ。
フライゴンなんかは、そこらのビルに張ってある看板を一々指差しては、はしゃいでいる。
「うわーっ、見てくださいよアレ! 『ブーピッグ心療内科 話題の黒真珠療法で癒します』ですって!
 黒真珠療法ですよ、黒真珠療法! インチキくさいはずなのに、何だか本当っぽい! うわーっ!」
「インチキくさいからインチキなんだろ? どれ、じゃあ試しに入ってみるか」
「いやいやァ、それはいーよ。そんなことよりボクは早く腹ごしらえがしたいなーっ!
 エビのノワキソースがけが食べたいなー。多分ここには無いだろうけdpさー」
都会の喧騒に負けないくらいの勢いで、フライゴンは騒いでいる。
ジュカインはそんなフライゴンを見かねたように、ため息混じりにこう言った。
「あのなーっ、フライゴンお前はしゃぎすぎっ! ガキじゃねーんだからさ。
 あくまで目的は物資調達とはぐれた仲間を探すこと……だろ? コウイチ」
「ん? まぁそうだけど……ま、いーんじゃないの、せっかくだしこういう時くらいはしゃいでもサ」
「ですよねーっ、さすがコウイチくん……おやっ」
と、ふとフライゴンがある方向へ視線を向けたまま固まってしまう。
その視線の先にあったのは、店頭販売をしているタイプのクレープ屋さんだ。

605:2/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:41:29
「ねーねー、せっかくだしアレ食べません? クレープ」
ぼくの服の袖を引っ張りながら、フライゴンは案の定そうおねだりを始めた。
ぼくは笑顔で頷くと同時に、財布を掴むために腰のポシェットへ手を……
おっとっと、この手じゃあポシェットを開けられない。
「ねぇジュカイン。ぼくこの手じゃあ何も掴めないからさ、ポシェットの管理よろしく頼むよ」
「オッケーオッケー。しかしその手だと色々不便だよなー? 
 後でさ、指の数がわかんないタイプの手袋でも買って付け替えようぜ」
「うん、そだね」
確かに、このさき指を使わなくちゃいけない場面なんかいくらでもあるだろうしね。
まず物食べるのに指使うし……フライゴンにアーンして食べさせてもらえばいいけど、そりゃカッコ悪いよね。

「よいしょっと……えーと、クレープ買うんだよな? ねだんは?」
「一つ400円だね。ボクはあのエビグラタンクレープが食べたいなァー」
フライゴンは食べるのを大層楽しみにしているのか、聞かれてないことまで余計に答えている。
「よし分かった。ええと、財布どこに入ってんのかな……」
ポシェットをぼくの腰から外し、中をまさぐって財布を探し始めるジュカイン。
「おっ、あったあった」
教えてあげる必要もなく、ジュカインは程なくして財布を探し当てた。
ジュカインは、財布につけてあるモンスターボールの模型つきのストラップを引っ張り
財布をポシェットから出し、中からお金を取り出そうとチャックを開けようとする。
……その途中、彼は急にこんなことを言い出した。
「この財布……なんか中に生き物でも入れてんのか?」
「え?」
突拍子も無くそんな事を言い出すジュカインに、一瞬ぼくは戸惑う。
「生き物なんか入れてないよ……なんで急にそんなことを?」
どうしてそんなことを言い出したのか理解できないけど、とりあえず否定しておく。
そうすると、ジュカインは不思議そうに首をかしげながらこう言った。

「いや、さ……『動いた』。いま、この財布……『動いた』んだよ」
「えっ?」

その瞬間、刺すような頭痛が突如ぼくを襲った。

606:3/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:45:21
そして同時に、ジュカインの手の中にあった財布が突如宙を舞った。
まるで財布自体に意志があるかのように、飛び上がりジュカインの手を離れたんだ。

