【小説】ポケモン ドリームワールドat POKE
【小説】ポケモン ドリームワールド - 暇つぶし2ch1: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:22:13
 何年か前、まだ物心もついていなかった頃、ぼくはある本を読んだ。
 その本の中の世界では、人間世界の裏に『犬』が独自に文明を築く世界があった。
 猿ではなく、犬が発達し知恵を持った世界。
 その物語の中で、人間同様知恵を持ったその犬は、こんな発言をしている。

『君達の世界では偶然猿が発達し知恵を持ったに過ぎない』
『そして、偶然犬が発達し知恵を持った世界が、僕達の世界なんだ』

 しょせん物語……作り物の中のセリフでしかないと言えばそれまでだけれど、
 ぼくはこの一節に、幼心ながらひどく感銘を受けた覚えがある。

 人間以外の生き物が知恵を持ち、文明を築いている世界なんて存在するはずがない……
 そうやって考える人は多いしそれが常識だけど、実際の所そんな根拠なんてどこにもありゃしないんだよね。

 ポケモンは、高い知能を持っているものがたくさんいるってよく聞く。
 人間に近いほどの、そしてそれ以上の知能を持っているものだっていると言うけれど……
 だとしら、もしかするとぼく達の誰も知らない遠いところ……いや、もしかしたらすぐ近くにでも……
 ポケモン達が言葉をしゃべり、文明を築いている。そんな世界があるのかもしれない。

2:テッカニン ◆eUGlgRRL/U
07/11/27 19:23:21
2


3:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:23:26
糞スレ認定

4:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:23:35
厨二病乙

5: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:24:24
「いけぇ、フライゴン!! ドラゴンクローだ!!」

 ぼくがそう叫ぶと、目の前のフライゴンはその翼を力強くはためかせ、
 猛烈な勢いと共に眼前の敵ポケモンに強烈な一撃をくわえた。
「あ、ああ! オクタン!!」
 致命的なダメージを受けた敵ポケモンは力尽き、相手トレーナーのモンスターボールへと自動的に帰っていく。
「……俺の最強の切り札であるオクタンがこうあっさりやられるとは……完敗だ」
 手持ちに戦えるポケモンがいなくなった男の人は、チッと悔しげに舌を鳴らすと、
 若干納得のいかないようではあるけど、素直に負けを認めた。

「シンオク地方最強のジムリーダーであるこのデンチを倒した今、お前はこのピーコンバッヂを手にする資格を得た。
 そして同時にポケモンリーグへと挑戦する権利も……
 ふん。まあ俺の代わりにポケモンリーグのチャンピオンにでもなってきてくれ」
 デンチはポケットから金色に煌くバッヂを取り出すと、ぼくにポイと放り投げる。
 逃さずキャッチし、満足感と達成感に胸を火照らせながら、
 たった今受け取った勝利の証『ピーコンバッヂ』を、ゆっくりと胸のトレーナーカードに貼り付けた。
 ……トレーナーカードの中に輝く8つのバッヂ。
 ぼくが、このシンオク地方全てのジムを制覇した証だ。
「ギュウ!! グギュギュウ!!」
 そんなぼくを祝うように、フライゴンは可愛らしい菱形の羽をパタつかせながら、
 ぼくの顔を覗き込み、赤い幕の内側にある愛らしい瞳をキュウッと狭める。

『コウイチくん、これでバッヂ8つっ! やっとポケモンリーグに挑戦できるんですねーっ!
 やった、やったァっ!! ボクも嬉しいですよーっ!』

 そんなフライゴンの言葉が、聞こえてくるようだった。


6:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:25:12
そんな事を考えていると母がやってきて
「あんた!いい加減働きなさい!」
僕は母を部屋から追い出し鍵を閉め寝た
そんな毎日を過ごし気がついたら乞食となっていたのだ
僕は後悔した
そして自害したのである

                 完

7: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:26:16 k5wLs5D+
 どんっ!!

 意気揚々とナグサシティジムを出て行くぼくに、勢いよく誰かがぶつかってきた。
「あい、つつ……」
 小柄なぼくは衝撃によろめき倒れそうになる。
 そんなぼくの耳に、聞き慣れた声が入り込んできた。

「なーんだっつんだよー! 俺、また先こされちまったの!?」

 耳によく響く、明朗快活をそのまま表したかのような声。
 ぼくはその人……今ぶつかってきた人に視線を向けた。
 その視線の先にあった顔は、親友でありライバルでもあるミキヒサの顔だった。

「あーっ、もう。おれ、お前に先越されてばっかだなァ~~。もう8つバッヂ集まったんだろー?」
 ぼくのトレーナーカードをめくり、8つに輝くバッヂを物欲しそうな目つきでまじまじと見つめるミキヒサ。
 ぼくが少し誇らしげに胸を張ってみせると、ミキヒサはためいきをつきながらぼくのトレーナーカードから手を離した。
「ジムを制覇したコウイチくんは今からポケモンリーグ挑戦か~~、うらやましいなあ~~……」
「ミキヒサも、もうバッヂ七つ集まってるでしょ? 
 だいじょぶ、ここのジムの人そんなに強くなかったからさ、ミキヒサならすぐにバッヂを手に入れられるよ」
「はんっ。余裕たっぷりな発言するなあ! コウイチめっ」
 不遜な顔をしながら、ふと辺りをキョロキョロと見回し出すミキヒサ。
 と、そんなミキヒサの目に何か重大なものが映ったようで。
「……おっ。おやっ、おやっ! コウイチ。あそこの灯台のテレビ見てみ、ポケモンリーグのCMみてーなのやってるぜ!」
 ミキヒサはこちらを向かないまま、ナグサシティ中心に立つ灯台の巨大なスクリーンに向かって指をさした。
 ぼくも灯台の巨大スクリーンに視線を移す。そこには、今からぼくとミキヒサが目指す、
 ポケモントレーナー達の頂点、ポケモンリーグの様子がでかでかと映し出されていた。

8:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:27:29
舞台はパラレルワールドか?

9:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:27:41
という妄想をしながら僕は部屋に引き篭もりゲームをしている
こうやって現実逃避をしているのだ
そして気がつくと乞食になっていた
僕は後悔した
そして自害したのである

                 完

10: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:28:02
『シンオク・ナウ!! 今日はテレビコトブチ開設記念日特別スペシャルとして、
 ポケモントレーナー総本山・シンオクポケモンリーグに来ていまァーーーす!!
 そして、何と何と!! シンオク中のポケモントレーナーみんなが憧れる、
 ポケモンリーグ四天王のみなさんがこうしてカメラの前に集まってくれましたァーーー!』

 やたらと興奮する現地キャスターの脇に、四人の男女が立っているのが見える。
 小柄なぼくよりもずっと小柄な、多分ぼくよりも全然年下で、アンテナみたいな変な髪癖のちっちゃい子供、
 今にも死にそうなほど干からびて、たまにゴホホホと咳をしているおばあさん、
 赤いアフロに白い厚化粧に白い服、まるでピエロみたいな男の人、
 どこか一流企業の重役みたいにピシッと整った格好と顔立ちをした、気品漂うメガネの人。
 あれがきっとポケモンリーグ四天王なんだ。ポケモントレーナーの頂点、そして今からぼくが戦う四人……!

『さぁー、四天王さん!テレビの前のポケモントレーナー、そして未来のポケモントレーナー達に、一言お願いしまぁすっ!』

『ハーーイ!ぼく四天王のリョウトでぇーす! バッヂ持ってる人、どしどし来ちゃってくだーーさいっ!!
 ぼく達といっぱい楽しいポケモン勝負しましょ~~! ……あっ、パパ、ママ、ねぇ見てる~~~!!? わーい!!』
『わた……し……してんの……キクエ……ゴホッ、ゲホホホォ!! グギャアア!!!
 ……みんな来てね、ポケモンリーグホォ!! ゴホホホッ!! ギャぁ!!』
『アーイム・ラビニィーット!! おれ四天王のオーパ!!
 俺のケツに火ィつけられるような強い挑戦者待ってるぜッ!! アーイム・ラビニィーット!!』
『どうもテレビの前のみなさん。私は四天王のゴギョウ、ポケモンの神話や秘密について調べています。
 各地を渡り歩き、特にハクタネシティやカンザキシティにはよく出向くので、見かけたら一声かけてください。
 サインも書きますよ。なんどでも書きますよ。なんどでもな ん ど で も 書きますので ぜひ ぜ ひ ぜ  ひ  一声おかけ下さい』

11:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:28:07
スレリンク(poke板)

ここの1よりはマシだからよしとしよう。

12:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:28:51
なーんて事を考えていたら何時の間にか乞食になっていた
僕は後悔した
そして自害したのである

                 完

13:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:30:27
これ、前に小説スレに投下されてた未完のやつか?

14: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:31:49
『では、これでポケモンリーグ現地リポートを終わりまぁす!ではさようなら!』

 現地リポートが終わり、巨大モニターはぼく達の全く興味の無い映像に切り替わる。
 ミキヒサは構わずモニターを見続けながら、感極まったのかこんな事を言い出した。
「くーっ。グッと来るね! 俺ももうすぐあのポケモンリーグに……
 ……で、お前は今から挑戦しにいくんだよなーっ、おれより先にっ!
 もう夜だけど、いまから行って今日中にはチャンピオン様になってますってかー!? うンらやましいねェーっ!」
 ニコニコしながらぼくの頭を掴み、黒髪をワシャワシャと撫で回すミキヒサ。
「いや、まだ行かないよ。行く前に……ぼく寄る所があるんだ」
「はい?」
 手の動きを止めおずおずと引っ込めながら、ぼくを見つめるミキヒサ。
 と、そのミキヒサはいきなり芝居っぽく手の平をポンと叩いたと思うと、こちらをビッと指差し自信満々にこう言った。
「そォか! まずはご邸宅に帰って、おママにご一報ってワケだなぁ~~!? こ~のマザコンお坊っちゃんめっ!」
「違う」
「にゃにっ!?」
 ぼくの発言に、これまた大袈裟なリアクションを取るミキヒサ。
 意地悪っぽく舌を出して挑発してみると、ミキヒサの顔がもどかしげな色に染まっていく。
「なんだっつんだよー! おまえ、おれをバカにしてるなー!? えい、言わなきゃ罰金100万円の刑ー!」
 子供じみた法外な『罰金』を請求しながら、力のこもってないパンチやらをぼくに浴びせるミキヒサ。
 込みあがってきた笑みを顔に浮かばせながら、ぼくは言った。

「ぼくの思い出の場所さ。……なんなら、ミキヒサも行く? いっしょに」

 ミキヒサに向けて、ニコリとやや意地悪っぽい笑みを作ってみる。
 彼はパンチやらをピタリと止めて、ぼくの顔を少しの間見つめたと思うと
 みるみると表情を笑みに変えていき、そしてぼくの全く予想通りの事を言ってくれた。
「もっちろん! もちろんだよコウイチくーーん!! いやぁ、さすが親友! にゃっははーー!」
 ぼくの肩を掴みながら、ルンルンと小躍りするようにして喜びを表現するミキヒサ。
 ぼくはそんなミキヒサを見つめながら、思い出の場所へ飛ぶためにフライゴンの入ったボールを高く挙げた。

15:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:33:03
そんな事を考えてるうちに鬱になってきた
俺はこんなところで何をしているんだろう・・・。
もう3年も部屋の外に出ていない
数年後、俺は乞食になっていた
そして後悔した 
部屋に引きこもってる間勉強してれば
少しはまともな人生を歩めたのだろうか・・・。
俺は自害した

            完

16:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:33:09
そして僕はポケモンリーグに向かったのだが突然やってきたハリケーンに巻き込まれたのだ
勿論死んでしまい僕の物語はここでおしまい
今は天国で気楽に過ごしているよ
そういえばこないだ食べたフライゴンの肉はとてもおいしかった
また食べたいものだ

                            完

17: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:33:53
 ぼくは、血液型がA型だ。
 だからなに? とか言わないで、できるなら最後まで聞いて欲しいな。

 血液型性格診断なんてものがあるけれど、それによるとA型って『几帳面』な人らしいんだよね。
 性格診断なんてほぼ占いみたいなもんじゃあないか。ロクなもんじゃあない……
 ぼくはそう思ってはいるけど、この血液型性格診断の結果は、ぼくにとってはズバリ当たっているんだ。

 ぼくは自分でも不思議なくらい『几帳面』で。整理整頓なんかはしないと気がすまないんだよね。
 時間なんかは勿論キチンと守るし、全ての物事にちゃあんと確認は怠らない。
 だから、遅刻だとか忘れ物だとかは特別な事がない限りいっさいしたコトないし、
 捕まえた事のあるポケモンをウッカリもう一回捕まえちゃったりとか、そんなコトは今まで一回もなかった。

 後味の悪いことはしたくない、とか……大事な物事の前にはまずやるべきことを全部済ませる……とか。
 そんな性格だから、ぼくはポケモンリーグに行く前に『思い出の場所』へ向かうことにしたんだ。
 几帳面じゃなかったら、そんなことしない……少なくともあのミキヒサだったら絶対しない。

 そう、もしぼくが『几帳面じゃなかったら』……『A型じゃなかったら』……
 たぶんだけれど、これから起こることは絶対に起こらなかったんだ。
 そうだ、ぼくの運命を全く変えてしまう出来事は……

 でも、結果的にそれが幸運であったか不幸であったかを、
 仮に、これから起こる運命の変化を乗り越えたときのぼく……つまり未来のぼくにそれを聞いてみたとしたら……

 たぶん、『ものすごい幸運だった』って答えるとは思うだろうけど……ね。うん、多分。


 つづく

18:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:34:15
と、思ったらここで打ち切り

19:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:34:51
地味に期待

20:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:35:16
と言いたいところだがやはりつまらない

21:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:38:31
これどっかで見たことあるな

22: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:40:08
 満ちた月が辺りを照らしいつもより明るい夜の空を、ぼくとミキヒサを乗せたフライゴンがゆっくりと飛行している。
 上空から見下ろす夜の町や自然の景観に感嘆の声をあげはしゃぐミキヒサに一々かまっている内に、
 フライゴンは、ぼくの『思い出の場所』にゆっくりと降り立った。

「ここは……シンシ湖か?」

 フライゴンの背中から降り、目の前に雄大に広がる湖を見つめながらポツリと一言漏らすミキヒサ。
 ぼくが 「そうだよ」 と一言いって見せると、ミキヒサは半笑いの表情で、ぼくに突っかかってきた。
「なんだっつんだよ、思い出の場所ってここのことかァー!
 ……おれ達二人の思い出の場所だな、ここは」
「……そうだね。ぼく達がポケモントレーナーになるきっかけになった場所……かもね」
 ぼくとミキヒサはどちらともなく湖の渕に腰掛け、ゆったりと流れる水面を見つめながら
 互いに思い出していくように、湖での思い出を語り合い始めた。

「ここでヒカルって子とオオカマド博士がいてさ、モンスターボールの入ったバッグ忘れてったんだよな」
「そうそう! で草むら入ったら鳥ポケモンが出てきてさ」
「んでおれ達、勝手にバッグ開けて中のボール使っちゃったんだよなー」
「オレ達とか言わないで! 勝手に開けたのはミキヒサ! 止めといたほうがいいって言ったのに……」
「でも結果バッグ開けんのやめてたらさ、おれ達こうしてトレーナーになってなかったよな、きっと」
「うん。え、じゃあ何? ぼくがこうしてトレーナーになってポケモンリーグ挑戦間近なのも全部ミキヒサのおかげ!?」
「ん……そういう事になるねー! はは、おれ様に感謝せいよコウイチ!」
「ははーっ、おありがとうございますっ! ……って何で!」

 どれだけ思い出を語り合っていたか分からないけど、しばらく経ったらもう話すことが無くなって
 二人で無言のまま、風が葉を揺らす音と波が岩を削る音に耳をくすぐられながら、月明かりに煌く湖面を見詰め合っていた。
 どれだけそうしていただろう。思い出を語り合っていた時間よりも長く、無言の空間が続いていたかもしれない。
 気が遠くなり時間も忘れそうなほどそんな時間が続いてたとき……ふとミキヒサがこう言った。

「あれ、なんだ?」

23: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:41:47
 湖の先を真っ直ぐ見つめ指をさしながら、不思議そうに首を傾けるミキヒサ。
 指をさした方向にぼくは目を凝らしてみる。……孤島のようなものが見える、気がする。
「あんなもん、あったか? あんな島この湖にあったかよ?」
「……なかった」

 ミキヒサと同じ違和感を胸に感じながら、ぼくはもう一つの違和感を見つけてしまう。
 湖の水かさが、いつもよりも大分減っているんだ。
 ぼくはその違和感を胸に蓄えることはせず、すぐにミキヒサに報告した。
「ねぇ、見て。水……水位がいつもより低いよ。気付かなかった?」
 ぼくの言葉にミキヒサは真下を見つめ水位を確認する。『そういえばそうだな』とでも言う風にミキヒサは眉をしかめる。
「これって、あれか。引き潮ってやつ?」
 真下を見つめながらポツリとそう一言を漏らすミキヒサ。
 引き潮。たしか学校で習った。ぼくはすぐに脳の奥からその単語の情報を引っ張り出し、頭の中でその情報を読み上げる。
 引き潮って確か、月の引力が何だかで海面の高さが低くなることだけど……
 ここは湖だ。引き潮なんてことはありえない。
 その事をぼくが言おうとして口を開きかけたとき、ミキヒサがそれを遮るようにこう言った。

「言ってみる? あの真ん中の……島」

 島を指差しながら、ニッと愉快げに微笑むミキヒサ。
 相変わらずの好奇心の強さに、ぼくは呆れそうになる。
 昔からこの変な好奇心に振り回されてみると絶対にロクな事が起こらない……
 そうは分かっているんだけれど、ぼくだって『突如湖に現れた謎の島』に対する好奇心が沸々と湧き上がってきている。
 ぼくは、力強く 「うん」 と一度だけ頷いた。

24:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:43:04
48のやつか

25: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:43:48
「こうやってこの湖の上で波乗りすんのってさ、始めてだよね」

 月明かりが反射し白いチューリップの花畑のように煌く湖面を、
 ぼくはラグラージに、ミキヒサはエンペルトに乗りながら、例の孤島へと向かっている。
 二匹が激しく水を掻き分ける音にかき消されそうになりながらも、ぼく達二人は会話を絶やさない。
「ま、そんな機会なんてなかったからな。しかしまー……」
 眉をしかめながら、ぼくのラグラージの顔を覗き込むミキヒサ。
「お前のそのラグラージってのさァ……ほんっとキモいよな」
「キモくない!」
「いや、キモいって。どこがってそりゃホラ顔とかー」
「キモくなーい! あ~~っ、ほら、ラグラージ泣きそうな顔になっちゃったじゃんかバカぁ!」
 そんないつも通り馬鹿らしい会話をしている内に、ぼく達は『謎の孤島』に着いていた。

 たぶん普段は湖の奥底に隠れているのであろうその謎の孤島には、奥深そうな洞窟が一つあるだけだった。
 小さい入り口から中が見えるけど、明かりの類は一切なさそうだ。
 ぼくが何となく不安を感じ躊躇っている傍ら、ミキヒサはその洞窟へと全く躊躇いなく入ろうとしている。
 ぼくはたまらずミキヒサに声をかけた。
「ちょ、ちょいまち、ミキヒサ!」
「なァ~~~~んだっつんだよぉ?」
 ぼくの呼び止めに、うっとうしそうな表情でこちらを振り向くミキヒサ。
「そこ、入るの? だいじょうぶ? ホントに?」
 ミキヒサはやれやれと言った風に大袈裟に手を高く挙げ、目を瞑り首を振りながらこんなことを言う。
「あ~~、入るに決まってんだろ! 入れそうな洞窟を見つけたら即入るっ! ボーケン者の心得だぜ~?
 まっ、コウイチくんがいかないっつーんなら、オレ一人でも行っちゃうけどねーーっ、と!」
 そう言い終わると、ミキヒサは未知の洞窟の中へとずかずかと入り込んでいく。
「もう……ミキヒサめ!」
 ぼくは好奇心と若干の不安を感じながら……ミキヒサの後をついて洞窟の中に入っていった。

26:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:46:24
やたらしっかりしてるな。

27: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:47:21
 予想通り暗い洞窟の中を、ミキヒサのサーナイトのフラッシュを頼りに進むぼく達。
 不思議なことは、やたらと広く深い割には野生のポケモンがいないことだ。
 洞窟の中では大体見かけるイシツブテやズバットすらも、全く出てくる気配が無い。

「こりゃあ……珍しいポケモンどころか、ポケモン自体いないかもな」

 床の小石を蹴飛ばしながら、心底つまらなそうにため息をつくミキヒサ。
「こんな広いのに、ポケモンがいないってのもおかしいけど……ホント何もなさそうだね」
 ぼくも、もう辺りをキョロキョロ見回すこともやめて、もはや『早く一番奥に着いてくれ』とまで願いつつ
 ひたすら道なりに歩を進めている。たぶんミキヒサだって同じだ。

 と、すっかり好奇心が消えうせていたぼく達の目前に、階段が見えてきたのだ。下りの階段だ。
「階段、だ……」
 小さく呟くミキヒサ。その顔に、ちょっとだけ好奇の色が戻ってきているようだった。
「階段っ! 階段だよミキヒサ! これってアレじゃあないの? この洞窟は自然に出来たものじゃなくて、
 作られたもの、つまり、実はなにかの遺跡……ということは……!」
「……いるかもな。『古代のポケモン』がっ!」
 すっかり入る前の好奇心を取り戻したように、ニワッと笑みを浮かべるミキヒサ。
 と、好奇心を取り戻したミキヒサはもう歩いていくのももどかしいらしく、ダッと走り出した。
「へへーーーんっ、オレが先に行っちゃうもんね!! 今度こそはオレが先を越してやるぜーーー!!」
「あ、ちょっと! 道暗いからあぶな……」
 ぼくの言葉を全く無視し、楽しげに叫びながら階段を一段飛ばしで降りていくミキヒサ。
 ミキヒサの声が洞窟中に反射しぼくの耳にガンガンと痛いほどに響く。
 ほどなくして、 「あでゃっ!! あでゃあでゃーーっ!!」 という情けない悲鳴と転げ落ちるようなド派手な音が響いてきた。
 フラッシュが無いから階段を踏み外して転げ落ちたんだろう。
「……はぁ。まったく、もう」
 ぼくは笑みの混じったため息をつきながら、キョロキョロと目を真ん丸くしてうろたえているサーナイトと共に落ち着いて階段を降りていった。

28: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:50:18
「あいててー……」
「大丈夫? ミキヒサ」
 階段の下で痛みに頭を押さえてるミキヒサに声をかける。
 ミキヒサは 「大丈夫」 というより前に、目の前の方向を指差して元気に叫び出した。
「それよりもさ、すごいぜっ。ポケモンはいねーけど、やっぱりここ何かの遺跡だったんだ! 見てみろってホラ、周り!」
 頭を押さえるのをサーナイトに任せながら、キャッキャとはしゃぐ事に努めるミキヒサ。
 ぼくは、ミキヒサの言う通りに辺りを見回した。

 上の階に比べると、この階はとても明るい。もしかしたらフラッシュもいらないかもしれないってくらいだ。
 壁や天井の姿もハッキリと確認できる。岩の隆起やその渕に生えている苔も、
 その岩面の至る所に刻まれている壁画らしき物も。
 そして取り分け目を引くのが、ほぼ部屋の中心の床に深く刻まれた、魔方陣のような紋様。
 均整の取れたその幾何学模様は、明らかに自然に出来た物ではないことを示している。

「あのさあのさ、もしかしてこの遺跡発見したのってさ、おれ達が一番なんじゃないの~~!?
 珍しいポケモンはいねーけど、こういうの見つけた人ってテレビ出たり金もらえたりするんだよな! なっ!」
 すっかり元気になったのか、ミキヒサはもう立ち上がりニコニコしている。(サーナイトは未だミキヒサの頭を押さえているけど)
「へへへーっ、もしかしたらお宝なんかもあったりしてっ! 金の玉とかがっぽがっぽにあったりしてェっ!!
 うっひゃァーーーあっ、元から金持ちなコウイチくんはいいにしても、これでオレ億万長者!? すっげーーーぇっ!!」
 そんなことを叫びながら、興奮して部屋の中心に向かって走り出すミキヒサ。
「ちょ、また走り出すー! 転んだら危ないよー?」
 年下に聞かせるような注意をしながら、ぼくもミキヒサの後ろをついていく。
 二人揃って部屋の中心の紋様の上に立った時……異変が、起きた。


『勇者よ』

29:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:51:12 oBORrnkn
このスレは伸びる

30:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:53:26
いや伸びない

31: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:53:28
「? ……なんか言った?」
「いや、何も。ミキヒサこそ、何か言ったでしょ」
「いや、なにも」

 どこからか、確かに聞こえてきた謎の声。
 空耳なんかじゃあない。空耳とか聞き間違いとか言う割には随分とハッキリ聞こえたし、
 何より、ミキヒサもその声が聞こえたみたいだし。
 二人して周辺をキョロキョロ見回していると、もう一つの異変…… 今度は、ハッキリと分かる異変が起きた。

 ポン!

「わっ!?」
 突如、ベルトにかけてあったモンスターボールが勝手に開きポケモンが出てきてしまったのだ。
 ミキヒサも同じく、勝手にポケモンが出てきてしまっている。

 ポン!ポン!ポン!

 一つ一つ、そして全てのモンスターボールが勝手に弾け、ぼくらのポケモンが出てきてしまった。


32: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:55:13
 ぼくのポケモン。
 フライゴン、ラグラージ、バシャーモ、ジュカイン、レディアン、ユキメノコ……

 ミキヒサのポケモン。
 エンペルト、バクフーン、キレイハナ、ボスゴドラ、パチリス……

 ぼくとミキヒサの合わせて(既に場に出ていたミキヒサのサーナイトも合わせ)
 十二体のポケモンがその場に出される。
 何というか、急に場が賑やかになってしまった。

「な、ななな、なんだよコレは!? もも、戻れっ、みんな!!」
 ミキヒサはポケモンを戻そうと、ボールを拾い上げポケモンに向かい翳す。
 ……
 ……何も起こらない。
 モンスターボールをポケモンにかざすと、ボールが反応し自動的に開きポケモンを吸い込んでいくはずだ。
 しかし、ボールが開く気配は無い。重油を流し込んだかのような空しい沈黙が流れていくだけだ。

「な、なんだっつんだよぉ……一体……」

33:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:56:45
おいつまんねえぞ

34: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 19:58:08
 首をかしげ、異様な雰囲気にざわめくポケモン達。
 ぼく達も一緒になって首をかしげる。
 そんなぼく達に、また……あの、声が。

『よく来ました、勇者達。さぁ、その紋様の上を絶対に離れないで下さい』

「……!!」
 今度は、よりハッキリと聞こえた。
 ゲームやら漫画やらでよく聞くような台詞。
 耳元で囁かれているように、その言葉はハッキリとぼく達の耳に入ってきたんだ。

「なんだ……っつんだよぉ……!」
 ミキヒサの顔が徐々に青ざめ、恐怖の色に染まっていく。
 ぼくでさえあまり見たことの無い、ミキヒサの『怯えた顔』。
「なんか……怖いよ、コウイチ! ここ、怖い!! コウイチ、みんな、出よう、帰ろう!!」
 声を震わせ、上ずらせ、怯えた表情でミキヒサは出口へと走っていく。
「ま、待ってよ!」
 ぼくも、ミキヒサの後を追う。
 ぼくだって、怖い。連続して起こる怪現象に心底怯えている。
 そりゃそうだ当然だ、到底考えもつかないような予測外の出来事が、
 それもこんな誰も来たことないような暗い洞窟の地下でいきなり起こって怯えないヤツがいるか?
 もしいたとして、そんな強心臓のヤツとぼくを比べないでほしいな。ぼくはまだ12歳の子供なんだぞ。

「うぴゃ!!」

35:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 19:59:05
後から盛り上がった気がする

36: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:00:23
「!!」

 外へ出ようと階段を上がろうとしたミキヒサが、突如何かにぶつかったように後ろに倒れた。
 いや、実際『見えない何か』にぶつかったのかもしれない。そう、『見えない何か』……
 倒れたミキヒサへ、サーナイトが駆けつける。
 ミキヒサは赤くなった鼻を押さえながら起き上がり……悲鳴を上げた。

「ひいいいいい!!!!」

 声が裏返り、虫の金切り声のようになったミキヒサの叫び声に、サーナイトが、いや、辺りにいる全員……
 もちろん、ぼくも含めてビクリと震え上がる。
 こういった現象に(多分だけれど)鈍感であるはずのポケモン達も、
 ジュカインやユキメノコなど肝っ玉の太い種を除きほとんど全員がブルブルと身を震わせ怯えている。
「グギュ……グギュウ……」
 助けを求めるようにこちらを見つめ、ぼくの手をぎゅっと握ってくるフライゴン。
 ぼくに彼を落ち着かせるほどの心の余裕は全く無い。
 人間である、しかも子供のぼくは、一刻も早くここから消えたいと願うほど怯えていた。

 次の瞬間、『三つ目の異変』が起きた。

37:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:01:15
ネイティオ様まだー?

