【小説】ポケモン ドリームワールドat POKE
【小説】ポケモン ドリームワールド - 暇つぶし2ch537:7/8  ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:18:04
「注意……私物検査で危険物が出た場合ただちに没収のち処分となり、危険者リストに登録されます。
 心の鑑定により危険度が70を超えた方は危険者リストに登録させていただき、
 90を超えた方は、申し訳ありませんが入街を拒否させていただきます。ごりょーしょーください……」

読み終えたフライゴンは、苦い顔をしながら不安そうに呟いた。
「ですって。うわァ、大丈夫かなぁ」
「危険度を察知しますだってさっ。オレとお前はこれに引っかかるんじゃねぇの? クケケッ」
ジュカインは腕のリーフブレードを撫でながら、軽くため息をつく。
「ぜったい引っかかっちゃうよねー! ボクは爪や尻尾は凶器だし、熱いの口から吹けちゃうし……
 ジュカインも、腕に刃物引っ付けてるしね。コウイチくんは穏やかで優しいから危険度0でしょうけど」
「90以上いっちまったらどうしような? っつかどういう方法で鑑定するんだろ……質疑応答?」
「そこはアレだよ。エスパータイプだけに超能力でも使うんじゃなーいの?」
「超能力でどんな風に検査するんだろうな? 器具とか使うのかな?」
「さァ? 分からないけど、なんだか楽しみだなぁ、ボク」

不安そうにしていたのはどこへやらだんだんと楽しそうに語り始めるフライゴンを脇目に、
ぼくは、少しばかり審査への不安で緊張していた。
人間に見えないように変装したはいいけど、ボディチェックとかのときにごまかせるかな……


538:8/8  ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:24:27
「うう、ぼくも何だか緊張してきたよ。……バレないまま審査抜けられるかなァ……」

不安のあまり、ぼくは二人に励ましてもらいたくてつい小声でそう漏らしてしまう。
それを聞いた二人は、同じく小声で期待通りぼくを励ましてくれた。
「きっと大丈夫ですってコウイチくん! コウイチくんなら何とかごまかせますって!」
「最悪ボディチェックのときバレたとしてもさ、内情を話して口止めすれば大丈夫だぜ。多分」
「そうかな……うん、ありがとう二人ともっ」
二人の意見は根拠のないものだし実際にはまったく頼りにならないものだけれど、
ぼくはとても勇気付けられて、次の瞬間には不安や緊張も驚くほどに和らいでいた。
そうだよね、何とかなる、大丈夫さ。別に悪いことしてるわけじゃあないんだし……

『84番の方。84番の方、Dの審査室へお入りください』

48という数字にぼくはピクリと反応する。48……ぼくの整理券に記されている番号だ。
「呼ばれた。じゃあ行ってくるね、フライゴン、ジュカイン」
「はァーい。また奥で会いましょうねー」
「必死でごまかせよ。カハハッ」
ぼくは立ち上がり、まだ若干の不安を抱きながら指定された審査室へと入っていった。

539:8/8ちょっと修正  ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:25:30
「うう、ぼくも何だか緊張してきたよ。バレないまま審査抜けられるかなァ……」

不安のあまり、ぼくは二人に励ましてもらいたくてつい小声でそう漏らしてしまう。
それを聞いた二人は、同じく小声で期待通りぼくを励ましてくれた。
「きっと大丈夫ですってコウイチくん! コウイチくんなら何とかごまかせますって!」
「最悪ボディチェックのときバレたとしてもさ、内情を話して口止めすれば大丈夫だぜ。多分」
「そうかな……うん、ありがとう二人ともっ」
二人の意見は根拠のないものだし実際にはまったく頼りにならないものだけれど、
ぼくはとても勇気付けられて、次の瞬間には不安や緊張も驚くほどに和らいでいた。
そうだよね、何とかなる、大丈夫さ。別に悪いことしてるわけじゃあないんだし……

『84番の方。84番の方、Dの審査室へお入りください』

84という数字にぼくはピクリと反応する。84……ぼくの整理券に記されている番号だ。
「呼ばれた。じゃあ行ってくるね、フライゴン、ジュカイン」
「はァーい。また奥で会いましょうねー」
「必死でごまかせよ。カハハッ」
ぼくは立ち上がり、まだ若干の不安を抱きながら指定された審査室へと入っていった。

540: ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:34:25
wikiの件ですけど、自分的にも作ってくれると嬉しいですね。
自分の文を保管してくれるというのは色々な意味で励みになります。

541:名無しさん、君に決めた!
08/01/10 19:58:15
お帰りなさい!

542:名無しさん、君に決めた!
08/01/11 01:45:30
84?48?
間違ってるよ~。

543:名無しさん、君に決めた!
08/01/11 10:16:49
GJ!頑張って~

544:名無しさん、君に決めた!
08/01/12 17:47:08
GJ!
ストーリーは決まってるの?

545: ◆VgkZEoAoTg
08/01/13 02:16:30
>>544
3話はもう細かい流れは全部決まってますし、
10話くらいまでは大体おおまかな流れくらいまでは考えてありますねー。
暇があればストーリーを妄想してお話のストックを増やしていってます。

546: ◆8z/U87HgHc
08/01/13 02:18:04
はいはいトリップ間違えてしまいましたよ。

547:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 09:41:10
>>545-546
ドジっ子1萌えw

548:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 13:04:19
なんという地味すぎる良スレ
ここだけは荒れないようにしたいものだ

549:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 19:24:22
>>548
切実に同意。1頑張って!

550:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 23:58:00 dAzePhmk
保守age
なんか絵でも描いてみようかな

551:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 12:05:04
wiki作ってみようと思う
見たいと思ったときにすぐに見れるのは読者としても嬉しい
ただちょっと時間かかるかもしれないのであまり期待しないでくださいお願いします

552:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 14:20:14
作者マジでこんなトコで才能を無駄に使ってないか?これ本にして出版したら絶対売れるよ…

553:551
08/01/14 14:33:49
話のタイトルは『ポケモン ドリームワールド』で宜しいですか?

554:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 14:35:31
おk

555:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 18:28:01
wiki期待してる

556:551
08/01/15 01:49:10
wiki進行状況:第二話まで掲載完了
第一話と飛鳥部隊まで誤字脱字チェック完了

二番目のやつはこれどう考えても違和感あるというものを勝手にポチポチしちゃってます。すいません。
もうちょっとかかる予定ですが初心者の手ではシンプルってレベルじゃねーですご了承下さい。

557:名無しさん、君に決めた!
08/01/15 09:26:25
頑張って!

558:名無しさん、君に決めた!
08/01/16 01:21:49
ここのフライゴンはためらいなく主人公に体捧げそうなくらい従順でつね

559:名無しさん、君に決めた!
08/01/16 15:43:45
>>558
×「捧げそうな」
○「捧げる」

560: ◆8z/U87HgHc
08/01/17 00:34:24
今日か明日には投下できるかもです。

投下間隔遅くてごめんなさい。
いざ書いてみるとつい筆が進んじゃって、分量が予定の二倍以上になってしまい……
結果書き上がるのが遅れてしまうとか、そんなんばっかですいつも。
どうしようもない悪癖よのー、ですよね。こうして自覚はしてるんですけどもねー……

>>551
保存してくれるだけでも嬉しいですよー。ありがとうございます。

561:名無しさん、君に決めた!
08/01/17 18:16:39
10レス前後なら週一でも別に遅くはないべ

562:551
08/01/18 16:16:46
諸事情でこれで限界
URLリンク(www14.atwiki.jp)

>>560
待つ時間が長くてもより後で幸福になるのでまったく問題ないです。
wktkしてます。

563:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 18:12:47
wiki乙ー

564: ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:41:08
>>562
wikiありがとうございます。
これでいつでも確認できます。お疲れ様でしたー。

それでは投下しますね。

565:1/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:44:46
通された審査室には、スーツを着こなした役人さんらしきユンゲラーが三体佇んでいた。
部屋の内装は存外大人しめで、何枚もの書類が置かれた丸いテーブルが中心にあり、
隅に用途の分からない大きな機械が一つと、コンピュータが何台か置かれているだけだ。
そのくせ間取りはムダに広いので、それがぼくの緊張を一層と煽る。

三体の役人ユンゲラーの内の一体が丸いテーブルを囲む椅子の一つに座ると、ぼくにこう指示した。
「こちらへお座りください」
「はい」
促されたとおり、役人ユンゲラーの座っている向かい側の椅子に腰を下ろすと、
役人ユンゲラーはすぐさまテーブルの上に置かれている書類とペンをボクに差し出した。
「では、こちらの書類にご記入願います」
淡々とした事務的な口調でそう指示する役人ユンゲラー。
ほぼ無機質なその口調は、毎日この仕事を飽きるほどに繰り返しているそれだ。
……もしかしたら数分もしないうちに、この人の事務的でない口調が聞けるかもしれない。
ぼくが人間だとバレることによって……

……って、何を後ろ向きなことを考えているんだ、ぼくは。
フライゴンも言っていたじゃあないか。そう、大丈夫。大丈夫さ。

ぼくは己自身を励ましながら、とりあえず目の前の書類に目を通した。
記入する欄は意外にも少ない。種族名、氏名、性別、年齢、健康状態、特技……
『どこから来たのか』などを記入する欄は存在しないし、すべて適当に誤魔化せそうだ。
さぁ、怪しまれる前にさっさと書いてしまおう。
…………あっ。

しまったァーーー!! ぼくは大マヌケかっ!!?

566:2/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:47:22
書けないっ! というかペンを持てないっ! 
今のぼくのこの手……『モンスターボールの手』じゃあ、ペンを持てないっ!