「なっ!?」
突然の怪現象に驚愕し、ジュカインは一声を上げた。
辺りを闊歩する群集の視線が、一斉にこちらへと集中する。
その傍ら宙を舞った財布は、ポケモン達の群集の中へと消えていった。
そして、ぼくは確かに見た。群集の中その財布を受け止めたポケモンがいたのを。
その小さなポケモンが、財布を受け取ったと同時に、群集を掻き分けて逃げていくのを。

先ほど感じた頭痛……あれは、ついさっき体験したことがある。
審査所で、ルンゲラさんにサイコキネシスをかけられた時に感じた頭痛と同じだ。
……それを理解した直後、ぼくはいま何が起こったのかを瞬時に理解した。

「ひ……ひったくりだっ!! 財布を盗まれたんだっ!!」

衝撃のあまり、思わずぼくはそう叫んでしまった。
「えっ!」
「盗まれたって、ど、どういうことだよ?」
反応するフライゴンとジュカインに、ぼくは慌てて説明する。
「ぼくは見たぞ、いま飛んでいった財布を受け止めて、そして逃げていくポケモンがいたのを!
 サイコキネシスだっ。サイコキネシスを使って、財布をまんまと盗み出したんだ!」
「な、なんだってっ! ちくしょう、犯人を追わなきゃ―」
そう言って犯人が逃げた場所すらも分からないままフライゴンは走り出そうとするけど、ぼくはそれを咄嗟に止める。
「ダメだよ、もう見失っちゃった……盗んだポケモンの姿もよく見えなかったし、諦めるしかない……」
そう、犯人は既に群集の波にもまれ消えてしまっていた。
その群集も、ひったくった犯人を捕まえてあげようとするような人はいないし、
みんなほとんど見て見ぬふりをしている。冷たい群集だ。
都市に入ってからまだ十分も経っていないっていうのに、いきなり文無しになってしまった……

607:4/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:49:11
それにしてもひったくり事件が目の前で起こったっていうのに、
ここの都市の人たちは何でみんな、興味なさそうというか……
まるでこれが『日常の一環』だといった風に、何食わぬ顔をしているんだ?
窃盗が日常的に起こるほどに、ここは治安の悪い都市なのか? そうは思えないけど……

「え~~~、都市に入って急にひったくり~~~? ふあぁー……」
フライゴンは深いため息をつき、魂が抜けたかのようにガクンとうなだれてしまった。
お金がすべて盗まれてしまったのだから、目の前のクレープはもちろん、
この先どこに行っても何も食べれないということを瞬時に理解したのだろう。
「オ、オレのせいじゃあないぞっ! ……って、やっぱこれオレのせいだよな……?
 ごめんな、フライゴン、コウイチ。もう少しオレが注意していりゃあ……」
しゅんとして、すまなそうに頭を下げるジュカインに、ぼくはフォローを入れる。
「いいや、ジュカインは悪くないよ。悪いのは、どう考えてもひったくり犯の方じゃないかっ。
 だからそんなしゅーんとしないでよ。そんな姿はキミには似合わないよ、ジュカイン」
「ああ……」
フォローしてみたはいいけど、罪悪感を一身に感じているようなジュカインの態度は変わらない。
そうだよね、基本的にジュカインは繊細で、細かいところを結構気にするようなタイプだからなぁ……

やっばい。都市に入ったばっかりだっていうのに、急にみんなのモチベーションがガタ落ち状態っ。
こういう時って、トレーナーのぼくが何とかしなきゃだよね……う~ん、どうしよう。
……ポケモン二体が周囲でうなだれている中、必死に頭を働かせること数十秒後。

「あの~……もしもし、あなた観光してきた方ですよね?」

「へ?」
天の助けなのか、はたまた単なる時間潰れの種なのか、
突如見知らぬユンゲラーがぼくの前にやってきて、そう声をかけてきた。

608:5/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:52:37
ふつう種族が違えば顔の見分けなんて大体つかないのが普通だけれど、
いまやってきたこのユンゲラーは、今まで出会ったどのユンゲラーとも違った者であるとは容易に分かる。
スーツを着こなしていたあの役人ユンゲラー達とは違って、
彼はチェックのシャツにジーパン、と割とカジュアルな服装をしている。
黄色い肌にはハリがあり、ヒゲも生やしておらず、全体的に若々しい雰囲気を持っている。

