【小説】ポケモン ドリームワールドat POKE
【小説】ポケモン ドリームワールド - 暇つぶし2ch50: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:20:49
 おそらく羽ばたき。鳥が翼をはためかせる音……そして、声。

「おおっ、あれってまさか……まさかっ!! 人間かっ!?」
「に……ににに、人間だぜっ!! しかも、たぶんその隣にいるのは竜……
 竜!? 12竜騎士の一人か……!?」

「?」
 ぼくとフライゴンは、同時にその音と声の元へ視線を向ける。
 そこには、二羽の鳥ポケモンがいた。
 あの茶色い毛と赤いとさか、そしてドリルのように鋭く尖った嘴をもつあのポケモンは……・たぶんオニドリルだ。
「コウイチくんっ! ポケモンがいます……しかも、あいつらも言葉しゃべってますよっ!」
「そうだね……!」
 咄嗟に立ち上がり、戦闘態勢を取るフライゴン。
 その様子を見た二羽のオニドリルは、また何やらしゃべりはじめた。

「やる気だぜ、あの竜騎士。くっくく、やってやろうぜっ、やってやろうぜェーーっ、オイ!!」
「おぉっ!! 手柄とって俺達も飛鳥3幹部に昇進!! いや、俺達が入ったら五幹部か? うひゃーーっ!」
「夢湧き上がるぜベイベッ!! よっしゃーー、行くぜ兄弟っ! 飛鳥部隊の名の下に!!」
「ワクワクドキドキだぜバッボイベッ!! いくぜっ、飛鳥部隊のォーーー、ん名の下にぃっ!!」

 何だかゴチャゴチャ叫んでたと思うと、二羽のオニドリルは突如ぼく達に向けて急接近してきた。
 何を叫んでたのかそういうのは一切分からないけど、とりあえず確かなのは、あのオニドリルは『やる気』だってことだ。

「フライゴン! なんだか知らないけど、ぼく達いまから襲われるみたいだ……迎え撃つよ、フライゴン!!」

「はいっ!!」

51: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:22:57
「覚悟はいいかい人間チャンっ!!」
「食い荒らしちまうぜ竜騎士クンっ!!」

 二羽のオニドリルは、まるでドリルそのもののようにフライゴン目掛けて凄まじいスピードで接近してくる。
 ぼくは冷静に、いつものバトルのようにフライゴンに攻撃の命令を与えた。
「フライゴン、砂かけっ! あいつらの目にビシッと砂かけるんだっ!」
「はいっ!」
 フライゴンは大きい尻尾を床に叩きつけ、砂しぶきを二羽のオニドリルに浴びせかけた。
「みゃぐ!」
「ぎゃー! 目がー!!」
 砂のツブテが思い切り目を抉り苦しみながらも、なおオニドリルは速度を落とさず、接近をやめようとしない。
 意表をつかれたぼくは、フライゴンへ次の命令を出すのが遅れる。
 だけど、ぼくの命令を聞かずともフライゴンは次の動作を起こしていた。
「ふんっ!!」
 砂かけの時に振った尻尾を、フライゴンはそのまま勢いをつけて振るったんだ。
「あ」
「あ」
 図太いしっぽの一撃が、さながらバッティングのように猛スピードで迫ってくるオニドリルを捕らえた。
「「うぎゃあーーー!」」
 モロに尻尾の攻撃を受けた二羽のオニドリルは後方に吹っ飛んでいき、パタリと空しく床に落ちる。
 フライゴンは二羽のオニドリルが力尽きる様を見据え、顔を満足気に染めながらこちらを見つめた。

「余裕勝ち、だよっ!! コウイチくんっ!!」
「……えーーいっ、よくやったフライゴーンっ!!」

 ポケモンの襲撃を難なく撃退したフライゴンに、いつものように抱擁して喜びを分かち合う。
 言葉が通じるおかげか、いつもより数倍も喜びを分かち合えてる気がした。

52: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:24:15
「強すぎ……ですっ!」
「ダメだこりゃっ……!」

 と、オニドリルがよろよろとその身を起こしかけているのがぼくとフライゴンの目に入る。
 まだ戦う気なのか?それとも……

「まだやる気なのかっ!」
 フライゴンが再び戦いの構えをとると、二羽のオニドリルは目を真ん丸くして同時にブルリと振るえ、
 降参といった風に、同時に両手(というか両翼)を高く挙げた。
「いやいや、私達の負けですけどもっ!」
「もうこれ以上危害加えないで……そして、一時てったーーーいっ!!」
 二匹のオニドリルはバッ!と大きく跳躍したと思うと、翼をはためかせ高く舞い上がった。
「「あっ!」」
 慌てて二人で見上げると、二羽のオニドリルは勝ち誇った顔でこちらを見下ろしながらこんな事を言い出した。

「お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!」
「魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!! はははーー!!」

「魔王……竜騎士?」
「……あっ、逃げますよっ!」
 バサバサと弱弱しく羽ばたきながら、オニドリルが逃げていく。
 ぼく達はそれを追うよりも、急な出来事だらけでごちゃごちゃになり過ぎている頭の中を整理する事に努めた。

53:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:25:49
支援してみる。

54: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:27:14
「魔王……ですって。あの、その……ギャグですかねぇ?」

 苦笑いを作りながら、そうぼくに尋ねるフライゴン。
 魔王……竜騎士……やたらとファンタジックでレトロー、的な語感に笑いがこみ上げてくる。
「知らないよ。ま、夢だから仕方ないよ」
 ぼくも、馬鹿馬鹿しいといった風に肩をすくめ、半笑いを浮かべながらため息をついた。
「そうですね! あっはは!」
「あーっははーっ!!」
 再びほのぼのと笑い合うぼくとフライゴン。
 何かを誤魔化すように、遠まわしにするように、笑う事に『必死に』夢中になるぼく達。
 しかしずっと笑い続けられるはずもなく、すぐに息がきれてどちらともなく笑い合うのが止まってしまった。

「とりあえずさっ」
 気まずい沈黙が流れる前にまずしゃべっておく。
「歩こうか。歩いて色んなところに行こうよ! せっかく楽しそうな夢なんだし、楽しまなきゃ損っ!」
「ですねっ、夢とはいえせっかくコウイチくんと話せるようになったんだもの……楽しまなきゃ損っ!」
「そうっ! せっかく話せるようになったんだ……いっぱいいっぱい話し合おうねっ!」
「ね~~っ!」

 ぼく達は明るく話し合い、笑い合いながら、歩き始めた。
 右も左も分からぬ、一つも知った風景の無い、『夢』の世界の中を。
 あてもなく、ただ夢が覚めるであろうその時に向かって。

55: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:31:04
 ……いまだ見つからない後五匹のぼくのポケモンの行方。
 そしてミキヒサとそのポケモン達の行方。
 オニドリルの残した、まるで馬鹿馬鹿しい言葉。魔王、竜騎士……
 そして、何よりポケモンがしゃべっているという事実。

 わからないことが多すぎる。馬鹿馬鹿しいくらいに多い。
 多すぎるがために、ぼく達二人は話の節々で『これは夢だ』と確認するなどして、必死にこの事を夢と信じようとしていた。

 ……夢では、『視覚』や『聴覚』……『嗅覚』『味覚』、そして『触角』……
 五感が機能する事はない。機能するのは、『意識』のみ。『意識』によって作られた『架空の五感』のみだ。

 例えば、夢の中で感じる味覚は、普段頭の中で『味を予想した時の味』。
 夢の中で感じる触角は、普段頭の中で『感触を予想したときの感触』。
 幻覚……幻痛……幻聴……
 『夢の中で感じる感覚』は、ほぼ全てコレだ。

 さて、夢を夢と認識している状態で……
 『架空の五感』と『本当の五感』の区別がつかないなんてことがあるだろうか?
 そんな事は(多分だけれど)ないはずだ。
 例えば『頬でもつねってみれば』……その痛みが『本物』か『架空』か。
 つまりこれが『現実』か『夢』か。そんなことは一瞬で分かるはずだ。

 だけど、ぼく達はそれを出来ないでいた。

 なぜか? 夢でないことを恐れて? それともその逆?

 ……それすらも、ぼく達はまだ分からなかった。

56: ◆8z/U87HgHc
07/11/27 20:35:43
ここで一旦止め。また明日投下します。
支援してくれた人ありがとねー

57:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:36:39
ネイティオ様はまだお預けか

58:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 20:42:13
一応続きに期待。

59:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:10:14 2ugIvESU


60:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:28:18
この手のスレ乱立しすぎ
いい加減に一つに纏めろ、何かあるたびにわざわざ立てるんじゃねえボケカス

61:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:32:43
まぁ、もちつけよ

62:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 21:34:56
時期が悪かったな>>1
でもまあ期待はできるクオリティ。

63:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 22:06:32
応援してます、こんなことしか言えませんが頑張ってください。

64:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 22:06:42
うむ>>1が戻ってきたか
応援してるぞ、ちなみにお前が前回書いた最後の分まで残ってるから気にするな

65:名無しさん、君に決めた!
07/11/27 23:11:58
やっぱ導入部はあんま盛り上がらんな

66:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 00:59:30
ミキヒサくん死んだ?

67:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 09:26:43 D96G0JI3
あげ

68:1 ◆8z/U87HgHc
07/11/28 12:39:20
今日の3時半と6時に投下します。

69:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 14:34:25
期待

70:1 ◆8z/U87HgHc
07/11/28 15:59:07
一人で投下していると途中で規制かかるので、
もしリアルタイムで見てくれてる人がいたら、
なんか合間に書き込みでもしてくれると、助かるし励みになります。

71:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:03:10
きたか

72:1/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:04:07
 何十分経ったか、すこしおなかが鳴り始める時間、
 夢の世界を渡り歩いているとフライゴンが前方に何かを発見したようだ

「あっ! あれ……村ですかね?」
「そう……みたいだね」

 風景の奥に、家屋の集まりが見える。
 『夢の中とはいえ』誰か他の人が住んでいるようだ。
 ……人?人が住んでいるのかな。それとも、まさかポケモンが……
「ねぇ、行ってみますかー?」
 ぼくが考え込んでると、好奇心を多分に含ませた口調でフライゴンがそう言ってくる。
 ぼくも空いてきたおなかをさすりながら、明るく返事を返した。
「行ってみよっか! 実はね……ぼく、さっきからおなかすいてて。
 村の人に何か食べさせてもらおうよ!」
「そうですねっ、実はボクも……あれ?」
 ふとフライゴンは大きく首をかしげる。
 かしげたと思ったら、続けてこんなことを言ってきた。
「『夢の中』なのに……おなかって空くんですか?」
「は?」
 数秒―ぼくとフライゴンの間で時間が固まったような気がした。
 予期せぬ時間凍結を、それを引き起こしたフライゴンが慌てて溶かす。
「あ、あの、空きますよね。おなか。ボ、ボクだって夢の中で空いたことありますし。
 は、ははーっ! ごーめんなさいねー、変なこと言っちゃいましてーーはははーー……」
「そ、そうだよねっ! なに時間止まってるんだよぼくらって感じ! ははーーっ!」
 本日何度目か分からない中身の無い笑い合いを続けながら、 ぼく達は目の前の『村』へと向かった。


第一話 「壁」

73:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:05:06
        

74:2/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:05:35
 その村が人の村かポケモンの村か……
 それは、その村へ足を踏み入れた瞬間に判明した。

「フライゴン……」
「はい。やっぱりここは『ポケモンの村』……それもここは、タネボーやハスボーの村みたいですね」
 多数のタネボーやハスボー……コノハナやハスブレロが、村に入ってきたぼく達を見てざわめいている。
 ざわめきの隙間から聞こえる『言葉』。このタネボー達も例外はなくみな言葉をしゃべれるようだった。
 だけどぼく達はこれは夢だからと、周りのタネボーの事は気にせず村を歩く。