このモンスターボールの手である間、指を使うことは全てフライゴン達に任せればいいと思っていた。
だけど、こういう状況は一切想定しなかった。隔離された部屋でぼく一人、指を使わなければいけないこの状況……
なぜあの審査案内を見た時から、こういった状況に陥ってしまうだろうことへ思考が行き届かなかったんだろう。
そこへ思考が行き届いていれば、何かしら対策は打てたに違いないのに……

書類とペンを見つめたまま、ぼくは動くことが出来ない。
テストの途中にシャーペンの芯を完全に切らしてしまったら多分こういう気分になるんだろう。
……混乱のあまり、ぼくは次の瞬間こんなことを口走ってしまっていた。
「あ、あのう……あなたが代わりに記入していただけませんか?」
「は?」
「いや、あの……ぼ、ぼくが言った通りに書類に記入してほしいんです。
 あの、その、何というか、ぼく……字とか書くのは、何ていうか……」
言ってる自分でも分かる。『何をむちゃらくちゃらな事を言っているんだぼくはっ!?』
自分自身が言っているのに、まるで他人の言葉を聞いているかのようだ。
そして、目の前の役人ユンゲラーの答えは当然……

「直筆でお願いします」

相変わらず事務的な口調で対応された。当たり前だけど……
役人ユンゲラーの左隣に立っている髭のない役人ユンゲラーは、さも退屈そうに目を細めている。
右隣に立っている髭の長い役人ユンゲラーは、怪しむようにぼくを鋭い目つきで見ている。
部屋の隅にあるコンピュータの駆動音が、やたらと耳に響く。
本当に、どうしよう。事態は深刻になってくばかりだよオォ~~~

567:3/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:49:16
……
そういえばこの目の前の役人ユンゲラー、どうして何も言わないんだ?
『言葉を喋れるのならものを書けないわけがない』と高をくくってでもいるんだろうか。
ぼくのこの丸い手を見れば、ペンを持てそうにないとすぐに気づくだろうに……

……待てよ。

そういえば指がなくても、ペンぐらい持とうとすれば持てるよね。
たとえば指や腕がない人は、口や足で筆記用具を持って文字を書くし、
本来ものを掴むための部位がなかったとしても、他の部位で代用すればいい話なんだ。
……もしかしたらこの役人ユンゲラーは、ぼくが『そういう種族の者』だと思っているんじゃあ……?
よおし、それならばこの役人さんの期待通りにやってあげようじゃあないか。

ぼくは、テーブルの上に転がっているペンに向かって顔を伸ばした。
普通なら指で持つ部分を……ぼくは唇で掬い上げ、そして挟み込む。
「……」
若干、辺りの空気が変わった気がする。
いや……逆だ。変わったのは辺りの空気ではなくて、ぼくの心情……
隔離された静かな部屋で三体のポケモンに見守られながら、テーブルの上に転がるペンを唇で持ち上げる。
なんとも珍妙な状況だ。衆人監視のなか汚れた地面を舐めさせられる、昔の罪人みたいだ。

……でもっ。

それとは違う。恥じゃあない。ぼくがペンを持つ方法はこれだけ……『これだけ』なんだから。
そう、ぼくはいま『そういう種族』なんだ。『ペンを唇で持って文字を書く種族』なんだ。

ぼくはしっかり唇でペンの先端を挟みながら、筆先を書類の記入欄へとくっつけた。

568:4/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:52:45
とても書きにくいし字は下手になってしまうけれど、書けないわけじゃない。
とりあえずは書ける。そう、それで十分だ。
字が下手だろうが、記入欄を全て埋められればそれでいい。

記入欄が半分ほど埋まってから、ぼくは念のため上目遣いで役人ユンゲラー達の様子を確認してみた。
向かい側の役人ユンゲラーは、別段何事もなかったかのように表情は一切変えていない。
左隣の髭なしユンゲラーも相変わらず退屈そうにしているだけだ。
だけど右隣の髭長ユンゲラーは、変わらずぼくに刺すような視線を送っている。
……くそう、何を怪しんでいるんだ。『ぼくはこういう種族なんだ』! 『こういう種族なんだよっ』!


「……書き終わりました。ペン、よごしちゃってごめんなさい……」
なんとか記入欄を全て埋め終わり、謝罪も添えてぼくはペンを口から離した。
達成感とか満足感なんかよりも、なにかひどく無駄なことをしたような気分でいっぱいだ。
……口でペンを持って物を書くなんて、もう生涯ないかもね。希有な体験したなあ。

「お疲れ様でした。それでは次の部屋でボディチェックとSMJをお受けください」
役人ユンゲラーはそう言って席を立つと、その書類を持ってコンピューターの方へ向かい何かの作業を始め出した。
それと同時に髭なしユンゲラーと髭長ユンゲラーがぼくの隣へやってきて、こう指示を出した。
「では、こちらへ。検査室へご案内します」
そう言って、二体の役人ユンゲラーはぼくが立ち上がるのを確認すると、
出口の方の扉を開けて、髭長はぼくの隣に、髭なしはぼくの前に立って、検査室への歩を進めはじめた。

ボディチェック……たぶん、これが一番の関門となるだろう。さて、バレずに抜けられるだろうか……?
再び、緊張がぼくの胃をきりきりと緩く締め付け始めた。

569:5/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:54:15
不自然に長い通路を挟んだ後、ぼくは検査室へと辿り着いた。
そして、その部屋の驚くほど質素な内装に、ぼくはちょっとした驚きを覚える。
先ほどの部屋もかなり質素だったけど、この部屋は質素というよりは……もはや何もない。
たぶん没収したものを入れるためのカゴと、鉄か何かで出来たようなメットが幾つか壁にかけてあるだけだ。
それほど質素なのにやはり間取りだけはやたらと広くて、不気味さすらも醸し出している。

「あのう。この部屋ってなんでこんな質素なんですか? 部屋もやたら広いし……」
たまらず、ぼくは役人さんに向かってそう質問してみる。
その質問に、髭長ユンゲラーが即座に答えを返した。
「これからボディチェックの後に始める『SMJ』と呼ばれる検査は、超能力を使う検査です。
 そして超能力を発した際に生じる『S波』という振動は、精密機器などに影響を及ぼします。
 ですから無駄なものは置かないのです。部屋が広いのは、S波の振動を部屋の外に漏らさぬためです」
「へぇ、なるほどォ……ありがとうございます」
部屋の質素さと間取りの広さにはやはりちゃんとした理由があったんだ。
そしてエスパータイプというだけあって、自分たちの特性を生かした検査方法を作り出している。
感心すると同時に不安も芽生える。超能力というと万能なイメージがある。隠し事くらいなんでも見破れそうなイメージが……
ますます不安が深まっていく中、ふと髭長ユンゲラーが……

「……あなたの場合は……たっぷりとそのS波の振動を体感する羽目になるかも……」
「えっ?」

髭長ユンゲラーが何か意味深なことを呟いたのを、ぼくは聞き逃さなかった。
いま確実に、『ぼくが隠し事をしている』ことを見破っているかのような言葉を……
「はいはいはいはい、サァサァさっさとボディチェックを始めちゃいましょうね!!
 ムダ話はあとあと、他のお客さんが突っかかっちまう前に、検査を早く済ませちまいましょう!」
しびれを切らしたのか髭なしユンゲラーのほうがいきなりそう叫び出し、ぼくのポシェットの中をさっさと確認し始めた。
この人は、面倒なことは早く済ませたい性格なのだろう。ということは、多少はぐらかしても無視してくれるかも……
多少だが光明が増してきた。問題はあの髭長ユンゲラーか……

570:6/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:57:57
「ええと、財布にマフラー、と……ん、このガラス瓶に入ってるのは何ですかー?」
髭なしユンゲラーは、ポシェットの中の各種傷薬を指差している。
「ああ、それお薬です。ピンク色のやつとオレンジ色のやつは傷薬で、
 金色のヤツはなんでもなおし……あの、万能薬みたいなものです。
 怪しく感じるなら没収してもいいですよっ。都市の中で同じようなの買いますし」
いらない誤解をかけられるのを危惧して、没収してもよいと言っておく。
でもその配慮は必要なかったようで、髭なしユンゲラーは照れ笑いしながらすぐ傷薬から指を離した。
「ああ、傷薬ですか。分かりました、それならOKで……あっ!」
しかしその瞬間、髭長ユンゲラーの方が代わりにポシェットに手を突っ込み……

「これは没収ですね」

そして、各種傷薬をすべて籠の中に突っ込んでしまったのだ。
その光景に、髭なしユンゲラーはおろおろとうろたえている。
「えっ、あっあっ。おいルンゲラ、それはただの傷薬だってこの子が言って……」
「お前はアホかユルグ、確証がないだろうが! こういうものは基本的に没収なのだ、アホめっ」
髭長ユンゲラーもといルンゲラさんは、髭なしユンゲラーもといユルグさんを乱雑な口調で罵倒しながら、
ぼくのポシェットの中をじっと見つめた後、ぼくのスーツのポケットをまさぐり始めた。
「ハンカチにティッシュにガムに手鏡……と。……この機械は何ですか?」
ルンゲラさんは胸ポケットからポケモン図鑑を取ると、まじまじと観察し始めた。
「えっ! それはっ……」
ぼくは咄嗟の返答に困る。『ポケモン図鑑』なんて直接言って大丈夫だろうか?
でもさすがにポケモン図鑑は没収されるわけにはいかない。ぼくは適当な嘘を交えてこう答えた。
「それは、『モンスター図鑑』です。ぼく全国を回ってモンスター達をこの図鑑に記録しているんです。
 それを没収されたら、ぼく困りますっ! その図鑑を埋めていくのがぼくの仕事なのに……」
「ふうん……まぁ害はなさそうですし、これはいいでしょう」
ルンゲラさんは一通り図鑑を観察した後、ぼくの胸ポケットに図鑑を戻してくれた。よかった……

「それでは、上着と帽子の下も見せてください」

571:7/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:01:53
「えっ!?」

安堵したのも束の間、ルンゲラさんのその指示にぼくは胸を跳ね上がらせる。
……上着と帽子の下を見せろだって!? そんなことしたら、
人間であることの証明である髪の毛と五本の指が丸出しになっちゃって、一発で人間とバレるじゃあないか!
従うわけにはいかない。どうにかはぐらかさなきゃ……
「あ、あの、見せなきゃダメですか? 手で触って確認とか、それだけじゃあダメなんですか?」
「当然でしょう。裸まで見せろとは言いませんが、見せれるところまでは見せていただかないと……
 それにしても、何か様子がおかしいですね? 上着あるいは帽子の下に『危険物』でも隠してるとか……
 そういった事情でもあるような……そんな様子ですね、今のあなた……ふふふふ」
「うぐっ……」
ルンゲラさんの嘲笑の混じったその口調は、まるで『すべてお見通し』でも言っているようだ。
答えがずれてはいるものの、ぼくの醸し出している怪しさを彼は敏感に感じ取っている。
……一度疑われてしまえば、その疑いが完全に間違いでない限り、晴らすのはとても難しい。
上手くはぐらかしきれるだろうか……いいや、どのみちぼくには何とかはぐらかすしか道はないんだ。

