07/12/20 21:05:22
そんなところを目の当たりにしたフライゴンは
(……ジュカインのヤツぅ…コウイチくんはツンデレ好きなのかな…)
その日からフライゴンのツンデレライフが始まりました♪
「べっ、別にコウイチくんのためにしてるんじゃ…」
443:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 21:58:42
後味よく終わってよかった。
乙ー
444:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 22:14:11
>>1GJ!!
うん、なんつーか構成が上手い気がする。こういう所だからこそ、上手さが滲み出てるってゆーか、なんというか、すごい尊敬する。
適役の配置も絶妙だよ。謎がありつつも、どれもこれも理に適ってるし、フラグらしくみせかけて、全部キッチリ処理してる。読んでてかなりスッキリするよ。
語彙力だとかじゃなくて、戦闘描写や、言葉のテンポ、キャラの良さ、そして、仰々しくないのが凄い。
是非、見習いたいぐらい。応援してます。
445:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 22:21:46
乙です!
ジュカインよかった、コウイチとホントよかった
仲間同士とはいえすれ違いって怖いぜ
446:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 23:05:39
>>442
従順なフライゴンもいいが、ツンデレなフライゴンもなかなか……
447:名無しさん、君に決めた!
07/12/21 20:56:55
今日は投下されないんかな?
448:名無しさん、君に決めた!
07/12/21 23:53:39
ストーリーもそうだが、心理描写がやたらしっかりしてるのな
コウイチの神経質っぷりとかジュカインの余裕のなさっぷりが面白いw
449: ◆8z/U87HgHc
07/12/22 15:37:47
体調の問題で昨日は投下出来ませんでしたが、今日はしっかり投下したいと思います。
みなさんも体は大事に…
450:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 16:14:08
それにしても、これだけの量をこのペースで書いてると、
食事、睡眠、仕事以外は完全に執筆に費やしてることなるよな。
451:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 16:21:38
一回消えてから帰ってくるまでだいぶ間があったし、ある程度は書き溜めしてんじゃネーノ?
452:1/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:40:23
要約するとこうだ。
ジュカインは確かに記憶喪失だった。
だけど彼は、この一晩の間に無くなった記憶が戻ったんだ。
ジュカイン本人の話によれば、記憶が戻ったのはどうもあのヨルノズクの『夢食い』のおかげらしい。
ヨルノズクの使った夢食いが、いわゆる催眠療法……その代わりとなったということなんだろう。
そしてジュカインは記憶が戻ったことをぼくに打ち明けた。
更に、本当はぼくに……ぼく達に対して凄く『感謝』しているということも、同時に打ち明けたんだ。
今までジュカインはどこか無愛想で、ぼくに懐いてなんかいないんじゃあないかとも思っていたけれど、
実はその逆……全くの逆だった。本当は懐いていたけれど、ただそれを心の内に留めていたってだけだったんだ。
そして今、ジュカインはぼくの腕の中にいるっ!
昨日からついさっきまで、手を差し伸べても届かない場所に行ってしまった気がしていたけれど、
今はぼくの腕の中……そう、戻ってきたんだっ! ぼくのポケモン……ジュカインっ!
数時間前抱いてたのは悲観、数十分前抱いてたのは絶望、数分前抱いてたのは疑惑と不安……
そして今は一転急浮上っ! たった今ぼくが抱いているのはただ喜びっ、それだけさ!! うひゃーっ!!
きゃーーっ、うーれしーーいっ!!
うわーいっ、わーいっ!! やった、やったーァ!! きゃーーっ!!
やったよフライゴーン!! お帰りジュカイーン!! きゃーーーっ!!
453:2/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:45:09
「わし、昔っからこういうドラマ的なの大好きなんだよねエェェッ!!!」
突然族長さんがそう叫び出したのは、既にぼくとジュカインがお互いの体から腕を離した頃だった。
「えっ?」
ぼくもジュカインも同時に疑問符を浮かべて、族長さんの方を振り向く。
族長さんはいつの間にやら目から涙をボロボロ零し、ただでさえしわくちゃの顔をぐしゃぐしゃに歪めていた。
「感 動 し ま し た 的なことが言いたいんだよねっ、わしはっ!!
だって感動モノ的なの大好きだもん、わしっ!! ううっ、こんな間近でそんなドラマ的なの見せられちゃあ、泣かざるをえんべよ……!」
「は、はあ……」
「ケケケッ、なァーに言ってんだか」
ジュカインは笑みを交えながら、呆れた風なため息をついた。
ぼくは呆気に取られて言葉も出ない。……族長さん、キャラ壊れてますよー。
「……んっ」
ふと、ジュカインが何かに気づいたように小さく声を上げた。
その彼の視線の先にいるのは、族長さんと同じように涙ぐんでいるキモリ達だった。
「おいおい、お前らまで泣いてんのかよー!? どんだけ感化されてんだよ、何か冷めちまうぜー。カハハッ」
ジュカインが冗談ぽくそう言うと、大勢のキモリ達の中の一匹が
それに対して首をぶんぶんと横に振って、こう言い出した。
「いや……オ、オレ達が泣いてるのはそれだけじゃなくて……」
「あーん?」
「ジュ……ジュカインさんがこの森を出て行くんだと思うと……オ……オレ寂しくて……だから……」
454:3/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:48:21
「!」
キモリが嗚咽交じりに紡いだその言葉に、ジュカインは表情を強張らせた。
ぼくもそのキモリの言葉に、軽く考えさせられる。
……そういえばこのキモリ達、ジュカインに随分懐いていたそぶりを見せていたっけな。
キモリ達にとっては可愛そうなことだけれど、仕方ないよね……
歓喜の中にふと芽生える突っかかり。このままじゃあ、後腐れというヤツになっちゃうかも……
……とりあえずは、ジュカインがキモリ達に対してどんな言葉をかけるか、それが問題だ。
そして数秒の沈黙後、ジュカインがキモリ達に対して放った言葉はこうだった。
「言っておくが、これから後……たぶんオレはもうこの森に戻ってくることは無いと思うぜ」
「えっ」
ジュカインが冷たく放ったその言葉に、キモリ達は衝撃を受け一層泣きを強める。
ぼくもそのジュカインの冷たい物言いに、ちょっとした焦りを覚える。
……ちょっとジュカイン、もうちょっとキモリ達に対してのフォローを入れてあげてもっ……
とぼくが言いかけた瞬間、ジュカインはこう付け加えた。
「だが、誤解しないでほしいのはこういう事……オレの中には、心残りは確かにあるっ。
お前達や森と別れる事になるのは、悲しい……そういった気持ちは、確かにあるっ」
455:4/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:52:40
「オレにとって、コウイチやフライゴンはお前らよりも大切な存在であることは確かだが……
それでもお前らが大切な存在であることには変わりないのも、また確かさ。お前らのことは忘れないよ」
今度はしっかりフォローし慰めるような柔らかい口調で、ジュカインはそう言った。
だけど、キモリ達の流す涙は逆にどんどんと多くなっていく。
「う、うう……ジュカインさァん……」
キモリ達は感極まったのか、わっと一斉にジュカインの元へ群がり始めた。
みんなジュカインとの別れを惜しむように、涙をぼろぼろと流して、わんわんと声を上げている。
しかし、ジュカインはどこか不満げな表情を浮かべながら、
仕方なさそうにため息をついて、泣いているキモリ達へ向けてこう言った。
「あ、あのなぁ……、泣いてくれるのは嬉しい。すげー嬉しいんだけどさぁ~~……
そんな泣かれっと心残りが増しちゃうわけよ。だから、オレとしては出来るなら笑顔で別れを惜しんで欲しいところなんだが……」
ジュカインのその言葉に、キモリ達は一斉にジュカインの顔を見上げだす。
「え、えがおォ……?」
「そっ、笑顔」
ジュカインがそう返した途端、キモリ達はみんな全く同時に涙をゴシゴシ拭って、
ジュカインへ向けてみんな全く同時に(若干無理したような)笑顔を作って見せた。
「えっ、笑顔でありますっ!!」
「イエッサー、笑顔でありますっ!」
「オレたち、笑顔でジュカインさんを迎えるでありますっ!」
顔は笑顔なのに、言葉は涙ぐんでいる。しかも何故か奇妙な喋り方。
「カハハッ……なんじゃそりゃ……」
ジュカインは緩やかにほほえみながら、そのキモリ達の頭を優しく撫で始める。
心なしかだけども、その目には微かに涙を滲ませているようだった。
456:5/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:56:25
かくしてジュカインとキモリ達の別れの惜しみも済み、ぼくの心の突っかかりも綺麗さっぱりに消え去った。
後腐れはゼロっ。あとは、この森との別れを残すのみだ。
ぼくはたった一晩いただけだからいい思い出も特に無いけれど、いざ去るとなると少し感慨深いかな……
何だか急に、この森の風景がとても美しく貴重なもののように見えてきた。
空気も何だか美味しく感じる。数十分前までは、空気の美味しさなんて分からなかったどころか息が詰まるようだったっていうのに。
鳥のさえずり一つ、虫の鳴き声一つとっても、何だかひどく貴重なもののように思えてくる。
……ぼくに、やっと感動できるくらいの心の余裕が出来たって言うことなんだな……
そうやって感慨に耽っていると、不意に族長さんがぼくに声をかけた。
「……さて、人間様。この森を抜けたら、やはり大都会テレキシティへ行くのかな?」
「ほえっ、大都会、んっ、テ、テレキ?」
不意に話しかけられたことに戸惑い、かつ聞き覚えの無い言葉を口にされたことでぼくはひょっと間抜けな声を上げてしまった。
その反応にぼくが何も知らないことを察したのか、族長さんはすぐに説明を始めた。
「テレキシティとはエスパータイプのモンスターが住む大都会だ。
あなたがたがどこから来て、そしてどこへ行くのかはわしは知らんが……
見たところ蓄えもないようだし、テレキシティに寄っておいてまず損は無いゾ」
「へ、へェ~……なるほどォ~……」
族長さんは見事に何事も無かったかのように淡々と説明するので、何だか逆に気恥ずかしい。別にいいけどさ。
「へェ~~、次の目的地は都会っ!? シティっ!?
ってことは、やっとゴージャスな料理が食べられるってことですかねーっ!?」
話を聞いていたフライゴンは、やたらと上機嫌にしながらぼくにそう尋ねてきた。
「うん、たぶん食べられると思うよ。たくさん食べさてあげるからね、フライゴン。
……ぼくたちのお金がちゃんとこっちでも使えるか不安だけど……」
「ぅわーいっ、ありがとうございまーすっ!! やったやったァーいっ!」
おいしい料理を食べられるのがよほど嬉しいのか、フライゴンはバンザイまでして喜びだした。
口の端からヨダレだって垂らしかけてる。……もうっ、カワイイいやしんぼさんめっ。
457:6/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:01:21
「なるほど、テレキシティに向かうわけだなっ?」
ジュカインもフライゴンと同じく話を聞いていたのか、そう言いながらぼく達の間に割り込んできた。
「実際に入ったことは無いけど、道のりなら知ってるからサ。
案内は任せなよ。オレについてけば自然とテレキシティにつくよ」
そう言うジュカインの口調は、どこかウキウキとしている。
「うん、よろしくねっ」
自然に漏れ出た笑顔と共に、ぼくはそう返事を返した。
ジュカインは若干照れくさそうな笑顔を浮かべながら、 「ああ」 と小さく言って頷いてみせた。
「よっしゃ、頼むぜーっ、ジュカイーン!」
フライゴンは、じゃれつくようにジュカインの肩を平手で叩いた。
「いででっ! フ、フライゴンおまえ力強いっ! もう少しは手加減しろアホッ!」
「えへへ、ご~めんなさァ~~い」
おどけた風な謝罪をするフライゴン。その表情には、笑顔が溢れている。
ジュカインはその笑顔を見ると、仕方なさそうな表情を浮かべ、笑みの混じった溜め息をついた。
「のう、ジュカインよ」
ふと族長さんがジュカインを呼び止めた。
「んっ?」
振り向くジュカイン。ぼくも振り向いて、族長さんを見つめた。
族長さんは隣の木に手を添えながら、何か含むような笑いを浮かべている。
「何だよ族長~。何の用だよ~っ」
軽く笑みを交えながらジュカインがそう言うと、族長さんは生き生きとした口調でこう叫んだ。
「せっかくだ、餞別をくれてやるゾっ!」
458:7/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:04:30
族長さんは叫び終わると、ふと木と向き合い、おもむろにその片足を隣の木に張り付けだした。
……その族長さんの動作を見て、咄嗟に昨日の晩の記憶が脳裏に走る。
まさか……?
そして次の瞬間、ぼくのその予想通りの展開が目の前で起こった。
「お?」
「おおーー!!? ぞ、族長様がァーーー!!?」
同時に、キモリ達の間から驚嘆の歓声が沸きあがった。
昨晩モリくんが見せた垂直走り……あれを、もうだいぶ老いているはずの族長さんが今まさに行いだしたんだ。
老体を全く思わせない機敏さで、木を垂直に走り出したんだ!
