【小説】ポケモン ドリームワールドat POKE
【小説】ポケモン ドリームワールド - 暇つぶし2ch342:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 01:04:17
>>341
アイツー「わたしはアイツー。アイを元に作られたの」
ミュウツー「幼女テラモエスwww」

ミュウツー「私は誰だ! 誰が生んでくれと頼んだ!」
フジ「わしが育てた」

カイリュー「怪しいもんじゃなから、ちょっとあの島まできてくれや」
サトシ「イエス・ユア・ハイネス」

ミュウツー「いったれや! コピーポケモンたち!」
サトシ一行「テラツヨス」

ミュウツー「貴様と私、最強はどちらなのか決めるときが来たようだな!」
ミュウ「そんなことより、おはスタの収録が―もう、強引だなぁ」

サトシ「オレの体が石にィィッ!」
ピカチュウ「涙涙涙」
サトシ「も、戻った!」

ミュウツーとコピーポケモンたち「ぶーん」
コバヤシ「あ~る~き~つ~づ~け~て~♪」

343:340
07/12/11 02:37:44
>>341

これは内緒だが、笑ってる動画でミュ○ツーと検索すれば、映画が見れるらしいな……

べ、別にあんたのためn(ry

344:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 09:50:25
>>342
なにを言っちょるんだお前は

>>343
ツンデレ乙

345:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 11:51:44
端的に言うとこんな感じだべ

346:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 14:43:03
>>342

我ハココニアリの影響受けすぎワロタ

要は、めっちゃ感動できる>>342だと思え。見て損は無い。

347:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 22:11:42
アジール=ピジョット
サーゲス=ヨルノズク
バイオレン=ムクホーク

348:1/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 18:34:17
静寂が支配する深夜の森。その中で相対する二匹のポケモンがいた。
片やニヤニヤと挑戦的な笑みを浮かべ、片や顔つきに怒りをむき出しにさせ、お互いを睨みつけ合っている。

……数秒の沈黙を経て、ふと挑戦的な笑みを浮かべていたジュカインがゆっくりと膝を折り足に力を込め始める。
次の瞬間、地を蹴りつける音と共にジュカインの姿がその場から消えた。
「!」
怒りの表情を浮かべているヨルノズクは、その表情のまま、ジュカインが姿を消したのに合わせて顔を上に向ける。
ヨルノズクの視線の先にある無数の木々の枝と枝の間を、ジュカインらしき影が不規則に縦横無尽に飛び交っている。
影の飛び交う速度はどんどんと速くなり、常人の目では到底捉え切れぬ程の速さに達しても、まだ衰えることなく加速していく。
『カッハハーッ! 昨晩の戦いで、お前相手に正面からぶつかるのは危ないのは分かったからなっ!
 どうだ、オレが飛んでいる軌道が見えるか!? 見えねぇだろっ、カハハッ!!』
ジュカインは目まぐるしく加速を続けながらも、ヨルノズク目掛けて挑発めいた言葉を投げつける。
ヨルノズクはその挑発に、一層表情の怒りの色を強くしていく。
「さぁ、いくぜっ!!」
不規則に飛び交いひたすら加速を続けていたジュカインの影が、遂にヨルノズク目掛けて飛びかかっていった。

ガキィン!!

「!」
金属音によく似た硬い音が辺りに鳴り響き、それと同時にジュカインは吃驚し目を見開いた。
そして、それとは対照的に、ヨルノズクはニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。
ジュカインのリーフブレードでの一撃は、ヨルノズクには届いていなかった。
ヨルノズクとジュカインの間にある壁……リフレクターによって、ジュカインの攻撃は防がれていたのだ。
「……はて、余裕の笑みが消えたの? ほっほっほ」
「…………!」
ジュカインは一筋の冷や汗を流し、驚きに目を見開いた―が、すぐに先ほどの挑戦的な笑みを取り戻す。

「偶然だっ」

349:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 18:35:38
キター

350:2/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 18:37:31
「偶然に決まっているっ!! 
 森の中でのオレのあの動きが、見切られるハズがねぇ!!」

 ジュカインは飛び上がり、再び高速で無数の木々の間を飛び交い始めた。
 ヨルノズクはその様子を見ると愉悦めいた笑みを一層強め、高笑いを始める。

「ほっほっほ!! 貴様、その戦法に大した自信があるようだのォ!!
 だがなっ……このヨルノズクにとってはっ! その戦法は全くの無駄よっ!! 」

 ヨルノズクの目はジュカインの不規則な動きを完全に捉え、それに合わせてギュロギュロと滑っている。

「わしの動体視力を甘く見るなっ。貴様はすばやく動き回りこのわしを上手く撹乱しているつもりだろうが、
 この目には貴様がどこをどう飛び交っているのかよく見える! 蛍光ペンで書き標していくかのように、軌跡すらもハッキリとな……」

 ヨルノズクのその発言は、決して嘘偽りではなかった。
 そしてそれを証明するかのごとく、ジュカインの次の一撃をも……

 ガキィン!!

 ……完璧に防いでしまったのだ。

351:3/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 18:44:17
「ほっほっほ……さて、『二度目』だのォッ!? 
 『二度目』だが、さァ果たしてこれは偶然かァッ!? ヒャハハッ!!」

ヨルノズクは、今まで受けた挑発をそのまま返すかの如く勝ち誇ったような笑みを浮かべ、ジュカインを睨み付ける。
ジュカインの表情からは笑みが消え、屈辱といった風に歯を噛み顔を歪めている。
「……ちくしょうっ、ちくしょうっ!!」
しかしそれでもジュカインは諦める事なく、三度飛び上がり高速移動を始めた。
それを見たヨルノズクは嘴を思い切り開き舌を曝け出しながら、狂ったように爆笑を始めた。
「ヒャッハハハハハァッ!! ひょっとして『大マヌケ』か貴様ァ~~ッ!?
 わし相手にはそんな『カス』戦法、何回やっても何回やっても通用するわきゃないんだよォッ!!
 まさに馬鹿の一つ覚えだなっ、著しく学習能力が欠如した小汚い緑猿めっ!! ヒャハハハハァッ!!!」
『うるせぇ……うるせぇっ!! 見ていろっ、『三度目の正直』だっ!!』
「……ヒャハハッ!! 三度目の正直だぁ~~?? 二度あることは三度あるんだよクソボケェッ!!」
『黙れっ!!』
十分加速した後、ジュカインは三度目の攻撃をヨルノズクへ浴びせかける。
……しかし、それももはや当然の如く、ヨルノズクのリフレクターによって防がれてしまった。
ヨルノズクはリフレクターの奥からジュカインを見下しながら、再び爆笑を始めた。
「ほほっ、三度目ッ、三度目ェッ!! 洗剤で顔をゴシゴシこすって出直してこ……うっ?」
ふと、ヨルノズクの笑みが止まる。
ジュカインの表情が、不自然なことに喜色に染まっていたからだ。

「貴様、いったい……ぐぎゃっ!?」

352:4/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 18:50:46
鈍い音が響き渡り、ヨルノズクは頭を押さえながら地面に突っ伏した。

「ぐがっ……な、なぜ……!?」
「クククッ、バーカ」
吐き捨てるように言いながら倒れたヨルノズクに近づき、その傍らから何かを拾い上げる。
野球ボール大の緑色の球体……ジュカインはそれを口元に持っていくと、それに勢いよくかぶりついた。
「なっ……それは……!?」
首だけを上げ、ジュカインの手の中の物体を見つめそれに驚くヨルノズク。
ジュカインはシャクシャクと口の中から小気味よい音を立てながら、説明を始めた。

「これは、『ラムの実』……殻は硬くて重いが、中身はシャクシャクホワホワってな。
 あんまオレの好みな味じゃねーが、自分で落としたんだから食ってあげなきゃいかんよな」

その言葉に、ヨルノズクは驚いたように目を見開く。
「木の実……それをわしの頭上に……?」
「そう。ここら一帯の木は、ラムの実がたくさん生っているからな。
 ちょうどお前の頭上付近にも生っていたから、すれ違いざまにそれを切り落としたんだ。
 しかしそれに気づかなかったってこた、お前はオレの移動のみに気をとられすぎていたってワケだ」
「ぐぅ……ならば、絶望したような言動は全て演技……
 高速移動からの攻撃は、その木の実をわしに落とすための囮だったというのか……!?」
それを聞いたジュカインは見下すような笑みをより一層深くし、挑発するようにヨルノズクへ顔をずいと近づけた。
「クケケッ! 『だったというのか……!?』じゃねーよバーーーカッ!! ケケッ、警戒心が無さ過ぎるぜオマエ……」

「『大マヌケ』ってのは、まさしくテメーのような奴の事を言うんだろうな。カッハハハーッ!!!」

己を散々虚仮にした者が、自身の自慢の戦法をあっさりと破られ驚愕し絶望する。
その光景のあまりの愉快さとカタルシスにヨルノズクは勝ち誇り、『まだ何かあるかもしれない』という警戒心をすっかり忘れてしまっていたのだ。

「貴様……貴様ァ!!」
ヨルノズクはガバリと立ち上がり、その屈辱と怒りに塗れた顔をジュカインに向ける。
瞬間、ヨルノズクの白い眉が青白く発光し、ジュカインを眩く照らした。
「!!」

353:5/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 18:55:54
「しまっ……!」

焦り、思わずそう口から漏らしたのは、『ヨルノズクの方だった』。
そのヨルノズクの眼前からは、ジュカインの姿は消えていた。ジュカインは咄嗟に飛び上がり念力攻撃を回避したのだ。
そして……

「隙だらけだぜっ」

その声……ジュカインの声が響いたのは、ヨルノズクの背後からだった。
ヨルノズクは振り返る間もなく、その背をジュカインのリーフブレードによって切り裂かれた。
「ぐぁっ!!」
ヨルノズクは、再び前のめりに床に突っ伏した。
ジュカインは余裕の笑みを浮かべ、うつ伏せに倒れているヨルノズクを見下す。
「その念力攻撃をやっている間は、リフレクターを発動しておくことが出来ない……そうだろう?
 昨晩の戦いでオマエがその念力攻撃をやった瞬間、フライゴンを乗せていたリフレクターが消えたのをオレは見てたんだぜ……」
「ぐっ……クソ、がァ……!!」

背中の痛みに足をふらつかせながらもヨルノズクは立ち上がり、鋭い目つきでジュカインを睨み付ける。
ジュカインは、ヨルノズクの睨みを余裕の目つきで受け止めている。
「まだやんのかよ、地味にタフな奴だなぁ……だが立ち上がってどうする?
 リフレクター……念力……オマエのたった二つの手札はこのオレに跡形も無く破られた。
 はてさて、これ以上どうするつもりだい? 悪あがきでもしてみるか? カカッ」
「ハッ、ほざくな」
ヨルノズクは目つきを鋭くさせたまま、口を笑みの形に歪ませた。
その表情にジュカインは、相手の奥底にまだ残されている余裕に気づく。
「まだ何かありそうな顔しやがって」
「ほほっ、そうさ。今までのわしの戦い方は、体が衰えてしまった老い故の戦法……わしの、全盛期の戦い方とは違うのだ!
 本来の戦い方はこの老いた体では疲れるが、この際仕方ない……見せてやろう、このわしの本当の戦い方をなっ!!」
ヨルノズクの目と翼が、勢いよく同時に開かれた。
そして次の瞬間、ヨルノズクの姿が一瞬の内にわずかな残影のみを残し、その場から消え去ったのだ。

「これは……!?」

354:6/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 19:00:28
ヨルノズクが突如消え去り、きりきりとした緊張感と沈黙のみがその場に残される。
さすがのジュカインも、その状況に緊張の念を感じずにはいられなかった。
「どこへ……?」
ジュカインが思わずそう呟いた次の瞬間。

ピシッ!

「ぐっ!」
何かが掠めた音が高く響くと同時に、ジュカインはうめき声を上げ腕を手で押さえた。
押さえた手の隙間から鮮血が漏れ、腕を伝い滴り落ちる。
ジクジクと焼け付くような痛みが、押さえた手の下に張り付いていた。
「攻撃された……のか?」
ジュカインの表情が一転して引き締まり、警戒するように目を凝らし辺りを見回し始めた。
視界には、森の夜景のみが映されている。変化一つない、いつもの通り木々と葉っぱがあるだけだ。
「!」 

―その風景に微かな変化を感じ、ピクリとジュカインは反応する。
目をじっと凝らさなければ分からないだろう。眼前に広がる無数の木々の合間を、夜闇に紛れ凄まじいスピードで掠めていく影があったのだ。

その影のあまりのスピードに、ジュカインはすぐに影を見逃してしまう。そして、その矢先……
「ぐあっ!」
再び、掠める音と、己のうめき声とが同時に響き渡る。
ジュカインは理解する。また攻撃されたのだ……それも、あのヨルノズクに。
あの影は、ヨルノズクの影なのだろう。ヨルノズクが、並外れたスピードで森中を飛び回っているのだ。
それでいて、暗殺者やなにかの如く羽音も、葉擦れの音すらもほとんど立てず。
「……!」
そこまで思考が行き着いてから、ジュカインはふとある事実に気がつく。

「これは……オレの戦法とほとんど同じじゃあねぇか……!」

355:7/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 19:04:36
『はぁ、はぁ……ほっほっほ、そうさ、皮肉にも貴様と同じような戦法だのォ!!』
「!」

不意に、ヨルノズクの声が夜空から鳴り響いた。

『ふふっ……わしは貴様のこの戦法を、夜に適したこの目とリフレクターで防いだ。
 だが貴様はどうだ? 『どちらも無い』。『何も無い』。『どちらも無い』。『何も無い』。
 はぁ、はぁ……ほほっ、文字通り、成す術があるまい? 手も足も出せまい? ほっほっ……!』

