07/12/02 15:56:16
「じゃあ、仮にオレは昔お前の仲間だったという事にしよう」
「?」
不意に、ジュカインは落ち着いたテンションでそう言い出した。
「そして、仮にオレはいま記憶喪失になっているのだとしよう……
その上でオレは言うぜ。『お前達なんか知ったこっちゃない』ってな。
無くなった記憶なんて二度と戻ることはない筈だ。 お分かりか?
つまり、お前の知ってるオレは実質死んだっつーことだ。もはや今のオレにはお前に対する義理も何もねー」
「なっ……」
「繰り返し言うようだがオレはこの森の住人、ジュカインっ! それ以外の何物でもないんだっ。
だから諦めてさっさと帰れ、帰れっ!」
ジュカインは吐き捨てるように一気にそう言い、シッシッと手をはためかす。
ジュカインのその真剣な返答に、ぼくは口ごもる。先程までのようなノリで言葉を返すことは出来なかった。
「……」
フライゴンが更に不安げな色を増した目付きでぼくに目配せする。
と、ジュカインは小さく鼻でため息をつきながら、スッと身を翻し歩いていってしまった。
静寂の中、まるでカウントダウンのようにペタペタとジュカインの足音が木霊する。
こめかみから一筋汗が滴り落ちる。ぼくはジュカインの後姿目掛けて、叫んだ。
「誰が諦めるもんかァ!!」
ぼくがそう叫んだ瞬間、ジュカインはふと歩みを止めた。
201:7/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:58:51
そうだ、ここで諦めるわけにはいかない。
ここで諦めるという事は、すなわちジュカインと永遠に別れるという事。
記憶が戻る可能性なんて少ないけど……そのジュカインが今目の前にいる事は確かだ。
そうだっ、ぼくだってふとした事で完全に忘れていた昔の事をいきなり思い出すことがある。
それと同じ事で、ふとした事で昔の記憶を取り戻すなんて十分ありえる事じゃないか。
そう、人間の記憶ってものはゲームのセーブデータなんかとはワケが違うはずだ。
何で記憶が無くなったのかとかは一切不明だけどともかく、ジュカインの記憶が戻ってくる可能性は大いにあるっ!
ジュカインは、ゆっくりと身を捻りこちらを振り向く。
その彼の目付きは、ぼくを哀れむような蔑むような冷たい目付きで……
それでもぼくは負けじとじっとジュカインを見つめ続ける。
「ジュカイン!! 様子はどうだ!?」
「!?」
突如、聞きなれない声が耳に入ってきた。
ジュカインの目付きが変わり、声のした方向へ体ごと振り向く。
ぼくもそちらへ視線を走らせる。そこには……見慣れない数匹のポケモン達がいた。
「ぞ、族長」
ジュカインがふとそう言う。
今のジュカイン以外にも、この森には沢山住人がいたという事なのか。
二足歩行の緑色のポケモン達が、ぞろぞろとこちらへやってくる。
何となくだけれど、またややっこしい事になりそうな気が……する。
つづく
202:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 16:06:59
これでやっと以前小説スレで投下した分すべてを投下し終わりました。(かなり追加や修正が入ってますけど)
明日からは、小説スレでも投下していない新しい部分に入ります。
その代わり毎日投下するのは無理になりますが、よろしくお願いします。
203:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 18:26:33
キタ━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━ッ!
204:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 22:41:02
族長はジュプトルと予想
205:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 23:50:31 /fkZbRqo
今のうちに上げとくか
206:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 01:47:28
上げんなカス
207:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 06:50:15
上げると荒らしが来るお
208:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 18:20:04
オオカマドwwwww
オカマwwwwww
209:1/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:31:41
フライゴン、ラグラージ、ゴウカザル、レディアン、ユキメノコ……そして、ジュカイン。
ぼくの頼れる、そして愛する手持ちポケモン達。
ポケモンはペット、って言う人がずいぶん多いけれど、ぼくにとってポケモンはペットなんて物じゃない。
ペット以上って事は友達かな? いーや、それ以上だ。なら親友かな?
んーっ、もうちょっと上かなっ。家族? 子供? ……そこまで行っちゃうともう上限が無くなっちゃうか。
みんな出会いは偶然だったけれど、今やみんなぼくの人生に欠かせないパートナーだ。
しかし何の因果か今、ぼくはその欠かせないパートナーのほとんどとはぐれてしまっている。
この見知らぬ世界のどこかにいる事は多分確実だけれど、
この世界がどの位の広さなのか全く不明のままなので、再会出来るかどうか考え出すとまるでハテが無い。
……それなのに、ぼくはあろうことか一日もせずにもう仲間の一人と再会してしまった。
これはとても幸運な事だ。おみくじ的な段階で判定すれば、堂々最上段の『大吉』っていった所だろう。
だけど何とも運命ってのは意地悪なもので、この『幸運』をそのまま『幸運』としてぼくにプレゼントしてはくれなかった。
晴れて再会したぼくのジュカインには……いわゆる『記憶喪失』なんていう無駄なオプションがくっついていたんだ。
何でそうなったのかなんて一切不明だけど、そもそもが不明だらけのこの世界で何かを追求するのは止めておこう。
ともかく……ジュカインの『記憶』をどうにかして戻さなきゃぼくのジュカインは戻ってこない。
ジュカインはぼくの大切なポケモンの内の一匹。そのジュカインと別れるという事は、家族を失うのと同然。
そう、どうにかしてジュカインの記憶を戻さなければいけない……!
210:2/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:38:49
「ぞ、族長」
森の奥から、全身緑色のポケモンが続々とこちらへやってくる。
恐らくジュカインに族長と呼ばれているであろう先頭のポケモンは……同じく『ジュカイン』だ。
ただこの『族長さんジュカイン』は、ぼくのジュカインと違ってだいぶお顔と体の皺が深く、また目つきも少し穏やかだったり
背中に宿してる黄色い果実の数が違ったりと大きい違い細かい違い共に多く、簡単に見分けがつく。
そしてその族長さんジュカインの後ろにいるのは、暗くてよく見分けがつかないが多分キモリの集団だろう。
ともかくその二種族の集団がこちらへやってきたんだ。
「ジュカインよ、騒ぎはやはり魔王軍の……?」
族長さんは少し焦ったような口調でジュカインにそう問いかける。
「ま、そんな感じだったな。ボスのデカブツ梟は逃しちまったけど、次来たら返り討ちにしてやるさ。
……あと聞いてくれよー、何か変な奴らがいてさー……」
ジュカインが族長さん達に近づきながら、ため息混じりにこう言い出す。
「俺のことを『記憶喪失』だの『ぼくのジュカイン』だの何か変なこと言ってんだよね。
片方は見たことも無い生き物だしもう片方はドラゴンみたいな変な緑色だし、何か不気味でさ。何か言ってやってくれよ族長」
ジュカインはこちらを指差しながらそんなことを言っている。
族長さんは、そのジュカインの言葉を受けぼく達の元へ近づいて来た。
そして、それにつれどんどんと族長さんの目つきは訝しげな風に細まっていくのだ。
族長さんはぼくの目の前につくと、間髪入れずにこう聞いてきた。
「き、きみはまさか人間……なのか?」
211:3/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:43:49
怪訝な表情でじっとぼくの顔を見つめながらそう問いだす族長さん。
……そうそう、そういえばこの世界は……『ぼくたち人間が非常に珍しい世界』だったんだ。
ここ連続で命にも関わりかねないような危機に晒されたせいか、すっかり頭から抜けていた。
「……はい、ぼくは人間です」
ぼくがそう言ってみせると、族長さんの顔が明らかに驚きの色に染まった。
と、後ろのキモリ達の間からも一斉にざわめきが起こる。
「オイ、聞いたか人間だって……」
「人間って……あの人間っ!? あ、いやいやいや、人間『様』!?」
「ままままマジでェ~~~!? うわあ、すっげぇすっげーーーぇ!!」
「マジかよーーっ!! おいおい誰か紙持ってきて、スケッチするから」
「しっ、騒ぐな! 人間様に失礼だゾ」
まるで街角で有名人を目撃したかのような反応を見せるキモリ達。
彼らは、確かにこのぼくが『人間』と名乗ったことによって騒いでいるんだ。
……見下しているわけではないけれど、なんとなく切り札を出したみたいで愉快な気分だなぁ。
と、族長さんは一度コホンと咳払いをし柔和な笑顔を浮かべた。
「そうか、まさかまさかの珍客だ……とりあえず人間様、ようこそ『生命の森』へ」
212:4/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:48:34
「……な……なんだとォ~~~?」
ジュカインは信じられないと言ったような表情でこちらへ駆け寄ってきて叫びだした。
「おいおい困ったな、そいつが何なのか知らねーが、ようこそだなんて!
何か不気味だし、オレとしちゃーさっさと追放してもらいたいんだが―」
「それは『失礼な口』というものだぞ、ジュカインよ。お前はまだこの世界に来て日が浅いから知らぬのも仕方無いが……
このお方は『人間様』と言って、この世界ではほぼ『神』として崇められている種族なのだ」
「か……神だァ~~~?」
半信半疑といった風に、それでもやはり驚きは隠せない風な目つきでぼくを見るジュカイン。
ぼくはほくほくと溢れだす愉快な気分に胸を躍らせた。
そして『それ』は、ジュカインを驚かせた事のみによる物ではない。
先ほどの族長さんの『ある発言』による物でもあるのだ。
『お前はまだこの世界に来て日が浅いから』……という族長さんの発言。
これはもはや、あのジュカインがぼくのジュカインである最大の証拠じゃあないか?
だって、ぼく達がこの世界に来たのは数時間前……この日のお昼過ぎぐらいなんだもの。
という事はつまりジュカインだってその時間にこの世界に来たはずだ。
人間の事なんて知らないに決まってるし、日が浅いなんてレベルじゃないくらいここへ来て日が浅い。
僅かな不安はすぐに消え去り、同時に希望も満ちてくる。
この森のトップである族長さんはぼくを追放するつもりは無いみたいだし、もうこりゃあ時間の問題だね。
……いや、族長さんを何とか説き伏せれば今すぐにでもジュカインを引き取れるかもしれない。
「……では、人間様」
族長さんはこちらへ向き直り、ぼくにこう問いかけた。
「話を……聞かせてもらえるかな。『記憶喪失』とは……『ぼくのジュカイン』とは一体どういう事なのかを」
213:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 18:51:26
きたきた!
214:5/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:53:03
ぼくは、あくまで冷静にジュカインの事を族長さんに話した。
あのジュカインが恐らくぼくのジュカインである事を。
あのジュカインは何らかの理由で記憶喪失になっているであろう事を。
族長さんは何度か頷きながら終始神妙な顔つきを崩さずぼくの話を聞いていた。
ぼくの話に何を思っているのかは知らないけれど、ちゃんと理解はしてくれているはずだ。
「……なるほど」
一通り話を終えると、族長さんはうむぅと深く唸り考え込むように腕を組み始める。
やたらと緊張感ある沈黙がしばらく挟まれてから、族長さんは口を開きこう言った。
「ここは少し野次馬が多い。ついてきてくれ、奥で話そう」
「え……奥で?」
一瞬以前の村でのハスブレロ村長との出来事が頭によぎるが、ぼくはすぐに頷いた。
この人はきっとあんな事はしない。根拠は全くといっていいほど無いけれど、子供の勘ってのはけっこう当たるものなんだ。
「おい、みんな。わしはこの人間様と二人きりで話す。しばらくここで、待っていてくれ。……さぁ、行こうか人間様」
族長さんはみんなに向かってそう呼びかけ、ぼくに向かって手で合図しながら森の奥へと歩を進め始めた。
それについていこうとすると、フライゴンが慌てたようにぼくに駆け寄ってくる。
「ちょ、ちょっと、コウイチくん!」
「ん? どしたの、フライゴン?」
「ひ、一人でいっちゃあ危ないですよ! もしも前の村のように閉じ込められちゃったら……!」
フライゴンは心底不安そうな目つきでぼくを見つめながらそう叫ぶ。
ぼくはフライゴンの肩に手を置き、安心させるように声を弾ませてこう言った。
「だいじょーぶっ! あの人はそんなことしそうにない雰囲気だし、
それに二度も同じ目に会う程ぼくは馬鹿じゃあないさ。
きっとうまく話つけてくるから、あのキモリ達と遊びながらここで待っててね!」
「……」
フライゴンはまだ顔に若干不安げな色を残したままだけど、大人しく引き下がってくれた。
ぼくはフライゴンにニコリと一度ほほえみかけ、一人族長さんの後をついて森の奥へと入っていった。
215:6/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:57:11
「さて、ここらでいいだろう」
キモリ達のざわめき一つ聞こえないくらい奥まで来てようやく、族長さんは足を止めた。
振り向きざまに族長さんはバツの悪そうな笑みを浮かべ、すまなそうにこう言った。
「すまんな、人間様。こんな所まで連れてきてしまってな……
あのキモリ達はやかましくてな……ジュカインを見つけた時もあの子達はうるさく騒いで、
ジュカインを相当困らせたものだ……きみも、小うるさいのは嫌いだろう」
「あ、はい……」
この場所移動はやはり、何てことはない族長さんの配慮に過ぎなかったんだ。
改めて安堵すると共に、もう一つ新たな疑問も生まれる。
「あのう、ちょっと一つ質問いいですか?」
「ん? なんだね」
「いま族長さんが言ってた、ジュカインを見つけた時のこと……詳しく教えてくれますか?」
「おお、分かった。確かあれは三日ほど前のことだったな……」
上を向き目をつぶり、ゆっくりと語り始める族長さん。だが、ぼくは語り始めからいきなり耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
「えっ! な、なんだね?」
突然突っ込まれて呆気に取られたのか族長さんは軽くどもっているが、ぼくは気にせず、すぐに疑問を投げかけた。
「いま、『三日ほど前』って言いましたね……あなた嘘ついてませんか?」
「……? いや、嘘なんてついているつもりは一つもないぞ。全て事実のことだ」
「え……?」
『それこそ嘘なんじゃあないですか』という言葉が一瞬喉から出掛かるが、ぼくはそれを喉の内にとどめる。
嘘を言っているようにも見えないし、何よりどう考えてもこんな所で嘘をつく必然性が全くないからだ。
だとするなら族長さんの言っている事は『本当』って事になるけれど……
もしそうなら、あのジュカインはぼくのじゃあなくて……
いや、いや、いや!
