07/11/29 19:42:22
「いィか、三人ともよく聞けェッ!
今朝サイシ湖にて、人間とはぐれ竜騎士が見つかった。
そしてこの事は、俺らと同じ『超人部隊』の傘下である『歩虫部隊』も『光獣部隊』も知らねぇ。
ドゥー・ユー・アンダースタン!? 俺達が他の部隊を出し抜ける大大チャンスってワケよォ!!
俺達飛鳥部隊がっ! 超人部隊……幻霊部隊……岩王部隊……闘神部隊……
奴等と同じ四天王様直属の部隊へのし上がるってわけだっ!」
「人間、ですか……それはそれは、久々に随分と重大なニュースですねぇ?」
「……ノリノリっスねェ~~、エアームドサン」
「場所は……『今朝サイシ湖にいた』。ほっほ。手がかりはそれだけかの?」
「もちろんだ」
俺はニヤリと笑いながら、演説のような語調で語り始めた。
「だがな、俺らは他の這ったり歩いたり、
つっ立ってるだけしかできねークソどもとは違う……
俺らには! この翼があるじゃあねぇか!!」
翼を前に突き出し、そして高く上げる。俺の顔も翼と同じくグッと上へ向け、天井を見つめる。
我ながら芝居がかった演出だなと思いつつも、構わずその体勢のまま演説を続ける。
「俺らは空の支配権がある唯一の部隊だ。オーケイ!? 人探しは俺らのいわば十八番じゃあねえか!
“異世界より来たり者が磁場に近寄りし時、大いなる力は深き眠りから目覚め、その首をもたげる……”
この言い伝え覚えてんだろ? そしてこの言い伝えが差す『大いなる力』が、俺らが魔王様の完全復活には欠かせない物だって事も……
……ハハッ、まぁ覚えてなきゃ魔王軍追放モンだがな」
三幹部に向かって翼を強く前に突き出し、顔の向きもそちらへ戻す。
クールに口をニッと歪ませ、一層声を高らかに演説の締めくくりを演出した。
「人間は、魔王様の完全復活に重大な鍵を握っている!!
いいか、テメーら……ぜってー人間を捕らえるんだぜ!!
ディドゥ・ユー・アンダースタン!? さぁ、行けェ!!」
つづく
151: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 20:00:06
明日は事情により投稿できないので、続きは明後日です。
支援してくれた人や応援してくれている人、本当にありがとうございます。
何か書き込みがあるだけでも、だいぶモチベーション跳ね上がるなぁ。
ではまた。
152:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 20:54:44
相変わらず飛行タイプ連中はブッ壊れてるな。
153:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 20:55:31
待っています
154:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 21:45:27
コウイチくんとフライゴンが可愛過ぎるんだがどうしてくれよう
155:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 00:22:22
主人公はコウキのパラレルキャラじゃなくて、描写的にオリキャラに近いっぽいな。
・12歳
・小柄
・黒髪
・紺色のブレザー着用
まとめるとこんなとこか。
156:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 11:42:38
戻ってきたか、とか小説スレの48、とかみんな言ってるがどういうこっちゃ?
だれか教えよ。
157:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 16:06:12
何スレ前の小説スレに始めに投下したのが48レス目だから…だったはず。
違ったら修正よろ
158:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 17:14:16
>>156-157
初代ポケモン小説スレの>>48だったから
>>500ぐらいまで連載していたが馬鹿が沸いて一時消えた
どこかの有志が小説保存してくれたみたい
そういえばポケモン大戦争の作者は戻ってこないのかなあ…
159:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 21:03:14
12竜騎士の設定は面白そうだな。
予想
ガーネット→
アメジスト→
アクアマリン→カイリュー(海に住んでいるから)
ダイヤモンド→ディアルガ(ダイヤのパッケージだから)
エメラルド→レックウザ(エメラルドのパッケージだから)
パール→パルキア(パールのパッケージだから)
ルビー→ラティアス(ルビーで出るから)
ぺリドット→キングドラ(王様だから)
サファイア→ラティオス(サファイアで出るから)
オパール→
トパーズ→
ターコイズ→
後はもう予想も出来ん・・・
160:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 01:56:20
ターコイズ→ガブリアス(何となく狡猾っぽいから)
161:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 11:09:24
期待あげ
162:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 13:30:20
>>159 ラティオスとラティアス逆じゃね?
163:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 13:43:41
逆だけど色から考えるとそっちがいいよね
164:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 13:51:11
>7月の石・ルビー! 情熱・仁愛!
> 炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石!
熱血なラティオスってのも何かやだなw
165:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 16:43:58
>>158
いえ、一時期消えたのは事情によりパソコンが使えなくなったからです。
断じて他の人の書き込みのせいじゃありませんよー。
なにか喧嘩さえ起きない限りは、書き込みがあればあるほど嬉しいです。
今日の投下は5時半過ぎからになると思います。
166:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:40:18
今まで鍵カッコ以外の文には必ず頭にスペース入れてましたが、
なんか携帯で読んでみたら少し読みづらかったので、今回は頭にスペース入れないで書いてみます。
スペース入れたほうがいいか入れてないほうがいいか、後で意見を聞かせてください。
167:1/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:44:13
日が暮れかけ群青色に染まろうとしている空の中を、一つの大きい影……鳥が緩やかに飛行している。
その鳥は、何かを探すように目を光らせ地上を見下ろしながら、ブツブツと言葉を呟きだした。
「人間は無意識の内に磁場の元に引き寄せられる……か。
どこから生まれた言い伝えかは知らぬが、それが真ならば……」
鳥は目線を動かし、地上を濃く染める膨大な木々の群れを見据える。
「サイシ湖から一番近い『磁場』……あの『生命の森』に、人間達はやってくるはずだの。ほっほっほ」
鳥はゆっくりと笑いながら、再び地上を見下ろし何かを探すように視線をギョロギョロと滑らし始める。
……それから数分の時が経った時、地上を見下ろす彼の目線の先に、二つの小さな影が現れた。
「……おっ!?」
鳥はそれを視認した瞬間、期待の入り混じった一声を上げた。
そして鳥は、地上をゆっくりと歩いているその二つの小さな影に向かって目を凝らす。
……数秒後、鳥の表情に喜色が走った。
「……やはり、だっ! わしの予想通り、奴らは『磁場』へ……『生命の森』へ向かっていたっ!」
鳥は顔に浮かばせた喜色をみるみる強めていきながら、不気味に首を横に傾かせ、興奮したように叫びだした。
「さっそく一句できたぞっ!ほほ、快調じゃのォ~~~
哀れかな
飛んで火にいる
夏の虫
ほほっ! 彼らならきっと……わしにいい句を沢山提供してくれるだろうのォ!! ほほほほほっ!!」
鳥は壊れたような高笑いを残しながら、大きく翼をはためかせどこかへ向かって飛び去っていった。
168:2/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:46:05
「わあ、お空もう暗くなってきたねフライゴン……」
「ですねー。こんな場所だと、暗いとちょっと怖いなあ……」
辺りは暗い闇に包まれようとしている。
夜の始まり、夜行性のポケモンが寝床から起き始める時間帯だ。
―この世界の時間の表現はどうなのか知らないけど……
……いや、この世界の文化が人間から伝えられたものなら、時間の表現もやはり同じなのかな?
ともかく、今の時間を人間の世界の表現で言えばおそらく『8時か9時』と言ったところかな。
いつものぼくなら、旅から一旦帰ってきてごはんも食べ終わり、そろそろお風呂に入り始める時間。
つまり就寝の一歩手前くらいの時間だ。
そんな時間帯だけれど、『今のぼく』はお風呂に入る支度もしていなければ、自宅にもいない。
じゃあ、一体今ぼくは……ぼく達は、何をしていると思う? どこにいると思う?
歩いているんだ。鬱葱と生い茂る『森の中』を。
見回せば木しかない。 見上げれば、濃い群青色の空を黒いまだら模様が覆っている。
……なぜ、ぼくはわざわざこんな森に入ったのか。
自分自身でも上手く説明がつけられないけど、この森には、ぼくを強烈に引き付ける『何か』があった。
ぼくの『予感』や『期待』といった物を刺激し増幅させる魔力めいた『何か』が、この膨大な木の集まりの何処かから染み出していたのだ。
端的に言えば……『ぼくのポケモン』が、あるいは『この世界を抜け出る方法』が。
この森の何処かに存在している……そんな気がしたんだ。
第二話 「不安の流れ」
169:3/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:49:54
「あー、このまま野宿ー、なんて事になったらヤだなぁ~~。ぼく寝袋とかなんて持ってないし、からだとか髪の毛が汚れちゃう……」
「だ、大丈夫ですよコウイチくん! もしそうなったら、ボクがコウイチくんのお布団になりますからっ」
「えっ! ……い、いや、いいよぉ。さすがにそれは遠慮しておくよ……」
「いやあ、遠慮しないでいいですよー。そのくらいボクには苦にも何にもなりませんよ」
「そ……そお? そぉ~~? じゃ、じゃあ野宿する事になったら頼むねっ! 野宿する事になったらだけど……」
「はァ~~い」
まったく、フライゴンは本当にいい子だ。ここまでぼくの事を思ってくれてるなんて、
トレーナー冥利につきるというか何というか、大事に育てた甲斐があったってもんだねっ!
……でも、さすがにポケモンの上に乗って寝るなんて気が引ける。フライゴンもおもっ苦しくてよく寝付けなくなるだろうし。
野宿なんて、出来ることなら避けたいんだ。そのためにはこの森を早く抜けなければいけない……のだけれど、出口が見つからない。
こんな感覚を覚えたのは、かなり前のことだけれど『ハクタネの森』の探検以来だ。
……まぁ、だからって『怖い』だとかそんな感覚は一切無いけどね。
何たってぼくの隣には、何よりも頼れるこのぼくのポケモン……フライゴンがいるのだから。
たとえば凶暴なポケモンが襲ってきたところでやっつけてくれるし、
本当に迷ったみたいだったら、彼の背中に乗って空飛んで脱出できるしね。
……そうは理解しているのだけれど。
なぜだか、ちょっとだけ……そう、ほんのちょっぴりだけれど『嫌な予感』がするんだ。
身を竦めるほどでも足取りが鈍くなるほどでもない……本当にほんのちょっぴりの嫌な予感。
歩いている間ぼくはフライゴンと絶え間なく話をしているけれども、それでもこのちょっぴりの
『嫌な予感』は、十字キーの股にこびりついたちょっとした汚れのようにしつこく離れようとしない。
……これは短い人生の中でのぼくのちょっとした『法則』というか『ジンクス』ってやつなんだけど……
こういうちょっとした『嫌な予感』って……意外と当たるんだよね、なぜだか。
今回はどうだろうか? そう思い始めてからほぼ間もなくして……その答えは出た。
170:4/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:53:00
「見下ろせば 死地へ赴く 子の頭」
「?」
不意に、風のさざめきを割ってそんな声が聞こえてきた。
5・7・5のリズムに乗せた言葉の塊……俳句?川柳?
そしてその言葉が聞こえてきたのは、およそぼく達の頭上……そのせいで音波が拡散され正確な方向は掴めない。
「今なんか、聞こえた……よね」
「聞こえました……ね」
フライゴンと一度顔を見合わせ、声の主を探ろうと同時にまっすぐ上を向く。
その瞬間、また声が聞こえてきた。
「夏夕べ 空を見上げる 阿呆の面」
「アホ!?」
突然バカにされた。それもよく分からない俳句に乗せられて。
なんだかよく分からないけれど、とにかくぼく達を陰から見て嘲笑ってる奴がどこかにいるんだ。
首をぐいぐい捻り、闇に塗れ複雑に絡み合う木々や葉っぱの間を目を凝らして見るけど、 何者かの影なんてどこにも見えない。
自分の見えない場所から俳句だけ言われるのがひどく不気味で、ぼくは心なしか冷や汗を流していた。
先程までの『嫌な予感』がれっきとした『不安』に変わっていく。
「幼子が 畏怖に汗ばむ 森の奥」
また、ぼく達の様子をそのままヘンな俳句にされた。
不気味だと思うと共に、苛立ちが募っていく。
「フライゴン……誰かいた?」
「いや、何も……あっ!」
フライゴンは驚きの一声をあげ、ある一点に向かってビッと腕を向けた。
何かを見つけたんだ。ぼくは急いでその方向を見つめる。
……幾多の木々のどれか……てっぺんの木の枝からもう少し上、
空にインクを垂らしたようにポツポツ浮かぶ葉っぱの群れの一端に、小さい二つの赤い光があった。
いや、これは光じゃない……『目』だ。
171:5/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:55:30
「まず『三つ』か……『三つ』で限界だが、これは幸先のいい……
『二つ』ではなく『三つ』……これは幸先がいいのォ~~~!
最初と最後以外に余分に一つあるこの余裕……ほっほほ! 安定感が比べ物にならぬ!
意外や意外や意外、ここまで『二つ』と『三つ』の間に高い壁があるとは! これも収穫だの……ほほ!
本当に幸先がいい……これからの収穫を予想しただけで身震いが起こるのォ! 期待が止まらん、ほっほほ!!」
『そいつ』は何か意味の分からない事をベラベラと喋っているが、ぼくはそれに耳を貸さずひたすら目を凝らすのに集中する。
どんどんと、『そいつ』の全体像が見えてきた。
鳥……? かなりでかそうだ。
……それにしても、頭上から突き出るあの二つの角のようなものは、どこかで見たことのある形だ。
夜……・『光る目』……そうだ、こいつは……!