ヨルノズクの声は疲労困憊といった風に所々に肩息が混じっているが、それでも勝ち誇った風な語気に満ちている。
興奮したようなヨルノズクの言葉が夜空を飛び回り、やがて急速な勢いでジュカインへ迫っていく。
『はぁ、はぁ……わしは、暗殺者と呼ばれていた。
 わずかな光すら集めるこの目、そして羽音を一切立てぬ、この柔らかい翼……
 夜の森で獲物を逃したことは、わしには未だかつて一度も無いのだ!』
言葉が途切れた瞬間、またもジュカインの体に一閃が走った。
「ぐぅっ!」
ジュカインのわき腹が薄く切り裂かれ、鮮血がどくどくと漏れ始める。
傷みに顔を歪め俯くジュカインを嘲るように、再びヨルノズクの声が鳴り響く。
『ほほっ……正直同じ戦法とは言えども、わしは貴様よりもスピードは遅い。
 だが、貴様のその夜に適していない目で見切れる速さでもあるまい! 
 言っておくが、今のわしに油断は無いと思え。貴様は確実にここで朽ちるのだ! はぁ、はぁ……ハヒヒヒッ!!』
「……朽ちる……? ククッ……ケケケッ」
『?』
ジュカインは曰くありげな笑い声を上げながら、まだ俯いたまま独り言のように何か喋り始める。

「オレは生きている内の大半は、アイツのために費やしてきたんだ。
 親すらも知らず幼少時を虐待されて過ごしたオレに……アイツは初めて、温もりを与えてくれた……
 そんなアイツに、オレは……オレは……」

356:8/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/12 19:10:55
『? ……ほほっ、ボソボソ言ってちゃあ聞こえぬのォ! 
 命乞いは聞こえるように言わねば意味が無いぞっ……はぁ、はぁっはははは……ハハッ!!』

ヨルノズクの声の飛行が止まり、一点に留まる。どこかの木の枝に止まり羽休めをし出したのだろう。
ジュカインは、ふと呟くのをやめしばらく呼吸を整え出したと思うと、
不意に顔を上げ、ヨルノズクのいるであろう方向へ顔を向けニッと笑みを浮かべた。
「はぁ……はぁ……ククッ」
次の瞬間、ジュカインは笑みを浮かべたまま、姿の見えないヨルノズクへ向けて言葉を投げつけた。

「オレがここで朽ちるという事は、負けるという事は、アイツを守れないって事だ。
 そして、オレはいつだってアイツを守ってきたし、この後アイツに『償わなきゃいけない事』もある……
 だからオレは負けない……無様に負けんのはテメーの方だってことだよっ!! カハハハーッ!!」

そう叫ぶジュカインの目つきは、恐怖や諦めなどの念はまだ一片も感じられない挑戦的な目つきだった。

その言葉にヨルノズクもいささか動揺したのか、反応が返ってきたのはしばらくの沈黙を挟んでからのことだった。

『ほう……この期に及んで精神論か? だがそんな物では、勝つ可能性は1%たりとも上がらんぞ、ほっほ……』
「……確かにお前の言う通り、今は『精神論』や『根性論』なんかじゃあどうにもならない状況さ……
 だがなっ。オレはたった今、その戦法を破る方法を思いついた所だぜ」
『なに?』
ジュカインはまだ笑みを浮かべながら、己の尻尾へ手を伸ばしガサガサとまさぐり始める。
数秒後、ジュカインは尻尾から手を離す。離れたジュカインの手は、握りこぶしを形作っていた。
「見えるか、ヨルノズク? オレは『これ』を使って、お前のその戦法を破るぜ」
ジュカインは拳を握っている方の手を真っ直ぐ突き出し、ゆっくりと指を開いていく。
そうして晒された手の平の上には、幾つもの小さい植物の種が散らばっていた。

「この、『宿木の種』でっ!!  この『宿木の種』を使って、お前のその戦法を破ってやるよっ!! カハハハーッ!!」


つづく

357:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 19:15:02
乙ー(´・ω・b

358:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 19:19:30
意外と頑張るねヨルノズクさんw

359:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 20:29:13
GJ
宿り木の種で何をどうするんだろう?

360:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 23:27:38
この小説に足りないのは紅一点だと思うのだがどうだろう

361:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 23:33:26
男気が溢れておk
無理に登場する必要もないだろう

362:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 23:48:56
乙女チックなフライゴン君がいれば今は大丈夫だと思うよ。

さて、次回も>>1に期待しつつ就寝、と……。

363:名無しさん、君に決めた!
07/12/12 23:49:24
ユキメノコいたじゃん

364:名無しさん、君に決めた!
07/12/13 00:18:39
メノコはあんまタイプじゃ(ry

365:名無しさん、君に決めた!
07/12/13 00:37:39
そもそも、モンスターだもんね。

366:1/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:25:00
『それは植物の種……かの? そんなモノで何をするつもりだ?』

遥か遠くから響いてくるヨルノズクの声。
ジュカインはその問いを無言の笑みで返すとふと膝を折り、土を見つめだした。
そしておもむろに指を使い己の周りの土に浅い穴を開け、手の中の『宿木の種』をそこに植え始めたのだ。

『な……何をしているのだ……?』
何をしているか自体は見れば明らかだが、
今までの流れからのその行動のあまりの脈絡の無さに、思わずヨルノズクは疑問符を投げかけてしまう。
ジュカインは二度目の問いを受けるとまたもニッと笑みを浮かべる。
しかし今度はそれだけではなく、言葉も添えてヨルノズクへと返した。

「見て分からないか? 木を植えているんだ……」

言いながら、ジュカインは立ち上がる。ひとしきり種を自らの周りに植え終わった後のことだった。
当然のようなその答えに、ヨルノズクは徐々に苛立ちを募らせていく。
『その理由を聞いているのだ。まさか貴様、この期に及んでまだこのわしをおちょくっているつもりなのか!?』
怒りを押し殺したような震えた声で、ヨルノズクはそう叫ぶ。
その問いに対してジュカインは……『勿論さ』とでも言わんばかりに、満面の笑顔で返した。
 
『貴様っ!!』
およそ身の程をわきまえず挑発を続けるジュカインに対して、ヨルノズクの堪忍袋の緒が引きちぎられる。
ヨルノズクは羽休めを終え、木の間をスラロームしながらジュカイン目掛けて突っかけた。
「!」
ヨルノズクの飛来を感じ取り、ジュカインは避けようと身を捻る。
しかし目にも留まらぬ敵の攻撃を避けられるはずも無く、ジュカインの体はまたもヨルノズクによって薄く切り裂かれた。
うめき声を後に、ヨルノズクは勢いのままにジュカインの傍らを通り過ぎていく。
勢いの落ちた数十メートル先でヨルノズクはUターンをし、再びジュカイン目掛けて突っかけた。
『ほほっ、ジワジワいたぶってやるぞォ!! 今宵は貴様の苦しむ顔を肴に句三昧といくかのっ!! ……む?』

ヨルノズクは、ジュカインがその両の手にまた何かを持っているのに気がついた。

367:2/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:34:16
ジュカインが持っているのは、木の実ほどの大きさの黄色い種。それを両手いっぱいに持っている。
おそらく、先程まで彼自身の背中についていたものであろう。
……この戦法を破るために使うのか、それとも、また挑発を仕掛けるためだけに使うのか?
ヨルノズクの脳内にふと浮かぶ二択。彼が結論付けたのは後者だった。

『性懲りも無くまた無駄な挑発をするつもりかッ!!』
気にせずヨルノズクはジュカインに突っ込み、すれ違いざまに翼で肩の肉を抉り取る。
「ぐぁっ!!」
鋭い痛みに顔を歪め、呻き声を上げるジュカイン。
同時に、攻撃された反動からか、彼の手の中にあった複数の黄色い種が高く宙を舞った。
『ほほっ、早くも手放してしまったか……何に使おうとしていたかは分からぬが、残念だったのォッ……!』
首だけを後ろに向けジュカインの様子を見ながら、勝ち誇り皮肉めいた言葉を投げつけるヨルノズク。

……その皮肉めいた言葉を投げつけた瞬間、ヨルノズクはふとつい先程のことを思い出す。
勝ち誇り油断したことにより警戒心をなくし、不意を打たれ一撃を浴びてしまったことを。
そうだ、油断は禁物。警戒は常に怠ってはならない。

ヨルノズクは数十メートル先でUターンすると同時に、今度は真っ直ぐにジュカインを見据えながら勝ちを確信した言葉を投げつけた。

『もはや貴様に打つ手はないだろうが、これ以上遊んでいては足元を掬われかねん……次で終わりだッ!!』

ヨルノズクは嘴を真っ直ぐに突き出し、体自身を一本の槍のようにさせてジュカインへ突っ込んでいく。
狙いはジュカインの体の中心。言葉通り、次の一撃で終わらせる気なのだ。
「くっ……はぁ、はぁ……!」
ジュカインは未だ顔を痛みに歪めたまま、顔を上げ……
―全てを見透かしていたかのように、笑みを浮かべた。

「違うねッ! その『逆』だッ!!」

368:3/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:37:53
(全てが―)

ジュカインは両腕を、『リーフブレード』を、頭上で交差させる。

(筋書き通り―)

宙を舞っていた幾つもの黄色い種が全て切り裂かれ、
その中から漏れ出た淡黄色の液体が、ジュカイン及びその周辺にシャワーのように降り注いだ。
地面に落ちたその液体は、地中へじわじわと染み込んでいく。

『何をしている……!?』
ヨルノズクはその光景に多少の動揺を見せるが、それでもスピードを落とす事は無い。
もっとも、もはや容易にスピードを落とすことは出来ない程に体に勢いがついてしまっていたから、というのもあるが。
『さァ死ねッ!!』
最後の一撃が、音もなく急速なスピードでジュカインへ迫っていく。
常人の目では、間近まで来るまで反応も出来ぬ程の驚異的なスピードで―
 
ジュカインがその最後の一撃に体を反応させたのは、ヨルノズクがまさしく目の前まで迫ってきてからのことだった。
無論、迎え撃つことも避けることも出来るわけもなく……
そう、ジュカイン自身は、全く何もすることは出来なかったが……

ヨルノズクの最後の一撃はジュカインには届かず、彼の僅か手前でその動きを止めていた。 

「げ……げぼァァーーっ!?」

そして同時に、ヨルノズクの呻き声が森中に響き渡った。

369:名無しさん、君に決めた!
07/12/13 18:38:47
勝ったか?

370:4/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:41:14
「な……なぜだァッ!! この痛み……なぜ……『下』から……!?」
口から血を撒き散らしながら、驚愕の表情で己の体を見つめるヨルノズク。

細長く、先端が鋭く尖っている何本もの『棒』が、下からヨルノズクの体を貫いていた。

その『棒』は根元で幾つか枝分かれしており、そしてジュカインの周辺の地中から満遍なく……生えている。
ヨルノズクの脳内に、理解と同時に衝撃が走った。

「まさかこの棒は……ガボッ、『枝』ッ!? ということは、これは先ほど貴様が植えていた『宿木』かッ!? 」

「カッハハ、いかにも……だぜっ」
宿木の林の中心に立つジュカインは、少し苦しそうにしながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「バ、バカなァッ!! 木が……木が、一瞬でこれだけ成長するわけがァッ、ガボッ、ゲホォッ!! あるッ、あるワケッ、ボゲボゲボゲゲ」
ヨルノズクは今の事態に到底納得出来ず、口から血が漏れ出るのもまるでお構いなしに叫び続ける。
そしてジュカインは、『それが聞きたかった』とでも言う風に、声を弾ませながら応えた。
「ケケケッ、耄碌過ぎてる割に視野が狭いヤツめっ!! 見ての通り、有り得るんだよ。条件さえ揃えばなっ!!」

「これ以上ないという程に良質な、この森の土!!
 栄養を無尽蔵に吸収し、急激なスピードで成長する宿木の種!!
 そして、植物を成長させる栄養が超高密度に濃縮された、このオレの種!!
 この三つが揃えば、有り得るわけさ。この『宿木』の超急激な成長もなっ!!」

「まっ、本当はこの『宿木のバリケード』にお前が頭から突っ込んで引っかかってくれればいい、程度に思ってたが……
 こんなピッタリぶっ刺さってくれるとは、なかなかの悪運の持ち主だねヨルノズクさんっ! クケケッ」
「ぐ、ぐう~~~ぐうう~~~~!!」

371:5/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:44:30
「ぐっ……まだ、まだだ……!」
「!」
瞬間ヨルノズクの眉が青白く光ったと思うと、彼の体が徐々に浮き上がっていった。
己を貫いていた枝から体が離れるまで浮き上がると、眉の発光が収まり、糸が切れたように横なりに地面に落ちた。
「がはっ! げほっ、げほぉっ……」
体が地面に叩きつけられた衝撃で嗚咽を漏らし血を吐きながらも、ヨルノズクは強い目つきでジュカインを睨み付ける。
ジュカインは木の枝を掻き分け、倒れているヨルノズクの前に立った。
「カハハッ、いくらお前がタフとはいえ、そのダメージじゃもはや立ち上がるのも無理だぜ!」
ジュカインは文字通りヨルノズクを見下しながら、勝ちを確信した発言を繰り出した。
「ぐぅ……ぐぅ~~~」
顔をしわくちゃに歪め、隙間風のような唸り声を上げるヨルノズク。
彼の脳内には、痛みと屈辱と焦りがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

(バカな……バカなっ!! このわしが、こんなヤツに、こんなァ……!!
 ちくしょう、句をっ、句をっ……! もっと句がっ、もっと句があれば……
 なぜだっ、句がっ、句が思い浮かばぬゥ~~~~句がっ、句がっ、句句句句句句句)

「そういえば、お前……句を作るのが好きだったっけか?」
ふと、ヨルノズクのぐちゃぐちゃの思考の中に、ジュカインの声が割り込んでくる。
「な……なに?」
一瞬呆けた顔を浮かべるヨルノズクに、ジュカインは不敵な笑みで返すと同時にこう言った。

「作ってみせろよ。『辞世の句』とやらをよ……ククッ」

なおも相手の怒りと屈辱を煽るようなジュカインの発言。 
「ぐぅ……ぐうぅ~~~~~ッ!!(だからその『句』が思い浮かばねェんだよクソがァ~~~~~ッ!!)」
ヨルノズクはこれ以上ないという程に顔に皺を寄せ、獣のような唸り声を一層強めた。