いきなり知らないユンゲラーに話しかけられて、ぼくはちょっと戸惑い、
また多少警戒しながらも、彼が投げかけた質問へ答えを返した。
「はい……そうですけど、何の用でしょう?」
そうすると、彼はその答えを期待していたとでも言うように笑顔を浮かべた。
「ああ、やはりそうでしたか! ええと、わたくし……」
しかし、なぜか彼はそこまで言いかけてから一度口を噤んでしまう。
そして数秒後、彼の口が再び開いたと思ったら、また質問が飛んできた。
「あのう、あなたがた財布をひったくられた、というか……とられたんですか?」
「……? はい、そうですけど……」
このユンゲラーが何を言いたいのか、いまいち理解できない。
心配してくれるのなら嬉しいことは嬉しいけど、事態が進展するわけでもないしなぁ……
そんなことを考えてた矢先、彼はいきなり笑顔を取り戻して、こんなことを言いだした。

「あっはっは、最近よくあるんですよね、観光者を狙ったこういう事件。
 でもね、安心してください。これはひったくり事件ではなくて、ある子供の『イタズラ』に過ぎません」
「へ?」

言ってる意味すらもよく理解できなくてつい疑問符を返してしまうけど、
なんだかぼくらが悩んでいたことが全くの杞憂であったかのような……そんなニュアンスだ。
そしてそんなニュアンスに反応したのか、ジュカインとフライゴンも顔を上げてそのユンゲラーを見つめだした。
ユンゲラーはぼくらへ向かってニコリと柔らかなほほえみを投げかけながら、こう言った。

「もよりの交番へ行ってみてはどうです? ……あ、私が案内しましょう。ついてきてください」

609:6/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:57:22
「……赤と白のボールがついたストラップをつけてある、黒い長財布です。
 20万金くらい入ってて……『コウイチ』ってなまえも書いてあります。
 まさかあるとは思いませんけど……ありますか?」
「はい、少々お待ちくださいね……」

ユンゲラーさんに案内されてたどり着いた交番にて、ぼくはダメ元でそう聞いてみる。
……ユンゲラーさんいわく、ひったくられた財布はこの交番に届けられているはずだって言うんだ。
ありえない話だ。財布をひったくられたのは、ついさっきの出来事だっていうのに……
そして数十秒後、おまわりさんから帰ってきた答えはこうだった。
「……ええ、届いてますよ。さきほど届いたばっかりです」
「ウソ……!?」
「マジかよ、さっきひったくられたばっかだぞ!?」
「そんな、信じられない……」
先程ひったくられたばかりのぼくの財布が、『落し物』として保管されている……
その奇妙な事実に、ぼくらは財布が戻ってきた喜びよりも、驚きのほうが先行していた。


「財布が戻ってきたのはいいことだけど……ほんと、なんでなんだろう」
交番の外。手元に戻ってきた財布をいじくりながら、思わずぼくはそう呟いてしまう。
フライゴンやジュカインも同じく未だに不思議がっていて、次々に推測を投げかけてくる。
「だれかがひったくり犯を捕まえて、交番に届けてたんじゃあないですか?」
「いや、それなら何でオレら本人に財布を返さないんだって話だろ。
 ひったくり犯がどっかで財布を落として、それが……って、それも有り得ないか」
交錯する身のない推論。それに決着をつけたのは、交番へと案内してくれたあのユンゲラーさんだった。

「簡単なことですよ。ひったくり犯が自ら交番に届けたんです」

「はい?」
ユンゲラーさんの言ったそのひどく矛盾している答えに、ぼくらは耳を疑った。

610:7/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:01:48
「いやね、最近この都市ではよくあることなんですよ……
 犯人は子供で、名はマネネ。この街でその名を知らない者はいないと言われる
 天才マジシャンのご子息……いわゆる、お坊ちゃまですよ」