ぼくとフライゴンは『今日の』この世界に飛ばされたわけだけど、ジュカインは『三日前のこの世界』に飛ばされたってだけの話なんだ。
そもそもが非常識なこの世界。常識で物を考えちゃあいけない。
族長さんはぼくが黙り込んでしまったのを確認し、再び語り始めた。
216:7/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:03:29
「そう、三日ほど前のことだ。あれはお昼時だったかな……夕暮れ時だったかな……
発見したのはわしではなく、キモリ達だ。この私と同じ種族のモンスターが倒れているという知らせがあってな……」
そこまで言うと族長さんは数歩足を進め、そこの地面から突き出る石に手を添えた。
「この石の近くに、ジュカインは倒れていた。目を覚ましたジュカインは物を喋ることは出来たものの、
自分の事を何も知らなかった。どこから来たのかも、己の種族名すらも全て……」
「……ってことは、やっぱり……!」
「……ジュカインには頭を強く打っている後があった。何かの拍子に、
この石に頭をぶつけたんだろう。つまり、おそらく貴方の言う通りだ……」
「……!」
ぼくは表に出さずとも心中で歓喜の声を上げガッツポーズを取っていた。
もしかしたら少し顔に出てしまってるかもしれない。気づかれてたらイヤだなァ。
ここまで来たら、もはや全てが確実だっ。
「やっぱり、やっぱり、あのジュカインは元々ぼくので間違いはなさそうですねっ!!」
ずいと前に出て、そう叫ぶ。自然と声が弾む。
「ぼくもジュカインも、違う世界からこの世界へ飛んできて、
ぼくと連れのフライゴンってポケモンは、気がついたらある湖のほとりに倒れていました。
ジュカインも、気がついたらこの森に倒れていた。
つまりぼくらと同じで、ジュカインも『飛ばされてきた』ってことですっ!
こうなればもはや、あのジュカインがぼくのジュカインである事に一片の疑いもありません。
さぁ、ジュカインはこのぼくが引き取りましょう! いいですよねっ!?」
声を高らかに、ぼくは族長さんへ向けてそう言い切る。
……ぼくはその時、族長さんはすんなりと『いいですよ』との返事をくれると思っていたのだけれど……
なんと族長さんはぼくのその言葉に、ひどく目を迷いに揺らしながら何やら考え込み始めたのだ。
その反応に、ぼくはたまらず焦りを覚える。
……何を迷っているんだよっ、貴方の答えは一つでしょうっ!? さぁっ! さぁっ! さぁっ!
「すまぬが、ジュカインを引き取るのは……遠慮してくれないか……?」
「えっ……」
217:8/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:06:39
族長さんの冷たい宣告がぼくにのしかかった。
「いや……人間様には悪いとは思うのだが……
わしは、あのジュカインは『神の恵み』だと思っておる。あの凄まじい強さはまさに森の守り神となりうる……
竜騎士様の管轄外であるこの森は、もし先程のように魔王軍に襲われてはひとたまりも無いからな。
この森が、そしてわし達が無事でいるためにはあのジュカインが必要なのだ……」
「……」
族長さんの目は真剣そのもので、そう簡単に引いてくれそうもない雰囲気を醸し出している。
だけど、勿論ぼくだって引く気はない。ここで引いたらジュカインとぼくの関係は完全にお仕舞いだ。
「え、ええと―」
間隔を空けぬよう口を開き適当な事を唸りながら、族長さんの言葉への上手い反論を何とか考え出そうと、必死に脳をかき回す。
ふと天啓の如くある反論の芽が芽生え、ぼくはすぐにそれを口に出した。
「あの、さっきの魔王軍の奴らはぼくを狙ってここへ来たんです!
決してこの森や貴方達が目的で来た訳じゃあないんです。ええと、だからですねっ」
くそう、言ってる内に考えてる事がこんがらがって来ちゃう。
……こういう時は、『直前に言った事を確認するように問う』。そうやって時間を稼ぐんだ。
「魔王軍の奴ら、ぼく達が来る前にこの森に来た事はないでしょ?
だからその、安心ですよ。『守り神』なんて必要ないはずなんですっ!だからですね、そのっ」
すぐに言葉に詰まってしまう。次の『言い訳』がすぐには浮かんでこないよ。
「だ、だからですね……ええと、あの~、その~……」
もう適当に『あの~』だの『その~』だの唸って時間を稼ぐのも恥ずかしくなってくる。
そうやって必死に次の言葉を頭の中で模索する中、ぼくはふとこう口にしてしまった。
「だから、ジュカインはぼくに返して下さい、お願いします」
あちゃあ!! 言った瞬間思わずぼくはそう叫びそうになった。
言うに事欠いて、あまりにストレートすぎる物言い。建前というか『遠慮』って物がなっちゃいない言い草だ。
その失言を慌てて取り消そうともう一度口を開きかけた時……ある思考がぼくの頭の中で展開された。
『遠慮』?
……何で、何でぼくが『遠慮』なんてしなきゃあいけないんだ?
218:9/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:10:14
考えてもみれば、ジュカインは元から完全に『ぼくのモノ』だ。
あの族長さんには、いわば少し貸しているだけに過ぎないんだ。
それなのに、『何でぼくが遠慮しなきゃあいけないんだ』?
普通なら、どんな理由があろうと絶対的に遠慮しなきゃいけないのは族長さんの方だ。
だって、ジュカインは元から族長さんのものじゃあないんだもの。ジュカインは、ぼくのポケモンであってぼくのパートナーなんだもの。
今の族長さんが言ってる事は、例えばゲームソフトを借りて
『お前のセーブデータ消えちゃったからこのソフト俺がもらっていい? ねぇ、もらっていいかなあァァ~~
いいよねえェェ~~~、お前のデータ消えちゃったんだしさあァァアアァァ~~~~』なんてぬかしてるような物だ。
そんな理屈通るか? そうだ、『遠慮』なんて一つも必要ないんだ! ジュカインは返してもらう!
「……そうだよ、まずぼくに引き下がる理由は、一つもないんだ」
ぼくはジッと強くまっすぐ族長さんを見据える。
族長さんのただでさえ迷いに揺れていた目が、一層迷いに揺れる。
ぼくは、畳み掛けるように声量を少し大きくして言った。
「遠慮してくれって言われて簡単に遠慮できるもんか。
なぜかって、ジュカインはそれ程ぼくにとって大切な存在だからです。
ジュカインは元々ぼくの仲間。家族って言っても差し支えは無いかもしれません。
だから、族長さんはジュカインをぼくから借りてるだけに過ぎないんです!」
そこまで言ってから一息つき、頭の中で言いたいことを整理しなおす。
少し失礼というか過激な物言いになってしまうかもしれないけれど、仕方が無い。
「分かりますよね? 借りた『物』は返すなんて常識中の常識じゃないですかっ。『生き物』でも同じでしょうっ!?
族長さんには悪いと思いますけど……族長さんこそ遠慮してくださいっ!」
そこまで言い終えても、ひたすら族長さんの目を真っ直ぐ見据える。
そのまま沈黙がしばらく続き、ようやく族長さんが口を開いた。
「証明が……ない」
219:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:12:13
支援
220:10/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:14:46
「えっ?」
ぼくは思わず感嘆符を漏らしてしまう。
この族長さん、何が言いたいっていうんだ……?
「確かに君の言う通り、あのジュカインを借りてる身のわしが『遠慮してくれ』なんて言うのはふてぶてしいと思うよ……
魔王軍がこの森で騒ぎを起こしたのも、確かに今日がほぼ初めてと言っていい。
だが、そもそもわし達は君達が来るまであのジュカインを借り者である事すら知らなかったのだ。
そして、こうして君が現れた今でさえ『ジュカインが君からの借り者であるれっきとした証明がない』。」
迷った目つきのまま、ひどく自信の無い低いトーンでそう告げる族長さん。
『証明がない』だって? 確かにジュカインは今記憶喪失になってるわけだけれど、証明がないから返さないなんてそんな―
思わずぼくは少し怒って大声を上げかけたが、それよりも先に族長さんは今までより語調を強めこう言った。
「その『れっきとした証明』が出来たのならばっ!! ジュカインを君に返すと約束しようっ!!」
「!」
族長さんは、真っ直ぐとぼくの目を見据えている。
その目には、少し前まであった迷いは幾許か消えていた。
『れっきとした証明が出来たのならば』……つまり、『ジュカインの記憶が戻ったら返す』ということか?
「で、でも……」
思わず反論をしようと口を開いてしまうぼく。自分でも何を言おうとして口を開いたかはよく分からない。
言葉として表現しにくい心中のモヤモヤをどうにか言葉にしようと頭を動かしていると……
「そりゃあいい案だぜ、族長!」
突如、沈黙を割って彼の声が聞こえた。
声のした方向へ目を向けると、その方向にあった木の合間から……彼が姿を現した。
「ジュ、ジュカイン!!」
221:11/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:20:31
「わけ分かんねぇガキにわけ分かんねぇまま連れ回されるなんてイヤだからな。
全くもっていい案だぜ族長。お前もそう思うだろ、人間さんよっ! カッハハー!」
愉快そうに高笑いを上げながら、ジュカインはこちらへやってきた。
「ジュカインよ、聞いていたのか?」
族長さんもジュカインの出現に少し驚いているみたいだ。
ジュカインは族長さんのその問いには答えないまま、こう言い出した。
「そして、このままそのわけ分かんねぇガキにずっとここに居座られて、
身に覚えのないことを耳元で毎日毎日聞かされても困る……
よって、この案には『期間』を設けさせてもらうぜ、人間さんよ」
「『期間』だって?」
ジュカインは変な笑みを浮かべながら、ぼくと族長さんを互いに見交わしている。
期間って事はつまり……ぼくはたまらずジュカインに問う。
「期間って事は、つまりその期間内にきみの記憶が戻らなかったらぼくを森から追い出す……ってこと?」
「そっ、そーいう事さ。で、その『期間』もどんくらいかこのオレが決めさせてもらうぜ……いいよな、人間さんよ?」
「えっ……う、うん……」
流されるようにぼくがそう承諾してしまうと、ジュカインは一度ひどく意地悪そうな笑みを浮かべ……こう言った。
「明日の朝までだっ。
明日の朝までオレの記憶が戻らなかったら、お前は即・刻・追・放っ!!」
「えっ!?」
ジュカインの出したその『期間』の程に、ぼくは咄嗟に声を上げていた。
『明日の朝』!? もうほとんどすぐの事じゃないか!
「ちょ、ちょっと待ってよ! 明日の朝なんて!
寝て起きたらすぐじゃないか、それじゃあ期間なんて無いのと同じじゃないか!」
ぼくが慌ててそう訴えると、ジュカインは悪戯めいた笑みを浮かべながらこちらへ顔をズイと近づけ、声を張り上げた。
222:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:28:03
支援
223:12/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:30:04
「何だお前、オレに文句言うってのか!?
これは完全に『オレの問題』だ。オレがどんな条件つけようと構やしねぇだろう?
そもそもこの時点で、オレとしては都合のいい条件飲みまくってんだ。
本当なら『今から一分以内』って言っていい所を、あえて『明日の朝』までに抑えてやってるんだぜ!
ここは逆に感謝すべき所だろうよ!? カハハハーーッ!!」
言い終えてから、ジュカインは心底愉快そうに高笑いしだした。
……記憶が喪失している当人とは思えない言い草だ。
だけど、ぼくは何も言い返せない。
族長さんはまた迷ったように目を泳がせているが、何も言うつもりは無いようだ。
「クケケッ、俺がちいっとでもお前のことを思い出したら約束通りお前についてってやるさ……
まっ、んな事あり得ないってのはこの俺自身が一番よく分かってる事だがな……
だいったい、『ぼくのもの』だの『貸す』だの『返す』だのオレをモノ扱いしてんじゃねーよ、カハハーッ!」
ジュカインはまた愉快げに笑い声を上げながら、踵を返し木の奥へ消えていった。
……辺りに静寂が戻ってきた。
「……人間様」
族長さんは立ち上がり、ぼくの肩にそっと手をやってきた。
「……すまない、本当に……だが、わしを恨まないでくれ。
とりあえず今日はこの森で夜を過ごしてくれ。寝床はいくらでもあるから……」
すまなさそうに眉根を顰め、気を遣うようにそう言う族長さん。
だけど、ぼくはその言葉に反応を返せないほどに今衝撃を受けていた。
……胸の内に悲しいような悔しいような……不思議な感覚がもやもやと渦巻いて止まらない。
喪失感と似ているけど、また少し違った感覚。言葉では表現しにくい。
あのジュカインは、間違いなく『ぼく』のジュカインなんだ!それなのに……
つづく
224:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:40:27
乙です
225:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:41:53
乙ー
226:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:46:15
記憶どうやって戻すつもりなんだろうこりゃ
ここまでシリアスな流れになっちゃったから、
適当にコケて頭ぶつける→記憶戻る→大団円
っていう手っ取り早いパターンの線が消えちゃったじゃないかw
227:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 20:31:59
GJ!