 ……しかしまー、こうもヒソヒソヒソヒソうっとうしくざわめかれると、
 まるでぼく達がいけない事でもしているみたいじゃあないか。
 ぼく達がそんな珍しいか? いや、ここは『ポケモンの世界』……もしかして珍しいのは『ぼく』……

 それにしても、この村。
 そこらにある家は、ぼくらの世界のものとほぼ変わりない。
 扉はあるしノブもある。窓だってあるしたまに二階建てらしき家があったりもする。
 木製の展望台なんかもあるし、たまに何かの看板が立っていたりもする。(しかもキチンと読める字だ。『花踏まないで』と書いてある)
 これが夢だといったらそれでお仕舞いだけど……いや、それどころかますます
 『これが夢』だという事の信憑性が深まってきたような気すらする。

 そんな事を考えながら何処か気まずい雰囲気の村観光を続けていると……
 突然……いや、やっとと言うべきか、一匹のコノハナがぼくに話しかけてきた。

「あの……もしや、もし、もしや、ですけど、あなた……人間、ですか?」

75:3/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:08:46
 バイザーのような文様の中の目をパチクリさせながら、ぼくにそう言うコノハナ。
 その目つきは、まるで色違いポケモンを見つけたトレーナーのような驚愕と猜疑心に満ちた目つきだ。
「うん、そうだよ。ぼく人間だけど……それがどうかしたの?」
 ぼくがそう答えると、コノハナの目が更に大きくかっ開かれた。
 いや、目をかっ開いたのは眼前のコノハナだけじゃない。周辺にいたポケモン全員が、驚きに目を見開いた。
 ざわめきが二倍に増え、さらには「えっ!?」と大声を上げるヤツも出だす。
 ……なんだ、なんだよ。随分と大袈裟なリアクションとるなあ。
「……どうかしたの? ええと、んー……ぼくがそんな珍しいかなあ?」
 自分を指差しながらそう言ってみた。後から苦笑いも付け加えてみる。

「めめめめ、珍しいどころの騒ぎじゃありませんよっ!!」

「いっ!?」
 コノハナが思い切りこちらにつっかかってきて大声を上げだすので、思わずビックリして身を引いてしまう。
 と、コノハナはどうやら興奮して無意識に叫んだみたいで、コホンと一度咳払いをすると、
 今度はそれなりに冷静な風な口調で(それでも結構ムリしてるような感じだけど)こう言った。
「あの……こちらへ。『村長』の元へ案内します。……ついてきてください、『人間様』」
 コノハナはそう言うと、少し緊張した風な堅い動きで歩き出した。
「……人間『サマ』?」
 コノハナの発言の節に少し引っかかりながら、ぼく達はコノハナについていき『村長』の家へと向かった。

 コノハナに連れられて村長の家へ入ると、
 家の奥にボサボサの白い髭を生やしたハスブレロが……たぶん『村長』さんが椅子に座り眠っているのがまず目に入った。
 コノハナは眠っているハスブレロ村長に駆け寄り、起こそうとゆさゆさと揺さぶり始める。
「村長っ! 起きてくださいよ。人間が……人間様がっ!」
 コノハナがそう叫ぶとハスブレロはやっとそのしわくちゃの瞼を開き、身を起こした。
 半開きの目がぼくに向けられた瞬間、彼の目が豆鉄砲でも撃たれたかのように大きく開いた。
 ハスブレロ村長は椅子から苦しそうに立ち上がると、ぺたぺたとこちらに走り寄ってきた。

76:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:10:32
   

77:4/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:12:41
「これはこれは! これはこれはこれは……これはこれは!!」

 ハスブレロ村長さんは怖いくらいに目を見開いてぼくをじいっと見つめだす。
 そして見た目に似合わず大きく陽気に笑い出すと、気さくな口調でこう言った。
「ひょっひょ! ようこそいらっしゃいました『人間様』! ささっ、さささっ、椅子へお座りください」
 老体を思わせない機敏さで二つ椅子を持ってきて、ぼくたちに座るよう促すハスブレロ村長。
 戸惑った顔でフライゴンと目を見合わせながら、ぼく達は椅子に腰をかけた。
「ほれ、そこのコノハナ。わしの椅子も持ってこんかい」
「あ、はい」
 コノハナが先程までハスブレロ村長の座っていた椅子を持ってくる。
 村長は深く息を吐きながらその椅子に座ると、身を乗り出してぼくにこう聞いてきた。
「ようこそ人間様! 数十年に一度の偶然が、まさかわしが生きてるうちにまた起こってくれるるとはの……ひょひょ。
 さて、人間様。どこからここへいらしたのかな? 目的は?」
「えっ? えぇ~~っと……」
 さっそく返答に困るぼく。フライゴンに目配せすると、フライゴンも困ったような目つきで見つめ返してきた。
 ……どこから何のためにって言われても、ねえ。
「……あ、分からないのならいいのですじゃ。すまなかったの。ひょひょ」
 ぼくが返答に困っている事を察したハスブレロ村長は咄嗟にそうフォローを入れた。
 と、いきなり聞く事がなくなったのか村長はまた無言でぼくをじいっと見つめ出す。
「あのう……村長さん」
「はっ、なんですじゃ?」
 ぼくは先程からずっと胸の奥でモヤモヤしてる『疑問』を、投げかけてみた。
「何で人間『サマ』って言うんですか? 『サマ』って……何ていうかですけど、人間って偉いんですか?」
「ひょっ」
 ぼくの問いかけにハスブレロ村長は一瞬固まり、少し間をおいてこう言った。


「もちろんですじゃ。人間様はいわば……わしら『モンスター』にとっては『神』なのじゃから」

「『神』!?」

78:5/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:15:44
「言い伝えにはこうある。何百年前だったか遥か昔……人間の集団がこの世界に現れた。
 そして人間達はわしらモンスターに言葉を伝え……技術を伝え……文化を伝えたと。
 つまり今のわしらがあるのは、ほぼ人間様のお陰と言っていいのじゃ」

「へぇ~~~……」
 ハスブレロ村長の語りに、思わず感心したように頷いてしまう。
 これが『夢だ』ってことも少し忘れかけてきちゃったり……
「人間様には返しても返しきれぬ大恩がある。人間様は『絶対歓迎』なのじゃ。
 以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある……
 その時は、それはもう盛大に歓迎したものじゃ……」
 上を向いて物憂げに目を瞑りながら、たぶん若き日の思い出を辿り出すハスブレロ村長。
 前来た時も盛大に歓迎したって事は、ぼく達もこれから歓迎、されるのか……?
 隙間侘しいおなかをさすりながらそう考えると、少しだけぼくの胸が期待に躍る。

「ねぇ、フライゴン。ぼく達これから歓迎されるみたいだよ」
 隣のフライゴンに視線を移す。
 と、フライゴンは何かを考えるように、小さい手を顎に添えながら下を向いている。
「どしたの? フライゴン」
 そう言ってフライゴンの顔を覗き込もうとすると、フライゴンはすぐに顔を上げこちらを向いた。
「いや……何となくですね。辻妻が合うというか、何というか……でして」
「えっ?」
 フライゴンは何か意味ありげなことを言い出した。

「ずっと前からボク、不思議に思ってたことがあったんですよ」

79:6/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:18:32
「ボク達ポケモンって……あの、本当にみんな『人間が大好きなんです』。
 物心ついたときから……たぶん生まれた時から、どのポケモンもみんな人間が好きで。
 ボクがまだナックラーで野生だった頃、ボクの友達はみんな人間が大好きでした。
 仲間内で話すことといえばホント、人間の事ばっかりで……人間にゲットされた友達を本気で羨ましがってました」
「へぇ~~~~~ぇ……」
 ポケモンの本とか、旅の途中であった足跡博士なんかから『人間を嫌いなポケモンなんかいない』って話をよく聞いてたけど……
 ポケモン自身が言ってるんなら、本当にそれは間違いない事だったのかな。
 そう感心すると共に、少しばかり優越感が胸を浸す。
 そして、フライゴンの話はまだ続く。
「ボク達が人間に飛び掛るのってあれ、捕まえて欲しいからなんですよね。
 ボクがあの日あの時コウイチくんに飛び掛ったのも……その、コウイチくんに捕まえてほしかったからなんですよ?」
 いつだったか、砂嵐吹き荒れる地帯の草むらを歩いていたとき、
 一匹のナックラーがぼくに飛び掛ってきた……あの日の思い出が、ふと蘇る。
「で、なんですけどねっ」
 そう言うと共に、フライゴンはどこでそんな仕草を覚えたのか、短い人差し指をピッと立て手をこちらに突き出す。
 ここからが本題みたいだ。

「何で、ボク達って人間が好きなのかなあって……生まれた時から人間が好きなんです。おかしいですよね? これ。
 で、なんかそれが……今の村長さんが言ってた事と何か関係あったりしてー、とか思っちゃいまして……ってワケなんですけど」
「……」
 ぼくは考える。
 人間を神と崇め絶対歓迎するというこのポケモンの世界と……
 生まれた瞬間から人間を好きだというぼく達の世界のポケモン。
 まだ果てしなく、ホントに果てしなく『何となく』ではあるけれど、どこか深い関係があるような気がしてしまう。
 これは『夢』だって言うのに……

「ところで~」
ハスブレロ村長が不意に話しかけてきた。

80:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:19:37
支援

81:7/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:21:51
「あっ、はいっ!?」
 フライゴンと話し込んですっかりハスブレロ村長の存在を忘れてしまっていたので、随分上ずった声で返事してしまう。
 村長は少しだけ眉をしかめたが、すぐに柔和そうな表情に戻った。

「きみ達まだここへ来て日が浅いようじゃな。なにか~~、質問とかあるかの? 何でも答えてやりますぞ」
 身を乗り出しそう問いかける村長。
「質問……」
 何か聞きたいことはないかと記憶を辿ると、すぐにあのオニドリル達の発した言葉へと行き着いた。

“お前らのこと我が飛鳥部隊に……魔王様に報告しちゃるからなぁ!!”
“魔王軍から逃れられると思うな人間と竜騎士っ!!はははーー!!”