「イヤだな~! ぼく危険物なんて隠し持ってませんよォ。
 いまあなた、『見せれるところまでは見せていただく』って言いましたね?」
「はあ……言いましたがそれがなにか?」
冷徹な視線をボクに投げかけるルンゲラさん。構わずぼくは言い訳を続ける。
「『見せれない』んですよっ! 危険物だとかなんだとかそういう理由じゃなくて、
 ぼくらの種族じゃあ帽子や上着の下を見られるのは、裸を見せるのと同じくらい恥ずかしいことなんです。
 あなた達の常識じゃあ考えられないことでしょうけど……ホラ、世界って広いでしょ」
「……へえ」
「……!」
ルンゲラさんの目つきは、ぼくが言い訳を始めてから一層鋭さを増している。
まるで射抜くような視線。疑っているというよりは、もはや怒っているかのような……
……もしかして、ぼくの言い訳……逆効果だったんじゃあ……

「……嘗めるなよ、小僧」

572:8/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:05:36
「!?」

突如、胸にズシリと響くような低く重い声が、部屋に響き渡った。
そしてその低く重い声が紡いでいたのは、この場では全く場違いともいえる乱暴な言葉。
それを発した声の主は……もちろんぼくじゃあなくて……はしっこで小さくなっているユルグさんでもなくて……
残るもう一人の……

「嘗めるなよ小僧ッ!! そんなバレバレの言い訳にこの私が乗せられるかァッ!!
 ヌケヌケと都市に入れると思ったのか? そんな子供すら騙せないような稚拙な言い訳でッ!!
 侮辱された気分だ、ああ胸糞悪い!! この仕事に就いてから滅多にないぞこんな気分になったのはッ!!」

一変して粗暴な口調になったルンゲラさんは、血走らせた目をかっ開いてぼくを睨み付けている。
ぼくは一瞬で感じ取った。怒りに触れた……社会人の怒りに触れちゃったよォ~~……
即刻あやまりたいけど、そうさせてくれる暇もなくルンゲラさんはぼくに言葉を投げつけ続ける。
「思えば、貴様が審査室に入ってきたときから私は貴様を怪しいと思っていた……
 超能力ではない。私が長年この仕事をやってきて培った『勘』だっ!
 その『勘』が、貴様の胸の内にある薄汚れた野望を感じ取ったのだっ!!
 このクサレ小僧め、バレバレに露呈してんだよ貴様の小悪党精神……」
「お、おいおォ~いルンゲラー。声を荒げるのはやめようぜェ~~……」
この状況を見かねたのか、ふとユルグさんがかなり控えめな口調でそう言う。しかし……
「黙らんかユルグッ!! 貴様はトイレでも行って顔でも洗っていろッ!!」
「ひえぇっ! ご、ごめんなしゃ~~い……」
ルンゲラさんのプレッシャーに押されて、ユルグさんはまたすぐに縮こまってしまった。頼りにならない人だなぁ……
「ふんっ……さて……」
「……?」
ルンゲラさんは鼻息を荒げながら、ひょっとぼくから視線を外し壁の方に歩いていった。
そして、その壁にかけられているメットを手に取ると、こちらに戻ってきてぼくに手渡してきた。
鉄でもなければプラスチックでもない、何とも言えない感触のヘルメット。
「……こ、これは……?」

573:9/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:09:47
「貴様の嘘はバレバレだが、それでも確証をなしにひっとらえるのもいけないことだ……
 貴様の嘘を嘘だと完全に証明し、後味よく最高に気持っちよくひっとらえてやるっ!!
 さぁ、それを被れ小僧ッ! 今から『サイコキネシス』を使い、貴様の『心の揺れ幅』を観察してやるッ!!」

「心の……揺れ幅……?」
ルンゲラさんはこれから、テレビとかで見る『嘘発見機』みたいなことを超能力でするってことだろうか。
じゃあ、何でこのメットを被る必要があるんだろう。
これが機械だったとして、超能力を使ったら精密機器に影響が出るはずなのに……
……あっ、そうか。超能力を使った際に『ぼくの脳みそ』に影響が出るのを防ぐために、このメットを被るってわけね。
……そんな風にゆっくりと考えていたら……
「さっさと被れッ!!」
「あっ、は、ハイっ!」
ルンゲラさんの剣幕に押され、ぼくはすぐさまそのメットを頭にはめ込んだ。
ちょいとメットのサイズが大きすぎる。ブカブカだ。こんなんで、『S波』とやらから脳みそを守ってくれるのかな。
……違う。そんなことよりも、嘘を見破られて人間だとバレてしまうことのほうが、よっぽど心配だ。
相手は超能力だぞっ、超能力。サイコキネシスだぞォ……! 『バレない』なんてこと有り得るの……?
……バレる。バレちゃうのかっ、ついに……!? 嘘でしょォ~~……!?

「今から質問をする。『YES』か『NO』で答えろッ!! 分かったなッ!?」
「……はい」
素直に返事をするしか、ぼくに道は残されていない。
ルンゲラさんはぼくがそう返事をしたのを確認すると、一度勝ち誇ったような笑みを浮かべた後、こう問いかけた。

「その毛糸の帽子、あるいは上着の下に……『我々に見られたらマズいもの』は入っているか?」

574:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 19:10:14
支援だぜ

575:10/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:11:47
「……!」
ぼくが人間だとバレるのはマズいことだから答えはYESだけど、
YESと答えたところで正直者だと褒められ、人間であることがバレて都市中に広まるだけ。
逆にNOと答えても、それが嘘だと見破られる。
どう答えても、『心の揺れ幅』とやらのせいでそれは全て自供となってしまう……
いわゆる、詰むしかない将棋っていうやつだ。もうどうしようもない……

……こうなったらもう、相手の超能力とやらがどうにか外れてくれることを祈るしかない……!

「『NO』……です」

超能力以前に、答え方とその表情で悟られてしまわないように、あくまで平静を装いそう答える。
「……クッククク、まぁ当然の答えだな。さて、それが嘘かはたまた真か……
 十中十ウソであるということは分かっているが……見せてもらおうかァ、貴様の心の揺れ幅ッ!!」
ルンゲラさんはそう言うと、思い切り目をかっ開き、全身を硬直させるように力を入れ始めた。
超能力を発動させたんだ。ぼくの心の揺れ幅を見るための、超能力……エスパータイプの特権!
次第に辺りの空気が明らかに変わってくる。空気がかすかにうねっているような感覚……
頭に被っているメットのおかげなのか頭痛などの症状は起きないけど、軽い耳鳴りが響いてきた。
……実感はないけど、いま確かに探られているんだ。ぼくの心の揺れ幅……動揺を……

……動揺……そうだ。この動揺が、『ぼくはウソをついています』というメッセージを送っているんだ。
多分だけれど、心を読まれているってわけじゃあない。ルンゲラさんが読んでいるのは、あくまで『動揺の具合』だけ。
だから、心を鎮めれば……この渦巻く動揺をどうにか収めれば……ぼくの『NO』は『NO』のままだ。

そうだ、抑えろ。鎮まれ、ぼくのこの動揺……鎮まれっ、鎮まるんだっ。
フライゴンやジュカインとの楽しい都市観光のために! 鎮まるんだっ!!

「……ククックク。ふふははは……」

576:11/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:17:20
「ハハハハーーーッ!! 嘘をついてるなァーーーーー貴様ァーーーーー!!
 貴様の心がビンビンに揺れているぞッ!! 『ぼくちんはウソをついています』と自白しているぞォッ!!」

「!!」
ルンゲラさんの歓喜の叫び声。
瞬間、ぼくの胸中に何か重いものが覆いかぶさった。

ウソだと、バレた。バレたっ、バレたっ

言いわけをする暇も、それを考える暇もなかった。
「このテレキシティで何を仕出かそうと企んでいたかは知れぬが、貴様のその計画は適わんぞッ!!
 確かな証明が出来たんだからなァーーー即効見せてもらおうネェーーーまず貴様のその帽子の下ァッ!!」
ルンゲラさんは興奮したようにそう叫びながら、ビッと勢いよく人差し指をこちらに向けた。
「あっ!」
突然頭上のメットが弾け飛び、その下の毛糸の帽子も、見えない力でずるずると脱がされていく。
同時に急に耳鳴りが増し、頭に割れそうなほどの痛みがのしかかってくる。
サイコキネシスだ……ルンゲラさんは、サイコキネシスでぼくの帽子を脱がそうとしている……!
ぼくは咄嗟にモンスターボールの手で頭を押さえる。しかし、見えない力はぼくの手ごと帽子を脱がそうとしてくる。
「お、おいルンゲラ! 耐波メットをしてないやつにそんな強いサイコキネシスを浴びせるのは法律違反……」
「うっとうしいぞユルグっ!! そのヒゲぶち抜かれたくなったら黙って見てろゴミカスッ!!」
ルンゲラさんの叫び声が聞こえると同時に、見えない力は一層その強さを増してきた。
脱がされていく帽子の下から、黒髪がぱらぱらと垂れてくる。も……もう……!