228: ◆8z/U87HgHc
07/12/03 21:17:38
言い忘れましたが、明日も今日と同じ時間に投下しまーす
229:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 15:13:38
オオカマド博士の濡れ場を希望
230:1/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:30:20
ぼくは多量の不安を残したまま、族長さんと一緒にフライゴン達がいる場所に戻ってきた。
フライゴンとキモリ達は仲良くなったのか、何やら盛り上がっている。
「あっ、人間様と族長様だー」
「二人ともおかえりなさいー」
「コウイチくん! あと、族長さん、おかえりなさーい」
何匹かのキモリがぼくらを笑顔で出迎え、フライゴンは何かモグモグと食べながら
なぜだかホッとした風な笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
「いやぁ、遅いから心配しましたよー! 前の村みたいにまた捕まって閉じ込められてやしないかと、
ちょっとソワソワしちゃってました……えへへ、いらない心配でしたかねっ」
「あ、うん……何ともなかったよ」
……何ともなかったと言えば嘘になるけど、フライゴンの笑顔はあまり崩したくないのであえて嘘をついておく。
ジュカインの事を言うのは、もう少し後でいいだろう。
「ところで、聞いてくださいよコウイチくん! ボクここの子達と仲良くなったんですけどねー、
面白い特技持ってる子がいるんですよ。ホラ、モリくんコウイチくんにきみの特技見せてあげてっ」
「任せろ! ほれコウイチくんとやら、オレの技を見て驚けー!」
モリくんと呼ばれたキモリは近くの木に足の平をくっつけたと思うと
そのままの状態で突然ブランと上体を寝かせ、そのまま勢いよく、まるで忍者か何かのように木を垂直に走り出した。
同時にキモリ達の間から歓声やら拍手やらが巻き起こる。
231:2/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:34:54
「よっ、と」
モリくんは足を木に貼り付けたまま木の枝から何かを取ると、ぼくに向かってそれをひょいと放り投げた。
「うわ、わ」
慌ててキャッチすると、野球のボールみたいな随分と固い感触が手の平を走る。
じっと見つめてその物体の正体を確かめようとすると、木の上からモリくんの声が降ってきた。
「コウイチくんとやらー! それ、ここらの木にたっぷり生えてるラムの実って言う果物で、
殻は固いけどとっても美味しいんだ、よかったら食べておくれー!」
「は、はあ……」
どうやら果物のプレゼントだったみたいだ。
フライゴンのやつ、何か食べると思ったらこの木の実を食べていたのか。
……モリくんの気遣いは嬉しいのだけれど何となく食べる気になれない。
ぼくがじいっと手の上の木の実を見つめ続けていると、フライゴンがニコニコしながら話しかけてきた。
「ねっ、カッコいいでしょ!? 彼、みんなからザ・NINJAって呼ばれてるみたいで……
……って、コウイチくん……何かーその、リアクション薄くないですか……?」
「え? あ、ああ、す、凄いねっ!」
すっかり忘れていたリアクションを慌てて取ると、随分と演技っぽくなってしまう。
……いや、実際演技なんだ。ジュカインの件のせいか、どうも騒いだり感動したりする気になれない。
と、そんなぼくの心情を見透かしたようにフライゴンはこう問いかけた。
「あのう、何だか全然元気ないみたいですけど……どうしたんですか? 族長さんと何か、あったんですか……?」
ぼくの顔を覗き込み、心配そうな目でじぃっと見つめるフライゴン。
「……」
ぼくは少しためらいながらも、先ほどの族長さんとジュカインとの話の内容をフライゴンに聞かせた。
232:3/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:38:56
「そんな……それってちょっと『無理』じゃあないですかっ!」
ぼくが全て言い終えると、フライゴンはたまらずそう言っていた。
「無理っていうか……難しいかな」
この夜から明日の朝まで、わずかな時間でジュカインの記憶を戻すなんてとても難しいことだ。
いや難しいっていうか、確かにフライゴンの言う通り『無理』かもしれない。
「まったくジュカインのやつっ! あいつ本当に性格悪いですねっ!
なんにも覚えてないからって、ズケズケとコウイチくんにひどい事を……」
「いや、でも……確かに仕方ないことだよ。
ぼくだって突然見知らぬ人に連れて行かれそうになったら怖いもの。」
「んー、まぁ確かにそうですけどさー……でも、だからってジュカインのやつ……ん?」
と、フライゴンはそこまで言ってから一旦言葉を止め、ふとキョロキョロと辺りを見回しだした。
「っていうか、『そのジュカインは』……?」
そう呟きながら辺りを見回し続けるフライゴン。
ぼくはフライゴンはジュカインを探していることに気づき、同時にジュカインが辺りにいない事にも気づく。
「そういえば見当たらないね、ジュカイン」
「ええ、どこにいったんでしょうかね……さっきコウイチくんと族長さんが行ってからすぐどっか行って……
それっきりですよっ! 戻ってくる気配ありませんし、いつの間にか戻ってたーって事もないようですし。見た限りですけど……」
『ジュカインが戻っていない』。ジュカインは、ぼくと族長さんよりも早くこちらへ戻ってきた筈なのに『いない』だなんて……
どこへ行ったんだろう。おしっこでもしに行ったのかな……いや、こんなに遅いんだから大きい方か……
……
まさか
ふと、ぼくの頭にある恐ろしい予測が浮かんだ。
233:4/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:43:06
「ねぇ、フライゴン聞いて。今ふと、ちょっとしたある予測が浮かんできたんだけど……
例えばの話……うん、あくまで例えばの話なんだけれどね」
「はい? 予測……ですか~~」
フライゴンがぼくに顔を近づける。
ぼくもフライゴンに顔を近づけ、よく聞き取れるようにゆっくりとその『予測』を話し始めた。
「もし……ジュカインがハナっから記憶戻るか戻らないかなんて賭け、受けるつもりなんてないとしたら?
記憶が戻っちゃう事を恐れて……あるいは、ぼく達をからかうために、
ジュカインがこのまま明日の朝までこっちに戻ってこないとしたら?
要するに……ジュカインがこの晩だけ『逃げてた』としたら?」
「……はい?」
ぼくの長々とした予測を聞いて、呆けたような顔を浮かべるフライゴン。
しかし、その表情はみるみると焦りの色に染まっていく。
フライゴンはついに完全に把握したように、こう叫びだした。
「……ま、まさかっ、そんなっ! ジュ、ジュカインのやつ……!」
フライゴンは怒ったような表情を浮かべたと思うと、いきなり羽をはためかせ宙に浮き始めた。
ラジコンヘリの駆動音のような羽ばたきの音が森に響き始め、キモリ達の視線が一斉にこちらに集まる。
「ちょ、フ、フライゴン、どうしたの?」
相当に気が立っているのか鼻息を随分と荒くさせながら、フライゴンはこう答える。
「もちろん、ジュカインを探しに行くんですよ! とっ捕まえてビンタでもして無理やり記憶戻してやるっ」
「だ、だから例えばの話って最初言ったじゃないかぁ、落ち着いてよっ!」
フライゴンはぼくのその言葉を聞かずに、体を前に倒し飛行を始めた。
……全くその瞬間の事だ。
「たぁだいまァ~~~」
234:5/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:45:47
「!?」
急に、辺りに聞き覚えのある声が響き渡った。
その声が誰のものであるかすぐに理解し、そしてぼくはほっと安堵する。
声の方向を向き、声の主を確認する。やはりジュカインだった。
どこに行っていたかは知らないけど、逃げたわけではなかったんだ。
「おっ、ジュカインさんおかえりー」
「ジュカインさん、どこ行ってたのー?」
「ジュカインさーん」
キモリ達や、木の上に登っていたモリくんも木から飛び降りて、ジュカインへ駆け寄っていく。
ジュカインはキモリ達の頭をあやすように撫でながら、ゆっくりぼく達の方へ近づいてきた。
「ジュ、ジュカイン……!」
フライゴンはすんなり帰ってきたのが意外だったのか、ジュカインを睨み付けだした。
「カハッ、何だい何だい、俺が逃げるとでも思ったかい?
カハハッ、失礼な奴だなァ~~。オレはそんな薄情なヤツじゃねえぜ!」
ジュカインは神経を逆なでするように眉根を寄せ口元に笑みを浮かべている。
苛立った様にフライゴンが 「ゔ~~~っ」 と低く唸りだす。今にも突っかかりそうな勢いだ。
変にトラブル起こさないように、ぼくは咄嗟にフライゴンを宥めた。
「ま、まぁよかったよとにかく戻ってきて。それに越したことはないよ。だから怒らないで……ね?」
「そ、それはそうですけどね……む゙~~~っ」
どこか納得行かないようだけれど、とにかくフライゴンは肩の力を抜き怒りを納めた。
ほっと一息つくと共に、ふとある疑問がぼくの頭に浮かぶ。
ジュカインは今までどこへ行っていたのか?
そしてその疑問が浮かんだ直後、ジュカインが手で何かを引きずっている事にもぼくは気づいた。
……大量の、網?
235:6/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:48:09
ジュカインは、黒い幾重にも重なった網を片手で引きずっている。
今までしばらく姿を消していたのは、どこかにこの網を取りに行っていたからなのだろうか。
……それで、この網は何のために持っているのだろう。何かに使うために持っているのだろうか?
まさかこれから海行って地引き網でもするってワケはないし。
「ねぇ、ジュカイン。この網……」
「ああ、この網か? ……寝るのに使うんだよ」
「寝るのに使う? ……網を?」
『網を寝る事に使う』……ぼくはすぐさまピンと来た。
こんな深い森の中で、網を寝ることに使うといったら『あれ』だろう。
ぼくは実際に使ったことはないけれど、テレビや本で何度か使っているのを見たことがある。
ジュカインはどこか曰くありげな笑みを浮かべながら、話を続けだした。
「そう、俺たちは何も地べたに眠るってわけじゃあないんだ。土くれや小さい虫が背中についちまったら気持ち悪いだろーよ。
このでっかい網を木と木の間にくくりつけて、めくり広げる。そしたらあっという間に快適就寝具が完成さ。
『ハンモック』っつーんだけどさ、それを作るためにこれ持ってきたってワケ。
……おおい、みんなー! 網持ってきたから、ちゃちゃっとハンモック作ってさっさと寝ようぜっ!!」
ジュカインは網の事を語り終えると、周りのキモリ達にそう呼びかけ始めた。
……
ちょっと待て、いま『コイツ』何て言った?
236:7/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:52:06
「そういえばもうそんな時間かー」
「お空はもう灰色時だもの。いつまでも夜遅く騒いでると森に怒られちゃうよっ」
「よーし、用意だ用意だー」
キモリ達が近寄ってくる。ジュカインは一匹一匹に網を手渡していく。
キモリたちは、それぞれ網を木にくくりつける作業を始め出した。
今日を終わらせようと、各々寝床を作る作業を始めている。
そして、今ジュカインも網の一端を木にくくりつけハンモックを作ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!」
ぼくは慌ててジュカインに駆け寄り、ハンモックを作る作業を止めるように腕を掴んだ。
ジュカインは、寝るつもりだって言うのか?
寝てしまって……『今日を終わらせようというのか』?
やっぱり逃げるつもりだったんだ。記憶戻るか戻らないかの『賭け』なんて受けるつもりなかったんだ。
ぼくがジュカインを睨みつけていると、ジュカインは浅いため息をつきながら言った。
「……何だい何だい。眠るなとでも言いたいのかい? ええ?」
「そ、そうだよ! 『明日の朝』までって言ったのは誰だよ、眠るなんて卑怯だよ!」
「カハハ、卑怯も何も……オレは眠いんだ。お前も眠いだろ?
オレ達この森の民族の間にはな、空がねずみ色になったら眠るってしきたりがあるんだ。見てみろよ、空を」
ぼくはバッと空を見上げる。無数の葉っぱの奥には一片の青もないくすんだ灰色の空だけが広がっている。
ふと、こめかみから一筋の冷や汗。
胸の奥から、ざわざわと焦りが……不安が……込み上げてくる。
……しきたり……眠る……明日の朝までジュカインの記憶が戻らなかったら……追放……即刻……!
237:8/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:56:19
「ジュ、ジュカイン!!」
「あん?」
どこか小気味よさそうな半笑いを浮かべたまま、ジュカインはそう返事する。
ぼくは真っ直ぐそのジュカインの肩を掴み、焦りのままに必死に訴えかけた。
「お、思い出してよォ!! ほら、何年間もぼく達一緒だったじゃないかっ!!
きみがまだキモリの頃から、ずっとずっとずっと嬉しいときは喜び合って悲しいときは泣き合って一緒に生きてきたじゃあないかっ!?
助け合ったこと励まし合ったこと何もなンにも覚えてないのかよォ、ジュカイン!! ねぇジュカイィン!?
思い出してよ、思い出してくれよォ!! ぼくの顔を見て、フライゴンの顔を見て、思い出せェっ!!」
その声は、自分自身でも信じられないくらいに焦りに満ちている。
当然だ、ここでジュカインの記憶が何一つ戻らなかったら、ぼくらは……!
胸のうちに不安を秘め、目には期待を込め、ぼくはジュカインを真っ直ぐ見つめる。まっすぐ、まっすぐっ。
……ジュカインは半笑いの表情のまま、ぼくとフライゴンの顔を見交わし……フッと鼻で笑いこう言った。
「さぁ……? 何一つ身に覚えがないねぇ?」
「ぐっ……!」
焦燥感が、胸を炙り始める。それにより、びちゃびちゃと溢れ出してくる不安。不安。
なんでっ、なんでっ……どうすればっ、どうすればっ!!
238:9/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:59:46
ぼくは必死に思考を巡らせる。どうやれば記憶が戻る、どうやれば思い出させられる。
……そうだ、何か思い出の品があればっ! ぼくとジュカインとの思い出の品……あっ!
ぼくはふと閃き、胸ポケットに入れてあるトレーナーカードから一つバッジを取り出し、ジュカインの前に突きつけた。
「ほ、ほら、これを見て!! ノボセシティジムの牧島カレンさんを倒して手に入れたフェヌバッジだっ!!
これを手に入れられたのは、あの人に勝てたのは、全部きみのおかげだったね。
きみが頑張って踏ん張って戦い抜いてくれたおかげで、このバッジは手に入ったんだっ!!
ねぇ、これに何の見覚えもないのっ!? せめて、こう、何か少しは感じるものがあるだろうっ!? ねェっ!?」
震える指でしっかりフェヌバッジを掴みながら、ジュカインに見せ付ける。
これで、きっと思いだすっ、きっと思い出してくれるっ!
きっと……! きっと……!