 ぼくとフライゴンは顔を見合わせ、ほぼ同時に全く同じ質問を村長へ投げかけた。

「「魔王とか竜騎士ってなんですか?」」

 あまりに全てが一致してしまったので、またぼくとフライゴンは顔を見合わせる。
 フライゴンはぼくと同じく驚いたように目を見開き、口を半笑いの形に歪めていた。
「ふむ、やはりそう来たか……順を追って説明せねばな」
 ハスブレロ村長は長く深呼吸する。結構長い話になるみたいだ。
 ぼくも釣られて、思わずゴクリと息を飲んでしまう。
 ハスブレロ村長はあらかた深呼吸し終えると、じっとぼくを見据えて話し始めた。

82:8/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:24:01
「この世界には、わしら以外にも多数の種類のモンスターがおる。
 しかし、ほとんどは『その種族はその種族ごとに』……
 エスパーならエスパーと、ゴーストならゴーストと、キチンと住み分けておるのじゃ。
 違った種族同士が共存している場所など、あまりありはしない。
 しかし、『魔王』が率いる『魔王軍』だけは違う……
 この世界からあまねく集められた多種の種類のモンスターが、『魔王軍』という一つの軍の元に共存している。
 そしてその魔王軍のトップ、魔王の目的は……
 わしも詳しくは知らんが、『この世界を一つにすること』」

「『世界を一つにする』……」
 ぼくは、魔王という呼び名とその目的がイマイチ一致せず、思わず首を捻ってしまう。
 世界を一つにする……
 ぼくは子供だからよく分からないけれど、
 何となくその響きは神聖で、悪いイメージなんて微塵もしない。
 ぼくは、そのモヤモヤをすぐに口に出した。
「魔王っていうからには世界を恐怖に陥れるとかそういうノリだと思ってたけど……
 あの、魔王って、悪い感じのヤツじゃないんですか? 目的はあんま悪い感じに聞こえないんだけどなあ」
「あ、ですよねっ。ボクもそう思ってたんです」
 フライゴンも、その疑問を言いあぐねていたのかすかさずぼくに同調する。
 と、ぼく達のその疑問に、ハスブレロ村長さんは即答した。

「勿論悪い者じゃ。悪いも悪い……『世界を恐怖に陥れる存在』という言葉も全く間違っておらん。
 定期的に町や村を襲い魔王軍へと引き込むためにモンスターをさらっていく。
 意味の無い破壊や殺戮を頻繁に行うとも聞く。立派な、平和を乱す悪党の群れ……害虫どもですじゃっ」

83:9/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:29:17
 力強く、そう告げるハスブレロ村長。
 言葉の中の破壊だの殺戮だの……残虐な単語が、一気に話を生々しくさせている。
 ……やはり、『魔王』という名前からには悪い集団であったようだ。
 しかし、その悪い集団である魔王軍は、つまるところ『ポケモンの軍隊』……
 あの『ポケモン』が、あの『ポケモン』達が、『世界を恐怖に陥れる存在』だってのか?
 ポケモンがポケモンを苦しめる光景。あまり進んで想像したくはないな……
 ハスブレロ村長は、話に一区切りつけるように一度息をつき、そして引き続き話し始めた。

「そして、その魔王軍に唯一対抗できる『唯一の戦闘集団』こそが、竜騎士。『12竜騎士』なのですじゃ。」
 12竜騎士。
 フライゴンは先程の魔王の話よりも、より興味深そうに首を前に突き出した。
「ここから遥か西にある竜達の国。その竜の国のトップに立つ12匹。
 いわば魔王軍を除いたこの世界での最強の戦闘力を持つ『12匹の竜』こそが、12竜騎士なのじゃ」
「12、竜騎士……」
 口をついて単語が出てきてしまう。
 『12の竜』……言い換えれば、『12匹のドラゴンタイプのポケモン』。
 ドラゴンポケモンなんて、ぼくはフライゴン以外に見たことは無い。
 何だか、本当にワクワクきてしまう。
 こんな所でポケモントレーナー魂が刺激され疼いてしまうぼくはどうにかしてるのかな。
 無意識に、 「早く続きを」 と急かすようにぼくは身体を前にかがめてしまう。
 村長はまた息を深く吸うと、話を再開した。

「きみの……つまり、『人間様の世界』にもある12までの月……
 そのそれぞれの月に、『誕生石』と呼ばれるシンボルがあるじゃろう?
 わしらの世界にもそれはある。当然じゃ。わしらの文化は人間様が伝えた文化なのじゃから。
 そして12の竜騎士は、使命として一匹が一つずつ、それぞれの性格に合った『誕生石』を与えられているのじゃ。
 その十二種の誕生石……せっかくじゃ。名前も、石言葉も、全て教えて差し上げましょう」

84:10/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 16:30:56
1月の石・ガーネット!  真実・忠誠!
                王に最も忠誠厚き騎士に与えられし石!
2月の石・アメジスト!  平静・高貴!
                決して折れぬ自我を持つ誇り高き騎士に与えられし石!
3月の石・アクアマリン! 沈着・勇敢・聡明!
                 大海の如く雄大な意志を持つ騎士に与えられし石!
4月の石・ダイアモンド! 清浄無垢!
                 清く汚れなき心と身体を持つ騎士に与えられし石! 清き精神は不純なき意志! 何物にも砕けぬ無垢の心!
5月の石・エメラルド!   廉潔・平穏!
                 何より好むものは平穏と安らぎ! 無欲で、他の者・弱き者のために動く心優しき騎士に与えられし石!
6月の石・パール!    健康・長寿・美!
                 真珠の如く滑らかで美しく、かつ強固な意志を持ちし騎士に与えられし石!
7月の石・ルビー!     情熱・仁愛!
                 炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石!
8月の石・ぺリドット!   和合!
                 弱者も、強者も、愚者も、何者をも引き付け、断ち切れぬ心の鎖で繋ぎ止める圧倒的カリスマを持つ王の石!
9月の石・サファイア!  慈愛・誠実・徳望!
                 何者をも包み込む慈愛と人徳、誠実さを兼ね備えた騎士に与えられし石!
10月の石・オパール!  無邪気・歓喜・忍耐!
                 あどけなく少年少女のような素直な心を持つ騎士に与えられし石! その率直な意志は、どんな苦難や誘惑をも己の正義の元に耐え忍ぶ!
11月の石・トパーズ!   友情・希望・潔白!
                 全ての者に熱き友情を注ぎ込み、何者をも信用させる力を持つ騎士に与えられし石!
12月の石・ターコイズ!  成功!
                 与えられた任務は例えどんな手段を用いようとも最期には必ず成功させる手腕、そして狡猾さをも持つ騎士に与えられし石!

85:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:31:22
   

86:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:34:03
石の紹介のしかたが何かジョジョっぽいw

87:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:35:51
支援

88:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:42:14
 

89:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 16:51:23
まだか

90:11/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:00:34
 ハスブレロ村長はそう一気に言って、少し息切れしていた。
「は……把握したかね?これが竜騎士達に与えられた十二種の宝石ですじゃ」
 肩息まじりにまとめの一言を告げるハスブレロ村長。

「12の竜騎士……誕生石になぞらえた12の竜騎士……フライゴンきみ、お誕生日いつだっけ?」
 なんだか興奮してしまって、思わずフライゴンにそんな事を聞いてしまう。
「え? いや……自分の誕生日とか分からないんですけど……」
 まぁ、当然の答えだ。
「あっ、そっかぁ……ぼくは5月! ええと、5月の宝石ってなんでしたっけ?」
「エメラルドじゃよ。廉潔と平穏の石じゃ」
 心なしか、そう言った時のハスブレロ村長はかなりイライラしているような感じだったけど、ぼくはそんな事はおかまいなく騒ぎ続ける。
「エメラルドかァーー!! あの緑色の石? うひゃぁー、ぼくエメラルド! 緑のエメラルド!
 あれっ、緑って言ったらフライちゃんと同じ色じゃーん! いやーん、運命的ー!!」
 昂ぶった感情のままに、ひしっとフライゴンを抱きしめ、艶やかキレイな緑のボディーを優しくぺちぺちと叩くぼく。
「あ、あのぅ……コウイチくん……」
「えへへ……ごめーんっ」
 フライゴンが呆れたような声を出したので、照れ笑いしながら手を離す。
「……元気があっていいのう。子供は」
 そう言うハスブレロ村長は何故だか、言葉とは裏腹に眉間にしわを寄せ、本格的にイライラきている表情だ。
 その表情を見たぼくは何故だか背筋にゾクリと嫌なものを感じ取り、一瞬でそれまで浮かばせていた照れ笑いが消えてしまった。

「で……『部隊』ってのは? ボク達、今朝『飛鳥部隊』って名乗るオニドリル達に会ったんですけど」
 次に質問を投げかけたのはフライゴンだ。
 ハスブレロ村長は数度うんうんと頷くと、息切れ混じりに話し始める。
 もうこれ以上質問をするのは、ちょっと老体に響くんじゃあ……
 ぼくは少しそう思いつつも話に引き続き耳を傾けた。

91:12/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:02:18
「魔王軍は、先程も言った通り『複数のタイプのモンスターが入り乱れる唯一の集団』。
 恐らく、竜以外の全ての系統のモンスターが集まっているのではないのだろうか?」

 まず、魔王の直属の部下には四匹のモンスター。『四天王』と呼ばれるモンスターがいる。
 一匹は百年先を見通し、一匹は人の意識を操り、一匹は巨山をも拳のみで砕き割り、一匹は何をしようと砕けることのない強固な体を持つという。
 そして、その四匹がそれぞれ部隊長を務める四つの部隊がある。
 
 百年先を見通す四天王が従えしは『超人部隊』。
 人の意識を操る四天王が従えしは『幻霊部隊』。
 並ぶ者なき剛の四天王が従えしは『闘神部隊』。
 一の強固を誇る四天王が従えしは『巨岩部隊』。

 そして、それら一つの部隊につき更に三つの傘下の部隊。
 『飛鳥部隊』は確か、『超人部隊』の傘下の部隊の一つだったかのう?
 とにかく、合わせて『十六の部隊』が魔王軍には存在するんですじゃ」
 
 ハスブレロ村長はそこまで言うと一旦口を止め、ふぃ~~とくたびれたようにため息をつき出した。
 のんきに肩をポンポンと叩き、やっと次の言葉を口にする。
「……もう、めんどいのう。色々と……歳だとね、あまり長い台詞喋ると疲れるのじゃよ。顎が。
 さぁ、めんどい事は後にして、きみ達、食事はどうかね?」
「え? お食事、ですか?」
 いきなりの話の転換っぷりに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 ……いい所だったのにな……

 次々語られる『竜騎士』やら『魔王軍』やら、まるでマンガやゲームな世界な話に、正直ぼくは心躍っていた。
 話がぶっ切れてしまった事を少し残念に思いながらも、ぼくは猫のうなり声のようにゴロゴロ鳴るおなかに従った返事をした。

「はい、喜んで!」

92:13/12  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:03:55
 ぼく達二人はハスブレロ村長に連れられ村の食堂へと移された。
 食堂へとぼく達が……正確には多分ぼくが入ったことにより、食堂中にざわめきが起こる。
 ぼくとフライゴンは店の中心の大テーブルの前に座らされる。
 店中の人の視線がぼく達に突き刺さる。
 と、ハスブレロ村長が村の人達に対してこんなことを言った。
「ほほ、人間様と次世代の竜騎士様のご来店じゃぞ。
 みなよ、こちらに来い。この二人を存分にもてなしてやろうぞ」
 村長が皆にそう言うと、村人達は戸惑ったように各々顔を見合わせる。
 やがて一匹のハスボーがぼく達の元へやって来るのを皮切りに、
 やがてはその食堂中の人がぼく達の周りに集まってきていた。

「ねぇねぇ、人間さんどこから来たの?」
「これが人間かー。やっぱ火吹いたり地震起こしたりとかできるわけ?」
「竜巻起こせます?」
「フレアドライブ程度くらいまでは楽勝っしょ? ねぇ、どうなんです?」
「ありゃ、人間ってもっとこう神々しいイメージあったけど、何だか可愛らしい外見だなぁ」
「竜さんカッコいいー!」

 あっという間に、村人達から質問攻めになるぼく達。
 すぐに料理も運ばれてくる。……サラダしかないけど。
「ねぇ、食べて! 存分に食べてね! いっぱい食べてね!」
 料理を運んできたコノハナさんはそう言いながら、長い鼻先がくっつきそうな程にこちらへ顔を近づけ、ニコニコと笑ってぼく達を見つめている。
 ……食べづらいんですけど。
 そう言うわけにも行かず、ぼくはそのコノハナさんの期待に沿ってサラダを掬い口に入れた。
 苦いキャベツの香りが口の中に広がり、一口噛みしめると弾け出た苦味が口内に飛び散り舌に染み込む。
 普段あんまり好きじゃあない味だけど、無理して満足そうな笑みを作るとコノハナさんの顔が歓喜に綻んだ。
 ……まだぼくを見ている。
 ぼくが完食するまでずっと見ているつもりなのか。尋常じゃなく食べづらいよ、コレ! ちょっとどうにかしておくれよ!
 視線や質問攻めに耐えながら出された料理を半分くらいたいらげた所で、突如村長がぼくにこう言った。

「実はあなたに……見せたいものがあるのですが、少し付き合ってもらっていいですかな?」
「……?」

93:1 ◆8z/U87HgHc
07/11/28 17:05:46
一レス分多く投下してしまいましたが、ここまで。
途中バイさるに引っかかったけど、どうも0分を超えると解除されるみたい?
じゃあ6時半くらいに次のぶん投下します。

94:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 17:14:03

ってかネイティオ達は?

95:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 18:21:17
 

96:1/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:37:31
 …………

「ここですじゃ」

 ぼくは、ハスブレロ村長に連れられて、村の端の高い岩壁の前につれて来られていた。
 その目の前の高い岩壁には、いくつもの洞穴が開いている。
「あのう、見せたいものって?」
「この洞穴の中にあるのじゃ……きっと驚くだろうよ」
 ハスブレロ村長は、そのいくつかの洞穴の一つに入っていく。
 ぼくは腰を折り進む村長の後ろについて、洞穴の中に入っていった。

 洞穴……また洞穴か。
 今日何回目だろう。
 いや、まだこれで二回目だけれど今日随分何回も入ったような、そんな錯覚がする。

 中は比較的広いけど足場はやたらと起伏が多くて歩きづらく、気をつけないと足をとられ転倒してしまいそうだ。
 床の凸凹に気をつけながら歩いてしばらく経つと、少し広めの部屋に着いた。
 通路はもう無い。ここが最深部……行き止まり。村長の動きも止まる。
 つまり、ここに村長の『見せたいもの』があるんだろう。

「あのう、見せたいものってどこにあるんですか~~。なんかの壁画とか何とかですかあ~~?」
 部屋を見回し、壁の一つ一つに目を凝らす。何も無い。
 天井を見つめても特に何も無いし、床も一通り見てみるけど特に何かがあるってわけでもない。
 村長はなにやらもったいぶってるのか、黙りこくってる。
「あの~~、こう言っちゃあアレですけど、ぼくもうオナかペコペコでして……
見せるものあるなら早いところ見せてくれませんかね……失礼ですいませんけど……」
 段々ぼくももどかしくなって、空腹のせいもあってつい本音を口にしてしまう。
 とにかくぼくのその発言もあってか、村長はようやく口を開いた。

97:2/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:41:55
「そこの壁の下に……隙間があるじゃろう」

 ハスブレロ村長が適当な壁に指をさす。
 壁の下に目を凝らしてみると、確かに小さい隙間がまるで巣穴のように幾つも幾つもあった。
 到底入れそうにない大きさだ。村のタネボーやハスボーならギリギリ入れるかな?
 やがてぼくが『これはなんだろう』という考えを持ち始めた瞬間、意思が通じたように村長はそのことについて答えた。

「この洞窟はあるモンスターの巣穴での。それも知恵も持たぬ、言葉もしゃべれぬモンスターのな……
そして『それなりに』獰猛なのじゃよ。自分よりずっと大きい生物でも平気で食いよる。ま、奴等は肉食だからわしらは食われんがの」

 ハスブレロ村長はよく分からないことを語り始めると、身を翻して元来た通路の方へ歩き出した。
「?」
 『見せたいものがある』って言ったのに……変なこと語ってそれで終わり……?
 少しだけ頭が困惑に揺れる。
 と、村長は歩を進めながら再び口を開いた。
「この村も、魔王軍に襲われた事が無いわけでもない……ま、こんな小さな村じゃから襲われると言っても数人程の小隊にじゃが……
それでも戦闘の出来ぬわしらに勝ち目は無い。だが、わしらは一度も魔王軍に制圧された事は無い…… なぜか分かるかのう?人間様よ。ひょっひょひょ」
「あの……村長さん、何を言ってるんですか……?」
「『ここに魔王軍の奴らをおびきよせたのじゃ』。奴らを全員ここらの穴におびきよせる。後は『彼ら』がやってくれる……そういうことじゃ」
「……?」
 ハスブレロ村長は独り言でも言ってるんだろうか。まったくぼくと会話をしてくれる気配が無い。
 まさか、年寄りだから耳が遠くて聞こえないなんてことじゃあ……

98:3/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:44:32
 ぼくは意を決して、少し大声で言ってみる。
「あのっ!村長さんっ!」

「やかましいのう!!」

「!?」
 不意の怒号にギョクン、と胸が揺れる。
 村長は強く振り向き、怒りのこもった目でぼくを睨みつけながら今までに無い大声でそう言ったのだ。
 白目の端々に、赤い血走りが覗いている。
「わしは初めに……お前に『見せたい物』があると言ったよな」
 村長はようやく本題に触れ始める。その口調はかなりの怒り、いや、苛立ちを含んでいる。

 ……この人、少し怖い……

 村長はぼくから視線を外すと、再び元来た道へ向かって歩き始めた。
 壁と壁の狭まり……通路の始まりらへんに到達すると動きを止め、
 すぐ横の壁に手を沿えながら、こちらを振り向かないまま村長はこう言った。

「お前に見せたいというものは……先程言った『彼ら』のことでな」
「え?」

 次の瞬間、ぼくは見た。
 ハスブレロ村長が添えていた壁が、突如『へこむ』のを。
 ……いや、村長がまるで『スイッチか何かのように』……壁を『へこました』のを。
 そしてそれから間もなくのことだ。

 村長のいる場所のわずか後方の天井から『ガラス戸』が現れ、
 そのガラス戸が、ハスブレロ村長のいる通路とぼくのいるこの部屋を遮断してしまった。

99:4/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:47:13
「え……?」
 事の重大さはすぐには把握できなかった。
 咄嗟に何かの冗談だとか思いつつも、ガラス戸の方へ走りよる。

「あ、あの……」
 ガラス戸に手をつき、その奥の村長を見る。
「そのぅ、どういうことです? これは……」
 ハスブレロ村長は反応しようとしない。
「出してくださいよ……」
 ガラス戸を叩く。
「ねぇ、ちょっと? 出してよ。聞いてます……? ねぇ……」
 更に強く叩く。
「ね……村長さん……?」
 反応が無い。
「……」
 ぼくは両手の平で思い切り、ガラス戸を叩いた。

「出せええェェーーーーーっ!!!」

「出せっ、出せェェーーっ!! 村長さん、出してくれよぉぉーーっ!!」
 平手で強く、何度も強く、壊そうとしているわけじゃあなく村長に呼びかけるためにひたすら強く何度もガラス戸を叩く。
 次第にはグーで叩きつけるように。ドン、ドン、と何度も。今度は若干『壊れてくれ』という願いも込めてだ。
 ようやく、ぼくは事の重大さが把握できた。

 ぼくはこの部屋に閉じ込められたっ!
 このガラス戸は開かないっ!
 そしてこの部屋は『肉食ポケモン』の巣穴っ!

 間違いなく命の危機だ。そんくらい子供のぼくだって分かる。
 そしてぼくを今その危機に陥らせてるのは、今まで全くそんな気配の無かったハスブレロ村長……
 ワケわからない。ワケがわからないっ!

100:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 18:49:14
村長ご乱心

101:5/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:51:30
「なんで……なんでこんなことをォーー!?」
 ぼくの声は焦りと怒りにまみれている。
 そのぼくの声に突き動かされたのかどうか知らないけど、ようやく村長は口を開いた。

「こういう情報がある。『人間は、魔王の完全復活に重大な鍵を持っている』と……」

「!?」
 ゆっくりと、低い調子でそう告げるハスブレロ村長。
 ただでさえしわがれていた声が、より一層しわがれて聞こえる。
 そのせいで村長の発言はひどく聞き取りにくいものだったが、ぼくは完全に聞き取った。
 そして『村長が何故ぼくをここに閉じ込めた』のかもすぐに察知した。
「魔王は力を取り戻していないのじゃ。詳しくは知らんが大昔その力を吸い取られ封印されたと……
ともかく魔王がその『力』を取り戻すには『人間の存在が重要な鍵』だと言うのじゃ。
魔王軍にお前が手渡ってしまったら、困る。魔王が完全復活しちまうからのう? そういうことじゃ」
 村長はそこまで言うと、ぺたぺたとゆっくり帰っていく。
 村長が一歩進むごとに、ぼくの胸にズシリ、ズシリ、と湿った何か重いものが覆い被さってくる。
 帰っていく。ぼくが取り残される……ぼくが……

「人間には返しても返しきれない恩があるって言ってたじゃあないですかっ!!」

 ぼくは強く、震える声を引き絞り力強くそう叫んだ。
 村長の動きが、ピタリと止まる。

 村長はきっと迷っているはずだ。人間には恩があるから……沢山の恩があるはずだから……
 本当は『ぼくを殺す事に迷いがあるはずなんだ』っ!そうじゃなきゃ、おかしい。
「ねぇ、出してくださいよっ。人間には恩があるんでしょ? ぼく達は……いわば『神』だって……言ってたでしょっ!?」
 強く強く、希望を声量に変えて力強くぼくは叫び続ける。
 洞窟中に声が反射して、痛いくらいに何度もぼくの耳に入り込む。
 やがて耳鳴りと共に、静寂が訪れる。ぼくは、もう一度叫ぼうと息を吸って……

「恩?  『恩』じゃとォォォ~~~~?」

102:6/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:53:18
「?」
 ハスブレロ村長はついに振り返り、こちらを見た。
 その表情は……

「『恩』なんて……『大恩』なんて……
 わしらが知ったこっちゃあるかマヌケめェェェーーーーー!!!」

「!?」

 ハスブレロ村長の形相は、今までに無いほど怒りの色に塗れていた。
 まるでゾンビのように、顔中に血管の模様が浮かび上がり。
「『恩』!? それはいつ誰への話じゃ!? オイ、いつ誰の話じゃァァーーーー!?
それは遠い昔の『わしらの先祖への恩』じゃろう!? わしらは別に何もされた覚えはない。『恩』なんてこれっぽっちもねーんだよォォ!!
つまり『恩』なんてわしらが知ったこっちゃあるかボケが!! 知ったこっちゃあるかクソが!!
って事なんじゃよォォーーー!!! ひょっひょ……うひょひょひょひょひょ!!!」
 村長は激しく怒り、興奮している。
 ある意味では陽気に、楽しげに、怒りの程を叫びぶちまけている。
 村長のあまりの豹変ぶりに、胸が恐怖に疼いてくる。
 そんな中、ぼくは村長のある発言を思い出した。

”以前も、わしがまだ若い頃に一度だけ人間様がこの村にいらした事がある…… ”

 瞬間、とてつもなく恐ろしい考えがぼくの胸をよぎった。

103:7/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:55:07
「ま、まさか! 前にこの村に来たっていう人間にも、こうやって……お前は……!」
「ん~~?」
 村長は挑発じみた声を出しながらこちらに向かってくる。

「どうじゃったかのう。けっこう昔のことじゃから……よく覚えてないの~~~」

「……!!」
 途端に今までの村長に戻り……呆けたような声でそう言う村長。
 ……『ボケ』装ってるつもりかこいつ……!
 無意識にぼくの心に、村長へ対する敵対心が沸いてくる。 こうやってはぐらかすって事は、きっと……
 ぼくがそこまで考えると、また村長はうっとうしく独り言を始めた。
「そもそもわしはガキが大嫌いでのう……ガキに対しては怒りしか湧いてこないのじゃ。
ガキは空気が読めない……ガキは身の程を知らない……
そういえばお前、さっきわしに対して『お前』と言ったよな?
人間の世界では老齢の者には敬意を払えと教えてないのか?
そして、何よりガキは無慈悲じゃ。 わしが栽培した村の花や蓮が、
何度無慈悲なバカガキどもに踏み潰され引っこ抜かれた事か……」
「そ、それとこれとは関係な……」
「黙れクソガキャッ!!」
「わっ!?」
 突如村長が、ガラス戸を平手で叩きつけてきた。
 胸が驚きに跳ね上がり、よろめいて尻餅をついてしまう。
 村長は、ぼくのその姿を見ると、はちきれんばかりの爆笑を始めた。
「ひょっははははァァ!!! かぁ~~~~わいいのうっ!!!
ひょははっ!!! やっぱり楽しいのう……ガキ驚かすのはっ! ひょははっ!!」
 べたべたと跳ね回り、子供じみた罵声を浴びせ、悪戯心に満ちた顔でぼくを見下すハスブレロ村長。
 挙句の果てには下瞼をめくりベロを出したり、尻を叩いて見せたり……これが『今から人を見殺しにしようとているヤツの行動か』!?
 長生きしているうちに倫理観とか何とかがぶっ飛んじゃったのか、
 『ハスブレロ』が元々こういう性格の種族なのかどうかは知らないけれど……

 ……ムカッ腹が立ってきたぞ。
 怖いとか何とか……そんなことより、ぼくは『コイツ』にムカついてきたぞっ!!