38: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:01:49
 『三つ目の異変』は、今までの異変とは全く別次元の物だった。
 いや……『異変』? 『異変』なんて言葉でくくれるものじゃあ、到底ない……

「ギュッ!?」
 その現象に最初に気付いたのはフライゴンだった。
 フライゴンは怯えたようにぼくの手を強く握り締める。そしてほどなくしてぼくもその現象に気付いた。

 ……見間違いじゃない。

 ……部屋の隅から、部屋の四方から『闇』が漏れ出こちらに迫ってきている。
 何も見えない、闇。いや、言うなら『無』?
 ともかくそれが、流れ出る水が染み込み地を薄く染めるように、どんどん辺りを侵食していくんだ。

「な……なんなんだよ、なんだっつぅんだよぉ!! ぎゃああああ!!!」

 徐々に染み込んでくる『無』の闇に飲まれそうになるミキヒサ。
 ミキヒサはぼく達がいる魔方陣の元へ帰ろうと立ち上がろうとするけど……
 恐らく腰が抜けているんだ。 怯えた顔のままなかなか動けずにいる。
 そして……

「う、うわぁっ! た、助けて……助けてくれェっ!!」

「ミキヒサ!」

39: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:03:20
 迫り来る『無』に、ミキヒサが……サーナイトが飲み込まれていく。
 足から腰へ、腰から胴体へ胴体から頭へ……どんどん飲み込まれ『消えていく』。
 ミキヒサはただ叫んでいるけど、ぼくも叫ぶ事しか出来ない。

「プチチュ!!」
「バーーク!!」
「あっ」
 見兼ねたミキヒサのパチリスとバクフーンが、ぼくらのいる魔法陣から飛び出した。
 今まさに完全に飲み込まれようとしているミキヒサの元へ走り寄っていく。
「お、お前達! た、助けて……!」
 ミキヒサとサーナイトが手を伸ばし、パチリスとバクフーンはすかさずそれを掴み助けようと腕を引っ張る。
 ……しかし、二匹がいくら力を入れ引っ張ろうとミキヒサとサーナイトは本当にビクともしない。
 まるでパチリスとバクフーンは一切力を入れていないかのようにすら見える。
 そうしている内に、ミキヒサの伸ばす腕までも飲み込まれていき、やがてはパチリスとバクフーンまでも……
「パチリス、バクフーン! い、一旦離れて! きみたちも……!」
 ぼくが咄嗟にそう叫ぶも、いわば時はすでに遅し、二匹は自らの腕も既に飲み込まれ始めていた。
 今度は二匹は自分の腕を無から引き離すように、全力で腕を引っ張り、重心を後ろにかけている。
 しかしその抵抗も空しく、パチリスとバクフーンまでも完全に飲み込まれ消えてしまった。
 二匹が無に飲み込まれた瞬間、ぼくは完全に腰が抜け、糸が切れたようにその場にへたり込んでしまった。

『さぁ、みなさん手を取り合って……』
 無の侵食の中、またあの声が聞こえてきた。ポケモン達もぼくも全員が体をブルリと震えさせる。
 無の侵食は止まらない。やがて無の満ち潮は、ぼくらの立つ紋様の孤島さえも飲み込んでいった。
『よく来てくれました、勇者達よ』

 正体不明のあの声を聞きながら、 ぼく達は全員……一人一匹残らず無の海に飲み込まれなくなっていった。

40:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:06:29


41: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:06:52
 飛んだ。

 飛んだ意識の先は、まっくらやみの中だった。

 何も見えない。
 何か変な例えだけれど、墨汁の海に顔を突っ込んだかのようだ。
 ただただ眼前には黒い風景が広がるのみ。
 でも、『聞こえる物』はある。

 これは……

 風に揺れた葉が、他の葉っぱ達と擦れ合う音?
 風に散れた砂が床を転がり、色々な物にぶつかる音?
 風に押された水が岩にぶつかる音?

 そこまで頭が整理されてから、やっとぼくはこの事実に気付いた。


 『ぼくは目を閉じている』。
 『いまから目を開く事が出来る』。

42: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:08:15
 ぼくは、心の中でカウントダウンを始めた。

 3・2・1だ。3・2・1の……1の次に!
 そうっ、『0』の瞬間に目を開けよう。
 OK、ぼく? うん、OKだよ、ぼくっ!!
 よし、行くぞぼくっ。行けっ! 行っちゃれェっ!

 3…

 2…

 1…

 ……ん~~っ!

 0っ!!


 ぼくの目に入ってきた風景は、空だった。 それも、吸い込まれそうなほど綺麗な青空だ。
 起き上がり辺りを見回してみる。若草色の芝生の絨毯、まちまちと生えている木々、そして大きな湖が見える。
 湖……じゃあここは……シンシ湖のほとり?


 いや。全然……シンシ湖じゃない。 まったく、見覚えが無い。

43: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:11:29
「あっ、フライゴン!」

 ぼくは、隣にフライゴンが倒れている事に気付いた。
 緑色の大きい体を横たわらせ、苦しそうに呻いている。
 ぼくは頭の整理をするよりも先に、倒れているフライゴンの元へ近づいた。

「だいじょうぶっ? フライゴン、だいじょうぶかっ!?」

 フライゴンの肉感的な体を叩くと、ぺちぺちとみずみずしい音が鳴る。
 一度叩くたびに、一度鳴らす度に、フライゴンが呻き体を震わせていく。
 何度目かの時、ついにフライゴンは目を覚まし起き上がった。
 首を持ち上げ、かわいらしい赤い寝ぼけ眼をこちらに向ける。
「あ……おはようございますコウイチくん。その……ここ、どこですか?」
 小さい口を大きく開けてあくびをしながら、キョロキョロと辺りを見回すフライゴン。
 彼も、ぼくと同じ疑問を持っているようだ。

「フライゴンっ! よかった、もう目を覚まさないかと思った……!」
 ぼくはフライゴンの質問に答えるよりも早く―そもそも答えなんてぼくが知りたいくらいだし―
 まずは無事を確かめ合うように、フライゴンの首をひしと抱きしめた。
 うっとうしそうに首をぶるんと振ろうとするのを感じ取り、ぼくは慌てて腕を離す。
「あっ、ごめん。……フライゴン? 体に怪我とかない?」
「ん……だいじょうぶですよっ。それよりもここ、どこかなぁ? シンシ湖じゃ……ないですよね」
「うん。そうみたい……リッチ湖でもエイジ湖でもないみたいだし……ん?」
 ふと、ぼくの胸の内に一つの違和感が生じる。

44:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:12:08
小説スレの48氏だな!? 待ってたぜ!

45:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:13:05
ん?

46: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:14:48
「ねぇ、フライゴン」
「なんですかー?」
 フライゴンが不思議そうに首をかしげる。
 いや、ちょっと待て。首をかしげたいのはぼくだ。
 ふと生じた違和感は、整理がついてきた頭の中でどんどん肥大化していって……

「しゃべ」

「はい?」

 フライゴンのその『一言』……
 「はい?」 というその『一言』を聞いた時……

 そう、その『一言』だ。その『一言』がおかしいんだ。

 『一言』……

 『違和感』が、ぼくの頭の中で爆発した。


 ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 


「しゃっ、しゃべーーーーっ!!? しゃべ、しゃべ、しゃべってええェェーーーるうゥーーーーっ!!?」

「え……あれ、なんでぼくコウイチくんと普通にしゃべ……しゃべーーーーーーっ!!??」

47: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:16:16
 ポケモンがしゃべった!

 ありえないことだ。
 人間の言葉をしゃべるポケモンなんて聞いたことがないし、
 せいぜい妄想の中や夢の中に出てきたってくらいだ。
 毎週何曜日かにやってるアニメでは、なんか人間の言葉をしゃべくるニャースがいるけれど、
 あんなことはアニメの中だけだからであって、ジッサイにはありえない。
 人間の言葉なんて勉強しなきゃしゃべれないし、まず勉強できる知能がないといけないし……
 ともかく、ありえない。ありえないっ。

 人間の言葉をしゃべれるのは人間だけだっ!

 なのに、目の前のこのフライゴンは……少し前までは言葉なんてしゃべらなかったこのフライゴンは、
 今まさに人間の言葉を臆面も無くしゃべっている。
 これは、つまり……
 つまり……


「「夢だね」」

48: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:17:40
 ぼくと、フライゴンの発言が完全に一致した瞬間だった。

 思わずぼく達は顔を見合わせ、プッと笑い出す。
「……あははは!」
「……あっはははー!」
 まるで友達同士のように明るく笑いあうぼくとフライゴン。
 あっはっはーーと笑い続けていると、ふとぼくはある事を思い出した。
「……ミキヒサは?」
 ぼくは重大な事を思い出していなかった。

 そうだ。
 そういえば、ぼくはミキヒサと一緒に行ったあの洞窟で『無』に飲み込まれてそれで……
 
 そこまで思い出してから、フライゴン以外のぼくのポケモンがいない事に気付く。
 ミキヒサもいないし、もちろんそのポケモン達もいない。
 無論モンスターボールもない。未使用のモンスターボールはポケットの中に入っているけども……

「ミ……ミキヒサは!? 他のぼくのポケモン達はっ!? 
 ラグラージは!? レディアンは!? バシャーモは!? ジュカインは!? メノコは!?」
「どうでもいいと思いますよー、どうせこれ夢ですしねー」
「あっ、そっか」
 フライゴンの突っ込みに一瞬にしてぼくのシリアス思考は終了した。
 そうだ、夢だ。夢なんだ。夢なんだから誰がいないとか何とか、んなこと関係ないよね。

 でも、これが夢なら……もし夢だとしたら……覚めたらぼく達はどうなっているんだ?
 『現実のぼくは、今どこにいてどんな状況になっているんだ』?

 恐ろしい考えが始まろうとしていたその時……新たな音と声が同時に聞こえてきた。

49:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:18:59
やたら本格的だな

50: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:20:49
 おそらく羽ばたき。鳥が翼をはためかせる音……そして、声。

「おおっ、あれってまさか……まさかっ!! 人間かっ!?」
「に……ににに、人間だぜっ!! しかも、たぶんその隣にいるのは竜……
 竜!? 12竜騎士の一人か……!?」

「?」
 ぼくとフライゴンは、同時にその音と声の元へ視線を向ける。
 そこには、二羽の鳥ポケモンがいた。
 あの茶色い毛と赤いとさか、そしてドリルのように鋭く尖った嘴をもつあのポケモンは……・たぶんオニドリルだ。
「コウイチくんっ! ポケモンがいます……しかも、あいつらも言葉しゃべってますよっ!」
「そうだね……!」
 咄嗟に立ち上がり、戦闘態勢を取るフライゴン。
 その様子を見た二羽のオニドリルは、また何やらしゃべりはじめた。

「やる気だぜ、あの竜騎士。くっくく、やってやろうぜっ、やってやろうぜェーーっ、オイ!!」
「おぉっ!! 手柄とって俺達も飛鳥3幹部に昇進!! いや、俺達が入ったら五幹部か? うひゃーーっ!」
「夢湧き上がるぜベイベッ!! よっしゃーー、行くぜ兄弟っ! 飛鳥部隊の名の下に!!」
「ワクワクドキドキだぜバッボイベッ!! いくぜっ、飛鳥部隊のォーーー、ん名の下にぃっ!!」

 何だかゴチャゴチャ叫んでたと思うと、二羽のオニドリルは突如ぼく達に向けて急接近してきた。
 何を叫んでたのかそういうのは一切分からないけど、とりあえず確かなのは、あのオニドリルは『やる気』だってことだ。

「フライゴン! なんだか知らないけど、ぼく達いまから襲われるみたいだ……迎え撃つよ、フライゴン!!」

「はいっ!!」

51: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:22:57
「覚悟はいいかい人間チャンっ!!」
「食い荒らしちまうぜ竜騎士クンっ!!」