「う……うぐぅ~~~」
……!?
……なんとその願いが通じたのか、ジュカインは突如俯き、何か唸り声を上げだした!
頭を抱えて、苦しそうに……さも、『何かを思い出していく』かのように……!
ジュカイン……!
「ジュ、ジュカイン!? なっ、何か思い出しているのっ!?」
ぼくがそう言うと、ジュカインは唸るのを止めてゆっくりと顔を上げた。
ジュカインはじぃっとぼくを見つめだす。目が覚めたときのようにどこか呆けた顔つきでじいっと、じいっと……
……沈黙。
……そして。
239:10/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:03:58
「はてェ~~~ッ!? オレにはそんなバッジッ!! ぜんっ!! ぜんっ!! 見覚えがございませェーーーーんッ!!」
「えっ」
返ってきた答えは、ぼくの期待していた答えとは全く真逆のものだった。
そして、そう言ったジュカインの表情には笑みが満ちている。『完全に人を馬鹿にしたかのような笑み』……
……あの『何かを思い出していく』かのような行動は、全て演技だったんだ。
ぼくを虚仮にするための、演技だったんだ。
「あっ、あああぁぁっ」
腑抜けた声が、勝手に喉から搾り出される。
急に体から力が抜けていくような感覚に襲われ、ぼくは思わず膝を付きそうになる……
……が、ぼくは何とか踏みとどまった。
地にしっかりと足をつけ、まっすぐジュカインの顔を見据える。
「……クケケッ、どうしたんだよ人間サマ?」
「……」
……まだ諦めちゃいけない、だから諦めるなっ、ぼくっ
……そうだ。どんな時だって、諦めなければ必ず活路が生まれるっ……!
何とか心中で自分を励ましながら、再びぼくは思案を巡らせる。
そう、思い出の品だっ。何か、思い出の品っ……
記憶を辿る。ジュカインとの思い出から、ジュプトルとの思い出へ。
ジュプトルとの思い出から、キモリとの思い出へ、そして出会いの思い出―
―『視覚』で通じないなら―
その瞬間、また一つある閃き。
240:11/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:09:43
「ジュカイン……初めてぼくがきみを見つけたとき、きみはすごく飢えていたよね」
心を落ち着かせ、ジュカインを見つめながらぼくはゆっくりとそう言う。
「あぁ?」
笑みを表情から消し、不機嫌そうに言うジュカイン。
ぼくはポケットをまさぐり、いまからジュカインにやろうとしている思い出の品……
それが詰まった、『ポフィンケース』を取り出した。
「……?」
ジュカインはそのポフィンケースを見て、疑問めいた表情を浮かべる。
ぼくはポフィンケースからドギつい『赤色のポフィン』を取り出し手の平に乗せ、そのジュカインに向かって差し出した。
「赤くて、辛いポフィン……これは、その時きみにあげたお菓子だ。
その時きみは、このお菓子を嬉しそうに食べてくれたね……その表情、ぼくはよく覚えている。」
「……」
ぼくはそう言ってからちょっとだけ目を瞑って、当時のことを思い出してみた。
凶暴な野生のポケモンだらけのある裏山……そこに一匹場違いな、傷だらけのキモリがいた。
キモリは傷だらけなばかりか、痩せこけて衰弱していて……ほとんど死に掛けていたっけな。
そのキモリにぼくは、この赤いポフィンをあげたんだ。その時のキモリの嬉しそうな食べ方、その後の満足そうな表情、よく覚えている。
だからきっとこの赤いポフィンの味は、ジュカインの心に深く深く焼きついているに違いない。
だからこのポフィンを食べさせれば、多少なりともジュカインの記憶は―戻るはずだっ
「サァ、食べてジュカインっ……! これを食べれば、きっと思い出すよ……!」
ぼくはそう言って、ジュカインへ軽くほほえみかける。
ジュカインはおずおずと、ぼくの手の平の上のポフィンに手を伸ばした。
これで……きっと思い出してくれる……!
パシッ
241:12/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:16:58
「あっ」
一瞬、時間が止まったかのようだった。
ジュカインは、ぼくの手の平の上のポフィンを手で弾き飛ばしたんだ。
「のヤロォ……」
ジュカインは苛立ったように唸りながら、床に落ちたポフィンの元へ近寄り……ポフィンを踏み潰した。
そのままぐちゃぐちゃと踏みにじり……そして吐き捨てるように、ぼくに向かってこう言った。
「いい加減にしろよ、テメェ……!」
「―っ」
あまりの衝撃に、ぼくは言葉さえも出なかった。
そのジュカインの表情には、あの悪戯めいた笑みさえも、ない。
……怒っている……? ……本気で……?
「いい加減にするのはどっちだッ!?」
「!!」
「!?」
不意にそう叫んだのは、フライゴンだった。
そして彼の目は、明らかな怒りの色に染まっていた。
242:13/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:19:32
「黙って見てたけど、何もそこまでする必要はないんじゃあないかっ!?
演技してまで虚仮にしたり、お菓子弾き飛ばして踏みにじったり……何でなんだよっ!!」
鼻息を荒げズカズカとジュカイン詰め寄りながら、激しくそう問いただすフライゴン。
……その問いにジュカインはニィッと気持ち悪いくらいに口を歪めたと思うと、高笑い交じりにこう言い放った。
「お前らをコケにするために決まってんだろォーがよバーーーカッ!! カハハ、カッハハハーーー!!」
「……!! ジュカイン……ジュカイン、ジュカイン、ジュカイィンッ!!」
ジュカインのその言葉にフライゴンの怒りはついに沸点を迎えたのか、
フライゴンは咄嗟に手を振り上げ、ぼくが静止の一声を上げる間もなく
怒りのままにジュカインへ向かってその手を振り下ろした。
何をやっているんだ―
「フ、フライゴン!!」
バシッ!!
「……うっ……」
フライゴンがジュカインへ向けて振り下ろした手は、ジュカイン自身の手によって止められていた。
「……なんだい、いきなり暴力振るうこたねぇだろう、暴力はよ……
何事もすぐに暴力に訴えるってのはさ、野蛮で下品なクソ野郎って言うんだよな……ええ? おい」
およそ今までの人を虚仮にしたような調子でなく、怒りを押し殺したような口調でジュカインはそう呟く。
そしてジュカインは乱暴にフライゴンの手を振り解くと、声を荒げてこう言った。
「このクソボケ共がァっ!!」
243:14/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:24:39
「勘違いするなっ、本当ならぶん殴ってやりてぇのはこのオレだッ!! お前らじゃあなく、このオレだッ!!
お前らをぶん殴って、けっ飛ばして、この森から強引に追い出してやりてぇ所をこのオレは我慢してやってんだよッ!!
オレはこの森での生活が気に入ってるんだッ!! この森が大好きなんだッ!! ずっとこの森で大人しく生活していたいんだッ!!
それをお前らはいきなり現れて、ズケズケズケズケ図々しく踏み込んでぶち壊しにかかってきやあがるッ!!
元々はぼくのジュカイン? 『元々は』? んな事オレが知るかっ、クソッ! クソッ、クソッ、クソッ!! クソガキどもがァッ!!!」
ジュカインは今まで押し殺していた『怒り』を発散するように、罵声を吐きながら土を蹴っている。
「例え記憶喪失だったとして、それがどーかしたのかよって話だ。んなこたオレにゃ関係ない。以前の記憶なんて一つも興味はない。
いいか、『今のオレが今のオレだ』ッ!!! 分かるかっ、このクソボケどもめッ!!!」
ジュカインはぼくらを指差し、力を込めてそう言い切った。
それに対しフライゴンは何か言い返そうと口を開ける―が、すぐにむぐむぐと口を噤んでしまった。
フライゴンも『理解』したのだろう。
―ジュカインは怒っている。冗談や虚仮なんかじゃあなく、本気でぼくらに対して怒っている。
それでなければ、こんな怒号は出せない。それでなければ、あんな目の色を出せるわけが無い。
ぼく、今までは全然分からなかったけど……『ジュカインはぼくの元へ戻ってきて当然』
なんて根拠の無い思い込みをしていたから、全然分からなかったけど……
彼の本気の怒号を真に受けた今、ぼくはようやく理解した。
今の彼にとって……どれだけぼくらが迷惑で邪魔でうざったいかが!
『記憶が戻るかも』なんてちっぽけな望みのみでベタベタひっついて、
挙句の果てに非難まで始めるぼくらが……どれだけ迷惑でっ! 邪魔でっ! うざったいかがっ!
あのジュカインが元々ぼくのジュカインである事に変わりは無い。
だからこそ……もうぼくらは身を引くべきなのだろうか?
いいや、彼のことを思うのならばもはや身を引くしかないのだろう。『記憶は戻らない』。
……でも……
244:15/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:28:14
「お、おいおい、よせジュカイン」
ジュカインの怒号に慌てた族長さんや数匹のキモリがこちらへ駆け寄ってくる。
「はんっ、慌てんなお前ら。何でもねぇって……」
ジュカインは小さくため息をつきながら駆け寄ってくる族長さんに静止を入れると、
出来上がったハンモックに飛び込みゴロンと寝転がってしまった。
「おい、人間と緑色。網ならあるから、お前らも寝ろ!
森の空気やにおいを感じながら眠れば、ぜんぶ忘れて朝までグッスリ眠れるさ」
ジュカインはそう言い終えると同時に、寝返りを打ちそっぽを向いてしまう。
ぼくはジュカインの背中を見つめながら、少しうなだれていた。
そんなぼくの背中をフライゴンがポンと叩く。
「……コウイチくん」
「…………」
ぼくは網を拾い上げ、無言で寝床を作る作業を始めた。
十数分後には、森の住民達はもう全員ハンモックの上に横たわっていた。ぼくやフライゴンも含めて、だ。
空を塗りつぶしているような木の枝葉の隙間から少しだけ覗く夜空には、
星々が無整列にたくさん並んで、それぞれ異なった輝き方を見せている。空がきれいな証拠だ。
そんな森の夜空を見つめながら、静寂の中たまにやってくる夜のすずしい風、その風に運ばれてくる草木や土のにおい、
葉っぱが擦れる耳心地いい音などを感じていると、まるで赤ちゃんのようにすぐにでも眠りについてしまいそうだ。
……普段ならば、この甘い眠気に迷い無く身を任せるところだけれど、
今は眠るのが惜しい。いや、正確に言えば……朝を迎えるのが、惜しい。
「……ねぇ、コウイチくん。 ……起きてますか?」
ふと、隣のハンモックに横たわっているフライゴンが声をかけてきた。
「うん、起きてるよー……なぁに? フライゴン」
ゴロンと転がり、フライゴンと目を合わせる。
フライゴンは神妙な顔つきをしながら、呟くようにぼくに向けてこう問いかけた。
「やっぱり……諦めますか? ジュカインは……」
245:16/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:32:20
……時が止まったような沈黙が数秒、場を支配する。
ぼくは、まるで囁くような声量でこう答えた。
「冗談じゃあ、ない。ぼくは、絶対諦めたく、ないっ」
ぼくのその一言に、フライゴンは意外だという風に目を見開く。
次の瞬間から、ぼくはほぼ無意識のまま恨み言のように言葉を垂れ流していた。
「冗談じゃない……じょ、冗談じゃあないぞ……! 誰が、だ、誰が、諦められるもんか……!!
でも……クソッ、クソックソッ……クソッ……ふざけるなクソがっ、クソクソクソクソクソクソ、クソォォォォォォ」
そう呟くぼくの声は震えている。ああ、ぼくはいま苛立っているんだ。神経に来ているんだ。
こんなバカみたいに汚い言葉が、下品な言葉が、口から自然に漏れ出てきてしまう程に。
頭の脇に寝転がせていたはずの手が、自然と頭を掻き毟りだす。幾度も、激しく、だ。
別にかゆいから掻いているんじゃあない。それなのに、いっぺん頭を掻き毟りだすと夢中になって止められない。
なぜだか頭を掻き毟っている間だけは、どこか苛立ちが薄らいでいくような気がするからだ。
……いわゆる現実逃避ってやつだ。
同時にその行為は、どうあっても逃げる事の出来ない現実に直面しているのを自覚している事の表れでもあるのだ。
……現実からかけ離れているはずのこんな世界の中で、どうして逃げることの出来ないような―
逃げ出してしまいたいような『現実』に悩まされなけりゃいけないんだろう。
不思議でたまらなかった。不思議でたまらないから、ぼくは頭を掻き毟るんだ。何度も、何度も何度も何度も。
……しかし、いつもはカラクリ仕掛けのようにいつまでもいつまでも続けてしまうこの『癖』は、今日は存外早くに治まってくれた。
それは激しい『眠気』のためだった。まるで『催眠術』でもかけられたかのような異常な眠気が……突然ぼくらを襲ったのだ。
それによりぼくもフライゴンも瞼を鉛のように重くさせ……すぐに深い眠りについてしまった。
眠り行く寸前に森の奥に見えた、『二つの光』の事をも忘れ、深い眠りへ……
つづく
246:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:39:20
なんかもう、いつも長くて本当にゴメンナサイ……
次回は金曜日の6時半からです。
247:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 21:27:49
乙!
すごい展開になってきたな…もうどうしようもなくね?
248:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 21:28:49
乙乙ー
がんばってくれー
249:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 21:51:56 QbK4LDga
250:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 22:33:27
ジュカインむかつかね?
やってることが非道
251:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 22:55:55
だってそういうキャラだろうから
そんな風に感じさせられる>>1はガチで凄いと思う
252:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 23:13:24
牧島カレンってマキシマム仮面のことかwww
シリアスな場面に変なの織り交ぜんなwww
253:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 23:38:28
>>251
確かにそうだな
まあいずれ記憶戻ったらデレるんだろうけど
254:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 07:04:28
これ才能の無駄遣いだろw
絶対ポケ板向きじゃない。
255:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 07:46:02
オオカマド博士のキモさと、牧島カレンのネーミングセンスが光るなw
ところでこれ、かなり大長編になるんだよな?