毛糸の帽子が、ぼくの頭からずり落ちた。
その下から現れる髪の毛。二体の役人ユンゲラーの前に、ぼくの髪の毛が晒された。

「えっ……!?」
「あっ……!!」

577:12/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:23:10
空気のうねりが収まり、同時に激しい耳鳴りと頭痛から開放される。
そして代わりに、重油を流し込んだかのような重い沈黙が辺りを包み込んだ。

吃驚したまま表情を固まらせてぼくを凝視する、二体のユンゲラー。
その表情は、彼らの心の中の言葉をそのままぼくに伝えている。
『こいつはまさか!?』『そのまさかさ、まさかのまさかだよ』『人間だっ! 間違いない、人間だ!』
ぼくの中を、ずっと同じ単語がリフレインし続ける。

バレたっ バレたっ バレたっ バレたっ

「……髪の毛……それも、一本一本がシャーペンの芯よりもずっと細い……
 ムチュール族やキルリア族の頭の毛とは違う、本物の……『髪の毛』」
先程の勢いを感じさせない、震えた声でそう呟くルンゲラさん。
続けてユルグさんが、ぼくの絶望を確実なものへとする言葉を放った。
「マジかよ……嘘だろォ……めちゃくちゃな大ニュースじゃあねえか、このテレキシティに……」

「『人間様』がやってきたなんて……!」

「…………」
再び沈黙が訪れた。二体のユンゲラーの表情は相変わらず驚きのまま固まっている。
……………………
……このまま帰ろうか……?
……それとも、このことを都市の内部の者に報告されると分かっていて、入街するか……?

……いや……まだ打つ手は、あるっ。


「あ~あ……困ったな。ぼくのこれ、見られちゃうなんて……」

578:13/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:26:23
「!」
急にぼくが喋りだしたのに反応して、ハッとする二体のユンゲラー。
ぼくは深く俯き、二体にちゃんと聞こえるように大きくため息をつきながら、こう言った。

「行く先々で……みんなこれ見るとそう言います。そして、騒ぐんです。
 ぼくにかかる迷惑も顧みず、人間様だ人間様だと好き勝手に騒いで纏わりつくんです。
 とっても迷惑でした。ぼくが人間様だなんてそんなの……とんでもない『勘違い』なのに」

「えっ……!?」
「か、勘違い……!?」
予想通り、驚きそう反応する二体のユンゲラー。
ぼくは上目遣い気味に二体の顔を見ながら、話を続ける。
「ぼくはこの通り人間様に似ているだけで、人間様とは何の関係もない種族なんです。
 ……ぼくはぼくだっ。それ以外の何者でもない……もちろん、人間様なんかじゃあない。
 なのに、誰もそれを聞き入れてくれない……騒ぎ続けて、ぼくの平穏を奪っていく……!」
わざと語尾に力を込めて、さらに下唇を強く噛み締める。
二体のユンゲラーの顔色が変わってきた……ぼくを憂うような顔色へ。
ぼくは顔をあげて、畳み掛けるように声量を強くしてこう言った。

「平穏が欲しい! 平穏な生活がしたい! ただそれだけなんだっ!
 だからぼくは故郷を飛び出し、種族にはこだわらないと評判のこの街へと来たんだっ!
 誰にも騒がれない、そんな落ち着いた生活……それだけを……夢見て……」

今度は語尾を弱めて、ふたたび顔を俯かせる。
そうすると、ふとユルグさんがこう口にした。
「……そういう……ことだったんだ……」
ユルグさんはぼくの言葉に感化されたのか、感傷的な視線をぼくに落としている。

よおしっ、伝わっているぞっ……ぼくの『架空の過去』っ……『迫真の演技』……!

579:14/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:30:07
ぼくはいま、架空の過去をこの瞬間だけ自分の過去と思い込み、伝えている。
要するに単なるでっち上げさ。この窮地を抜け切るために、咄嗟に思いついたでっち上げだ。
もともと人間が何食わぬ顔をしてこの世界の都市観光にやってくるなんて、彼らにとっては『ありえないこと』なんだから、
『人間に似ているだけの違う種族』とした方がリアリティがあり、信じてもらえやすいはず。
彼らポケモンだって、わざわざ目の前の発言を疑ってまで非現実的な方を信じようとしたりはしないだろう。

……でっち上げを大人に信じ込ませて感傷に浸らせるなんて何だか気が引けるけど、
まぁ『平穏な観光がしたい』という所は変わらないし、別にいいよね。うん、うん。

「ぼくは平穏を求めて、故郷を飛び出してまでこの都市にやってきたのに……
 ここでも……ぼくはぼくとして、受け入れてもらえないんですか……?」
そう言いながらまた上目遣いでユンゲラー達を見やると、驚いたことにぼくの目の奥から、自然と涙が滲み出てきた。
虚構と現実の区別が曖昧になってくる。まるで、たった今作り出したばかりの架空の過去が、本当の過去であるかのように。
気分も高揚してきた。今ならば、どんなクサい台詞だって吐けそうだ。ノってきた。演技がノってきたぞっ! 
舞台役者とかって、演技がノってくるとこういう気持ちになるんだろうなぁ。
そして、そんなぼくの真に迫った演技が心に響いたのか、ユルグさんが……

「おい、ルンゲラっ!! 聞いたか、この子にはこんな事情があったんだっ!
 この子は、ただ平穏な暮らしがしたいだけだったんだぞっ!」
「うぐっ……!」
ルンゲラさんは返答に詰まる。彼のこめかみには、一筋の汗が伝っている。
長年の勘ってやつが外れたんだ。さぞや悔しいことだろうね、ルンゲラさんめっ。
「ルンゲラ、お前はなぁー、健気なこの子の心を踏みにじり傷つけたんだ! 反省しろっ、オラっ!」
「…………」
ユルグさんはここぞとばかりにルンゲラさんを責めたてている。急に頼りがいのある人に大変貌だ。
やっと、事態が好転してきたぞ。いいぞっ、この調子だっ……!

580:15/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:34:41
「黙れ、ユルグッ!!」
「ひっ」

急に、ルンゲラさんが、ユルグさんへ一喝を入れた。
ユルグさんはその迫力に押されて、あっさりと縮こまってしまう。

「もしかしたら……この『人間に似ている』ってのはカムフラージュで……
 本当は、別の場所に危険物を隠し持っているのかも……」
ルンゲラさんはもはや意地になっているのか、そんなことを言い出した。
長年の勘が外れ、しかも一瞬とはいえユルグさんに責められたのがよっぽど悔しかったんだろう。
「そもそも、私たちの前であんな大立ち回りをすること自体違和感があるのだ……
 ……もう一度メットを被れ小僧ッ! その化けの皮を、ふたたび剥がしてやるぞっ」
先ほどの勢いを取り戻し、床へ落ちているメットを被るように促すルンゲラさん。
しつこいな、この人も。どうにか自分の思い通りにしたくてたまらない気持ちは分からないでもないけど……
まぁ、何にせよ危険物を持っていないのは事実なのだ。そこの所は幾ら探られようが一向に構わない。
「いいでしょう、被ります……その代わり、『危険物を持っているかどうか』という質問しか受け付けませんよ、ぼくは……」
「……ダメだ。貴様が本当に人間でないのかどうかも、探らせてもらう」
「えっ!?」
予想だにしなかったルンゲラさんのその言葉に、ぼくは疑問符を飛び出させてしまった。
「な、なんで……!?」
「黙れっ、もしかしたら貴様が種族を偽っている可能性もある! 
 とりあえず、念のためにそこの所をハッキリさせておく必要がある……」
「そ、そんな……」
いきなり何を言い出すんだ『コイツ』はっ!? 冗談じゃあない、今のぼくの演技まで無駄にしてしまうつもりか……!?
今の彼にはメリットとかデメリットとか、そんなものは頭にない。ただぼくをひたすら探り追い詰めたくて必死なんだ。
ユルグさんもすっかり縮こまり、成り行きを観察するモードに入ってしまっている。
……くそう、ここまで来てまたピンチかよ……事態は好転したと思ったのに……!

「お待ちなさい!!」

581:16/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:43:44
「!」

突如、ぼくのものでも二体のユンゲラーのものでもない声が部屋に響いた。
それでいて、ほんの少しだが聞き覚えのある声……
ぼくらは一斉に、その声が聞こえた方へと顔を向けた。
そこにいたのは、先程の審査室に残っていたはずのもう一体の役人ユンゲラーだった。

「……あのね-、後がつかえてるんですよ。意味のない探りを入れて、流れを止めないで下さいルンゲラ」
役人ユンゲラーは溜め息混じりにそう言いながら、冷たい目つきでルンゲラさんを睨み付けた。
「ちょ、ちょっと待てユゲーラ。私は、こいつが危険物を持っていないかどうかを……」
「状況は把握してますよ。言っておきますけど、その耐波メットは尋問用じゃあないんですよ。
 あくまで、あれはSMJ用のもので……本来の使い道ではない使い方をするのは違反ですよ違反」
「あ、あのなァー、元はと言えばあいつがボディチェックを拒否ったのが……」
「彼の種族は帽子の下とか見られるのが恥ずかしい種族なんでしょ? それなら、上から触るだけでいいじゃないですか。
 どうせ危険物だとか何だとかなんて、ボディチェックの後のSMJで明らかになるんだし。
 変に邪推するアナタがいけないんですよ。何にでも首突っ込むテレビアニメの名探偵じゃあないんですから」
「うぐぐっ……」
役人ユンゲラーさんことユゲーラさんの淡々とした説教に、ルンゲラさんは相当参っている。
そしてついには、ルンゲラさんは俯いて完全に言葉を失ってしまった。

……あれれ、もしかしてぼく、助かったんじゃあ……?

状況が一気に好転していくのを完全に理解するより先に、
ユゲーラさんはさっさと耐波メットを拾い上げぼくに被せて、こう言った。
「さぁボディチェックはお終いですよ、コウイチさん。
 今から貴方の『心の危険度』を探るSMJを開始します。心を落ち着けてください」
「え? あ、はい……」
最大の障壁であり今の今までずっとつっかえていたボディチェックが急に終了し、さっさと次の段階へと進んでしまった。
ルンゲラさんも、俯いて黙りこくっている。次の段階へと進むのを邪魔するつもりは一切なさそうだ。

……なんだか喜びにくいけど、助かった……んだよね?