夜行性の鳥ポケモンの代表、そしてこのでかさから言えば恐らく『それ』の進化系。
間違いない! こいつは……
そこまで思考が到達した瞬間のことだ。
「さて、人間諸君。これからワシに多大な収穫をもたらしてくれるであろう君達に、名も教えないのは失礼かもしれんの。
一つ、自己紹介させてくれないかの? 文化を重んじる者は礼儀も重んじる物だからの」
『そいつ』はそう言うと同時にその翼を大きく広げ、止まっていた木の枝から足を離れさせた。
こちらに降りてくる。ぼくは咄嗟にそう思ったし、実際そうだった。
翼を軽くはためかせ、『そいつ』はあっという間にぼく達の前に降り立った。
「!」
姿が完全に露になったそいつのプレッシャーに、ぼくは……フライゴンも、思わず後じさりをする。
そいつは一度微笑むように目じりを上げると、先程ぼくの思考も辿り着いたその名を口にした。
しかも、もう一つの衝撃の事実と一緒にだ。
「ワシはヨルノズク……魔王軍飛鳥部隊三幹部のヨルノズクだ。ほっほ!! よろしくのォ、人間諸君!!」
172:6/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:58:07
ヨルノズク!
夜の草むらによくいるホーホーっていうふくろうポケモンの進化系だ。
ぼくは夜には大体自宅に帰ってるから、実際見たことはあまり無い。
そして、こんな間近で見たのはたぶん初めてだ……
いや、そんなことよりもだ。
問題はこのヨルノズクが『魔王軍』……要するに『悪いヤツ』だってことだ。
『人間は魔王の完全復活に重大な鍵を握っている』と、ハスブレロ村長が言っていたけれど……
あれが本当だったなら、ヤツの狙いは確実にぼくだ。
ぼく達の世界の野生のポケモンは基本的に人間は襲わないけれど、
こいつらは間違いなくぼくを襲ってくる。ニワトリがミミズを食べるように一つの躊躇いもなく。
さらわれるのか? それとも……死なされちゃう、のか?
「……コウイチくんには手を出させないぞ」
フライゴンはぼくの心中の不安を読み取ったかのようにそう言い、ぼくの前に出た。
さすがフライゴン! 頼りになる……!
フライゴンはまっすぐヨルノズクを睨みつける。
それに対しヨルノズクは、対抗するように睨み返す……という事はなく、フライゴンの視線を恐れるようにすぐ目を逸らした。
「ほっほほ……言っておくが、ワシゃ戦いはちょいと嫌いでの……
そういう暴力的なことはなるべくワシゃ遠慮したいのだがのー」
「なに?」
拍子抜けしたようにフライゴンの表情がふっと緩んだ。
ぼくも同じだ。こいつ……もしかして俳句を言うためだけにここに出てきたっていうのか?
突然、そのヨルノズクは全くの敵意も何も感じさせない半笑いの表情でこう言い出した。
「ワシゃそれなりに歳での……ブンブン動き回ってのチャンチャンバラバラは体に障るからの。
こう言っちゃあなんだがー……見逃して欲しいのだがの」
「はぁ?」
173:7/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:01:25
ぼくは、気がついたら思い切り感嘆符を口から出していた。
当然だ。『自分から出てきておいて見逃してくれ』?
何を言ってるんだこいつ! さっきの村長と違ってまさかコイツ本気で『ボケ』入ってるのか?
「ね、ねぇコウイチくん……あのおじさんこー言ってますけど」
フライゴンが振り返りぼくの耳元でそう囁く。
「う、うん……言ってるね」
ぼくはどう対処していいか困っていた。フライゴンも困ったような顔をしている。
『見逃してくれ』と言ってる相手をやっつけるのはアレだし、だからって簡単に見逃すのもアレだ……
……そうやって迷っていると、不意にヨルノズクがこう言い出した。
「あのな、言っておくが……」
フライゴンはその言葉にパッと振り向き、ふたたびヨルノズクを見据える。
ヨルノズクの表情に、笑みは無かった。 鋭い眼を光らせ、プレッシャーを放っている。
「お前らは大人しくワシを見逃してくれ。ワシは戦わないしお前達に手は出さない。戦いは嫌いだからの……
だが『ワシはお前を見逃さない』。『竜のお前はズタボロに倒され、人間のお前は魔王様の下へ連れて行かれる』。
いいか、お前達は無事に帰れない。肝に銘じておけ……お前達はたったいま『火の中にいる』のだ!」
ヨルノズクは突如片方の羽を高く上げた。
それと同時に、複数の葉ずれの音が同時に鳴る。複数の何かが、幾多もの木の中から現れた!
「コ……コウイチくん、上、見てください!!」
「!?」
ぼくは上を向き……そのまま辺りを見回した。
無数の木の葉をバックに、幾つもの陰が浮かんでいる。詳しい種類は分からないが間違いなく『鳥ポケモンの群れ』。
もしや、全員このヨルノズクの手下……いや、『もしや』じゃない。『確実にそうだ』!!
「ほーっほほ! そういう事じゃ人間諸君。では、ワシゃ文字通り高みの見物といくかのー!!ほっほほほ!!」
ヨルノズクは高笑いだけ残し、バッと飛び去ってしまった。
そして、複数の鳥ポケモンが……おそらくぼく達目掛けて一斉に急降下を始めた!
「コウイチくん、下がってて!」
174:8/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:04:42
「句とは即興なり!!
感動とは鮮度を保つことが難しいもの……
体験した感動はその場でそのまま書き記さねば、よい句などはできないのだ!!
巣の中で小一時間難しく頭を働かせて書き上げた句など、たかが知れた物にしかならぬ。
ワシは魔王軍に入り、己の最たる感動は何かを知ると同時に、それを理解した!
そしてワシのその最たる感動とはっ! 苦しみ、もがく若者を見ることにより芽生えるのだっつ!
四面楚歌の窮地に立たされ、命をすり減らし必死にあがく若者を見ることにより芽生えるのだっつ!
ワシにとってその様は、積もる初雪に輝く銀山よりも、紅葉に燃える赤山よりも、
蛙飛び込む水の音よりも、何倍も何倍も感動を得られるものなのだ!!
さぁ、若者達よ。ワシに至上の感動をプレゼントしておくれっ!! ほっほっほ!!」
「フ、フライゴン……!」
敵ポケモンは一体何匹いるのだろう?
ともかく、確実に20匹以上はいる。
ぼくは野鳥観察官じゃないから詳細な数なんて見当もつきそうにないけど、
ともかく……
こんな数のポケモンに襲われるのなんて、生まれて初めてだっ!
1対2の経験ならある。だけどそれ以上は一切ない。1対3もなけりゃ1対4もない。
しかし、今回は『1体20X』だ。
フライゴンは持ちこたえられるのだろうか? 心配で、ぼくは後ろに下がるのを躊躇う。
しかし、敵ポケモン達は思いのほか早く、もうぼく達のかなり近くまで近づいてきていた。
「コウイチくん!!下がってくださいっ!!」
「あっ」
フライゴンは、ぼくを手で押し退けた。
それと同時に、フライゴンは翼を大きく広げ強く力を込め始めた。
175:9/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:07:56
「なんだなんだ? 何をやってるんだぜあの竜?」
「気にすんな! 突っ込んで奴の体を嘴でザックリ刺してやるだけよ!」
まるで矢のように急速な勢いでフライゴンに突っ込んでいく鳥ポケモン達(近づいてくるにつれ、そのポケモンが『スバメ』や『ポッポ』などである事が分かった)。
その『矢』が、四方八方から何本もフライゴン目掛けて飛んできているのだ。。
ぼくは、経験の無い事態に慌てフライゴンへの命令が全く頭から出てこない自分に焦っていた。
焦っている間にも、『矢』は依然急速な勢いでフライゴンへ飛んでくる。
やがて、幾多の『矢』はもうフライゴンのすぐ近くへ・……
「フライゴン!! とにかく頑張って打ち落とせェーーー!!」
「ぐがっ!!」
間もなくして、悲鳴が聞こえた。
それも、『幾つもの』だ。
もちろんフライゴンの悲鳴じゃない。鳥ポケモン達の悲鳴。
向かってくる『矢』に対し、フライゴンは硬質化させた翼をたたきつけたのだ。
何匹かの鳥ポケモンが崩れ落ちると同時に、すぐに『矢の』第二陣はやってきた。
しかし、そのどれもフライゴンの体に至ることは無い。
フライゴンはまるで舞うように硬質化した翼……『鋼の翼』で、力強く的確に襲い来る『矢』を撃ち落していったのだ。
『矢』達は、みな空しく悲鳴を上げ落ちていく。
軽く30匹は、フライゴンの翼の攻撃のみで倒れていっただろうか。
やがて敵の軍勢は尽きたのか、もう矢はこちらへ向かってこなくなった。
フライゴンは息を切らしているが、まったくの無傷だ。
余裕勝ちだ。完封勝利だっ。笑いが込みあがってくる。
「や……やったやったー、フライゴン!! さすが……」
そう言ってぼくが近寄ろうとした……瞬間。
パシュッ!
176:10/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:10:22
「うあっ!」
空気が切り裂かれたような音と共に、
突如フライゴンは呻き声を上げながら、体の一部を手で押さえた。
その手の中から、鮮血の筋が漏れ体を伝っている。
フライゴンが何者かに攻撃されたんだ。敵はまだどこかにいるということだ。。
「フ、フライゴン!? だいじょうぶ!?」
ぼくがフライゴンに駆け寄ろうとした、その瞬間。
パシュッ!
「あっ!」
再び空気が切り裂かれる音と共に、ぼくの頬に熱い線が走った。
そして、そこから生暖かい血が垂れてくる。
さきほどフライゴンを傷つけた『何か』が、ぼくの頬を切り裂いたんだ。
痛みはほとんど無かったが、見えない場所からの攻撃への恐怖に胸が犯される。
……しかし、その恐怖はすぐに晴らされた。
「そこだっ!」
フライゴンはそう叫び、瞬時にある方向へ向かって竜の息吹を吹き出した。
フライゴンの口内から放たれた熱の奔流が、斜め前方の木の中へ入っていく。
それから間もなくして……
「にぎゃっ!!」
その方向から悲鳴が聞こえ、ぼとりと丸っこい黒い塊が落ちてきた。
フライゴンの息吹に撃ち落されたんだろう。ぼくはそちらに駆け寄り、落ちてきた塊の正体を確かめた。
「これは……」
177:11/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:14:57
おそらくぼく達に『エアスラッシュ』を打ち込んだのであろうそのポケモンは、ホーホーだった。
あの敵、ヨルノズクの進化前……確実に、ヨルノズクの手下のうちの一匹だ。
歯車のような文様の目をぐるぐる回してる。一目で完全に気絶してる事が分かる。
「どうです?」
フライゴンが駆け寄ってきた。
「見ての通り気絶してるよ」
フライゴンはほっと安心したように顔を綻ばせる。
「そですか。こいつがボク達を狙ってたんでしょうけど……まさか狙ってたのがこいつ一匹だなんてことは……」
怪訝な顔でフライゴンがそこまで言うと、上空から『あの』声が空から降ってくるように辺りに響き渡った。
「ほっほ、第二章の開幕の合図だよォ、人間諸君!!
さぁさぁさぁ、ここからは一層厳しくなるゾォォ!! ほっほっほォ!!」
ヨルノズクの声が響き渡った瞬間、突如辺りの木々がまた一斉に葉擦れの声を上げた。
「!?」
再び夜空に幾つもの影が浮かび上がった。それも、ホーホーと同じ丸っこい影がだ。
そしてその影は、先程のスバメ達と違ってこちらに向かってくる気配は微塵もない。という事は……
「コウイチくん、危ない!!」
「撃てェ!!」
ヨルノズクの合図と同時にフライゴンはぼくを抱きしめ、そのままその場を飛びのき横なりにゴロゴロ転がった。
数コンマ後、空気が切り裂かれる音が降り注ぎ、ついさっきまでぼく達がいた地面に幾つもの深い傷跡が出現した。
「……!」
「それなりに間髪いれず連発してきますよ、あいつら……ほら、また来た!!」
178:12/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:17:37
ヨルノズクは、今まさに感動の境地にいた。
眼下では、人間と竜がホーホー達の見えない攻撃を飛び回り必死で避けている。
ヨルノズクはその二人の動きと表情を必死で追いながら、内なる興奮を我慢できず喉から解き放っていた。
「ほっほっほっほっほォォォ!! いいぞっ、その動き、その顔っ、その必死さっ!!
すごい、すごいゾォォォ、句が湧き水のようにどんどんどんどんどんどんどんどんどんどん湧いてくるのォォォ!!!
また一句!! また一句!! また一句!! また一句!!
また一句!! また一句!! また一句!!
多多益々弁ずとはよく言ったもの、これだけ句が浮かべばそれなりに当たりもあるだろうし当分は困ることなかろうて。ほっほっほ!!」
「!?」
ぼくとフライゴンが避けている途中、興奮したようなヨルノズクの声が森中に響き渡りだした。
「コウイチくん、あそこにいますよ!」
フライゴンがヨルノズクのいるであろう方向へ指を差す。
ぼくは顔を挙げ、大木の頂上から文字通り高みの見物しているヨルノズクの方へ視線を向けた。
闇に馴れたぼくの目は、一目でヨルノズクの様子を脳に伝えるに至る。
……そのヨルノズクの様子を見た時、ぼくは何とも言えぬ不気味な感覚にとらわれた。
ヨルノズクはまるで壊れたカラクリ人形のように首をぐるぐると高速で回転させ、
俳句短冊へ筆を走らせるように、翼をシャカシャカと空になぞっている。
ヨルノズクというポケモンは難しい事を考えているときには首を180度傾けると聞いたことはあるけど、
あんなにグルグルと頭を高速回転させるなんて聞いたことないぞっ。
言葉も出せないほど呆気に取られているぼくに、不意にフライゴンがこう言った。
「……コウイチくん、ちょっと今からボクあいつ倒してきますっ」
「……えっ?」
179:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 18:20:31
次の投下は7時半過ぎからです。
180:1/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:31:21
ぼくは条件反射的に咄嗟に『無謀だよ!』と言おうとしたが、冷静に考えるとそうでもない。
あのヨルノズクは『戦いが嫌い』らしいし、おそらくあのホーホー達を指揮してるのはあのヨルノズク。
ここであのヨルノズクを仕留めれば、きっとホーホー達の動きはガタガタになる筈だ。
たとえば一流のオーケストラ楽団でも、演奏中に突然指揮者がいなくなれば
音が合わず悲惨な事になるらしい(お母さんが言ってた事だから今一信用できないけど)し、それと同じことだ。
ぼくは、ゴクンと一度息を呑み叫んだ。
「よし、じゃあ行けフライゴン!! あのヨルノズクをコテンパンにしてくるんだぁ!!」
「了解です、コウイチくん!!」
フライゴンは羽をはためかせ、激しい振動音と共にジェット機のように急速な勢いで上空のヨルノズク目掛けて飛び上がった。
「!!」
ヨルノズクの頭の回転がピタッと止まった。危機を察知したんだろう。
ぼくはグッと拳を握り締めながら、フライゴンの行く末を見守り始めた。
181:2/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:32:46
ボクは爪に神経を集中させた。一撃であのヨルノズクを仕留めなければいけない。
ボクのドラゴンクローは、今までどんな敵だって一撃で仕留めてきたんだ。出来ないはずがないっ。
ヨルノズクの姿がどんどん大きくなっていく。ボクは一度大きく息を吸い、腕を振り上げた。
「ヨルノズク、覚悟っ!!」
ヨルノズクの表情が一層動揺に歪む。
ボクは、渾身のドラゴンクローをヨルノズク目掛けて繰り出した!