「そら、持っていけお三方!! テレキシティにつくまでの腹ごしらえくらいにはなるだろうっ!!」
族長さんはその言葉と共に、昨晩のモリくんと同じく枝から木の実をもぎ取ると、ぼくたち三人へ向かってひょいと投げつけた。
何とか受け取り、投げ渡された木の実を見つめる。昨晩食べたラムの実だった。
「あ、ありがとうございます、族長さんっ!」
慌ててお礼を言うと、ぼくの声を掻き消す勢いでフライゴンも歓声を上げだした。
「ってかすっごーーい族長さん、あなたもこんなこと出来たなんてェーっ! あとありがとうございますっ!! はぐはぐっむぐぅ~~」
嬉々として皮ごと木の実にむしゃぶりつき始めるフライゴン。まったくもう、カワイイいやしんぼさんめっ。
「カハッ、よくやりやがるぜ族長めっ」
ジュカインは愉快そうに笑いながら、冷静に皮を剥き始める。
ぼくもさっそく皮を剥いて、ラムの実を口に入れる。
そういえば、もの食べるのも久しぶりだな。昨日渡された実も結局食べないでフライゴンにあげちゃったし……
口内に広がる甘みが、満足感となって胸に広がった。
459:8/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:07:35
ジュカインはラムの実を一かじりした後、感慨深そうに森全体を見回しだした。
一通り見回し終えると、ジュカインはひょっと大きく息を吸い始め……
次の瞬間、こう叫んだ。
「じゃあなお前らっ!! これからも健やかに過ごせよなァっ!!」
キモリ達や族長さんへ向けて、延いてはこの『生命の森』自体へ向けて。
森中に響き渡るような声で、ジュカインはそう叫んだんだ。
「おおっ!! またね、ジュカインさーん!!」
「さようならー!! スマイルでさようならーっ!!」
「そう、さよならっ!! あくまでスマイルでーっ!! 人間様とフライゴンくんも、じゃあねーっ!!」
「元気でなァ、ジュカイーンっ!! 人間様、竜さん、元気でなーー!!」
それを受けた森の住民達は、一匹一匹がこれまた森中に響き渡るような声で、一斉に別れの声を上げ出した。
「カハハッ……」
ジュカインは満足げな、また悲しげな調子も若干内包した笑い声を上げながら、くると身を翻し歩き出した。
「あ、ありがとうございました族長さんっ! さようならっ!」
「ありがとうございましたァー、じゃあーね族長さんとキモリくん達ー!!」
ぼく達も同じく別れの挨拶をし、ジュカインの後をついていくようにして歩き始める。
森の住民達の別れの声は、聞こえなくなるまで止むことなく続いていた。
460:9/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:11:30
――
木々が、ぼくらにほほえみを落としている。
微かに漏れる木漏れ日が、祝福するようにぼくらを照らし続けている。
そんな森の中を、今ぼく達は仲良く喋りあいながら歩いている。
「……で、オレのリーフブレードがあのヨルノズクをスパッと切り裂いたわけさっ! まさしくオレの完勝だったねっ!」
「ふ~ん、ぼくが眠っている間に色々頑張ってくれてたんだね~」
「カハハッ、ありゃコウイチに見せてやりたかったなー! 自分で言うのも何だが、あの時のオレはだいぶ調子よかったぜ!」
「ふふふ、さっすが~!」
はしゃぐように自らの戦果を語るジュカイン。今まであまり見たことのないどこか無邪気な態度に、自然と笑みが漏れる。
「クケケッ、いやぁフライゴンくんにも見せてやりたかったなァ~! オレが華麗にあのヨルノズクを倒す様をさっ!」
と、ジュカインはフライゴンへ向けてどこか嫌味な笑みを浮かべながらそう自慢しだした。
フライゴンは、その言葉にムッと来たようで。
「……む~っ、何だかムカつくなァその自慢げな喋り方っ! 何が華麗だ、本当は誇張してるんだろ~っ!?」
「してないしてない、100%事実だぜっ! どうした、悔しいかっ?
……ククッ、そういえばフライゴンは、昨晩あのヨルノズク達に大苦戦してたもんなァ~~」
「う、うるさいうるさーい! ったくもー、帰ってきたと思ったらその憎まれ口!
……ふふっ、数十分前わんわん号泣しながら土下座してたやつの台詞とは思えないねーっ」
「うげっ、そ、そそ、その話を出すなバカッ! ありゃあ半分黒歴史として扱ってくれよ!」
「あっ、ジュカイン顔真っ赤! どうした、恥ずかしいか~っ!? ふふふ、土下座男、土下座おとこーっ!」
「る、るせーっ! やるかこのメガネヤローっ!」
「よーし、受けて立つぞこの緑トカゲめーっ!」
お互い戦う構えを取るフライゴンとジュカイン。
場に一触即発の雰囲気が流れる……わけがない。
だって二匹とも、ずっと表情に笑顔を含ませたままなんだもの。
461:10/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:13:57
「と、ところでさ……コウイチ……」
「ん? なーに?」
ふとジュカインがぼくの服の裾を引っ張って呼び止めてくる。
柄にもなく、控えめな態度だ。
「……あの、図々しいかもしんないけどさ、あの赤いポフィン食べさせてくれないかな。
ほら、オレ昨晩あのポフィンあんな風にしちまったからよ……だから、なんつーか……」
俯き加減になりながら、若干話し辛そうに昨晩のことを話し出すジュカイン。
……なァーるほど。昨晩あのポフィンを弾き飛ばして踏み潰した、その罪滅ぼしがしたいんだなジュカインは。
別に今さら罪滅ぼしなんかする必要ないのに、意外とキッチリしてるねジュカインのやつ。
「いいよっ。待っててね、いまあげるから……」
「あ、ああっ!」
顔を上げて嬉しそうな声を出すジュカインを横目に、ぼくはポフィンケースを取り出す。
そういえばポフィン余ってたっけ……? ガラスケースの中身を確認して……あっ
「ごっめーん。もう余ってないやポフィン」
「ええっ!?」
「なんちゃってね、ジョーダン! 一つだけだけど、余ってたよっ。あっはは」
「な、なんだよもォ~」
ほっと半笑いを浮かべるジュカインに向かって、ぼくは赤いポフィンをそっと差し出す。
ジュカインは笑みを沈めると、そのポフィンを手にとって、まっすぐかぶり付いた。
目を瞑って、ゆっくりとポフィンを味わうジュカイン。
ゴクリとポフィンを飲み込んだ音を確認すると同時に、ぼくはすかさず聞いてみた。
「ね、美味しかった?」
ぼくのその問いに、ジュカインは満面の笑みを浮かべせてこう答えた。
「……ああ。すっごく美味しかった!」
「ふふっ、そう」
釣られて漏れ出る笑み。
昨晩からは考えられなかったくらいの和やかな雰囲気が、ぼくらを包み込んだ。
462:11/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:20:59
「ねーねーコウイチくーん、ぼくの分のポフィンはありますかー? ねーねー」
こんどはフライゴンがぼくの服の裾を引っ張ってきた。その目は、期待でキラキラ輝いている。
そんなこと言われてもなァ……ポフィンもう余ってなかった気がするんだけど。
念のためもう一度ポフィンケースを確認。
……やっぱ一つも入ってませーん。品切れガチャーン。
「フライゴン……もうポフィン一つも余ってないや……」
「えーっ! そ、そんなァ~~~」
キラキラ輝いていた目が一気に曇り、フライゴンはへにゃへにゃとへたりこんでしまった。
「ごめんねフライゴン……ぼくがたくさん作り溜めしてなかったばかりに……」
「い、いやっ! コウイチくんは謝らないでいいんですよ、食い意地張ったボクが悪いんですからっ!」
「カハハッ。まぁ、これでも食って落ち着けよフライゴン。栄養たっぷりだぜ」
そう言って、ジュカインは背中の黄色い実を取ってフライゴンに差し出した。
「そ れ は い ら な い 。 断じて」
「えーーっ!? もったいないよ、栄養たっぷりだぜっ、栄養たっぷり!」
「栄養たっぷりだろうが何だろうが、まずそうだからいらないっ!」
「いやぁダメだね、その姿勢! そーやって味で好き嫌いしてちゃあ、その不健康な緑色の体もずっとそのまんまだぜ?」
「体が緑色なのは元々なのっ! 大体お前も体緑色だろ~が!」
「オレの緑色は健康的な緑色でェ、お前の緑色は不健康な緑色。分かるかい、この違い?」
「嘘つくなバカっ!」
じゃれ合うような掛け合いをしている2匹を見つめながら、ぼくは心中でこう唱える。
……残るは4匹だっ。
ラグラージ、バシャーモ、レディアン、ユキメノコ……
待っていてねっ! 絶対そのうち迎えにいくからねっ!
……ああ、あとミキヒサもね。あははー。
第二話 本当におわり
463: ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:39:34
>>451
当たりでーす。
規制されてた時にある程度は書き溜めしてたんですよね。
まあ書き溜めしてた分も、投下前にだいぶ加筆修正してますけども。
で、その書き溜めしてた分がもう完全に尽きたので、
投下スピードは激減してしまうかもしれませんです。
とりあえず次回は、一週間以上後になると思いますー。
それまで書き込んで保守とかしてくれると助かりますしとても嬉しいです。
ではー。
464:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 20:59:00
乙!
465:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 21:39:20
族長が最後になっていきなりキャラ立てたなw
466:名無しさん、君に決めた!
07/12/23 01:42:12
>>1
ここいらでキャラの詳細なプロフィールが欲しいな。
ポケモン達は元から決まってるからともかく
せめてコウイチくんとかオオカマドのだけでも。
そういうのあった方が感情移入しやすくならない?
467:名無しさん、君に決めた!
07/12/23 09:30:28
定期あげ
468:名無しさん、君に決めた!
07/12/23 16:38:49
次はピジョットとムクホークどっちが出るかな?
469:名無しさん、君に決めた!
07/12/23 20:16:16
テレキシティは都会らしいからハトじゃないか? むくどりも人家の近くに住んでるけど。
470:名無しさん、君に決めた!
07/12/23 23:02:37
ピジョットは好きなポケモンだし期待してる
ヨルノズク程度には濃くキャラ付けしてもらえりゃ満足だ
471:名無しさん、君に決めた!
07/12/25 04:36:35
いまさらながら乙
ずっと殺伐としてたぶん最後の和やかな雰囲気はいいねえ
次回にも期待してます
472:名無しさん、君に決めた!
07/12/25 16:50:05
やっぱりふりゃーとジュカインはちょっぴりおふざけ喧嘩ムードなのね。
キャラが活きてて面白いな
473:名無しさん、君に決めた!
07/12/25 17:42:42
フライゴンかわいいよフライゴン
474:名無しさん、君に決めた!
07/12/26 01:24:13
コウイチ:ひかえめ かんがえごとがおおい
フライゴン:すなお たべるのがだいすき
ジュカイン:いじっぱり ぬけめがない
ユキメノコ:れいせい
バシャーモ:れいせい
レディアン:むじゃき
ラグラージ:へんたい スカートのなかみがだいすき
こんな感じですか?
475:名無しさん、君に決めた!
07/12/28 14:52:50
このまま>>1が帰ってこない、なんてことがあったりして
476:名無しさん、君に決めた!
07/12/28 14:57:40
気長に待つさー
今後も何かあったら作者さんは一言声をかけていってほしい
477:名無しさん、君に決めた!
07/12/28 18:10:36
年末年始なんだし保守でもしながら気長に待とうじゃないか
478:名無しさん、君に決めた!
07/12/28 19:57:56
まだ一週間しか経ってないし、小説って普通このくらいのペースだよな
479: ◆8z/U87HgHc
07/12/29 23:27:05
みなさん保守ありがとうございます。
色々と忙しいですが、大晦日か元旦辺りには投下できるかもです。
>>466
主要な人間キャラのみですが。
コウイチ
年齢:12歳
身長:142cm
体重:38kg
趣味:ポケモンと遊ぶこと
身の回りの整理
ミキヒサ
年齢:12歳
身長:153cm
体重:43kg
趣味:ご近所探検
漢検DS
オオカマド博士
年齢:65歳
身長:236cm
体重:162kg
趣味:ポケモン研究
子供達と戯れること
子供達を見つめること
子供達の声を聞くこと
480:名無しさん、君に決めた!
07/12/29 23:29:27
オオカマドの身長に激しくツッコミたいw
481:名無しさん、君に決めた!
07/12/30 01:28:48
オオカマドのプロフィールが書きたかっただけだろこれw
あと投下期待してます。
482:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 02:23:46
一通り読んだらすごく面白かったです。
即ブックマークに保存いたしました。なんだか魔力がある。
483: ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:34:39
投下しますね。
484:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 18:36:03
キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
485:1/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:43:32
『ダメ男』とは、まさしくこの私のような者のことを言うんだろう……
賞味期限切れ直前の弁当が入ったコンビニ袋片手に、
人っ子一人通らない深夜の住宅街を歩きながら、ふと私はそう考える。
最近は常日頃こう考えてばかりだ。
それほどに、私がいま置かれている状況は暗い物だった。
私はユンゲラー族のユリル・ゲル。
成人してもう何年経ったか分からないが、このテレキシティで未だに定職に就けずにいる。
いい歳をしてアルバイトの給料と安いギャンブルで稼いだ収入のみが私の生活源で、
これといった楽しみや趣味もなく、ぼやけた意識で毎日を過ごしている。
勿論、好き好んでそんな生活を続けているわけでもない。
ある意味、仕方がないのだ。
このテレキシティでは、よい職に就くには大前提として『超能力』の腕がよくなくてはならない。
まぁ超能力と一口に言っても種類は様々であり、
人によって何に優れているか何に劣っているのかとは違うのだが、
その『何に優れているか』によって、自然と何の職に就けるかが決まってくるのだ。
しかし、その超能力の腕が何一つとして一定のラインに達していない場合は、立派な職には就けないのである。
486:2/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:45:46
『立派な職などに就かなくていいのでは?』と思うかもしれないが、
それはどっこい、なにより私個人のプライドが許さない。
よくわからぬ無名企業や俗な職に就くなど、経歴が傷つくだけではないか。
意味がない。全くもって、意味がない……
……かといって立派な職に就くために日々超能力の腕を磨いてるかというと、そういうわけでもない。
確かに超能力は本人の努力しだいでどうにでもなるが、
それにもやはり『才能』という一定のブレが、どうしようもなく個人個人にあるわけだ。
そして私は、その『才能』は一般のラインよりも下……
言うなれば劣等生に近しいのである。
……『ぐだぐだ言わず人一倍努力しろ』という声が聞こえてきそうだが、
どうもその『人一倍努力』という言葉は癇に障って仕方がない。
生まれつきの差を埋め合わせるための努力?