582:17/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:49:23
SMJと呼ばれる超能力での心の検査には、何の障害もなかった。
ユゲーラさんがぼくに向かって超能力を使いながら、なにやら手元の書類にペンを走らせ、
その間ぼくはただ突っ立っているだけ。何かをする必要は一つもない。
検査の時間もたった二、三分ほどで、出された結果もぼくの心を落胆させるには程遠いものだった。

「危険度は『10』……少々心の強度が脆いくらいで、特には心配なしですね」

ユゲーラさんは相変わらず淡々とした口調でそう言いながら、
検査室の出口を開けて、続けてこう言った。
「以上で審査は終了です、お疲れ様でした」
ユゲーラさんのその一言が終わると、また部屋に沈黙が流れ始めた。
誰も何も言わない。今まで散々ここでつっかかっていたせいか、
このままこの部屋を出ていいのかどうかと、無意味な不安を抱いてしまう。
「あ、あのう、先に進んでいいんですか?」
「もちろんですよ」
「審査終了ってことは、テレキシティに入っていいってことですか? 
 入街者リストっていうのに登録されたんですか?」
「入街許可は実質下りているも同然です。登録はこの先の受付で行ってください」
ごく淡々とした口調。……その淡々とした口調のせいで、急には実感が沸かないけど、
徐々に、じわじわと、その『実感』は胸の底から沸き立ってくる。数秒後、ついにぼくは完全に理解した。
……ヒャッホー、人間だとバレないで審査を抜けられたんだっ、ぼくっ!

「じゃ、じゃあ失礼します……えへへ」
照れ笑いを隠せずそれを顔に出しながら、忘れず毛糸の帽子を被りなおして出口を潜ろうとすると、
横に立っていたユゲーラさんが、なんと言葉尻に笑みを含ませながらこう言った。
「ふふ……おめでとうございます、コウイチさん」
今までの事務的な口調とは全く違う、あたたかい声。
「あ、ありがとうございますっ! じゃあ!」
後味良い気分に包まれながら、ぼくは出口を抜けていき先へと進んだ。

583:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 19:50:57
(;´Д`)

584:18/18  ◆8z/U87HgHc
08/01/18 20:00:49
受付での入街者リストへの登録は何のトラブルもなく済み、
今ぼくは待合室に座って、フライゴンとジュカインが審査を終えやってくるのを待っている。
色々トラブルはあったものの結果的にバレずに審査を抜けられた、この嬉しさを伝えたいという気持ちと、
彼らが果たして審査を無事に抜けられるだろうかという不安がぼくの胸に混在していて、
そのせいで今まで以上にソワソワしてしまって落ち着かない。
そして数分後、ついにフライゴンがこちらへ姿を現した。

「コウイチくぅん……ボク、疲れましたよォ……」
フライゴンはなぜだかへとへとに疲れていて、ぼくの隣に力なくドスンと腰を下ろした。
「ど、どうしたの? 審査で何かあったの?」
「いや……SMJとか呼ばれる検査で危険度が85とかなっちゃいまして。
 色々な警告やら手続きやらが凄くメンドくさかったんですよォー! 
 なんか探知機みたいなモノも飲み込まされたし! もォー!」
「あぁ、お疲れ様だったねフライゴン……あはは……」
フライゴンもぼくと同じく、ずいぶんと苦労したんだなぁ。ってことは、ジュカインも……

「―でさー、探知機みたいなものも飲み込まされるし、ホント最悪だったぜっ!!」
「だよねー、もうホントいやになっちゃったよボクもっ! 吐き出せないかな、うげーっ」
……予想通り、ジュカインもずいぶんと苦労したみたいでした。

「まぁ、とにかくっ! こうして無事に審査を抜けられて良かったじゃない。
 結果オーライってことでさ、ストレス溜まった分は観光で晴らそうよ!」
ぼくは立ち上がり、愚痴を零しあっている二人を励ますようにそう言った。
その言葉に二人はすぐ笑みを取り戻すと、元気よく立ち上がった。
「そうですねっ! よーし、このストレスはレストランでたくさん食事して発散だっ!」
「じゃあ行こうぜっ! オレはフラワーショップに行ってみたいなァー」
「ぼくは図書館に行きたいや。どんな本があるんだろ?」
かくしてぼくらは無事に審査を通り抜け、ようやくテレキシティの観光が始まったのだった。


つづく

585: ◆8z/U87HgHc
08/01/18 20:03:27
本当は10レスくらいで終わらしたかったのですけども。
次回は一週間以内には投下したいです。では。

586:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 20:36:51
なんだろう…三人目の敬語ユンゲラーにすごい萌えを感じる…

587:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 21:58:03
GJ!

588:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 23:14:48
乙です!

589:名無しさん、君に決めた!
08/01/19 00:17:36

このユンゲラー三人は、ここのみの一発キャラにするには惜しいキャラ達だ

590:名無しさん、君に決めた!
08/01/19 03:15:57
危険度85ww

591:名無しさん、君に決めた!
08/01/19 10:32:40
さりげなく植物に優しいジュカインに萌えた…ってくさタイプだったなそういえば

592:名無しさん、君に決めた!
08/01/19 17:25:04
フライゴンとかその気になれば破壊光線とかで街を破壊できるだろうしな。

593:名無しさん、君に決めた!
08/01/20 00:48:42
いじっぱりでプライド高いのに、本当は心が弱くて主人思いで植物大好きなジュカインたん…
ああジュカインたんに過剰に挑発されたい、リーフブレードで切り裂かれたい

594:名無しさん、君に決めた!
08/01/20 08:52:29
ユゲーラさんイイッ!

595:名無しさん、君に決めた!
08/01/21 00:00:37
この先どういった展開になるんだろうな?
街観光に何回も費やすか、それともさっさとピジョットと戦うか。

596:名無しさん、君に決めた!
08/01/21 21:19:55 K9ghO/1g
保守

597:名無しさん、君に決めた!
08/01/22 22:03:47
最終話 希望を胸に すべてを終わらせる時…! 
ポケモン・ドリームワールド第1巻は、発売未定です。 48

フライゴン「チクショオオオオ!くらえピジョット!新必殺流星群!」
ピジョット「さあ来いフライゴンンンン!オレは実は一回攻撃されただけで死ぬぞオオ!」
(ザン)
ピジョット「グアアアア!こ このザ・理性と呼ばれる三幹部のピジョットが…こんな小僧に…バ…バカなアアアア」
(ドドドドド)
ピジョット「グアアアア」
オニドリル「ピジョットがやられたようですね…」
ムクホーク「ククク…奴は三幹部の中でも最弱…」
エアームド「竜ごときに負けるとは魔王軍の面汚しよ…」
フライゴン「くらえええ!」
(ズサ)
3人「グアアアアアアア」
フライゴン「やった…ついに三幹部を倒したぞ…これでネイティオのいる飛鳥城の扉が開かれる!!」
ネイティオ「よく来たなソードマスターフライゴン…待っていたぞ…」
(ギイイイイイイ)
フライゴン「こ…ここが飛鳥城だったのか…!感じる…ネイティオの魔力を…」
ネイティオ「フライゴンよ…戦う前に一つ言っておくことがある お前は私を倒すのに『仲間』が必要だと思っているようだが…別になくても倒せる」
フライゴン「な 何だって!?」
ネイティオ「そしてお前のご主人様はやせてきたので最寄りの町へ解放しておいた あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
フライゴン「フ…上等だ…ボクも一つ言っておくことがある このボクに生き別れた仲間がいるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
ネイティオ「そうか」
フライゴン「ウオオオいくぞオオオ!」
ネイティオ「さあ来いヤマト!」
フライゴンの勇気が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!


こんな結末になりませんように

598:名無しさん、君に決めた!
08/01/23 07:40:14
まず、ト書きの時点で有り得ないから安心するんだ。>>1は頑張ってくれてるんだから、あまり茶々出さない方がいいぜ。

599:名無しさん、君に決めた!
08/01/23 18:14:32
真のネ申、>>1に賛辞を。

600:名無しさん、君に決めた!
08/01/23 19:07:44
>>597に色々突っ込みたいと思いつつスレ容量を心配しながら600

601:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 09:29:11
今日あたり来るかな?

602:1/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:32:42
スレ容量が足りるか不安だけども…
投下します。

603:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 18:36:34
キタ━(  )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━(  )━ッ!

604:1/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:37:22
『壁』から出た瞬間から、そこは既にテレキシティの中だった。
樹木のようにそこらに高く生え揃っているビル群、観光者を誘惑するための様々な看板、
アスファルトで舗装された道、そして前の村や森とは比較にならぬほどのポケモンの密度。
真上を見上げれば、青い空の下に電線が縦横無尽に走っている。
耳から入ってくるのは小鳥のさえずりでも葉擦れの音でもなく、ポケモン達のざわめきと雑踏。
都会特有のくどいぐらいの賑やかさは、まるでぼくらを歓迎しているかのように、
断続的に、止むことなくぼくらの周りを取り巻いていた。

「いかしまー、予想していたよりも、すっごい都会だなァ……
 一回家族旅行で行ったオオガネシティ並の都会っぷりだよ」
ぼくらにとっては都会なんてそんな珍しい物でもないはずなのに、
辺りにある近代的なモノの一つ一つに興味が惹かれてたまらない。
田舎から初めて都会に上京して来た人とか、たぶんこんな気分なんだろうなァ。
フライゴンなんかは、そこらのビルに張ってある看板を一々指差しては、はしゃいでいる。
「うわーっ、見てくださいよアレ! 『ブーピッグ心療内科 話題の黒真珠療法で癒します』ですって!
 黒真珠療法ですよ、黒真珠療法! インチキくさいはずなのに、何だか本当っぽい! うわーっ!」
「インチキくさいからインチキなんだろ? どれ、じゃあ試しに入ってみるか」
「いやいやァ、それはいーよ。そんなことよりボクは早く腹ごしらえがしたいなーっ!
 エビのノワキソースがけが食べたいなー。多分ここには無いだろうけdpさー」
都会の喧騒に負けないくらいの勢いで、フライゴンは騒いでいる。
ジュカインはそんなフライゴンを見かねたように、ため息混じりにこう言った。
「あのなーっ、フライゴンお前はしゃぎすぎっ! ガキじゃねーんだからさ。
 あくまで目的は物資調達とはぐれた仲間を探すこと……だろ? コウイチ」
「ん? まぁそうだけど……ま、いーんじゃないの、せっかくだしこういう時くらいはしゃいでもサ」
「ですよねーっ、さすがコウイチくん……おやっ」
と、ふとフライゴンがある方向へ視線を向けたまま固まってしまう。
その視線の先にあったのは、店頭販売をしているタイプのクレープ屋さんだ。