 二羽のオニドリルは、まるでドリルそのもののようにフライゴン目掛けて凄まじいスピードで接近してくる。
 ぼくは冷静に、いつものバトルのようにフライゴンに攻撃の命令を与えた。
「フライゴン、砂かけっ! あいつらの目にビシッと砂かけるんだっ!」
「はいっ!」
 フライゴンは大きい尻尾を床に叩きつけ、砂しぶきを二羽のオニドリルに浴びせかけた。
「みゃぐ!」
「ぎゃー! 目がー!!」
 砂のツブテが思い切り目を抉り苦しみながらも、なおオニドリルは速度を落とさず、接近をやめようとしない。
 意表をつかれたぼくは、フライゴンへ次の命令を出すのが遅れる。
 だけど、ぼくの命令を聞かずともフライゴンは次の動作を起こしていた。
「ふんっ!!」
 砂かけの時に振った尻尾を、フライゴンはそのまま勢いをつけて振るったんだ。
「あ」
「あ」
 図太いしっぽの一撃が、さながらバッティングのように猛スピードで迫ってくるオニドリルを捕らえた。
「「うぎゃあーーー!」」
 モロに尻尾の攻撃を受けた二羽のオニドリルは後方に吹っ飛んでいき、パタリと空しく床に落ちる。
 フライゴンは二羽のオニドリルが力尽きる様を見据え、顔を満足気に染めながらこちらを見つめた。

「余裕勝ち、だよっ!! コウイチくんっ!!」
「……えーーいっ、よくやったフライゴーンっ!!」

 ポケモンの襲撃を難なく撃退したフライゴンに、いつものように抱擁して喜びを分かち合う。
 言葉が通じるおかげか、いつもより数倍も喜びを分かち合えてる気がした。

52: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:24:15
「強すぎ……ですっ!」
「ダメだこりゃっ……!」

 と、オニドリルがよろよろとその身を起こしかけているのがぼくとフライゴンの目に入る。
 まだ戦う気なのか?それとも……

「まだやる気なのかっ!」
 フライゴンが再び戦いの構えをとると、二羽のオニドリルは目を真ん丸くして同時にブルリと振るえ、
 降参といった風に、同時に両手(というか両翼)を高く挙げた。
「いやいや、私達の負けですけどもっ!」
「もうこれ以上危害加えないで……そして、一時てったーーーいっ!!」
 二匹のオニドリルはバッ!と大きく跳躍したと思うと、翼をはためかせ高く舞い上がった。
「「あっ!」」
 慌てて二人で見上げると、二羽のオニドリルは勝ち誇った顔でこちらを見下ろしながらこんな事を言い出した。

「お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!」
「魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!! はははーー!!」

「魔王……竜騎士?」
「……あっ、逃げますよっ!」
 バサバサと弱弱しく羽ばたきながら、オニドリルが逃げていく。
 ぼく達はそれを追うよりも、急な出来事だらけでごちゃごちゃになり過ぎている頭の中を整理する事に努めた。

53:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:25:49
支援してみる。

54: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:27:14
「魔王……ですって。あの、その……ギャグですかねぇ?」

 苦笑いを作りながら、そうぼくに尋ねるフライゴン。
 魔王……竜騎士……やたらとファンタジックでレトロー、的な語感に笑いがこみ上げてくる。
「知らないよ。ま、夢だから仕方ないよ」
 ぼくも、馬鹿馬鹿しいといった風に肩をすくめ、半笑いを浮かべながらため息をついた。
「そうですね! あっはは!」
「あーっははーっ!!」
 再びほのぼのと笑い合うぼくとフライゴン。
 何かを誤魔化すように、遠まわしにするように、笑う事に『必死に』夢中になるぼく達。
 しかしずっと笑い続けられるはずもなく、すぐに息がきれてどちらともなく笑い合うのが止まってしまった。

「とりあえずさっ」
 気まずい沈黙が流れる前にまずしゃべっておく。
「歩こうか。歩いて色んなところに行こうよ! せっかく楽しそうな夢なんだし、楽しまなきゃ損っ!」
「ですねっ、夢とはいえせっかくコウイチくんと話せるようになったんだもの……楽しまなきゃ損っ!」
「そうっ! せっかく話せるようになったんだ……いっぱいいっぱい話し合おうねっ!」
「ね~~っ!」

 ぼく達は明るく話し合い、笑い合いながら、歩き始めた。
 右も左も分からぬ、一つも知った風景の無い、『夢』の世界の中を。
 あてもなく、ただ夢が覚めるであろうその時に向かって。

55: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:31:04
 ……いまだ見つからない後五匹のぼくのポケモンの行方。
 そしてミキヒサとそのポケモン達の行方。
 オニドリルの残した、まるで馬鹿馬鹿しい言葉。魔王、竜騎士……
 そして、何よりポケモンがしゃべっているという事実。

 わからないことが多すぎる。馬鹿馬鹿しいくらいに多い。
 多すぎるがために、ぼく達二人は話の節々で『これは夢だ』と確認するなどして、必死にこの事を夢と信じようとしていた。

 ……夢では、『視覚』や『聴覚』……『嗅覚』『味覚』、そして『触角』……
 五感が機能する事はない。機能するのは、『意識』のみ。『意識』によって作られた『架空の五感』のみだ。

 例えば、夢の中で感じる味覚は、普段頭の中で『味を予想した時の味』。
 夢の中で感じる触角は、普段頭の中で『感触を予想したときの感触』。
 幻覚……幻痛……幻聴……
 『夢の中で感じる感覚』は、ほぼ全てコレだ。

 さて、夢を夢と認識している状態で……
 『架空の五感』と『本当の五感』の区別がつかないなんてことがあるだろうか?
 そんな事は(多分だけれど)ないはずだ。
 例えば『頬でもつねってみれば』……その痛みが『本物』か『架空』か。
 つまりこれが『現実』か『夢』か。そんなことは一瞬で分かるはずだ。

 だけど、ぼく達はそれを出来ないでいた。

 なぜか? 夢でないことを恐れて? それともその逆?

 ……それすらも、ぼく達はまだ分からなかった。

56: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:35:43
ここで一旦止め。また明日投下します。
支援してくれた人ありがとねー

57:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:36:39
ネイティオ様はまだお預けか

58:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:42:13
一応続きに期待。

59:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:10:14 2ugIvESU


60:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:28:18
この手のスレ乱立しすぎ
いい加減に一つに纏めろ、何かあるたびにわざわざ立てるんじゃねえボケカス

61:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:32:43
まぁ、もちつけよ

62:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:34:56
時期が悪かったな>>1
でもまあ期待はできるクオリティ。

63:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 22:06:32
応援してます、こんなことしか言えませんが頑張ってください。

64:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 22:06:42
うむ>>1が戻ってきたか
応援してるぞ、ちなみにお前が前回書いた最後の分まで残ってるから気にするな

65:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 23:11:58
やっぱ導入部はあんま盛り上がらんな

66:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 00:59:30
ミキヒサくん死んだ?

67:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 09:26:43 D96G0JI3
あげ

68:1 ◆8z/U87HgHc
07/11/28 12:39:20
今日の3時半と6時に投下します。

69:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 14:34:25
期待

70:1 ◆8z/U87HgHc
07/11/28 15:59:07
一人で投下していると途中で規制かかるので、
もしリアルタイムで見てくれてる人がいたら、
なんか合間に書き込みでもしてくれると、助かるし励みになります。

71:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:03:10
きたか

72:1/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:04:07
 何十分経ったか、すこしおなかが鳴り始める時間、
 夢の世界を渡り歩いているとフライゴンが前方に何かを発見したようだ

「あっ! あれ……村ですかね?」
「そう……みたいだね」

 風景の奥に、家屋の集まりが見える。
 『夢の中とはいえ』誰か他の人が住んでいるようだ。
 ……人?人が住んでいるのかな。それとも、まさかポケモンが……
「ねぇ、行ってみますかー?」
 ぼくが考え込んでると、好奇心を多分に含ませた口調でフライゴンがそう言ってくる。
 ぼくも空いてきたおなかをさすりながら、明るく返事を返した。
「行ってみよっか! 実はね……ぼく、さっきからおなかすいてて。
 村の人に何か食べさせてもらおうよ!」
「そうですねっ、実はボクも……あれ?」
 ふとフライゴンは大きく首をかしげる。
 かしげたと思ったら、続けてこんなことを言ってきた。
「『夢の中』なのに……おなかって空くんですか?」
「は?」
 数秒―ぼくとフライゴンの間で時間が固まったような気がした。
 予期せぬ時間凍結を、それを引き起こしたフライゴンが慌てて溶かす。
「あ、あの、空きますよね。おなか。ボ、ボクだって夢の中で空いたことありますし。
 は、ははーっ! ごーめんなさいねー、変なこと言っちゃいましてーーはははーー……」
「そ、そうだよねっ! なに時間止まってるんだよぼくらって感じ! ははーーっ!」
 本日何度目か分からない中身の無い笑い合いを続けながら、 ぼく達は目の前の『村』へと向かった。


第一話 「壁」

73:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:05:06
        

74:2/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:05:35
 その村が人の村かポケモンの村か……
 それは、その村へ足を踏み入れた瞬間に判明した。

「フライゴン……」
「はい。やっぱりここは『ポケモンの村』……それもここは、タネボーやハスボーの村みたいですね」
 多数のタネボーやハスボー……コノハナやハスブレロが、村に入ってきたぼく達を見てざわめいている。
 ざわめきの隙間から聞こえる『言葉』。このタネボー達も例外はなくみな言葉をしゃべれるようだった。
 だけどぼく達はこれは夢だからと、周りのタネボーの事は気にせず村を歩く。

 ……しかしまー、こうもヒソヒソヒソヒソうっとうしくざわめかれると、
 まるでぼく達がいけない事でもしているみたいじゃあないか。
 ぼく達がそんな珍しいか? いや、ここは『ポケモンの世界』……もしかして珍しいのは『ぼく』……

 それにしても、この村。
 そこらにある家は、ぼくらの世界のものとほぼ変わりない。
 扉はあるしノブもある。窓だってあるしたまに二階建てらしき家があったりもする。
 木製の展望台なんかもあるし、たまに何かの看板が立っていたりもする。(しかもキチンと読める字だ。『花踏まないで』と書いてある)
 これが夢だといったらそれでお仕舞いだけど……いや、それどころかますます
 『これが夢』だという事の信憑性が深まってきたような気すらする。

 そんな事を考えながら何処か気まずい雰囲気の村観光を続けていると……
 突然……いや、やっとと言うべきか、一匹のコノハナがぼくに話しかけてきた。

「あの……もしや、もし、もしや、ですけど、あなた……人間、ですか?」

75:3/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:08:46
 バイザーのような文様の中の目をパチクリさせながら、ぼくにそう言うコノハナ。
 その目つきは、まるで色違いポケモンを見つけたトレーナーのような驚愕と猜疑心に満ちた目つきだ。
「うん、そうだよ。ぼく人間だけど……それがどうかしたの?」
 ぼくがそう答えると、コノハナの目が更に大きくかっ開かれた。
 いや、目をかっ開いたのは眼前のコノハナだけじゃない。周辺にいたポケモン全員が、驚きに目を見開いた。
 ざわめきが二倍に増え、さらには「えっ!?」と大声を上げるヤツも出だす。
 ……なんだ、なんだよ。随分と大袈裟なリアクションとるなあ。
「……どうかしたの? ええと、んー……ぼくがそんな珍しいかなあ?」
 自分を指差しながらそう言ってみた。後から苦笑いも付け加えてみる。

「めめめめ、珍しいどころの騒ぎじゃありませんよっ!!」

「いっ!?」
 コノハナが思い切りこちらにつっかかってきて大声を上げだすので、思わずビックリして身を引いてしまう。
 と、コノハナはどうやら興奮して無意識に叫んだみたいで、コホンと一度咳払いをすると、
 今度はそれなりに冷静な風な口調で(それでも結構ムリしてるような感じだけど)こう言った。
「あの……こちらへ。『村長』の元へ案内します。……ついてきてください、『人間様』」
 コノハナはそう言うと、少し緊張した風な堅い動きで歩き出した。
「……人間『サマ』?」
 コノハナの発言の節に少し引っかかりながら、ぼく達はコノハナについていき『村長』の家へと向かった。

 コノハナに連れられて村長の家へ入ると、
 家の奥にボサボサの白い髭を生やしたハスブレロが……たぶん『村長』さんが椅子に座り眠っているのがまず目に入った。
 コノハナは眠っているハスブレロ村長に駆け寄り、起こそうとゆさゆさと揺さぶり始める。
「村長っ! 起きてくださいよ。人間が……人間様がっ!」
 コノハナがそう叫ぶとハスブレロはやっとそのしわくちゃの瞼を開き、身を起こした。
 半開きの目がぼくに向けられた瞬間、彼の目が豆鉄砲でも撃たれたかのように大きく開いた。
 ハスブレロ村長は椅子から苦しそうに立ち上がると、ぺたぺたとこちらに走り寄ってきた。

76:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:10:32
   

77:4/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:12:41
「これはこれは! これはこれはこれは……これはこれは!!」

 ハスブレロ村長さんは怖いくらいに目を見開いてぼくをじいっと見つめだす。
 そして見た目に似合わず大きく陽気に笑い出すと、気さくな口調でこう言った。
「ひょっひょ! ようこそいらっしゃいました『人間様』! ささっ、さささっ、椅子へお座りください」
 老体を思わせない機敏さで二つ椅子を持ってきて、ぼくたちに座るよう促すハスブレロ村長。
 戸惑った顔でフライゴンと目を見合わせながら、ぼく達は椅子に腰をかけた。
「ほれ、そこのコノハナ。わしの椅子も持ってこんかい」
「あ、はい」
 コノハナが先程までハスブレロ村長の座っていた椅子を持ってくる。
 村長は深く息を吐きながらその椅子に座ると、身を乗り出してぼくにこう聞いてきた。
「ようこそ人間様! 数十年に一度の偶然が、まさかわしが生きてるうちにまた起こってくれるるとはの……ひょひょ。
 さて、人間様。どこからここへいらしたのかな? 目的は?」
「えっ? えぇ~~っと……」
 さっそく返答に困るぼく。フライゴンに目配せすると、フライゴンも困ったような目つきで見つめ返してきた。
 ……どこから何のためにって言われても、ねえ。
「……あ、分からないのならいいのですじゃ。すまなかったの。ひょひょ」
 ぼくが返答に困っている事を察したハスブレロ村長は咄嗟にそうフォローを入れた。
 と、いきなり聞く事がなくなったのか村長はまた無言でぼくをじいっと見つめ出す。
「あのう……村長さん」
「はっ、なんですじゃ?」
 ぼくは先程からずっと胸の奥でモヤモヤしてる『疑問』を、投げかけてみた。
「何で人間『サマ』って言うんですか? 『サマ』って……何ていうかですけど、人間って偉いんですか?」
「ひょっ」
 ぼくの問いかけにハスブレロ村長は一瞬固まり、少し間をおいてこう言った。