人一倍努力して初めて他人と同じラインに立てるなど、馬鹿げている。
影の努力だとか何だとか、そんな腋の下の匂いがプンプン漂ってくるような言葉など、
聞いただけで虫唾やら鳥肌やらが体中を覆うようだ。
……要するに私は、『プライドだけは高く、高望みするだけするが実際には何もしない』という典型的ダメ男……
……ということを完全に自覚し、あまつさえ自己嫌悪に陥りながらも結局は何もしないという、完全なダメ男なのだ。
487:3/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:47:27
そんな私に引き換え、私の弟は優秀だ。
弟は念写の類の能力に優れており、今や立派なカメラマンとして仕事をたっぷりもらっているらしい。
年間の収入も、生活の充実ぶりも、およそ私とは比べ物にならないだろう。
同じ親から生まれてどうしてこうも違うのか。この世には平等のカケラも無い。
私はこれから先、充実した生活を送れる日は来るのだろうか……?
物憂げに、夜空を見つめる。
星一つない夜空。まるで黒いカーテンで青空を覆っているかのよう……
……!?
私はふと、目を疑いそうになった。
その黒いカーテンの下を、『巨大な鳥の影』がゆるやかに這っているのだ。
要するに、夜空を鳥が飛んでいる。それも、ただの鳥とは思えないほどに巨大な鳥の影……
「なんなのだ、あれは……」
ふとそう言葉を漏らしてしまうほどに、私はその光景に圧倒されてしまった。
もし弟がこの場にいたのなら、迷わず何枚も写真を撮っているのだろうな……
そんなことを考えながら、その巨大な鳥の影に見惚れていると……その影に、ある変化が起きた。
……巨大化している。鳥の影が、どんどんと巨大化してきている……!?
いや、違う。巨大化してきているのではなく、降りてきているのだ。
巨大な鳥の影が……いや、『鳥』が。今まさに私の近くへ降りてこようとしているのだ。
488:4/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:50:31
本能的に逃げ出そうとした、その瞬間だった。
「ぐっ、ぐっ!」
突如、謎の強風が私に襲い掛かってきたのだ。
それまでほとんど風も吹いていなかったのに、あまりに前触れの無い強風の襲来。
そのとてつもない風圧に押され、私は思わずよろめきその場に倒れてしまった。
「ぐうぅ~~……何なんだ、一体……」
その謎の強風は、私が倒れてしまってから間もなくして止んでしまった。
……全く持って不可解な現象。
だがとりあえず私は、その不可解な現象の意味を脳内で探るよりも、
地面にぶつけてしまって傷んだ腰を撫でさすることと、その場から立ち上がるのに努めることを優先した。
……立ち上がりそして顔を上げた瞬間、私は心臓が飛び上がり、また倒れてしまいそうになった。
立ち上がった私の目の前に……いつの間にやら、あの『巨大な鳥』が立っていたのだ。
140cmばかりはある私の背丈よりも大きいその鳥が、威圧感を内包したその鋭い目つきで、私を見下ろしていたのだ。
「あ……あ……」
つい先程まで夜空をゆったりと飛んでいたはずの鳥が、今は私の目の前に立っている。
私はその巨大な鳥の姿に圧倒され、動けなくなっていた。
……その『美しさ』に。
街灯もない夜の住宅街にいて尚、その鳥の毛並みの非常なほどの美しさはありありと伝わってくる。
鬣のようなその立派な頭の羽も相まって、神々しいほどの美しさがその鳥全体を覆っていた。
そしてその美しさが、威圧感となってこの私を圧倒し、この場に釘付けにしているのだ。
言葉も上げれず逃げることも出来ず、ただその鳥を見続けていると……鳥がふと口を開いた。
「こんばんは」
489:5/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:53:38
鳥が、言葉を喋った。
「!!」
私はその言葉に、再び驚愕した。
目の前のその巨大な鳥は、確かに言葉を喋った。私に「こんばんは」と挨拶をした。
この鳥は、『モンスター』としてしっかりと教育を受けていた鳥だったのだ。
私は、はたと思考を巡らせる。
……この鳥は、このテレキシティに、この私に、何の用があるというのだろう。
このテレキシティと彼の住む町とで、友好……外交関係を結んでほしいとでも持ちかけるつもりだろうか。
いや、それなら私のようなただの一般市民に、それもこんな深夜に、話しかける意味などない。
……それならば、ただの気まぐれ? ただ、異種族と対話がしてみたいというだけ?
私は思考に結論をつけるより前に、落ち着いてその鳥に対話を試みてみた。
「……あなたの、名前はなんですか?」
あれこれ考えるよりも、先ずは対話だ。
勝手な予測を立ててそれで納得するよりも、相手から聞いたほうが手っ取り早いに決まっている。
「……ワタシは……」
鳥は、私の言葉にすぐさま反応し口を開いた。
……次の瞬間その鳥が口にした言葉は、私を再び驚愕させることになった。
「ワタシの名は、ピジョット。
魔王軍……飛鳥部隊の幹部を務めている、ピジョットだ」
490:6/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:56:06
―魔王軍だと!?―
心臓がドクンと波打ち、同時に嫌な汗が体からにじみ出てくる。
芽生えかけていた好奇心が、すぐに恐怖へと変換された。
魔王軍の恐ろしさは、学校で存分に教え込まれた。
端的に言えば、無差別殺人や誘拐を頻繁にする集団……
要するに、『犯罪集団』だということを。
この鳥は……『ピジョット』は、その犯罪集団の一員であることを自ら名乗ったのだ。
このピジョットが目の前に降りてきたときから既に微かに感じていた『死の危険』が、一気に現実的なものになる。
一刻も速くこの場を逃げなければ―死ぬっ。
「なにを黙りこくっている? ワタシに名乗らせたのだから、次はキミが名乗る番だろう……
名刺でも構わない。キミの身分、名前、このワタシに教えてくれ」
ピジョットは落ち着き払った口調でそう言いながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
それと同時に、心臓が恐怖に打ち震える。冷や汗が頬を伝う。息が乱れる。
―逃げろっ!!―
「!」
私は迷わずピジョットに背を見せ、その場から逃げ去ろうと駆け出した。
―こんなとこで死にたくないっ! まだ私には輝かしい未来があるはずなんだ、それを体験する前に死ねるかっ……!
脚力を総動員しようとする……が。
その矢先、私の腕が何者かに引っ張られた。
到底振り払うことは出来ないくらいのすさまじい力で。
……振り返らずとも分かる。いま私の腕を掴んだのは……捕まえたのは……魔王軍の、ピジョット。
私は逃げることが出来なくなった。
491:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 18:57:35
キターッ!(AAry
492:7/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 18:59:41
「なぜ逃げる」
頭の後ろから響く、冷徹な声。
私の胸が、警鐘を打ち鳴らし続けている。
無意味な警鐘。もはや手遅れでしかない警鐘。
まだ実際に体を傷つけられてはいないので些かの余裕はあるものの、
それでも吐き気を催してしまいそうな恐怖が胸のうちにまとわり付いている。
―死ぬのか。私は、殺されるのか。
「ワタシはキミに名を名乗った。それなのに、なぜキミは背を見せ逃げようとする?
あまりに一方的。キミのやった行為……それはほとんど暴挙だよ。
『理性ある者』……すなわち、『街に生きるモンスター』としてはな」
「ひっ……?」
ピジョットが案に相違してまともな事を話し出したことに若干驚きながらも、私はその口調の冷徹さに恐怖を募らせる。
「キミがワタシと真正面から話し合う権利を自ら放棄するというのならば、
このワタシも、きみと対等に話し合う権利を放棄してもいい、という事なのだ。……分かるかな?」
「えっ」
「このままキミが逃げるというのならば……ワタシは、キミを『エサ』と見なしていい、そういう事になる」
「ひいっ」
ピジョットの言葉。自分自身の命に関わる言葉なのだから、私は瞬時に理解する。
要するに、『逃げれば殺す』ということ。
……そして逆に言えば、逃げずに真っ向から話し合えば殺さないということ。
とても信じることは出来ないが、いまや私の命はピジョットの胸先三寸。応じざるを得ない。
私はゆっくりと、ピジョットの方へと向き直った。
「……フフフ、そうだ、それでいい。向き直り対話する……それこそが『理性ある者』として正しい姿。美しいということだ……フフフ」
493:8/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:04:41
「『理性に根ざした知恵』というのは分かるかな?
街に生きるモンスターとして当然持っていなければならぬ知恵のことだ。
理性に根ざした知恵は、すべからく対話のための知恵。向き合い情報を交換し合うための知恵。
お互いの価値観を理解し合い、尊重し合うための知恵のことだ。
それを自ら放棄するなど、理性ある者……すなわち『モンスター』の行動ではない。
向き合い対話してやっと、モンスターとしての知恵……
理性に根ざした知恵、すなわち『知性』はその役目を果たしたことになるのだ。
危うくキミは、モンスター以下のただの獣へと逆戻りしてしまう所だったな。フフフ」
向き合った途端ピジョットは、まるで教科書を読むかのような口調で自論を展開しだした。
……言っていること自体はともかくして、この自論を展開するに至ったのが
さきほど私がこのピジョットに背を向けたことに基づいているのならば、それは全くいわれのないことだ。
最初に『魔王軍』などと名乗って恐怖を煽ったのは誰だ。
『魔王軍』と最初に名乗られてしまっては、よほどの命知らずでない限り普通は真っ先に背を向けて逃げるだろう……!
……こいつは、魔王軍という存在が世間に一体どういった存在として認識されているかを、ちゃんと自覚しているのだろうか?
「さぁ、キミの身分と名前を、ワタシに教えてくれ」
「……」
ピジョットは改めて私に名を名乗ることを要求し始め、私は意味もなく少し躊躇してしまう。
だが、事実上こちらの命を相手に握られているこの状況、無論断ることは出来ないし、その必要もない。
「わ、私は……ユンゲラー族の、ユリル・ゲル。無職……です」
無意識に声を震わせてしまいながら私がそう名乗ると、
ピジョットは今まで恐ろしいくらい無表情だった表情を緩く綻ばせた。
「なるほど、ユリル・ゲルくん。フフフ、よろしく」
「は、はぁ、よろしく……」
……相手の『よろしく』の挨拶に、私もよく考えず『よろしく』の挨拶を返したが、
一体、ピジョットのこの『よろしく』にはどれだけの意味が込められているのだろう。
不安の念を感じざるを得ない。何せ相手は魔王軍、犯罪集団の一員であることには変わりないのだ。
……そう思っていると、ピジョットはそれを見透かしたかのようにこう言った。
494:9/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:07:15
「安心しろユリル・ゲルくん。
ワタシは、何もキミを傷つけたりだとかさらったりだとか、そんな事をするつもりは微塵もない。
ワタシが得をし、そしてキミも得をする。いわゆるギブ&テイク。
そんな双方に美味しい話を持ってきただけさ」
「美味しい……話?」
ピジョットは私の不安を払拭させようとしてるのだろうが、逆に一層不安は強まってしまう。
私を油断させるために口からでまかせを言っているとしか思えない。
……疑ったところで、どうしようもないのだけれど。
「キミは、『人間』を知っているね?」
「人間……ですか?」
無論知っている。知らないはずがない。
この世界に文化や言語を伝えたという、異世界の種族。
私はとりあえず黙って頷いてみせる。その人間が一体どうしたというのか。
私が頷いたのを確認すると、ピジョットは懐から何やら一枚の紙切れを取り出し、私に手渡した。
「……こ、これは?」
その紙切れには、11桁の番号の羅列が記してある。
……携帯電話の、番号?
「その人間が、いま一人この世界にやってきていることは知っているかね? ……いや、知ってても知らなくてもいい。
ともかく、その人間がもしこのテレキシティにやってきたら、この番号に連絡してそのことを教えてほしい」
「え……この電話番号に連絡して、人間がきたことを、教える?」
私はその突飛な申し立てに困惑して、ほぼ相手が言った通りそのままに聞き返してしまった。
「そう、そういうことだ。……無論、ただでやれとは言わないよ。
さっきワタシが言ったとおり、キミも『得をする』……
キミが私の言うとおり人間の存在を教えてくれたのなら、これをやると約束するよ。フフフ」
「え……」
ピジョットは不敵な笑みを浮かべたまま、またその懐をまさぐり、
何かを羽に乗せて、それを私に差し出してきた。
「こ、これはっ……!?」
495:10/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:10:39
ピジョットが差し出してきたその『モノ』に、私は驚き声を上げそうになる。
その『モノ』は、
金。札束だ。
ざっと見積もっただけでも相当の額はある。50万……60万……いや、100万……?
少なくとも、先ほどピジョットが提示した条件とは『逆に』全く釣り合っていない金額。
このピジョットは先ほど『美味しい話』と言っていたが、美味しい話どころの騒ぎではない。
「本来はこの程度のこと部下に任せるのだが、事情があって現地の者にお願いするほか無かったのだ。
とりあえず、我々は人間を心から欲している。その人間様を我々魔王軍の元へ招待できると考えれば、
それくらいの金額は微々たるもの。我々は資金繰りには特に困っていないのでね」
「……」
ピジョットの羽の上の札束に、目が釘付けになって離れない。
……『電話をかけて教える』……ただそれだけの行為で、これだけの金額を手にしていいものだろうか。
理不尽なまでの『テイク』。お互いに得をするとは言っても、幾らなんでも割合が偏りすぎている。
……明らかにおかしい。どう考えても、これは何かの罠……罠じゃないか……
罠?
普通に考えて、ピジョットからしてみれば私に罠を仕掛ける必要など一つもない。
なにせこちらの『ギブ』は、たとえ報酬がなくとも構わないくらいに低いのだ。
報酬を釣り上げまくって、私の欲を煽る必要は一つもない。
ならば、答えは一つ。このピジョットの金銭感覚がズレにズレまくっているということだ。
……『なにせ相手は魔王軍』……常軌を逸した犯罪集団。それならば、金銭感覚すらも常軌を逸していても不思議ではない。
……え……? ちょっと待てよ……
だとすると、これって……え? もしかして……
私にとって、『ものすごく美味しい話』なのでは……?