372:6/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:48:02
「いやァ……作れるわけがないかっ」
ジュカインがふと、呟くようにそう漏らす。
一つ小さいため息をはさんでから、彼は嘲笑を交えた口調でヨルノズクへ向けてこう言った。
「相手の苦しむ顔を見るとか……絶望する顔を見るとか……
 『そんなモノ』に頼らなきゃロクな句を作れない、いや、作ろうともしないようなお前が、
 こんな土壇場で句なんか作れるわきゃないよな……カハハッ」
ヨルノズクは大きく目を見開いた。
「き、きさ……きさ……!!」
自分自身認めようとしていなかった己の本質を見透かされた発言。
それはヨルノズクにとって、今までのどの挑発よりも屈辱的であった事は彼の表情と口調からも歴然である。
そしてそれをジュカインは察し、更にダメ押しの如くこう言い放った。 
「ジャジャ~ン、これぞまさに予感的中っ! カハハハッ!」
「……!」
勝ちを確信した余裕なのか、これまでに受けた傷や危機の仕返しとばかりに、
ジュカインは重ね重ね相手を虚仮にし、相手の怒りと屈辱を煽る発言を繰り返していく。
そして、遂にヨルノズクの怒りは頂点を迎え、全身の痛みすらも超越するに至った。
「貴様……ガボッ、貴様ァ……殺すっ、殺すッ!!」
ヨルノズクが、全身の傷口から血を漏れ出させよろめきながらも、立ち上がったのだ。
それにはさすがのジュカインも驚き、表情を引き締め構えを取る。
ヨルノズクの赤く光る眼ははっきりとジュカインを捕らえ、そして一層強く光りだした。
 
「ぶち殺す……殺してやるぞっ、このクサレがァーーッ!!!」

ヨルノズクは、血でガラガラの喉を震わせ怒号を上げながら、最後の力を振り絞りジュカイン目掛けて突っかけた。
しかしそのスピードは、ダメージのためか先程と比べると遥かに遅く……
……次の瞬間にはジュカインのリーフブレードに切り裂かれ、悲鳴と共に床に突っ伏していた。

「残念、字余りっ」

倒れたヨルノズクへ向けて吐き捨てるようにそう呟き、舌を出すジュカイン。
如何にタフなヨルノズクと言えど、もはや立ち上がることはなかった。

373:7/7  ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:50:34
「はぁ、はぁ……」
細かく肩息をつきながら、ジュカインは倒れたヨルノズクを見下ろす。
もはや立ち上がらないことを確認すると、細かい肩息は大きい一つのため息と変わり、
それと同時に勢いよく地面に座り込んだ。

「はぁーっ! 危なかったぜ……やられるかとも思ったが……」
ジュカインはヨルノズクと対峙していた時にはおくびも出さなかった弱気な発言をしながら、
目を横にやり、倒れ込みピクリとも動かないヨルノズクを覗き込んだ。
「みんなが起きてこれ見たら、ビックリするな……森の奥にでも埋めてくっかな。ケケケッ……」
満足げではあるがどこか力ない笑い声を上げながらジュカインは立ち上がり、
そのまま先程ヨルノズクが捕らえようとしていた人間の少年の元へ歩み寄っていった。
「……」
少年の寝ている網の前に立つジュカイン。
ジュカインは少年の顔へ手を伸ばし、眉の下ほどまで伸びている彼の前髪をかき上げ、その寝顔を覗き見た。
少年の寝顔は、ヨルノズクの夢食いの支配から逃れたにも関わらず、依然として苦渋に満ちている。

「……『コウイチ』……」

淋しげな目つきで少年の寝顔を見つめながら、その少年の名を呟くジュカイン。
ジュカインはそのまましばらくコウイチの顔をじっと見つめ続けていたと思うと、ふと空を見上げた。
枝葉の隙間から覗く空は、未だに深いねずみ色に染まっている。
「こりゃあもう一眠り、だな……」
ジュカインはため息混じりにそう呟き、再び視線をコウイチの顔へと戻した。
次第にジュカインの淋しげな目つきは、ある種の何かの決意の色に染まっていく。
「大丈夫だぞ、コウイチ。明日の朝、オレは必ずお前に精一杯の謝罪をし、そしてお前の元に戻るっ。
 そうさ、何事もなかったかのように……『何事もなかったかのように』……ごめん、ごめんな、コウイチっ」
拳を握り締め、己にも言い聞かせるようにジュカインは言葉を震わせそう呟く。
早く目の前の少年を苦しみから解放させてやりたいのに、彼が目覚めるまでは有り余るほどの時間がある。
胸の内がもどかしく、歯がゆい。それを誤魔化すように、ジュカインはひたすら呟き続けた。
「必ず……必ずだっ」
 
「『必ず』……」

374: ◆8z/U87HgHc
07/12/13 18:54:11
ジュカイン対ヨルノズクに時間かけすぎたかも……
次回は、二日後のいつもの時間からです。ではでは。

375:名無しさん、君に決めた!
07/12/13 20:41:51
面白くなってきたな
乙です

376:名無しさん、君に決めた!
07/12/13 22:13:54
ジュカインの背中のアレを利用するとは…

377:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 00:13:16

ついでに落ちてきたからいっちょ上げとくわ

378:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 00:30:33
>>377が上げたせいで俺が来ました

379:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 00:32:07
いらっしゃい

380:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 08:00:48
>>373
まさかジュカインの死亡フラグ?

381:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 08:05:32
何かまだ一波乱ありそうな含み持たせてるな

382:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 15:59:26
だれか絵を描く人とかいないんかな

383:名無しさん、君に決めた!
07/12/14 23:25:29
GJ!
次回からやっとコウイチくん視点に戻るかな?

384:名無しさん、君に決めた!
07/12/15 11:04:33
まあ絵はイメージを固定化するからな
作者のイメージを絵にできるのは基本作者だけ

385:名無しさん、君に決めた!
07/12/15 12:29:46
これの場合は主人公くん以外はポケモンだし、場面を再現して描くくらいなら何とか……

386:名無しさん、君に決めた!
07/12/15 16:30:28
とりあえず、>>1の一番好きなポケモンは確実にフライゴン
で、一番嫌いなポケモンはハスブレロ。
どうだ、正解だろう。

387:名無しさん、君に決めた!
07/12/15 18:05:58
いや、意外に逆かもしれん
でもドラゴンタイプはそれなりに好きなのかもな
特別嫌いってこともないだろうし…自分で使う分には

388:名無しさん、君に決めた!
07/12/15 23:00:47
というか、本気で嫌いだったら自分の作品に出したりしないだろうな。

389: ◆8z/U87HgHc
07/12/16 19:32:26
予定外の用事が入って今日は投下出来なくなりました。
明日投下しますね。ゴメンナサイ……

>>386
ハスブレロは別に嫌いじゃあないですけど、
フライゴンが一番好きってのは合ってますよ。大好きです。
他にはガーメイルとかオニゴーリとか、微妙にマイナーなポケモンが好きですかね。



390:名無しさん、君に決めた!
07/12/16 20:58:25
頑張れ

391:1/13  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 19:38:44
葉擦れの音と小鳥のさえずりにつられ、ぼくは無意識のままうっすらと目を開けた。 

まずぼくの視界に漠然と入ってきた物は、空を塗りつぶしている新緑色のまだら模様と、
それに幾つもの亀裂を入れている木々。そして、それらの隙間から漏れる暖かい木漏れ日だった。

「ん……んふ……ふぁ?」

一テンポ遅れて、ようやくぼくは眠りから覚めたことを理解する。
何だか、とても長い間別の次元に飛んでいたような、そんな感覚がする。
まだ何か靄がかかったかのように薄ぼんやりとした意識の中、
とりあえずうっとうしく目を射し続ける木漏れ日から逃れるように、ぼくは薄目を開けたまま寝返りをうった。
そこには、木と木の間に張られた網のベッドと、そこに横たわる緑色の生き物……フライゴンの寝顔が見える。
「……ふらいごん……」
ゼリーのドームのような二つの赤い膜。その中にある目は、うっとりと閉じられている。
こちらに向けられている赤ちゃんのように小さな口は、微かに聞こえる吐息の音と同じタイミングで開いたり閉じたりを繰り返している。
いとおしいぼくの、ぼくだけのフライゴンの寝顔だア……

……なぜだろう。全く和む気になれないのは。

大自然の真っ只中で穏やかに迎える早朝。隣には自分のポケモンの可愛い寝顔。
なぜだろう。こんな……おそらく誰もが羨むような贅沢な状況で、『全く晴々とした気分になれない』のは。 
 
そうだ。目覚めてからずっとぼくの胸の内に、ずしりと『黒く重いもの』が渦巻いているからだ。
ある種の絶望?とでも呼んでいいのかもしれない。
ゆっくりと、頭を覆う靄が晴れていく。そしてそれにつれ、胸のうちの黒く重いものは何か、ぼくは思い出していく。
……そうだ、思い出したぞ、この『黒くて重いもの』は何か。そして、全く晴々とした気持ちになれないこの奇妙な朝の正体は何なのか、分かったぞ。

『別れの朝』だ。

392:2/13  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 19:41:30
「ん……ふあぁぁぁ~~~!! よく寝たぁぁ~~~~!!」
「森よ、今日も晴れやかな朝を頂き感謝します……」
「今日はよく寝たなぁ! ほんっとよく寝たっ! ほんっと、ほんっとよく寝たねマジで!」

やがて辺りから。キモリたち森の住民達のざわめきが聞こえてきた。みんなも目を覚まし始めたんだ。
そんな中、ぼくは構わず目を開け寝転がったままでいる。
こんな美しい自然の中に目覚めて、起き上がって大欠伸の一つもする気になれない子供なんて多分ぼくくらいの物だろう。

「人間様、朝ですぞ」
老人と中年のちょうど真ん中くらいの声……族長さんの声が背後から聞こえる。族長さんがぼくを起こしに来たんだ。
ぼくはその体勢のままころりと寝返りを打ち、族長さんの方を向く。
「……もう、起きてますよっ」
言葉と同時に手をつき上体を起こし、少し笑みを浮かべる。
「お、おお、失礼したな」
族長さんはそう言いながら、まるで一つ罪でも犯したかのように狼狽したような表情を浮かべる。
……ぼくに気を使っているのが目に見えて分かる。『機嫌を損ねると何をされるか分からない』とでも思っているんだろうか?
地面に足をつき立ち上がり、怒っているような印象を与えないようあくまで笑顔は崩さず、ぼくは族長さんへこう言った。

「お心遣い感謝します……だけど、『もう』その必要はありませんよ、族長さん」

「え?」
呆けたような声を上げる族長さん。
「一晩も立てば、さすがに気持ちの整理もつきますよ。
 これ以上ぼくがここにいる理由もないし、いていい理由もありません……そうでしょ?」
ぼくは一度だけため息をつき、族長さんの顔を軽く見据えながらこう言った。

「一晩泊めていただいて本当にありがとうございました。ぼくはもうこの森を出ます」

393:名無しさん、君に決めた!
07/12/17 19:42:29
ktkr

394:3/13  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 19:44:43
「なっ」
まるで恐れていた事が起きたかのように、族長さんは目を見開きおろおろと唇を震わせる。
……ジュカインの件について、族長さんは自分自身に負い目を持っているつもりでいるんだろう。
でも、結果的にこうなってしまったのはいわば運命のいたずらのようなもの。族長さんが負い目をもつ必要がどこにあるだろうか。

「族長さん……何も気にする必要は無いですよ。あなたは何も悪くないんだから」
再び笑顔を作り族長さんをなだめる様にそう言うと、族長さんは眉尻を下げ、
ぼくの言ったことを全く無視して、罪悪感に満ちた声で、こう答えた。
「……すまぬ。わしにはどうする事も出来なかったのだ……」
「……!!」
……まだ罪悪感が抜け切れていないような族長さんの態度に、腹が立ってくる。
あなたがどう負い目に持とうが、何も変わらないっていうのに。
あなた自身は何の損もないどころか、得してばっかの癖に。
族長さんは、自分は何ともないという余裕を持て余してぼくを憐れんでいるんだ。
ある意味、ぼくは族長さんに『見下されている』んだ。
ぼくは気がつけば笑顔が消えていた。

『だから……言ったでしょ。族長さんは何も気にする必要はないって。
 そうやって変に負い目に持たれるとね……後味が悪くって、胸クソ悪くって、ホント困るんですよねっ!』

……ふと、そんな言葉が咄嗟に喉から出掛かるが、ぼくは何とかそれを喉の内にとどめる。
……ぼくは何を怒っているんだ。
怒って八つ当たりなんて、浅ましくて、みっともない。ぼくは軽い自己嫌悪に陥った。

395:4/13  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 19:48:50
「ふああ~~あぁぁ……朝だぁァ~~……」
ふと、間延びしたフライゴンの声が聞こえてくる。フライゴンが目を覚ましたんだ。
ぼくはフライゴンの方へ視線を移し、歩み寄り声をかけた。
「おはよう、フライゴン」
「ふにゃ……んあ、おはようございまぁ~~す……」
まだ半分眠りについているかのような、ボケた返事の仕方だ。
フライゴンはそのまましばらく、むにゃむにゃとまどろんだ顔のままホケーっとぼくを見つめていたが、
いきなり目が覚めたかのように目を見開くと、声を荒げてぼくに突っかかって来た、
「コ、コウイチくん!! きょっ、今日はそのっ、あのっ、ジュカインのっ、そのォっ……!」
フライゴンは寝起きで頭が上手く回らないのか、しどろもどろになっている。
……何を言いたいかは大体察しがつく。ぼくはゆっくりと答えた。
「ジュカインの事はもう諦めることに決めたよ。さぁ、森を出ようかフライゴン」
「えっ」
フライゴンの顔が一瞬固まる―が、すぐにハッと目を見開き、大声でぼくに突っかかってきた。
「ちょちょっ、ちょっと待ってくださいよォっ!! 昨日の晩……まだ諦めないって言ってませんでしたっ!?」
確かに言った。言ったけれど……
ぼくは下を向き、そのままフライゴンに向けて言う。
「昨日は昨日、一晩たって考えが変わったのさ
 ぼくがこのまま執着していたら、ジュカインは迷惑だろうし、それに……
 ジュカインから非難されるのが辛いんだ。彼に記憶が無いことは分かっていても、
 あの声とあの姿で非難されるのは……辛いんだ」
「ええっ、そんな……」
昨晩、寝る直前の時のぼくは何かおかしかったんだ。
衝撃ばかりで頭が対応できなくて、自分のことしか考えられなかった。
でも、一晩経った今は違う。人間は寝てる間に頭の中が整理されるっていうしね。
今のぼくは冷静だ。辛いことだって……冷静に受け止められる。

「……ん……」
フライゴンは、少し悲しそうに俯く。
ぼくは、慰めるようにフライゴンの緑色の頭をゆっくりと撫でてあげた。

……ふと顔を上げると、ぼくの視線の先に彼が……ジュカインがいた。

396:5/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 19:51:31
「おい、ちょっと待ってくれっ」
ジュカインは何故だか少し焦ったような顔つきで、ぼく達の元へ駆け寄ってくる。
そして、全く予想外な言葉をぼくに投げかけてきた。

「お前ら、帰るのか? この森から出るのか?」

「……?」
思わず、ぼくはキョトンと顔を困惑に呆けさせてしまう。
……何のつもりだろう? 
『このジュカイン』はこの期に及んで、何を言いたいっていうのか。

またぼくを、虚仮にするつもりなんだろうか……?