「え……じゃあ、あれはそのお坊ちゃまの単なるイタズラってことですか?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「…………」
現地の人が言っているんだから嘘ではないのは分かるけど、なんとも信じられない。
超能力を利用して、そんな悪質なイタズラをする子供がいるなんて……
というか、何で素性まで知られているのに誰も対策を講じないのか、それが疑問だ。
……そんな疑問を抱きはじめた途端、ジュカインがそれを口に出して代弁してくれた。
「なぁ、ユンゲラーさん。なんでそのお坊ちゃま、そんな名前とか知られてるのにさ、
 誰も対策しないというか、説教とか補導とか……そういうのをしようとしないんですか?」
「いやあ、確かに、あの子がそういった悪質なイタズラをしているというのは街中みんなが知っていますけど、
 そのマネネくんはまだ二桁もいかない子供ですし、なにより人気マジシャンの子供ですからね。
 いわばマスコットとでもいいますか。実害はまだありませんし、みんな甘い目で見逃してやっているんですよ」
なるほど、じゃあ目の前で観光客が財布をひったくられてるって言うのに
街の人がみな何食わぬ顔をしているのは、そういう理由だったのか。
……いくらなんでも、ちょいと甘すぎるんじゃないのか。
そう思い始めたら、ジュカインが見事にそれをまた代弁してくれた。
「……ちょいと甘すぎるな、ここの街の奴らは! こんな悪質なことをするヤツを甘い目で見逃すだと?
 更正が必要だな、間違いなくっ! このオレが、そのマネネって坊やの腐った根性を叩きなおしてやりたいぜっ」
ジュカインは憤りを露わにして、普段は細めている目をかっ開き、声を荒げている。
……そのジュカインの気持ち、分からないでもない。
なにせ彼はその『お坊ちゃま』という人種に、無垢なイタズラという名の虐待をされた経験があるのだから。
「ったくよー。そのマネネ坊やの親の顔が見てみたいぜっ! これだから金持ちのお坊ちゃまって人種はよー……はっ!」
「…………」
「……す、すまん、つい口が滑っちゃって……えへへ……」

611:8/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:05:08
「とにかく、ありがとうございますユンゲラーさん」
「ありがとうございます~」
「ありがとうございますっ!」
「いやいや、礼は入りませんよ。するべきことをしたまでですから」
ぼくたちが一斉にユンゲラーさんへとお礼をしても、彼は謙虚な姿勢を崩さない。
ああ、こういうのが『大人の鏡』っていうんだよね。何に対しても低姿勢で物腰柔らか。
相手はポケモンだけど、素直に憧れちゃうよ。

……でも、いくら彼が親切で優しい大人とはいっても、
この事を教えるためだけに話しかけてきたってことはないだろう。
そういえば、一回何かを言いかけて口を噤んでいたっけ。この方の本当の目的は一体?

「そういえば、ユンゲラーさん。ぼくたちに、他に何か用がありますよね?」
さりげなくそう聞いてみると、ユンゲラーさんは思い出したようにハッとした後、ほがらかに笑いながらこう答えた。
「あー、あっはっは、すいません、本当の用件を忘れちゃっていました!
 ええと、わたくしこういう者でしてねっ。ご確認ください……」
ユンゲラーさんは懐から一枚の名刺を取り出すと、ぼくに差し出してきた。
ぼくはモンスターボールの手にその名刺を乗せて、書いてある文字へと目を走らせる。
所属が書かれている場所には、白い修正テープの上に直筆で書いてある。
「なになに、なんて書いてあるんですかー」
覗き込んでくるフライゴンと一緒に、ぼくはその名刺に書かれている文字を読み上げた。