ガキン!!
けたたましい金属音に似た硬い音が、ボクとヨルノズクの間から鳴り渡る。
「……!」
……爪から腕へ、腕から脳に伝わるその感触は、生物の肉体に爪が食い込む感触じゃない。
もっと固い……金属の板のようなものに衝撃が弾かれる音。
「あと一息……あと一歩……と言った所だの。
まさに紙一重、いいや、板一重とでも言った方が上手い洒落になるかの。ほっほ」
ボクの爪とヨルノズクの間には、わずか数ミリ程の『リフレクター』が張られていた。
ボクの攻撃はそれに阻まれ、ヨルノズクには通らなかったんだ。
「くそぅ、ならもう一度……」
ボクが再び腕を振り上げると、ヨルノズクはすかさずこう言った。
「少しは己の危機に気づいた方がいいな、竜よ」
「なんだって?」
パシュッ!ピシュッ!パシュッ!
182:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 19:34:07
183:3/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:36:21
「あぐぁっ!!」
突然、体の至る所にカミソリの刃が走ったような鋭い刺激が走った。
ボクは瞬時に察知する。ホーホー達のエアスラッシュが、ボクに命中したんだ……
そうだ、ボク達は依然ホーホー達に狙われたまま。同じ場所にいたら一斉に攻撃を受けるに決まってる。
「フライゴン!!」
地上から、コウイチくんの心配したような声が聞こえる。
思わず首を回し下を見ると、ボクの背中から血が何滴か滴り落ちていることが分かった。
心配しないで待っていて! すぐに戻るから……!
「んぐぅぅっ!!」
ボクは歯を食いしばり、再び渾身のドラゴンクローをリフレクター目掛けて叩き付けた。
「!」
ヨルノズクの目が見開かれ、同時にリフレクターが音を立てて破壊された。
空気に飲まれるようにリフレクターの破片が消滅していく。やった!
あとはヨルノズク本体へドラゴンクローを叩き込むだけだ。
ボクはもう一度腕を振り上げ……
バシュッ! パシュッ! ピシュッ!
184:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 19:38:47
神ktkr
185:4/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:40:03
「か……っ!」
三度目の激痛の波がやってきた。ホーホー達のエアスラッシュがまたもボクに直撃したんだ。
痛みのせいか、ふとボクの意識が暗闇に飲まれる―
「フライゴォン!!」
「はっ」
コウイチくんの声が聞こえ、ボクは数コンマだけ消えていた意識を取り戻した。
その時は既に……ボクの体は地に向かい重力にしたがって落ちている途中だった。
「わ、わ―っ……えっ!?」
慌てて翼をはためかせようと力を入れたその時、突如背中に鈍い衝撃が走り落下が止まった。
「……え、え?」
地面に落ちたわけじゃない。まだボクはかなり地面から遠い場所にいる。
それなのに、なぜだかボクは落下を何かに受け止められていた。
「え、これは……」
ふと身を起こし、己の背中を受け止めたものに視線を走らせる。それは――
リフレクター!?
いまボクの背中にあるものは、間違いなくあのヨルノズクのリフレクターだ。ヨルノズクのやつ、ボクを助けたっていうのか……?
いいや、違う。これは『ホーホーにボクを狙わせるために張ったんだ』。
咄嗟に周りに視線を巡らすと、ホーホー達の視線がボク一点に集中されてる事に気付く。
そして、翼を高く挙げエアスラッシュの準備姿勢に完全に入っていることも……
「うあっ」
急いで飛び上がり離れようとするが、体に力を入れると傷口に線が走り思わず痛みに呻いてしまう。
やられるっ !
ボクは瞬時にそう悟る。そして次の瞬間―
「うぎゃあああ!!」
186:5/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:44:08
あれ?
突如、辺りに悲鳴が聞こえてきた。
だけどボクはまだ悲鳴を上げてないぞ!
聞こえた悲鳴は『ボク以外の悲鳴』だ。それも、全く聴き慣れない声。
つまりヨルノズクの悲鳴でなければ、コウイチくんの悲鳴でもない。
じゃあ誰の悲鳴だ? それは、次の瞬間に明らかになった。
「あぎゃっ!!」
「!?」
その瞬間起きた悲鳴と同時に、周辺の何十の丸っこい影のうちの一つが落下していった。
悲鳴を上げたのは、ボクをエアスラッシュで攻撃していた『ホーホー』だった。
「ぎゃっ!」
「うぎゃっ!」
続いて何度も悲鳴が聞こえ、その度にホーホーが一匹一匹落下していく。
「? ?」
ボクの頭が困惑にかき回される。その中、更にボクの困惑を助長させる要素が一つ加わる。
……まるで身軽な猿が木々の間を飛び交っているかのように、周辺の木々から枝を蹴りつけるような音が順番に聞こえてくるんだ。
そして目を凝らしてみると、その音がした木と次に音がした木の間に、『何かが移動してるような影』も見えるんだ。
……ボクが今出した例え話が、もしかしたら当たってるのかもしれない。『身軽な猿が木々の間を飛び交っている』……
木々の間を縦横無尽に飛び回り、すれ違いざまに敵を倒していく。その戦い方に、なぜだかどこか既視感が芽生える
「な、何だァーー!何が起こってるんだァ!」
ヨルノズクもうろたえ、そう叫び出す……その次の瞬間辺りに、
ボクのものでも、コウイチくんのものでも、ヨルノズクのものでも、ホーホーのものでもない……
ある声が響き渡った。
187:6/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:46:23
「いいか、これはれっきとした天誅、成敗ってヤツさ阿呆鳥ども。
俺達の縄張りを勝手に侵したアンタらが悪いんだぜっ」
およそ周りにいたホーホー全員が打ち落された次の瞬間、辺りにそう響き渡った。
……ヨルノズクの声でもコウイチくんの声でもないけど、なぜだか……聞き覚えがある、声だ。
「なんだ、誰だっ!!どこにいるのだっ!」
ヨルノズクは頭を左右に回転させ目を光らせる。
ボクも頭を動かし声の主を探ってみるが、どこにもそれらしき影は無い。
「ここだよ、ここっ!」
「?」
突如、声の位置が変わった。ボクより下……
ボクは、頭を横に転がし下を見つめた。ヨルノズクもバッと地面を見下ろす。
いた。
コウイチくんの隣にその声の主はいた。
そしてその声の主の姿を確認した瞬間……その声が聞き覚えある声である理由が瞬時に判明した。
「やぁ~~っと気付いたかよノロマ。梟のクセにやたら視力悪いのな、老眼鏡でもかけたらどうだ? カハハハーッ!!」
なぜなら、その『声の主』とボクは……以前『仲間』だったからだ。
同じ『コウイチくんのポケモン』として一緒に戦った、『仲間』だったからだ。
ボクは、反射的にその彼の名前を叫んでいた。
「ジュカイン!!」
188:7/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:49:42
「ジュカ……イン……?」
突然のことだった。本当に突然、ぼくの隣にあのジュカインが現れた。
元『ぼくのポケモン』……フライゴンと同じく『一緒に旅してきた仲間』……
そのジュカインが。今まさにボクの隣に立っているのだ。
「何だ、アンタ俺の名前知ってんのかよ」
「え?」
ジュカインは、ぼくの方を振り向きそう言った。 ……少しだけ湧き上がっていたある期待が、一瞬にして消滅する。
『アンタ』。このジュカインがぼくのジュカインだったとしたら、こんな他人行儀な呼び方はない。
だとしたら、このジュカインはぼくのジュカインじゃない……別のジュカインだという事だ。
「アンタ、あの鳥達の被害者?」
ジュカインはぼくにそう尋ねる。
「……そうだけど」
「ってことはアンタは敵じゃあないってワケね。あそこで浮いてる緑いのは?」
「……ぼくのポ…友達だよ」
「ふぅん。じゃ、あと残ってる敵はあそこの梟だけね。……おい、何ジロジロ見てんだよ」
……気だるそうに垂れた目、ぼくより少し大きいくらいのその大きさ(『ジュカイン』という種類の中ではかなり小さい方らしい)。
姿だけ見たら、お顔だけ見たら完全に『ぼくのジュカイン』だ。
ぼくの頭が困惑にかき乱される中、ふとヨルノズクの叫び声が聞こえた。
「お前みたいな部外者はお呼びでないんだよォ!! 邪魔だからさっさと消えろっ!!」
突如ヨルノズクはそう叫ぶと、片方の翼を高く挙げた。そしてそれと同時に、また木々の隙間から数十の鳥ポケモンが出現する。
「あいつボケ入ってんのかね。どっちが邪魔な部外者だか分からせてやるっ」
ジュカインはぐぐっと腰を引き戦いの構えをとった。
……戦い方を見れば。戦い方を見れば分かるはずだ。このジュカインが『ぼくのジュカイン』か『違うジュカイン』なのか……
……ってかもし戦い方が完璧ぼくのジュカインだったら、彼がぼくにこんな他人行儀なのはどう説明すればいいんだ?
有り得ないけど……まさか、き、記憶喪失、とか?
189:8/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:53:34
スバメ達が、さっきフライゴンに襲い掛かったようにこちらへ急降下してくる。
その攻撃に、ジュカインは……ってあれェ!?いない!
……いつの間にか、ぼくの隣に立っていたはずのジュカインがその場から消え去っている。
まさか逃げたんじゃあ……そう思い始めてから間もなく、疑いは杞憂である事が知らされた。
「ぎゃっ!」
また悲鳴が聞こえ、一匹のスバメが落ちていく。
無数の木々の間を高速で影が飛びまわり、その影とスバメが交わった時に、スバメは打ち落とされている。
打ち落としているのは間違いなくジュカイン。
ジュカインは、木々を順に飛び回り敵をかく乱すると同時に、辻斬りの如く進行上のスバメを斬り落としているのだ。
この、戦い方は……
「さて、ちょいと手ごたえが無いようだけど、これどういうワケ? カハッ」
ジュカインは高速移動をやめ、一本の木の枝にぶら下がったまま辺りを見回し出した。
高速移動の連続で体が疲労しているのか、片足を木に張り付けのんびりと辺りを見渡している。
「……!」
戦闘が有利な状況での、この余裕のノンビリっぷり……
「……よ、余裕ぶっこきおって、このワシを嘗めとるのか貴様ァ~~~~
そんな態度を見ても。ワシは面白くも何ともないんだよォ!!」
ヨルノズクは苛立ったような声を上げると、また片方の翼を高く挙げた。 『指令』の合図だ。
それと同時に、また鳥ポケモンが木々の中から何匹も現れ……
そして一斉に、ぶら下がりほぼ無防備なジュカインへと向かって突進を始めた。
ジュカインは依然ゆったりとした態度を取ったまま、向かい来る鳥ポケモン達に視点を定める。 動き出す気配は無い。
……あのままの姿勢で迎え撃とうってのか?