敵の部隊が16もあって、飛鳥部隊だけでも主要キャラが5人もいる。
このままいくと魔王+部隊長+副部隊長+三幹部で81匹。
ヨルノズクと同等以上の敵がこれだけいるとなると恐ろしいな。
まぁ、すべての部隊が登場するのかはまだ分からないし、
幹部の数がもっと少ないという可能性もある訳だけど。
とにかく、これからの展開に期待!
256:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 12:44:35
部隊が16個ってことは、ドラゴン以外のタイプ16個それぞれの部隊か
>>1のやる気次第だろうが、確実に半分以上はソードマスターヤマト的に処分されるだろw
257:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 19:23:20
オオカマド博士の
”お断りです”
は原作では
”死んでもお断りです”
だったんだよなー
258:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 19:49:17
オオカマドは間違いなくコウイチくんの貞操を狙ってる
259:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 23:50:06
当分出ないだろうけど、魔王と四天王は誰なんだろう?
イメージ的には魔王はダークライっぽいけど。
260:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 17:33:40
>>256
いや、ポケ板でくすぶっとくレベルだろ
261:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 17:55:18
何であろうが俺が読めりゃそれでいい
262:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 19:13:49
ドラポケスレに宣伝した奴いるみたいだが宣伝はやめろよな。
荒れる元になるし>>1に迷惑かかるだけだから。
263:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 20:09:55
すいませんでした
264:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 21:49:06
四天王はゲンガー、フーディン、カイリキー、ゴローニャだと予想する
265:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 22:24:35
カイリキーとゴローニャだとキャラ被る気もする
まぁ、49氏ならそこら辺は大丈夫だとおも
266:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 22:26:27
いいえ、それは48氏です。
267:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 22:37:04
>>266
打ち間違えなんだっ!赦s(ry
268:名無しさん、君に決めた!
07/12/06 22:59:22
この小説に限ったことではないが、ゴローニャはネタ的な活躍しか期待できないw
269:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 06:28:36
待ってたぜ…投下今日だよなwktk
270:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 06:44:38
午後6時半からだろう
いままでそんくらいの時間に投下されてたし
271:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 11:14:26
48氏の愛読書はまちがいなくジョジョ
272:1/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:34:19
「はっ。」
ぼくは、ふと目を覚ました。
……静寂の中、時計の秒針が刻む音だけが部屋に響いている。
まだ意識が薄ぼんやりとしている中、ぼくは何とはなしにキョロキョロと辺りを見回してみた。
自分の部屋ではない。質素な装飾に、窓の外から見える広大な大海原。
ぼくを乗せている大きなベッドの布団には、大きいモンスターボールの形のマークが描かれている
そうだ、ここはナグサシティのポケモンセンター三階の宿舎。
ポケモンリーグへ挑戦しに行kのは夜より朝がいいと思い、ここに泊まっていたのだ。
「おンっはよ~~! 目が覚めたかい? コウイチ~~。」
部屋と廊下を隔てるドアの奥から、叩くようなノックと同時にハイテンションな声が聞こえる。
ぼくはその声に半ば起こされるようにベッドから起き上がり、ドアの鍵を開けた。
扉が開き、ぼくの親友の顔が現れる。ミキヒサだ。
「今日もさわやかな朝だねぇ~~~。うっふっふ、ポケモンマスター日和っていうかさぁ~~~。」
やたらと満足げな顔をしながら、クネクネと体をくねらすミキヒサ。
その様子を見ただけで、今朝彼に何か幸運なことがあったであろうことは容易に察しがつく。
「ねーねー、ミキヒサ何かいい事でもあったの?」
ぼくがそう言うと、ミキヒサは待ってましたとばかりに顔を半笑いにゆがめた。
「ん~~~? にっひひ~~、よく聞いてくれましたっ!
ジャジャジャーン! これ見てーーっ!!」
ミキヒサは元気よく叫びながら胸のトレーナーカードを開いtぼくに見せつけてきた。
中には8つの輝き。8つつのジムバッヂ……
「あれ?ミキヒサこの8つめのバッヂ……」
「そうそう、今日朝一でここのジムリ倒してゲットしてきたのさっ!
これでオレもポケモンリーグに挑戦出来るんだぜーっ!」
273:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 18:34:24
wktkが止まらない!!
274:2/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:39:05
ぼく達はナグサシティはずれの浜辺に来ていた。
ここから海を数キロメートルほど渡ればやがて大きな滝が見え、
そこを上るとポケモントレーナーの総本山、ポケモンリーグが見えてくるらしい。
「オレな、ポケモンマスターになったらな、」
言いながらミキヒサは海辺に向かって水色のポケモンを出し、その上に乗った。
ぼくは自分の水色のポケモンを出し波乗りを始めた
ポケモンリーグへの唯一の道であるこの2230番水道は、
潮の流れもとても穏やかで、待ち受けるポケモンリーグでの
厳しいバトル への最後のゆとりだと言われている。
風評通り、照りつける太陽と吹きすさぶ潮風の温度の調和が肌に心地よく、
緩やかな波音や、間断なく聞こえるキャモメ達の優しいさえずりがミミに心地よい。
爽やかな自然が偉大なる挑戦を迎えパミ゛ようとしているぼく達を歓迎しているようにも思える。
「今日もさわやかな朝だねぇ~~~。うっふっふふふふふふふふふふふ、ポケモンマスター日和っていうかさぁ~~~。」
気分がいいのか、歌うような調子でミキヒサはそう叫びだす
耳鳴り。がする。ところで何十分か経ったいま、ぼく達はとうとう滝の前に立っていた。
見上げてみる
ちょうtんが見えない程の大きい大きい滝だ
上りきれるだろうか?いいや、ここまで来たぼくのポケモンの力なら「きっと上れるに違いな」い。
ぼくは自分のポケモンである№260のラグラージにぼくは滝登りの命令をラグラージに浴びせかけたのだ
275:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 18:40:17
何か文章がバグってきてないか?
276:3/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:42:36
ミ
キヒサも滝登りを始めている ぼくと肩を寄せ合ってだ。
「今日もさわやかな朝だねぇぇぇぇ~~~。うっふっふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、ポケモンマスター日和っていうかさぁ~~~。」
滝登りをしながらミキヒサがそう叫びだした。
叫んでも叫んでもいくら叫んでも叫んでもいくらいくら叫んでも頂点は見えない。
上を見上げても下を見下ろしても滝の流れが永遠のように続いてるだけ
雲を突き破り天に橋をかける大きな大きな大きな大きな滝
この一番上にポケモンリーグがあるという噂なのだ。
だがしかし噂は噂
もしもこのまま幾ら上がり続けてもポケモンリーグなんて無かったら?
まさに永遠にこの滝が続いてるだけだとしたら?
ノボッても上っても先が見えないこの滝は僕に絶望感を与えている。しかしミキヒサは平気そうな顔をしている。のんきな物だ
しかしミキヒサは平気そうな顔をしている。のんきな物だ
どれだけ時間が経ったかわからない。一時間か、十時間か。ぼく達はまだ滝を登っている
もはや上を向いても下を向いても横を向いても前も向いても後ろを向いても滝なのだ。
いまぼくの世界には滝と自分達しか存在しない
もうどうにもなれというある意味の諦めがぼくの脳内を満たし「緊張するなー、コウイチ。くーっ、チャンピオンになれるかなーっ!」
「じゃあミキヒサ、どっちが先にチャンピオンになれるか勝負しよっかー!」
「アネ゛デパミ゛」
「むっ、それいいねぇ!にゃはは、今度は負けないぞぉーーー」!!
「ぼくも負けないぞおっ!!」
ぼく達は共に励ましあィ゛ゃゾ┛び#ガネ゛
滝の中に顔が見える
誰の顔?
誰の顔?
いいえ、それはわざマシン36です
277:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 18:43:25
>>275
待て、落ち着け。これは48氏の罠だ。そしてあえてひっかかるのだ
278:4/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:46:05
見知らぬ顔だ。見知らぬ顔が円形状に延々と並んでいる
もはや上を向いても下を向いても見知らぬ顔で埋め尽くされている。
四方八方全てが見知らぬ顔で埋まっている。
右も左も上も下も奥も手前もぼくの中身までも全てすべてが
そう、見知らぬ顔で
埋まっている
「はっ。」
ぼくは、ふと目を覚ました。時計の秒針。それが刻む音だけが聞こえる。
ぼくは、キョロキョロと辺りを。自分の部屋じゃあ。質素な装飾に、
窓の外から見える。ぼくを乗せている大きなベッド。
の布団には、大きいモンスターマークが描かれ。
そうだ、ここは○○○○のポケモンセンター
三階の宿舎。ポケモンリーグへ挑戦しに行kのは。夜より朝がいいと。
「アネ゛デパミ゛」
ドアの奥からベッドが。現れる。グリーンバッジ
「データが破損しています! データが破損しています! データが破損しています! データが破損しています!」
警告!このゲームを無断で複製することは法律で禁止されています!!法律で禁止されていますゥゥーーーー!!
「データを初期化しますか? データを初期化しますか? データを初期化しますか? データを初期化しますか?」
セーブしています・・・必ず電源を切らないで下さい・・・切らないで下さいって言ったでしょォーーーッ!!! 電池切れなんて言い訳になんねえぞォーーーッ!!!
「お気の毒ですが冒険の書1は消えてしまいました! お気の毒ですが冒険の書2は消えてしまいました! お気の毒ですが冒険の書3は消えてしまいました!」
もはや何も見えない。何も聞こえない。
見えるのは見知らぬ顔だけ。怖い、怖い怖い。
おそらくこれは夢だ。ぼくには分かる。でも ああ
(ほっほ……人間め、いい具合に夢にうなされているようだのォ……さすがは、このわしの『夢食い』!
……ほっ! なかなかよい句が浮かんできたぞォォ!! ほっほ!
……さて、次は隣のこの緑色の竜のうなされかたを、じっくり観察させてもらおうかのォーっ!)
279:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 18:46:55
伏線だったのか
280:5/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:50:31
こんにちはーっ! ボクの名前はフライゴンっ!
いま、ヨスダシティの触れ合い広場に、ボクの自慢のトレーナー・コウイチくんと一緒に来ていまーすっ。
ボクのトレーナーのコウイチくんは、世界一っ!
頼りになるし、頭いいし、かわいいし、何よりとーっても優しい!
いつもどんな時だってボク達を思いやってくれて、時には甘えてきちゃったりもしちゃう、
そんなコウイチくんが、ボクはだいだいだいだァい好きなんですっ!
コウイチくんは広場に入るなり、ぱたぱたとお花畑のほうに走っていきました。
彼の絹糸のように艶やかキレイな黒髪が、金色の陽光に照り栄えて栗色に光っています。
「わぁ、見てごらんフライゴン! キレイなお花だよー」
コウイチくんは、広場に沢山咲く様々な色合いの花を指差して、
まるで無邪気な赤ちゃんのようにはしゃいでます。何てかわいいんでしょう……
「キレイですねー……それにとってもいい匂いっ」
鼻をつくような甘い花の匂いを(あっ、ダジャレじゃないですよ)、鼻腔いっぱいに吸い込んでみます。
甘い香りが頭の中にぽわ~って広がって染み込んで来て……恍惚っていうのでしょーか、頭がぽ~ってなって凄い幸せな気分。
なんていうか……とっても甘えたい気分になっちゃいます。
「コウイチくん……」
女の子のように整っているのに少しあどけなさの残るコウイチくんの顔を、甘えた目付きで見つめてみます。
コウイチくんもボクを見つめ返して、やんわりと可愛くほほえんでくれました。
……まさにこれが、心が通じ合う瞬間っ! なんでしょうねっ!
ああ、きっとボクいま世界一幸せなポケモンです。
ボク達を見て羨ましがらないポケモン及びトレーナーなんていませんよっ!
それ程ボク達は心が通じ合い息が合っている……まさにベストパートナー、なんですよねっ。
「ああ……なんかボク、眠くなってきちゃったかな」
腕を上げておおあくび。心地よい眠気のもやもやが頭にかかります。
ボクは、チロリとコウイチくんのちっちゃい膝に目をやります。そうだ。膝枕してもらっちゃおうっと……
そ~っと倒れこんで……えいっ、ひざまく……
「おい」
281:6/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:54:12
「はい?」
いきなりドスの効いた声がボクに降ってきました。
誰でしょう? 幸せな時間を邪魔する有害物質めっ
「はい? じゃあ……ねェーーーだろォーーーッッ!!!」
「いっ!?」
いきなり髪をつかまれ、持ち上げられてしまいます。痛い、痛い痛い!!
だれだ、ボクにこんな事をするのは……!
首を捻って、ボクの髪を掴む暴漢の顔を見つ、め……
コウイチくん!?
「テメーコラッ!! 勝手にご主人様の膝に頭つけるたァ、どォいう事だァ~~~ッ!?
そのコケの塊みてェな腐った頭をぼくの膝につけやがって、どう落とし前つけるつもりだダボがッ!!」
「はいぃぃーーーっ!?」
ボクの髪を掴み暴言を吐きかけてきたのは、確かにコウイチくんでした。
コウイチくんの顔が、今まで見たこと無いくらいに恐ろしく歪んでいる……な、なんで! ボクそんな悪い事した!?
「土・下・座 しろ」
コウイチくんはボクの髪を離すと、床を指差しながらそう言い放ちました。
土下座? ボクが……コウイチくんに?
いくらコウイチくんの命令とはいえ、躊躇ってしまいます。すると……
「土下座してあやまれって言ってるんだァーーッ!! 土下座だよォ、土下座、土に下りて座るんだよォ~~ッ!