ぼくはジュカインの顔を見据えながら、静かにこう言った。

「……ねぇ、森から出ろって言ったのは誰……? きみでしょ……?
 今さら何のつもりかなぁ……また、ぼく達を虚仮にするつもり……?」

……図らずも、冷静な口調の中に若干苛立ちや怒りが入り混じってしまう。
「…………!」
ジュカインは何故だかそのぼくの発言に、唇を結び黙りこくってしまう。
……まるでショックを受けているよう……だけど、どうせぼくの気のせいだ。


397:名無しさん、君に決めた!
07/12/17 19:53:00
コウイチくんが何か荒みかけてきてる…

398:6/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 19:56:47
「オ、オレは……」
それだけ言うと、ジュカインは何か言いたげに口元をモゴモゴさせながら俯いてしまう。
昨晩の威勢がまるで感じられない。まさに一晩の内に別人になってしまったかのように……
……別人?

―まさかっ

ある一つの推測が浮かぶと同時に、鼓動が波打ち、景色が変わったかのような錯覚を覚える。

この一晩に何かがあって……ジュカインの記憶が戻ったっ……?

そこまで都合のいい事があるものか―とは思っても、ジュカインのこの態度の急変には期待せずにはいられない。
……そうだ。もしかしたら……もしかしたらだ……!
風の音がよく聞こえる。期待感の入り混じった緊張感が、ぼくの胸のうちに充満し始める。

……沈黙。何とも言い難い、『妙な沈黙』。『変な沈黙』。
……何だ、この沈黙は? なんで黙っている。なんで何も喋ろうとしないんだよ、ジュカイン……!

数分後苛付くような沈黙を経て、ようやくジュカインが顔を上げた。
……次の瞬間ジュカインがぼくに言った言葉で、ぼくの期待は粉みじんに打ち砕かれた。 


「……じゃあな、コウイチ」



399:7/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:01:34
「!?」

ジュカインのその一言を聞いた時、ぼくは『耳を疑った』。
理解は遅れてやってきて、その瞬間先ほどまであった胸の内の期待感は一瞬にして虚無感へと変わった。
音が、匂いが、その瞬間だけぼくだけから消え去る。
時が止まったかのような沈黙が、ぼくだけを包み込んだ。

……この感情……これは、ただ『期待を裏切られたから』……だけではない。
こんな結果……『考えてもいなかった』。

『コウイチ』。 
ジュカインはぼくのことをそう呼んだ。ぼくを名前で呼んだんだ。
……昨晩、ぼくは一度も『自分の名前をジュカインに教えてない』……
そう、ぼくの名前を『このジュカイン』は『知らないはず』なのに……ぼくの名前を呼んだっ!!
そして『そのうえで』っ! そのうえで……ジュカインは『じゃあな』とっ!! 『じゃあな』と言ったっ!!

崖っぷちに立たされていた気分が、いまや崖の下に思い切り突き落とされた気分だ。
これ以上ないというぐらいに、思いっきり……

「……くくくっ、はは、あははは」
ある意味スガスガしい気分に、ぼくは思わず乾いた笑い声を上げてしまう。
何て馬鹿だったんだ、ぼくは。
……『記憶喪失』? 『記憶が戻れば』?
昨晩ぼくが喋った言葉の一つ一つ、考えた事柄の一つ一つ、全てが『恥』に変わる。

まるで『ピエロ』じゃないか、これじゃあ。ぼくは、『自惚れもいいとこ』なピエロだったんじゃないか。

木々が、ぼくを見下している。微かに漏れる木漏れ日が、嘲るようにぼくを照らし続けている。
頭が麻痺してゆく。何だか、もうこの件については何もかもがどうでもよくなってきた。

……ふと、フライゴンがぼくの肩を叩き呼び止めた。

400:8/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:05:09
「あのっ、コウイチくん……ボク、その、トイレに行きたいんですけど……ちょっと、いいですか?」
「へ?」

フライゴンの少々間抜けな発言に、思わずぼくはつい呆けた声を上げてしまう。
「ああ、うん……いいけど……でも、する場所とかは、ちゃんと族長さんに聞いてから行ってね」
「はい、ありがとうございます」
平静を取り戻し返事を返すと、フライゴンはぼくにそう一礼しからすぐ近くの族長さんの元へ駆け寄っていった。
「あのう、ここってトイレしていい場所ありますかねー、族長さん……」
「ああ、あるが……ここからは少し遠い場所だから、わしが案内するぞ」
「案内……あ、いや、別にいいですよー、族長さんは案内してくれなくても……」
族長さんは、フライゴンのその一言に疑問めいた表情を浮かべた。
「ん? でも、案内しないと場所分からないだろう。そこら辺にされちゃあ困るぞっ」
「あいや、そういう意味じゃなくてですねー……」
フライゴンはどこか曰くありげに目を細めニッと笑みを浮かべると、不意にジュカインの方を指差し元気にこう言った。

「ジュカインが案内してくれるらしいですからっ!」

「え、オレ?」
「そう、お前っ」
フライゴンはニコ~っと芝居めいた笑みを浮かべながらジュカインに近づき、その腕をギュッと掴む。
「ま、待てよォ、オレ案内するなんて言った覚えないぞ!」
「るっさいなー、そんな細かいこと気にしないで、さぁ行くよ!!」
「おい、ちょ……」
半ば強引に、フライゴンはジュカインの腕を引っ張って森の奥へ消えてしまった。
ぼくも、族長さん達も、唖然とした表情のまま固まってしまう。

……トイレなんて、嘘だろう。フライゴンは、ジュカインと二人きりで何かを話すために、遠くに離れたんだ。
それで、何を話すつもりだって言うんだろう? 何を言っても、恐らく無駄だというのに。

そう、『記憶』なんてそもそも関係なかったのだから。そう、ジュカインは『はじめから』……『はじめから』……

401:9/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:07:48
「おい、何なんだよォ!!」
 
フライゴンは、まだジュカインの腕を引っ張り森の奥へと突き進んでいた。
やがて他の者の姿も見えなくなり、声も聞こえなくなる。
フライゴンはそれを確認するとジュカインの腕を離し、真剣な顔つきで向き合った。
「な、なんだよ……」
フライゴンの表情の真剣さに、ジュカインは声を吃らせる。
フライゴンは数秒ジュカインを見つめた後、責め立てるような口調でこう言った。

「おまえ、記憶戻っているんだろっ!?」

「えっ」
ジュカインの表情が真顔のまま凍りついた。
「お前、さっき言ったよね……『じゃあな、コウイチ』って! コウイチくんの名前を、お前は呼んだんだ!
 ボク達は、その名前をお前の近くでは一切口にしていない! 
 お前は、『コウイチ』という名前を知らないはずなのに、知っていた!」
 ……記憶が戻っているんだろう、正直に言え!」
「うっ……」
ジュカインは見透かされたような言葉に動揺し、しばらく表情を固まらせ押し黙っていたが、
躊躇う様子はあまり見せず、むしろ何処か期待していたかのような調子でこう答えた。

「そうさ、記憶は……戻ったよ」

402:9/14ちょっち修正  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:09:18
――

「おい、何なんだよォ!!」
 
フライゴンは、まだジュカインの腕を引っ張り森の奥へと突き進んでいた。
やがて他の者の姿も見えなくなり、声も聞こえなくなる。
フライゴンはそれを確認するとジュカインの腕を離し、真剣な顔つきで向き合った。
「な、なんだよ……」
フライゴンの表情の真剣さに、ジュカインは声を吃らせる。
フライゴンは数秒ジュカインを見つめた後、責め立てるような口調でこう言った。

「おまえ、記憶戻っているんだろっ!?」

「えっ」
ジュカインの表情が真顔のまま凍りついた。
「お前、さっき言ったよね……『じゃあな、コウイチ』って! コウイチくんの名前を、お前は呼んだんだ!
 ボク達は、その名前をお前の近くでは一切口にしていない! 
 お前は、『コウイチ』という名前を知らないはずなのに、知っていた!
 ……記憶が戻っているんだろう、正直に言え!」
「うっ……」
ジュカインは見透かされたような言葉に動揺し、しばらく表情を固まらせ押し黙っていたが、
躊躇う様子はあまり見せず、むしろ何処か期待していたかのような調子でこう答えた。

「そうさ、記憶は……戻ったよ」

403:10/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:11:33
「やっぱり……!」
フライゴンの顔つきが、一気に引き締まる。
しかしそうかと思えば急に淋しげな表情へと変わり、ふと俯いてしまった。
フライゴンはそのまま上目遣い気味にジュカインを見つめて、静かにこう言った。

「……じゃあさ、何でコウイチくんに『じゃあな』なんて言ったのさ?」

「…………」
ジュカインは返答を躊躇い、目を伏せたまま動かない。
そのジュカインの態度に、フライゴンはもどかしげな表情を強めていく。
「ねえってば、答えてよジュカイン。どうして記憶が戻ったってのに、コウイチくんを突き放したんだよ。
 記憶が戻ったってんならそれをコウイチくんに報告してさ、そのままボク達の元にもどればいい話じゃあないか!」
「……言えなかったんだよ」
ふと、ジュカインが俯いたままボソリとそう呟いた。
「え?」
 
「俺だって最初は……今朝まではそうしようと思っていたさ。
 だが、そんなんで簡単に『溝』が埋められるわけがない……
 さっきコウイチと話した時、ひしひしと感じたんだ。オレがアイツにつけてしまった心の傷の深さ……!」

拳を強く握り締め、怒りを多分に含ませた口調で、ジュカインは独り言のように小声でそう喋り続ける。
その怒りは、自分自身……ジュカイン自身のみに向けられているものだった。
 

「そう、記憶は戻った。だが、断じて記憶が『入れ替わった』ってわけじゃない……
 オレがコウイチに吐いた暴言の数々、それを受けたコウイチの反応、表情、全てオレは鮮明に覚えちまっているんだ……!」

404:11/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:13:44
「……だからこそ、思うんだ。
 オレはこのまま『何事もなかったかのように』コウイチの元に戻っていいのか?
 全てを謝罪し戻ったとして、コウイチは今までのようにオレに接してくれるのか? 
 今までのようにオレに対して『馴れ馴れしくしてくれるのか』? ……ってな」

フライゴンは真面目な顔でその独白を聞き続けていたが、
最後の一節を聞くと同時に、疑問めいた表情を浮かべた。
「お……お前、馴れ馴れしくされるのは嫌いなんじゃあないのか?」
まだ目を伏せたままのジュカインに向かって咄嗟にフライゴンがそう問うと、
ジュカインは顔を上げ、少しだけ目を逸らしてこう答えた。
「……違う……その、逆だ。」
「え?」
「…………」

照れくささからかジュカインはその事はそれ以上は説明せず、話を続けた。
「……とにかく、そういう事さ。こんなオレが戻っても、雰囲気が悪くなるだけだろう?
 だから……そう、『お前らのためにも』オレは戻るわけにはいかねーんだ……」
そこまで言うとジュカインは再び俯き、感情を押し殺すように歯を食いしばりだした。
数秒のみの沈黙の後に、ふとフライゴンが静かな口調でこう言った。

「ジュカインってば、いっつも強がってるくせに……本当はこんなデリケートさんなんだね。
 でもサ、正直おまえ気にしすぎというか……何かちょっと間違ってると思うんだけど?」

405:12/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:16:38
「なに?」
顔を上げ、フライゴンを見やるジュカイン。
フライゴンはどこか呆れた風なため息をつきながら、諭すように言う。

「お前がコウイチくんの元に戻るか、戻らないか。どっちがよりコウイチくんにとって辛いか……分からないかなあ?
 興奮してないで冷静に考えてみなって。コウイチくんにとって、お前自身にとって、何がベストなのかを」

言い終えてから、フライゴンはジュカインの目をじっと見つめだした。
どこか責め立てるような眼差しから逃げるように、ジュカインは再び目を逸らす。
「……ふう」
フライゴンは一度浅くため息をつくと、おどけるように両手を軽く上げながら、冗談めいた口調で喋り始めた。
「じゃあさ、コウイチくんと一緒にいた時期が一番多くて、一番コウイチくんの事を分かっているこのボクの……
 ……もしかしたら一心同体~っ!? ってなくらいコウイチくんを理解していますなこのボクの意見を言わせてもらうとだね……」
フライゴンはそこまで言い終えると、上げていた両手をジュカインの肩にやり、
一転して真顔で相手を真っ直ぐに見据えながら、感情を色濃く込めた強い語調でこう言った。

「ジュカインが戻ってこない方が、よっぽどヤダよっ。戻ってきて欲しいよっ」

「……!!」

フライゴンはそのまま、しばらく真顔で相手を見つめ続けていたが、
ふと鼻で笑うと共に表情を崩し、雰囲気を緩和するように、ことさら抑揚を激しくさせて喋り始めた。
「ってかさー、どっちにせよ最低限コウイチくんとボクへの謝罪くらいはするべきでしょォーよ。
 土下座くらいはしてくれなきゃさー。そう、『土下座穴掘り』くらいは……なぁーんちゃってネ、それは冗談っ」
フライゴンは軽く笑いかけてジュカインの肩を二、三度ポンポンと叩いた後、くるりと身を翻した。
「んじゃー、もうそろそろ10分くらい経つし……ボクは戻るとするかな。
 ……お前はどうするの? ……戻ってきてくれるよね。信じているよ、ボクは」
言葉と同時に、元来た道を沿ってフライゴンは歩き出した。
そしてそのまま後ろ姿が見えなくなるまで、彼がジュカインの方を振り返る事はなかった。

406:13/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:20:00
……
オレは……
今まで、コウイチや仲間達にどれだけの幸せを与えてもらっただろう。
どれだけ慰めてもらっただろう。どれだけ心を癒してもらっただろう。
……溢れるほどの感謝の気持ちを、なぜオレは腹の中に蓄え続けていたんだろう?
出さずに蓄えていたこの感謝の気持ちを、一片でもオレはコウイチに伝えてあげたことがあるか……?