496: ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:11:59
(>>495の二行目、脳内削除しておいてください……)
497:11/14 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:16:57
この魔王軍の者に会えたのは、実は物凄く幸運なことなのでは……?
一生に一度あるかないか、という程の幸運なのでは……?
「では、よろしく頼むよゲルくん。……では、ワタシはこれで……」
「待って。待って……ください」
「ん?」
ピジョットが飛び去ろうと羽を広げ始めた所を、私は慌てて呼び止める。
訪れたかもしれない『幸運』を受け入れるのにあたり、どうしても気にかかることが一つあったのだ。
「その人間を貴方の元に、魔王軍の元に招待する……その理由はなんなんですか? 何のために?」
話を聞いていればこのピジョットたち魔王軍は、どうしても人間を自分達の元へ招待したいらしいが、
彼ら魔王軍は犯罪者集団。『神』と呼ばれる人間を利用して、何か悪事をしでかそうとしている可能性が高い。
もし後にこれがきっかけで何か大事が起きれば、私は間接的ながらもそれに加担したことになるのだから、枕を高くしては眠れなくなる。
私はただそこだけが気にかかっていた。もしかしたら私は、彼ら魔王軍の悪事の片棒を担がされようとしているのかもしれないのだ。
……ピジョットは私のその問いを受けると、またお得意の不敵な笑みを浮かべ、こう答えた。
「……フフ、そこまで教えてあげる義理はないが……あえて教えてあげれば、
我々魔王軍のため……つまりは、この世の中のためさ。ウフフフ」
……『この世の中のため』……?
私がその答えに呆気に取られ困惑していると、ピジョットは強風を立てて夜空へと飛び去っていってしまった。
……ピジョットは『世の中のため』と断言していたが、
それが、およそ私たちの考えとは確実にズレているであろうことは容易に想像が付く。
ほぼ確実に、私は『悪事であろうこと』の片棒を担がされかかっている。
―だが、あの金額は魅力的だ。
人間がまだこのテレキシティに訪れるかは分からないが……
そもそも分からないからこそあのピジョットは私に報告を頼んだのだろうが、
もし来たとしたら。そして、それを私が耳に入れる……あるいは目撃したとしたら。
……私は確実に、この番号へ電話をかけるだろう。
私は無意識に、目を大きく開いて夜空を見つめていた。
498:12/15 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:20:45
――――
「あァ~~~~~つゥ~~~~~いィ~~~~~よォ~~~~~!!」
生命の森を抜けてから数十分、テレキシティまでの道のりである広い草原を歩いている途中、
じりじりと照りつけてくる太陽に耐えかねたのか、フライゴンが軽く泣きながらそう叫びだした。
その様子に呆れたジュカインは、たまらずそのフライゴンに向かってこう言った。
「ったく。お前、砂漠のポケモンなのにこの程度で暑がるなんて意味わかんねーよ!
心地よい暑さじゃあねえかよ。お天道様がニコニコ笑ってて、こっちまで笑顔になっちまうぜ……クケケッ」
「どーこーがーっ!! うわぅ~~~暑い~~~~体が焼けるぅ~~~~
せんぷうき~~~! クーラー~~~! メノコちゃんどこ~~~!」
緑色の体の至る場所から汗を掻きながらそうやって泣き言を繰り返すフライゴンは、
確かに、元が砂漠出身のポケモンだったとは到底思えない。
……夏は外に出るときは大抵ボールの中、家の中では冷房ガンガンの部屋で遊ばせる……
ぼくがそんな育て方をしたせいで、フライゴンはこんな暑さに弱いポケモンになっちゃったのかもしれない。
……よォしっ。ここは一度、トレーナーとして責任とってちゃんと教育してあげないとっ!
499:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 19:22:28
更新されてる!
乙です。
500:13/15 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:23:14
「ねぇ、フライゴン? 暑くて汗をかくってのはいいことなんだよっ」
「ふえっ、いいことお~~? こんなどろどろになるのがあ~~~?」
納得のいかないような表情を浮かべるフライゴンのその問いに対して、ぼくは勢いよく頷く。
「汗をかいたら代謝が活発になって、そのぶん健康になれるからねっ!
どろどろ汗をかくたびに体が強くなって、お病気になりにくくなるんだっ。
ぼくも日焼け止めクリームくらいは塗りたいケド……
元気な体がつくられてると考えて、ここはがまんだよフライゴンっ!」
フライゴンの目をまっすぐ見据えて、ぼくは勇気付けるようにぎゅっと手を握ってやる。
そうするとフライゴンはぼくの手を握り返して、元気よく頷いてくれた。
「はいっ、分かりましたコウイチくんっ!
病気になってコウイチくんに迷惑かけないためにも、ボクがまんしますよォっ!」
「うあっ、さすがフライゴン、いい子いい子~」
「えへへへ……」
とても素直なフライゴンに感激して頭を撫でてあげると、フライゴンは満足そうに目を細めた。
やっぱり子供は素直じゃないといけないよね……
なんて風にぼくが感慨に耽ってると、横からジュカインが。
「おいフライゴン……おまえ大人なんだから、子供のコウイチに撫でられて嬉しそうにしてんなよ……ったく」
……そういえば確かにそうだけどね。
501:14/15 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:26:04
「しかしまあ、改めて思うが……コウイチお前、育ちがお坊ちゃまのクセして、よく出来てるよな」
フライゴンを撫でていると、ひょっとジュカインがそんなことを聞いてきた。
確かにぼくのお父さんは企業の社長だから、ぼくの家柄は結構金持ちだけれど……
「ん、そうかなあ? 普通だよこのくらいっ」
「いやあ、普通じゃないってー。金持ちの子供なんつーのはさ、
もっとこうホラ、生意気で高慢ちきな感じだろ?」
「何だって~~?」
聞き捨てならない発言にぼくは反応してしまい、気が付いたときにはぼくの舌は回り始めていた。
「違う違うっ! そんなのは勝手なイメージだよっ。イメージイメージっ!
お金持ちってのはちゃんと躾が行き届いてるんだから、生意気で高慢ちきなんてそんなの逆だよっ、真逆っ。
そういう生意気な金持ちってのは、よっぽど親がバカなんだ。それでそんなバカなヤツが金持ちになれる例なんて稀だし、
だから高慢ちきなお坊ちゃまが出来上がるのも稀なんだよっ。分かるっ? 分かるっ!?」
「そ、そうなのか……?」
「そーなのっ!」
「ご、ごめんなさ~い……」
しゅんとして黙りこくってしまうジュカイン。……熱弁しすぎたかも。
でも、何で『お坊ちゃま』=『生意気』なんて勝手極まりない妄想じみたイメージが、こう浸透しちゃってるかな。
ジュカインに限っては、そういう類のお坊ちゃまに酷い目に合わされた経験が実際あったから別にいいにしても、
なーんでそーゆーイメージが一般的に広まっちゃってるかな、ぼくらの世の中はーっ!?
ぼくみたいなまともな子が割を食うことをちゃんと考えてんのかな、一部の生意気なお坊ちゃんと、それを広める奴らはっ!
「ねっ、そー思うでしょ、フライゴンっ!」
「……は、はい……(な、なにが……?)」
502:15/15 ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:28:39
それから数分後、ひたすら前を見つめながら歩いていたジュカインが、ふと嬉しそうに声を上げた。
「あっ、ほらほらコウイチ、フライゴンっ! 見ろよ、見えてきたぜテレキシティがっ!」
「えっ!」
ジュカインが前方……地平線の奥を、指差す。
その指に従って、目を凝らして前方を見据えると……
かすかだが、見えた。
幾つものビルの頭。ビルの群れ。
ぼくらの世界に存在するものとほとんど変わらない『都会』の象徴が、
地平線の向こうからひょこりと顔を出しているんだ。
「わあ~っ、本当に見えてきたっ! すごいすごーい!」
「……」
はしゃぐフライゴンを傍目に、ぼくは言葉にならない衝撃を受けていた。
この世界に来てから今まで近代的な文明を一切目にしていなかったせいか、
族長さんから『大都会』と聞いたときも、ぼくは無意識下に『都会といってもたかがしれている』と思っていた。
だけども、ぼくら人間の世界でもまるっきし近代文明の象徴である『ビル』が、いま確かに風景の奥に幾つも存在している。
このポケモンの世界にも、確かに近代的な文明というものは存在していたんだ。
……次第に衝撃は感動に変わっていき、どんどんと胸を満たしていく。
「カハハッ、驚いてるなコウイチ。あんな近代的なモンがあるなんて思ってもなかったかい?」
「うん、思ってもなかったよ。だから、スゴく楽しみ……!」
気が付けば、ぼくの口は自然と笑みの形を作っていた。
この世界に来てから、ぼくはいま一番ワクワクしているかもしれない。
エスパーポケモン達の住まう大都会、『テレキシティ』……さて、どれほどのものかなっ!?
第三話 「お坊ちゃま」
503: ◆8z/U87HgHc
07/12/31 19:33:16
投下終了です。
この後はしばらくはノリの軽い雰囲気で続くと思いますけど、よろしくお願いします。
続きは……いつになるか分かりませんけど、一週間以内には投下したいです。
では、また。
504:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 19:34:22
乙、良い御年を~
505:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 20:00:44
乙~
ってかピジョットはオスなのか?メスなのか?どっちなのか?
ユンゲラーさんは何か可哀相な末路が見える・・・
506:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 20:02:44
ものすごくリアリティのある始まり方に吹きましたよw
507:名無しさん、君に決めた!
07/12/31 21:21:09
何かごく現代的な話になりそうだなw
ルージュラがグラビアアイドルやってたりするような街なんだろうなあ。
508:名無しさん、君に決めた!
08/01/01 02:45:04
あけおめ
509:名無しさん、君に決めた!
08/01/01 03:15:16
乙明けまして、ピジョさんに惚れそうな件
エスパータイプというだけでドキドキしている
体大切に!心の奥底から支援!
510:名無しさん、君に決めた!
08/01/01 07:56:52
コウイチのキャラが濃くなってきたなw
冒頭が現実的すぎて吹いた
511:名無しさん、君に決めた!
08/01/01 23:20:18
あの小物くさいエアームドのほうがピジョットより格上ってのが腑に落ちない件
512:名無しさん、君に決めた!
08/01/01 23:51:11
ヒント ワンピースのスパンダムとルッチ
513:名無しさん、君に決めた!
08/01/03 01:25:29
ユンゲラーが俺過ぎて困る
514:名無しさん、君に決めた!
08/01/04 17:10:03
初めからパートナー:フライゴン
二番目に戻る:ジュカイン
初めに入った村:蓮
二番目に入った村:森トカゲ
飛行の偉いやつ:ネイティオ
緑好きだな作者、だいすき
515:名無しさん、君に決めた!
08/01/04 18:31:10
そういえば緑だらけだな今んとこ。
最初のほうにサーナイトも出てたし緑フェチか。
516: ◆8z/U87HgHc
08/01/05 16:15:09
体大切にと言ってくださったばかりで大変申し上げにくいのですが、インフルエンザにかかってしまいまして…
投下は遅れてしまいそうです。ごめんなさい。
本当にすいません…
>>514
緑色は一番好きな色ですね。目に優しいし。
517:名無しさん、君に決めた!
08/01/05 16:22:56
>>516
どうかお大事にしてください
俺しばらく保守できなさそう、以後誰か頼んだぜ
5日間隔ぐらいで大丈夫だとは思うが
スレの位置が500より下に来たらその時は浮上してくれ
518:名無しさん、君に決めた!
08/01/05 17:05:41
>>517
下にいても大丈夫だぜ
519:名無しさん、君に決めた!
08/01/05 17:16:29
>>518
最近スレが立つ頻度が上がってるみたいなんだ
保持数の限界が迫っている……あとは分かるな?
そういや保管庫的なもの(wikiとか)は無いんだっけ
ペース的にはまだ大丈夫だけど容量も迫ってきた
500KBがラインだったはずだから480KBあたりで次スレかな
520:名無しさん、君に決めた!
08/01/05 17:51:57
>>516
お大事に!みかん食べてください
ウィキつくるの?
もう500以下だけど上げた方がいいのかな
521:名無しさん、君に決めた!
08/01/05 17:55:43
まだ大丈夫
上げるときは深夜に上げた方がいいな
522:名無しさん、君に決めた!
08/01/05 19:28:00
Wikiは欲しいな
携帯なら過去ログ読めるからいいが、モリタポを買うのは・・・
523:名無しさん、君に決めた!
08/01/06 01:23:35 kZ4+VJGi
保守
524:名無しさん、君に決めた!
08/01/06 13:19:39
>>522
つ「こっそりアンケート」
でも50モリタポを貯めるには最低1ヵ月はかかる
525:名無しさん、君に決めた!
08/01/06 20:26:52
いまスレの容量何kbくらい?
526:名無しさん、君に決めた!
08/01/07 03:24:54
>>525
500ぐらいぜよ
527:名無しさん、君に決めた!
08/01/07 13:45:49
違います
408です
528:名無しさん、君に決めた!
08/01/07 19:26:36 wJr3vM0J
一応今投下されてる奴は保存しといたが、
これはどうするべきなんだろう。
wikiのこととかよく知らんからどうしようもない
529:名無しさん、君に決めた!
08/01/09 13:10:30
俺のコウイチの脳内イメージは何となくミツル
といってもコウイチは描写では黒髪でスーツ着用だから、
ミツルといっても黒髪でスーツ着用してるミツルだけどね
530: ◆8z/U87HgHc
08/01/10 18:34:05
ようやく治りました。みなさん保守ありがとうございます!