膝と手を地面につけて、頭を床に擦って擦って擦りつけまくるんだよォォ!! 湿気ったマッチ棒みてェにグリグリって何度もなァ~~~!!!」
「ひっ……」
泣きそうになりながらも、僕はコウイチくんの目の前で膝と手を付きます。
コウイチくんを怒らせてしまったなら仕方が無い……この怒りを収めれば、きっといつもの優しいコウイチくんに戻ってくれるはずです。
ボクは床に頭をつけ……言いました。
「すいません……許してください、コウイチくん……」
ボクは言いながら、涙をこぼしていました。
壊れた水道管のように涙がボロボロ溢れて止まりません。
もう、ボク達おしまいなんでしょうか。
282:7/8 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 18:57:33
「そういえばさ……」
コウイチくんはいきなり声のトーンを落として、そう言いました。
許してくれるのでしょうか。元のコウイチくんに戻ってくれるのでしょうか!?
「ぼく……きみに『穴を掘る』って技たしか教えたよねー?」
「あ、はい」
コウイチくんの口調はいつも通りの穏やかな風に直っています。
質問の意図はよく分からないですけれど、とにかくよかった、コウイチくんが元に戻ってくれたぁ……!
「よし、いい事を思いついた。お前いまここで穴を掘れ」
「え?」
突然下されたコウイチくんからの命令。『穴を掘れ』……この触れ合い広場で穴を掘るの?
従業員の人とかに注意されないか心配だけれど、コウイチくんの命令です。ボクは急いで爪で地面を掘り始め……
「SYAAAAAAGYAAAAAAA!!!!」
「ひえええええっ!?」
ボクが穴を掘ろうとした瞬間、いきなりコウイチくんがワケ分からない奇声を上げボクを威嚇し始めたのです。
ボ、ボク何か悪い事した!?
283:8/8 ◆8z/U87HgHc
07/12/07 19:02:24
コウイチくんは、膝を折り未だ土下座のポーズのボクの顔を見ながら、
憤怒の形相でこう叫びだしました。
「だれが『手を使って穴を掘れ』と言ったァーーッ!? いいかッ!! 土下座したそのポーズのままッ!!
その地面に擦り付けた『頭』でッ!! その汚ねぇドタマで『穴を掘る』んだよォッ!! 『土下座穴掘り』だよォォォ~~~~ッ!!!」
「ええええええぇぇぇぇぇっ!?」
幾らなんでも無理難題です。『頭を擦り付けてそれで穴を掘る』なんて……!
どうやってやれっていうんですか。理不尽、不可解、意味不明。
コウイチくんは今までこういう無理な命令なんて一回もしてこなかったのに……
「ぼくは思うねッ!! マジに心の底から『すまない』って気持ちがあれば、何でもなァんでも出来るってなァッ!
そう、何だろうとッ!! 何だろォとだッ!! それが例え窃盗・放火・人殺し・犯罪の類であろォーーーとッ!!
テメー、『すまないゴメンナサイ』の気持ちがあるんだろ? あるなら土下座穴掘りくらい朝飯前だろォーーがよォーーなァーーッ!!」
もう何か言っても聞いてくれるような雰囲気じゃありません。完全に別人のようです。
「う、うううう~~~~っ!!」
ボクは、泣きながら頭を地面に擦りつけ『土下座穴掘り』を試みました。
周りの人からの視線が痛いです。恥ずかしいです、頭が痛いです、胸が痛いです。
誰か助けて……何でですか、コウイチくぅん……誰か、誰か……助けてよォ……
(ほっほ、何といいうなされ方かっ! この顔を見ているだけで句五つは軽いのォーーっ!!
さて、次は……あのジュカインとかいう生意気なトカゲ野郎のうなされ方をじっと観察させてもらおうかのっ!)
284: ◆8z/U87HgHc
07/12/07 19:12:00
今回は、完全に次のジュカインパートへの前置きです……
次は、明日の朝方に投下したいと思います。
285:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 19:12:34
(^o^)ノ ガンバレー
286:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 19:14:24
乙! マザー2のムーンサイドみたいな狂気が感じられたぜ!
最初は48氏のゾンビ化が始まったのかと思って怖くなったけどw
287:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 19:16:53
ヨルノズクの仕業ということか。
288:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 19:23:58
夢オチと申すか。ゼル伝夢を見る島を思い出したではないか。GJすぎるよ……
>>286
なんて渋いゲームを……いい趣味だ
289:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 19:54:16
最初は今までの話が夢だった、ってオチかと思ったが逆でよかった。
それにしてもフライゴンくんはもう乙女一歩手前だなw
290:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 19:57:01
フライゴンがかわいいなw
291:名無しさん、君に決めた!
07/12/07 23:03:45
人がうなされる顔を見ただけで俳句五つ近く量産出来ちゃうヨルノズクさんスゴス
292:名無しさん、君に決めた!
07/12/08 02:13:36
別れは 次の逢瀬の 一歩みなり
みたいな感じでここは別れる方向だと思ったがこんな展開とは! グッジョブ!
293: ◆8z/U87HgHc
07/12/08 11:04:21
11時半くらいに投下しまーす。
294:1/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 11:33:26
『生命の森』。
それが、オレの住むこの森の名前だ。
名前の通り、この森は清き生命にあふれている。
一切不純物のない綺麗な土が常に逞しい木々を育み続け、
言葉も喋れないような小鳥や小さい虫達はその木々を中心として各所に住処を作り、
元気に鳴き声を上げながら、生き生きと動き回っている。
やさしい風のそよぎ、芳しい葉っぱや土のにおい、
木々や生き物達の息づかい、全てに『みずみずしく平和な命』が溢れている。
オレは気がつけば、この森にいた。
まるでたった今生まれてきたかのように、その時点のオレには『記憶』という物はほとんど無かったが、
オレの本能がこの森に住みたいと願い、そして何があろうとこの力で、この森を守っていきたいと思った。
恐らくは、オレはいま記憶喪失という奴なのだろう。
なにせオレの頭には、この森で目覚めた以前の思い出が一つもない。
記憶を辿っていっても、もののすぐに記憶の道は途絶え断崖絶壁に行き当たってしまう。
この体の大きさからして、オレが生まれたばかりのわけもない。
……だが、そんな事は今のオレには一つも関係ない。
今のオレに大事なのは、今オレが存在しているこの『森』だけなのだ。
オレが記憶をなくし、全てが全てまっさらのままこの森に来たのは、きっと『運命』なのだ。
オレは何があろうと、生命芽吹くこの森に住み生涯を送る。
誰にも邪魔はさせない。例えそれが、記憶をなくす前のオレに関係した者であろうとだ。
だが……
295:2/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 11:38:29
「ねー、ジュカイン。ぼくのジュカイン、聞こえてる? 早く行こうよ、ねぇ」
うっとうしい奴が来た。『今より前のオレを知っている』などとぬかす、人間様とかいうチビガキだ。
本当であろうと奴の勘違いであろうと、あんなのについていってこの森から離れるなんて勘弁だ。
「まだいたのか、お前~~~。いい加減諦めろよ! オレはお前についていく気はないんだっつの!」
オレがそう言うと、チビガキはいきなり俯いて、声を震わせ口ずさむような声量でこう言い出した。
「冗談じゃあ、ない。ぼくは、絶対諦めたく、ないっ」
「何ィ~~~~?」
まだコイツは、このチビガキは一向に折れようとしない。
あれだけ『オレの悪いイメージ』をわざと植え付けてやったってのに、まったくしつこい奴だ。
普通なら、あれだけコケにしてやりゃ 『何だこんな奴!』 なんて思ってすんなり諦めてくれるはずなのに。
……『以前』、オレとこいつはどんな風な関係だったって言うんだ?
ここまで諦めきれないほど……オレとこいつは親しかった、関係が深かったって言うのか?
「ああ、ジュカイン? 聞いて。今日はぼく、君の好きなお菓子作って持ってきたんだよ」
「は?」
突如チビガキは元の朗らかな表情に戻り、生意気に小奇麗な服の胸ポケットから何かのケースを取り出すと、
そのケースから何やら赤色の球体を出して、オレに差し出してきた。
「は? ……な、なんだよ、これ」
「いいから食べてよ。きみの好きなお菓子でしょ?」
「はァ~~~~……?」
ガキはオレの手にそのお菓子を握らせると、真ん丸い目を好奇心に輝かせ、オレの様子を伺い始めた。
たったい今渡された、手の内の『お菓子』を見つめる。ドぎつい赤色に、鼻の内側を刺激するようなスッ辛い匂い……
無意識に、口内に唾液がふつふつと滲み出てくるのをオレは感じ取った。
296:3/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 11:44:48
ガブッ!!
ハグハグ、ムグゥ~~
オレは気がつけば、一切の警戒心を持たずはしたなくその『お菓子』にかぶりついていた。
餅のようにふっくらもっちりと弾力のあるその菓子に歯を食い込ませると、
心地よく焼け付くような辛さが舌と喉を刺激し、その奥にあるうまみが口内に弾け渡る。
『食感』。『香り』。『味』。全ての要素が、オレの嗜好にぴったりマッチしている。
それに夢中になってる間に、オレはすぐにお菓子を食い尽くしてしまっていた。
「うふっ。ど~お? 美味しかったでしょ~♪」
「う……」
あっという間にお菓子を食い尽くしてしまった自分自身が信じられない。
ガキはニコニコと満足げな笑みを浮かべている。……なんとなく、屈辱的な気分だ。
「こ、こんな物っ! お、美味しくも何ともなかったぜバーカっ!!」
その屈辱的な気分に任せ、オレは全く心にもない事を叫んでいた。
「!!」
オレのその言葉に、ガキはひどくショックを受けたような表情を浮かべる。
その目にじわっと涙が滲んだと思うと、口をきゅっと結び、ふっと下を向くとシクシクと啜り泣きを始めてしまった。
……ふ、ふん、ザマーミロだぜ。調子こくからそうなるんだ。
……
「お、おいおいおいおいおいおい、幾らなんでも泣くこたねーだろォ~~!?
オレが悪かったからさァ、泣き止めって! おまえ男の子だろう、だから泣き止んでくれってばァ! あァ~~~もォ~~~~」
ガキのすすり泣く姿に何故だかオレは急に罪悪感が芽生え始めてしまい、気が付けばガキに謝ってしまっていた。
……くそぅ、何でオレがこんな世話焼かなきゃいけねーんだ! どこまでも厄介なガキ……
「あっ、ジュカイン! ……ボクのご主人様を泣かしたなっ!!」
297:4/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 11:50:57
「なっ……」
あのガキの取り巻きの緑色ドラゴンが、矢庭にオレに因縁をつけてきた。
「コウイチくんを泣かせるなんて罪な奴っ。謝りなよ!」
緑色ドラゴンは、鼻息を荒げながらオレに詰め寄り、謝罪を促してきた。
その態度に、オレは反射的にこう叫んでしまう。
「ざ、ざけんじゃねーっ、まずい菓子作ってきたあのガキが悪いんだぜっ!
むしろオレが謝ってもらいたいくらいだね……手を付いてこう、頭を擦り付けてよ。カ、カッハハー!!」
「ジュ、ジュカイン……お前……」
……最低なことを言っている自覚は、無論ある。
だが、それくらいの方がオレのためにもあいつらのためにもいいはずだ。
極限まで後味悪いほうが、キッパリ諦めて忘れてくれるってもんだしな。
「あなたは『嘘をついている』わね、ジュカイン」
「!?」
突如、これまで聞いた事のない女性の声がオレの耳に入り込んできた。
声の元へ顔を向ける。そこには、心覚えのない女モンスターが立っていた。
着物のようにも見える雪の幕で体と顔が覆われており、その下から鋭く冷たい目つきでオレを見据えている。
そして、いたのは『その女だけじゃない』。
女のほかにも、まだ三匹……見知らぬ三匹のモンスターがいて、皆してオレを見つめているのだ。
まるで旧友を見るような目つきで……
298:5/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 11:55:52
「お前は、嘘をつくのがうまい。……だが、今回のお前の嘘はバレバレだ。
さぁ、こちらへ来い。俺たちはみんなお前が帰ってくるのを待っているのだぞ」
全身が燃えるような赤い体毛に覆われたモンスターが、落ち着いた調子でオレにそう語りかける。
反論しようと口を開くと、すかさず別のモンスターの声に遮られた。
「そ~~ォそォそォ!! 六人揃ってこそぼく達は一グループ!
一人でも欠けてちゃあ戦隊は成り立たないんだよっ! 大事なのは協調性サっ、わっかるゥ~~?」
四本の前足と薄い翅に青い水晶体のような目が特徴的な虫のようなそのモンスターは、そう言うと妙なポーズを取り出す。
オレが何か言いかける暇もなく、もう一匹の図体のでかい青いモンスターが何か叫びだした。
「そうだぞジュカインよ。またコウイチや俺達と一緒に色んな所を冒険して回ろう!
そう、たとえ火の中水の中、草の中や森の中! 土の中に雲の中、
あの子の……グフッ……スカ、スカート……グヘヘ……あの子のスカートの……グフ、グふフヘヘ……」
「うわァ……ラグラージさんキモーい……」
「気色悪いわね。気持ち悪いとかじゃなくて、気色悪いわね」
「う、うるせーもん! 元気な女の子のミニスカートの中は俺達ポケモンにとってもロマンなんだもん!! ウッ、ウッ」
次第に、その四匹のモンスター達と緑色ドラゴン、そしてあのチビガキまでも、
和気藹々と、楽しそうに……オレをそっちのけでやかましく騒ぎ出した。
……なぜだか、オレはその光景にたまらなく腹が立った。
「うるせーぞ、このクソどもがっ!!!」
「!!」
オレがそう叫ぶと、モンスター達は語らうのをやめこちらへ視線を向けた。
皆が皆、意外とでもいう風に呆気に取られた顔をしている。なんだその顔はっ―
「何度言ったら分かるんだ、オレはお前らと一つも関係ない!! もうこうなったら一匹一匹オレが纏めてぶっ倒してやろうか!?