……いや、ない。

言葉の壁という、越えられない壁もあった。が、それ以上に……
身の程以上のプライドが、いつだってそれを邪魔していた。
自分自身嫌気が差すくらい、オレは素直じゃあないんだ。
……そうだ。今、オレを邪魔しているのは、まさしくそのごくごく下らない感情だけだ。

さきほど、オレはフライゴンにこう言った。
『お前らのためにもオレはついていくわけにはいかない』と。
自分の心根を曝け出したつもりだったが、いま冷静に考えてみればまるでバカバカしい『建前』に過ぎなかった。
あの『お前らのためにも』という言葉は……『自分自身のための言い訳』に過ぎなかったのだ。

本当は『謝罪や感謝をするなんて恥ずかしい、プライドが許さない』と考えていただけだっていうのに、それを自覚しようともせず……
オレは『お前らのためにもついていくわけにはいかない』と言ってしまっていたのだ。
『コウイチへの感謝の気持ちは、そのコウイチのためにも溜め込んでおくべき』と考えてしまっていたのだ。
いわくプライドのためだけに、後々その自分自身まで後悔するであろう事も全くおかまいなしに、己をも騙していたのだ。

『感謝』……その感謝している相手の『ため』にも……? 感謝は伝えず溜め込んでおく『べき』……?
バカがっ……! バカかオレは……考えれば考えるほど、ありえねぇじゃねえか……
そうだよ。いくら感謝してようが……いや、感謝していると『思って』ようが…… 
伝えなけりゃっ……伝わらなけりゃ……一切感謝していないのと同義じゃあねえか、オレっ……!

407:名無しさん、君に決めた!
07/12/17 20:20:02
1頑張って~
フライゴン可愛いぜw

408:14/14  ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:27:29
記憶がなくなったときのことを謝罪し、そして、感謝の気持ちを伝えるんだ。
オレが、どれだけコウイチに色々な物を与えてもらったか、それでオレがどれだけコウイチに感謝しているか。
無駄なプライドのせいでもどかしいくらいに伝えられなかったオレの心根を全て伝え、そしてコウイチ達の元へ戻るんだ。
 
そうしなければ、オレはこの後『必ず』後悔することになる。
例え時間が経ち収まったとしても、持病の如く定期的に再発しオレを苦しめ続けるであろう、最悪の『後悔』が。

感謝の気持ちを伝えるのに必要なのは、その最悪の後悔に微塵も満たぬほどの『一時的な後悔』……つまりは、『勇気』のみだ。
……『コウイチにとって』、そして『自分自身にとっても』……どちらがベストかは、冷静に考えてみれば明白だ。
 
そうだよ、考えるまでもなく、オレがどうすればいいかは決まっているじゃあねぇか!
幸い、まだ間に合うはずだ。まだ、手遅れじゃあないはずだ。
記憶がなくなっていた時のオレの無礼を謝り、そして伝えるんだ。
オレがどれだけコウイチに対して感謝しているかを……そう、今まで溜め込んでいたものを、全て伝えるんだっ!
……もちろんさっき散々考えたように、プライドというかオレのイメージは丸くずれになるし、
どんな反応が返ってくるかも、分からない。もしかしたら、冷たい反応を返されるかもしれない。
でも、ちょいと注射を刺されるようなものさ。一時的なことだ、何も問題はない。
注射刺されるのがイヤなんてサ、ガキの考えることだろォ? オレはリッパな大人だぜっ!
……
……怖い。

……バカ、この程度のことで怖がるなよオレっ! それこそ、プライド丸つぶれだぜ。

……
……
……

……時間が、経っていく。

409:名無しさん、君に決めた!
07/12/17 20:43:51
「土下座穴掘り」という言葉がまた出てくるとは思わなかったw
つかジュカイン、ど、どうなるんだ?
……期待してる

410: ◆8z/U87HgHc
07/12/17 20:46:04
あと二、三回で第二話は終わると思います。
では、次は明後日辺りに…

411:名無しさん、君に決めた!
07/12/17 20:47:21
>>410
把握した
カンガレ

412:名無しさん、君に決めた!
07/12/17 23:07:34
乙ー
見事に最初と立場が逆転したな。

413:名無しさん、君に決めた!
07/12/18 15:01:32
>>409
何だかんだあってジュカインは死ぬと予そ(ry

414:名無しさん、君に決めた!
07/12/18 23:42:32
ここって勝手に展開予想して書くのとかおk?

415:名無しさん、君に決めた!
07/12/18 23:44:02
>>414
そこは自重でしょ
作者が書き辛くなるだろうし

416:名無しさん、君に決めた!
07/12/18 23:48:53
そうかなー。スマソ

417:1/6  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 18:34:03
――

「遅いなあ……」
思わず、ぼくはそう呟いてしまう。
フライゴンとジュカインがトイレへ行ってからもう『二十分以上』は経ってるっていうのに、二匹とも一向に戻ってこない。
いくら何でも普通に用を足すのに、ここまで時間がかかるわけがない。
ジュカインと話し込んでいるのだろうか? 喧嘩とかしてなけりゃいいけれど……
「……しかし、本当に遅いな。わしらが見に行こうか、人間様?」
族長さんも待ちかねたのか、ぼくにそう提案する。
迷わずお願いしようとした、その瞬間。

「コウイチくん!!」

不意に、辺りにフライゴンの声が響き渡った。
ぼくは皆の視線と共に、声の響き渡った方向へ視線を走らせた。
そこには、フライゴンがいた。……フライゴン『だけ』が、いた。

「お……お待たせしてすいません……えへへっ」
フライゴンはすまなそうに照れ笑いを浮かべながら、ぽてぽてとこちらへ歩み寄ってくる。
ぼくはすかさず、いま芽生えたばかりの疑問をフライゴンへ投げかけた。
「ねぇ、フライゴン……ジュカインは……?」
「へっ、あー、ジュカインですか?」
フライゴンはその質問を聞くと、何故だかうろたえるように目を泳がせた。
「ジュ、ジュカインはですねー、まだトイレが長引くそうでしてっ!
 で、でも、すぐに戻ってきますよ。ええ、すぐに……すぐに戻ってきますともっ!」
目を泳がせたまま、妙に早口でそう答えるフライゴン。
……何か隠しているのがバレバレだ。
たぶんジュカインと何かを話してきたんだろう。
そしてその中で、フライゴンがこんなそそっかしい態度を取ってしまうような『何か』があったんだ。
少なくとも、ぼくに聞かせたくないようなやり取り、あるいはそのような出来事があったことに間違いはない。
「……ふう」
少しの間だけあった小さな期待が、ため息となって零れ落ちた。

418:2/6  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 18:37:50
「ねぇ、コウイチくん……もちろん、待ちますよね? 
 ジュカインが帰ってくるのを、待ちますよね?」
どことなく縋るような口調でそう言うフライゴン。
「……だから、言ってるじゃあないか」
ぼくの答えは、決まっている。『ジュカインにとっての最良の選択』は何かを、ぼくは理解している。
フライゴンの様子に少し躊躇うも、ぼくはそれを口に出した。

「今すぐ、森を出る……」

「なっ」
予想通り、フライゴンは顔を衝撃に歪ませる。そしてこれまた予想通り、慌てたように反論を始めた。
「き、聞いてくださいコウイチくん。もうコウイチくんも気づいてると思いますけど……
 ジュカインは記憶が戻っていますっ! もうすっかり記憶を戻しているんですっ!
 彼は今、ボク達の元に戻るかどうかを迷っていますっ! だから、待てばきっと……いやっ、必ずっ!」
フライゴンはぼくの腕にしがみ付き、泣きつくように大声でそう言う。
その言葉が族長さん達にも聞こえたのか、辺りのざわめきが途端に増えだした。
「ジュ、ジュカインの記憶が戻っているというのは……ほ、本当なのか?」
そう言って割り込んできたのは族長さんだ。その顔は、困惑の念に満ちている。
フライゴンは族長さんの方を振り向くと、すぐに答えを返した。
「ええ。実はさっきトイレに行った時に、ジュカインと色々話したんです。
 そのときジュカイン本人が言ってました! 今朝記憶が戻ったと……!」
「なっ……」
族長さんの困惑に満ちた顔が、一瞬にして驚きに染まる。
言葉も出せないほどの驚きだったのかそのまましばらくは表情を固まらせたまま押し黙っていたが、
思い出したように顔をハッと上げると、ぼくに対してこう言い出した。
「よ、よかったではないか人間様、ジュカインの記憶が戻って! はっ、ははっ、これはめでたいっ!」
元気付けるように言葉を弾ませ、笑顔を見せる族長さん。
……その様子が、今のぼくの心情とあまりにミスマッチすぎて……ぼくはすかさず、こう言っていた。
 
「……違うね」

419:3/6  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 18:45:15
「へ?」
ぼくのその一言に、フライゴンと族長さんは同時に疑問めいた表情を浮かべる。
二匹に向けて、続けてぼくはこう言った。

「『そもそも記憶喪失になんかなっていなかった』……そういう事だと思うんだけどね」

「えっ?」
ぼくの言ってることがよほど意外だったのか、呆けた声を上げ表情を固まらせるフライゴンと族長さん。
「えっ、えっ、えっ? 意味が分かりませんよ、コウイチくん。
 ジュカインは、『今朝に記憶が戻って』……」
フライゴンは呆けた表情のまま、そんな事を言い出した。
……あまりに間抜けな返答だ。そんな……

「そんな『都合のいいこと』、有り得ると思うかい?」
 
「!」
ぼくだって一度はその可能性を考えたし、そうだったらどんなにいい事かとも思った。
だけども『一晩寝たら記憶が戻った』なんて、そんなバカに都合のいいことがそうそう有り得るわけがない。
これは現実。漫画やゲームや夢なんかじゃあないんだから。
「つ、都合も何も……でもジュカイン本人は、今朝記憶が戻ったって言ってて……」
ひどく自信のない口調でそう反論するフライゴン。
「……きみが嘘をついていないのなら……ボロを出した、つまり、ぼくの名前をうっかり出してしまったジュカインが、咄嗟についた嘘さ」
「嘘って……」
どんどんフライゴンの表情が曇り、力ないものへと変わっていく。
しかしふとハッと目を見開くと、言い訳じみた口調でこう反論しだした。
「じゃっ、じゃあっ! 記憶喪失になんかなってたとしたら、昨晩のジュカインの態度はアレ何だったんですか、
 記憶があったなら、あんな暴言コウイチくんに吐けるわけないでしょう!?」
「あれが『素』だったんじゃあないか? ジュカインはぼくを……いや、『人間』を嫌っている。何としてでも別れたいと思っている。
 ……何と言おうと何と思おうと……ジュカインがここにいないのが、何よりの証拠さ……」
「うっ……」
フライゴンは言葉を失い、泣きそうな目をしたまま俯いた。
……

420:4/6  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 18:53:28
そう、今までジュカインが、ぼくの元で一度だって懐いたそぶりを見せたことがあるか?
ジュカインが、ぼくを好いているというそぶり、片鱗を、一度だって見せたことがあったか?
……こういった疑問は前にも持ったことがあるし、それについてオオカマド博士に相談したこともある。
そのときオオカマド博士は、『逆らわず命令を聞くのなら信頼している証拠よォん』と言っていた。
そして、それにぼくも納得していた。納得していたけれど……

どうだろう? そうだと言い切れるか?