「テレキシティ観光案内団体……ユリル・ゲラ……」

612:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 19:06:14
支援

613:9/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:07:46
読み上げ終わると、すかさずフライゴンがユンゲラーさんに対してこう質問した。
「観光案内団体ですって? じゃあ、ユンゲラーさん……ええと、ユリルさんはボクたちを案内するために?」
「ええ、そうです。それも、我々はいわゆるボランティア団体ですので、
 お金が欲しいだとかそういう下心は一切抱いておりません。100%の『善意』で、
 あなたたちの観光を、よりよいものへしてあげたいと思っているのです!」
笑顔を見せて、そんな商業トークめいたことを語るユリルさん。
お金を取らない観光案内……聞くからに怪しいけど、その腹に何かを含んでいそうな様子は一切ない。
「へェー。ボランティアで観光案内ってなんか面白いな」
「生物と生物のやりとりは打算的なものばかりで構成されているわけじゃあございませんからね。
 利害がなんだ損得がなんだ、この都市はそういった世知辛いものばかりでないという事を
 みなさま他所の方々に証明するために、我々の団体は存在しているのです」
「ふゥん。立派ですねぇー!」
感心したようにジュカインはそう唸り、こちらを向いて続いてこう言った。
「せっかくだし案内してもらおーぜコウイチ。財布の恩もあるしさ、どうだ?」
そしてそれに便乗してフライゴンも。
「そうですよ、たくさん案内してもらって色々案内してもらいましょー。財布の恩もありますし」
二人して、ユリルさんを案内につけるようにとぼくに頼んでくる。
いや、別にぼくは断る気はなかったけどね……
二人の言うとおり財布の恩もあるし、案内は居たほうがいい。

「じゃあ、案内お願いしますユリルさん」
ぼくが笑顔でそう言うと、ユリルさんも笑顔で返し、そしてこちらへ手を差し出してきた。
「こちらこそ。では、お近づきの印に握手、を……」
「!」
急に握手を求めてこられて、思わぬ事態にぼくは焦りを覚える。
このモンスターボールの手で握手なんて……下手したら、怪しまれるかも……
……いいや、握手を変に拒否したらそれこそ怪しまれるし、嫌味な印象を相手に与えちゃう。
そもそも手が球体のポケモンなんて珍しくもないし、怪しまれることはないさ……
ぼくは怪しまれないよう笑顔を崩さないままに、その丸い手をユリルさんへと差し伸べる。
ユリルさんがぼくの手を握り、『契約』は成立した。

614:10/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:11:25
それからぼくらは、ユリルさんの案内と共に都市観光を満喫し始めた。
ぼくらの都市観光にユリルさんという案内が付いたのは正解だった。
彼はぼくらがあれこれと騒ぐのにも一々付き合ってくれて、気を遣うのに苦労するということもないし、
都市の風景で気になったこと、興味のあること、彼は全てに詳細な答えを返してくれ、
それはぼくらを飽きさせることはなく、この観光をより充実したものへとさせてくれる。

「……それでですね、この都市では基本的に、誰でも超能力を扱っていいというわけではないのですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうです。仕事や教育場以外の場で公に超能力を使っていいのは、成人してかつ厳重な審査を通ったものだけで、
 その条件を満たさず超能力を使ってしまったものは、さきほど話に出しましたマネネ坊やみたいな
 幼子でない限りは、この都市の条例において厳重な処罰を下されてしまいます」
「ほォー、そうなんですかァー……」
ぼくの質問した『超能力について』の質問にも、ユリルさんは律儀に答えてくれた。
段々とこの都市についての知識が深まっていき、それにつれこの都市がようやく身に馴染んでくる。
ここは住んでいるポケモンがエスパータイプとはいえ、ぼくらの世界の都市とそこまで差はないみたいだ。
「あっ、ねぇねぇコウイチくん! あれ見てくださいっ」
「ん? なぁにフライゴン」
ぼくを呼び止めたフライゴンは、ある方向を指差している。
そちらの方向へ視線を向けると、小庭の中心に立つ大きなポケモンの銅像が目に入った。
面積の広い台座に立つその四足のポケモンは、
銅像でありながらも、圧倒されてしまいそうなほどの威圧感を放っている。
まるで大敵に立ち向かっている最中かのように目つきは鋭く、翼を力強く広げており、
大きく開けられたその口から、雄々しい咆哮がこちらに聞こえてきそうなくらいだ。
「……なんだか、この都市に場違いなくらい強そうなポケモンの銅像だね」
「でしょねーっ。で、そこの台座に書いてある文字、見てくださいよっ」
「んん?」
フライゴンにそう言われ、今まで気に留めていなかった台座に掘られている文字へと目を走らせる。