104:8/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 18:58:08
「言っておきますけどねっ!!」
 ぼくは尻餅をついた体勢のまま、そう叫んだ。
 自分でも驚くほど、ぼくのその声はハッキリとして芯が通っている。
 村長の動きがピタリと止まった。

「ぼくは、死なない。フライゴンが……あの竜、フライゴンがぼくを助けに来てくれるからだっ!」

 ぼくは村長の顔をキッと睨みつけ、そう言ってやった。
 村長はぼくのその言葉に固まる。
 ……それも一瞬だけで、すぐにあのムカつく半笑いの表情に戻ると、
 膝を折ってガラス戸にギリギリまで顔を近づけ……果てしなく『悪そうな』表情でこう言ってきたのだ。

「保証はあるのか? 『本当にあの竜はお前を助けに来てくれるのか』?」
「はい?」

 とても馬鹿馬鹿しい質問だった。ぼくは思わず笑いそうになる。
 いや……実際笑ってやった。思い切り小ばかにするように、 「プッ!」 ってね。
「ぼくとフライゴンは、あなたなんかには分からない程の強い絆があるんだっ。助けに来てくれるに決まってるっ」
 ぼくがそう言うと……ハスブレロ村長は笑った。 さっきのぼくと全く同じように、「プッ!」 て。
 そして、その表情のままガラス戸に顔をくっつけ、果て無く意地悪そうな口調でこう言ってきたのだ。

「『保証』は? 『保証保証保証』! 『強い絆があるっていう保証』は!?
所詮お前の一人よがりなんじゃあないのか……? ええ!?
本当はあの竜は、お前のことを恨んでいるんじゃあないのか? 憎んでいるんじゃあないのか?
お前みたいなガキのことじゃから、それはもうあの竜を存分にこき使ったのだろう……だったら、勿論恨まれてるはずじゃが……?」
「……!」

 『保証』……
 『保証』なんて……そう言えばあるか?
 そうだ。誰も心の中なんて読めない……『保証』なんて……ないんじゃないか?

105:9/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:01:55

”ねぇねぇ、みんな聞いて聞いて!! ぼく昨日ポケモンゲットしたんだよぉ!!
見てホラ見て見てホラ見て見てぇっ!! どう? 丸くてパクパクでっ!! 丸くてパクパクでぇーーっ!!”

いつだったっけな、誕生日プレゼントでもらったモンスターボールで、ぼくがあの『丸くてパクパク』なポケモンをゲットした日は。

まだぼくがシンオク地方に引っ越す前で、ホウエヌ地方にいた頃だったっけ。
ともかくその『丸いパクパクくん』がぼくの初めてゲットしたポケモンで、
ゲットした翌日、友達みんなにああやって叫んで自慢しまくった記憶がある。
 
それから、ぼくは毎日そのパクパクくんことナックラーと朝から晩まで遊んだ。寝るのもお風呂はいるのも毎日一緒だ。
しょっちゅう手を噛まれたり、寝ぼけて噛まれて夜中起きちゃったり、
最初の方は色々大変だったけど、二週間くらいすればナックラーはもうぼくを噛まなくなったし、
自然とぼくにのこのこ擦り寄ってくるくらいには懐いてきた。(あの『のこのこ』って風なのんびりさがまたカワイーんだよなぁ~)

さて、そうしてナックラーとの生活が何年かを超えて、
引っ越してきたシンオク地方にもだいぶ慣れ始めてきたある日、
ぼくはミキヒサに連れられてコトブチシティで開催されたポケモンバトルの大会を見た。

激しくぶつかり合うポケモン、飛び交うトレーナーの命令、観客の声援、そして勝利したポケモンとトレーナーのあの輝くような歓喜の笑顔……

生で見るそのポケモンバトルの熱狂ぶりは、今までポケモンバトルに疎かったぼくの心にある『夢』を植えつけてしまうことになったんだ。

『ナックラーと一緒にポケモンマスターになる』


106:10/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:04:12

それからというものの、ぼくは毎日のようにナックラーを戦わせた。
学校から帰ったら色んなポケモントレーナーと戦うために色んな場所へ出かけたっけ。
もちろん、だからってナックラーと遊ばなくなったわけでも一緒に寝なくなったわけでもない。
ナックラーとの生活に新たに『ポケモンバトル』という項目が加わっただけに過ぎないんだ。
……でも、『格段にナックラーを傷つける機会が増えてしまった』事には変わりない。
一月に二回はポケモンセンターに連れていってたような気がする。

そして、やがてナックラーだけでなく他のポケモンもゲットするようになった。
捕まえたぼくのポケモンは一匹一匹がとても可愛かったけど、
数が増えてしまった分、かける愛情が分散してしまったような気もしなくもない。
それに何より、ポケモンが増えてしまった事により、あえなくポケモン達をボールに『収納』せざるを得なくなった事も大きいだろう。
……でも、ぼくは『全員に最高の愛情をかけた』つもりだった……けれど、それこそまさに独りよがりだったのかもしれない。

そうだ、独りよがり。独りよがりだ!!

そう、ポケモン達はポケモンバトルなんて本当は嫌だったかもしれないんだ。
ボールに『収納』されて、ずっと窮屈な思いをしていたかもしれないんだ。
命令なんて嫌々従ってただけかもしれない。勝利の後の『笑顔』や『喜び』なんてあんな物ただの建前だったのかもしれない。
心の奥底のホントのホントでは、『ぼくなんていなくてもいい』なんて思ってたのかもしれない。思ってないなんて『保証』あるか? どこにある?
『図々しく命令なんかしてるんじゃあねえクソガキ』なんて思ってたのかもしれない! 思ってないなんて『保証』あるか!? どこにある!? 

『絆がある保証』なんてどこにもないんだ!
いくら繋がってる気がしても、結局はそんな気がしてるってだけで実際そうだってわけじゃない。
心なんて読むことができないから当然のことさ。どこまで行っても結局は決定的な所まではたどり着けず、『気がする』で終わってしまう。
そう、自分と他の者の間には……人間とか家族とか親友とかポケモンとか、そんなものは関係なく!! 例外なく!!
必ず『決して覗き見ることの出来ない壁』が広がっているんだ!


107:11/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:08:14 +XZiqCqs
 絶望的な状況に脆くなった心は、いとも簡単に揺れ動く。
 ぼくは自然と黙りこくってしまっていた。
「ひょっひょ。わしは知ったこっちゃねーが、お前は知っているじゃろう……『どれだけ奴をこき使ったか』!! ひょっひょひょ!!
んっん~~~? 図星かね? ま、何度も言うようだがわしは知ったこっちゃねーがの。ひょひょひょ!」
 村長は立ち上がり、高笑いを残しながら去っていった。
 薄暗い道に、すぐにその後姿は見えなくなる。
 そして……耳鳴りと共に静寂がやってきた。

 ……いや。

 静寂の中から、聞こえてくる。『音』。
 土が削れる音。『何かが這ってくる音』。
 それが複数……何個も、何個も、マラカスのようにガシャガシャガシャガシャ。いくつも、だ。
 先程村長が残したある言葉が頭をよぎる。

”『それなりに』獰猛なのじゃよ。自分よりずっと大きい生物でも平気で食いよる。ま、奴等は肉食だからわしらは食われんがの”

 ぼくは、見た。
 床の下の狭い隙間から……何かが出てくるのを。
 複数の何か。虫ポケモン……?
 おそらくぼくの匂いを嗅ぎつけたんだ。『餌』の匂い……
 ふざけないでよ、ぼくは餌じゃあない。食べても美味しくない。
 もちろん煮ても焼いても多分美味しくない。そんなの餌か? 違うでしょ。だから餌じゃあない……
 頭がパニックにかき回される。
 と、その時。パニックにかき回されている筈の頭に、
 偶然か奇跡か天啓のように、ある『事実』が舞い戻った。

「……そうだ、これは夢だったんだっ!!」

108:12/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:09:34
 ぼくは、今まですっかり忘れていた『事実』を思い出した。
 途端に、今まさに胸にかかろうとしていた絶望の靄が晴れ、希望が現れる。

 そうだ、夢だったんだ!
 これは夢だっ! 故にぼくは死なない。
 目を覚ませばいい話だ。
 目を覚ますだけでこのピンチは一瞬でお仕舞い。
 そう、目を覚ますだけでいいんだ。簡単なお話じゃあないかっ!?


 どうやって目を覚ますんだ?


 ぼくはギュッと目を瞑った。
 数秒後目を開いてみると、そこにはさっきと全く同じ光景。
 意味も無く跳ねてみる。
 しかし なにもおこらない。
 頬をつねってみる。
 痛い。

 痛い。

 痛いよ。

 夢じゃなかった。


 やっぱり。


109:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 19:11:48
                                                     























110:13/13  ◆8z/U87HgHc
07/11/28 19:13:38
「村長と人間様……遅いなぁ……」

 また新しい料理を運んできたコノハナさんが、小さくそう呟く。
 そういえば、コウイチくん遅いなあ。もう何分経っただろう……
 ボクは野菜料理をほおばりながら、コノハナさんに尋ねてみた。
「ねぇ、コノハナさん。村長さん達どこに行ったんだろう?」
「さぁ、私は知りません……ってか、そもそもこの村に人間様に見せるものなんてありましたっけ?」
 首を捻り、考え込むコノハナさん。
 それを皮切りに周りの村人さん達も皆が皆、不思議そうに首をかしげながら、 色々と言い始める。
「この村って、人間様にわざわざ見せるような名物なんて特に無いよね」
「ってかさ、正直……村長って、何やるかわからないよね」
「ちょっと怖いもんあの人。この前俺がお花さん踏んじゃっただけで殴り飛ばされたし」
「マジかよ~~!」
 話の流れは、どんどん村長さんの悪い噂へと流れていく。
 優しそうな村長さんだったんだけどなぁ。
「ねぇ、竜さん」
「あむっ、ハイ?」
 いきなり話がボクに回ってきた。咄嗟に振り向いたので、ほおばっていたトマトが溢れてテーブルに落ちちゃう。

「ねぇ、竜さん。あなたも行った方がいいんじゃないですか?」

 ……
 ボクはテーブルからトマトを拾い上げ、再び口にほおばった。
 既に口の中に入ってた野菜と一緒にゆっくりと噛み締める。
 残ったトマトの破片や他の野菜を奥歯で磨り潰し、口内で舌を躍らせ弾け出た酸味を残さず舐め取る。
 崩れたトマトや他の野菜のごちゃごちゃになったものを、水と一緒にコクリと喉に送り込んだ。
 口の中に余裕が出来る。ボクは一息ついて、返事を返した。