相手の鳥ポケモンは素早く、また数が多い。無茶だっ。
そして……
190:9/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:56:25
ぼくは思わず、目を数度瞬かせた。
視線の先で、凄まじい早業が繰り出されていたのだ。
ジュカインは、片手で木にぶら下がったまま向かい来る鳥ポケモン達をことごとく撃退していた。
片手でのリーフブレードで……シダ植物のような形の尻尾での、身を捻っての叩きつけで……
尖った足の爪を使っての二度蹴りで……一つのダメージもなく、
あっという間に向かい来る敵をほとんど蹴散らしてしまったのだ。
「……!」
向かってくるのが遅れた一匹のポッポが、目の前の状況に驚き前進を止める。
「ジャジャ~ン。これぞまさに一網打尽っ」
ジュカインはそう呟くと、片腕の力だけで枝を軸にクルリと回転し枝の上に立つ。
そのまま膝を折り、ただ一匹倒し損ねたポッポに向かってこう言い出した。
「さて、倒され損ないの小鳥くんにひとつ質問。
キミには今おおまかに二つの選択肢があるわけだが……どっちを選ぶんだい?」
ほぼ囁くような声量で、ジュカインは言う。
「勝ち目無い相手に果敢に挑んで倒れるか……このまま尻尾巻いて逃げ出すか……
二つに一つってヤツだけど、さぁ、どうするどォする~? カッハハッ!!」
ポッポはしばらくは答えずに、鋭い眼でただジュカインを睨みつけている。
静寂がしばらく続いた後、ポッポはまっすぐにジュカインを睨みつけながらこう言った。
「オレ達を嘗め腐りやがって、この緑色め……! どこの誰だか知らないが、しゃしゃり出てきて無事に済むと思うなよぅ!」
「おっ、来るのか?」
ジュカインはふっとため息をつくと共に、『来いよ』とでも言う風に指を畳み開きを繰り返し挑発してみせた。
ポッポは怒りに目付きを一層鋭くさせて―
191:10/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 19:58:48
「ってかダメだ、やっぱオレには無理!! 助けてーヨルノズク様!!」
「ありゃ?」
ポッポは瞬時に身を翻すと、翼を一生懸命はためかせ逃げ出し始めた。
ジュカインは今度は嘲るようなため息をつくと共に、腰に力をいれグッと前かがみの姿勢になる。
枝が縦に揺れ、そして―
「ぐぁっ!」
一瞬の内に、ポッポの背が切り払われた。
「な……追い討ちなんて、シドい……」
ポッポの翼の動きが止まり、グラリと体制を崩し地面へまっさかさまに落ちていく。
ジュカインは次の木の枝に立ち、ポッポの落ちていく様を見据えながら呟いた。
「悪いが、オレを恨まないでくれよ。恨むなら、この森を荒らすよう指揮した
お前さん達のリーダー……ヨルノズク様ってやつを恨むんだな。
……そして、心配するな。そのお前さんの恨みは―」
ジュカインは、すぐ斜め上にある木の枝を見上げた。
そこには、苛立ちに筋を浮き上がらせ赤い目を怒りに奮わせるヨルノズクの姿があった。
「このオレが綺麗さっぱり晴らしてやる。ありがたく思えっ! カハハッ」
ジュカインはヨルノズクをキッと睨みつけながら、挑戦的な笑みを浮かべる。
その笑みを受け、ヨルノズクは一層表情の怒りの色を濃くしていく。
「貴様ァ……!」
ヨルノズクは唸るようにそう呟き、そして次の瞬間―
192:11/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 20:04:27
「はっ?」
ジュカインは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
何故なら、ヨルノズクはあのポッポと同じく真っ先に身を翻し、
逃げ去るようにその場を飛び立ってしまったからだ。
てっきり戦いを挑んでくるものだと思っていたジュカインは完全に意表を付かれ動きを止めたが、それも一瞬の事で―
「ボケがっ、好き勝手やっといてさっさと逃げられると思うな!」
飛び去っていくヨルノズクに狙いを定め、力強く枝を蹴り付けた。
一瞬にしてヨルノズクの背後へ到達し、ジュカインは腕を振り上げるが……その瞬間。
「たわけめっ!」
「なっ!?」
ヨルノズクが不意に振り向き目を一瞬大きく開いたかと思うと、突如ジュカインの動きが空中で静止したのだ。
「なっ……!?」
驚愕するジュカインへ、ヨルノズクは溜め息混じりにこう言い出す。
「軍勢を失った今、ワシは戦いの術を持っておらぬ。無抵抗の者を切り裂こうとは関心せんな……」
そう言い終えた瞬間、彼の眉が一瞬青白く発光した。
それと同時に、止まっていたジュカインの体が動き出した。
……地面へ向かって。
「むおおおぉぉぉ!!」
ジュカインが地面へ向かい落ちていく様を見届けないまま、ヨルノズクは翼を大きくはためかせ夜空の奥深くに消えていった。
193:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 20:45:58
GJ!
あさって辺りには、ようやく新しい所が見れそうだな。
194:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 11:14:49
何でこの小説敵キャラがやたらやたら濃いんだよw
195:1/8 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:37:31
「わっ―」
いきなり、ジュカインが砂埃と鈍い衝撃音と共にぼくの近くに落ちてきた。
あのヨルノズクに何かをされたのか分からないけど……とにかくあの高さから地面に叩きつけられちゃあマズイ。
「ジュカ……」
「くそおおォォ!!」
「うわっ」
ぼくが声をかけた瞬間、ジュカインは叫び声を上げながら勢いよくその身を起こした。
そのまま流れるようにバッと上空を見上げたと思うと、すぐに落胆したように項垂れて、深いため息をつきだした。
ヨルノズクがまんまと逃げおおせてしまったからだろうか。
「ちくしょォ……逃がしちまったよォ……頭来るぜ、ちくしょォ~~~」
ガッ、ガッ、と軽く拳で床を殴りつけ、ブツブツと悪態をついている。
何処となく話しかけがたい雰囲気に纏われていたが、ぼくはおずおずとジュカインに近づく。
ぼくはこのジュカインに言いたい事があるんだ―
「うわわっ、落ちるーーーっ!!あぎゃーーっ!!」
「!?」
また上空から悲鳴が聞こえてきたかと思うと、空から何か大きい物が降ってきているのが目に入った。
落ちてきたのはフライゴンだった。ジュカインも咄嗟に落ちてくるフライゴンへと視線を走らせる。
フライゴンは背中からまっすぐ落ちてきている。このままじゃ床に叩きつけられる―
「むぎっ! う--っ!」
しかし、フライゴンは何とか地面スレスレの場所で羽を高速ではためかせ落下の勢いを和らげた。
先ほどのジュカインの時よりも遥かに緩やかな衝撃で、フライゴンは地面に着地する。
ぼくは、ほっと胸を撫で下ろし安堵のため息をついた。
「まったく、あのリフレクターいきなり消えるなんて……って言ってもずっとあそこに寝転がってたボクが悪いのかもですけど……」
フライゴンは背中をパタパタとはたき、のそりと立ち上がった。
心なしか動きがぎこちない。
さすがドラゴンタイプというべきか背中の血はもう完全に止まり傷口は塞がりかけてるけど、まだその傷跡は痛々しそうだ。
196:2/8 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:42:55
「フライゴン……け、怪我ダイジョウブ?」
ぼくが駆け寄りそう言うと、フライゴンは無事な事を伝えるようにニヘラッと笑みを浮かべ即答した。
「全然ダイジョウブですよ~~。……そんなことよりも、ですよっ」
フライゴンはゆっくりとジュカインの元へ歩き出し、前に立った。
ジュカインもふとフライゴンを見つめ、ふっと小さなため息をつきながらこう言った。
「よう、感謝しろよ緑っこいの。親玉は逃しちまったけど……ま、次来たらまた返り討ちにしてやるサ」
「……」
フライゴンは、ジュカインの言葉に返事を返すことなくただジュカインの顔をじいっと見つめている。
……ぼくには分かる。フライゴンは『先程ぼくが抱いていた疑念』を今まさに抱いている途中なのだ。
『このジュカインはかつての仲間のジュカインか』? 『それとも全く関係ない別のジュカインか』?
……少なくとも、今ぼくの中ではその結果は完全に出ているのだけれど。
「おい、何ジロジロ見てんだよォ、不気味だなァ」
「あの……きみ、ボクに見覚えないの?」
「は? 何言ってんだお前、見覚えなんてあるもんかっ。お前みたいな緑っこいヤツのよー、俺が知るかってんだ……」
「……」
フライゴンは首を捻りながら、とぼとぼとこっちに帰ってきた。そして、ぼくの耳元でこう囁く。
「コウイチくんっ!あのジュカインですけど……どう見てもボク達の仲間のジュカインですよっ!
あの体付きといい、色合いといい、目付きといい目付きといい目付きといい……どうなんですかっ、実際?」
相当フライゴンは困惑しているのか、声に混じって吐息がズカズカ耳に入り込んでくる。
ぼくはそれを気にせず、こう即答した。
「……答えは、出ているよ。」
「えっ」
「彼は―」
197:3/8 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:46:07
「間違いなくっ!ぼくのジュカインだっ!!」
ぼくはジュカインをビッと指差しながら、確信に満ちた声で叫んだ。
「はアっ?」
ジュカインが呆けた声をあげ、ぐるりとこちらを振り向く。
ほうらほら、その顔つきなんかまさにぼくのジュカインそのまんまじゃあないかっ。
「ほ、本当ですかコウイチくん?それ間違いないんですか?」
「うん、間違いないねっ!見ての通りのあの姿、強さだって戦い方だってまさにぼくのジュカインっ!
きっと何かの衝撃で、いわゆる記憶喪失的なアレになってるってだけさっ」
そこまで言ってから一瞬『記憶喪失なら戦い方まで忘れてるもんじゃないのか?』という疑問が頭をよぎったが、
『ゲームのセーブデータと同じで、セーブデータは消えてもゲームそのものは消えないのと同じ事』という結論で疑問はすぐさま消え去った。
よくドラマとかで記憶喪失の人がいるけど、言葉は普通にしゃべっている。それと同じ事だ(実際どうなのかは知らないけど……)。
「……あのなァ~~~」
ジュカインは深くため息をつきながら立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。
未だ苛ついているのか、声を震わせながらこう言い出す。
「アンタ頭は大丈夫か?何が記憶喪失だっ!
オレはこの森の住人のジュカインで、それ以外の何物でも……」
「だから、キミはそれを忘れてるんだって。君は『間違いなく』ぼくのポケモンのジュカインだっ!
きっとぼくのお顔見てたらすぐ思い出すよ! ねぇねぇ、ほら見てよぼくのお顔を」
ジュカインの肩をしっかり掴み、ぼくはジュカインのお顔をじぃっと見つめる。
……見れば見るほど、ぼくのジュカインだ。
ジュカインは顔をしかめながら一度だけぼくのお顔を見て、プイと目を逸らしてしまった。
「そんなほのぼのした顔見ても何も思いださねーよバーカ!
クソッ、馴れ馴れしくすんじゃねぇよ、俺は馴れ馴れしくされんのがだいっ嫌いなんだっ」
「!?」
ジュカインの放った一言。『馴れ馴れしくすんじゃねぇよ』という言葉が……
ふと、ぼくの頭の奥底で眠っていたある記憶の首をもたげさせた。
198:4/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:49:26
あれはいつだったか、オオカマド博士にジュカインの事を相談しに行った時のことだ。
あの時の会話の内容に、頭を巡らす。
“あの……オオカマド博士。相談があるんですけど……”
“うむぅん。なんじゃあい、コウイチくん?”
“あの、このジュプトルの事なんですけど……ぼくに懐かないというか、馴れ馴れしくするとうっとうしがるんです。
これって、ぼくと一緒なのがイヤって事なのでしょうか?もしそうなら、あの……ぼく、この子逃がしてあげようかと……”
“・……うむぅん。そうとは限らないんじゃないのぉ?”
“えっ”
“うっとうしがられても、ゆう事は聞くんでしょぅ?それとも、ゆう事も聞かないワケん?”
“……言う事は、聞きますけど……”
“うむぅん、それなら安心じゃよぉ。キミは少なくともそのジュプトルに信用されてるっ、嫌いなんて事はないわァん。
本当にトレーナーが嫌いなら、ポケモンはとことんトレーナーに逆らうはずだわっ。
力で押さえつけてるのならその限りではないけれど、コウイチくんはポケモンを力で支配するタイプじゃあないし……”
“……あのう、じゃあうっとうしがられるのは何でですか……?”
“それは単にそのポケモンの性格ね”
“せ、性格?”
“うむぅん。ポケモン全員がトレーナーに甘えたがる可愛い性格って事はないのよぅ。
中には、馴れ馴れしくされたらつっぱねるちょっと素直じゃない性格のポケモンもいるわ。
特にキモリ系統は、そういう性格の者が多いとはよく聞くわねん……彼らいわゆる一匹狼的な種族だしィ?”
“そ、そうですか……”
“ポケモンは、人間と同じく様々な性格のポケモンがいるのよぅ。
一流のトレーナーになるなら、まず彼ら一匹一匹の性格をちゃんと把握する事ね。
ポケモンマスターへの道への第一歩は、ポケモンを知る事よっ! おわかり?”
“は、はいっ!”
“うむぅん! いい返事だわっ! やっぱキミいいわァ……応援のキスしてあげようか?”
“お断りです”
199:5/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:53:29
確信が更に固く深まる。もうこの子はぼくのジュカインである事に絶対ぜったい100%間違いはないっ。
「ほうらその性格っ、やっぱぼくのジュカインだキャーーン!!」
「のわっ!!」
再会の喜びに、ぼくは我を忘れまっすぐジュカインに飛びついた。
「ぐあ、な、何するんだテメーッ!」
ジュカインはうっとうしそうに四肢を振り抵抗しながら、ぼくを睨みつけてくる。
そうだ、そうだった、馴れ馴れしいのはNGだった。
「ああ、ああっ、そうそう、馴れ馴れしいのはダメだったよねっ、と、と」
慌てて腕を離して、一歩、二歩、下がる。
コホンと一度咳払いしてから、ジュカイン目掛けてこう言ってやる。
「よぉしっ、じゃあ馴れ馴れしくしないから記憶取り戻しておくれっ!」
「無理に決まってんだろバカ!」
真面目に怒られた。
「ねぇ、どうしますコウイチくん?本当に記憶全部ふっとんじゃってるみたいですよォ……」
フライゴンは心底不安な調子で、ぼくにそう話しかけてくる。
もしジュカインの記憶が戻らなかったら云々などと考えているんだろう。
ぼくは安心させるようにフライゴンの肩を軽く叩きながら言った。
「だいじょぶだいじょーぶ。ほら、ドラマとか漫画じゃあ記憶喪失キャラなんて大抵は後々記憶取り戻すわけだし」
「あっ、そーですか。それなら問題ないですねっ!」
「イヤイヤイヤイヤ、ちょっと待てお前ら」
ジュカインがいきなり割り込んできた。下を向きながら、精魂まで全てを出し尽くすようなド深いため息を吐いている。
「二匹ともほのぼのした顔しやがって頭の中もほのぼのかテメーら、マジいい加減にしやがれーっ!
オレが記憶喪失? ふざけたこと言ってるんじゃねーぜっ、他人の空似だボケッ! もう帰れガキども!」
「こらージュカイン! ご主人様に向かってガキとは何だー! 名前で呼んであげなさい名前で!」
「そうだぞジュカイン。さてほら、ぼくの名前はなんだっけ? せーの、さんはいっ」
「だから知らねーーっつってんだろクソガキャーー!!」
ほら、この冗談の通じなさも間違いなくぼくのジュカインだってば。
200:6/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:56:16
「じゃあ、仮にオレは昔お前の仲間だったという事にしよう」
「?」
不意に、ジュカインは落ち着いたテンションでそう言い出した。
「そして、仮にオレはいま記憶喪失になっているのだとしよう……
その上でオレは言うぜ。『お前達なんか知ったこっちゃない』ってな。
無くなった記憶なんて二度と戻ることはない筈だ。 お分かりか?