まだ本来書こうとしてた所までは書き終わっててないんですが、
あんまり投下しないで日を空けるのもアレなので、いま出来てる所まで投下します。
ちょっと区切り悪いですが、ご勘弁を……
531:1/7 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 18:40:37
テレキシティは、レンガ造りの『壁』に囲まれていた。
都市の内部と外界を隔てるその壁は、いわば『国境』のような役目を成しているんだろう。
高さはゆうに20メートル以上はあり、壁の両端は左右を見渡しても到底見えそうにない。
その壁には等間隔でいくつもの自動ドアが設けてあり、それぞれの自動ドアの上部には、
都市への入り口であることを指す『City Entrance』の文字がデカデカと刻み込まれていた。
壁の上には幾つもの蛍光灯(今は日が昇っているので飾り以外の役目は成していない)と、
不当に都市へと侵入してくる者を取り締まるための小さな監視カメラが常に回っている。
「ここがテレキシティーの入り口ですかねえ、コウイチくん!」
「うん、そうみたいだね。ドアの上にもそう書いてあるし。」
ぼくたち三人はその壁の目の前までやってきていた。
辺りを見渡せば、ぼくたちと同じくテレキシティへの観光者なのか、ちらほらとポケモンの影が見える。
そのほとんどが見たことのあるエスパータイプのポケモンなのだけれど、
中には、見た目エスパータイプには到底見えないようなポケモンも僅かながら存在する。
そんなエスパータイプ以外の者も、特に違和感なくエスパータイプの者達の中に紛れ込んでいるし、
今こうして壁の前にいるぼく達三人も、じろじろと周りの者達に見られたり声をかけられたりすることはない。
入り口に入る前ですらこうなんだから、テレキシティはあまり外見や種族にこだわらない都市なんだろう。
……それが例え『人間に似ている者』であろうと、『人間そのもの』でない限りは。
「おいコウイチ。誰もお前が人間だってことに気づいてないみたいだぜっ。クケケッ」
「うん、そうみたいだねっ! ちょっと不安だったけど、よかったァ……変装した甲斐があったよ」
今ぼくは、自分が『人間』だということがこの都市の者達にバレないために、ある種の変装をしている。
そして、ここまで周りの者達がぼくに対して興味を示さないということは、この変装は大成功だったということだ。
ぼくは改めて、ホッと安堵のため息をついた。
これで気兼ねなくテレキシティの観光及びぼくのポケモン捜索が出来るってものだね。
……ここに来る前に、ちゃんとみんなと相談しておいてよかった。
532:2/7 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 18:43:39
―――――――
時は20分程ばかり遡る。
テレキシティを囲む壁と、その周りにちらほらと存在するポケモン達がうっすら見えてきた頃、
ぼくはある重大な事実を思い出したんだ。
……なぜ今まで忘れていたかも分からないほど、重大な事実。
”あのさ、そういえばこの世界って……人間が神だとか宇宙人だとかと同じような存在なんだよね。
このままぼくが人間丸出しのまんま、あんな都市に入っちゃったらさ……すっごい騒ぎになっちゃわない?”
ぼくは先ほどまで忘れていた事実とそれにより芽生えた不安を、ふたつ同時にフライゴンとジュカインに伝えた。
そしてそれを伝えたと同時に、それまでうかれていたフライゴンとジュカインの表情が瞬時に真剣な物に変わった。
そう、これはとてつもなく重大なことだ。
ぼくたちの世界でも、ちょっと外国のポケモンが姿を出したくらいでテレビも新聞も大騒ぎってなくらいだし、
ぼくらの世界とそう変わらないであろう近代都市のあのテレキシティに、
この世界では『神』と同等の存在(ちょっと誇張入ってるような気がしなくもないけど)であるという
『人間』が、つまりぼくが立ち入ってしまえば、もうどれほどの大騒ぎになるか想像もつかないし想像したくもない。
とりあえず、のんびりまったり都市観光……なんてことが出来なくなるってことくらいまでは分かる。
ゆったりなごやかに都市観光するためには、ぼくが『人間』であるということがバレてはいけない……
とりあえずぼく達は歩を止めて、その方法を考えることに専念することにしたんだ。
533:3/7 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 18:49:28
胸ポケットには、トレーナーカードとポケモン図鑑。
ブレザーのポケットには、ハンカチとティッシュと手鏡。
ズボンのポケットには、ちょっとした腹ごしらえのためのチューイングガム。
腰に巻いてあるポシェットの中には、おサイフ、各種傷薬、3、4つくらいのモンスターボール、
そして、寒い場所に立ち入った時のためのマフラーと毛糸の帽子が入っている。
これだけの道具で、どうやって自分が人間だとバレないように変装すればいいんだろう。
マフラーで顔をぐるぐる巻きにするとか……? いやいや、それはちょっとイヤだよっ!
頭を抱えて悩んでいたとき、ふとジュカインが思い出したようにこう漏らしたんだ。
”そういえば昨晩、お前と族長が二人でどっか行ってる間に、キモリ達に聞いたな……
『人間を人間と区別する最大のポイント』……ってやつをさ”
それを聞いた瞬間、ぼくの中にふとこういう疑問が芽生えた。
そういえば、ここのポケモン達はぼくの姿を見て瞬時に『人間』と勘付いているけど、
足が二本、腕が二本、頭が一つの生物なんてポケモンの世界でも特に珍しくはないのに、
ここのポケモン達は、どこを見て『あっ、こいつ人間だっ!』と把握しているんだろう。
……それが分かれば、自分が人間だとバレないための効率のいい変装の完成に大きく近づけるかもっ……!
”ど、どうやって区別してるの? ここのポケモン達はっ! 教えてっ、ジュカイン!”
ジュカインの答えは、こうだった。
”ああ、これがおおまかに二つポイントがあるらしくてな……
なんでも、髪の毛と、指……らしいぜっ”
534:4/7 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 18:54:41
”頭の下のほうや手はツルツルなのに、
上の方だけ毛を伸ばしに伸ばしてるその珍妙なスタイル。
そして、何でも器用に物を作れちゃう五本の指。
この二つが、『人間を人間と区別する最大のポイント』……らしいぜ”
その言葉に、ぼくは深く納得する。
人間はふつう服を着ているし、ここは人間により文化が伝えられた世界なのだから、
服で覆われている部分は区別する対象にはならない。
つまり区別するポイントは、『露出している部分』のみということになる。
そしてその露出している部分で一番特徴的なのは、確かに髪の毛と指だ。
ということは、その二点をどうにかすれば、ぼくが『人間』として見られることはなくなる……!
人間だとバレないための効率のいい変装。
その方法が瞬時に頭の中で構築され、ぼくはすぐさまそれを実行した。
まず指を見せないために、手をブレザーの袖の内側に隠す。
これで最低限はOKなわけだけど、一片も怪しまれないためには隠すだけじゃあ物足りない。
つまり『新しい手』を作れば、より自分が人間ではないということをアピールできるはずだ。
そこでぼくは、『モンスターボール』を新しい手とすることにした。
袖の中にモンスターボールを入れ、その半分だけ袖からはみださせる。
こうするだけで、新しい手の完成だっ!
モンスターボールの白い部分をはみ出させてるから、見た目は『ドラえもん』の手そっくりだねコレ。
で、髪の毛を隠すのは簡単。ただ毛糸の帽子をすっぽりと被るだけでオーケー!
……髪の毛をぜんぶ帽子の中に収めるわけだから暑いし蒸れるしで最悪だけど、
そこはフライゴンとジュカインのためにがまんがまんっ!
人間を人間と区別する二つのポイントを完全に覆い隠したこの変装。
完璧だとは思いつつも正直不安ではあったけど、その不安は杞憂に終わった。
そしてそれは同時に、ポケモンが作り出した近代都市への期待と興味を再び呼び起こす事となったんだ!
535:5/7 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:00:54
―――――――
数分後、ぼくらはついにテレキシティへの入り口の中へと入っていた。
当然といえば当然だけれど、入り口を通ったらすぐに都市の中……というわけではなくて、
入街手続きを済ませるための審査所への待合室に繋がっていた。
待合室の中は、予想していたよりは居るポケモンが少なくて、
幾つか設置してあるソファにも、ぼくたち三人分が座れるようなスペースは幾つも空いている。
ぼくたちは入り口前で受付に渡された整理券を握り締めながら、遠慮なくソファへと腰を下ろした。
「うわー、ふかふかですねこのソファ~。いままで木の椅子やら地べたとかにばっか座ってたから気持ちいいや~」
フライゴンは顔をほくほくとさせながら、軽く飛び跳ねたりしてソファの弾力を楽しんでいる。
「この植物手入れが悪いなーっ! 土もからっからに乾いてるし、ちゃんと水やってんのかなァ~? 枯れるぜコレいつか」
ジュカインは、ソファのすぐ横においてある観葉植物を手でいじりながら、あれこれ文句を言っている。
……まったくぅ、二人ともまるで田舎モノみたいだな。大勢いる場なんだから、もっとこう慎ましくさァ……
……とは心の中で思っていても、このぼくもさっきから心がソワソワして落ち着かない。
ソファや観葉植物もモチロンそうだし、ぴかぴかでつるつるな床や天井、設置された公衆電話、
すべてが、この世界では今までになかった近代的なモノで、
そんな近代的な建物の中なのに、周りに存在する生物は『ポケモンだけ』だというこの違和感。
胸の奥にしまわれかけていた非現実的な感覚が、再び呼び起こされてきてしまう。
……ただ、『非現実的な感覚』とは言っても、そこに不快感やら不安といったものはない。
むしろ、入り混じっているのはそれらとは全く真逆な意味のものたちだ。
例えるなら、はじめて動物園やら遊園地に行った時のような気分。
そんな夢のような感覚が、ぼく……いや、ぼくらの心を落ち着かせないでいるんだ。
536:6/7 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:08:47
そんなまったく落ち着かない待ち時間を過ごしている中、
フライゴンがふと立ち上がって、部屋の一端にあるテーブルに向かって歩いていく。
そこの棚からパンフレット状の紙を持ち帰ってくると、それをぼくに見せてきた。
「ねぇねぇコウイチくん。ホラ、『入街審査案内』ですってー」
「『入街審査案内』?」
フライゴンが持ってきたものは、入街審査の手順やら注意事項が書かれたものだった。
カラー印刷で文字も大きく、所々にイラストもあり、かなり見やすく作られている。
「へー、ずいぶん見やすいねーっ、コレ」
「イメージアイドルなんてのもいるぜ。『くちびる系アイドル・ムチュールちゃん』だってさ。
こーゆーアイドルとか乗せる意味あるのかなー!? たかだか審査案内の紙一枚にさ……」
いきなりジュカインが、所々に写っている髪の生えたペンギンのようなアイドルに対して文句をつけ始めた。
「まぁまぁ、オヤジじゃあないんだからそんな細かい所まで気にするなよジュカイン。
んじゃあー、せっかくだからボクが読み上げますねコウイチくん。えーと、なになに……」
「オ、オヤジって……」
不遜な表情を浮かべるジュカインを尻目に、
フライゴンは紙を目で追いながら、たどたどしい口調で読み上げ始めた。
「1・うけとった整理券の番号を呼ばれたら、指定された審査室へ入りますっ。
2・わたされた書類に種族名・氏名などの情報を記入し提出しますっ。
記入事項に従って……ええと、てーねーに記入してくださいっ。
3・手荷物検査とボディチェックを行いますっ。
4・SMJ……かっこS波による心の鑑定かっことじを行い、貴方の危険度を察知しますっ。
5・入街者リストへ貴方が登録されて審査は終了ですっ!」
537:7/8 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:18:04
「注意……私物検査で危険物が出た場合ただちに没収のち処分となり、危険者リストに登録されます。
心の鑑定により危険度が70を超えた方は危険者リストに登録させていただき、
90を超えた方は、申し訳ありませんが入街を拒否させていただきます。ごりょーしょーください……」
読み終えたフライゴンは、苦い顔をしながら不安そうに呟いた。
「ですって。うわァ、大丈夫かなぁ」
「危険度を察知しますだってさっ。オレとお前はこれに引っかかるんじゃねぇの? クケケッ」
ジュカインは腕のリーフブレードを撫でながら、軽くため息をつく。
「ぜったい引っかかっちゃうよねー! ボクは爪や尻尾は凶器だし、熱いの口から吹けちゃうし……
ジュカインも、腕に刃物引っ付けてるしね。コウイチくんは穏やかで優しいから危険度0でしょうけど」
「90以上いっちまったらどうしような? っつかどういう方法で鑑定するんだろ……質疑応答?」
「そこはアレだよ。エスパータイプだけに超能力でも使うんじゃなーいの?」
「超能力でどんな風に検査するんだろうな? 器具とか使うのかな?」
「さァ? 分からないけど、なんだか楽しみだなぁ、ボク」
不安そうにしていたのはどこへやらだんだんと楽しそうに語り始めるフライゴンを脇目に、
ぼくは、少しばかり審査への不安で緊張していた。
人間に見えないように変装したはいいけど、ボディチェックとかのときにごまかせるかな……
538:8/8 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:24:27
「うう、ぼくも何だか緊張してきたよ。……バレないまま審査抜けられるかなァ……」
不安のあまり、ぼくは二人に励ましてもらいたくてつい小声でそう漏らしてしまう。
それを聞いた二人は、同じく小声で期待通りぼくを励ましてくれた。
「きっと大丈夫ですってコウイチくん! コウイチくんなら何とかごまかせますって!」
「最悪ボディチェックのときバレたとしてもさ、内情を話して口止めすれば大丈夫だぜ。多分」
「そうかな……うん、ありがとう二人ともっ」
二人の意見は根拠のないものだし実際にはまったく頼りにならないものだけれど、
ぼくはとても勇気付けられて、次の瞬間には不安や緊張も驚くほどに和らいでいた。
そうだよね、何とかなる、大丈夫さ。別に悪いことしてるわけじゃあないんだし……
『84番の方。84番の方、Dの審査室へお入りください』
48という数字にぼくはピクリと反応する。48……ぼくの整理券に記されている番号だ。
「呼ばれた。じゃあ行ってくるね、フライゴン、ジュカイン」
「はァーい。また奥で会いましょうねー」
「必死でごまかせよ。カハハッ」
ぼくは立ち上がり、まだ若干の不安を抱きながら指定された審査室へと入っていった。
539:8/8ちょっと修正 ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:25:30
「うう、ぼくも何だか緊張してきたよ。バレないまま審査抜けられるかなァ……」
不安のあまり、ぼくは二人に励ましてもらいたくてつい小声でそう漏らしてしまう。
それを聞いた二人は、同じく小声で期待通りぼくを励ましてくれた。
「きっと大丈夫ですってコウイチくん! コウイチくんなら何とかごまかせますって!」
「最悪ボディチェックのときバレたとしてもさ、内情を話して口止めすれば大丈夫だぜ。多分」
「そうかな……うん、ありがとう二人ともっ」
二人の意見は根拠のないものだし実際にはまったく頼りにならないものだけれど、
ぼくはとても勇気付けられて、次の瞬間には不安や緊張も驚くほどに和らいでいた。
そうだよね、何とかなる、大丈夫さ。別に悪いことしてるわけじゃあないんだし……
『84番の方。84番の方、Dの審査室へお入りください』
84という数字にぼくはピクリと反応する。84……ぼくの整理券に記されている番号だ。
「呼ばれた。じゃあ行ってくるね、フライゴン、ジュカイン」
「はァーい。また奥で会いましょうねー」
「必死でごまかせよ。カハハッ」
ぼくは立ち上がり、まだ若干の不安を抱きながら指定された審査室へと入っていった。
540: ◆8z/U87HgHc
08/01/10 19:34:25
wikiの件ですけど、自分的にも作ってくれると嬉しいですね。
自分の文を保管してくれるというのは色々な意味で励みになります。
541:名無しさん、君に決めた!