ジュカインは子供の頃に、『人間』に、ぼくと同じ『人間』に、虐待され捨てられた経験がある。
そんなジュカインが、人間を信頼するだろうか? 人間とずっと一緒にいたいと思うだろうか?
……分からない。分かるはずがないけれど、ただ一つ分かるのは……

今この場に、ジュカインがいないということ。
フライゴンに説得されてもなお、ジュカインはこの場に来ていないということ。

もし都合よく今朝に記憶が戻ったとして、その上でぼくの元へ戻るのをためらっているのだとしたら、何をためらっているっていうんだ?
今朝に記憶が戻ったとして、そしてジュカインがぼくにちゃんと懐いているのだとしたら、
ためらう必要もなく、問答無用でぼくの元へ戻ってきてくれるはずじゃあないか。
それなのに、彼は戻ってこない。ぼくに向かって『じゃあな』と別れの挨拶すらもした。
これってどう? ……要するに、こういうことだよね。

ジュカインはぼくと一緒にいたくないという事。
つまりぼくを、人間を未だ嫌っているということ。
いや、そうでなくとも……少なくとも……最低限……
ぼくよりも、この森を優先したということ。

今までのジュカインとの思い出……色々あった。
本当にたくさん色々な事があって、そのどれもがぼくにとって幸せなことだった。
その中でぼくがずっと漠然と信じ続けていたもの。……それは全て、ただ一方的なものに過ぎなかったのだ。
……『事実』が、それを証明している。

421:5/6  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 18:55:41
「族長さん……本当にありがとうございました……お世話になりました……」
未だ呆けた顔で突っ立っている族長さんへぼくはそう言い、一礼する。
「ほ、本当に、森を出るのか……本当に……?」
念を押すようにそう言う族長さん。ぼくは黙って頷き、フライゴンの方へ向き直った。
フライゴンは未だ俯き黙りこくっている。
ぼくは身を翻すと同時に、その手を取りぐいと引っ張った。
……微かな抵抗。

「きっと来ますから……来て、ボク達の元へ戻ってくるから……だから、まだ待ちましょうよォ……」

か細く弱弱しい声。振り返ると、フライゴンは潤んだ目でぼくを見上げている。
……心がじわじわと疼くように傷む。罪悪感が芽生えてくる。
だけど……考えを曲げるわけにはいかない。
ぼくはフライゴンの肩を掴み、目を真っ直ぐに見据える。

「これでいいんだっ」

「昨晩ぼくは、『ぼくのジュカイン』なんて何度も何度も言ったけれど……厳密に言えばそうじゃあない。
 ぼくは……あくまで、ジュカインの保護者だっ。傷ついたジュカインを保護してきたってだけだ。
 だから本来、ジュカインがぼくの元を離れ森へ帰るのは当然のことっ。当然の流れなんだっ。
 一度人間に虐待され人間に捨てられたジュカインが、人間と一緒にいる事を望むはずがないし、幸せな気持ちになるはずがないっ」
「そんな……」
「ジュカインのためを思うのなら……待ってちゃあいけない。どんな形であれ、彼の中に心残りを残すような事をしちゃあいけない。
 彼がぼくらに対してどう思っていたかが分かった以上、すぐ離れて消えるべきだ。そう、ジュカインのためを思うのなら……」

「ジュカインのためを思うなら……っ!」

422:名無しさん、君に決めた!
07/12/19 18:57:01
すれ違いまくりんぐ

423:6/6  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 19:00:20
「…………」

フライゴンは言葉を失い俯いた。
再び手を取り、引っ張る。
……抵抗は、ない。
ぼくはそのまま身を翻し、フライゴンの手を引きながら歩き始めた。

その場にいる人数の多さとは反対に、森は全くの沈黙に包まれている。
沈黙の中をぼくは歩いてゆく。土を踏みしめる乾いた音がぼくの耳に生々しく入ってくる。

……これでいいっ。これでいいんだっ……

悲しいだけでなく、恥ずかしくて、悔しい。いくつもの感情がぼくの胸中にたくさんの波を作っていく。
波のうねりは徐々に増していく。荒れ狂う波は、ぼくの胸の内をしつこいぐらいに叩いている。
そして、どこから漏れ出たのか、いつのまにやら胸の内を抜け出た波が、ぼくの目から排出されていく。

……っていうか、なんで……?
ちょっと待ってよ、これって……本当のこと……?

……ようやく、掴めてきた。 
今までまだしつこく払われないでいたほんのちょっぴりの頭の靄が、
漏れ出てきた水に綺麗さっぱり洗い流されてしまったのを感じる。
……本当にもう……これで終わりなんだね……

さようなら、ジュカイン。

 
第二話 おわり

424:7/9  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 19:01:45
「待てぇっ!!」


「「!!」」
不意に森中に響き渡る声。……馴染み深い声質。
望み求めていたけど、もう聞くことはないと思っていた声。
確かに、聞こえた。その証拠に、今その場にいる全員が一斉に声の聞こえた方へと振り向いている。
皆より一テンポ遅れて、ぼくも振り向いた。

「ジュカイン……」

ジュカインが佇んでいた。
軽く肩を弾ませながら、真剣な眼差しでこちらを見つめている。
ジュカインが、帰ってきたんだ。

……なぜ?

「ジュ、ジュカイン!!」
フライゴンは、安堵と共に怒りも混じったようなそんな声を上げ、ジュカインへと駆け寄っていく。
「何でこんな来るの遅いんだよっ、来ないかとか思っちゃったじゃないかぁっ! バカっ、バカバカっ……」
「……フライゴン、ちょっとだけ……待ってくれないか」
「え……?」
ジュカインは、目線をフライゴンからぼくに移した。
相変わらず真剣な眼差しのまま、ぼくを見つめている。……少しだけ、歯を食いしばっているような気がする。
『何の用?』とは言えない雰囲気だ。ジュカイン、一体何を……
……その次の瞬間だった。
ジュカインは『ある動作』と共に、おそらくぼくへ向けて、こう叫んだ。


「ごめんっ!!」

425:8/9  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 19:04:17
軽いざわめきが森中を包んだ。

「えっ……」

まるで意外だけれど、ぼくが最も望んでいた言葉の中の一つを、ぼくへ向けてジュカインは叫んだ。
そして、それよりももっと意外だったのが、それと共にジュカインが取った動作だ。
 
あのプライドの高いジュカインが……ぼくへ向けて、『土下座』している。

「オレ……お前にたくさんひどいこと言った……たくさん傷つけた……
 本当に悪いことをした、謝っても、謝っても、謝りきれないくらいにだっ」
ジュカインは、まるで柄にもない謝罪の言葉をぼくにやたらと投げかけている。
「な、何をして……」
軽く頭が混乱していく。
目の前にいるのは、本当にジュカイン……?
何よりも先に浮かんでくる感情は、『疑惑』。『不安』。
当然さ、今までぼくは『このジュカイン』に散々虚仮にされてきたのだから。
もしや、これもジュカインがぼくを虚仮にするための……

「コウイチっ!!」

「!」
不意にジュカインがぼくの名前を叫び、ぼくはハッとする。
ジュカインは未だ床に手と膝をつけながらも、顔を上げぼくを見つめていた。
目も、口も、震えている。まるで今にも泣き出しそうな表情をしているんだ。
 
「今さらこんなことして白々しいとか、思わないでくれ。
 信じてくれっ、オレはっ……オレは、昨晩までは本当に記憶がなかったっ!!
 今朝に記憶を取り戻したんだっ!! 信じてくれっ!!」

426:9/9  ◆8z/U87HgHc
07/12/19 19:13:47
「都合のいい話と思うかもしれない。だからこそ信じてもらえそうになくて怖いんだが……
 本当に本当なんだっ! 昨日のオレの発言は、実質全部『オレ』の発言じゃあないんだっ!!」
声を震わせそう叫ぶジュカインの顔は、見て分かるほどに必死な形相だ。
言葉の一つ一つに熱がこもっている。……演技や嘘には、到底見えない。
だとしたら、『このジュカイン』の言っていることは……言っていることは、まさか……
……でもっ。仮にそうだとすると、大きな疑問が沸いて出てきてしまう。その疑問を、ぼくは投げかけずにはいられなかった。

「ジュカイン……さっきさ、『じゃあな』って言ったよね……
 不思議だよね。今朝に記憶戻ったんだったら、きみ何であんなこと言ったのかなァ……?」
「!!」
 
ジュカインの言っている事が本当であってほしいからこそ、
安心に足る確証が欲しいからこそ、それを聞かないでいられなかった。
そしてぼくのその問いに、ジュカインは身を乗り出しすぐにこう答えた。
「あれは……オレが別れたいから言ったってわけじゃあないっ。まったくもって本音じゃないんだ。
 あれは、お前を気遣ったつもりだったり、こうして謝るのが気恥ずかしかったり……単なる、気の迷いだったんだよォっ!」
「!」
ぼくは驚いた。……ジュカインの答えた内容にではなく、ジュカインが即答したということに対してだ。
一片の躊躇いも見せず、それどころか『早く誤解を解きたい』とばかりに必死な口調で、ジュカインは即答したんだ。
「そうだ、オレはお前と別れたいなんて思うことはある筈ない。なぜならオレは……」
 
「オレは……お前に……お前にっ! たくさん感謝しているからだっ!!」

「……!!」
思いがけない言葉。そしてそれを言ってのけたジュカインの顔には、虚偽の色は一片も感じられない。

まさか……本当に……本当に……?

ぼくの胸を覆っている黒い何かが、徐々に溶けていく。


つづく

427:名無しさん、君に決めた!
07/12/19 19:23:40
乙!
途中にフェイントあったな。

428: ◆8z/U87HgHc
07/12/19 19:29:27
続きは明日か明後日に……

>>414
事細かな予想はともかく、ちょっとぐらいならば逆にどんどんしてほしいです。
あくまで、ちょっとぐらいならばですよ。

429:名無しさん、君に決めた!
07/12/19 21:14:43
しかしコウイチくんは土下座され率高いなw

430:名無しさん、君に決めた!
07/12/19 23:35:50
とりあえず乙

431:名無しさん、君に決めた!
07/12/19 23:40:35
初乙させてもらう

しかしこのぐらいのポケモン小説が投稿されるサイトとかってないのだろうか

432:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 07:30:54
そうそう無いだろ。

433:1/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 18:40:08
……オレは今、土下座をしている。
大勢の視線の前で、オレは土下座をしている。
そしてそうやって土下座をしながらオレは、
言い訳じみた謝罪を、必死な口調と必死な形相でのたまっているのだ。
 
……恥ずかしいっ。この上なく恥ずかしいっ!!
不安と共に込みあがってくる恥ずかしさ。歯を食いしばって耐えるだけで精一杯だ。
こんなの……オレのガラじゃねぇっ。
ガラじゃねぇっ、ガラじゃねぇっ。
全くガラじゃねぇが……

こうしなければ、あの幸せな日々は戻ってこない。 

食べるものや寝るところに困る事も無く、常に温かい愛情をかけられ、
仲間もたくさんいる。何もかも満たされていた日々。
あの日々が、あの素晴らしい日々が、コウイチが、仲間達が……
プライドを捨てるだけで、返ってくるんだ。
安いものさ、それを考えればっ!
だから……耐えろっ。明日のために今を耐えるんだっ!
そして……伝えろっ、伝えるんだ。オレの感謝の気持ちをっ……オレの『本音』をっ!!

オレはコウイチの顔を真っ直ぐ見据えながら、ありったけの感情を込め、叫んだ。

「コウイチっ! オレは……お前に感謝しているっ!!」

434:2/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 18:45:35
「感謝しているっ、この上なく感謝しているんだっ!!
 何よりも、誰よりも……コウイチ、オレはお前たちに感謝しているんだっ!!」

遂に言ってしまった。今まで胸の内にしまい続けていたオレの全くの本音。
だが、こんなもんじゃあない。まだまだ、まだまだ……伝えたいこと、溜め込んでいることはたくさんある。
もうプライドなんて丸崩れなんだ。このまま突っ走れ、突っ走っちまえっ。

「嘘じゃあない、それはオレの全くの本音っ、今までずっと恥ずかしくて溜め込んでいたオレの本音だっ!!
 ありがとうっ、ありがとうっ、ありがとうっ、何度でも言えるぜ。何度でも言えるが……
 そんな言葉なんかで何度言っても足りないくらいの感謝の気持ちがあるんだっ」

クサい言葉だ。恥ずかしいが、クサいくらいで丁度いい……っというか、最大限伝えようとすればどうしてもクサくなっちまう。
……オレの目の前のコウイチの表情は、未だ疑惑に満ちている。まだオレの気持ちが伝わりきれてないのだ。

「お前と、お前たちといれる時間は、オレにとって一番幸せな時間だったんだ!
 不幸せだとか居心地悪いだとか思ったことなんてただの一度もないっ!! いつもずっといつだって幸せで、居心地よくって……!!」

あぁ、本音ではあることに変わりないが、言ってる自分がこっぱずかしくなるくらい痛いっ。
でも、それでも、まだだ。まだまだ、だっ。コウイチの表情はまだ……疑惑に満ちている。

「だからお前を嫌ってるだとか、お前たちと別れたいなんてこれっぽっちも思ってないし思ったこともないっ!!
 それどころか、出来ることならずっと一緒にいたい……ずっとお前のポケモンでいたいっ……!!」

一向に変わらないコウイチの表情。
なぜだっ! 伝われ、伝わってくれっ!

「そうさ、出来ることならっ。出来ることならずっ、と……できっ……」

あっ……あれ……これは……?

435:3/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 18:50:52
「で、できることならっ……」

やべっ、何だコレ……目の奥から溢れる熱いもの……
これは涙かっ……!? 
ざけんな、一体何の涙を流しているんだよオレはっ……!
「コウイチ……オ、オレ゙は……」
喉がヒクついて言葉すらもまともにしゃべれない。息苦しい。頬を熱い液体が伝っていく。
マジかよっ、いい大人なオレが何で泣いてんだよっ……恥ずかしいっ、みっともないっ、だらしないっ、カッコわるいっ……!!

そうさ、オレはいつも強がっているけど……
本当は体も精神もひどく脆い。おそらく他のコウイチのポケモン達の誰よりも脆い。
……だけど……だからといって……泣くかよっ……!?
いくら恥ずかしいからって……なぜ泣くんだっ、オレ……!

涙や恥のせいか頭が真っ白になり、言葉が出てこない。
出てくるのはワケの分からない嗚咽ばかり。そんな嗚咽が出てくるたびに、恥ずかしさが増していく。
オレは我慢できず、再び頭を下げ顔を伏してしまった。
……顔を伏しても、わけの分からない涙は溢れ続けて止まらない。

ふと、オレは気づく。
胸を締め付け、オレに涙を流させている感情は、恥ずかしさだけではなく、もう一つあることに。
そして、オレに涙を流させている一番の要因は、
『恥ずかしさ』の方ではなく、その『もう片方の感情』であることに。

この感情は……『不安』だっ

436:4/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 18:54:34
ずっと溜め込んでいた正直な気持ちを言っても言っても、
コウイチの疑惑に満ちた表情は、凍ったように一向に変わらない。
これでは、意味がない。
プライドを捨て勇気を持って全てを伝えたところで、結局伝わらなければ何の意味もないのだ。

何も伝わらず、何も信じてもらえず、結局は全てが無下に終わってしまうかもしれないという不安。
醜態を晒した甲斐もなく、後悔と惨めな気持ちを胸に多量に残したまま、
この森で新しい生涯を送ることになるかもしれないという不安。
そんな不安の流れこそが、オレが涙を流してしまった一番の要因だったのだ。

オレが顔を伏してからも、不気味なくらいの静寂は森を包んだままだ。
鳥や虫がやかましくさえずっているだけで、ポケモンの声は一切聞こえない。
それが一層オレの不安を斯き立てる。
オレの胸中の不安の流れは徐々にその強さを増していき、
少しは抱いていた希望やら何やらも無差別に巻き込み塵に変え、やがては流れの一部としてしまう。

”……ねぇ、森から出ろって言ったのは誰……? きみでしょ……?
 今さら何のつもりかなぁ……また、ぼく達を虚仮にするつもり……?」”

コウイチの疑惑に満ちた顔が、冷めた声が、目に耳に焼きついて離れない。
幸せだったあの頃と今とのギャップが、オレの心中の絶望を深めている。

437:5/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 19:00:28
コウイチの胸に張り付いているオレへの疑惑は、
もはやどうやっても剥がすことのできない段階まで来ているのかもしれない。
だとしたら、今オレのやっていることは……むしろ疑惑を深めるばかりで……
まったくの無意味どころか、それ以下……以下の以下……完全な逆効果なのか……!?