つまり、お前の知ってるオレは実質死んだっつーことだ。もはや今のオレにはお前に対する義理も何もねー」
「なっ……」
「繰り返し言うようだがオレはこの森の住人、ジュカインっ! それ以外の何物でもないんだっ。
だから諦めてさっさと帰れ、帰れっ!」
ジュカインは吐き捨てるように一気にそう言い、シッシッと手をはためかす。
ジュカインのその真剣な返答に、ぼくは口ごもる。先程までのようなノリで言葉を返すことは出来なかった。
「……」
フライゴンが更に不安げな色を増した目付きでぼくに目配せする。
と、ジュカインは小さく鼻でため息をつきながら、スッと身を翻し歩いていってしまった。
静寂の中、まるでカウントダウンのようにペタペタとジュカインの足音が木霊する。
こめかみから一筋汗が滴り落ちる。ぼくはジュカインの後姿目掛けて、叫んだ。
「誰が諦めるもんかァ!!」
ぼくがそう叫んだ瞬間、ジュカインはふと歩みを止めた。
201:7/7 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 15:58:51
そうだ、ここで諦めるわけにはいかない。
ここで諦めるという事は、すなわちジュカインと永遠に別れるという事。
記憶が戻る可能性なんて少ないけど……そのジュカインが今目の前にいる事は確かだ。
そうだっ、ぼくだってふとした事で完全に忘れていた昔の事をいきなり思い出すことがある。
それと同じ事で、ふとした事で昔の記憶を取り戻すなんて十分ありえる事じゃないか。
そう、人間の記憶ってものはゲームのセーブデータなんかとはワケが違うはずだ。
何で記憶が無くなったのかとかは一切不明だけどともかく、ジュカインの記憶が戻ってくる可能性は大いにあるっ!
ジュカインは、ゆっくりと身を捻りこちらを振り向く。
その彼の目付きは、ぼくを哀れむような蔑むような冷たい目付きで……
それでもぼくは負けじとじっとジュカインを見つめ続ける。
「ジュカイン!! 様子はどうだ!?」
「!?」
突如、聞きなれない声が耳に入ってきた。
ジュカインの目付きが変わり、声のした方向へ体ごと振り向く。
ぼくもそちらへ視線を走らせる。そこには……見慣れない数匹のポケモン達がいた。
「ぞ、族長」
ジュカインがふとそう言う。
今のジュカイン以外にも、この森には沢山住人がいたという事なのか。
二足歩行の緑色のポケモン達が、ぞろぞろとこちらへやってくる。
何となくだけれど、またややっこしい事になりそうな気が……する。
つづく
202:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/02 16:06:59
これでやっと以前小説スレで投下した分すべてを投下し終わりました。(かなり追加や修正が入ってますけど)
明日からは、小説スレでも投下していない新しい部分に入ります。
その代わり毎日投下するのは無理になりますが、よろしくお願いします。
203:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 18:26:33
キタ━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━ッ!
204:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 22:41:02
族長はジュプトルと予想
205:名無しさん、君に決めた!
07/12/02 23:50:31 /fkZbRqo
今のうちに上げとくか
206:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 01:47:28
上げんなカス
207:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 06:50:15
上げると荒らしが来るお
208:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 18:20:04
オオカマドwwwww
オカマwwwwww
209:1/11 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:31:41
フライゴン、ラグラージ、ゴウカザル、レディアン、ユキメノコ……そして、ジュカイン。
ぼくの頼れる、そして愛する手持ちポケモン達。
ポケモンはペット、って言う人がずいぶん多いけれど、ぼくにとってポケモンはペットなんて物じゃない。
ペット以上って事は友達かな? いーや、それ以上だ。なら親友かな?
んーっ、もうちょっと上かなっ。家族? 子供? ……そこまで行っちゃうともう上限が無くなっちゃうか。
みんな出会いは偶然だったけれど、今やみんなぼくの人生に欠かせないパートナーだ。
しかし何の因果か今、ぼくはその欠かせないパートナーのほとんどとはぐれてしまっている。
この見知らぬ世界のどこかにいる事は多分確実だけれど、
この世界がどの位の広さなのか全く不明のままなので、再会出来るかどうか考え出すとまるでハテが無い。
……それなのに、ぼくはあろうことか一日もせずにもう仲間の一人と再会してしまった。
これはとても幸運な事だ。おみくじ的な段階で判定すれば、堂々最上段の『大吉』っていった所だろう。
だけど何とも運命ってのは意地悪なもので、この『幸運』をそのまま『幸運』としてぼくにプレゼントしてはくれなかった。
晴れて再会したぼくのジュカインには……いわゆる『記憶喪失』なんていう無駄なオプションがくっついていたんだ。
何でそうなったのかなんて一切不明だけど、そもそもが不明だらけのこの世界で何かを追求するのは止めておこう。
ともかく……ジュカインの『記憶』をどうにかして戻さなきゃぼくのジュカインは戻ってこない。
ジュカインはぼくの大切なポケモンの内の一匹。そのジュカインと別れるという事は、家族を失うのと同然。
そう、どうにかしてジュカインの記憶を戻さなければいけない……!
210:2/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:38:49
「ぞ、族長」
森の奥から、全身緑色のポケモンが続々とこちらへやってくる。
恐らくジュカインに族長と呼ばれているであろう先頭のポケモンは……同じく『ジュカイン』だ。
ただこの『族長さんジュカイン』は、ぼくのジュカインと違ってだいぶお顔と体の皺が深く、また目つきも少し穏やかだったり
背中に宿してる黄色い果実の数が違ったりと大きい違い細かい違い共に多く、簡単に見分けがつく。
そしてその族長さんジュカインの後ろにいるのは、暗くてよく見分けがつかないが多分キモリの集団だろう。
ともかくその二種族の集団がこちらへやってきたんだ。
「ジュカインよ、騒ぎはやはり魔王軍の……?」
族長さんは少し焦ったような口調でジュカインにそう問いかける。
「ま、そんな感じだったな。ボスのデカブツ梟は逃しちまったけど、次来たら返り討ちにしてやるさ。
……あと聞いてくれよー、何か変な奴らがいてさー……」
ジュカインが族長さん達に近づきながら、ため息混じりにこう言い出す。
「俺のことを『記憶喪失』だの『ぼくのジュカイン』だの何か変なこと言ってんだよね。
片方は見たことも無い生き物だしもう片方はドラゴンみたいな変な緑色だし、何か不気味でさ。何か言ってやってくれよ族長」
ジュカインはこちらを指差しながらそんなことを言っている。
族長さんは、そのジュカインの言葉を受けぼく達の元へ近づいて来た。
そして、それにつれどんどんと族長さんの目つきは訝しげな風に細まっていくのだ。
族長さんはぼくの目の前につくと、間髪入れずにこう聞いてきた。
「き、きみはまさか人間……なのか?」
211:3/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:43:49
怪訝な表情でじっとぼくの顔を見つめながらそう問いだす族長さん。
……そうそう、そういえばこの世界は……『ぼくたち人間が非常に珍しい世界』だったんだ。
ここ連続で命にも関わりかねないような危機に晒されたせいか、すっかり頭から抜けていた。
「……はい、ぼくは人間です」
ぼくがそう言ってみせると、族長さんの顔が明らかに驚きの色に染まった。
と、後ろのキモリ達の間からも一斉にざわめきが起こる。
「オイ、聞いたか人間だって……」
「人間って……あの人間っ!? あ、いやいやいや、人間『様』!?」
「ままままマジでェ~~~!? うわあ、すっげぇすっげーーーぇ!!」
「マジかよーーっ!! おいおい誰か紙持ってきて、スケッチするから」
「しっ、騒ぐな! 人間様に失礼だゾ」
まるで街角で有名人を目撃したかのような反応を見せるキモリ達。
彼らは、確かにこのぼくが『人間』と名乗ったことによって騒いでいるんだ。
……見下しているわけではないけれど、なんとなく切り札を出したみたいで愉快な気分だなぁ。
と、族長さんは一度コホンと咳払いをし柔和な笑顔を浮かべた。
「そうか、まさかまさかの珍客だ……とりあえず人間様、ようこそ『生命の森』へ」
212:4/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:48:34
「……な……なんだとォ~~~?」
ジュカインは信じられないと言ったような表情でこちらへ駆け寄ってきて叫びだした。
「おいおい困ったな、そいつが何なのか知らねーが、ようこそだなんて!
何か不気味だし、オレとしちゃーさっさと追放してもらいたいんだが―」
「それは『失礼な口』というものだぞ、ジュカインよ。お前はまだこの世界に来て日が浅いから知らぬのも仕方無いが……
このお方は『人間様』と言って、この世界ではほぼ『神』として崇められている種族なのだ」
「か……神だァ~~~?」
半信半疑といった風に、それでもやはり驚きは隠せない風な目つきでぼくを見るジュカイン。
ぼくはほくほくと溢れだす愉快な気分に胸を躍らせた。
そして『それ』は、ジュカインを驚かせた事のみによる物ではない。
先ほどの族長さんの『ある発言』による物でもあるのだ。
『お前はまだこの世界に来て日が浅いから』……という族長さんの発言。
これはもはや、あのジュカインがぼくのジュカインである最大の証拠じゃあないか?
だって、ぼく達がこの世界に来たのは数時間前……この日のお昼過ぎぐらいなんだもの。
という事はつまりジュカインだってその時間にこの世界に来たはずだ。
人間の事なんて知らないに決まってるし、日が浅いなんてレベルじゃないくらいここへ来て日が浅い。
僅かな不安はすぐに消え去り、同時に希望も満ちてくる。
この森のトップである族長さんはぼくを追放するつもりは無いみたいだし、もうこりゃあ時間の問題だね。
……いや、族長さんを何とか説き伏せれば今すぐにでもジュカインを引き取れるかもしれない。
「……では、人間様」
族長さんはこちらへ向き直り、ぼくにこう問いかけた。
「話を……聞かせてもらえるかな。『記憶喪失』とは……『ぼくのジュカイン』とは一体どういう事なのかを」
213:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 18:51:26
きたきた!
214:5/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:53:03
ぼくは、あくまで冷静にジュカインの事を族長さんに話した。
あのジュカインが恐らくぼくのジュカインである事を。
あのジュカインは何らかの理由で記憶喪失になっているであろう事を。
族長さんは何度か頷きながら終始神妙な顔つきを崩さずぼくの話を聞いていた。
ぼくの話に何を思っているのかは知らないけれど、ちゃんと理解はしてくれているはずだ。
「……なるほど」
一通り話を終えると、族長さんはうむぅと深く唸り考え込むように腕を組み始める。
やたらと緊張感ある沈黙がしばらく挟まれてから、族長さんは口を開きこう言った。
「ここは少し野次馬が多い。ついてきてくれ、奥で話そう」
「え……奥で?」
一瞬以前の村でのハスブレロ村長との出来事が頭によぎるが、ぼくはすぐに頷いた。
この人はきっとあんな事はしない。根拠は全くといっていいほど無いけれど、子供の勘ってのはけっこう当たるものなんだ。
「おい、みんな。わしはこの人間様と二人きりで話す。しばらくここで、待っていてくれ。……さぁ、行こうか人間様」
族長さんはみんなに向かってそう呼びかけ、ぼくに向かって手で合図しながら森の奥へと歩を進め始めた。
それについていこうとすると、フライゴンが慌てたようにぼくに駆け寄ってくる。
「ちょ、ちょっと、コウイチくん!」
「ん? どしたの、フライゴン?」
「ひ、一人でいっちゃあ危ないですよ! もしも前の村のように閉じ込められちゃったら……!」
フライゴンは心底不安そうな目つきでぼくを見つめながらそう叫ぶ。
ぼくはフライゴンの肩に手を置き、安心させるように声を弾ませてこう言った。
「だいじょーぶっ! あの人はそんなことしそうにない雰囲気だし、
それに二度も同じ目に会う程ぼくは馬鹿じゃあないさ。
きっとうまく話つけてくるから、あのキモリ達と遊びながらここで待っててね!」
「……」
フライゴンはまだ顔に若干不安げな色を残したままだけど、大人しく引き下がってくれた。
ぼくはフライゴンにニコリと一度ほほえみかけ、一人族長さんの後をついて森の奥へと入っていった。
215:6/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 18:57:11
「さて、ここらでいいだろう」
キモリ達のざわめき一つ聞こえないくらい奥まで来てようやく、族長さんは足を止めた。
振り向きざまに族長さんはバツの悪そうな笑みを浮かべ、すまなそうにこう言った。
「すまんな、人間様。こんな所まで連れてきてしまってな……
あのキモリ達はやかましくてな……ジュカインを見つけた時もあの子達はうるさく騒いで、
ジュカインを相当困らせたものだ……きみも、小うるさいのは嫌いだろう」
「あ、はい……」
この場所移動はやはり、何てことはない族長さんの配慮に過ぎなかったんだ。
改めて安堵すると共に、もう一つ新たな疑問も生まれる。
「あのう、ちょっと一つ質問いいですか?」
「ん? なんだね」
「いま族長さんが言ってた、ジュカインを見つけた時のこと……詳しく教えてくれますか?」
「おお、分かった。確かあれは三日ほど前のことだったな……」
上を向き目をつぶり、ゆっくりと語り始める族長さん。だが、ぼくは語り始めからいきなり耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
「えっ! な、なんだね?」
突然突っ込まれて呆気に取られたのか族長さんは軽くどもっているが、ぼくは気にせず、すぐに疑問を投げかけた。
「いま、『三日ほど前』って言いましたね……あなた嘘ついてませんか?」
「……? いや、嘘なんてついているつもりは一つもないぞ。全て事実のことだ」
「え……?」
『それこそ嘘なんじゃあないですか』という言葉が一瞬喉から出掛かるが、ぼくはそれを喉の内にとどめる。
嘘を言っているようにも見えないし、何よりどう考えてもこんな所で嘘をつく必然性が全くないからだ。
だとするなら族長さんの言っている事は『本当』って事になるけれど……
もしそうなら、あのジュカインはぼくのじゃあなくて……
いや、いや、いや!