……十二竜騎士が一員、『一月ガーネットの竜騎士』……

615:11/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:19:17
「竜騎士っ!」
ぼくはその文字を読み終えた後、思わずそう声を上げてしまった。

十二竜騎士。まえにハスブレロ村長に教えてもらった、この世界の唯一の戦闘集団のことだ。
十二体ものドラゴンポケモンという響きに、ぼくはひどく胸が躍ったっけ。
ドラゴンポケモンは謎が多く神秘的で、しかもカッコよくて激強だっていう、
少年の夢をそのまま形にしたかのような、まさに夢のようなポケモンだ。
そんなドラゴンポケモンが十二体もいるっていうんだから、ワクワクしなきゃウソだってものだよ。

「へー、あれがウワサの竜騎士かぁー。カッコいいねっ!」
「うん、カッコいいですねっ! ボクも同じドラゴンだってのが信じられないくらいですよーっ」
半笑いでそんなことを言い出すフライゴンに、ぼくはすかさずこう切り返す。
「あれあれ、フライゴンも十分カッコいいよ? 強いしさっ」
「そ、そうですか? もう、コウイチくんってば……」
照れくさかったのか、下を向いて頬を染め出すフライゴン。
……カッコいいというよりは、どっちかというとカワイイ方かな?
「おーい、竜騎士ってなんなんだ?」
ふとジュカインが好奇心を剥き出しにしてそう聞いてきたので、それに答えてあげる。
「竜騎士はね、魔王軍と戦っているドラゴンポケモンたちのことだよ。十二体もいてさ、みんなすっごく強いんだって」
「ほうほう。……その竜騎士サンの銅像がなんでこの都市に立ってんだ?」
「え……さァ?」
ジュカインにそう言われて、ぼくは初めてその違和感に気づく。
エスパーポケモンの都市であるはずのここに、なんで竜騎士の銅像が立っているんだろう。
不思議に思い始めた矢先、横のユリルさんがこう言った。
「真実と忠誠を意味するガーネットの石を司る竜騎士様……
 何十年か前この都市に魔王軍がやってきた時、竜騎士様は颯爽とこの都市に現れ、
 魔王軍をあっさりと撃退しこの街を守ったのです。被害はただの一件もありませんでした。
 それ以来ガーネットの竜騎士様は、この都市の守護者として祭られているのです」
「なるほどー……」
ということは、もしぼくがこの都市で魔王軍に襲われたとしたら、生の竜騎士を拝むことが出来るのかなぁ。
それなら、今回ばかりは魔王軍に襲われてみたいなァ……なんちゃってね。

616:12/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:22:45
時刻はちょうど正午。
日照りの強さはそろそろピークに達してきて、
はしゃいでいたフライゴンもどんどん元気を失くしはじめ、
ぼくも毛糸の帽子の中がだいぶ蒸れてきて、そろそろ本格的にヤバくなってきた。
ジュカインは逆にどんどん元気になっていってるわけだけれども……
だいぶお腹がぺこぺこになってきたというフライゴンの主張もあり、
ぼくらは腹ごしらえと体を涼ませるために、ユリルさんのお勧めのレストランへと入っていた。