「もちろんですじゃ。人間様はいわば……わしら『モンスター』にとっては『神』なのじゃから」

「『神』!?」

78:5/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:15:44
「言い伝えにはこうある。何百年前だったか遥か昔……人間の集団がこの世界に現れた。
 そして人間達はわしらモンスターに言葉を伝え……技術を伝え……文化を伝えたと。
 つまり今のわしらがあるのは、ほぼ人間様のお陰と言っていいのじゃ」

「へぇ~~~……」
 ハスブレロ村長の語りに、思わず感心したように頷いてしまう。
 これが『夢だ』ってことも少し忘れかけてきちゃったり……
「人間様には返しても返しきれぬ大恩がある。人間様は『絶対歓迎』なのじゃ。
 以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある……
 その時は、それはもう盛大に歓迎したものじゃ……」
 上を向いて物憂げに目を瞑りながら、たぶん若き日の思い出を辿り出すハスブレロ村長。
 前来た時も盛大に歓迎したって事は、ぼく達もこれから歓迎、されるのか……?
 隙間侘しいおなかをさすりながらそう考えると、少しだけぼくの胸が期待に躍る。

「ねぇ、フライゴン。ぼく達これから歓迎されるみたいだよ」
 隣のフライゴンに視線を移す。
 と、フライゴンは何かを考えるように、小さい手を顎に添えながら下を向いている。
「どしたの? フライゴン」
 そう言ってフライゴンの顔を覗き込もうとすると、フライゴンはすぐに顔を上げこちらを向いた。
「いや……何となくですね。辻妻が合うというか、何というか……でして」
「えっ?」
 フライゴンは何か意味ありげなことを言い出した。

「ずっと前からボク、不思議に思ってたことがあったんですよ」

79:6/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:18:32
「ボク達ポケモンって……あの、本当にみんな『人間が大好きなんです』。
 物心ついたときから……たぶん生まれた時から、どのポケモンもみんな人間が好きで。
 ボクがまだナックラーで野生だった頃、ボクの友達はみんな人間が大好きでした。
 仲間内で話すことといえばホント、人間の事ばっかりで……人間にゲットされた友達を本気で羨ましがってました」
「へぇ~~~~~ぇ……」
 ポケモンの本とか、旅の途中であった足跡博士なんかから『人間を嫌いなポケモンなんかいない』って話をよく聞いてたけど……
 ポケモン自身が言ってるんなら、本当にそれは間違いない事だったのかな。
 そう感心すると共に、少しばかり優越感が胸を浸す。
 そして、フライゴンの話はまだ続く。
「ボク達が人間に飛び掛るのってあれ、捕まえて欲しいからなんですよね。
 ボクがあの日あの時コウイチくんに飛び掛ったのも……その、コウイチくんに捕まえてほしかったからなんですよ?」
 いつだったか、砂嵐吹き荒れる地帯の草むらを歩いていたとき、
 一匹のナックラーがぼくに飛び掛ってきた……あの日の思い出が、ふと蘇る。
「で、なんですけどねっ」
 そう言うと共に、フライゴンはどこでそんな仕草を覚えたのか、短い人差し指をピッと立て手をこちらに突き出す。
 ここからが本題みたいだ。

「何で、ボク達って人間が好きなのかなあって……生まれた時から人間が好きなんです。おかしいですよね? これ。
 で、なんかそれが……今の村長さんが言ってた事と何か関係あったりしてー、とか思っちゃいまして……ってワケなんですけど」
「……」
 ぼくは考える。
 人間を神と崇め絶対歓迎するというこのポケモンの世界と……
 生まれた瞬間から人間を好きだというぼく達の世界のポケモン。
 まだ果てしなく、ホントに果てしなく『何となく』ではあるけれど、どこか深い関係があるような気がしてしまう。
 これは『夢』だって言うのに……

「ところで~」
ハスブレロ村長が不意に話しかけてきた。

80:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:19:37
支援

81:7/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:21:51
「あっ、はいっ!?」
 フライゴンと話し込んですっかりハスブレロ村長の存在を忘れてしまっていたので、随分上ずった声で返事してしまう。
 村長は少しだけ眉をしかめたが、すぐに柔和そうな表情に戻った。

「きみ達まだここへ来て日が浅いようじゃな。なにか~~、質問とかあるかの? 何でも答えてやりますぞ」
 身を乗り出しそう問いかける村長。
「質問……」
 何か聞きたいことはないかと記憶を辿ると、すぐにあのオニドリル達の発した言葉へと行き着いた。

“お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!”
“魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!!はははーー!!”

 ぼくとフライゴンは顔を見合わせ、ほぼ同時に全く同じ質問を村長へ投げかけた。

「「魔王とか竜騎士ってなんですか?」」

 あまりに全てが一致してしまったので、またぼくとフライゴンは顔を見合わせる。
 フライゴンはぼくと同じく驚いたように目を見開き、口を半笑いの形に歪めていた。
「ふむ、やはりそう来たか……順を追って説明せねばな」
 ハスブレロ村長は長く深呼吸する。結構長い話になるみたいだ。
 ぼくも釣られて、思わずゴクリと息を飲んでしまう。
 ハスブレロ村長はあらかた深呼吸し終えると、じっとぼくを見据えて話し始めた。

82:8/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:24:01
「この世界には、わしら以外にも多数の種類のモンスターがおる。
 しかし、ほとんどは『その種族はその種族ごとに』……
 エスパーならエスパーと、ゴーストならゴーストと、キチンと住み分けておるのじゃ。
 違った種族同士が共存している場所など、あまりありはしない。
 しかし、『魔王』が率いる『魔王軍』だけは違う……
 この世界からあまねく集められた多種の種類のモンスターが、『魔王軍』という一つの軍の元に共存している。
 そしてその魔王軍のトップ、魔王の目的は……
 わしも詳しくは知らんが、『この世界を一つにすること』」

「『世界を一つにする』……」
 ぼくは、魔王という呼び名とその目的がイマイチ一致せず、思わず首を捻ってしまう。
 世界を一つにする……
 ぼくは子供だからよく分からないけれど、
 何となくその響きは神聖で、悪いイメージなんて微塵もしない。
 ぼくは、そのモヤモヤをすぐに口に出した。
「魔王っていうからには世界を恐怖に陥れるとかそういうノリだと思ってたけど……
 あの、魔王って、悪い感じのヤツじゃないんですか? 目的はあんま悪い感じに聞こえないんだけどなあ」
「あ、ですよねっ。ボクもそう思ってたんです」
 フライゴンも、その疑問を言いあぐねていたのかすかさずぼくに同調する。
 と、ぼく達のその疑問に、ハスブレロ村長さんは即答した。

「勿論悪い者じゃ。悪いも悪い……『世界を恐怖に陥れる存在』という言葉も全く間違っておらん。
 定期的に町や村を襲い魔王軍へと引き込むためにモンスターをさらっていく。
 意味の無い破壊や殺戮を頻繁に行うとも聞く。立派な、平和を乱す悪党の群れ……害虫どもですじゃっ」

83:9/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:29:17
 力強く、そう告げるハスブレロ村長。
 言葉の中の破壊だの殺戮だの……残虐な単語が、一気に話を生々しくさせている。
 ……やはり、『魔王』という名前からには悪い集団であったようだ。
 しかし、その悪い集団である魔王軍は、つまるところ『ポケモンの軍隊』……
 あの『ポケモン』が、あの『ポケモン』達が、『世界を恐怖に陥れる存在』だってのか?
 ポケモンがポケモンを苦しめる光景。あまり進んで想像したくはないな……
 ハスブレロ村長は、話に一区切りつけるように一度息をつき、そして引き続き話し始めた。

「そして、その魔王軍に唯一対抗できる『唯一の戦闘集団』こそが、竜騎士。『12竜騎士』なのですじゃ。」
 12竜騎士。
 フライゴンは先程の魔王の話よりも、より興味深そうに首を前に突き出した。
「ここから遥か西にある竜達の国。その竜の国のトップに立つ12匹。
 いわば魔王軍を除いたこの世界での最強の戦闘力を持つ『12匹の竜』こそが、12竜騎士なのじゃ」
「12、竜騎士……」
 口をついて単語が出てきてしまう。
 『12の竜』……言い換えれば、『12匹のドラゴンタイプのポケモン』。
 ドラゴンポケモンなんて、ぼくはフライゴン以外に見たことは無い。
 何だか、本当にワクワクきてしまう。
 こんな所でポケモントレーナー魂が刺激され疼いてしまうぼくはどうにかしてるのかな。
 無意識に、 「早く続きを」 と急かすようにぼくは身体を前にかがめてしまう。
 村長はまた息を深く吸うと、話を再開した。

「きみの……つまり、『人間様の世界』にもある12までの月……
 そのそれぞれの月に、『誕生石』と呼ばれるシンボルがあるじゃろう?
 わしらの世界にもそれはある。当然じゃ。わしらの文化は人間様が伝えた文化なのじゃから。
 そして12の竜騎士は、使命として一匹が一つずつ、それぞれの性格に合った『誕生石』を与えられているのじゃ。
 その十二種の誕生石……せっかくじゃ。名前も、石言葉も、全て教えて差し上げましょう」

84:10/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:30:56
1月の石・ガーネット!  真実・忠誠!
                王に最も忠誠厚き騎士に与えられし石!
2月の石・アメジスト!  平静・高貴!
                決して折れぬ自我を持つ誇り高き騎士に与えられし石!
3月の石・アクアマリン! 沈着・勇敢・聡明!
                 大海の如く雄大な意志を持つ騎士に与えられし石!
4月の石・ダイアモンド! 清浄無垢!
                 清く汚れなき心と身体を持つ騎士に与えられし石! 清き精神は不純なき意志! 何物にも砕けぬ無垢の心!
5月の石・エメラルド!   廉潔・平穏!
                 何より好むものは平穏と安らぎ! 無欲で、他の者・弱き者のために動く心優しき騎士に与えられし石!
6月の石・パール!    健康・長寿・美!
                 真珠の如く滑らかで美しく、かつ強固な意志を持ちし騎士に与えられし石!
7月の石・ルビー!     情熱・仁愛!
                 炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石!
8月の石・ぺリドット!   和合!
                 弱者も、強者も、愚者も、何者をも引き付け、断ち切れぬ心の鎖で繋ぎ止める圧倒的カリスマを持つ王の石!
9月の石・サファイア!  慈愛・誠実・徳望!
                 何者をも包み込む慈愛と人徳、誠実さを兼ね備えた騎士に与えられし石!
10月の石・オパール!  無邪気・歓喜・忍耐!
                 あどけなく少年少女のような素直な心を持つ騎士に与えられし石! その率直な意志は、どんな苦難や誘惑をも己の正義の元に耐え忍ぶ!
11月の石・トパーズ!   友情・希望・潔白!
                 全ての者に熱き友情を注ぎ込み、何者をも信用させる力を持つ騎士に与えられし石!
12月の石・ターコイズ!  成功!
                 与えられた任務は例えどんな手段を用いようとも最期には必ず成功させる手腕、そして狡猾さをも持つ騎士に与えられし石!

85:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:31:22
   

86:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:34:03
石の紹介のしかたが何かジョジョっぽいw

87:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:35:51
支援

88:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:42:14
 

89:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:51:23
まだか

90:11/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:00:34
 ハスブレロ村長はそう一気に言って、少し息切れしていた。
「は……把握したかね?これが竜騎士達に与えられた十二種の宝石ですじゃ」
 肩息まじりにまとめの一言を告げるハスブレロ村長。

「12の竜騎士……誕生石になぞらえた12の竜騎士……フライゴンきみ、お誕生日いつだっけ?」
 なんだか興奮してしまって、思わずフライゴンにそんな事を聞いてしまう。
「え? いや……自分の誕生日とか分からないんですけど……」
 まぁ、当然の答えだ。
「あっ、そっかぁ……ぼくは5月! ええと、5月の宝石ってなんでしたっけ?」
「エメラルドじゃよ。廉潔と平穏の石じゃ」
 心なしか、そう言った時のハスブレロ村長はかなりイライラしているような感じだったけど、ぼくはそんな事はおかまいなく騒ぎ続ける。
「エメラルドかァーー!! あの緑色の石? うひゃぁー、ぼくエメラルド! 緑のエメラルド!
 あれっ、緑って言ったらフライちゃんと同じ色じゃーん! いやーん、運命的ー!!」
 昂ぶった感情のままに、ひしっとフライゴンを抱きしめ、艶やかキレイな緑のボディーを優しくぺちぺちと叩くぼく。
「あ、あのぅ……コウイチくん……」
「えへへ……ごめーんっ」
 フライゴンが呆れたような声を出したので、照れ笑いしながら手を離す。
「……元気があっていいのう。子供は」
 そう言うハスブレロ村長は何故だか、言葉とは裏腹に眉間にしわを寄せ、本格的にイライラきている表情だ。
 その表情を見たぼくは何故だか背筋にゾクリと嫌なものを感じ取り、一瞬でそれまで浮かばせていた照れ笑いが消えてしまった。

「で……『部隊』ってのは? ボク達、今朝『飛鳥部隊』って名乗るオニドリル達に会ったんですけど」
 次に質問を投げかけたのはフライゴンだ。
 ハスブレロ村長は数度うんうんと頷くと、息切れ混じりに話し始める。
 もうこれ以上質問をするのは、ちょっと老体に響くんじゃあ……
 ぼくは少しそう思いつつも話に引き続き耳を傾けた。