605:2/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:41:29
「ねーねー、せっかくだしアレ食べません? クレープ」
ぼくの服の袖を引っ張りながら、フライゴンは案の定そうおねだりを始めた。
ぼくは笑顔で頷くと同時に、財布を掴むために腰のポシェットへ手を……
おっとっと、この手じゃあポシェットを開けられない。
「ねぇジュカイン。ぼくこの手じゃあ何も掴めないからさ、ポシェットの管理よろしく頼むよ」
「オッケーオッケー。しかしその手だと色々不便だよなー? 
 後でさ、指の数がわかんないタイプの手袋でも買って付け替えようぜ」
「うん、そだね」
確かに、このさき指を使わなくちゃいけない場面なんかいくらでもあるだろうしね。
まず物食べるのに指使うし……フライゴンにアーンして食べさせてもらえばいいけど、そりゃカッコ悪いよね。

「よいしょっと……えーと、クレープ買うんだよな? ねだんは?」
「一つ400円だね。ボクはあのエビグラタンクレープが食べたいなァー」
フライゴンは食べるのを大層楽しみにしているのか、聞かれてないことまで余計に答えている。
「よし分かった。ええと、財布どこに入ってんのかな……」
ポシェットをぼくの腰から外し、中をまさぐって財布を探し始めるジュカイン。
「おっ、あったあった」
教えてあげる必要もなく、ジュカインは程なくして財布を探し当てた。
ジュカインは、財布につけてあるモンスターボールの模型つきのストラップを引っ張り
財布をポシェットから出し、中からお金を取り出そうとチャックを開けようとする。
……その途中、彼は急にこんなことを言い出した。
「この財布……なんか中に生き物でも入れてんのか?」
「え?」
突拍子も無くそんな事を言い出すジュカインに、一瞬ぼくは戸惑う。
「生き物なんか入れてないよ……なんで急にそんなことを?」
どうしてそんなことを言い出したのか理解できないけど、とりあえず否定しておく。
そうすると、ジュカインは不思議そうに首をかしげながらこう言った。

「いや、さ……『動いた』。いま、この財布……『動いた』んだよ」
「えっ?」

その瞬間、刺すような頭痛が突如ぼくを襲った。

606:3/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:45:21
そして同時に、ジュカインの手の中にあった財布が突如宙を舞った。
まるで財布自体に意志があるかのように、飛び上がりジュカインの手を離れたんだ。

「なっ!?」
突然の怪現象に驚愕し、ジュカインは一声を上げた。
辺りを闊歩する群集の視線が、一斉にこちらへと集中する。
その傍ら宙を舞った財布は、ポケモン達の群集の中へと消えていった。
そして、ぼくは確かに見た。群集の中その財布を受け止めたポケモンがいたのを。
その小さなポケモンが、財布を受け取ったと同時に、群集を掻き分けて逃げていくのを。

先ほど感じた頭痛……あれは、ついさっき体験したことがある。
審査所で、ルンゲラさんにサイコキネシスをかけられた時に感じた頭痛と同じだ。
……それを理解した直後、ぼくはいま何が起こったのかを瞬時に理解した。

「ひ……ひったくりだっ!! 財布を盗まれたんだっ!!」

衝撃のあまり、思わずぼくはそう叫んでしまった。
「えっ!」
「盗まれたって、ど、どういうことだよ?」
反応するフライゴンとジュカインに、ぼくは慌てて説明する。
「ぼくは見たぞ、いま飛んでいった財布を受け止めて、そして逃げていくポケモンがいたのを!
 サイコキネシスだっ。サイコキネシスを使って、財布をまんまと盗み出したんだ!」
「な、なんだってっ! ちくしょう、犯人を追わなきゃ―」
そう言って犯人が逃げた場所すらも分からないままフライゴンは走り出そうとするけど、ぼくはそれを咄嗟に止める。
「ダメだよ、もう見失っちゃった……盗んだポケモンの姿もよく見えなかったし、諦めるしかない……」
そう、犯人は既に群集の波にもまれ消えてしまっていた。
その群集も、ひったくった犯人を捕まえてあげようとするような人はいないし、
みんなほとんど見て見ぬふりをしている。冷たい群集だ。
都市に入ってからまだ十分も経っていないっていうのに、いきなり文無しになってしまった……

607:4/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:49:11
それにしてもひったくり事件が目の前で起こったっていうのに、
ここの都市の人たちは何でみんな、興味なさそうというか……
まるでこれが『日常の一環』だといった風に、何食わぬ顔をしているんだ?
窃盗が日常的に起こるほどに、ここは治安の悪い都市なのか? そうは思えないけど……

「え~~~、都市に入って急にひったくり~~~? ふあぁー……」
フライゴンは深いため息をつき、魂が抜けたかのようにガクンとうなだれてしまった。
お金がすべて盗まれてしまったのだから、目の前のクレープはもちろん、
この先どこに行っても何も食べれないということを瞬時に理解したのだろう。
「オ、オレのせいじゃあないぞっ! ……って、やっぱこれオレのせいだよな……?
 ごめんな、フライゴン、コウイチ。もう少しオレが注意していりゃあ……」
しゅんとして、すまなそうに頭を下げるジュカインに、ぼくはフォローを入れる。
「いいや、ジュカインは悪くないよ。悪いのは、どう考えてもひったくり犯の方じゃないかっ。
 だからそんなしゅーんとしないでよ。そんな姿はキミには似合わないよ、ジュカイン」
「ああ……」
フォローしてみたはいいけど、罪悪感を一身に感じているようなジュカインの態度は変わらない。
そうだよね、基本的にジュカインは繊細で、細かいところを結構気にするようなタイプだからなぁ……

やっばい。都市に入ったばっかりだっていうのに、急にみんなのモチベーションがガタ落ち状態っ。
こういう時って、トレーナーのぼくが何とかしなきゃだよね……う~ん、どうしよう。
……ポケモン二体が周囲でうなだれている中、必死に頭を働かせること数十秒後。

「あの~……もしもし、あなた観光してきた方ですよね?」

「へ?」
天の助けなのか、はたまた単なる時間潰れの種なのか、
突如見知らぬユンゲラーがぼくの前にやってきて、そう声をかけてきた。

608:5/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:52:37
ふつう種族が違えば顔の見分けなんて大体つかないのが普通だけれど、
いまやってきたこのユンゲラーは、今まで出会ったどのユンゲラーとも違った者であるとは容易に分かる。
スーツを着こなしていたあの役人ユンゲラー達とは違って、
彼はチェックのシャツにジーパン、と割とカジュアルな服装をしている。
黄色い肌にはハリがあり、ヒゲも生やしておらず、全体的に若々しい雰囲気を持っている。

いきなり知らないユンゲラーに話しかけられて、ぼくはちょっと戸惑い、
また多少警戒しながらも、彼が投げかけた質問へ答えを返した。
「はい……そうですけど、何の用でしょう?」
そうすると、彼はその答えを期待していたとでも言うように笑顔を浮かべた。
「ああ、やはりそうでしたか! ええと、わたくし……」
しかし、なぜか彼はそこまで言いかけてから一度口を噤んでしまう。
そして数秒後、彼の口が再び開いたと思ったら、また質問が飛んできた。
「あのう、あなたがた財布をひったくられた、というか……とられたんですか?」
「……? はい、そうですけど……」
このユンゲラーが何を言いたいのか、いまいち理解できない。
心配してくれるのなら嬉しいことは嬉しいけど、事態が進展するわけでもないしなぁ……
そんなことを考えてた矢先、彼はいきなり笑顔を取り戻して、こんなことを言いだした。

「あっはっは、最近よくあるんですよね、観光者を狙ったこういう事件。
 でもね、安心してください。これはひったくり事件ではなくて、ある子供の『イタズラ』に過ぎません」
「へ?」

言ってる意味すらもよく理解できなくてつい疑問符を返してしまうけど、
なんだかぼくらが悩んでいたことが全くの杞憂であったかのような……そんなニュアンスだ。
そしてそんなニュアンスに反応したのか、ジュカインとフライゴンも顔を上げてそのユンゲラーを見つめだした。
ユンゲラーはぼくらへ向かってニコリと柔らかなほほえみを投げかけながら、こう言った。

「もよりの交番へ行ってみてはどうです? ……あ、私が案内しましょう。ついてきてください」

609:6/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 18:57:22
「……赤と白のボールがついたストラップをつけてある、黒い長財布です。
 20万金くらい入ってて……『コウイチ』ってなまえも書いてあります。
 まさかあるとは思いませんけど……ありますか?」
「はい、少々お待ちくださいね……」

ユンゲラーさんに案内されてたどり着いた交番にて、ぼくはダメ元でそう聞いてみる。
……ユンゲラーさんいわく、ひったくられた財布はこの交番に届けられているはずだって言うんだ。
ありえない話だ。財布をひったくられたのは、ついさっきの出来事だっていうのに……
そして数十秒後、おまわりさんから帰ってきた答えはこうだった。
「……ええ、届いてますよ。さきほど届いたばっかりです」
「ウソ……!?」
「マジかよ、さっきひったくられたばっかだぞ!?」
「そんな、信じられない……」
先程ひったくられたばかりのぼくの財布が、『落し物』として保管されている……
その奇妙な事実に、ぼくらは財布が戻ってきた喜びよりも、驚きのほうが先行していた。


「財布が戻ってきたのはいいことだけど……ほんと、なんでなんだろう」
交番の外。手元に戻ってきた財布をいじくりながら、思わずぼくはそう呟いてしまう。
フライゴンやジュカインも同じく未だに不思議がっていて、次々に推測を投げかけてくる。
「だれかがひったくり犯を捕まえて、交番に届けてたんじゃあないですか?」
「いや、それなら何でオレら本人に財布を返さないんだって話だろ。
 ひったくり犯がどっかで財布を落として、それが……って、それも有り得ないか」
交錯する身のない推論。それに決着をつけたのは、交番へと案内してくれたあのユンゲラーさんだった。