08/01/10 19:58:15
お帰りなさい!
542:名無しさん、君に決めた!
08/01/11 01:45:30
84?48?
間違ってるよ~。
543:名無しさん、君に決めた!
08/01/11 10:16:49
GJ!頑張って~
544:名無しさん、君に決めた!
08/01/12 17:47:08
GJ!
ストーリーは決まってるの?
545: ◆VgkZEoAoTg
08/01/13 02:16:30
>>544
3話はもう細かい流れは全部決まってますし、
10話くらいまでは大体おおまかな流れくらいまでは考えてありますねー。
暇があればストーリーを妄想してお話のストックを増やしていってます。
546: ◆8z/U87HgHc
08/01/13 02:18:04
はいはいトリップ間違えてしまいましたよ。
547:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 09:41:10
>>545-546
ドジっ子1萌えw
548:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 13:04:19
なんという地味すぎる良スレ
ここだけは荒れないようにしたいものだ
549:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 19:24:22
>>548
切実に同意。1頑張って!
550:名無しさん、君に決めた!
08/01/13 23:58:00 dAzePhmk
保守age
なんか絵でも描いてみようかな
551:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 12:05:04
wiki作ってみようと思う
見たいと思ったときにすぐに見れるのは読者としても嬉しい
ただちょっと時間かかるかもしれないのであまり期待しないでくださいお願いします
552:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 14:20:14
作者マジでこんなトコで才能を無駄に使ってないか?これ本にして出版したら絶対売れるよ…
553:551
08/01/14 14:33:49
話のタイトルは『ポケモン ドリームワールド』で宜しいですか?
554:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 14:35:31
おk
555:名無しさん、君に決めた!
08/01/14 18:28:01
wiki期待してる
556:551
08/01/15 01:49:10
wiki進行状況:第二話まで掲載完了
第一話と飛鳥部隊まで誤字脱字チェック完了
二番目のやつはこれどう考えても違和感あるというものを勝手にポチポチしちゃってます。すいません。
もうちょっとかかる予定ですが初心者の手ではシンプルってレベルじゃねーですご了承下さい。
557:名無しさん、君に決めた!
08/01/15 09:26:25
頑張って!
558:名無しさん、君に決めた!
08/01/16 01:21:49
ここのフライゴンはためらいなく主人公に体捧げそうなくらい従順でつね
559:名無しさん、君に決めた!
08/01/16 15:43:45
>>558
×「捧げそうな」
○「捧げる」
560: ◆8z/U87HgHc
08/01/17 00:34:24
今日か明日には投下できるかもです。
投下間隔遅くてごめんなさい。
いざ書いてみるとつい筆が進んじゃって、分量が予定の二倍以上になってしまい……
結果書き上がるのが遅れてしまうとか、そんなんばっかですいつも。
どうしようもない悪癖よのー、ですよね。こうして自覚はしてるんですけどもねー……
>>551
保存してくれるだけでも嬉しいですよー。ありがとうございます。
561:名無しさん、君に決めた!
08/01/17 18:16:39
10レス前後なら週一でも別に遅くはないべ
562:551
08/01/18 16:16:46
諸事情でこれで限界
URLリンク(www14.atwiki.jp)
>>560
待つ時間が長くてもより後で幸福になるのでまったく問題ないです。
wktkしてます。
563:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 18:12:47
wiki乙ー
564: ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:41:08
>>562
wikiありがとうございます。
これでいつでも確認できます。お疲れ様でしたー。
それでは投下しますね。
565:1/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:44:46
通された審査室には、スーツを着こなした役人さんらしきユンゲラーが三体佇んでいた。
部屋の内装は存外大人しめで、何枚もの書類が置かれた丸いテーブルが中心にあり、
隅に用途の分からない大きな機械が一つと、コンピュータが何台か置かれているだけだ。
そのくせ間取りはムダに広いので、それがぼくの緊張を一層と煽る。
三体の役人ユンゲラーの内の一体が丸いテーブルを囲む椅子の一つに座ると、ぼくにこう指示した。
「こちらへお座りください」
「はい」
促されたとおり、役人ユンゲラーの座っている向かい側の椅子に腰を下ろすと、
役人ユンゲラーはすぐさまテーブルの上に置かれている書類とペンをボクに差し出した。
「では、こちらの書類にご記入願います」
淡々とした事務的な口調でそう指示する役人ユンゲラー。
ほぼ無機質なその口調は、毎日この仕事を飽きるほどに繰り返しているそれだ。
……もしかしたら数分もしないうちに、この人の事務的でない口調が聞けるかもしれない。
ぼくが人間だとバレることによって……
……って、何を後ろ向きなことを考えているんだ、ぼくは。
フライゴンも言っていたじゃあないか。そう、大丈夫。大丈夫さ。
ぼくは己自身を励ましながら、とりあえず目の前の書類に目を通した。
記入する欄は意外にも少ない。種族名、氏名、性別、年齢、健康状態、特技……
『どこから来たのか』などを記入する欄は存在しないし、すべて適当に誤魔化せそうだ。
さぁ、怪しまれる前にさっさと書いてしまおう。
…………あっ。
しまったァーーー!! ぼくは大マヌケかっ!!?
566:2/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:47:22
書けないっ! というかペンを持てないっ!
今のぼくのこの手……『モンスターボールの手』じゃあ、ペンを持てないっ!
このモンスターボールの手である間、指を使うことは全てフライゴン達に任せればいいと思っていた。
だけど、こういう状況は一切想定しなかった。隔離された部屋でぼく一人、指を使わなければいけないこの状況……
なぜあの審査案内を見た時から、こういった状況に陥ってしまうだろうことへ思考が行き届かなかったんだろう。
そこへ思考が行き届いていれば、何かしら対策は打てたに違いないのに……
書類とペンを見つめたまま、ぼくは動くことが出来ない。
テストの途中にシャーペンの芯を完全に切らしてしまったら多分こういう気分になるんだろう。
……混乱のあまり、ぼくは次の瞬間こんなことを口走ってしまっていた。
「あ、あのう……あなたが代わりに記入していただけませんか?」
「は?」
「いや、あの……ぼ、ぼくが言った通りに書類に記入してほしいんです。
あの、その、何というか、ぼく……字とか書くのは、何ていうか……」
言ってる自分でも分かる。『何をむちゃらくちゃらな事を言っているんだぼくはっ!?』
自分自身が言っているのに、まるで他人の言葉を聞いているかのようだ。
そして、目の前の役人ユンゲラーの答えは当然……
「直筆でお願いします」
相変わらず事務的な口調で対応された。当たり前だけど……
役人ユンゲラーの左隣に立っている髭のない役人ユンゲラーは、さも退屈そうに目を細めている。
右隣に立っている髭の長い役人ユンゲラーは、怪しむようにぼくを鋭い目つきで見ている。
部屋の隅にあるコンピュータの駆動音が、やたらと耳に響く。
本当に、どうしよう。事態は深刻になってくばかりだよオォ~~~
567:3/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:49:16
……
そういえばこの目の前の役人ユンゲラー、どうして何も言わないんだ?
『言葉を喋れるのならものを書けないわけがない』と高をくくってでもいるんだろうか。
ぼくのこの丸い手を見れば、ペンを持てそうにないとすぐに気づくだろうに……
……待てよ。
そういえば指がなくても、ペンぐらい持とうとすれば持てるよね。
たとえば指や腕がない人は、口や足で筆記用具を持って文字を書くし、
本来ものを掴むための部位がなかったとしても、他の部位で代用すればいい話なんだ。
……もしかしたらこの役人ユンゲラーは、ぼくが『そういう種族の者』だと思っているんじゃあ……?
よおし、それならばこの役人さんの期待通りにやってあげようじゃあないか。
ぼくは、テーブルの上に転がっているペンに向かって顔を伸ばした。
普通なら指で持つ部分を……ぼくは唇で掬い上げ、そして挟み込む。
「……」
若干、辺りの空気が変わった気がする。
いや……逆だ。変わったのは辺りの空気ではなくて、ぼくの心情……
隔離された静かな部屋で三体のポケモンに見守られながら、テーブルの上に転がるペンを唇で持ち上げる。
なんとも珍妙な状況だ。衆人監視のなか汚れた地面を舐めさせられる、昔の罪人みたいだ。
……でもっ。
それとは違う。恥じゃあない。ぼくがペンを持つ方法はこれだけ……『これだけ』なんだから。
そう、ぼくはいま『そういう種族』なんだ。『ペンを唇で持って文字を書く種族』なんだ。
ぼくはしっかり唇でペンの先端を挟みながら、筆先を書類の記入欄へとくっつけた。
568:4/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:52:45
とても書きにくいし字は下手になってしまうけれど、書けないわけじゃない。
とりあえずは書ける。そう、それで十分だ。
字が下手だろうが、記入欄を全て埋められればそれでいい。
記入欄が半分ほど埋まってから、ぼくは念のため上目遣いで役人ユンゲラー達の様子を確認してみた。
向かい側の役人ユンゲラーは、別段何事もなかったかのように表情は一切変えていない。
左隣の髭なしユンゲラーも相変わらず退屈そうにしているだけだ。
だけど右隣の髭長ユンゲラーは、変わらずぼくに刺すような視線を送っている。
……くそう、何を怪しんでいるんだ。『ぼくはこういう種族なんだ』! 『こういう種族なんだよっ』!
「……書き終わりました。ペン、よごしちゃってごめんなさい……」
なんとか記入欄を全て埋め終わり、謝罪も添えてぼくはペンを口から離した。
達成感とか満足感なんかよりも、なにかひどく無駄なことをしたような気分でいっぱいだ。
……口でペンを持って物を書くなんて、もう生涯ないかもね。希有な体験したなあ。
「お疲れ様でした。それでは次の部屋でボディチェックとSMJをお受けください」
役人ユンゲラーはそう言って席を立つと、その書類を持ってコンピューターの方へ向かい何かの作業を始め出した。
それと同時に髭なしユンゲラーと髭長ユンゲラーがぼくの隣へやってきて、こう指示を出した。
「では、こちらへ。検査室へご案内します」
そう言って、二体の役人ユンゲラーはぼくが立ち上がるのを確認すると、
出口の方の扉を開けて、髭長はぼくの隣に、髭なしはぼくの前に立って、検査室への歩を進めはじめた。
ボディチェック……たぶん、これが一番の関門となるだろう。さて、バレずに抜けられるだろうか……?
再び、緊張がぼくの胃をきりきりと緩く締め付け始めた。
569:5/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:54:15
不自然に長い通路を挟んだ後、ぼくは検査室へと辿り着いた。
そして、その部屋の驚くほど質素な内装に、ぼくはちょっとした驚きを覚える。
先ほどの部屋もかなり質素だったけど、この部屋は質素というよりは……もはや何もない。
たぶん没収したものを入れるためのカゴと、鉄か何かで出来たようなメットが幾つか壁にかけてあるだけだ。
それほど質素なのにやはり間取りだけはやたらと広くて、不気味さすらも醸し出している。
「あのう。この部屋ってなんでこんな質素なんですか? 部屋もやたら広いし……」
たまらず、ぼくは役人さんに向かってそう質問してみる。
その質問に、髭長ユンゲラーが即座に答えを返した。
「これからボディチェックの後に始める『SMJ』と呼ばれる検査は、超能力を使う検査です。
そして超能力を発した際に生じる『S波』という振動は、精密機器などに影響を及ぼします。
ですから無駄なものは置かないのです。部屋が広いのは、S波の振動を部屋の外に漏らさぬためです」
「へぇ、なるほどォ……ありがとうございます」
部屋の質素さと間取りの広さにはやはりちゃんとした理由があったんだ。
そしてエスパータイプというだけあって、自分たちの特性を生かした検査方法を作り出している。
感心すると同時に不安も芽生える。超能力というと万能なイメージがある。隠し事くらいなんでも見破れそうなイメージが……
ますます不安が深まっていく中、ふと髭長ユンゲラーが……
「……あなたの場合は……たっぷりとそのS波の振動を体感する羽目になるかも……」
「えっ?」
髭長ユンゲラーが何か意味深なことを呟いたのを、ぼくは聞き逃さなかった。
いま確実に、『ぼくが隠し事をしている』ことを見破っているかのような言葉を……
「はいはいはいはい、サァサァさっさとボディチェックを始めちゃいましょうね!!