「……――」

 つづく

111:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 20:00:12
おお、続き気になるな

112:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 21:04:24
みんなもっと活気出そうぜw

113:名無しさん、君に決めた!
07/11/28 21:45:03
48氏が帰ってくるのをお待ちしておりました。

続き期待しています

114:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 00:17:43
ハスブレロw

115:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 10:57:50
>>105-106の下りは前は無かったよな。

116:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 12:48:39
追加要素か

117:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 13:30:38
代わりにネイティオ様達がいなかった事にされてる…
早く続き来ないかな。

118:1/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:43:18
 頬に熱い線が走った気がした。
 痛み? これは痛みだ。生暖かいものが……
 いや、そんな事よりもだ。そう、『そっちよりも』。
 ぼくの『視覚』には更なる衝撃があった。

 ほぼ目の前にスコルピがいる。ぼくの顔と腕の間のガラス戸に、爪を突き立てたスコルピが。
 不意にスコルピの首がぐるりと回り、その赤い目がぼくを捕らえた。

「ひええええええ!!!」
 慌てて、ぼくはガラス戸から飛び退く。
 
 その一瞬でぼくは理解する。まずはぼくの頬に切り傷があり、そこから血が流れていること。
 そして、一匹のスコルピが『凄まじい速度でぼくの頭目掛けて飛びついてきたこと』。
 ともかく照準が外れたらしく、スコルピの爪の一撃はぼくの頬にかすり傷を負わせるだけに留まったんだ。

 しかし、だからって安堵なんて出来るはずがない。
 このスコルピは、にじり寄る事しか出来ないわけじゃなく、
 『その気になれば』とんでもない速度で飛びついてくることが出来るって事が分かったからだ。
 一命を取り留めたからって、『安堵』なんかよりむしろ『絶望』の溝の方が圧倒的に深まってしまった。

 まったく嬉しくない一命の取り留め方だバカヤローーーッ!!

119: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:47:52
ぎゃーす、順番ミスった。
>>118は無かったことにしてください。

120:1/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:48:41
 今まさに『隙間』から現れた無数の虫ポケモン……『スコルピ』が、ぼくを取り囲んでいる。
 凶悪そうなとんがった目を、鋭く研がれているであろう爪を、牙を、こちらに向け……
 皆が皆ぼくを見つめている。

 ……『餌』として。

「やめて……来ないで……来ないでよォ……」
 後ずさりしようとするも、それは出来ない。
 そりゃそうだ、もう背中が壁にくっついてるんだもの。
 これ以上、後ろにさがる事は出来ない。
 そう、逃げられない。逃げられない……
 重くて、重くて、重い事実がぼくにのしかかる。
 その事実が告げる、恐るべき方程式。


 逃げない=死ぬ
 逃げられない=ぼくはもう死んでいるも同じ

 I am DEAD!!
 DEAD!! DEAD!! DEAD!!


「うぎゃああああああああっ!! 誰か、誰か助けてくれェェーーーっ!!!!」
 ぼくは絶叫を上げながら、無駄だと分かりつつもガラス戸を渾身の力で何度も叩いた。
 何度も、何度も、手が痛いけれどそんな事、この期に及んで気にしていられない。
 叩いてる内に、無数のスコルピがジリジリとこちらへやってくる。
 チラチラと後方を確認しながら、ひたすらひたすらぼくは戸を叩く事に専念する。
 しかし、次の瞬間。

 パシュッ!

121:2/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:49:59
 頬に熱い線が走った気がした。
 痛み? これは痛みだ。生暖かいものが……
 いや、そんな事よりもだ。そう、『そっちよりも』。
 ぼくの『視覚』には更なる衝撃があった。

 ほぼ目の前にスコルピがいる。ぼくの顔と腕の間のガラス戸に、爪を突き立てたスコルピが。
 不意にスコルピの首がぐるりと回り、その赤い目がぼくを捕らえた。

「ひええええええ!!!」
 慌てて、ぼくはガラス戸から飛び退く。
 
 その一瞬でぼくは理解する。まずはぼくの頬に切り傷があり、そこから血が流れていること。
 そして、一匹のスコルピが『凄まじい速度でぼくの頭目掛けて飛びついてきたこと』。
 ともかく照準が外れたらしく、スコルピの爪の一撃はぼくの頬にかすり傷を負わせるだけに留まったんだ。

 しかし、だからって安堵なんて出来るはずがない。
 このスコルピは、にじり寄る事しか出来ないわけじゃなく、
 『その気になれば』とんでもない速度で飛びついてくることが出来るって事が分かったからだ。
 一命を取り留めたからって、『安堵』なんかよりむしろ『絶望』の溝の方が圧倒的に深まってしまった。

 まったく嬉しくない一命の取り留め方だバカヤローーーッ!!!

122:3/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:51:38
 スコルピ達の次の飛び掛かり攻撃は、間もなくのことだった。

「ひっ!」
 顔目掛けて飛び掛るスコルピを、ぼくは大袈裟に身を屈めてかわす。
 髪の毛が何本か刈り取られ、パラパラと降ってくる。
 その次のスコルピ達の攻撃は、 『ひとまず安心する』の『ひとまず』も無いほどに間が無かった。
 続けて、牙を剥きまるで弾丸か何かみたいに飛びかかってくるスコルピ。
 ぼくは咄嗟に、転がるようにしてその攻撃を避ける。
 ……まったく汚れのなかったおニューのスーツが、土に汚される。
 紺色のブレザーの生地に砂が混じり込み、茶色く変色している。
 傍目から見たらきっとみっともないんだろう。

 ……不様だ。

 ドッヂボールの試合で自チームに残ってるのは自分一人だけ、みたいな状況だ。
 なんて不様なんだ。なんてカッコ悪いんだぼく。
 それも、『先の無い不様さ』だ。
 『一瞬一秒の命を取り留めるだけの不様さ』だ。
 『見返りなんて一切存在しない不様さ』だ。
 これ以上に空しいことがあるだろうか? これ以上の絶望があるだろうか?
 ぼくはまだ子供で人生経験なんて浅いから胸を張って言えないけれど……多分ないと思う。

 とめどなく涙が溢れてきた。

123:4/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 15:54:56
 死はほぼ確約されてるのに、たとえ不様でも一瞬一秒の命をとりとめようと抵抗する。
 なんでだろう? それは……もちろん死ぬのがイヤだからだ! そんな未来を信じたくないからだ!
 まだ若いのに、夢だって実現してないのに、こんなワケのわからないことで死んじゃうなんてイヤすぎるからだ!

「くそおっ!」
 もう何度目か分からないスコルピの攻撃を、ぼくは死に物狂いでかわす。
 『諦めて素直に死にます』なんて選択肢は今のぼくにはありえない。
 
 ……必死に避けてるうちに、少しだけぼくが『絶対諦められない』ことに疑問が芽生えてきた。
 死ぬのはいやだけど……痛いのはいやだけど……本当の本当に『死が確約されてる』ならもう諦めがついてもいいんじゃあないか?
 なんでぼくは、絶対諦めようとしないんだ?
 そうだ。
 『ほぼ』って何?  死はほぼ確約されてる……『ほぼ』って何だ!?
 ほぼって事はほとんど。つまり『大半』って事だけど……
 『大半』って事は、『大半じゃあない部分』がまだあるって事じゃないか!
 それって、つまり……助かる可能性。希望だ。
 希望ってなんだ? ぼくを絶対諦めさせない……その希望って何だ?

 フライゴンだ。

 そこまで、ぼくは到達した。 心の底にポテトチップスの残りカスのように密かに残るちっさな『希望』へ。
 ……しかしその瞬間に、あの一言が頭をよぎる。

”『保証』は?『保証保証保証』!『強い絆があるっていう保証』は!?
所詮お前の一人よがりなんじゃあないのか……? ええ!? ”
 
 ……やっぱり、希望なんて……

124:5/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:00:52
 ガシャアァァン!!!

 突如、洞窟中にけたたましい音が響き渡る。
 この音は何だ? 何かが割れる音……ガラスが割れる音。
 スコルピ達の目が、一斉にその音源へ向けられた。ぼくもそちらへ目を向ける。
 ガラス戸がある方……『先程までガラス戸があった』方向へ。
 そこには、まさかのまさか……
 いや、やはり……か?
 まさかなのか、やはりなのか、どちらか分からないけれどともかく……

 フライゴンがいた。

 あの全身緑のボディのドラゴンは、間違いなくフライゴン。ぼくのフライゴンだ。
 フライゴンが壁を突き破り、助けに来てくれたっ……?
「コウイチくんっ!」
 色んな感情が混ざっているような声を上げて、フライゴンは急いでこちらへ向かってくる。
 と、ぼくは見てしまう。一匹のスコルピが、フライゴン目掛けてぼくにしたのと同じく勢いよく飛び掛っていくのを。
「フライゴン!」
 咄嗟にそう危険を伝えるが、そういい終えるや否や、
 フライゴンはしっぽを思い切り薙ぎ払い、飛び掛るスコルピを一蹴した。
「……!」
 あっけなく吹っ飛んで行き、倒れ動けなくなるスコルピ。
 危険を予知したのか、他のスコルピ達がたじろぎ後じさりを始めた。

「邪魔だぞ、虫ども……!」

 フライゴンはいつもよりも低いトーンでそう言い、スコルピ達を威嚇するように睨み付ける。
 その目には、激しく燃える怒りの色が……
 怒り……
 ぼくのために、こんな怒ってくれている……

125:6/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:05:09
「乗ってください、コウイチくんっ。早くここ出ましょう!」
 フライゴンは背中を向け、ぼくに乗るように指示する。
「あっ、うん……」
 ぼくは少し遠慮気味にフライゴンの背中に乗る。
 ぼくがフライゴンの体に手をかけた瞬間、彼は羽を大きくはためかせ、
 髪が全て後ろに靡く位の凄まじいスピードで飛行を始めた。
「うっ……!」
 空気がぶつかる音が聞こえる。ぼくはたまらず頭を伏せ顔をフライゴンの背中にうずめる。
 それも一瞬で、二秒、三秒経たぬ内にフライゴンの動きは止まった。
 頭を上げ、顔を上げる。そこはもう洞窟の外だった。


 空が赤く染まっている。夕焼けの時間だ。
 フライゴンの緑の体も、赤みが混じり橙色に染まって見える。
「……あっ」
 ぼくは慌ててフライゴンの背中から飛び降りた。
 何となく、そんな長く乗ってたらいけないような気がしたんだ。

「大丈夫ですか? 危機一髪、ってやつでしたね……」
 目を細め、ぼくを心配そうな目で見つめるフライゴン。
 傷口一つ一つに目を通すように目を動かし、小さく 「かわいそう……」 と呟く。
 本気で心配してくれている。嬉しいんだけれど、ちょっとした疑問があってぼくは素直に喜べない。
「あの……フライゴン」
「はい?」
 言う直前少し躊躇いそうになるけど、ぼくは何とか最後までこう言った。

「なんで、ぼくを……助けに来てくれたの?」

126:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 16:07:04
おお

127:7/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:11:40
「はい? えーとですね……実は食堂に村長が一人で戻ってきてですね……
 ぼくや村の皆で質問攻めにしたらコウイチくんをここに閉じ込めた事とか諸々得意げに喋り出して……
 いい人そうな村長さんだったからちょっと信じられなかったけれど、とりあえず行ってみたら……って事でして」