ぼくとフライゴンは『今日の』この世界に飛ばされたわけだけど、ジュカインは『三日前のこの世界』に飛ばされたってだけの話なんだ。
そもそもが非常識なこの世界。常識で物を考えちゃあいけない。
族長さんはぼくが黙り込んでしまったのを確認し、再び語り始めた。
216:7/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:03:29
「そう、三日ほど前のことだ。あれはお昼時だったかな……夕暮れ時だったかな……
発見したのはわしではなく、キモリ達だ。この私と同じ種族のモンスターが倒れているという知らせがあってな……」
そこまで言うと族長さんは数歩足を進め、そこの地面から突き出る石に手を添えた。
「この石の近くに、ジュカインは倒れていた。目を覚ましたジュカインは物を喋ることは出来たものの、
自分の事を何も知らなかった。どこから来たのかも、己の種族名すらも全て……」
「……ってことは、やっぱり……!」
「……ジュカインには頭を強く打っている後があった。何かの拍子に、
この石に頭をぶつけたんだろう。つまり、おそらく貴方の言う通りだ……」
「……!」
ぼくは表に出さずとも心中で歓喜の声を上げガッツポーズを取っていた。
もしかしたら少し顔に出てしまってるかもしれない。気づかれてたらイヤだなァ。
ここまで来たら、もはや全てが確実だっ。
「やっぱり、やっぱり、あのジュカインは元々ぼくので間違いはなさそうですねっ!!」
ずいと前に出て、そう叫ぶ。自然と声が弾む。
「ぼくもジュカインも、違う世界からこの世界へ飛んできて、
ぼくと連れのフライゴンってポケモンは、気がついたらある湖のほとりに倒れていました。
ジュカインも、気がついたらこの森に倒れていた。
つまりぼくらと同じで、ジュカインも『飛ばされてきた』ってことですっ!
こうなればもはや、あのジュカインがぼくのジュカインである事に一片の疑いもありません。
さぁ、ジュカインはこのぼくが引き取りましょう! いいですよねっ!?」
声を高らかに、ぼくは族長さんへ向けてそう言い切る。
……ぼくはその時、族長さんはすんなりと『いいですよ』との返事をくれると思っていたのだけれど……
なんと族長さんはぼくのその言葉に、ひどく目を迷いに揺らしながら何やら考え込み始めたのだ。
その反応に、ぼくはたまらず焦りを覚える。
……何を迷っているんだよっ、貴方の答えは一つでしょうっ!? さぁっ! さぁっ! さぁっ!
「すまぬが、ジュカインを引き取るのは……遠慮してくれないか……?」
「えっ……」
217:8/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:06:39
族長さんの冷たい宣告がぼくにのしかかった。
「いや……人間様には悪いとは思うのだが……
わしは、あのジュカインは『神の恵み』だと思っておる。あの凄まじい強さはまさに森の守り神となりうる……
竜騎士様の管轄外であるこの森は、もし先程のように魔王軍に襲われてはひとたまりも無いからな。
この森が、そしてわし達が無事でいるためにはあのジュカインが必要なのだ……」
「……」
族長さんの目は真剣そのもので、そう簡単に引いてくれそうもない雰囲気を醸し出している。
だけど、勿論ぼくだって引く気はない。ここで引いたらジュカインとぼくの関係は完全にお仕舞いだ。
「え、ええと―」
間隔を空けぬよう口を開き適当な事を唸りながら、族長さんの言葉への上手い反論を何とか考え出そうと、必死に脳をかき回す。
ふと天啓の如くある反論の芽が芽生え、ぼくはすぐにそれを口に出した。
「あの、さっきの魔王軍の奴らはぼくを狙ってここへ来たんです!
決してこの森や貴方達が目的で来た訳じゃあないんです。ええと、だからですねっ」
くそう、言ってる内に考えてる事がこんがらがって来ちゃう。
……こういう時は、『直前に言った事を確認するように問う』。そうやって時間を稼ぐんだ。
「魔王軍の奴ら、ぼく達が来る前にこの森に来た事はないでしょ?
だからその、安心ですよ。『守り神』なんて必要ないはずなんですっ!だからですね、そのっ」
すぐに言葉に詰まってしまう。次の『言い訳』がすぐには浮かんでこないよ。
「だ、だからですね……ええと、あの~、その~……」
もう適当に『あの~』だの『その~』だの唸って時間を稼ぐのも恥ずかしくなってくる。
そうやって必死に次の言葉を頭の中で模索する中、ぼくはふとこう口にしてしまった。
「だから、ジュカインはぼくに返して下さい、お願いします」
あちゃあ!! 言った瞬間思わずぼくはそう叫びそうになった。
言うに事欠いて、あまりにストレートすぎる物言い。建前というか『遠慮』って物がなっちゃいない言い草だ。
その失言を慌てて取り消そうともう一度口を開きかけた時……ある思考がぼくの頭の中で展開された。
『遠慮』?
……何で、何でぼくが『遠慮』なんてしなきゃあいけないんだ?
218:9/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:10:14
考えてもみれば、ジュカインは元から完全に『ぼくのモノ』だ。
あの族長さんには、いわば少し貸しているだけに過ぎないんだ。
それなのに、『何でぼくが遠慮しなきゃあいけないんだ』?
普通なら、どんな理由があろうと絶対的に遠慮しなきゃいけないのは族長さんの方だ。
だって、ジュカインは元から族長さんのものじゃあないんだもの。ジュカインは、ぼくのポケモンであってぼくのパートナーなんだもの。
今の族長さんが言ってる事は、例えばゲームソフトを借りて
『お前のセーブデータ消えちゃったからこのソフト俺がもらっていい? ねぇ、もらっていいかなあァァ~~
いいよねえェェ~~~、お前のデータ消えちゃったんだしさあァァアアァァ~~~~』なんてぬかしてるような物だ。
そんな理屈通るか? そうだ、『遠慮』なんて一つも必要ないんだ! ジュカインは返してもらう!
「……そうだよ、まずぼくに引き下がる理由は、一つもないんだ」
ぼくはジッと強くまっすぐ族長さんを見据える。
族長さんのただでさえ迷いに揺れていた目が、一層迷いに揺れる。
ぼくは、畳み掛けるように声量を少し大きくして言った。
「遠慮してくれって言われて簡単に遠慮できるもんか。
なぜかって、ジュカインはそれ程ぼくにとって大切な存在だからです。
ジュカインは元々ぼくの仲間。家族って言っても差し支えは無いかもしれません。
だから、族長さんはジュカインをぼくから借りてるだけに過ぎないんです!」
そこまで言ってから一息つき、頭の中で言いたいことを整理しなおす。
少し失礼というか過激な物言いになってしまうかもしれないけれど、仕方が無い。
「分かりますよね? 借りた『物』は返すなんて常識中の常識じゃないですかっ。『生き物』でも同じでしょうっ!?
族長さんには悪いと思いますけど……族長さんこそ遠慮してくださいっ!」
そこまで言い終えても、ひたすら族長さんの目を真っ直ぐ見据える。
そのまま沈黙がしばらく続き、ようやく族長さんが口を開いた。
「証明が……ない」
219:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:12:13
支援
220:10/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:14:46
「えっ?」
ぼくは思わず感嘆符を漏らしてしまう。
この族長さん、何が言いたいっていうんだ……?
「確かに君の言う通り、あのジュカインを借りてる身のわしが『遠慮してくれ』なんて言うのはふてぶてしいと思うよ……
魔王軍がこの森で騒ぎを起こしたのも、確かに今日がほぼ初めてと言っていい。
だが、そもそもわし達は君達が来るまであのジュカインを借り者である事すら知らなかったのだ。
そして、こうして君が現れた今でさえ『ジュカインが君からの借り者であるれっきとした証明がない』。」
迷った目つきのまま、ひどく自信の無い低いトーンでそう告げる族長さん。
『証明がない』だって? 確かにジュカインは今記憶喪失になってるわけだけれど、証明がないから返さないなんてそんな―
思わずぼくは少し怒って大声を上げかけたが、それよりも先に族長さんは今までより語調を強めこう言った。
「その『れっきとした証明』が出来たのならばっ!! ジュカインを君に返すと約束しようっ!!」
「!」
族長さんは、真っ直ぐとぼくの目を見据えている。
その目には、少し前まであった迷いは幾許か消えていた。
『れっきとした証明が出来たのならば』……つまり、『ジュカインの記憶が戻ったら返す』ということか?
「で、でも……」
思わず反論をしようと口を開いてしまうぼく。自分でも何を言おうとして口を開いたかはよく分からない。
言葉として表現しにくい心中のモヤモヤをどうにか言葉にしようと頭を動かしていると……
「そりゃあいい案だぜ、族長!」
突如、沈黙を割って彼の声が聞こえた。
声のした方向へ目を向けると、その方向にあった木の合間から……彼が姿を現した。
「ジュ、ジュカイン!!」
221:11/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:20:31
「わけ分かんねぇガキにわけ分かんねぇまま連れ回されるなんてイヤだからな。
全くもっていい案だぜ族長。お前もそう思うだろ、人間さんよっ! カッハハー!」
愉快そうに高笑いを上げながら、ジュカインはこちらへやってきた。
「ジュカインよ、聞いていたのか?」
族長さんもジュカインの出現に少し驚いているみたいだ。
ジュカインは族長さんのその問いには答えないまま、こう言い出した。
「そして、このままそのわけ分かんねぇガキにずっとここに居座られて、
身に覚えのないことを耳元で毎日毎日聞かされても困る……
よって、この案には『期間』を設けさせてもらうぜ、人間さんよ」
「『期間』だって?」
ジュカインは変な笑みを浮かべながら、ぼくと族長さんを互いに見交わしている。
期間って事はつまり……ぼくはたまらずジュカインに問う。
「期間って事は、つまりその期間内にきみの記憶が戻らなかったらぼくを森から追い出す……ってこと?」
「そっ、そーいう事さ。で、その『期間』もどんくらいかこのオレが決めさせてもらうぜ……いいよな、人間さんよ?」
「えっ……う、うん……」
流されるようにぼくがそう承諾してしまうと、ジュカインは一度ひどく意地悪そうな笑みを浮かべ……こう言った。
「明日の朝までだっ。
明日の朝までオレの記憶が戻らなかったら、お前は即・刻・追・放っ!!」
「えっ!?」
ジュカインの出したその『期間』の程に、ぼくは咄嗟に声を上げていた。
『明日の朝』!? もうほとんどすぐの事じゃないか!
「ちょ、ちょっと待ってよ! 明日の朝なんて!
寝て起きたらすぐじゃないか、それじゃあ期間なんて無いのと同じじゃないか!」
ぼくが慌ててそう訴えると、ジュカインは悪戯めいた笑みを浮かべながらこちらへ顔をズイと近づけ、声を張り上げた。
222:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:28:03
支援
223:12/12 ◆8z/U87HgHc
07/12/03 19:30:04
「何だお前、オレに文句言うってのか!?
これは完全に『オレの問題』だ。オレがどんな条件つけようと構やしねぇだろう?
そもそもこの時点で、オレとしては都合のいい条件飲みまくってんだ。
本当なら『今から一分以内』って言っていい所を、あえて『明日の朝』までに抑えてやってるんだぜ!
ここは逆に感謝すべき所だろうよ!? カハハハーーッ!!」
言い終えてから、ジュカインは心底愉快そうに高笑いしだした。
……記憶が喪失している当人とは思えない言い草だ。
だけど、ぼくは何も言い返せない。
族長さんはまた迷ったように目を泳がせているが、何も言うつもりは無いようだ。
「クケケッ、俺がちいっとでもお前のことを思い出したら約束通りお前についてってやるさ……
まっ、んな事あり得ないってのはこの俺自身が一番よく分かってる事だがな……
だいったい、『ぼくのもの』だの『貸す』だの『返す』だのオレをモノ扱いしてんじゃねーよ、カハハーッ!」
ジュカインはまた愉快げに笑い声を上げながら、踵を返し木の奥へ消えていった。
……辺りに静寂が戻ってきた。
「……人間様」
族長さんは立ち上がり、ぼくの肩にそっと手をやってきた。
「……すまない、本当に……だが、わしを恨まないでくれ。
とりあえず今日はこの森で夜を過ごしてくれ。寝床はいくらでもあるから……」
すまなさそうに眉根を顰め、気を遣うようにそう言う族長さん。
だけど、ぼくはその言葉に反応を返せないほどに今衝撃を受けていた。
……胸の内に悲しいような悔しいような……不思議な感覚がもやもやと渦巻いて止まらない。
喪失感と似ているけど、また少し違った感覚。言葉では表現しにくい。
あのジュカインは、間違いなく『ぼく』のジュカインなんだ!それなのに……
つづく
224:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:40:27
乙です
225:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:41:53
乙ー
226:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 19:46:15
記憶どうやって戻すつもりなんだろうこりゃ
ここまでシリアスな流れになっちゃったから、
適当にコケて頭ぶつける→記憶戻る→大団円
っていう手っ取り早いパターンの線が消えちゃったじゃないかw
227:名無しさん、君に決めた!
07/12/03 20:31:59
GJ!