店内は寒いくらいに冷房がガンガンに効いていて、
暑さに参ってきていたぼくやフライゴンにとっては、まるで天国のような場所だ。
「このレストランは冷房効かせ過ぎるくらい効かせることで有名ですからね。
 平日のまっ昼間だから客もそこまで多くないですし、快適でしょう」
「ですねえ、すっずしくて快適だなーあ! 水も……ぷはっ、おいしー、まるで生き返るようー!」
フライゴンはテーブルに置いてある水を一気に飲み干して心地よさそうなため息をついた。
ぼくも同じく水を飲む。からからに渇いていた喉が潤っていく感覚は、本当に言葉どおり生き返るようだ。
あー、帽子はずしたいなぁ。あとでトイレ行って、帽子はずしこよう。
「……ここ、冷房効きすぎじゃね?」
不遜な表情をしてボソリとそう呟くジュカイン。まぁ、無理もないよね。

「さァさ、なに食べるか選びましょー。エビのノワキソースがけないかなー」
フライゴンは真っ先にメニューを取ってテーブルに広げると、
舌なめずりをしながら、描かれている綺麗な料理たちを目で追い始める。
ぼくやジュカイン、ユリルさんも、続けてメニューへと視線を移した。

617:13/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:27:57
「オレはこの赤とうがらしサラダだけでいーよ。腹減ってねーし」
みんなでメニューを見始めてから数秒もしないうちに、ジュカインが遠慮がちにそう口にする。
「あれれ、別に遠慮なんてしなくていいんだよジュカイン?
 お金ならたくさんあるしさ、食べたいもの興味があるもの何でも頼んじゃってよ」
「いやあ、ホントに腹減ってないんだってば。ああ、でも遠慮しなくていいなら、
 オレ、パフェほしいかも。……パフェほしいな、パフェ。この赤とうがらしパフェちょうだい」
「オッケー。ジュカインは赤とうがらしサラダと赤とうがらしパフェね」
まずはジュカインのメニューが決まった。さて、ぼくも何を食べるか決めとこうかな。

……メニューの中には魅力的な料理の数々。どれか一つに決めろなんて難しいよ。
お金には余裕あるんだし、いくつかはここで食べないでテイクアウトしちゃいたいくらいだ。
でもそんなこと出来ないだろうし、一つに絞らなきゃだよね。
だとしたら、せめてこの都市特有の料理を頼んだほうがいいなあ。
たとえばこの、『ヤドンのしっぽステーキのマジックソースがけ』とか……
マジックソースは舐めるたびに味が変わる不思議なソースです、だってさ。

「よおし決めた。ぼくはこの『ヤドンのしっぽステーキのマジックソース風味』で!」
結局ぼくはマジックソースとかいう不思議なソース目当てにメニューを決めてしまった。
「じゃあ、ボクもそれで!」
ほしい料理の数が多すぎてどれか決めかねていたフライゴンは、ぼくと一緒のものを希望した。
ユリルさんはそれを聞くと、テーブル横のボタンに手を添えた。
「みなさん決まりましたか? じゃあ注文しますよ」
確認するようにそう言うと、ユリルさんはそのボタンをギュッと一度押し込む。
ほどなくしてウェイターのポケモンがこちらへやってきて、ユリルさんは注文内容を漏れなく伝えた。

618:14/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:35:24
「あー、早く来ないかなー」
フライゴンはおしぼりでその小さい手をひたすら拭きながら、見るからにワクワクと期待に胸を躍らせている。
食事は、彼がこの都市で一番楽しみにしていたことだ。そりゃ落ち着きもなくすってものさ。
でもジュカインはそんな落ち着きのないフライゴンが目障りなのか、こんなことを言い出す。
「あのなぁフライゴン、レストランで料理を待つときはだな、もう少し慎ましく、冷静にしているのが大人ってもんだぜっ」
「……ジュカインだって、さっきからずっと貧乏ゆすりしてるくせに」
「はっ!」
まったく、フライゴンもジュカインも落ち着きないんだから。