「簡単なことですよ。ひったくり犯が自ら交番に届けたんです」

「はい?」
ユンゲラーさんの言ったそのひどく矛盾している答えに、ぼくらは耳を疑った。

610:7/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:01:48
「いやね、最近この都市ではよくあることなんですよ……
 犯人は子供で、名はマネネ。この街でその名を知らない者はいないと言われる
 天才マジシャンのご子息……いわゆる、お坊ちゃまですよ」

「え……じゃあ、あれはそのお坊ちゃまの単なるイタズラってことですか?」
「まぁ、そういうことになりますね」
「…………」
現地の人が言っているんだから嘘ではないのは分かるけど、なんとも信じられない。
超能力を利用して、そんな悪質なイタズラをする子供がいるなんて……
というか、何で素性まで知られているのに誰も対策を講じないのか、それが疑問だ。
……そんな疑問を抱きはじめた途端、ジュカインがそれを口に出して代弁してくれた。
「なぁ、ユンゲラーさん。なんでそのお坊ちゃま、そんな名前とか知られてるのにさ、
 誰も対策しないというか、説教とか補導とか……そういうのをしようとしないんですか?」
「いやあ、確かに、あの子がそういった悪質なイタズラをしているというのは街中みんなが知っていますけど、
 そのマネネくんはまだ二桁もいかない子供ですし、なにより人気マジシャンの子供ですからね。
 いわばマスコットとでもいいますか。実害はまだありませんし、みんな甘い目で見逃してやっているんですよ」
なるほど、じゃあ目の前で観光客が財布をひったくられてるって言うのに
街の人がみな何食わぬ顔をしているのは、そういう理由だったのか。
……いくらなんでも、ちょいと甘すぎるんじゃないのか。
そう思い始めたら、ジュカインが見事にそれをまた代弁してくれた。
「……ちょいと甘すぎるな、ここの街の奴らは! こんな悪質なことをするヤツを甘い目で見逃すだと?
 更正が必要だな、間違いなくっ! このオレが、そのマネネって坊やの腐った根性を叩きなおしてやりたいぜっ」
ジュカインは憤りを露わにして、普段は細めている目をかっ開き、声を荒げている。
……そのジュカインの気持ち、分からないでもない。
なにせ彼はその『お坊ちゃま』という人種に、無垢なイタズラという名の虐待をされた経験があるのだから。
「ったくよー。そのマネネ坊やの親の顔が見てみたいぜっ! これだから金持ちのお坊ちゃまって人種はよー……はっ!」
「…………」
「……す、すまん、つい口が滑っちゃって……えへへ……」

611:8/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:05:08
「とにかく、ありがとうございますユンゲラーさん」
「ありがとうございます~」
「ありがとうございますっ!」
「いやいや、礼は入りませんよ。するべきことをしたまでですから」
ぼくたちが一斉にユンゲラーさんへとお礼をしても、彼は謙虚な姿勢を崩さない。
ああ、こういうのが『大人の鏡』っていうんだよね。何に対しても低姿勢で物腰柔らか。
相手はポケモンだけど、素直に憧れちゃうよ。

……でも、いくら彼が親切で優しい大人とはいっても、
この事を教えるためだけに話しかけてきたってことはないだろう。
そういえば、一回何かを言いかけて口を噤んでいたっけ。この方の本当の目的は一体?

「そういえば、ユンゲラーさん。ぼくたちに、他に何か用がありますよね?」
さりげなくそう聞いてみると、ユンゲラーさんは思い出したようにハッとした後、ほがらかに笑いながらこう答えた。
「あー、あっはっは、すいません、本当の用件を忘れちゃっていました!
 ええと、わたくしこういう者でしてねっ。ご確認ください……」
ユンゲラーさんは懐から一枚の名刺を取り出すと、ぼくに差し出してきた。
ぼくはモンスターボールの手にその名刺を乗せて、書いてある文字へと目を走らせる。
所属が書かれている場所には、白い修正テープの上に直筆で書いてある。
「なになに、なんて書いてあるんですかー」
覗き込んでくるフライゴンと一緒に、ぼくはその名刺に書かれている文字を読み上げた。

「テレキシティ観光案内団体……ユリル・ゲラ……」

612:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 19:06:14
支援

613:9/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:07:46
読み上げ終わると、すかさずフライゴンがユンゲラーさんに対してこう質問した。
「観光案内団体ですって? じゃあ、ユンゲラーさん……ええと、ユリルさんはボクたちを案内するために?」
「ええ、そうです。それも、我々はいわゆるボランティア団体ですので、
 お金が欲しいだとかそういう下心は一切抱いておりません。100%の『善意』で、
 あなたたちの観光を、よりよいものへしてあげたいと思っているのです!」
笑顔を見せて、そんな商業トークめいたことを語るユリルさん。
お金を取らない観光案内……聞くからに怪しいけど、その腹に何かを含んでいそうな様子は一切ない。
「へェー。ボランティアで観光案内ってなんか面白いな」
「生物と生物のやりとりは打算的なものばかりで構成されているわけじゃあございませんからね。
 利害がなんだ損得がなんだ、この都市はそういった世知辛いものばかりでないという事を
 みなさま他所の方々に証明するために、我々の団体は存在しているのです」
「ふゥん。立派ですねぇー!」
感心したようにジュカインはそう唸り、こちらを向いて続いてこう言った。
「せっかくだし案内してもらおーぜコウイチ。財布の恩もあるしさ、どうだ?」
そしてそれに便乗してフライゴンも。
「そうですよ、たくさん案内してもらって色々案内してもらいましょー。財布の恩もありますし」
二人して、ユリルさんを案内につけるようにとぼくに頼んでくる。
いや、別にぼくは断る気はなかったけどね……
二人の言うとおり財布の恩もあるし、案内は居たほうがいい。

「じゃあ、案内お願いしますユリルさん」
ぼくが笑顔でそう言うと、ユリルさんも笑顔で返し、そしてこちらへ手を差し出してきた。
「こちらこそ。では、お近づきの印に握手、を……」
「!」
急に握手を求めてこられて、思わぬ事態にぼくは焦りを覚える。
このモンスターボールの手で握手なんて……下手したら、怪しまれるかも……
……いいや、握手を変に拒否したらそれこそ怪しまれるし、嫌味な印象を相手に与えちゃう。
そもそも手が球体のポケモンなんて珍しくもないし、怪しまれることはないさ……
ぼくは怪しまれないよう笑顔を崩さないままに、その丸い手をユリルさんへと差し伸べる。
ユリルさんがぼくの手を握り、『契約』は成立した。

614:10/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:11:25
それからぼくらは、ユリルさんの案内と共に都市観光を満喫し始めた。
ぼくらの都市観光にユリルさんという案内が付いたのは正解だった。
彼はぼくらがあれこれと騒ぐのにも一々付き合ってくれて、気を遣うのに苦労するということもないし、
都市の風景で気になったこと、興味のあること、彼は全てに詳細な答えを返してくれ、
それはぼくらを飽きさせることはなく、この観光をより充実したものへとさせてくれる。

「……それでですね、この都市では基本的に、誰でも超能力を扱っていいというわけではないのですよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうです。仕事や教育場以外の場で公に超能力を使っていいのは、成人してかつ厳重な審査を通ったものだけで、
 その条件を満たさず超能力を使ってしまったものは、さきほど話に出しましたマネネ坊やみたいな
 幼子でない限りは、この都市の条例において厳重な処罰を下されてしまいます」
「ほォー、そうなんですかァー……」
ぼくの質問した『超能力について』の質問にも、ユリルさんは律儀に答えてくれた。
段々とこの都市についての知識が深まっていき、それにつれこの都市がようやく身に馴染んでくる。
ここは住んでいるポケモンがエスパータイプとはいえ、ぼくらの世界の都市とそこまで差はないみたいだ。
「あっ、ねぇねぇコウイチくん! あれ見てくださいっ」
「ん? なぁにフライゴン」
ぼくを呼び止めたフライゴンは、ある方向を指差している。
そちらの方向へ視線を向けると、小庭の中心に立つ大きなポケモンの銅像が目に入った。
面積の広い台座に立つその四足のポケモンは、
銅像でありながらも、圧倒されてしまいそうなほどの威圧感を放っている。
まるで大敵に立ち向かっている最中かのように目つきは鋭く、翼を力強く広げており、
大きく開けられたその口から、雄々しい咆哮がこちらに聞こえてきそうなくらいだ。
「……なんだか、この都市に場違いなくらい強そうなポケモンの銅像だね」
「でしょねーっ。で、そこの台座に書いてある文字、見てくださいよっ」
「んん?」
フライゴンにそう言われ、今まで気に留めていなかった台座に掘られている文字へと目を走らせる。

……十二竜騎士が一員、『一月ガーネットの竜騎士』……

615:11/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:19:17
「竜騎士っ!」
ぼくはその文字を読み終えた後、思わずそう声を上げてしまった。

十二竜騎士。まえにハスブレロ村長に教えてもらった、この世界の唯一の戦闘集団のことだ。
十二体ものドラゴンポケモンという響きに、ぼくはひどく胸が躍ったっけ。
ドラゴンポケモンは謎が多く神秘的で、しかもカッコよくて激強だっていう、
少年の夢をそのまま形にしたかのような、まさに夢のようなポケモンだ。
そんなドラゴンポケモンが十二体もいるっていうんだから、ワクワクしなきゃウソだってものだよ。