91:12/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:02:18
「魔王軍は、先程も言った通り『複数のタイプのモンスターが入り乱れる唯一の集団』。
 恐らく、竜以外の全ての系統のモンスターが集まっているのではないのだろうか?」

 まず、魔王の直属の部下には四匹のモンスター。『四天王』と呼ばれるモンスターがいる。
 一匹は百年先を見通し、一匹は人の意識を操り、一匹は巨山をも拳のみで砕き割り、一匹は何をしようと砕けることのない強固な体を持つという。
 そして、その四匹がそれぞれ部隊長を務める四つの部隊がある。
 
 百年先を見通す四天王が従えしは『超人部隊』。
 人の意識を操る四天王が従えしは『幻霊部隊』。
 並ぶ者なき剛の四天王が従えしは『闘神部隊』。
 一の強固を誇る四天王が従えしは『巨岩部隊』。

 そして、それら一つの部隊につき更に三つの傘下の部隊。
 『飛鳥部隊』は確か、『超人部隊』の傘下の部隊の一つだったかのう?
 とにかく、合わせて『十六の部隊』が魔王軍には存在するんですじゃ」
 
 ハスブレロ村長はそこまで言うと一旦口を止め、ふぃ~~とくたびれたようにため息をつき出した。
 のんきに肩をポンポンと叩き、やっと次の言葉を口にする。
「……もう、めんどいのう。色々と……歳だとね、あまり長い台詞喋ると疲れるのじゃよ。顎が。
 さぁ、めんどい事は後にして、きみ達、食事はどうかね?」
「え? お食事、ですか?」
 いきなりの話の転換っぷりに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 ……いい所だったのにな……

 次々語られる『竜騎士』やら『魔王軍』やら、まるでマンガやゲームな世界な話に、正直ぼくは心躍っていた。
 話がぶっ切れてしまった事を少し残念に思いながらも、ぼくは猫のうなり声のようにゴロゴロ鳴るおなかに従った返事をした。

「はい、喜んで!」

92:13/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:03:55
 ぼく達二人はハスブレロ村長に連れられ村の食堂へと移された。
 食堂へとぼく達が……正確には多分ぼくが入ったことにより、食堂中にざわめきが起こる。
 ぼくとフライゴンは店の中心の大テーブルの前に座らされる。
 店中の人の視線がぼく達に突き刺さる。
 と、ハスブレロ村長が村の人達に対してこんなことを言った。
「ほほ、人間様と次世代の竜騎士様のご来店じゃぞ。
 みなよ、こちらに来い。この二人を存分にもてなしてやろうぞ」
 村長が皆にそう言うと、村人達は戸惑ったように各々顔を見合わせる。
 やがて一匹のハスボーがぼく達の元へやって来るのを皮切りに、
 やがてはその食堂中の人がぼく達の周りに集まってきていた。

「ねぇねぇ、人間さんどこから来たの?」
「これが人間かー。やっぱ火吹いたり地震起こしたりとかできるわけ?」
「竜巻起こせます?」
「フレアドライブ程度くらいまでは楽勝っしょ? ねぇ、どうなんです?」
「ありゃ、人間ってもっとこう神々しいイメージあったけど、何だか可愛らしい外見だなぁ」
「竜さんカッコいいー!」

 あっという間に、村人達から質問攻めになるぼく達。
 すぐに料理も運ばれてくる。……サラダしかないけど。
「ねぇ、食べて! 存分に食べてね! いっぱい食べてね!」
 料理を運んできたコノハナさんはそう言いながら、長い鼻先がくっつきそうな程にこちらへ顔を近づけ、ニコニコと笑ってぼく達を見つめている。
 ……食べづらいんですけど。
 そう言うわけにも行かず、ぼくはそのコノハナさんの期待に沿ってサラダを掬い口に入れた。
 苦いキャベツの香りが口の中に広がり、一口噛みしめると弾け出た苦味が口内に飛び散り舌に染み込む。
 普段あんまり好きじゃあない味だけど、無理して満足そうな笑みを作るとコノハナさんの顔が歓喜に綻んだ。
 ……まだぼくを見ている。
 ぼくが完食するまでずっと見ているつもりなのか。尋常じゃなく食べづらいよ、コレ! ちょっとどうにかしておくれよ!
 視線や質問攻めに耐えながら出された料理を半分くらいたいらげた所で、突如村長がぼくにこう言った。

「実はあなたに……見せたいものがあるのですが、少し付き合ってもらっていいですかな?」
「……?」

93:1 ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:05:46
一レス分多く投下してしまいましたが、ここまで。
途中バイさるに引っかかったけど、どうも0分を超えると解除されるみたい?
じゃあ6時半くらいに次のぶん投下します。

94:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 17:14:03

ってかネイティオ達は?

95:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 18:21:17
 

96:1/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:37:31
 …………

「ここですじゃ」

 ぼくは、ハスブレロ村長に連れられて、村の端の高い岩壁の前につれて来られていた。
 その目の前の高い岩壁には、いくつもの洞穴が開いている。
「あのう、見せたいものって?」
「この洞穴の中にあるのじゃ……きっと驚くだろうよ」
 ハスブレロ村長は、そのいくつかの洞穴の一つに入っていく。
 ぼくは腰を折り進む村長の後ろについて、洞穴の中に入っていった。

 洞穴……また洞穴か。
 今日何回目だろう。
 いや、まだこれで二回目だけれど今日随分何回も入ったような、そんな錯覚がする。

 中は比較的広いけど足場はやたらと起伏が多くて歩きづらく、気をつけないと足をとられ転倒してしまいそうだ。
 床の凸凹に気をつけながら歩いてしばらく経つと、少し広めの部屋に着いた。
 通路はもう無い。ここが最深部……行き止まり。村長の動きも止まる。
 つまり、ここに村長の『見せたいもの』があるんだろう。

「あのう、見せたいものってどこにあるんですか~~。なんかの壁画とか何とかですかあ~~?」
 部屋を見回し、壁の一つ一つに目を凝らす。何も無い。
 天井を見つめても特に何も無いし、床も一通り見てみるけど特に何かがあるってわけでもない。
 村長はなにやらもったいぶってるのか、黙りこくってる。
「あの~~、こう言っちゃあアレですけど、ぼくもうオナかペコペコでして……
見せるものあるなら早いところ見せてくれませんかね……失礼ですいませんけど……」
 段々ぼくももどかしくなって、空腹のせいもあってつい本音を口にしてしまう。
 とにかくぼくのその発言もあってか、村長はようやく口を開いた。

97:2/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:41:55
「そこの壁の下に……隙間があるじゃろう」

 ハスブレロ村長が適当な壁に指をさす。
 壁の下に目を凝らしてみると、確かに小さい隙間がまるで巣穴のように幾つも幾つもあった。
 到底入れそうにない大きさだ。村のタネボーやハスボーならギリギリ入れるかな?
 やがてぼくが『これはなんだろう』という考えを持ち始めた瞬間、意思が通じたように村長はそのことについて答えた。

「この洞窟はあるモンスターの巣穴での。それも知恵も持たぬ、言葉もしゃべれぬモンスターのな……
そして『それなりに』獰猛なのじゃよ。自分よりずっと大きい生物でも平気で食いよる。ま、奴等は肉食だからわしらは食われんがの」

 ハスブレロ村長はよく分からないことを語り始めると、身を翻して元来た通路の方へ歩き出した。
「?」
 『見せたいものがある』って言ったのに……変なこと語ってそれで終わり……?
 少しだけ頭が困惑に揺れる。
 と、村長は歩を進めながら再び口を開いた。
「この村も、魔王軍に襲われた事が無いわけでもない……ま、こんな小さな村じゃから襲われると言っても数人程の小隊にじゃが……
それでも戦闘の出来ぬわしらに勝ち目は無い。だが、わしらは一度も魔王軍に制圧された事は無い…… なぜか分かるかのう?人間様よ。ひょっひょひょ」
「あの……村長さん、何を言ってるんですか……?」
「『ここに魔王軍の奴らをおびきよせたのじゃ』。奴らを全員ここらの穴におびきよせる。後は『彼ら』がやってくれる……そういうことじゃ」
「……?」
 ハスブレロ村長は独り言でも言ってるんだろうか。まったくぼくと会話をしてくれる気配が無い。
 まさか、年寄りだから耳が遠くて聞こえないなんてことじゃあ……

98:3/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:44:32
 ぼくは意を決して、少し大声で言ってみる。
「あのっ!村長さんっ!」

「やかましいのう!!」

「!?」
 不意の怒号にギョクン、と胸が揺れる。
 村長は強く振り向き、怒りのこもった目でぼくを睨みつけながら今までに無い大声でそう言ったのだ。
 白目の端々に、赤い血走りが覗いている。
「わしは初めに……お前に『見せたい物』があると言ったよな」
 村長はようやく本題に触れ始める。その口調はかなりの怒り、いや、苛立ちを含んでいる。

 ……この人、少し怖い……

 村長はぼくから視線を外すと、再び元来た道へ向かって歩き始めた。
 壁と壁の狭まり……通路の始まりらへんに到達すると動きを止め、
 すぐ横の壁に手を沿えながら、こちらを振り向かないまま村長はこう言った。

「お前に見せたいというものは……先程言った『彼ら』のことでな」
「え?」

 次の瞬間、ぼくは見た。
 ハスブレロ村長が添えていた壁が、突如『へこむ』のを。
 ……いや、村長がまるで『スイッチか何かのように』……壁を『へこました』のを。
 そしてそれから間もなくのことだ。

 村長のいる場所のわずか後方の天井から『ガラス戸』が現れ、
 そのガラス戸が、ハスブレロ村長のいる通路とぼくのいるこの部屋を遮断してしまった。

99:4/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:47:13
「え……?」
 事の重大さはすぐには把握できなかった。
 咄嗟に何かの冗談だとか思いつつも、ガラス戸の方へ走りよる。

「あ、あの……」
 ガラス戸に手をつき、その奥の村長を見る。
「そのぅ、どういうことです? これは……」
 ハスブレロ村長は反応しようとしない。
「出してくださいよ……」
 ガラス戸を叩く。
「ねぇ、ちょっと? 出してよ。聞いてます……? ねぇ……」
 更に強く叩く。
「ね……村長さん……?」
 反応が無い。
「……」
 ぼくは両手の平で思い切り、ガラス戸を叩いた。

「出せええェェーーーーーっ!!!」

「出せっ、出せェェーーっ!! 村長さん、出してくれよぉぉーーっ!!」
 平手で強く、何度も強く、壊そうとしているわけじゃあなく村長に呼びかけるためにひたすら強く何度もガラス戸を叩く。
 次第にはグーで叩きつけるように。ドン、ドン、と何度も。今度は若干『壊れてくれ』という願いも込めてだ。
 ようやく、ぼくは事の重大さが把握できた。

 ぼくはこの部屋に閉じ込められたっ!
 このガラス戸は開かないっ!
 そしてこの部屋は『肉食ポケモン』の巣穴っ!

 間違いなく命の危機だ。そんくらい子供のぼくだって分かる。
 そしてぼくを今その危機に陥らせてるのは、今まで全くそんな気配の無かったハスブレロ村長……
 ワケわからない。ワケがわからないっ!

100:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 18:49:14
村長ご乱心

101:5/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:51:30
「なんで……なんでこんなことをォーー!?」
 ぼくの声は焦りと怒りにまみれている。
 そのぼくの声に突き動かされたのかどうか知らないけど、ようやく村長は口を開いた。

「こういう情報がある。『人間は、魔王の完全復活に重大な鍵を持っている』と……」

「!?」
 ゆっくりと、低い調子でそう告げるハスブレロ村長。
 ただでさえしわがれていた声が、より一層しわがれて聞こえる。
 そのせいで村長の発言はひどく聞き取りにくいものだったが、ぼくは完全に聞き取った。
 そして『村長が何故ぼくをここに閉じ込めた』のかもすぐに察知した。
「魔王は力を取り戻していないのじゃ。詳しくは知らんが大昔その力を吸い取られ封印されたと……
ともかく魔王がその『力』を取り戻すには『人間の存在が重要な鍵』だと言うのじゃ。
魔王軍にお前が手渡ってしまったら、困る。魔王が完全復活しちまうからのう? そういうことじゃ」
 村長はそこまで言うと、ぺたぺたとゆっくり帰っていく。
 村長が一歩進むごとに、ぼくの胸にズシリ、ズシリ、と湿った何か重いものが覆い被さってくる。
 帰っていく。ぼくが取り残される……ぼくが……

「人間には返しても返しきれない恩があるって言ってたじゃあないですかっ!!」

 ぼくは強く、震える声を引き絞り力強くそう叫んだ。
 村長の動きが、ピタリと止まる。

 村長はきっと迷っているはずだ。人間には恩があるから……沢山の恩があるはずだから……
 本当は『ぼくを殺す事に迷いがあるはずなんだ』っ!そうじゃなきゃ、おかしい。
「ねぇ、出してくださいよっ。人間には恩があるんでしょ? ぼく達は……いわば『神』だって……言ってたでしょっ!?」
 強く強く、希望を声量に変えて力強くぼくは叫び続ける。
 洞窟中に声が反射して、痛いくらいに何度もぼくの耳に入り込む。
 やがて耳鳴りと共に、静寂が訪れる。ぼくは、もう一度叫ぼうと息を吸って……

「恩?  『恩』じゃとォォォ~~~~?」

102:6/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:53:18
「?」
 ハスブレロ村長はついに振り返り、こちらを見た。
 その表情は……

「『恩』なんて……『大恩』なんて……
 わしらが知ったこっちゃあるかマヌケめェェェーーーーー!!!」

「!?」

 ハスブレロ村長の形相は、今までに無いほど怒りの色に塗れていた。
 まるでゾンビのように、顔中に血管の模様が浮かび上がり。
「『恩』!? それはいつ誰への話じゃ!? オイ、いつ誰の話じゃァァーーーー!?
それは遠い昔の『わしらの先祖への恩』じゃろう!? わしらは別に何もされた覚えはない。『恩』なんてこれっぽっちもねーんだよォォ!!
つまり『恩』なんてわしらが知ったこっちゃあるかボケが!! 知ったこっちゃあるかクソが!!
って事なんじゃよォォーーー!!! ひょっひょ……うひょひょひょひょひょ!!!」
 村長は激しく怒り、興奮している。
 ある意味では陽気に、楽しげに、怒りの程を叫びぶちまけている。
 村長のあまりの豹変ぶりに、胸が恐怖に疼いてくる。
 そんな中、ぼくは村長のある発言を思い出した。