「……?」
……気がつけば、ぼくの向かい側に座っているユリルさんも何かそわそわとしている。
周囲をキョロキョロと見回してみたり、足を何度か組み替えてみたり。
ユリルさんも料理を楽しみにしているんだろうか……?
いいや、でも今のユリルさんの落ち着きのなさは、フライゴンとジュカインのそれとは少し違う。
なんだか、妙だ。その妙な態度に、ぼくまで釣られてそわそわとしてしまう。

と、ふとユリルさんがこちらに身を乗り出してきて、ぼくに対して囁くような口調でこう聞いてきた。
「あの、あなたコウイチさんですよね、確か……」
「はい? そうですけど……」
急にぼくの名前を確認してくるユリルさん。
そしてユリルさんはその後、再び周囲をキョロキョロと確認し始めた。
……この方、何がしたいんだろう……?
何か周りのポケモン達に聞かれたくないような話でもするつもりだろうか。何を……?
……それが明らかになったのは、わずか数秒後のこと。
……予想だにしなかった言葉がユリルさんの口から投げかけられたのは、わずか数秒後のことだったんだ。

「あなた……人間ですよね?」

「え?」


つづく

619: ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:37:53
投下終了。
そろそろスレ容量が危ないかも……?
支援してくれた方、ありがとうございました。ではー

620:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 19:54:52
乙です!

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次の投稿をする前に次スレを立て、書き込めなくなった時点で移行したらどうでしょうか?

それにしてもそんなに書いたのかぁ…お疲れ様です

621:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 20:07:06
伏線バラまきまくりの回だったね
ガーネットの龍騎士は誰なのか期待

622: ◆8z/U87HgHc
08/01/26 00:29:35
>>620
調べてくれてありがとうございます!ギリギリですね。
そうですね、次の投稿日に次スレを立てようと思います。
立てれるかどうか不安ですけど……
立てれなかったら、お手数ながらみなさんに立ててもらうことになるかもしれません。

まだ書きたいことも全然書いてないけど、ずいぶん書いたような気がしますなー。
とりあえず今よりもっともっとスレが賑わうよう、頑張ります。

623:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 04:18:30
賑わうのはいいけど荒れないといいなぁ
第一今いるのって殆ど>>1のスレ立てを待ってたような奴らだろ

624:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 06:52:42
>>623
んなこたぁない。
前のスレで書いてただとか、そういうのが一切伝わらない新参だっているぜ

625:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 07:45:35
荒れさえしなきゃいいよなぁ……
ポケ板でこんな良スレに出会えるとは…

626:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 09:24:44
>>1乙!

 フライゴン君のエビ大好きっ子ぶりに思わずニヤニヤしてしまったw

 ……次スレもまたタイミングが重要だな。とにかく、>>1を精一杯応援してるぜ! 頑張れ!

627:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 18:30:55
>>621
四足歩行で翼があるドラゴンといえば、かの方しかおりますまい。

628:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 20:24:15
このスレGJ!

629:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 22:06:33
ポケモンは話薄いし、作業多いからダレるが、こういう小説見てるとまたやる気がでる


630:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 22:11:44
>>629
メ欄のsageは半角で頼む

631:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 13:15:38
他サイトで、ポケモン小説を書いている者
ですが、いつも参考にさせて頂いてます!
どうしたらそんなに上手に書けるのかと。
もしかして本物の小説家ですか?

632:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 14:22:46
>>1は人間を卓越した存在だから

633:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 16:15:31
>>631
つまりパクっているというわけだな?

634:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 16:43:58
おまえアホだろ

635:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 19:16:52
>>633
参考にするとパクるは違うんじゃない?

程度にもよるけどね

636:631
08/01/27 19:33:03
>>633
表現などはパクった事があります・・・。

637:名無しさん、君に決めた!
08/01/28 22:30:27
容量埋まったか?

638:名無しさん、君に決めた!
08/01/28 22:31:00
次スレの季節ですね

639:名無しさん、君に決めた!
08/01/29 04:10:53


640:名無しさん、君に決めた!
08/01/29 21:12:33
第二話は傑作


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