228: ◆8z/U87HgHc
07/12/03 21:17:38
言い忘れましたが、明日も今日と同じ時間に投下しまーす
229:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 15:13:38
オオカマド博士の濡れ場を希望
230:1/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:30:20
ぼくは多量の不安を残したまま、族長さんと一緒にフライゴン達がいる場所に戻ってきた。
フライゴンとキモリ達は仲良くなったのか、何やら盛り上がっている。
「あっ、人間様と族長様だー」
「二人ともおかえりなさいー」
「コウイチくん! あと、族長さん、おかえりなさーい」
何匹かのキモリがぼくらを笑顔で出迎え、フライゴンは何かモグモグと食べながら
なぜだかホッとした風な笑みを浮かべてこちらへ駆け寄ってきた。
「いやぁ、遅いから心配しましたよー! 前の村みたいにまた捕まって閉じ込められてやしないかと、
ちょっとソワソワしちゃってました……えへへ、いらない心配でしたかねっ」
「あ、うん……何ともなかったよ」
……何ともなかったと言えば嘘になるけど、フライゴンの笑顔はあまり崩したくないのであえて嘘をついておく。
ジュカインの事を言うのは、もう少し後でいいだろう。
「ところで、聞いてくださいよコウイチくん! ボクここの子達と仲良くなったんですけどねー、
面白い特技持ってる子がいるんですよ。ホラ、モリくんコウイチくんにきみの特技見せてあげてっ」
「任せろ! ほれコウイチくんとやら、オレの技を見て驚けー!」
モリくんと呼ばれたキモリは近くの木に足の平をくっつけたと思うと
そのままの状態で突然ブランと上体を寝かせ、そのまま勢いよく、まるで忍者か何かのように木を垂直に走り出した。
同時にキモリ達の間から歓声やら拍手やらが巻き起こる。
231:2/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:34:54
「よっ、と」
モリくんは足を木に貼り付けたまま木の枝から何かを取ると、ぼくに向かってそれをひょいと放り投げた。
「うわ、わ」
慌ててキャッチすると、野球のボールみたいな随分と固い感触が手の平を走る。
じっと見つめてその物体の正体を確かめようとすると、木の上からモリくんの声が降ってきた。
「コウイチくんとやらー! それ、ここらの木にたっぷり生えてるラムの実って言う果物で、
殻は固いけどとっても美味しいんだ、よかったら食べておくれー!」
「は、はあ……」
どうやら果物のプレゼントだったみたいだ。
フライゴンのやつ、何か食べると思ったらこの木の実を食べていたのか。
……モリくんの気遣いは嬉しいのだけれど何となく食べる気になれない。
ぼくがじいっと手の上の木の実を見つめ続けていると、フライゴンがニコニコしながら話しかけてきた。
「ねっ、カッコいいでしょ!? 彼、みんなからザ・NINJAって呼ばれてるみたいで……
……って、コウイチくん……何かーその、リアクション薄くないですか……?」
「え? あ、ああ、す、凄いねっ!」
すっかり忘れていたリアクションを慌てて取ると、随分と演技っぽくなってしまう。
……いや、実際演技なんだ。ジュカインの件のせいか、どうも騒いだり感動したりする気になれない。
と、そんなぼくの心情を見透かしたようにフライゴンはこう問いかけた。
「あのう、何だか全然元気ないみたいですけど……どうしたんですか? 族長さんと何か、あったんですか……?」
ぼくの顔を覗き込み、心配そうな目でじぃっと見つめるフライゴン。
「……」
ぼくは少しためらいながらも、先ほどの族長さんとジュカインとの話の内容をフライゴンに聞かせた。
232:3/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:38:56
「そんな……それってちょっと『無理』じゃあないですかっ!」
ぼくが全て言い終えると、フライゴンはたまらずそう言っていた。
「無理っていうか……難しいかな」
この夜から明日の朝まで、わずかな時間でジュカインの記憶を戻すなんてとても難しいことだ。
いや難しいっていうか、確かにフライゴンの言う通り『無理』かもしれない。
「まったくジュカインのやつっ! あいつ本当に性格悪いですねっ!
なんにも覚えてないからって、ズケズケとコウイチくんにひどい事を……」
「いや、でも……確かに仕方ないことだよ。
ぼくだって突然見知らぬ人に連れて行かれそうになったら怖いもの。」
「んー、まぁ確かにそうですけどさー……でも、だからってジュカインのやつ……ん?」
と、フライゴンはそこまで言ってから一旦言葉を止め、ふとキョロキョロと辺りを見回しだした。
「っていうか、『そのジュカインは』……?」
そう呟きながら辺りを見回し続けるフライゴン。
ぼくはフライゴンはジュカインを探していることに気づき、同時にジュカインが辺りにいない事にも気づく。
「そういえば見当たらないね、ジュカイン」
「ええ、どこにいったんでしょうかね……さっきコウイチくんと族長さんが行ってからすぐどっか行って……
それっきりですよっ! 戻ってくる気配ありませんし、いつの間にか戻ってたーって事もないようですし。見た限りですけど……」
『ジュカインが戻っていない』。ジュカインは、ぼくと族長さんよりも早くこちらへ戻ってきた筈なのに『いない』だなんて……
どこへ行ったんだろう。おしっこでもしに行ったのかな……いや、こんなに遅いんだから大きい方か……
……
まさか
ふと、ぼくの頭にある恐ろしい予測が浮かんだ。
233:4/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:43:06
「ねぇ、フライゴン聞いて。今ふと、ちょっとしたある予測が浮かんできたんだけど……
例えばの話……うん、あくまで例えばの話なんだけれどね」
「はい? 予測……ですか~~」
フライゴンがぼくに顔を近づける。
ぼくもフライゴンに顔を近づけ、よく聞き取れるようにゆっくりとその『予測』を話し始めた。
「もし……ジュカインがハナっから記憶戻るか戻らないかなんて賭け、受けるつもりなんてないとしたら?
記憶が戻っちゃう事を恐れて……あるいは、ぼく達をからかうために、
ジュカインがこのまま明日の朝までこっちに戻ってこないとしたら?
要するに……ジュカインがこの晩だけ『逃げてた』としたら?」
「……はい?」
ぼくの長々とした予測を聞いて、呆けたような顔を浮かべるフライゴン。
しかし、その表情はみるみると焦りの色に染まっていく。
フライゴンはついに完全に把握したように、こう叫びだした。
「……ま、まさかっ、そんなっ! ジュ、ジュカインのやつ……!」
フライゴンは怒ったような表情を浮かべたと思うと、いきなり羽をはためかせ宙に浮き始めた。
ラジコンヘリの駆動音のような羽ばたきの音が森に響き始め、キモリ達の視線が一斉にこちらに集まる。
「ちょ、フ、フライゴン、どうしたの?」
相当に気が立っているのか鼻息を随分と荒くさせながら、フライゴンはこう答える。
「もちろん、ジュカインを探しに行くんですよ! とっ捕まえてビンタでもして無理やり記憶戻してやるっ」
「だ、だから例えばの話って最初言ったじゃないかぁ、落ち着いてよっ!」
フライゴンはぼくのその言葉を聞かずに、体を前に倒し飛行を始めた。
……全くその瞬間の事だ。
「たぁだいまァ~~~」
234:5/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:45:47
「!?」
急に、辺りに聞き覚えのある声が響き渡った。
その声が誰のものであるかすぐに理解し、そしてぼくはほっと安堵する。
声の方向を向き、声の主を確認する。やはりジュカインだった。
どこに行っていたかは知らないけど、逃げたわけではなかったんだ。
「おっ、ジュカインさんおかえりー」
「ジュカインさん、どこ行ってたのー?」
「ジュカインさーん」
キモリ達や、木の上に登っていたモリくんも木から飛び降りて、ジュカインへ駆け寄っていく。
ジュカインはキモリ達の頭をあやすように撫でながら、ゆっくりぼく達の方へ近づいてきた。
「ジュ、ジュカイン……!」
フライゴンはすんなり帰ってきたのが意外だったのか、ジュカインを睨み付けだした。
「カハッ、何だい何だい、俺が逃げるとでも思ったかい?
カハハッ、失礼な奴だなァ~~。オレはそんな薄情なヤツじゃねえぜ!」
ジュカインは神経を逆なでするように眉根を寄せ口元に笑みを浮かべている。
苛立った様にフライゴンが 「ゔ~~~っ」 と低く唸りだす。今にも突っかかりそうな勢いだ。
変にトラブル起こさないように、ぼくは咄嗟にフライゴンを宥めた。
「ま、まぁよかったよとにかく戻ってきて。それに越したことはないよ。だから怒らないで……ね?」
「そ、それはそうですけどね……む゙~~~っ」
どこか納得行かないようだけれど、とにかくフライゴンは肩の力を抜き怒りを納めた。
ほっと一息つくと共に、ふとある疑問がぼくの頭に浮かぶ。
ジュカインは今までどこへ行っていたのか?
そしてその疑問が浮かんだ直後、ジュカインが手で何かを引きずっている事にもぼくは気づいた。
……大量の、網?
235:6/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:48:09
ジュカインは、黒い幾重にも重なった網を片手で引きずっている。
今までしばらく姿を消していたのは、どこかにこの網を取りに行っていたからなのだろうか。
……それで、この網は何のために持っているのだろう。何かに使うために持っているのだろうか?
まさかこれから海行って地引き網でもするってワケはないし。
「ねぇ、ジュカイン。この網……」
「ああ、この網か? ……寝るのに使うんだよ」
「寝るのに使う? ……網を?」
『網を寝る事に使う』……ぼくはすぐさまピンと来た。
こんな深い森の中で、網を寝ることに使うといったら『あれ』だろう。
ぼくは実際に使ったことはないけれど、テレビや本で何度か使っているのを見たことがある。
ジュカインはどこか曰くありげな笑みを浮かべながら、話を続けだした。
「そう、俺たちは何も地べたに眠るってわけじゃあないんだ。土くれや小さい虫が背中についちまったら気持ち悪いだろーよ。
このでっかい網を木と木の間にくくりつけて、めくり広げる。そしたらあっという間に快適就寝具が完成さ。
『ハンモック』っつーんだけどさ、それを作るためにこれ持ってきたってワケ。
……おおい、みんなー! 網持ってきたから、ちゃちゃっとハンモック作ってさっさと寝ようぜっ!!」
ジュカインは網の事を語り終えると、周りのキモリ達にそう呼びかけ始めた。
……
ちょっと待て、いま『コイツ』何て言った?
236:7/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:52:06
「そういえばもうそんな時間かー」
「お空はもう灰色時だもの。いつまでも夜遅く騒いでると森に怒られちゃうよっ」
「よーし、用意だ用意だー」
キモリ達が近寄ってくる。ジュカインは一匹一匹に網を手渡していく。
キモリたちは、それぞれ網を木にくくりつける作業を始め出した。
今日を終わらせようと、各々寝床を作る作業を始めている。
そして、今ジュカインも網の一端を木にくくりつけハンモックを作ろうとしている。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!」
ぼくは慌ててジュカインに駆け寄り、ハンモックを作る作業を止めるように腕を掴んだ。
ジュカインは、寝るつもりだって言うのか?
寝てしまって……『今日を終わらせようというのか』?
やっぱり逃げるつもりだったんだ。記憶戻るか戻らないかの『賭け』なんて受けるつもりなかったんだ。
ぼくがジュカインを睨みつけていると、ジュカインは浅いため息をつきながら言った。
「……何だい何だい。眠るなとでも言いたいのかい? ええ?」
「そ、そうだよ! 『明日の朝』までって言ったのは誰だよ、眠るなんて卑怯だよ!」
「カハハ、卑怯も何も……オレは眠いんだ。お前も眠いだろ?
オレ達この森の民族の間にはな、空がねずみ色になったら眠るってしきたりがあるんだ。見てみろよ、空を」
ぼくはバッと空を見上げる。無数の葉っぱの奥には一片の青もないくすんだ灰色の空だけが広がっている。
ふと、こめかみから一筋の冷や汗。
胸の奥から、ざわざわと焦りが……不安が……込み上げてくる。
……しきたり……眠る……明日の朝までジュカインの記憶が戻らなかったら……追放……即刻……!
237:8/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:56:19
「ジュ、ジュカイン!!」
「あん?」
どこか小気味よさそうな半笑いを浮かべたまま、ジュカインはそう返事する。
ぼくは真っ直ぐそのジュカインの肩を掴み、焦りのままに必死に訴えかけた。
「お、思い出してよォ!! ほら、何年間もぼく達一緒だったじゃないかっ!!
きみがまだキモリの頃から、ずっとずっとずっと嬉しいときは喜び合って悲しいときは泣き合って一緒に生きてきたじゃあないかっ!?
助け合ったこと励まし合ったこと何もなンにも覚えてないのかよォ、ジュカイン!! ねぇジュカイィン!?
思い出してよ、思い出してくれよォ!! ぼくの顔を見て、フライゴンの顔を見て、思い出せェっ!!」
その声は、自分自身でも信じられないくらいに焦りに満ちている。
当然だ、ここでジュカインの記憶が何一つ戻らなかったら、ぼくらは……!
胸のうちに不安を秘め、目には期待を込め、ぼくはジュカインを真っ直ぐ見つめる。まっすぐ、まっすぐっ。
……ジュカインは半笑いの表情のまま、ぼくとフライゴンの顔を見交わし……フッと鼻で笑いこう言った。
「さぁ……? 何一つ身に覚えがないねぇ?」
「ぐっ……!」
焦燥感が、胸を炙り始める。それにより、びちゃびちゃと溢れ出してくる不安。不安。
なんでっ、なんでっ……どうすればっ、どうすればっ!!
238:9/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 18:59:46
ぼくは必死に思考を巡らせる。どうやれば記憶が戻る、どうやれば思い出させられる。
……そうだ、何か思い出の品があればっ! ぼくとジュカインとの思い出の品……あっ!
ぼくはふと閃き、胸ポケットに入れてあるトレーナーカードから一つバッジを取り出し、ジュカインの前に突きつけた。
「ほ、ほら、これを見て!! ノボセシティジムの牧島カレンさんを倒して手に入れたフェヌバッジだっ!!
これを手に入れられたのは、あの人に勝てたのは、全部きみのおかげだったね。
きみが頑張って踏ん張って戦い抜いてくれたおかげで、このバッジは手に入ったんだっ!!
ねぇ、これに何の見覚えもないのっ!? せめて、こう、何か少しは感じるものがあるだろうっ!? ねェっ!?」
震える指でしっかりフェヌバッジを掴みながら、ジュカインに見せ付ける。
これで、きっと思いだすっ、きっと思い出してくれるっ!
きっと……! きっと……!
「う……うぐぅ~~~」
……!?
……なんとその願いが通じたのか、ジュカインは突如俯き、何か唸り声を上げだした!
頭を抱えて、苦しそうに……さも、『何かを思い出していく』かのように……!
ジュカイン……!