ムダ話はあとあと、他のお客さんが突っかかっちまう前に、検査を早く済ませちまいましょう!」
しびれを切らしたのか髭なしユンゲラーのほうがいきなりそう叫び出し、ぼくのポシェットの中をさっさと確認し始めた。
この人は、面倒なことは早く済ませたい性格なのだろう。ということは、多少はぐらかしても無視してくれるかも……
多少だが光明が増してきた。問題はあの髭長ユンゲラーか……
570:6/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 18:57:57
「ええと、財布にマフラー、と……ん、このガラス瓶に入ってるのは何ですかー?」
髭なしユンゲラーは、ポシェットの中の各種傷薬を指差している。
「ああ、それお薬です。ピンク色のやつとオレンジ色のやつは傷薬で、
金色のヤツはなんでもなおし……あの、万能薬みたいなものです。
怪しく感じるなら没収してもいいですよっ。都市の中で同じようなの買いますし」
いらない誤解をかけられるのを危惧して、没収してもよいと言っておく。
でもその配慮は必要なかったようで、髭なしユンゲラーは照れ笑いしながらすぐ傷薬から指を離した。
「ああ、傷薬ですか。分かりました、それならOKで……あっ!」
しかしその瞬間、髭長ユンゲラーの方が代わりにポシェットに手を突っ込み……
「これは没収ですね」
そして、各種傷薬をすべて籠の中に突っ込んでしまったのだ。
その光景に、髭なしユンゲラーはおろおろとうろたえている。
「えっ、あっあっ。おいルンゲラ、それはただの傷薬だってこの子が言って……」
「お前はアホかユルグ、確証がないだろうが! こういうものは基本的に没収なのだ、アホめっ」
髭長ユンゲラーもといルンゲラさんは、髭なしユンゲラーもといユルグさんを乱雑な口調で罵倒しながら、
ぼくのポシェットの中をじっと見つめた後、ぼくのスーツのポケットをまさぐり始めた。
「ハンカチにティッシュにガムに手鏡……と。……この機械は何ですか?」
ルンゲラさんは胸ポケットからポケモン図鑑を取ると、まじまじと観察し始めた。
「えっ! それはっ……」
ぼくは咄嗟の返答に困る。『ポケモン図鑑』なんて直接言って大丈夫だろうか?
でもさすがにポケモン図鑑は没収されるわけにはいかない。ぼくは適当な嘘を交えてこう答えた。
「それは、『モンスター図鑑』です。ぼく全国を回ってモンスター達をこの図鑑に記録しているんです。
それを没収されたら、ぼく困りますっ! その図鑑を埋めていくのがぼくの仕事なのに……」
「ふうん……まぁ害はなさそうですし、これはいいでしょう」
ルンゲラさんは一通り図鑑を観察した後、ぼくの胸ポケットに図鑑を戻してくれた。よかった……
「それでは、上着と帽子の下も見せてください」
571:7/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:01:53
「えっ!?」
安堵したのも束の間、ルンゲラさんのその指示にぼくは胸を跳ね上がらせる。
……上着と帽子の下を見せろだって!? そんなことしたら、
人間であることの証明である髪の毛と五本の指が丸出しになっちゃって、一発で人間とバレるじゃあないか!
従うわけにはいかない。どうにかはぐらかさなきゃ……
「あ、あの、見せなきゃダメですか? 手で触って確認とか、それだけじゃあダメなんですか?」
「当然でしょう。裸まで見せろとは言いませんが、見せれるところまでは見せていただかないと……
それにしても、何か様子がおかしいですね? 上着あるいは帽子の下に『危険物』でも隠してるとか……
そういった事情でもあるような……そんな様子ですね、今のあなた……ふふふふ」
「うぐっ……」
ルンゲラさんの嘲笑の混じったその口調は、まるで『すべてお見通し』でも言っているようだ。
答えがずれてはいるものの、ぼくの醸し出している怪しさを彼は敏感に感じ取っている。
……一度疑われてしまえば、その疑いが完全に間違いでない限り、晴らすのはとても難しい。
上手くはぐらかしきれるだろうか……いいや、どのみちぼくには何とかはぐらかすしか道はないんだ。
「イヤだな~! ぼく危険物なんて隠し持ってませんよォ。
いまあなた、『見せれるところまでは見せていただく』って言いましたね?」
「はあ……言いましたがそれがなにか?」
冷徹な視線をボクに投げかけるルンゲラさん。構わずぼくは言い訳を続ける。
「『見せれない』んですよっ! 危険物だとかなんだとかそういう理由じゃなくて、
ぼくらの種族じゃあ帽子や上着の下を見られるのは、裸を見せるのと同じくらい恥ずかしいことなんです。
あなた達の常識じゃあ考えられないことでしょうけど……ホラ、世界って広いでしょ」
「……へえ」
「……!」
ルンゲラさんの目つきは、ぼくが言い訳を始めてから一層鋭さを増している。
まるで射抜くような視線。疑っているというよりは、もはや怒っているかのような……
……もしかして、ぼくの言い訳……逆効果だったんじゃあ……
「……嘗めるなよ、小僧」
572:8/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:05:36
「!?」
突如、胸にズシリと響くような低く重い声が、部屋に響き渡った。
そしてその低く重い声が紡いでいたのは、この場では全く場違いともいえる乱暴な言葉。
それを発した声の主は……もちろんぼくじゃあなくて……はしっこで小さくなっているユルグさんでもなくて……
残るもう一人の……
「嘗めるなよ小僧ッ!! そんなバレバレの言い訳にこの私が乗せられるかァッ!!
ヌケヌケと都市に入れると思ったのか? そんな子供すら騙せないような稚拙な言い訳でッ!!
侮辱された気分だ、ああ胸糞悪い!! この仕事に就いてから滅多にないぞこんな気分になったのはッ!!」
一変して粗暴な口調になったルンゲラさんは、血走らせた目をかっ開いてぼくを睨み付けている。
ぼくは一瞬で感じ取った。怒りに触れた……社会人の怒りに触れちゃったよォ~~……
即刻あやまりたいけど、そうさせてくれる暇もなくルンゲラさんはぼくに言葉を投げつけ続ける。
「思えば、貴様が審査室に入ってきたときから私は貴様を怪しいと思っていた……
超能力ではない。私が長年この仕事をやってきて培った『勘』だっ!
その『勘』が、貴様の胸の内にある薄汚れた野望を感じ取ったのだっ!!
このクサレ小僧め、バレバレに露呈してんだよ貴様の小悪党精神……」
「お、おいおォ~いルンゲラー。声を荒げるのはやめようぜェ~~……」
この状況を見かねたのか、ふとユルグさんがかなり控えめな口調でそう言う。しかし……
「黙らんかユルグッ!! 貴様はトイレでも行って顔でも洗っていろッ!!」
「ひえぇっ! ご、ごめんなしゃ~~い……」
ルンゲラさんのプレッシャーに押されて、ユルグさんはまたすぐに縮こまってしまった。頼りにならない人だなぁ……
「ふんっ……さて……」
「……?」
ルンゲラさんは鼻息を荒げながら、ひょっとぼくから視線を外し壁の方に歩いていった。
そして、その壁にかけられているメットを手に取ると、こちらに戻ってきてぼくに手渡してきた。
鉄でもなければプラスチックでもない、何とも言えない感触のヘルメット。
「……こ、これは……?」
573:9/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:09:47
「貴様の嘘はバレバレだが、それでも確証をなしにひっとらえるのもいけないことだ……
貴様の嘘を嘘だと完全に証明し、後味よく最高に気持っちよくひっとらえてやるっ!!
さぁ、それを被れ小僧ッ! 今から『サイコキネシス』を使い、貴様の『心の揺れ幅』を観察してやるッ!!」
「心の……揺れ幅……?」
ルンゲラさんはこれから、テレビとかで見る『嘘発見機』みたいなことを超能力でするってことだろうか。
じゃあ、何でこのメットを被る必要があるんだろう。
これが機械だったとして、超能力を使ったら精密機器に影響が出るはずなのに……
……あっ、そうか。超能力を使った際に『ぼくの脳みそ』に影響が出るのを防ぐために、このメットを被るってわけね。
……そんな風にゆっくりと考えていたら……
「さっさと被れッ!!」
「あっ、は、ハイっ!」
ルンゲラさんの剣幕に押され、ぼくはすぐさまそのメットを頭にはめ込んだ。
ちょいとメットのサイズが大きすぎる。ブカブカだ。こんなんで、『S波』とやらから脳みそを守ってくれるのかな。
……違う。そんなことよりも、嘘を見破られて人間だとバレてしまうことのほうが、よっぽど心配だ。
相手は超能力だぞっ、超能力。サイコキネシスだぞォ……! 『バレない』なんてこと有り得るの……?
……バレる。バレちゃうのかっ、ついに……!? 嘘でしょォ~~……!?
「今から質問をする。『YES』か『NO』で答えろッ!! 分かったなッ!?」
「……はい」
素直に返事をするしか、ぼくに道は残されていない。
ルンゲラさんはぼくがそう返事をしたのを確認すると、一度勝ち誇ったような笑みを浮かべた後、こう問いかけた。
「その毛糸の帽子、あるいは上着の下に……『我々に見られたらマズいもの』は入っているか?」
574:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 19:10:14
支援だぜ
575:10/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:11:47
「……!」
ぼくが人間だとバレるのはマズいことだから答えはYESだけど、
YESと答えたところで正直者だと褒められ、人間であることがバレて都市中に広まるだけ。
逆にNOと答えても、それが嘘だと見破られる。
どう答えても、『心の揺れ幅』とやらのせいでそれは全て自供となってしまう……
いわゆる、詰むしかない将棋っていうやつだ。もうどうしようもない……
……こうなったらもう、相手の超能力とやらがどうにか外れてくれることを祈るしかない……!
「『NO』……です」
超能力以前に、答え方とその表情で悟られてしまわないように、あくまで平静を装いそう答える。
「……クッククク、まぁ当然の答えだな。さて、それが嘘かはたまた真か……
十中十ウソであるということは分かっているが……見せてもらおうかァ、貴様の心の揺れ幅ッ!!」
ルンゲラさんはそう言うと、思い切り目をかっ開き、全身を硬直させるように力を入れ始めた。
超能力を発動させたんだ。ぼくの心の揺れ幅を見るための、超能力……エスパータイプの特権!
次第に辺りの空気が明らかに変わってくる。空気がかすかにうねっているような感覚……
頭に被っているメットのおかげなのか頭痛などの症状は起きないけど、軽い耳鳴りが響いてきた。
……実感はないけど、いま確かに探られているんだ。ぼくの心の揺れ幅……動揺を……
……動揺……そうだ。この動揺が、『ぼくはウソをついています』というメッセージを送っているんだ。
多分だけれど、心を読まれているってわけじゃあない。ルンゲラさんが読んでいるのは、あくまで『動揺の具合』だけ。
だから、心を鎮めれば……この渦巻く動揺をどうにか収めれば……ぼくの『NO』は『NO』のままだ。
そうだ、抑えろ。鎮まれ、ぼくのこの動揺……鎮まれっ、鎮まるんだっ。
フライゴンやジュカインとの楽しい都市観光のために! 鎮まるんだっ!!
「……ククックク。ふふははは……」
576:11/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:17:20
「ハハハハーーーッ!! 嘘をついてるなァーーーーー貴様ァーーーーー!!
貴様の心がビンビンに揺れているぞッ!! 『ぼくちんはウソをついています』と自白しているぞォッ!!」
「!!」
ルンゲラさんの歓喜の叫び声。
瞬間、ぼくの胸中に何か重いものが覆いかぶさった。
ウソだと、バレた。バレたっ、バレたっ
言いわけをする暇も、それを考える暇もなかった。
「このテレキシティで何を仕出かそうと企んでいたかは知れぬが、貴様のその計画は適わんぞッ!!
確かな証明が出来たんだからなァーーー即効見せてもらおうネェーーーまず貴様のその帽子の下ァッ!!」
ルンゲラさんは興奮したようにそう叫びながら、ビッと勢いよく人差し指をこちらに向けた。
「あっ!」
突然頭上のメットが弾け飛び、その下の毛糸の帽子も、見えない力でずるずると脱がされていく。
同時に急に耳鳴りが増し、頭に割れそうなほどの痛みがのしかかってくる。
サイコキネシスだ……ルンゲラさんは、サイコキネシスでぼくの帽子を脱がそうとしている……!
ぼくは咄嗟にモンスターボールの手で頭を押さえる。しかし、見えない力はぼくの手ごと帽子を脱がそうとしてくる。
「お、おいルンゲラ! 耐波メットをしてないやつにそんな強いサイコキネシスを浴びせるのは法律違反……」
「うっとうしいぞユルグっ!! そのヒゲぶち抜かれたくなったら黙って見てろゴミカスッ!!」
ルンゲラさんの叫び声が聞こえると同時に、見えない力は一層その強さを増してきた。
脱がされていく帽子の下から、黒髪がぱらぱらと垂れてくる。も……もう……!