”以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある…… ”

 瞬間、とてつもなく恐ろしい考えがぼくの胸をよぎった。

103:7/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:55:07
「ま、まさか! 前にこの村に来たっていう人間にも、こうやって……お前は……!」
「ん~~?」
 村長は挑発じみた声を出しながらこちらに向かってくる。

「どうじゃったかのう。けっこう昔のことじゃから……よく覚えてないの~~~」

「……!!」
 途端に今までの村長に戻り……呆けたような声でそう言う村長。
 ……『ボケ』装ってるつもりかこいつ……!
 無意識にぼくの心に、村長へ対する敵対心が沸いてくる。 こうやってはぐらかすって事は、きっと……
 ぼくがそこまで考えると、また村長はうっとうしく独り言を始めた。
「そもそもわしはガキが大嫌いでのう……ガキに対しては怒りしか湧いてこないのじゃ。
ガキは空気が読めない……ガキは身の程を知らない……
そういえばお前、さっきわしに対して『お前』と言ったよな?
人間の世界では老齢の者には敬意を払えと教えてないのか?
そして、何よりガキは無慈悲じゃ。 わしが栽培した村の花や蓮が、
何度無慈悲なバカガキどもに踏み潰され引っこ抜かれた事か……」
「そ、それとこれとは関係な……」
「黙れクソガキャッ!!」
「わっ!?」
 突如村長が、ガラス戸を平手で叩きつけてきた。
 胸が驚きに跳ね上がり、よろめいて尻餅をついてしまう。
 村長は、ぼくのその姿を見ると、はちきれんばかりの爆笑を始めた。
「ひょっははははァァ!!! かぁ~~~~わいいのうっ!!!
ひょははっ!!! やっぱり楽しいのう……ガキ驚かすのはっ! ひょははっ!!」
 べたべたと跳ね回り、子供じみた罵声を浴びせ、悪戯心に満ちた顔でぼくを見下すハスブレロ村長。
 挙句の果てには下瞼をめくりベロを出したり、尻を叩いて見せたり……これが『今から人を見殺しにしようとているヤツの行動か』!?
 長生きしているうちに倫理観とか何とかがぶっ飛んじゃったのか、
 『ハスブレロ』が元々こういう性格の種族なのかどうかは知らないけれど……

 ……ムカッ腹が立ってきたぞ。
 怖いとか何とか……そんなことより、ぼくは『コイツ』にムカついてきたぞっ!!

104:8/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:58:08
「言っておきますけどねっ!!」
 ぼくは尻餅をついた体勢のまま、そう叫んだ。
 自分でも驚くほど、ぼくのその声はハッキリとして芯が通っている。
 村長の動きがピタリと止まった。

「ぼくは、死なない。フライゴンが……あの竜、フライゴンがぼくを助けに来てくれるからだっ!」

 ぼくは村長の顔をキッと睨みつけ、そう言ってやった。
 村長はぼくのその言葉に固まる。
 ……それも一瞬だけで、すぐにあのムカつく半笑いの表情に戻ると、
 膝を折ってガラス戸にギリギリまで顔を近づけ……果てしなく『悪そうな』表情でこう言ってきたのだ。

「保証はあるのか? 『本当にあの竜はお前を助けに来てくれるのか』?」
「はい?」

 とても馬鹿馬鹿しい質問だった。ぼくは思わず笑いそうになる。
 いや……実際笑ってやった。思い切り小ばかにするように、 「プッ!」 ってね。
「ぼくとフライゴンは、あなたなんかには分からない程の強い絆があるんだっ。助けに来てくれるに決まってるっ」
 ぼくがそう言うと……ハスブレロ村長は笑った。 さっきのぼくと全く同じように、「プッ!」 て。
 そして、その表情のままガラス戸に顔をくっつけ、果て無く意地悪そうな口調でこう言ってきたのだ。

「『保証』は? 『保証保証保証』! 『強い絆があるっていう保証』は!?
所詮お前の一人よがりなんじゃあないのか……? ええ!?
本当はあの竜は、お前のことを恨んでいるんじゃあないのか? 憎んでいるんじゃあないのか?
お前みたいなガキのことじゃから、それはもうあの竜を存分にこき使ったのだろう……だったら、勿論恨まれてるはずじゃが……?」
「……!」

 『保証』……
 『保証』なんて……そう言えばあるか?
 そうだ。誰も心の中なんて読めない……『保証』なんて……ないんじゃないか?

105:9/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:01:55

”ねぇねぇ、みんな聞いて聞いて!! ぼく昨日ポケモンゲットしたんだよぉ!!
見てホラ見て見てホラ見て見てぇっ!! どう? 丸くてパクパクでっ!! 丸くてパクパクでぇーーっ!!”

いつだったっけな、誕生日プレゼントでもらったモンスターボールで、ぼくがあの『丸くてパクパク』なポケモンをゲットした日は。

まだぼくがシンオク地方に引っ越す前で、ホウエヌ地方にいた頃だったっけ。
ともかくその『丸いパクパクくん』がぼくの初めてゲットしたポケモンで、
ゲットした翌日、友達みんなにああやって叫んで自慢しまくった記憶がある。
 
それから、ぼくは毎日そのパクパクくんことナックラーと朝から晩まで遊んだ。寝るのもお風呂はいるのも毎日一緒だ。
しょっちゅう手を噛まれたり、寝ぼけて噛まれて夜中起きちゃったり、
最初の方は色々大変だったけど、二週間くらいすればナックラーはもうぼくを噛まなくなったし、
自然とぼくにのこのこ擦り寄ってくるくらいには懐いてきた。(あの『のこのこ』って風なのんびりさがまたカワイーんだよなぁ~)

さて、そうしてナックラーとの生活が何年かを超えて、
引っ越してきたシンオク地方にもだいぶ慣れ始めてきたある日、
ぼくはミキヒサに連れられてコトブチシティで開催されたポケモンバトルの大会を見た。

激しくぶつかり合うポケモン、飛び交うトレーナーの命令、観客の声援、そして勝利したポケモンとトレーナーのあの輝くような歓喜の笑顔……

生で見るそのポケモンバトルの熱狂ぶりは、今までポケモンバトルに疎かったぼくの心にある『夢』を植えつけてしまうことになったんだ。

『ナックラーと一緒にポケモンマスターになる』


106:10/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:04:12

それからというものの、ぼくは毎日のようにナックラーを戦わせた。
学校から帰ったら色んなポケモントレーナーと戦うために色んな場所へ出かけたっけ。
もちろん、だからってナックラーと遊ばなくなったわけでも一緒に寝なくなったわけでもない。
ナックラーとの生活に新たに『ポケモンバトル』という項目が加わっただけに過ぎないんだ。
……でも、『格段にナックラーを傷つける機会が増えてしまった』事には変わりない。
一月に二回はポケモンセンターに連れていってたような気がする。

そして、やがてナックラーだけでなく他のポケモンもゲットするようになった。
捕まえたぼくのポケモンは一匹一匹がとても可愛かったけど、
数が増えてしまった分、かける愛情が分散してしまったような気もしなくもない。
それに何より、ポケモンが増えてしまった事により、あえなくポケモン達をボールに『収納』せざるを得なくなった事も大きいだろう。
……でも、ぼくは『全員に最高の愛情をかけた』つもりだった……けれど、それこそまさに独りよがりだったのかもしれない。

そうだ、独りよがり。独りよがりだ!!

そう、ポケモン達はポケモンバトルなんて本当は嫌だったかもしれないんだ。
ボールに『収納』されて、ずっと窮屈な思いをしていたかもしれないんだ。
命令なんて嫌々従ってただけかもしれない。勝利の後の『笑顔』や『喜び』なんてあんな物ただの建前だったのかもしれない。
心の奥底のホントのホントでは、『ぼくなんていなくてもいい』なんて思ってたのかもしれない。思ってないなんて『保証』あるか? どこにある?
『図々しく命令なんかしてるんじゃあねえクソガキ』なんて思ってたのかもしれない! 思ってないなんて『保証』あるか!? どこにある!? 

『絆がある保証』なんてどこにもないんだ!
いくら繋がってる気がしても、結局はそんな気がしてるってだけで実際そうだってわけじゃない。
心なんて読むことができないから当然のことさ。どこまで行っても結局は決定的な所まではたどり着けず、『気がする』で終わってしまう。
そう、自分と他の者の間には……人間とか家族とか親友とかポケモンとか、そんなものは関係なく!! 例外なく!!
必ず『決して覗き見ることの出来ない壁』が広がっているんだ!


107:11/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:08:14 +XZiqCqs
 絶望的な状況に脆くなった心は、いとも簡単に揺れ動く。
 ぼくは自然と黙りこくってしまっていた。
「ひょっひょ。わしは知ったこっちゃねーが、お前は知っているじゃろう……『どれだけ奴をこき使ったか』!! ひょっひょひょ!!
んっん~~~? 図星かね? ま、何度も言うようだがわしは知ったこっちゃねーがの。ひょひょひょ!」
 村長は立ち上がり、高笑いを残しながら去っていった。
 薄暗い道に、すぐにその後姿は見えなくなる。
 そして……耳鳴りと共に静寂がやってきた。

 ……いや。

 静寂の中から、聞こえてくる。『音』。
 土が削れる音。『何かが這ってくる音』。
 それが複数……何個も、何個も、マラカスのようにガシャガシャガシャガシャ。いくつも、だ。
 先程村長が残したある言葉が頭をよぎる。

”『それなりに』獰猛なのじゃよ。自分よりずっと大きい生物でも平気で食いよる。ま、奴等は肉食だからわしらは食われんがの”

 ぼくは、見た。
 床の下の狭い隙間から……何かが出てくるのを。
 複数の何か。虫ポケモン……?
 おそらくぼくの匂いを嗅ぎつけたんだ。『餌』の匂い……
 ふざけないでよ、ぼくは餌じゃあない。食べても美味しくない。
 もちろん煮ても焼いても多分美味しくない。そんなの餌か? 違うでしょ。だから餌じゃあない……
 頭がパニックにかき回される。
 と、その時。パニックにかき回されている筈の頭に、
 偶然か奇跡か天啓のように、ある『事実』が舞い戻った。

「……そうだ、これは夢だったんだっ!!」

108:12/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:09:34
 ぼくは、今まですっかり忘れていた『事実』を思い出した。
 途端に、今まさに胸にかかろうとしていた絶望の靄が晴れ、希望が現れる。

 そうだ、夢だったんだ!
 これは夢だっ! 故にぼくは死なない。
 目を覚ませばいい話だ。
 目を覚ますだけでこのピンチは一瞬でお仕舞い。
 そう、目を覚ますだけでいいんだ。簡単なお話じゃあないかっ!?


 どうやって目を覚ますんだ?


 ぼくはギュッと目を瞑った。
 数秒後目を開いてみると、そこにはさっきと全く同じ光景。
 意味も無く跳ねてみる。
 しかし なにもおこらない。
 頬をつねってみる。
 痛い。

 痛い。

 痛いよ。

 夢じゃなかった。


 やっぱり。


109:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 19:11:48
                                                     























110:13/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:13:38
「村長と人間様……遅いなぁ……」

 また新しい料理を運んできたコノハナさんが、小さくそう呟く。
 そういえば、コウイチくん遅いなあ。もう何分経っただろう……
 ボクは野菜料理をほおばりながら、コノハナさんに尋ねてみた。
「ねぇ、コノハナさん。村長さん達どこに行ったんだろう?」
「さぁ、私は知りません……ってか、そもそもこの村に人間様に見せるものなんてありましたっけ?」
 首を捻り、考え込むコノハナさん。
 それを皮切りに周りの村人さん達も皆が皆、不思議そうに首をかしげながら、 色々と言い始める。
「この村って、人間様にわざわざ見せるような名物なんて特に無いよね」
「ってかさ、正直……村長って、何やるかわからないよね」
「ちょっと怖いもんあの人。この前俺がお花さん踏んじゃっただけで殴り飛ばされたし」
「マジかよ~~!」
 話の流れは、どんどん村長さんの悪い噂へと流れていく。
 優しそうな村長さんだったんだけどなぁ。
「ねぇ、竜さん」
「あむっ、ハイ?」
 いきなり話がボクに回ってきた。咄嗟に振り向いたので、ほおばっていたトマトが溢れてテーブルに落ちちゃう。

「ねぇ、竜さん。あなたも行った方がいいんじゃないですか?」

 ……
 ボクはテーブルからトマトを拾い上げ、再び口にほおばった。
 既に口の中に入ってた野菜と一緒にゆっくりと噛み締める。
 残ったトマトの破片や他の野菜を奥歯で磨り潰し、口内で舌を躍らせ弾け出た酸味を残さず舐め取る。
 崩れたトマトや他の野菜のごちゃごちゃになったものを、水と一緒にコクリと喉に送り込んだ。
 口の中に余裕が出来る。ボクは一息ついて、返事を返した。

「……――」

 つづく

111:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 20:00:12
おお、続き気になるな

112:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 21:04:24
みんなもっと活気出そうぜw

113:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 21:45:03
48氏が帰ってくるのをお待ちしておりました。

続き期待しています

114:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 00:17:43
ハスブレロw

115:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 10:57:50
>>105-106の下りは前は無かったよな。

116:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 12:48:39
追加要素か

117:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 13:30:38
代わりにネイティオ様達がいなかった事にされてる…
早く続き来ないかな。

118:1/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:43:18
 頬に熱い線が走った気がした。
 痛み? これは痛みだ。生暖かいものが……
 いや、そんな事よりもだ。そう、『そっちよりも』。
 ぼくの『視覚』には更なる衝撃があった。

 ほぼ目の前にスコルピがいる。ぼくの顔と腕の間のガラス戸に、爪を突き立てたスコルピが。
 不意にスコルピの首がぐるりと回り、その赤い目がぼくを捕らえた。

「ひええええええ!!!」
 慌てて、ぼくはガラス戸から飛び退く。
 
 その一瞬でぼくは理解する。まずはぼくの頬に切り傷があり、そこから血が流れていること。
 そして、一匹のスコルピが『凄まじい速度でぼくの頭目掛けて飛びついてきたこと』。
 ともかく照準が外れたらしく、スコルピの爪の一撃はぼくの頬にかすり傷を負わせるだけに留まったんだ。

 しかし、だからって安堵なんて出来るはずがない。
 このスコルピは、にじり寄る事しか出来ないわけじゃなく、
 『その気になれば』とんでもない速度で飛びついてくることが出来るって事が分かったからだ。
 一命を取り留めたからって、『安堵』なんかよりむしろ『絶望』の溝の方が圧倒的に深まってしまった。

 まったく嬉しくない一命の取り留め方だバカヤローーーッ!!