「ジュ、ジュカイン!? なっ、何か思い出しているのっ!?」
ぼくがそう言うと、ジュカインは唸るのを止めてゆっくりと顔を上げた。
ジュカインはじぃっとぼくを見つめだす。目が覚めたときのようにどこか呆けた顔つきでじいっと、じいっと……
……沈黙。
……そして。
239:10/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:03:58
「はてェ~~~ッ!? オレにはそんなバッジッ!! ぜんっ!! ぜんっ!! 見覚えがございませェーーーーんッ!!」
「えっ」
返ってきた答えは、ぼくの期待していた答えとは全く真逆のものだった。
そして、そう言ったジュカインの表情には笑みが満ちている。『完全に人を馬鹿にしたかのような笑み』……
……あの『何かを思い出していく』かのような行動は、全て演技だったんだ。
ぼくを虚仮にするための、演技だったんだ。
「あっ、あああぁぁっ」
腑抜けた声が、勝手に喉から搾り出される。
急に体から力が抜けていくような感覚に襲われ、ぼくは思わず膝を付きそうになる……
……が、ぼくは何とか踏みとどまった。
地にしっかりと足をつけ、まっすぐジュカインの顔を見据える。
「……クケケッ、どうしたんだよ人間サマ?」
「……」
……まだ諦めちゃいけない、だから諦めるなっ、ぼくっ
……そうだ。どんな時だって、諦めなければ必ず活路が生まれるっ……!
何とか心中で自分を励ましながら、再びぼくは思案を巡らせる。
そう、思い出の品だっ。何か、思い出の品っ……
記憶を辿る。ジュカインとの思い出から、ジュプトルとの思い出へ。
ジュプトルとの思い出から、キモリとの思い出へ、そして出会いの思い出―
―『視覚』で通じないなら―
その瞬間、また一つある閃き。
240:11/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:09:43
「ジュカイン……初めてぼくがきみを見つけたとき、きみはすごく飢えていたよね」
心を落ち着かせ、ジュカインを見つめながらぼくはゆっくりとそう言う。
「あぁ?」
笑みを表情から消し、不機嫌そうに言うジュカイン。
ぼくはポケットをまさぐり、いまからジュカインにやろうとしている思い出の品……
それが詰まった、『ポフィンケース』を取り出した。
「……?」
ジュカインはそのポフィンケースを見て、疑問めいた表情を浮かべる。
ぼくはポフィンケースからドギつい『赤色のポフィン』を取り出し手の平に乗せ、そのジュカインに向かって差し出した。
「赤くて、辛いポフィン……これは、その時きみにあげたお菓子だ。
その時きみは、このお菓子を嬉しそうに食べてくれたね……その表情、ぼくはよく覚えている。」
「……」
ぼくはそう言ってからちょっとだけ目を瞑って、当時のことを思い出してみた。
凶暴な野生のポケモンだらけのある裏山……そこに一匹場違いな、傷だらけのキモリがいた。
キモリは傷だらけなばかりか、痩せこけて衰弱していて……ほとんど死に掛けていたっけな。
そのキモリにぼくは、この赤いポフィンをあげたんだ。その時のキモリの嬉しそうな食べ方、その後の満足そうな表情、よく覚えている。
だからきっとこの赤いポフィンの味は、ジュカインの心に深く深く焼きついているに違いない。
だからこのポフィンを食べさせれば、多少なりともジュカインの記憶は―戻るはずだっ
「サァ、食べてジュカインっ……! これを食べれば、きっと思い出すよ……!」
ぼくはそう言って、ジュカインへ軽くほほえみかける。
ジュカインはおずおずと、ぼくの手の平の上のポフィンに手を伸ばした。
これで……きっと思い出してくれる……!
パシッ
241:12/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:16:58
「あっ」
一瞬、時間が止まったかのようだった。
ジュカインは、ぼくの手の平の上のポフィンを手で弾き飛ばしたんだ。
「のヤロォ……」
ジュカインは苛立ったように唸りながら、床に落ちたポフィンの元へ近寄り……ポフィンを踏み潰した。
そのままぐちゃぐちゃと踏みにじり……そして吐き捨てるように、ぼくに向かってこう言った。
「いい加減にしろよ、テメェ……!」
「―っ」
あまりの衝撃に、ぼくは言葉さえも出なかった。
そのジュカインの表情には、あの悪戯めいた笑みさえも、ない。
……怒っている……? ……本気で……?
「いい加減にするのはどっちだッ!?」
「!!」
「!?」
不意にそう叫んだのは、フライゴンだった。
そして彼の目は、明らかな怒りの色に染まっていた。
242:13/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:19:32
「黙って見てたけど、何もそこまでする必要はないんじゃあないかっ!?
演技してまで虚仮にしたり、お菓子弾き飛ばして踏みにじったり……何でなんだよっ!!」
鼻息を荒げズカズカとジュカイン詰め寄りながら、激しくそう問いただすフライゴン。
……その問いにジュカインはニィッと気持ち悪いくらいに口を歪めたと思うと、高笑い交じりにこう言い放った。
「お前らをコケにするために決まってんだろォーがよバーーーカッ!! カハハ、カッハハハーーー!!」
「……!! ジュカイン……ジュカイン、ジュカイン、ジュカイィンッ!!」
ジュカインのその言葉にフライゴンの怒りはついに沸点を迎えたのか、
フライゴンは咄嗟に手を振り上げ、ぼくが静止の一声を上げる間もなく
怒りのままにジュカインへ向かってその手を振り下ろした。
何をやっているんだ―
「フ、フライゴン!!」
バシッ!!
「……うっ……」
フライゴンがジュカインへ向けて振り下ろした手は、ジュカイン自身の手によって止められていた。
「……なんだい、いきなり暴力振るうこたねぇだろう、暴力はよ……
何事もすぐに暴力に訴えるってのはさ、野蛮で下品なクソ野郎って言うんだよな……ええ? おい」
およそ今までの人を虚仮にしたような調子でなく、怒りを押し殺したような口調でジュカインはそう呟く。
そしてジュカインは乱暴にフライゴンの手を振り解くと、声を荒げてこう言った。
「このクソボケ共がァっ!!」
243:14/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:24:39
「勘違いするなっ、本当ならぶん殴ってやりてぇのはこのオレだッ!! お前らじゃあなく、このオレだッ!!
お前らをぶん殴って、けっ飛ばして、この森から強引に追い出してやりてぇ所をこのオレは我慢してやってんだよッ!!
オレはこの森での生活が気に入ってるんだッ!! この森が大好きなんだッ!! ずっとこの森で大人しく生活していたいんだッ!!
それをお前らはいきなり現れて、ズケズケズケズケ図々しく踏み込んでぶち壊しにかかってきやあがるッ!!
元々はぼくのジュカイン? 『元々は』? んな事オレが知るかっ、クソッ! クソッ、クソッ、クソッ!! クソガキどもがァッ!!!」
ジュカインは今まで押し殺していた『怒り』を発散するように、罵声を吐きながら土を蹴っている。
「例え記憶喪失だったとして、それがどーかしたのかよって話だ。んなこたオレにゃ関係ない。以前の記憶なんて一つも興味はない。
いいか、『今のオレが今のオレだ』ッ!!! 分かるかっ、このクソボケどもめッ!!!」
ジュカインはぼくらを指差し、力を込めてそう言い切った。
それに対しフライゴンは何か言い返そうと口を開ける―が、すぐにむぐむぐと口を噤んでしまった。
フライゴンも『理解』したのだろう。
―ジュカインは怒っている。冗談や虚仮なんかじゃあなく、本気でぼくらに対して怒っている。
それでなければ、こんな怒号は出せない。それでなければ、あんな目の色を出せるわけが無い。
ぼく、今までは全然分からなかったけど……『ジュカインはぼくの元へ戻ってきて当然』
なんて根拠の無い思い込みをしていたから、全然分からなかったけど……
彼の本気の怒号を真に受けた今、ぼくはようやく理解した。
今の彼にとって……どれだけぼくらが迷惑で邪魔でうざったいかが!
『記憶が戻るかも』なんてちっぽけな望みのみでベタベタひっついて、
挙句の果てに非難まで始めるぼくらが……どれだけ迷惑でっ! 邪魔でっ! うざったいかがっ!
あのジュカインが元々ぼくのジュカインである事に変わりは無い。
だからこそ……もうぼくらは身を引くべきなのだろうか?
いいや、彼のことを思うのならばもはや身を引くしかないのだろう。『記憶は戻らない』。
……でも……
244:15/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:28:14
「お、おいおい、よせジュカイン」
ジュカインの怒号に慌てた族長さんや数匹のキモリがこちらへ駆け寄ってくる。
「はんっ、慌てんなお前ら。何でもねぇって……」
ジュカインは小さくため息をつきながら駆け寄ってくる族長さんに静止を入れると、
出来上がったハンモックに飛び込みゴロンと寝転がってしまった。
「おい、人間と緑色。網ならあるから、お前らも寝ろ!
森の空気やにおいを感じながら眠れば、ぜんぶ忘れて朝までグッスリ眠れるさ」
ジュカインはそう言い終えると同時に、寝返りを打ちそっぽを向いてしまう。
ぼくはジュカインの背中を見つめながら、少しうなだれていた。
そんなぼくの背中をフライゴンがポンと叩く。
「……コウイチくん」
「…………」
ぼくは網を拾い上げ、無言で寝床を作る作業を始めた。
十数分後には、森の住民達はもう全員ハンモックの上に横たわっていた。ぼくやフライゴンも含めて、だ。
空を塗りつぶしているような木の枝葉の隙間から少しだけ覗く夜空には、
星々が無整列にたくさん並んで、それぞれ異なった輝き方を見せている。空がきれいな証拠だ。
そんな森の夜空を見つめながら、静寂の中たまにやってくる夜のすずしい風、その風に運ばれてくる草木や土のにおい、
葉っぱが擦れる耳心地いい音などを感じていると、まるで赤ちゃんのようにすぐにでも眠りについてしまいそうだ。
……普段ならば、この甘い眠気に迷い無く身を任せるところだけれど、
今は眠るのが惜しい。いや、正確に言えば……朝を迎えるのが、惜しい。
「……ねぇ、コウイチくん。 ……起きてますか?」
ふと、隣のハンモックに横たわっているフライゴンが声をかけてきた。
「うん、起きてるよー……なぁに? フライゴン」
ゴロンと転がり、フライゴンと目を合わせる。
フライゴンは神妙な顔つきをしながら、呟くようにぼくに向けてこう問いかけた。
「やっぱり……諦めますか? ジュカインは……」
245:16/16 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:32:20
……時が止まったような沈黙が数秒、場を支配する。
ぼくは、まるで囁くような声量でこう答えた。
「冗談じゃあ、ない。ぼくは、絶対諦めたく、ないっ」
ぼくのその一言に、フライゴンは意外だという風に目を見開く。
次の瞬間から、ぼくはほぼ無意識のまま恨み言のように言葉を垂れ流していた。
「冗談じゃない……じょ、冗談じゃあないぞ……! 誰が、だ、誰が、諦められるもんか……!!
でも……クソッ、クソックソッ……クソッ……ふざけるなクソがっ、クソクソクソクソクソクソ、クソォォォォォォ」
そう呟くぼくの声は震えている。ああ、ぼくはいま苛立っているんだ。神経に来ているんだ。
こんなバカみたいに汚い言葉が、下品な言葉が、口から自然に漏れ出てきてしまう程に。
頭の脇に寝転がせていたはずの手が、自然と頭を掻き毟りだす。幾度も、激しく、だ。
別にかゆいから掻いているんじゃあない。それなのに、いっぺん頭を掻き毟りだすと夢中になって止められない。
なぜだか頭を掻き毟っている間だけは、どこか苛立ちが薄らいでいくような気がするからだ。
……いわゆる現実逃避ってやつだ。
同時にその行為は、どうあっても逃げる事の出来ない現実に直面しているのを自覚している事の表れでもあるのだ。
……現実からかけ離れているはずのこんな世界の中で、どうして逃げることの出来ないような―
逃げ出してしまいたいような『現実』に悩まされなけりゃいけないんだろう。
不思議でたまらなかった。不思議でたまらないから、ぼくは頭を掻き毟るんだ。何度も、何度も何度も何度も。
……しかし、いつもはカラクリ仕掛けのようにいつまでもいつまでも続けてしまうこの『癖』は、今日は存外早くに治まってくれた。
それは激しい『眠気』のためだった。まるで『催眠術』でもかけられたかのような異常な眠気が……突然ぼくらを襲ったのだ。
それによりぼくもフライゴンも瞼を鉛のように重くさせ……すぐに深い眠りについてしまった。
眠り行く寸前に森の奥に見えた、『二つの光』の事をも忘れ、深い眠りへ……
つづく
246:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/04 19:39:20
なんかもう、いつも長くて本当にゴメンナサイ……
次回は金曜日の6時半からです。
247:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 21:27:49
乙!
すごい展開になってきたな…もうどうしようもなくね?
248:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 21:28:49
乙乙ー
がんばってくれー
249:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 21:51:56 QbK4LDga
250:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 22:33:27
ジュカインむかつかね?
やってることが非道
251:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 22:55:55
だってそういうキャラだろうから
そんな風に感じさせられる>>1はガチで凄いと思う
252:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 23:13:24
牧島カレンってマキシマム仮面のことかwww
シリアスな場面に変なの織り交ぜんなwww
253:名無しさん、君に決めた!
07/12/04 23:38:28
>>251
確かにそうだな
まあいずれ記憶戻ったらデレるんだろうけど
254:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 07:04:28
これ才能の無駄遣いだろw
絶対ポケ板向きじゃない。
255:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 07:46:02
オオカマド博士のキモさと、牧島カレンのネーミングセンスが光るなw
ところでこれ、かなり大長編になるんだよな?
敵の部隊が16もあって、飛鳥部隊だけでも主要キャラが5人もいる。
このままいくと魔王+部隊長+副部隊長+三幹部で81匹。
ヨルノズクと同等以上の敵がこれだけいるとなると恐ろしいな。
まぁ、すべての部隊が登場するのかはまだ分からないし、
幹部の数がもっと少ないという可能性もある訳だけど。
とにかく、これからの展開に期待!
256:名無しさん、君に決めた!
07/12/05 12:44:35
部隊が16個ってことは、ドラゴン以外のタイプ16個それぞれの部隊か
>>1のやる気次第だろうが、確実に半分以上はソードマスターヤマト的に処分されるだろw