カハハッ、そうだろっ、めんどくせー事するよりも、そっちの方がいいだろうっ!? かかってこいよオラ、全員おん出してやるぞっ!!」
力の限りそう叫ぶ。すると、どういう事かモンスター達は一匹一匹、徐々に溶けるように消えていった。
あのチビ人間すらも消えていく。……そして、周りの風景すらも―……
299:6/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:06:07
「……ハッ」
ふと気がつくと、辺りの光景が一変していた。
辺りには木が立ち並び、地面には芝草が生い茂っている。
……森である事には変わりない。だけれど、『生命の森』とはまるで違う。
まるで見覚えのない場所。
「なんだ、ここは……」
戸惑い、頭の整理もほとんど為されていないながらも、とりあえずオレは歩き始める。
そして歩き始めると、更に心中で違和感が増していく。
なぜだか体の節々、取り分け首の辺りがヒリヒリ痛むし、歩く感覚にもどこか……うまく説明できないが何か違和感がある。
「おおい、みんなどこだ? 族長ー、おまえらー……」
思わず大声でそう呼びかけるが、なぜだか息が長く続かないし大きい声も出ない。
訳の分からない展開に、自然とオレの胸の内には不安が募っていく。
ガサッ!!
「!?」
突如、大きい葉擦れの音がオレのすぐ横から響き渡った。
反射的にオレは音の元へ顔を向ける。
そこには、白と黒二色の毛並みの一匹の鳥モンスターがいた。鋭い目つきでオレを見つめている。
あの目は、オレを獲物として狙っている目だ。……いい度胸していやあがるっ。
「おいおい、やろうってかい? ……身の程を知ったほうがいいぜ、小鳥さんよっ!!」
腰を捻り、足を踏ん張る。そしてオレは地面を思い切り蹴りつけ、鳥へ向かって大きい跳躍を―
あれ?
300:7/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:11:00
「あれっ?」
思わず口を付いて疑問符が飛び出てしまった。
おもいきり土を蹴って飛んだつもりが、体は全然飛ばず、鳥の元へ達さないままオレは跳躍を終えていた。
「あいだっ!」
そして、みっともなくバランスを崩して地面に転んでしまう。
思うように体が動かない。まるで子供にでもなったかのように……
!?
途端頭の中で何かが弾けたかのように、ある憶測がドロリと溢れてきた。
手を見つめる。手首から生えていたはずの葉っぱ状の突起がまるで見当たらない。
腰を捻り己の尻尾を見つめる。シダのようだった面影はほぼ無く、丸く太い形になっている。
その尻尾の形を見た瞬間、オレは確信した。
オレ、退化している……キモリに、退化している……!?
「シギャー!!」
その事実に辿り着いた瞬間、鳥モンスターは羽を広げ、嘴を向けながらこちらへ突っ込んできた。
瞬間、鋭い嘴の一撃がオレの頬を掠める。
「ぐっ!」
刺すような痛みが頬に広がる。同時に、足が竦み冷たい汗がこめかみを伝う。
鳥モンスターは手ごたえありと言った風に甲高い鳴き声を上げながら、再びオレ目掛けて嘴を突き出してきた。
やられる……!? こんな所で、わけも分からないまま……このオレがっ!?
やべぇ……助けろっ……誰かオレを……誰か、誰かっ……
―助けてっ―
「ビブラーバ、竜の息吹だぁっ!!」
301:8/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:15:25
どこか聞き覚えのある声がした次の瞬間、
オレの脇を灼熱色の奔流が走り、目の前の鳥モンスターに直撃した。
「ピギャッ、ピギィーー!!」
鳥モンスターは攻撃に驚き、さっさとその場を逃げ去っていった。
……危機は去った。安堵するよりも先に、オレはまず自分を助けたであろう者を確かめようと、
あの熱の奔流が走ってきた方向へと顔を向ける。
―そこには、またもやアイツがいた。
「だ、大丈夫? 怪我はない?」
『アイツ』がオレの元へ駆け寄ってくる。そう、例の人間様とか言うチビガキだ。
その肩には、見覚えの無いトンボのような生き物が止まっている。いや、あの丸い目はどこかで……?
「首輪の痕……全身にアザ……それに、確かこの子はホウエヌ地方に生息するポケモンだったはず……」
しゃがみこみ、オレの首や体中を撫でながらチビガキはそう呟く。
―触るなっ
そう言いたかったが、なぜだか意思と喉とが繋がっていないかのように声が出ない。
チビガキは大方オレの体を触り終えると、小さい手をギュッと握り締め怒ったような調子で何か言い出した。
「やっぱり噂は本当だったみたいだね! ポケモン屋敷のお坊ちゃまのウラニワくんってやつは、
気に入らないポケモンはみんな手ひどく虐待したあと、裏山に捨てていくって噂……
ぼくはああいうやつが一番嫌いさ、年齢や身分にモノを言わせて生意気に振舞うお坊ちゃま……」
チビガキは唇をかみ締めながら、オレに哀れむような視線を落とす。
「ああ、顔色はよくないし頬までこけているね……衰弱しているんだ……
お腹も空いているでしょ……? こっちへおいで、きみにいい物を上げるっ」
「?」
チビガキは、やたらと小奇麗な服の胸ポケットからどこか見覚えのあるケースを取り出すと、
そのケースから何やら赤色の球体を出して、オレに差し出してきた。
……あれ? この展開少し前に……
302:9/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:18:14
「これ、今日ヨスダシティのお料理教室でぼくが作ってきたポフィン!
ぼく、お料理だい得意だから出来には自信あるよ! 自信あるけどオ……
これ辛い奴だから、きみのお口に合うかどうか……合わなかったらゴメンねー。えへへへっ」
にひっと苦笑いを浮かべ唇の先からちょっとだけ舌を出しながら、ポフィンを乗せた両手をオレへ差し伸べるチビガキ。
―しつこいっ
そう言おうとするも、やはり言葉が出ない。
……言葉が出ないばかりか、体の自由まで効かない。
惹きつけられるようにオレは、チビガキの手の上のポフィンに食らいついていた。
「あはっ、いっぱい食べてるー♪」
ガキはオレがお菓子を食べる様子を見ながら、頬を染め心底嬉しそうな声を上げた。
……やめろっ、そんな声だされたら、オレまで……っ!
不思議な気分になってくる。
自分の体が自分の体でないようで……自分の意思でないハズなのに自分の意思のようで……
何より、さっきからオレの脳内にうっとうしく絡み付いているこの強烈な既視感はなんだっ!?
「ねぇ、きみ? もうこんな危ない所にいる必要は無いよっ。ぼくのお家へ連れてったげるからね!
これ自慢じゃないけど、ぼくのお家はでっかいお屋敷で住み心地はバツグンにいいんだっ。
このビブラーバを始め、きみと友達になれる子もいるよっ。いっぱいよくしたげるから……ねっ? ふふっ」
ガキは二コリとほほえみを浮かべると、オレを抱きかかえた。
抱きかかえてからも、ガキはずっとオレへほほえみを投げ掛け続けている。
オレは、抵抗することが出来ないどころか、不思議と抵抗する気さえ起きなかった。
……それは抵抗しようとしても無駄だと分かっているから……じゃあない。
ガキの腕の中はとても暖かくて……体も心の内もほっと落ち着く暖かさがあって……
胸の奥から、湧き水のように緩やかに溢れてくる暖かさがあって……
「これからよろしくねっ、きみ! ぼくの名前は―……」
303:10/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:25:05
「ジュカイン!!」
突然、ガキの肩に止まっていたトンボ野郎がオレの名前を呼んできた。
うるさく翅をはためかせながら、オレの周りをぐるぐる回りだす。
「もちろん、ボクの名前は覚えているだろう?」
トンボがそう喋ると、突然そのトンボが目を覆うような光に包まれた。
しばらくすると光は晴れ、その下から例の緑色ドラゴンが現れる。
「いいや、覚えていないはずがないな。
ボクの名前は『フライゴン』。どうだ? 聞き覚えあるだろ?」
フライゴンと名乗る緑色ドラゴンがそう言い終えると、なぜだかオレを抱きかかえているチビガキの方がその話を続けた。
「いま、フライゴンが『フライゴン』と名乗ったのが何よりの証拠だよ。何でかって、ここはきみの夢の中だからだ!
今ここにいるこのフライゴンが、きみが知らない筈の名前をああして名乗ったって事は、
きみがフライゴンという名前を知っていたっていう事なのさ。分かるかい? 分かるだろう?」
?????? 何を言っているのかまったく見当が付かない。なんだ、なんなんだ?
……何を言っているのかは全く見当がつかないが、『ここはきみの夢の中だからだ』という一節に引っかかる。
そうか、ここは夢の中なのだ。
今までは何故だかこれは現実である事を疑っていなかったが、そういえば不可思議な出来事ばかり起きている。
304:11/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:29:35
「!?」
そう理解した瞬間、いきなり背景がぐにゃりと捻じ曲がり、色がぐちゃぐちゃに反転しだした。
いろんな色が混ざり合い、もはや元が何だったか見当もつかない色の塊に辺りは覆われ、
その中に幾つも幾つも……まるで展示物の如く、不気味に顔が浮かんでくる。
顔だ。顔だらけだ。顔、顔、顔。
その中には、あのチビガキの顔やフライゴンの顔もあった。
先ほど会った、あの見知らぬ三匹のモンスターの顔も。
そして……この『オレの顔』までも。
「この顔は、お前が……いや、『オレ』が『今まで』に出会ってきた人間やポケモン達の顔全部だ。
見覚えのない顔もあるだろう? だが、オレの夢の中であるこの場所に何故オレの見覚えのない顔があるんだ?
おかしいと思わないかい? え? どう思うんだ? え? おい。分からないのか……?」
そう喋ったのはその『オレの顔』だった。
少なくとも顔はオレと同じだ。……そして、相変わらず言っている意味は理解し難い。
「な、何なんだよ……」
わけが分からない事態に思わず、ため息ついでにオレはそう漏らす。
無数の顔が発する意味の分からない言葉を聞いていると、頭が割れてしまいそうに痛む。
その言葉は、耳に響いているというよりは、頭の中に直接響いているかのようなのだ。
このままここにいたら、狂ってしまいそうだ……どこか逃げ道はないものか。
必死に辺りを見回すと、無数の顔と顔の間、ぐちゃぐちゃの色の混ざり合いを割って一筋の亀裂が空いている場所を見つけた。
あそこが出口なのか。オレは、その亀裂目掛けて一気に走り出し―
305: ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:32:06
訂正。
>>304の9行目の『三匹』は、『四匹』の間違いです……
306:12/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:34:14
「待てっ! そっちに行くんじゃねえ!」
突如、制止の一声がオレのすぐ背後から響く。
オレは反射的に動きを止め、声の元へ振り向いた。
オレは思わず飛び上がりそうになる。
振り向くと、すぐそこまで先程の『オレの顔』が迫ってきていたからだ。
その『オレの顔』は、ひどく切迫し焦心に満ちている。なぜ……?
『オレの顔』はその語調にも焦りを色濃く込め、こう叫びだした。
「もうハッキリ言っちまうが、お前の心の隅には見ての通り、まだこうして『記憶』は残っているんだ!
『外部からの思わぬ干渉』で、こうして何とか『オレ』はここまで出てこれた……奥底に沈んだ『記憶』を何とかここまで持ってこれたんだ。
この機会を逃したらもう次はない。さぁ、この記憶を思い出すんだオレ! 思い出せ!」
「!」
今までこの『顔達』が言っていた事はわけが分からなかったが……わけが分からなくて当然とすらも思っていたが……
オレは、その今の『オレの顔』の叫びに、ある推測が生まれかける。
この顔は、この『オレの顔』は……心の中の記憶をなくす前のオレ……つまり、『失った記憶』……?
だとすると、この亀裂は……夢から現実への帰り道、ということになるのか……?
オレはためらい、足を止める。しかし、亀裂の中から突如闇が溢れ出し、オレを飲み込まんばかりに広がり始めた。
307:13/13 ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:40:00
「お、おい、闇が広がり始めたぞ」
うろたえ思わずそう問うと、『オレの顔』はすぐさまにその問いに答えた。
「これはお前が目を覚ましかけているって事だ。分かるか? 時間がねーんだよ!
お前が何も思い出さないでこのままだと、『オレ』が困るんだ……」
「だ、だからどーしろってんだよこのオレに! 思い出せ思い出せって、何を、どうやって!?」
思わず叫び声が口を突いて出てしまう。まさにそれが、今オレの言いたいことの全てだった。
『オレの顔』はその言葉に一瞬迷うように顔をしかめたが、すぐに答えた。
「うるせー、とにかく頑張って思い出せよォ! 『オレ』は出来る限り色々協力してやったんだぜ!
見ただろ、フライゴン含むオレの五人の仲間っ! 味わっただろ、あの苦くて暖かいポフィンの味!
感じただろ、オレが生まれてきて始めて感じた人間の温もり……」
「……!」
そうか、なら先ほどの四匹とフライゴンは、オレの元仲間……
ポフィンの味……オレが退化してからのあの謎の一連の出来事……あれは、全部オレが体験したもの。
……言われてみれば、そのような気もしてくる。少なくとも、強く否定する事はできない。
少し前までは絶対の自信を持って否定できたことが、今ではひどく曖昧だ。
これは……なくした記憶を、思い出してきている、っていう……こと、なのか……?
……身を覆い尽くすような不安がやってくる。
あの人間が言っていたことは、全て本当だったっていうのか? まさか、まさかだよな……
……でも、だとしたら、オレは……オレは、どうすれば……
……
際限なく広がり続ける闇は、色も顔も、オレの思考意外全てを覆い尽くし世界を完全に塗り替えた。
真っ暗な世界の中、オレの思考だけが小さく光を灯しているようだった。
308: ◆8z/U87HgHc
07/12/08 12:47:38
カオスな流れもこれで終わり…
次回は、月曜日か火曜日の6時半からです。
みなさん応援ありがとうございます、とても励みになります。
309:名無しさん、君に決めた!
07/12/08 14:17:34
なんという焦らしぃぃぃいい!!……………GJ
310:名無しさん、君に決めた!
07/12/08 14:25:29
超GJ!
311:名無しさん、君に決めた!
07/12/08 15:28:51
クオリティたかっ
312:名無しさん、君に決めた!