……なら、これからどうする? 
逆効果だってことを分かっていながらまだこうして土下座し続けるか?
それとも、今すぐこの場から走って逃げ出そうか? 
もうプライドなんて関係ない所まで来ているのだから、逃げ出しちまおうか?
いや、逃げ出したとしてどうする? それからどうする?
族長やキモリどもに合わす顔すら無くなっちまうじゃないか。それこそ、プライドも何もあったもんじゃあない。
いや、今の時点でもはやそうなんじゃあないか?
『土下座しながらスンスン泣きだしちまうだらしないヤロー』なんていうイメージを、もうみんな深く抱いてしまっているんじゃないのか?
だとしたら、オレには以後もう満足な暮らしは待っていないって事じゃあないか?
もう 終 わ っ て い る の か ? 

……不安、不安、不安……不安だっ……
死ぬっ、死ぬっ……このままじゃ、不安に押しつぶされてオレは……死ぬっ……
助けろっ……誰かオレを助けろ……誰か、誰かっ……

―助けてっ―
 

「……おいでっ」



438:6/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 19:04:08
不意に、沈黙を破りオレの耳に声が入り込んできた。
……透き通るような高い声。

「えっ……」
オレは耳を疑い、一瞬頭が真っ白になった。

今オレの耳に入ってきた声は、コウイチの声だ……
そしてそのコウイチの声が発した言葉は……

……マジかよっ、マジかよっ、もし耳の錯覚じゃなかったとしたら……錯覚じゃなかったとしたらっ……!!

いまオレを殺しかけている、脳裏の焼印……
コウイチの疑惑めいた表情。『信じることができない』といったような表情。
それは、今……? 今……!?
 
オレは一度涙を拭った後、ガバリと頭を上げた。

脳裏に焼きついていたコウイチの表情と、今オレの目の前にあるコウイチの表情は食い違っていた。
『全く食い違っていた』。
オレの脳裏には、コウイチの疑惑めいた表情が焼きついていたが、今目の前にいるコウイチは……

泣いている。うっすらとだが、涙を流している。 
そしてその口元は、軽く笑みの形を作っているのだ。

体全体をざわっと、言葉では言いえぬ感覚が走った。

439:7/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 19:07:59
「信じて、いいんだよね……? 本当に、きみのこと信じていいんだよね……!?
 なら、ぼく信じるよ? 信じちゃう……だから、おいで。ジュカイン……」

コウイチは一度ずずっと鼻をすすり涙を拭った後、
腕を広げ、オレに向かって満面の笑顔を見せながら、こう言った。


「ぼくの元へ……戻っておいで、ジュカインっ!」

 
若干涙ぐんだ声でのコウイチのその言葉が、確かにオレの耳に響き渡る。

『戻っておいで』『ぼくの元へ戻っておいで』

その言葉は、今の今までオレの胸中に渦巻いていた靄……不安を、一瞬にして打ち払った。
そして……
「おっ……」
とてつもなく熱い何かの感情の塊が、急激に腹から込み上げてきた。
感情の塊は全身を粟立たせながらオレの体を駆け上がっていき……
「おおおおおおっ……!!」
搾り出すような唸り声となって口から発せられた。
唸り声を絞り出すごとに、充足感、高揚感、そういったものが胸の奥から沸き溢れてくる。
止まらない脳みその痺れ。止まらない唸り声……『歓喜』っ『歓喜』っ『歓喜』っ!!

戻れるっ。コウイチの元へ……戻れるっ戻れるっ戻れるっ!!
あの幸せな日々が……満たされていた日々が……またっ!!

オレはたまらず立ち上がり、コウイチへ歩み寄りながらその名を叫んだ。

「コウイチっ!!」

440:8/8  ◆8z/U87HgHc
07/12/20 19:12:26
「ジュカイン!!」

コウイチは涙に塗れた声でオレの名を叫びながら、オレをひしと抱きしめた。
小さな腕がオレの背中に。小さな体がオレの体に。小さな頭がオレの肩に。
コウイチはオレの肩の上に涙を落としながら、謝るようにこう言った。

「ジュカイン……ごめんっ、ごめんね? 疑ってかかって……土下座なんてさせちゃって……
 本当にごめんっ。ぼく、ぼく、全然知らなくて……また虚仮にされてるのかなとか思って……」
「いいんだよ、謝らないでくれ……謝るべきはオレだっ、オレなんだァっ……
 とにかく、よろしくなっ? これからも……これからも、ずっとっ……」
「もちろんっ、もちろんだよジュカインっ……みんなと、ずっとずっと……ねっ?」

コウイチは笑みが混じった声でそう言うと、オレを一層強くぎゅうっと抱きしめた。
オレの目から、温かい涙が壊れた蛇口か何かのようにとめどなく溢れ続ける。
コウイチの腕の中はとても暖かくて……体も心の内も落ち着く暖かさがあって……
胸の奥から、湧き水のように緩やかに溢れてくる暖かさがあって……
 
……あの時と同じだ。コウイチと初めて出会った日。オレの運命が一気に明るいものへと変わった日。オレが救われた日。

オレは救われたっ。救われたっ。コウイチによって、またも救われた……
これからのこと、考えるだけで心が躍る。安心感が胸を浸す……
 
オレもコウイチの首を抱き締め、一緒に涙を流し続けた。


つづく

441: ◆8z/U87HgHc
07/12/20 19:15:57
次回は明日の6時半からです。
そして次回で第二話は終わりです。
乙下さってる方、本当にありがとうございます。

442:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 21:05:22
そんなところを目の当たりにしたフライゴンは
(……ジュカインのヤツぅ…コウイチくんはツンデレ好きなのかな…)

その日からフライゴンのツンデレライフが始まりました♪
「べっ、別にコウイチくんのためにしてるんじゃ…」

443:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 21:58:42
後味よく終わってよかった。
乙ー

444:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 22:14:11
>>1GJ!!

 うん、なんつーか構成が上手い気がする。こういう所だからこそ、上手さが滲み出てるってゆーか、なんというか、すごい尊敬する。

 適役の配置も絶妙だよ。謎がありつつも、どれもこれも理に適ってるし、フラグらしくみせかけて、全部キッチリ処理してる。読んでてかなりスッキリするよ。

 語彙力だとかじゃなくて、戦闘描写や、言葉のテンポ、キャラの良さ、そして、仰々しくないのが凄い。

 是非、見習いたいぐらい。応援してます。

445:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 22:21:46
乙です!
ジュカインよかった、コウイチとホントよかった
仲間同士とはいえすれ違いって怖いぜ

446:名無しさん、君に決めた!
07/12/20 23:05:39
>>442
従順なフライゴンもいいが、ツンデレなフライゴンもなかなか……

447:名無しさん、君に決めた!
07/12/21 20:56:55
今日は投下されないんかな?

448:名無しさん、君に決めた!
07/12/21 23:53:39
ストーリーもそうだが、心理描写がやたらしっかりしてるのな
コウイチの神経質っぷりとかジュカインの余裕のなさっぷりが面白いw

449: ◆8z/U87HgHc
07/12/22 15:37:47
体調の問題で昨日は投下出来ませんでしたが、今日はしっかり投下したいと思います。
みなさんも体は大事に…

450:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 16:14:08
それにしても、これだけの量をこのペースで書いてると、
食事、睡眠、仕事以外は完全に執筆に費やしてることなるよな。

451:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 16:21:38
一回消えてから帰ってくるまでだいぶ間があったし、ある程度は書き溜めしてんじゃネーノ?

452:1/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:40:23
要約するとこうだ。

ジュカインは確かに記憶喪失だった。
だけど彼は、この一晩の間に無くなった記憶が戻ったんだ。
ジュカイン本人の話によれば、記憶が戻ったのはどうもあのヨルノズクの『夢食い』のおかげらしい。
ヨルノズクの使った夢食いが、いわゆる催眠療法……その代わりとなったということなんだろう。
そしてジュカインは記憶が戻ったことをぼくに打ち明けた。
更に、本当はぼくに……ぼく達に対して凄く『感謝』しているということも、同時に打ち明けたんだ。
 
今までジュカインはどこか無愛想で、ぼくに懐いてなんかいないんじゃあないかとも思っていたけれど、
実はその逆……全くの逆だった。本当は懐いていたけれど、ただそれを心の内に留めていたってだけだったんだ。

そして今、ジュカインはぼくの腕の中にいるっ!
 
昨日からついさっきまで、手を差し伸べても届かない場所に行ってしまった気がしていたけれど、
今はぼくの腕の中……そう、戻ってきたんだっ! ぼくのポケモン……ジュカインっ!

数時間前抱いてたのは悲観、数十分前抱いてたのは絶望、数分前抱いてたのは疑惑と不安……
そして今は一転急浮上っ! たった今ぼくが抱いているのはただ喜びっ、それだけさ!! うひゃーっ!!

きゃーーっ、うーれしーーいっ!!
うわーいっ、わーいっ!! やった、やったーァ!! きゃーーっ!!
やったよフライゴーン!! お帰りジュカイーン!! きゃーーーっ!! 

453:2/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:45:09
「わし、昔っからこういうドラマ的なの大好きなんだよねエェェッ!!!」

突然族長さんがそう叫び出したのは、既にぼくとジュカインがお互いの体から腕を離した頃だった。
「えっ?」
ぼくもジュカインも同時に疑問符を浮かべて、族長さんの方を振り向く。
族長さんはいつの間にやら目から涙をボロボロ零し、ただでさえしわくちゃの顔をぐしゃぐしゃに歪めていた。
「感 動 し ま し た 的なことが言いたいんだよねっ、わしはっ!!
 だって感動モノ的なの大好きだもん、わしっ!! ううっ、こんな間近でそんなドラマ的なの見せられちゃあ、泣かざるをえんべよ……!」
「は、はあ……」
「ケケケッ、なァーに言ってんだか」
ジュカインは笑みを交えながら、呆れた風なため息をついた。
ぼくは呆気に取られて言葉も出ない。……族長さん、キャラ壊れてますよー。

「……んっ」
ふと、ジュカインが何かに気づいたように小さく声を上げた。
その彼の視線の先にいるのは、族長さんと同じように涙ぐんでいるキモリ達だった。
「おいおい、お前らまで泣いてんのかよー!? どんだけ感化されてんだよ、何か冷めちまうぜー。カハハッ」
ジュカインが冗談ぽくそう言うと、大勢のキモリ達の中の一匹が
それに対して首をぶんぶんと横に振って、こう言い出した。
「いや……オ、オレ達が泣いてるのはそれだけじゃなくて……」
「あーん?」

「ジュ……ジュカインさんがこの森を出て行くんだと思うと……オ……オレ寂しくて……だから……」

454:3/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:48:21
「!」
キモリが嗚咽交じりに紡いだその言葉に、ジュカインは表情を強張らせた。
ぼくもそのキモリの言葉に、軽く考えさせられる。
 
……そういえばこのキモリ達、ジュカインに随分懐いていたそぶりを見せていたっけな。
キモリ達にとっては可愛そうなことだけれど、仕方ないよね……
 
歓喜の中にふと芽生える突っかかり。このままじゃあ、後腐れというヤツになっちゃうかも……
……とりあえずは、ジュカインがキモリ達に対してどんな言葉をかけるか、それが問題だ。
そして数秒の沈黙後、ジュカインがキモリ達に対して放った言葉はこうだった。

「言っておくが、これから後……たぶんオレはもうこの森に戻ってくることは無いと思うぜ」

「えっ」
ジュカインが冷たく放ったその言葉に、キモリ達は衝撃を受け一層泣きを強める。
ぼくもそのジュカインの冷たい物言いに、ちょっとした焦りを覚える。
……ちょっとジュカイン、もうちょっとキモリ達に対してのフォローを入れてあげてもっ……
とぼくが言いかけた瞬間、ジュカインはこう付け加えた。

「だが、誤解しないでほしいのはこういう事……オレの中には、心残りは確かにあるっ。 
 お前達や森と別れる事になるのは、悲しい……そういった気持ちは、確かにあるっ」

455:4/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:52:40
「オレにとって、コウイチやフライゴンはお前らよりも大切な存在であることは確かだが……
 それでもお前らが大切な存在であることには変わりないのも、また確かさ。お前らのことは忘れないよ」

今度はしっかりフォローし慰めるような柔らかい口調で、ジュカインはそう言った。
だけど、キモリ達の流す涙は逆にどんどんと多くなっていく。
「う、うう……ジュカインさァん……」  
キモリ達は感極まったのか、わっと一斉にジュカインの元へ群がり始めた。

みんなジュカインとの別れを惜しむように、涙をぼろぼろと流して、わんわんと声を上げている。
しかし、ジュカインはどこか不満げな表情を浮かべながら、
仕方なさそうにため息をついて、泣いているキモリ達へ向けてこう言った。
「あ、あのなぁ……、泣いてくれるのは嬉しい。すげー嬉しいんだけどさぁ~~……
 そんな泣かれっと心残りが増しちゃうわけよ。だから、オレとしては出来るなら笑顔で別れを惜しんで欲しいところなんだが……」
ジュカインのその言葉に、キモリ達は一斉にジュカインの顔を見上げだす。
「え、えがおォ……?」
「そっ、笑顔」
ジュカインがそう返した途端、キモリ達はみんな全く同時に涙をゴシゴシ拭って、
ジュカインへ向けてみんな全く同時に(若干無理したような)笑顔を作って見せた。
「えっ、笑顔でありますっ!!」
「イエッサー、笑顔でありますっ!」
「オレたち、笑顔でジュカインさんを迎えるでありますっ!」
顔は笑顔なのに、言葉は涙ぐんでいる。しかも何故か奇妙な喋り方。
「カハハッ……なんじゃそりゃ……」
ジュカインは緩やかにほほえみながら、そのキモリ達の頭を優しく撫で始める。
心なしかだけども、その目には微かに涙を滲ませているようだった。