 顎に指をやりながらそう喋り出すフライゴン。……違う、ぼくが聞きたいのはそういう事じゃない。
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「え? じゃあーどういう……」
「あの……ぼく、こき使ってたじゃないか」
 ぼくがそう言うと、フライゴンは 「へ?」 と呟き、呆気に取られたような表情を取った。
 ぼくの言ってる意味がよく分からないのか。ぼくは構わず続ける。
「ぼく……きみ達ポケモンをこき使ってたじゃないか。
 勝手に捕まえて、勝手に戦わせてさぁ……都合のいいように……」
 なぜだか、言っている途中に瞼の奥で何だかよく分からないものがこみ上げてきて、目にぎゅうっと力が入り涙が強引に押し出される。

「村長が言ってた通り、ぼくポケモン達に本当は恨まれてんじゃないかって思って……
 本当は『絆』とか『信頼』なんてぜんぜん無いんじゃないかとか思ってさあ……
 助けに来てくれないと思った……本当は、ぼくなんかとは離れたいと思ってると……思った」

 喋りながら、迷子の子供のように何度も目をこすり、鼻をすする。
 瞼が痛いけれど、それでも涙が溢れて止まらないんだから仕方ないじゃん。
 そうやってずっと泣きじゃくっていると……
 フライゴンは慰めるようにぼくの頭に手を置いて、わしわしと優しく撫で始めた。
 そこには恨みとか何とか……そんな冷たい感情は一切感じない。
 とても優しくて……暖かい、手。

「……バカ言わないで下さい」

128:8/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:16:08
「こき使われてるから恨んでるとか……そんなこと全然ありません。
 それどころか、ボクは……ボク達は、もっともっとコウイチくんの役にたちたいって思ってるんですよ?
 ねぇ、何でか分かりますか……?」

 ぼくの頭を撫でながら、ゆっくりと、親が子供におとぎ話を語るような優しい口調でそう言うフライゴン。
 ぼくは、涙が浮かび真っ赤な目のまま顔を上げてフライゴンを見つめた。
「本当に……?」
「ええ、本当に。……ふふっ、嘘なんかつく意味ないじゃあないですかっ。
 もし本当は嫌ってるとして、それをぶちまけた所で怒られるわけでもなし、叩かれるわけでもなし。
 嘘なんかつく必要ないでしょう? こんな優しいコウイチくん相手にっ!
 そう、本当にボクがコウイチくんを嫌いだってんなら、嘘なんかついて気遣うはずもないですしねーっ」
「……」
 フライゴンは一息おくと、ふっと柔和な笑みを浮かべこう言った。

「何でボク達はもっとコウイチくんの役にたちたいと思うか……
 それは、感じるからですよ。コウイチくんと一緒にいると、ひしひしと伝わってくるからです。
 コウイチくんが、どれだけボクらを可愛がってくれてるか……愛情を注いでくれてるか……
 楽しいこと、いっぱいあったでしょう? 辛い事もあったけれど、いつも協力して乗り越えてきましたね」

 フライゴンはそう言うと、どんどん思い出していくように『思い出』を列挙しはじめた。
 ぼくとポケモン達の思い出。一緒に過ごしてきた思い出……
 フライゴンの一言一言に傷ついた心は癒され、充足感に満ちていく。
 絶望やら何やらで完全に消えかけていたポケモン達との清き思い出が、どんどん蘇ってくる。

129:9/9  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:19:39
「『絆』がないわけないじゃあないですか。『信頼』がないわけ……
コウイチくんがボク達を好きでいればいるほど、ボク達はコウイチくんを好きになるんです。
コウイチくんがボク達を信頼すればするほど、ボク達はコウイチくんを信頼するんです
ねぇコウイチくん? コウイチくんは……ボク達のこと、どれくらい好きですか? どれくらい大切ですかね?」

「どれくらいって……それはもう命と同じくらい大切だよっ!」
 ぼくはそう即答する。建前とか嘘とかじゃあない、全くのぼくの本音だ。
 ぼくにとって、ポケモン……友達は、家族は、最上級に大切なもの。
 他にも大切な物や失いたくない物はいっぱいあるけれど、その中でも一番大切で掛け替えの無いものだ。

 フライゴンは口元に笑みを浮かべたまま、物憂げに目を瞑り、俯いた。
「それなら……ボク達もそうなんですよっ」
 囁くようにそう言うとフライゴンは顔を上げ、今度はぼくの顔を真剣なまなざしで見つめながら喋り始めた。
「ボク達はみんなコウイチくんを誰よりも好きだし誰よりも信頼してるんですよ? だから……
コウイチくんも、何があってもボクを信頼しててください。信頼されてないのは……辛いですし、ね」

 言い終えてからフライゴンは、ぼくの頭をぽんぽんとあやすように軽く叩く。
 ぼくは、またまたまた涙が溢れてきていた。 今度は、とても暖かい涙。先程の冷たい涙とはぜんぜん違う……

 フライゴンは、ぼくをこんなに思ってくれていた。言葉のおかげで、彼の態度のおかげで、想いが伝わる。
 ……完全に信頼をしていなかったのは、むしろぼくの方だったんだ。
 ぼくからフライゴンへの、そしてフライゴンからぼくへの道中にある壁を不透明なモノにしていたのは、このぼく自身だったんだ。

 これからはもう……疑わない。フライゴンの事は絶対に……疑わないっ。
 そして、信じる。『フライゴンがぼくを信じていると信じる』。
 
 涙が溢れ、ぼくの中の壁の不透明な部分が洗い流されていくと同時に、命の危機を抜け出したという安堵感もどっと胸に満ち溢れ出した。

「さて……戻りましょうかコウイチくん。
あの村長さん……どうしてくれましょうかねっ」

130: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 16:21:49
>>128で台詞の部分ミスした……
次はまた6時半過ぎからです

131:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 17:07:20
これは確実にもっと評価されていい

132:1/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 18:44:49
「村長……あなた、自分が何したか分かってるんですか!?」

 食堂。
 ハスブレロ村長の周りを、村人達が取り囲んでいる。
 村人達が村長を見る目は、畏怖と困惑を同時に包容していて……
 それは、目の前の村長が『しでかした事』がいかに重大であるかを表している。
 しかし、村長はそんなこと全く問題でないという風に、ふてぶてしい態度を取っている。

「何じゃ、何じゃ? わしが何したか分かっているじゃとォ……?
あぁ!? お前らが何言ってるのか分かってるのか!!」

 村人達全員が、村長の剣幕に押されビクリと震える。
 村長はイライラした風に椅子から立ち上がりながら、老体を思わせない物凄い剣幕で村人達全員に檄を飛ばし始めた。

「人間が魔王の復活に重大な鍵を握っているという事をお前らは知らんのか?
あのまま、あ奴らガキ人間をほったらかしといたら、すぐ魔王にとっ捕まるに決まっとるだろうがァ!!
人間はひ弱な生き物だ。無論、炎も吹けなければ竜巻を起こす事も到底出来んっ!
あの隣にいた竜も、まるで覇気が感じられんかった。所詮見掛け倒し、魔王軍にかかればイチコロじゃっ!!
分かるか、あァ~~~~ん? わしゃこの村のためっ! この世のためを考えて行動したのじゃ!!
それを……お前ら何じゃぁーーっ!?」

133:2/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 18:47:10
 ハスブレロ村長の激に、辺りがシンと静まりかえる。
 村人達はほとんどが顔を伏せ、村長を見つめている者はみなどうしていいか分からないような表情をしていた。

 静寂の中コノハナがふと呟くようにこう言った。
「だからって、殺すまでは……殺すのは流石に……」
「あ?」
 コノハナのその呟くような反論に、ハスブレロ村長は敏感に反応する。
 村長は顔にいくつもの筋を作りながら、コノハナの目の前に立ちまた怒号を上げた。
「わしのやる事にまだ文句を言うか貴様ァーー!! 若造の分際で生意気じゃぞォーー!!
人間が死ぬだの何だの、このわしが知ったこっちゃあるかァーーーー!!!」
「……!」
 村長がそう言い終えた時、コノハナは完全に言葉を失っていた。
 何も言えず、黙りこくって……
 ……口を半開きにして、目を驚きに見開いている。
 その視線は……村長ではなく、その『後ろ』にあった。
「……何じゃ貴様。何を見ている?」
 村長も、すぐさまその事に気付き目の色を変える。
 コノハナは、震えた動作で村長の後ろを指差し……
「……村長、後ろ、後ろ……」
「あ?」
「村長ーーっ! 後ろ、後ろーーっ!」
 村長は、指に従いゆっくりと後ろを振り向いた。
 後ろのその『一つの影』を見た瞬間、彼の脳内に並々ならぬ衝撃が走った。

 先程の話題の『人間』が……閉じ込めたはずの『人間』が……いまその場に立っていたからだ。

134:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 18:48:16
キタ━━(゜∀゜)━━!!

135:3/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 18:50:44
 ……ぼく達の姿を確認した時のハスブレロ村長の顔は、まさに衝撃一色だった。
 ぼくの予想以上に、いい顔をしている。
 村長がぼくにあんな事をでかした事も相まって、村長の衝撃に揺れる顔は非常に愉快だ。
 この顔を見れただけでも、閉じ込められた甲斐はあったかもしれない。
 と、村長はその顔のまま『信じられない』と言った風な震えた口調でこう言う。
「な、なんで……なんでじゃ……」
「ボクが助けたんです。あの脆いガラス戸をぶち破ってね」
 ズイと前に出ると同時にフライゴンはそう言う。
 フライゴンはまっすぐハスブレロ村長を睨みつけている。怒りに満ちた目でだ。
 村長がたじろぎ怯えているのが、目に見えて分かる。
 フライゴンはおどしかけるようにまた前に一歩出た。
「村長……あんたはボクに言いましたね。『行った所で助けられない』と。
あんな脆いガラス戸を信用してたんですか?」
「う、うう……」
 いざ丁寧語は使っているものの、フライゴンの語調からはハスブレロ村長に対する敵意がぷんぷんだ。
 今にも、村長に襲い掛かってしまいそうなほどに、だ。
 こんなに怒っているフライゴンは、珍しい。ぼくのために怒ってくれてるんだ……
 村長もそれを感じ取っているのか、顔を真っ青に染めおろおろと視線を泳がしている。
 その村長を見つめる村人達の目つきも、『因果応報だ』とでも言う風で、庇う気はさらさら無さそうだ。
 フライゴンと村人達に見つめられ……勿論ぼくにも見つめられ、無言の圧力を一身に受けている村長は、いまどんな気持ちだろう。
 ……なぜだか、少し村長に対して同情が……

「よ、よくやった」

「え?」
 『よくやった』。そう言ったのは、ハスブレロ村長だ。
 食堂中に少しだけざわめきが起こる。
 しばらく経ってざわめきが止まった瞬間……村長は続けてこう言った。

「じ、実は試練だったのじゃよ。ひょっひょ。よくやった、よくやった。
き、君達は魔王を倒す、勇者になれる素質を持っておる」

136:4/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 18:53:16
 ぼくは驚愕した。
 もちろん、村長のその言葉の意味に対してではない。
 見るからに、聞くからに、感じるからに、村長の発言は100%嘘に決まってるからだ。
 ぼくが驚愕したのは……『この状況でこんな事を言える村長のふてぶてしさ』にだ。
 芽生えかけてきた同情の心も、村長のその言葉を聴いた瞬間に砕け散った。