毛糸の帽子が、ぼくの頭からずり落ちた。
その下から現れる髪の毛。二体の役人ユンゲラーの前に、ぼくの髪の毛が晒された。
「えっ……!?」
「あっ……!!」
577:12/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:23:10
空気のうねりが収まり、同時に激しい耳鳴りと頭痛から開放される。
そして代わりに、重油を流し込んだかのような重い沈黙が辺りを包み込んだ。
吃驚したまま表情を固まらせてぼくを凝視する、二体のユンゲラー。
その表情は、彼らの心の中の言葉をそのままぼくに伝えている。
『こいつはまさか!?』『そのまさかさ、まさかのまさかだよ』『人間だっ! 間違いない、人間だ!』
ぼくの中を、ずっと同じ単語がリフレインし続ける。
バレたっ バレたっ バレたっ バレたっ
「……髪の毛……それも、一本一本がシャーペンの芯よりもずっと細い……
ムチュール族やキルリア族の頭の毛とは違う、本物の……『髪の毛』」
先程の勢いを感じさせない、震えた声でそう呟くルンゲラさん。
続けてユルグさんが、ぼくの絶望を確実なものへとする言葉を放った。
「マジかよ……嘘だろォ……めちゃくちゃな大ニュースじゃあねえか、このテレキシティに……」
「『人間様』がやってきたなんて……!」
「…………」
再び沈黙が訪れた。二体のユンゲラーの表情は相変わらず驚きのまま固まっている。
……………………
……このまま帰ろうか……?
……それとも、このことを都市の内部の者に報告されると分かっていて、入街するか……?
……いや……まだ打つ手は、あるっ。
「あ~あ……困ったな。ぼくのこれ、見られちゃうなんて……」
578:13/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:26:23
「!」
急にぼくが喋りだしたのに反応して、ハッとする二体のユンゲラー。
ぼくは深く俯き、二体にちゃんと聞こえるように大きくため息をつきながら、こう言った。
「行く先々で……みんなこれ見るとそう言います。そして、騒ぐんです。
ぼくにかかる迷惑も顧みず、人間様だ人間様だと好き勝手に騒いで纏わりつくんです。
とっても迷惑でした。ぼくが人間様だなんてそんなの……とんでもない『勘違い』なのに」
「えっ……!?」
「か、勘違い……!?」
予想通り、驚きそう反応する二体のユンゲラー。
ぼくは上目遣い気味に二体の顔を見ながら、話を続ける。
「ぼくはこの通り人間様に似ているだけで、人間様とは何の関係もない種族なんです。
……ぼくはぼくだっ。それ以外の何者でもない……もちろん、人間様なんかじゃあない。
なのに、誰もそれを聞き入れてくれない……騒ぎ続けて、ぼくの平穏を奪っていく……!」
わざと語尾に力を込めて、さらに下唇を強く噛み締める。
二体のユンゲラーの顔色が変わってきた……ぼくを憂うような顔色へ。
ぼくは顔をあげて、畳み掛けるように声量を強くしてこう言った。
「平穏が欲しい! 平穏な生活がしたい! ただそれだけなんだっ!
だからぼくは故郷を飛び出し、種族にはこだわらないと評判のこの街へと来たんだっ!
誰にも騒がれない、そんな落ち着いた生活……それだけを……夢見て……」
今度は語尾を弱めて、ふたたび顔を俯かせる。
そうすると、ふとユルグさんがこう口にした。
「……そういう……ことだったんだ……」
ユルグさんはぼくの言葉に感化されたのか、感傷的な視線をぼくに落としている。
よおしっ、伝わっているぞっ……ぼくの『架空の過去』っ……『迫真の演技』……!
579:14/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:30:07
ぼくはいま、架空の過去をこの瞬間だけ自分の過去と思い込み、伝えている。
要するに単なるでっち上げさ。この窮地を抜け切るために、咄嗟に思いついたでっち上げだ。
もともと人間が何食わぬ顔をしてこの世界の都市観光にやってくるなんて、彼らにとっては『ありえないこと』なんだから、
『人間に似ているだけの違う種族』とした方がリアリティがあり、信じてもらえやすいはず。
彼らポケモンだって、わざわざ目の前の発言を疑ってまで非現実的な方を信じようとしたりはしないだろう。
……でっち上げを大人に信じ込ませて感傷に浸らせるなんて何だか気が引けるけど、
まぁ『平穏な観光がしたい』という所は変わらないし、別にいいよね。うん、うん。
「ぼくは平穏を求めて、故郷を飛び出してまでこの都市にやってきたのに……
ここでも……ぼくはぼくとして、受け入れてもらえないんですか……?」
そう言いながらまた上目遣いでユンゲラー達を見やると、驚いたことにぼくの目の奥から、自然と涙が滲み出てきた。
虚構と現実の区別が曖昧になってくる。まるで、たった今作り出したばかりの架空の過去が、本当の過去であるかのように。
気分も高揚してきた。今ならば、どんなクサい台詞だって吐けそうだ。ノってきた。演技がノってきたぞっ!
舞台役者とかって、演技がノってくるとこういう気持ちになるんだろうなぁ。
そして、そんなぼくの真に迫った演技が心に響いたのか、ユルグさんが……
「おい、ルンゲラっ!! 聞いたか、この子にはこんな事情があったんだっ!
この子は、ただ平穏な暮らしがしたいだけだったんだぞっ!」
「うぐっ……!」
ルンゲラさんは返答に詰まる。彼のこめかみには、一筋の汗が伝っている。
長年の勘ってやつが外れたんだ。さぞや悔しいことだろうね、ルンゲラさんめっ。
「ルンゲラ、お前はなぁー、健気なこの子の心を踏みにじり傷つけたんだ! 反省しろっ、オラっ!」
「…………」
ユルグさんはここぞとばかりにルンゲラさんを責めたてている。急に頼りがいのある人に大変貌だ。
やっと、事態が好転してきたぞ。いいぞっ、この調子だっ……!
580:15/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:34:41
「黙れ、ユルグッ!!」
「ひっ」
急に、ルンゲラさんが、ユルグさんへ一喝を入れた。
ユルグさんはその迫力に押されて、あっさりと縮こまってしまう。
「もしかしたら……この『人間に似ている』ってのはカムフラージュで……
本当は、別の場所に危険物を隠し持っているのかも……」
ルンゲラさんはもはや意地になっているのか、そんなことを言い出した。
長年の勘が外れ、しかも一瞬とはいえユルグさんに責められたのがよっぽど悔しかったんだろう。
「そもそも、私たちの前であんな大立ち回りをすること自体違和感があるのだ……
……もう一度メットを被れ小僧ッ! その化けの皮を、ふたたび剥がしてやるぞっ」
先ほどの勢いを取り戻し、床へ落ちているメットを被るように促すルンゲラさん。
しつこいな、この人も。どうにか自分の思い通りにしたくてたまらない気持ちは分からないでもないけど……
まぁ、何にせよ危険物を持っていないのは事実なのだ。そこの所は幾ら探られようが一向に構わない。
「いいでしょう、被ります……その代わり、『危険物を持っているかどうか』という質問しか受け付けませんよ、ぼくは……」
「……ダメだ。貴様が本当に人間でないのかどうかも、探らせてもらう」
「えっ!?」
予想だにしなかったルンゲラさんのその言葉に、ぼくは疑問符を飛び出させてしまった。
「な、なんで……!?」
「黙れっ、もしかしたら貴様が種族を偽っている可能性もある!
とりあえず、念のためにそこの所をハッキリさせておく必要がある……」
「そ、そんな……」
いきなり何を言い出すんだ『コイツ』はっ!? 冗談じゃあない、今のぼくの演技まで無駄にしてしまうつもりか……!?
今の彼にはメリットとかデメリットとか、そんなものは頭にない。ただぼくをひたすら探り追い詰めたくて必死なんだ。
ユルグさんもすっかり縮こまり、成り行きを観察するモードに入ってしまっている。
……くそう、ここまで来てまたピンチかよ……事態は好転したと思ったのに……!
「お待ちなさい!!」
581:16/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:43:44
「!」
突如、ぼくのものでも二体のユンゲラーのものでもない声が部屋に響いた。
それでいて、ほんの少しだが聞き覚えのある声……
ぼくらは一斉に、その声が聞こえた方へと顔を向けた。
そこにいたのは、先程の審査室に残っていたはずのもう一体の役人ユンゲラーだった。
「……あのね-、後がつかえてるんですよ。意味のない探りを入れて、流れを止めないで下さいルンゲラ」
役人ユンゲラーは溜め息混じりにそう言いながら、冷たい目つきでルンゲラさんを睨み付けた。
「ちょ、ちょっと待てユゲーラ。私は、こいつが危険物を持っていないかどうかを……」
「状況は把握してますよ。言っておきますけど、その耐波メットは尋問用じゃあないんですよ。
あくまで、あれはSMJ用のもので……本来の使い道ではない使い方をするのは違反ですよ違反」
「あ、あのなァー、元はと言えばあいつがボディチェックを拒否ったのが……」
「彼の種族は帽子の下とか見られるのが恥ずかしい種族なんでしょ? それなら、上から触るだけでいいじゃないですか。
どうせ危険物だとか何だとかなんて、ボディチェックの後のSMJで明らかになるんだし。
変に邪推するアナタがいけないんですよ。何にでも首突っ込むテレビアニメの名探偵じゃあないんですから」
「うぐぐっ……」
役人ユンゲラーさんことユゲーラさんの淡々とした説教に、ルンゲラさんは相当参っている。
そしてついには、ルンゲラさんは俯いて完全に言葉を失ってしまった。
……あれれ、もしかしてぼく、助かったんじゃあ……?
状況が一気に好転していくのを完全に理解するより先に、
ユゲーラさんはさっさと耐波メットを拾い上げぼくに被せて、こう言った。
「さぁボディチェックはお終いですよ、コウイチさん。
今から貴方の『心の危険度』を探るSMJを開始します。心を落ち着けてください」
「え? あ、はい……」
最大の障壁であり今の今までずっとつっかえていたボディチェックが急に終了し、さっさと次の段階へと進んでしまった。
ルンゲラさんも、俯いて黙りこくっている。次の段階へと進むのを邪魔するつもりは一切なさそうだ。
……なんだか喜びにくいけど、助かった……んだよね?
582:17/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 19:49:23
SMJと呼ばれる超能力での心の検査には、何の障害もなかった。
ユゲーラさんがぼくに向かって超能力を使いながら、なにやら手元の書類にペンを走らせ、
その間ぼくはただ突っ立っているだけ。何かをする必要は一つもない。
検査の時間もたった二、三分ほどで、出された結果もぼくの心を落胆させるには程遠いものだった。
「危険度は『10』……少々心の強度が脆いくらいで、特には心配なしですね」
ユゲーラさんは相変わらず淡々とした口調でそう言いながら、
検査室の出口を開けて、続けてこう言った。
「以上で審査は終了です、お疲れ様でした」
ユゲーラさんのその一言が終わると、また部屋に沈黙が流れ始めた。
誰も何も言わない。今まで散々ここでつっかかっていたせいか、
このままこの部屋を出ていいのかどうかと、無意味な不安を抱いてしまう。
「あ、あのう、先に進んでいいんですか?」
「もちろんですよ」
「審査終了ってことは、テレキシティに入っていいってことですか?
入街者リストっていうのに登録されたんですか?」
「入街許可は実質下りているも同然です。登録はこの先の受付で行ってください」
ごく淡々とした口調。……その淡々とした口調のせいで、急には実感が沸かないけど、
徐々に、じわじわと、その『実感』は胸の底から沸き立ってくる。数秒後、ついにぼくは完全に理解した。
……ヒャッホー、人間だとバレないで審査を抜けられたんだっ、ぼくっ!
「じゃ、じゃあ失礼します……えへへ」
照れ笑いを隠せずそれを顔に出しながら、忘れず毛糸の帽子を被りなおして出口を潜ろうとすると、
横に立っていたユゲーラさんが、なんと言葉尻に笑みを含ませながらこう言った。
「ふふ……おめでとうございます、コウイチさん」
今までの事務的な口調とは全く違う、あたたかい声。
「あ、ありがとうございますっ! じゃあ!」
後味良い気分に包まれながら、ぼくは出口を抜けていき先へと進んだ。
583:名無しさん、君に決めた!
08/01/18 19:50:57
(;´Д`)
584:18/18 ◆8z/U87HgHc
08/01/18 20:00:49
受付での入街者リストへの登録は何のトラブルもなく済み、
今ぼくは待合室に座って、フライゴンとジュカインが審査を終えやってくるのを待っている。
色々トラブルはあったものの結果的にバレずに審査を抜けられた、この嬉しさを伝えたいという気持ちと、
彼らが果たして審査を無事に抜けられるだろうかという不安がぼくの胸に混在していて、
そのせいで今まで以上にソワソワしてしまって落ち着かない。
そして数分後、ついにフライゴンがこちらへ姿を現した。
「コウイチくぅん……ボク、疲れましたよォ……」
フライゴンはなぜだかへとへとに疲れていて、ぼくの隣に力なくドスンと腰を下ろした。
「ど、どうしたの? 審査で何かあったの?」
「いや……SMJとか呼ばれる検査で危険度が85とかなっちゃいまして。
色々な警告やら手続きやらが凄くメンドくさかったんですよォー!
なんか探知機みたいなモノも飲み込まされたし! もォー!」
「あぁ、お疲れ様だったねフライゴン……あはは……」
フライゴンもぼくと同じく、ずいぶんと苦労したんだなぁ。ってことは、ジュカインも……
「―でさー、探知機みたいなものも飲み込まされるし、ホント最悪だったぜっ!!」
「だよねー、もうホントいやになっちゃったよボクもっ! 吐き出せないかな、うげーっ」
……予想通り、ジュカインもずいぶんと苦労したみたいでした。
「まぁ、とにかくっ! こうして無事に審査を抜けられて良かったじゃない。
結果オーライってことでさ、ストレス溜まった分は観光で晴らそうよ!」
ぼくは立ち上がり、愚痴を零しあっている二人を励ますようにそう言った。
その言葉に二人はすぐ笑みを取り戻すと、元気よく立ち上がった。
「そうですねっ! よーし、このストレスはレストランでたくさん食事して発散だっ!」
「じゃあ行こうぜっ! オレはフラワーショップに行ってみたいなァー」
「ぼくは図書館に行きたいや。どんな本があるんだろ?」
かくしてぼくらは無事に審査を通り抜け、ようやくテレキシティの観光が始まったのだった。
つづく