456:5/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 18:56:25
かくしてジュカインとキモリ達の別れの惜しみも済み、ぼくの心の突っかかりも綺麗さっぱりに消え去った。
後腐れはゼロっ。あとは、この森との別れを残すのみだ。
ぼくはたった一晩いただけだからいい思い出も特に無いけれど、いざ去るとなると少し感慨深いかな……

何だか急に、この森の風景がとても美しく貴重なもののように見えてきた。
空気も何だか美味しく感じる。数十分前までは、空気の美味しさなんて分からなかったどころか息が詰まるようだったっていうのに。
鳥のさえずり一つ、虫の鳴き声一つとっても、何だかひどく貴重なもののように思えてくる。
……ぼくに、やっと感動できるくらいの心の余裕が出来たって言うことなんだな……
 
そうやって感慨に耽っていると、不意に族長さんがぼくに声をかけた。
「……さて、人間様。この森を抜けたら、やはり大都会テレキシティへ行くのかな?」
「ほえっ、大都会、んっ、テ、テレキ?」
不意に話しかけられたことに戸惑い、かつ聞き覚えの無い言葉を口にされたことでぼくはひょっと間抜けな声を上げてしまった。
その反応にぼくが何も知らないことを察したのか、族長さんはすぐに説明を始めた。
「テレキシティとはエスパータイプのモンスターが住む大都会だ。
 あなたがたがどこから来て、そしてどこへ行くのかはわしは知らんが……
 見たところ蓄えもないようだし、テレキシティに寄っておいてまず損は無いゾ」
「へ、へェ~……なるほどォ~……」
族長さんは見事に何事も無かったかのように淡々と説明するので、何だか逆に気恥ずかしい。別にいいけどさ。

「へェ~~、次の目的地は都会っ!? シティっ!?
 ってことは、やっとゴージャスな料理が食べられるってことですかねーっ!?」
話を聞いていたフライゴンは、やたらと上機嫌にしながらぼくにそう尋ねてきた。
「うん、たぶん食べられると思うよ。たくさん食べさてあげるからね、フライゴン。
 ……ぼくたちのお金がちゃんとこっちでも使えるか不安だけど……」
「ぅわーいっ、ありがとうございまーすっ!! やったやったァーいっ!」
おいしい料理を食べられるのがよほど嬉しいのか、フライゴンはバンザイまでして喜びだした。
口の端からヨダレだって垂らしかけてる。……もうっ、カワイイいやしんぼさんめっ。

457:6/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:01:21
「なるほど、テレキシティに向かうわけだなっ?」

ジュカインもフライゴンと同じく話を聞いていたのか、そう言いながらぼく達の間に割り込んできた。
「実際に入ったことは無いけど、道のりなら知ってるからサ。
 案内は任せなよ。オレについてけば自然とテレキシティにつくよ」
そう言うジュカインの口調は、どこかウキウキとしている。
「うん、よろしくねっ」
自然に漏れ出た笑顔と共に、ぼくはそう返事を返した。
ジュカインは若干照れくさそうな笑顔を浮かべながら、 「ああ」 と小さく言って頷いてみせた。

「よっしゃ、頼むぜーっ、ジュカイーン!」
フライゴンは、じゃれつくようにジュカインの肩を平手で叩いた。
「いででっ! フ、フライゴンおまえ力強いっ! もう少しは手加減しろアホッ!」
「えへへ、ご~めんなさァ~~い」
おどけた風な謝罪をするフライゴン。その表情には、笑顔が溢れている。
ジュカインはその笑顔を見ると、仕方なさそうな表情を浮かべ、笑みの混じった溜め息をついた。

「のう、ジュカインよ」
ふと族長さんがジュカインを呼び止めた。
「んっ?」
振り向くジュカイン。ぼくも振り向いて、族長さんを見つめた。
族長さんは隣の木に手を添えながら、何か含むような笑いを浮かべている。
「何だよ族長~。何の用だよ~っ」
軽く笑みを交えながらジュカインがそう言うと、族長さんは生き生きとした口調でこう叫んだ。

「せっかくだ、餞別をくれてやるゾっ!」

458:7/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:04:30
族長さんは叫び終わると、ふと木と向き合い、おもむろにその片足を隣の木に張り付けだした。
……その族長さんの動作を見て、咄嗟に昨日の晩の記憶が脳裏に走る。
まさか……?
そして次の瞬間、ぼくのその予想通りの展開が目の前で起こった。
「お?」
「おおーー!!? ぞ、族長様がァーーー!!?」
同時に、キモリ達の間から驚嘆の歓声が沸きあがった。
 
昨晩モリくんが見せた垂直走り……あれを、もうだいぶ老いているはずの族長さんが今まさに行いだしたんだ。
老体を全く思わせない機敏さで、木を垂直に走り出したんだ! 

「そら、持っていけお三方!! テレキシティにつくまでの腹ごしらえくらいにはなるだろうっ!!」

族長さんはその言葉と共に、昨晩のモリくんと同じく枝から木の実をもぎ取ると、ぼくたち三人へ向かってひょいと投げつけた。   
何とか受け取り、投げ渡された木の実を見つめる。昨晩食べたラムの実だった。

「あ、ありがとうございます、族長さんっ!」
慌ててお礼を言うと、ぼくの声を掻き消す勢いでフライゴンも歓声を上げだした。
「ってかすっごーーい族長さん、あなたもこんなこと出来たなんてェーっ! あとありがとうございますっ!! はぐはぐっむぐぅ~~」
嬉々として皮ごと木の実にむしゃぶりつき始めるフライゴン。まったくもう、カワイイいやしんぼさんめっ。
「カハッ、よくやりやがるぜ族長めっ」
ジュカインは愉快そうに笑いながら、冷静に皮を剥き始める。
ぼくもさっそく皮を剥いて、ラムの実を口に入れる。
そういえば、もの食べるのも久しぶりだな。昨日渡された実も結局食べないでフライゴンにあげちゃったし……
口内に広がる甘みが、満足感となって胸に広がった。

459:8/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:07:35
ジュカインはラムの実を一かじりした後、感慨深そうに森全体を見回しだした。
一通り見回し終えると、ジュカインはひょっと大きく息を吸い始め……
次の瞬間、こう叫んだ。

「じゃあなお前らっ!! これからも健やかに過ごせよなァっ!!」

キモリ達や族長さんへ向けて、延いてはこの『生命の森』自体へ向けて。
森中に響き渡るような声で、ジュカインはそう叫んだんだ。
 
「おおっ!! またね、ジュカインさーん!!」
「さようならー!! スマイルでさようならーっ!!」
「そう、さよならっ!! あくまでスマイルでーっ!! 人間様とフライゴンくんも、じゃあねーっ!!」
「元気でなァ、ジュカイーンっ!! 人間様、竜さん、元気でなーー!!」
それを受けた森の住民達は、一匹一匹がこれまた森中に響き渡るような声で、一斉に別れの声を上げ出した。

「カハハッ……」
ジュカインは満足げな、また悲しげな調子も若干内包した笑い声を上げながら、くると身を翻し歩き出した。

「あ、ありがとうございました族長さんっ! さようならっ!」
「ありがとうございましたァー、じゃあーね族長さんとキモリくん達ー!!」
ぼく達も同じく別れの挨拶をし、ジュカインの後をついていくようにして歩き始める。
森の住民達の別れの声は、聞こえなくなるまで止むことなく続いていた。

460:9/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:11:30
――

木々が、ぼくらにほほえみを落としている。
微かに漏れる木漏れ日が、祝福するようにぼくらを照らし続けている。
そんな森の中を、今ぼく達は仲良く喋りあいながら歩いている。

「……で、オレのリーフブレードがあのヨルノズクをスパッと切り裂いたわけさっ! まさしくオレの完勝だったねっ!」
「ふ~ん、ぼくが眠っている間に色々頑張ってくれてたんだね~」
「カハハッ、ありゃコウイチに見せてやりたかったなー! 自分で言うのも何だが、あの時のオレはだいぶ調子よかったぜ!」
「ふふふ、さっすが~!」
はしゃぐように自らの戦果を語るジュカイン。今まであまり見たことのないどこか無邪気な態度に、自然と笑みが漏れる。

「クケケッ、いやぁフライゴンくんにも見せてやりたかったなァ~! オレが華麗にあのヨルノズクを倒す様をさっ!」
と、ジュカインはフライゴンへ向けてどこか嫌味な笑みを浮かべながらそう自慢しだした。
フライゴンは、その言葉にムッと来たようで。
「……む~っ、何だかムカつくなァその自慢げな喋り方っ! 何が華麗だ、本当は誇張してるんだろ~っ!?」 
「してないしてない、100%事実だぜっ! どうした、悔しいかっ? 
 ……ククッ、そういえばフライゴンは、昨晩あのヨルノズク達に大苦戦してたもんなァ~~」
「う、うるさいうるさーい! ったくもー、帰ってきたと思ったらその憎まれ口! 
 ……ふふっ、数十分前わんわん号泣しながら土下座してたやつの台詞とは思えないねーっ」
「うげっ、そ、そそ、その話を出すなバカッ! ありゃあ半分黒歴史として扱ってくれよ!」
「あっ、ジュカイン顔真っ赤! どうした、恥ずかしいか~っ!? ふふふ、土下座男、土下座おとこーっ!」
「る、るせーっ! やるかこのメガネヤローっ!」
「よーし、受けて立つぞこの緑トカゲめーっ!」
お互い戦う構えを取るフライゴンとジュカイン。
場に一触即発の雰囲気が流れる……わけがない。
だって二匹とも、ずっと表情に笑顔を含ませたままなんだもの。

461:10/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:13:57
「と、ところでさ……コウイチ……」
「ん? なーに?」
ふとジュカインがぼくの服の裾を引っ張って呼び止めてくる。
柄にもなく、控えめな態度だ。
「……あの、図々しいかもしんないけどさ、あの赤いポフィン食べさせてくれないかな。
 ほら、オレ昨晩あのポフィンあんな風にしちまったからよ……だから、なんつーか……」
俯き加減になりながら、若干話し辛そうに昨晩のことを話し出すジュカイン。

……なァーるほど。昨晩あのポフィンを弾き飛ばして踏み潰した、その罪滅ぼしがしたいんだなジュカインは。
別に今さら罪滅ぼしなんかする必要ないのに、意外とキッチリしてるねジュカインのやつ。

「いいよっ。待っててね、いまあげるから……」
「あ、ああっ!」
顔を上げて嬉しそうな声を出すジュカインを横目に、ぼくはポフィンケースを取り出す。
そういえばポフィン余ってたっけ……? ガラスケースの中身を確認して……あっ
「ごっめーん。もう余ってないやポフィン」
「ええっ!?」
「なんちゃってね、ジョーダン! 一つだけだけど、余ってたよっ。あっはは」
「な、なんだよもォ~」
ほっと半笑いを浮かべるジュカインに向かって、ぼくは赤いポフィンをそっと差し出す。
ジュカインは笑みを沈めると、そのポフィンを手にとって、まっすぐかぶり付いた。
目を瞑って、ゆっくりとポフィンを味わうジュカイン。
ゴクリとポフィンを飲み込んだ音を確認すると同時に、ぼくはすかさず聞いてみた。
「ね、美味しかった?」
ぼくのその問いに、ジュカインは満面の笑みを浮かべせてこう答えた。
「……ああ。すっごく美味しかった!」
「ふふっ、そう」
釣られて漏れ出る笑み。
昨晩からは考えられなかったくらいの和やかな雰囲気が、ぼくらを包み込んだ。

462:11/11  ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:20:59
「ねーねーコウイチくーん、ぼくの分のポフィンはありますかー? ねーねー」

こんどはフライゴンがぼくの服の裾を引っ張ってきた。その目は、期待でキラキラ輝いている。
そんなこと言われてもなァ……ポフィンもう余ってなかった気がするんだけど。
念のためもう一度ポフィンケースを確認。
……やっぱ一つも入ってませーん。品切れガチャーン。
「フライゴン……もうポフィン一つも余ってないや……」
「えーっ! そ、そんなァ~~~」
キラキラ輝いていた目が一気に曇り、フライゴンはへにゃへにゃとへたりこんでしまった。
「ごめんねフライゴン……ぼくがたくさん作り溜めしてなかったばかりに……」
「い、いやっ! コウイチくんは謝らないでいいんですよ、食い意地張ったボクが悪いんですからっ!」
「カハハッ。まぁ、これでも食って落ち着けよフライゴン。栄養たっぷりだぜ」
そう言って、ジュカインは背中の黄色い実を取ってフライゴンに差し出した。
「そ れ は い ら な い 。 断じて」
「えーーっ!? もったいないよ、栄養たっぷりだぜっ、栄養たっぷり!」
「栄養たっぷりだろうが何だろうが、まずそうだからいらないっ!」
「いやぁダメだね、その姿勢! そーやって味で好き嫌いしてちゃあ、その不健康な緑色の体もずっとそのまんまだぜ?」
「体が緑色なのは元々なのっ! 大体お前も体緑色だろ~が!」
「オレの緑色は健康的な緑色でェ、お前の緑色は不健康な緑色。分かるかい、この違い?」
「嘘つくなバカっ!」
じゃれ合うような掛け合いをしている2匹を見つめながら、ぼくは心中でこう唱える。

……残るは4匹だっ。

ラグラージ、バシャーモ、レディアン、ユキメノコ……
待っていてねっ! 絶対そのうち迎えにいくからねっ!
……ああ、あとミキヒサもね。あははー。


第二話 本当におわり

463: ◆8z/U87HgHc
07/12/22 19:39:34
>>451
当たりでーす。
規制されてた時にある程度は書き溜めしてたんですよね。
まあ書き溜めしてた分も、投下前にだいぶ加筆修正してますけども。

で、その書き溜めしてた分がもう完全に尽きたので、
投下スピードは激減してしまうかもしれませんです。
とりあえず次回は、一週間以上後になると思いますー。

それまで書き込んで保守とかしてくれると助かりますしとても嬉しいです。
ではー。

464:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 20:59:00
乙!

465:名無しさん、君に決めた!
07/12/22 21:39:20
族長が最後になっていきなりキャラ立てたなw


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