119: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:47:52
ぎゃーす、順番ミスった。
>>118は無かったことにしてください。

120:1/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:48:41
 今まさに『隙間』から現れた無数の虫ポケモン……『スコルピ』が、ぼくを取り囲んでいる。
 凶悪そうなとんがった目を、鋭く研がれているであろう爪を、牙を、こちらに向け……
 皆が皆ぼくを見つめている。

 ……『餌』として。

「やめて……来ないで……来ないでよォ……」
 後ずさりしようとするも、それは出来ない。
 そりゃそうだ、もう背中が壁にくっついてるんだもの。
 これ以上、後ろにさがる事は出来ない。
 そう、逃げられない。逃げられない……
 重くて、重くて、重い事実がぼくにのしかかる。
 その事実が告げる、恐るべき方程式。


 逃げない=死ぬ
 逃げられない=ぼくはもう死んでいるも同じ

 I am DEAD!!
 DEAD!! DEAD!! DEAD!!


「うぎゃああああああああっ!! 誰か、誰か助けてくれェェーーーっ!!!!」
 ぼくは絶叫を上げながら、無駄だと分かりつつもガラス戸を渾身の力で何度も叩いた。
 何度も、何度も、手が痛いけれどそんな事、この期に及んで気にしていられない。
 叩いてる内に、無数のスコルピがジリジリとこちらへやってくる。
 チラチラと後方を確認しながら、ひたすらひたすらぼくは戸を叩く事に専念する。
 しかし、次の瞬間。

 パシュッ!

121:2/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:49:59
 頬に熱い線が走った気がした。
 痛み? これは痛みだ。生暖かいものが……
 いや、そんな事よりもだ。そう、『そっちよりも』。
 ぼくの『視覚』には更なる衝撃があった。

 ほぼ目の前にスコルピがいる。ぼくの顔と腕の間のガラス戸に、爪を突き立てたスコルピが。
 不意にスコルピの首がぐるりと回り、その赤い目がぼくを捕らえた。

「ひええええええ!!!」
 慌てて、ぼくはガラス戸から飛び退く。
 
 その一瞬でぼくは理解する。まずはぼくの頬に切り傷があり、そこから血が流れていること。
 そして、一匹のスコルピが『凄まじい速度でぼくの頭目掛けて飛びついてきたこと』。
 ともかく照準が外れたらしく、スコルピの爪の一撃はぼくの頬にかすり傷を負わせるだけに留まったんだ。

 しかし、だからって安堵なんて出来るはずがない。
 このスコルピは、にじり寄る事しか出来ないわけじゃなく、
 『その気になれば』とんでもない速度で飛びついてくることが出来るって事が分かったからだ。
 一命を取り留めたからって、『安堵』なんかよりむしろ『絶望』の溝の方が圧倒的に深まってしまった。

 まったく嬉しくない一命の取り留め方だバカヤローーーッ!!!

122:3/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:51:38
 スコルピ達の次の飛び掛かり攻撃は、間もなくのことだった。

「ひっ!」
 顔目掛けて飛び掛るスコルピを、ぼくは大袈裟に身を屈めてかわす。
 髪の毛が何本か刈り取られ、パラパラと降ってくる。
 その次のスコルピ達の攻撃は、 『ひとまず安心する』の『ひとまず』も無いほどに間が無かった。
 続けて、牙を剥きまるで弾丸か何かみたいに飛びかかってくるスコルピ。
 ぼくは咄嗟に、転がるようにしてその攻撃を避ける。
 ……まったく汚れのなかったおニューのスーツが、土に汚される。
 紺色のブレザーの生地に砂が混じり込み、茶色く変色している。
 傍目から見たらきっとみっともないんだろう。

 ……不様だ。

 ドッヂボールの試合で自チームに残ってるのは自分一人だけ、みたいな状況だ。
 なんて不様なんだ。なんてカッコ悪いんだぼく。
 それも、『先の無い不様さ』だ。
 『一瞬一秒の命を取り留めるだけの不様さ』だ。
 『見返りなんて一切存在しない不様さ』だ。
 これ以上に空しいことがあるだろうか? これ以上の絶望があるだろうか?
 ぼくはまだ子供で人生経験なんて浅いから胸を張って言えないけれど……多分ないと思う。

 とめどなく涙が溢れてきた。

123:4/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:54:56
 死はほぼ確約されてるのに、たとえ不様でも一瞬一秒の命をとりとめようと抵抗する。
 なんでだろう? それは……もちろん死ぬのがイヤだからだ! そんな未来を信じたくないからだ!
 まだ若いのに、夢だって実現してないのに、こんなワケのわからないことで死んじゃうなんてイヤすぎるからだ!

「くそおっ!」
 もう何度目か分からないスコルピの攻撃を、ぼくは死に物狂いでかわす。
 『諦めて素直に死にます』なんて選択肢は今のぼくにはありえない。
 
 ……必死に避けてるうちに、少しだけぼくが『絶対諦められない』ことに疑問が芽生えてきた。
 死ぬのはいやだけど……痛いのはいやだけど……本当の本当に『死が確約されてる』ならもう諦めがついてもいいんじゃあないか?
 なんでぼくは、絶対諦めようとしないんだ?
 そうだ。
 『ほぼ』って何?  死はほぼ確約されてる……『ほぼ』って何だ!?
 ほぼって事はほとんど。つまり『大半』って事だけど……
 『大半』って事は、『大半じゃあない部分』がまだあるって事じゃないか!
 それって、つまり……助かる可能性。希望だ。
 希望ってなんだ? ぼくを絶対諦めさせない……その希望って何だ?

 フライゴンだ。

 そこまで、ぼくは到達した。 心の底にポテトチップスの残りカスのように密かに残るちっさな『希望』へ。
 ……しかしその瞬間に、あの一言が頭をよぎる。

”『保証』は?『保証保証保証』!『強い絆があるっていう保証』は!?
所詮お前の一人よがりなんじゃあないのか……? ええ!? ”
 
 ……やっぱり、希望なんて……

124:5/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:00:52
 ガシャアァァン!!!

 突如、洞窟中にけたたましい音が響き渡る。
 この音は何だ? 何かが割れる音……ガラスが割れる音。
 スコルピ達の目が、一斉にその音源へ向けられた。ぼくもそちらへ目を向ける。
 ガラス戸がある方……『先程までガラス戸があった』方向へ。
 そこには、まさかのまさか……
 いや、やはり……か?
 まさかなのか、やはりなのか、どちらか分からないけれどともかく……

 フライゴンがいた。

 あの全身緑のボディのドラゴンは、間違いなくフライゴン。ぼくのフライゴンだ。
 フライゴンが壁を突き破り、助けに来てくれたっ……?
「コウイチくんっ!」
 色んな感情が混ざっているような声を上げて、フライゴンは急いでこちらへ向かってくる。
 と、ぼくは見てしまう。一匹のスコルピが、フライゴン目掛けてぼくにしたのと同じく勢いよく飛び掛っていくのを。
「フライゴン!」
 咄嗟にそう危険を伝えるが、そういい終えるや否や、
 フライゴンはしっぽを思い切り薙ぎ払い、飛び掛るスコルピを一蹴した。
「……!」
 あっけなく吹っ飛んで行き、倒れ動けなくなるスコルピ。
 危険を予知したのか、他のスコルピ達がたじろぎ後じさりを始めた。

「邪魔だぞ、虫ども……!」

 フライゴンはいつもよりも低いトーンでそう言い、スコルピ達を威嚇するように睨み付ける。
 その目には、激しく燃える怒りの色が……
 怒り……
 ぼくのために、こんな怒ってくれている……

125:6/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:05:09
「乗ってください、コウイチくんっ。早くここ出ましょう!」
 フライゴンは背中を向け、ぼくに乗るように指示する。
「あっ、うん……」
 ぼくは少し遠慮気味にフライゴンの背中に乗る。
 ぼくがフライゴンの体に手をかけた瞬間、彼は羽を大きくはためかせ、
 髪が全て後ろに靡く位の凄まじいスピードで飛行を始めた。
「うっ……!」
 空気がぶつかる音が聞こえる。ぼくはたまらず頭を伏せ顔をフライゴンの背中にうずめる。
 それも一瞬で、二秒、三秒経たぬ内にフライゴンの動きは止まった。
 頭を上げ、顔を上げる。そこはもう洞窟の外だった。


 空が赤く染まっている。夕焼けの時間だ。
 フライゴンの緑の体も、赤みが混じり橙色に染まって見える。
「……あっ」
 ぼくは慌ててフライゴンの背中から飛び降りた。
 何となく、そんな長く乗ってたらいけないような気がしたんだ。

「大丈夫ですか? 危機一髪、ってやつでしたね……」
 目を細め、ぼくを心配そうな目で見つめるフライゴン。
 傷口一つ一つに目を通すように目を動かし、小さく 「かわいそう……」 と呟く。
 本気で心配してくれている。嬉しいんだけれど、ちょっとした疑問があってぼくは素直に喜べない。
「あの……フライゴン」
「はい?」
 言う直前少し躊躇いそうになるけど、ぼくは何とか最後までこう言った。

「なんで、ぼくを……助けに来てくれたの?」

126:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 16:07:04
おお

127:7/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:11:40
「はい? えーとですね……実は食堂に村長が一人で戻ってきてですね……
 ぼくや村の皆で質問攻めにしたらコウイチくんをここに閉じ込めた事とか諸々得意げに喋り出して……
 いい人そうな村長さんだったからちょっと信じられなかったけれど、とりあえず行ってみたら……って事でして」

 顎に指をやりながらそう喋り出すフライゴン。……違う、ぼくが聞きたいのはそういう事じゃない。
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「え? じゃあーどういう……」
「あの……ぼく、こき使ってたじゃないか」
 ぼくがそう言うと、フライゴンは 「へ?」 と呟き、呆気に取られたような表情を取った。
 ぼくの言ってる意味がよく分からないのか。ぼくは構わず続ける。
「ぼく……きみ達ポケモンをこき使ってたじゃないか。
 勝手に捕まえて、勝手に戦わせてさぁ……都合のいいように……」
 なぜだか、言っている途中に瞼の奥で何だかよく分からないものがこみ上げてきて、目にぎゅうっと力が入り涙が強引に押し出される。

「村長が言ってた通り、ぼくポケモン達に本当は恨まれてんじゃないかって思って……
 本当は『絆』とか『信頼』なんてぜんぜん無いんじゃないかとか思ってさあ……
 助けに来てくれないと思った……本当は、ぼくなんかとは離れたいと思ってると……思った」

 喋りながら、迷子の子供のように何度も目をこすり、鼻をすする。
 瞼が痛いけれど、それでも涙が溢れて止まらないんだから仕方ないじゃん。
 そうやってずっと泣きじゃくっていると……
 フライゴンは慰めるようにぼくの頭に手を置いて、わしわしと優しく撫で始めた。
 そこには恨みとか何とか……そんな冷たい感情は一切感じない。
 とても優しくて……暖かい、手。

「……バカ言わないで下さい」

128:8/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:16:08
「こき使われてるから恨んでるとか……そんなこと全然ありません。
 それどころか、ボクは……ボク達は、もっともっとコウイチくんの役にたちたいって思ってるんですよ?
 ねぇ、何でか分かりますか……?」

 ぼくの頭を撫でながら、ゆっくりと、親が子供におとぎ話を語るような優しい口調でそう言うフライゴン。
 ぼくは、涙が浮かび真っ赤な目のまま顔を上げてフライゴンを見つめた。
「本当に……?」
「ええ、本当に。……ふふっ、嘘なんかつく意味ないじゃあないですかっ。
 もし本当は嫌ってるとして、それをぶちまけた所で怒られるわけでもなし、叩かれるわけでもなし。
 嘘なんかつく必要ないでしょう? こんな優しいコウイチくん相手にっ!
 そう、本当にボクがコウイチくんを嫌いだってんなら、嘘なんかついて気遣うはずもないですしねーっ」
「……」
 フライゴンは一息おくと、ふっと柔和な笑みを浮かべこう言った。

「何でボク達はもっとコウイチくんの役にたちたいと思うか……
 それは、感じるからですよ。コウイチくんと一緒にいると、ひしひしと伝わってくるからです。
 コウイチくんが、どれだけボクらを可愛がってくれてるか……愛情を注いでくれてるか……
 楽しいこと、いっぱいあったでしょう? 辛い事もあったけれど、いつも協力して乗り越えてきましたね」

 フライゴンはそう言うと、どんどん思い出していくように『思い出』を列挙しはじめた。
 ぼくとポケモン達の思い出。一緒に過ごしてきた思い出……
 フライゴンの一言一言に傷ついた心は癒され、充足感に満ちていく。
 絶望やら何やらで完全に消えかけていたポケモン達との清き思い出が、どんどん蘇ってくる。


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