「へー、あれがウワサの竜騎士かぁー。カッコいいねっ!」
「うん、カッコいいですねっ! ボクも同じドラゴンだってのが信じられないくらいですよーっ」
半笑いでそんなことを言い出すフライゴンに、ぼくはすかさずこう切り返す。
「あれあれ、フライゴンも十分カッコいいよ? 強いしさっ」
「そ、そうですか? もう、コウイチくんってば……」
照れくさかったのか、下を向いて頬を染め出すフライゴン。
……カッコいいというよりは、どっちかというとカワイイ方かな?
「おーい、竜騎士ってなんなんだ?」
ふとジュカインが好奇心を剥き出しにしてそう聞いてきたので、それに答えてあげる。
「竜騎士はね、魔王軍と戦っているドラゴンポケモンたちのことだよ。十二体もいてさ、みんなすっごく強いんだって」
「ほうほう。……その竜騎士サンの銅像がなんでこの都市に立ってんだ?」
「え……さァ?」
ジュカインにそう言われて、ぼくは初めてその違和感に気づく。
エスパーポケモンの都市であるはずのここに、なんで竜騎士の銅像が立っているんだろう。
不思議に思い始めた矢先、横のユリルさんがこう言った。
「真実と忠誠を意味するガーネットの石を司る竜騎士様……
 何十年か前この都市に魔王軍がやってきた時、竜騎士様は颯爽とこの都市に現れ、
 魔王軍をあっさりと撃退しこの街を守ったのです。被害はただの一件もありませんでした。
 それ以来ガーネットの竜騎士様は、この都市の守護者として祭られているのです」
「なるほどー……」
ということは、もしぼくがこの都市で魔王軍に襲われたとしたら、生の竜騎士を拝むことが出来るのかなぁ。
それなら、今回ばかりは魔王軍に襲われてみたいなァ……なんちゃってね。

616:12/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:22:45
時刻はちょうど正午。
日照りの強さはそろそろピークに達してきて、
はしゃいでいたフライゴンもどんどん元気を失くしはじめ、
ぼくも毛糸の帽子の中がだいぶ蒸れてきて、そろそろ本格的にヤバくなってきた。
ジュカインは逆にどんどん元気になっていってるわけだけれども……
だいぶお腹がぺこぺこになってきたというフライゴンの主張もあり、
ぼくらは腹ごしらえと体を涼ませるために、ユリルさんのお勧めのレストランへと入っていた。

店内は寒いくらいに冷房がガンガンに効いていて、
暑さに参ってきていたぼくやフライゴンにとっては、まるで天国のような場所だ。
「このレストランは冷房効かせ過ぎるくらい効かせることで有名ですからね。
 平日のまっ昼間だから客もそこまで多くないですし、快適でしょう」
「ですねえ、すっずしくて快適だなーあ! 水も……ぷはっ、おいしー、まるで生き返るようー!」
フライゴンはテーブルに置いてある水を一気に飲み干して心地よさそうなため息をついた。
ぼくも同じく水を飲む。からからに渇いていた喉が潤っていく感覚は、本当に言葉どおり生き返るようだ。
あー、帽子はずしたいなぁ。あとでトイレ行って、帽子はずしこよう。
「……ここ、冷房効きすぎじゃね?」
不遜な表情をしてボソリとそう呟くジュカイン。まぁ、無理もないよね。

「さァさ、なに食べるか選びましょー。エビのノワキソースがけないかなー」
フライゴンは真っ先にメニューを取ってテーブルに広げると、
舌なめずりをしながら、描かれている綺麗な料理たちを目で追い始める。
ぼくやジュカイン、ユリルさんも、続けてメニューへと視線を移した。

617:13/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:27:57
「オレはこの赤とうがらしサラダだけでいーよ。腹減ってねーし」
みんなでメニューを見始めてから数秒もしないうちに、ジュカインが遠慮がちにそう口にする。
「あれれ、別に遠慮なんてしなくていいんだよジュカイン?
 お金ならたくさんあるしさ、食べたいもの興味があるもの何でも頼んじゃってよ」
「いやあ、ホントに腹減ってないんだってば。ああ、でも遠慮しなくていいなら、
 オレ、パフェほしいかも。……パフェほしいな、パフェ。この赤とうがらしパフェちょうだい」
「オッケー。ジュカインは赤とうがらしサラダと赤とうがらしパフェね」
まずはジュカインのメニューが決まった。さて、ぼくも何を食べるか決めとこうかな。

……メニューの中には魅力的な料理の数々。どれか一つに決めろなんて難しいよ。
お金には余裕あるんだし、いくつかはここで食べないでテイクアウトしちゃいたいくらいだ。
でもそんなこと出来ないだろうし、一つに絞らなきゃだよね。
だとしたら、せめてこの都市特有の料理を頼んだほうがいいなあ。
たとえばこの、『ヤドンのしっぽステーキのマジックソースがけ』とか……
マジックソースは舐めるたびに味が変わる不思議なソースです、だってさ。

「よおし決めた。ぼくはこの『ヤドンのしっぽステーキのマジックソース風味』で!」
結局ぼくはマジックソースとかいう不思議なソース目当てにメニューを決めてしまった。
「じゃあ、ボクもそれで!」
ほしい料理の数が多すぎてどれか決めかねていたフライゴンは、ぼくと一緒のものを希望した。
ユリルさんはそれを聞くと、テーブル横のボタンに手を添えた。
「みなさん決まりましたか? じゃあ注文しますよ」
確認するようにそう言うと、ユリルさんはそのボタンをギュッと一度押し込む。
ほどなくしてウェイターのポケモンがこちらへやってきて、ユリルさんは注文内容を漏れなく伝えた。

618:14/14  ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:35:24
「あー、早く来ないかなー」
フライゴンはおしぼりでその小さい手をひたすら拭きながら、見るからにワクワクと期待に胸を躍らせている。
食事は、彼がこの都市で一番楽しみにしていたことだ。そりゃ落ち着きもなくすってものさ。
でもジュカインはそんな落ち着きのないフライゴンが目障りなのか、こんなことを言い出す。
「あのなぁフライゴン、レストランで料理を待つときはだな、もう少し慎ましく、冷静にしているのが大人ってもんだぜっ」
「……ジュカインだって、さっきからずっと貧乏ゆすりしてるくせに」
「はっ!」
まったく、フライゴンもジュカインも落ち着きないんだから。

「……?」
……気がつけば、ぼくの向かい側に座っているユリルさんも何かそわそわとしている。
周囲をキョロキョロと見回してみたり、足を何度か組み替えてみたり。
ユリルさんも料理を楽しみにしているんだろうか……?
いいや、でも今のユリルさんの落ち着きのなさは、フライゴンとジュカインのそれとは少し違う。
なんだか、妙だ。その妙な態度に、ぼくまで釣られてそわそわとしてしまう。

と、ふとユリルさんがこちらに身を乗り出してきて、ぼくに対して囁くような口調でこう聞いてきた。
「あの、あなたコウイチさんですよね、確か……」
「はい? そうですけど……」
急にぼくの名前を確認してくるユリルさん。
そしてユリルさんはその後、再び周囲をキョロキョロと確認し始めた。
……この方、何がしたいんだろう……?
何か周りのポケモン達に聞かれたくないような話でもするつもりだろうか。何を……?
……それが明らかになったのは、わずか数秒後のこと。
……予想だにしなかった言葉がユリルさんの口から投げかけられたのは、わずか数秒後のことだったんだ。

「あなた……人間ですよね?」

「え?」


つづく

619: ◆8z/U87HgHc
08/01/25 19:37:53
投下終了。
そろそろスレ容量が危ないかも……?
支援してくれた方、ありがとうございました。ではー

620:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 19:54:52
乙です!

>>619までのスレ容量:488 KB
書き込めなくなるまでの残り:12 KB
今回の投稿(全14レス):25.5 KB
次の投稿をする前に次スレを立て、書き込めなくなった時点で移行したらどうでしょうか?

それにしてもそんなに書いたのかぁ…お疲れ様です

621:名無しさん、君に決めた!
08/01/25 20:07:06
伏線バラまきまくりの回だったね
ガーネットの龍騎士は誰なのか期待

622: ◆8z/U87HgHc
08/01/26 00:29:35
>>620
調べてくれてありがとうございます!ギリギリですね。
そうですね、次の投稿日に次スレを立てようと思います。
立てれるかどうか不安ですけど……
立てれなかったら、お手数ながらみなさんに立ててもらうことになるかもしれません。

まだ書きたいことも全然書いてないけど、ずいぶん書いたような気がしますなー。
とりあえず今よりもっともっとスレが賑わうよう、頑張ります。

623:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 04:18:30
賑わうのはいいけど荒れないといいなぁ
第一今いるのって殆ど>>1のスレ立てを待ってたような奴らだろ

624:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 06:52:42
>>623
んなこたぁない。
前のスレで書いてただとか、そういうのが一切伝わらない新参だっているぜ

625:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 07:45:35
荒れさえしなきゃいいよなぁ……
ポケ板でこんな良スレに出会えるとは…

626:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 09:24:44
>>1乙!

 フライゴン君のエビ大好きっ子ぶりに思わずニヤニヤしてしまったw

 ……次スレもまたタイミングが重要だな。とにかく、>>1を精一杯応援してるぜ! 頑張れ!

627:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 18:30:55
>>621
四足歩行で翼があるドラゴンといえば、かの方しかおりますまい。

628:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 20:24:15
このスレGJ!

629:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 22:06:33
ポケモンは話薄いし、作業多いからダレるが、こういう小説見てるとまたやる気がでる


630:名無しさん、君に決めた!
08/01/26 22:11:44
>>629
メ欄のsageは半角で頼む

631:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 13:15:38
他サイトで、ポケモン小説を書いている者
ですが、いつも参考にさせて頂いてます!
どうしたらそんなに上手に書けるのかと。
もしかして本物の小説家ですか?

632:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 14:22:46
>>1は人間を卓越した存在だから

633:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 16:15:31
>>631
つまりパクっているというわけだな?

634:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 16:43:58
おまえアホだろ

635:名無しさん、君に決めた!
08/01/27 19:16:52
>>633
参考にするとパクるは違うんじゃない?

程度にもよるけどね

636:631
08/01/27 19:33:03
>>633
表現などはパクった事があります・・・。

637:名無しさん、君に決めた!
08/01/28 22:30:27
容量埋まったか?

638:名無しさん、君に決めた!
08/01/28 22:31:00
次スレの季節ですね

639:名無しさん、君に決めた!
08/01/29 04:10:53


640:名無しさん、君に決めた!
08/01/29 21:12:33
第二話は傑作


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