07/12/08 17:15:43
乙~
レディアンとラグラージはネタキャラ要員決定したようなもんだな
313: ◆8z/U87HgHc
07/12/08 19:12:21
これから、ちょっとした質問があれば、それに答えていきたいと思います。
なにか質問したいことがあれば、遠慮なく質問してください。
でも答えたくない質問、答えられない質問には答えませんので、ご了承ください。ごめんなさい。
>>255
大長編にしたいですし、部隊も全部じっくり書きたいですねえ。
話のネタだけなら、たくさん考え込んでます。
314: ◆8z/U87HgHc
07/12/08 20:13:16
補足しておきますと、『これから』というのは『以後ずっと』という意味で、
もし何か質問があった場合は、小説を投下した後に一通り答えます。
じゃあ月曜日か火曜日にまた……
315:名無しさん、君に決めた!
07/12/08 20:23:19
とりあえず乙
316:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 00:19:33
コウイチくんとちゅっちゅしたいよぉ~
317:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 05:57:11
きめえ
318:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 06:21:38
dat落ちしろ糞スレ
319:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 06:25:52
誤爆乙
320:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 10:14:35
>>1がんばれー
321:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 10:47:27
なんだかんだでジュカインは仲間に戻らないと見た
ヨルノズクと相打ちになるとかで…
322:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 11:04:04
>>321
そうかな…しかし言われるとそんな不安が…
323:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 18:36:10
草タイプのジュカインでは飛行タイプのヨルノズクには勝てないよ。
324:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 18:37:10
うぇ~い
325:名無しさん、君に決めた!
07/12/09 18:44:32
とりあえず、なにか質問を。
48氏はポケモン暦はどれくらい? メインのシリーズ以外のポケモンもプレイする派?
326:名無しさん、君に決めた!
07/12/10 00:08:45
いまんとこ活躍してるポケモンが見事に金銀ポケモンとルビサファポケモンに集中してるな。
327:名無しさん、君に決めた!
07/12/10 00:16:05
しかし「アネ゛デパミ゛」が登場したってことは間違いなく赤緑世代w
328: ◆8z/U87HgHc
07/12/10 19:39:50
かなり遅れましたが今から投下します
329:名無しさん、君に決めた!
07/12/10 19:43:58
キタ──(゚∀゚)──!!
330:1/5 ◆8z/U87HgHc
07/12/10 19:44:28
森の夜更け。灯りの元一つなく暗闇が支配しているはずのこの森に、
ただ二つ、淡黄色に不気味に光る円形の何かがあった。
その二つの光に、網の上ですやすやと寝息を立てている小柄な人間の少年が照らされている。
「労せず食らいたくば寝込みを襲え……か」
虫も鳴き止み静寂が充満しているこの空間に、ふとしわがれた老人の声が木霊する。
その声は、あの二つの光のすぐ真下から発生している。
「『寝込みを襲う』……己の誇りに傷がつくと言って敬遠する者も多いが、このわしは違う。
貫き徹する事が誇りを生むのならば、外道を往く事もまた然り……
ほっほ、むしろわしにとっては、より外道としての誇りが高まるというものだ」
うわごとのように呟きながら、二つの光……いや、『二つの目』は、鼻先の少年の顔を舐めるように見つめている。
その少年の寝顔は、眉根に皺が寄り、悪夢でも見ているかのように苦しみに満ちていた。
「何度見てもい~~い顔だァ! どんな夢を見ているかは知らぬが、少なくともロクな夢ではなかろうの。
ここにいる者は全員、このわしの『催眠術』と『夢食い』によって本来見るはずだった夢を食われ、
ぐちゃぐちゃにぶち壊れた夢……ほとんど悪夢のようなものを見ているはずだからの……ほっほっほ」
甲高くゆっくりとした笑い声が、辺りに響き渡る。
二つの目は更に少年へと近づいていき、そしてまるで微笑んでいるかのようにきゅうっと上下が狭まった。
「さて、そろそろこの人間を我が基地へ連れ帰るとするかの……
わしの催眠術を食らったこの場にいる全員は、夜が明けるまでは目覚めることはない。目覚めることはないが……
何事も小さな油断が大事を招き、失敗へ至ってしまうのだ。仕事はすぐにこなさねばの……」
突然、二つの目の真上から青白い輝きが放たれたと思うと、少年の体が吊り上げられたかのように宙に浮き上がった。
二つの目はより一層狭まり、気分を表しているかのように一層光が強まる。
そして……
「ぐあっ!?」
331:2/5 ◆8z/U87HgHc
07/12/10 19:47:57
「ぐぅっ……!」
突如、老人のうめき声と鈍い音が同時に響き渡り、二つの目がグラリと揺れ地に伏した。
同時に、宙に浮き上がっていた少年は糸が切れたように網の上にストンと落ちる。
「なん、だァ……!?」
二つの目の輝きが曇り、苦心に満ちた声が響く。
そして次の瞬間……その老人の声ではない、『もう一種類の声』が森に響き渡った。
「ケケケッ、こんな夜更けに何やってやがんだぁっ!?」
「……!?」
「正面から駄目と見りゃ寝込みを狙うなんて、いい精神していやあがるぜ。
なぁ、いつぞやの魔王軍の梟の旦那……いいや、『ヨルノズク』さん、だったかな?」
もう一つの声は、ひどく相手を小馬鹿にしたような抑揚の激しい喋り方をしながら、どんどん二つの光のある方へ近づいていく。
二つの目が……『ヨルノズクの二つの目』が、もう一つの声の元である影を照らした。
「きさ、貴様は……!?」
その影の正体を確かめた瞬間、ヨルノズクの顔が驚愕の色に染まった。
いるはずのない者、起きているはずのない者が、今そこに確かに立っていたからだ。
「貴様は、『ジュカイン』……!?」
332:3/6 ◆8z/U87HgHc
07/12/10 19:52:13
「な、なぜだっ! この場にいる全員は、貴様も含めわしの催眠術で
明日まで眠りっぱなしのはずだ……なぜ、起きている!?」
そのヨルノズクの声は、驚きと焦りに塗れ震えている。
ジュカインはそれとは対照的に、愉快といった風に喉を震わせながらこう言った。
「クック、簡単なことさ。理由は二つ。
まず、お前が森全体に『催眠術』をかけた頃には、オレは既に眠っていたんだ。
そしてもう一つ。オレは、お前のように寝込みを狙ってくる卑怯なやつに対応するために、
わずかな物音がしただけでも起きれるように鍛えてあるのさっ。ケケケッ」
「ぐっ……」
ヨルノズクはそれを聞くと、悔しそうに歯をむき出しにし、
また納得した風に少し笑みを浮かべながら、数度頷いた。
「ほ、ほほっ、なるほど……だ、だが聞け、ジュカインとやら」
ヨルノズクは数歩進んだ後、ジュカインにしがみつくようにしながら、こう懇願し出した。
「手を出さないでくれ。誤解しているようだが、わしは何もこの森を荒らすつもりは微塵も無い。
あの人間を連れて帰れればそれでいいのだ!
頼む、手を出さないでもらえるか。手を出さねば、わしは以後この森には関わらぬと約束するぞっ」
「……」
333:4/6 ◆8z/U87HgHc
07/12/10 19:55:05
ジュカインはそのヨルノズクを見下ろしながら、考え込むようにしばらく黙り込んでしまう。
そしてしばらく経った後クックッと愉快そうにほくそえみ出したと思うと、
一言、ゆっくりとヨルノズクに向けてこう告げた。
「いいぜ」
「!」
ヨルノズクはその答えに一瞬だけ意外と言った風に目を見開いたが、すぐに元の意地悪い笑みに戻る。
ジュカインはそれを見てまた喉をククッと鳴らすと、続けて口を開いた。
「カハッ、……その人間は俺にとっても心底迷惑な存在でな、早いトコこの森から出てって欲しかったんだ。
はっきし言って全く好都合さ、ヨルノズクさん。アンタのやろうとしていることはよ……ケケッ」
そのジュカインの言葉に、ヨルノズクの笑みがどんどん深い物になっていく。
そして、ついには口に出して高く笑い出した。
「ほっほっほ!! ……そうかそうか、それはありがたいのう。では……」
ヨルノズクは身を翻し、再び少年の元へと近づこうと歩を進める。
その瞬間、ふとジュカインがこう呟いた。
「……と、以前なら言っていただろうがなっ」
334:5/6 ◆8z/U87HgHc
07/12/10 19:59:36
「?」
ジュカインの言葉に、ぴたりとヨルノズクの足が止まる。
間髪入らずジュカインの声がまた響いた。
「残念ながら、だいぶ事情が変わっちまったんだよな。
オレがさっき寝てから今起きるまでのほんのたった数時間の間に……ね」
「なにィ?」
振り向き、ジュカインを見つめるヨルノズク。その顔にはそれまで浮かべていた笑みが消え、若干の不安の色が浮かんでいる。
ジュカインはそのヨルノズクの不安げな表情を見て、嘲るように半笑いを浮かべる。
「たぶん、お前の『夢食い』って技のせいだろーが、ちょいと奇妙な夢を見てね」
彼はそう言ってから、まだ半笑いを浮かべたままヨルノズクの目を貫くように見つめ出した。
「なっ、何を言っているのだ。そっ、そんなどうでもいい話は……」
ヨルノズクはどこか曰くありげなジュカインの言葉と貫かれるような視線に、思わず声を吃らせる。
「カハハッ、どうでもいい?
いいや、テメーにとっては『どうでもいい』筈がない話さ……つまりだなっ」
ジュカインはそこで一旦言葉を止めると、すうっと息を吸いヨルノズク目掛けてこう叫んだ。
「そこの人間には、このオレが絶対に手を出させねぇってことだ!!」
「な……!」
ヨルノズクは驚くよりも、怒り屈辱に震えるように歯を食いしばり、ジュカインを睨み付け出した。
「カハハッ! 喜びも束の間……だなっ!」
ジュカインはそれを見ると、 まるで一つ望みでも叶ったかのように心底満足げに顔を愉悦に歪めた。
いや、事実一つ望みが叶ったのだろう。
彼にとっては、自分のことを気に入らない者が屈辱に震えて、
自分に対し怒りを露わにする所を見るのは、この上ない快感の一つでもあるのだ。
335:6/6 ◆8z/U87HgHc
07/12/10 20:03:36
「要するに、こうとも言う。『テメーは今ここで再起不能になる』。
もう二度とあの人間に手を出せないってようにな……」
ジュカインは一転して挑戦的な笑みを浮かべると、ヨルノズクを睨み付けた。
「貴様……このわしに戦いを挑むというのか!?」
「だからそう言ってんだろバーカ。夕べみっともなく逃げ出したような奴がよく言うぜ」
「貴様ァ……!!」
一時は歓喜の色に染まっていたヨルノズクの目は、いまや溢れんばかりの怒気をはらんでいる。
ここまで己を嘲り虚仮にするような態度を取られては、自尊心の高いヨルノズクにとっては当然の事だろう。
しかしヨルノズクはその表情とは裏腹に、落ち着きはらった口調で喋り始めた。
「……夕べわしが逃げたのは……怖気づいたからでも自信が無かったからでもない。
……『疲れるから』だ。貴様らを葬れる力はわしには存分にあるが、そんなことで無駄に疲労して句を考える余力が無くなっては困るからだ」
「へぇ? あんま面白くない言い訳だな」
またもジュカインが挑発するように言うが、ヨルノズクはそれを無視し話を続ける。
「……ところが、『今は事情が違う』!
相手は貴様一人、句も十分に足りている。
そして何より……何より何より何よりィ~~~」
「わしをここまで虚仮にした貴様は、このわし直々に懲らしめねば気が済まぬからなァッ!!」
「!」
ついに、ヨルノズクの表情と語調が一致する。
「へぇ、本性を現したのか……? それとも、精一杯の強がりか……?」
ヨルノズクの叫びにもジュカインは些かも動揺せず、どこか余裕のある好戦的な笑みを浮かばせたまま、ヨルノズクを睨み続ける。
水を打ったような静寂と、二匹の間に充満するプレッシャーが、夜闇の緊張をより深めていた。
つづく
336:名無しさん、君に決めた!
07/12/10 20:07:51
乙ー
337: ◆8z/U87HgHc
07/12/10 20:15:23
>>325
いちおう初代が発売された頃からずっと順番にやってってますけど、
初代だけはやり込んだ覚えがありません。
バグ遊びなら結構やり込んだ覚えありますけどw
メイン以外のポケモンは一つもやったことないですね……ポケダンとかやってみたいんだけどなー
次回は明後日ごろになると思います。
338:名無しさん、君に決めた!
07/12/10 21:04:33
GJ!
339:名無しさん、君に決めた!
07/12/10 22:12:15
ジュカインかっこいいけど、何か挑発とか笑い方とか悪役っぽいなw
340:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 00:38:51
GJ
なんだろう……何故だか、ミュウツーの逆襲を思い出す。
是非、>>1も含めてミュウツーの逆襲を見てほしい……。ただ、それだけだ―。
341:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 00:42:53
ミュウツーの逆襲見たことない俺にkwsk
・・・別に詳しくじゃなくてもいいけど端的に。
342:名無しさん、君に決めた!
07/12/11 01:04:17
>>341
アイツー「わたしはアイツー。アイを元に作られたの」
ミュウツー「幼女テラモエスwww」
ミュウツー「私は誰だ! 誰が生んでくれと頼んだ!」
フジ「わしが育てた」
カイリュー「怪しいもんじゃなから、ちょっとあの島まできてくれや」
サトシ「イエス・ユア・ハイネス」
ミュウツー「いったれや! コピーポケモンたち!」
サトシ一行「テラツヨス」
ミュウツー「貴様と私、最強はどちらなのか決めるときが来たようだな!」
ミュウ「そんなことより、おはスタの収録が―もう、強引だなぁ」
サトシ「オレの体が石にィィッ!」
ピカチュウ「涙涙涙」
サトシ「も、戻った!」
ミュウツーとコピーポケモンたち「ぶーん」
コバヤシ「あ~る~き~つ~づ~け~て~♪」