「はぁ?」
 そう言ったのはフライゴンだった。
「い、いや、ほ、ほんとうじゃよ。試したんじゃよ。君達が魔王と戦えるかどうかを……
ほ、ほら。わしらモンスターが、に、人間様を殺そうとするわけ、ないじゃろう? は、ははは」
 村長は、かたくなに嘘を続けようとする。
 バレてないとでも思っているのだろうか? このまま押し通せるとでも思っているのだろうか?
 先にしびれを切らしたのは、フライゴンだった。
「こ……この後に及んで何をォーーっ!!
ボクは怒ったぞ! コウイチくんをこんな風にさせた罪……償えっ!」
 フライゴンは憤怒の形相で腕を振り上げる。
 村人達は咄嗟に顔を伏せたりするも、誰も止めようとするものはいなかった。
「ひっ!」

「待って!!」

 突如、大声での静止が入った。
 フライゴンの動きがピタリと止まり、腕がゆっくりと下ろされる。
「え……何で……?」
 ゆっくりと、困惑の目つきでこちらを振り向くフライゴン。

 そう、静止を入れたのはぼくだ。

137:5/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 18:55:15
「何もしなくて、いいよ。」
 フライゴンの肩に手を添え、ぼくは静かにそう言った。
 フライゴンの目が一層困惑に揺れる。
 村人達も、驚き目を白黒させている。
「な……何でですか?コイツはコウイチくんを殺そうとしたんですよ!?」
 ぼくの顔と、ぼくの体のいくつかの傷跡を交互に見交わしながらそう尋ねるフライゴン。
 フライゴンは、ぼくの仇を取りたくてどうしようもないみたい。だけど……
「あの村長だって……村やみんなを守るために、ぼくを殺そうとしたんだ。
別に悪い人ってわけじゃあない……だから、いいんだよ。別に……」
「そ、そんな……」

 村長は確かにぼくを殺そうとしたし、何度も小ばかにしたような発言をぼくに浴びせかけた。
 けど、別にそこに完全な悪意があったわけじゃあない。
 それよりも何より、相手はポケモンでありしかも老人だ。ズタボロにされるのを黙って見てられるか?
 それに……結果的にだけど、奴のおかげでぼくとポケモン達との絆がハッキリしたのも事実だ。
 これが『夢じゃあない』ってことも……

「帰ろう、フライゴン。この村から出よう……」
「で、でも……」
「いいから」
 ぼくは渋るフライゴンの羽を掴む。
 フライゴンはキッと一度村長を強く睨みつけると、渋々ぼくに従って身を翻した。
 ……ゆっくりと、フライゴンと一緒に食堂を出ようとした、その時だ。

「さ、さすが人間様! 寛大なお方じゃのう! そ、それでこそ勇者の素質あり、じゃ! ひょ、ひょひょ!!」

 まるで捨て台詞の如く、村長がそう叫んだ。
 ……しつこく、あの『嘘』を押し通しそれで完結させようとしている。
 意地でも自分のした事を『正当化』させたいんだ。
 あんなことをしておきながら……底意地が腐っている。

 ギリギリ繋がってたぼくの堪忍袋の緒が、ついに千切れ去った瞬間だった。

138:6/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 18:57:14
「おまえ――!!」
 ぼくは、考えるよりも先に体を動かしていた。
 勢いよく振り向き、村長をギッと睨みつける。
「ひっ」
 村長は身を竦め、その顔がまた恐怖に歪んだ。

 殴れない代わりに、ぼくは力強く睨みつける。
 精一杯目つきを鋭くさせ、精一杯歯を食いしばり、
 村長へ、ぼくの怒りの念をただひたすらに送る。
 もっと怯えろ! もっと怖がれ! もっともっと後悔するんだ!! もっと! もっと!!

「……あやまれ」
 ヒリヒリと疼き痛む傷口が、ぼくにそう喋らせた。
 ぼくのその一言を聞いて、村長が一瞬呆気に取られた顔をしやがった。なんだその顔は―

「あやまれって言ってるんだァーー!! 人を殺しかけて、その上あんなふざけた口まで聞いて、誠心誠意あやまるのが
当然ってもんじゃあないかっ!? この世界では『失礼なことをしたらちゃんと謝れ』って教えてないのかァーー!?」

 ぼくは叫んだ。感情に身を任せてこんな怒り叫んだのなんていつぶりだろう?
 それにしても、ぼくみたいな子供が老人に対してこんな口を聞く方が失礼なんじゃ……
 いやっ!! 奴のしたことは深刻だ! それはぼく自身が一番分かっているだろう!?
 あれほどの事に、年の差とか種族の差なんて関係あるかっ!

 ともかく、ぼくの怒号の迫力に押されたのか、あのプライドの高そうな村長はまず床に膝をついた。
 ギリリと歯を食いしばり、おそらく恥や後悔、悔しさに押しつぶされそうになっている。
 だけど、もうぼくはそんな村長を見ても同情なんて微塵も沸いてこない――
 フライゴンも、村人達も、ぼくの前に膝をつくハスブレロ村長をある意味小気味良さそうな目で見つめていた。
 そして……

「……すまなかった、すまなかった、人間様ァ!! だから、許して……許して、ください……」

 ぼくをあれ程絶望に追いやった村長は、ついにそのぼくの前で地に頭をこすり付けた。

139:7/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:01:05
 …………

 人間とそのお供の竜が食堂から……この村から去って、既に何分かが経過した。
 それでも、ハスブレロ村長は硬直したようにまだ床に頭を擦り付けたままだ。
 取り囲んでいる村人達の目も、だんだん憂慮の色に染まっていく。
「あ、あの……村長……」
 しびれを切らした一人のコノハナが、村長の元へ近寄る。
 と、彼が近寄った瞬間、村長は不意に頭を上げた。
「!」
 村人の間に一抹のざわめきが起こる。
 驚き、じりっと後退するコノハナ。
 村長はぐるりと首を捻りそのコノハナの方を見つめると、こう言い出した。

「……あ~あ。とんだ災難じゃったのう」

 そう言いながらゆっくりと膝を伸ばし立ち上がる村長。
 その表情は、反省の色などは微塵も無い涼しい顔だ。
 あるのは『やっと厄介事が過ぎ去ったか』程度の感情のみ。
 村人達は、一斉に黙りこくり村長を見つめ出す。
 ……その目の表情は、あくまで冷徹な物で……
「……何じゃ、何を黙りこくっとる? 何だその目つきは?」
 それを、村長も感じ取る。
 村長は不愉快な気分をそのまま声量に変え、村人達全員に向けて怒鳴りつけた。

「何なんじゃその目つきはーーっ!! わしは何も悪いことはしていない、そうじゃろう!?
そもそも何じゃ貴様ら、何でさっき黙っておったー!? 村人としてわしを庇うのは当然のことじゃろうが、オラッ!」

 べちんべちんと地団太を踏みながら説教を始めるハスブレロ村長。
 しかし、村人達が村長を見つめるその冷めた目つきは依然変わらず……
 しばらくすると、一匹のハスボーが無言でハスブレロの横を通り抜けていった。

140:8/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:03:38
「お……おい? ど、どこへ行く? 説教はまだ終わっとらんぞ……」

 慌てて引きとめようとする村長。
 しかし、ハスボーは一切反応の様子は見せずに食堂を出て行ってしまった。
 そしてそれを皮切りに、村人達が次々と無言で村長の横を通り抜けていく。
「お、おい、何じゃ!? 誰が帰っていいと言った!?」
 うろたえ、叫ぶ村長。しかし誰も一切その声に反応しようとはしない。
 村人は、ほぼ全員無言のままに外へと出て行き、
 やがてその場には、ハスブレロ村長と、給仕をしていた一匹のコノハナの二匹だけが残されるのみとなった。
「ぐ、うう……」
 ズタボロに傷ついたプライドを押さえるように歯を食いしばるハスブレロ村長。
 と、コノハナがそんな村長に近寄り、冷たい口調でこう言った。
「あんな横暴をしでかして……村人達にも見放されるのは当然です。
老人相手にこう言うのも何ですが……あなた、きっと近い内ひどいバチが当たりますよ?」
 コノハナはそう言い放つと、厨房の奥に消えていった。
 広い食堂に、ハスブレロ村長一匹が残される。
 村長は荒い鼻息をつきながら、ふらふらと壁にもたれかかった。
 辺りの静寂と反する心の激しい怒りと後悔を少しでも晴らすように、
 村長は壁を強く、思い切りたたきつけた。

「……くそっ!! くそっ、くそっ!!」

 怒りと悔しさに壁を叩きつける村長。
 何度も何度も、手が痛むのも全く気にせず壊れたように壁を叩きつけ続ける。
 それから長い時間、村長は食堂を出ずに手が壊れそうになるまでずっと壁を叩きつけ続けていた。

141:9/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:06:46
「さっ!! これからどーしますか? コウイチくんっ!」

 黒が差し込み間もなく夜へと向かおうとしている空の下を、ぼくはフライゴンと一緒に歩いている。
 フライゴンの問いに、ぼくは大袈裟にウーンと考える仕草を取ってこれからの事を考えた。

 ハッキリしてるのは、これは『夢じゃあない』ってこと。
 ってことは、これからやる事は二つだけ。そして最も優先する事は……

「まずは、はぐれたポケモン達、あとミキヒサを探す事だねっ!
たくさん色んなところへ行こう! ……あはっ、観光代わりにもなるかもねっ」
「ですねっ。……観光っ! それいい発想です、コウイチくんっ!」
「でしょ? せっかくこういう所来たんだし、楽しまなきゃ損だよ~」
「さすがコウイチくん、ポジティブシンキング!」
「そ、そうさそうさ、ネガティブでいい事なんか一つもなしだし……これからのぼくはポジティブぼくだっ!」
 そう言ってからぼくは手を大きく広げて、いかにぼくが
 ポジティブであるかを全身で表現してみた(この仕草のどこがポジティブの表現になってんのかは自分でもよく分からないけど……)。
 ……と、そんなポジティブぼくの脳内ビジョンに、不意にこんな言葉が浮かんでくる。

 みんな無事でいるかな……

 ……い~や、きっとみんな無事でいるに決まってるさ!
 ……自分がこんな目に会っといて、ちょっとそれは説得力ないけどさー。

 ……本当に元の世界に戻れるのか。

142:10/10  ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:08:09
 吹きすさぶ夜の風と共に何かそんな考えもふと頭に浮かんできたけど、ぼくは慌ててそれを打ち消した。
 そうさっ、これからのぼくはポジティブぼくっ! こういう事はなるべく考えちゃいかんいかーん!

「……ふふっ」
 そんなこと考えてると、何故だかちょっと笑みがこぼれてしまった。
 不思議そうにフライゴンがぼくを見つめる。少し笑みの残った顔で見つめ返すと、フライゴンもぼくにつられて笑みをこぼした。
「……うふふっ」
 そのフライゴンの笑みにつられて笑うぼく。
「あははっ」
 そのぼくの笑みにつられて……
「あっははーー!」
 そのフライゴンの笑みにつられて……
「あはははーー!!」
 少し経ったら、またまたぼく達は大声で笑いあっていた。
 とても温かくほのぼのとした雰囲気が、ぼくたちを包み込んだ。

 こうしていると、少し前に壁の中に閉じ込められて死の危険に晒されていたことが、まるで夢のようだ。
 フライゴンの信用を疑い絶望していたことが、まるで夢のようだ。
 でもあれは夢じゃあないんだよね。すべて実際あったこと……現実なんだ。
 閉じ込められたことも、死にかけたことも、フライゴンを疑ったことも、直後にフライゴンが助けに来たことも……
 ……うふふふっ。
 甘美だっ!
 甘美すぎるっ!
 あーゆー大ピンチを乗り越えたことにより生まれる安心感が、こんなに甘くて美味しいものだなんてっ!
 舌がとろけるぅっ! ほっぺたが落ちるぅっ! うわーいっ、こりゃあ三ツ星レベルだねっ!
 夢ではないのは分かってるけど、これが夢だとしたら絶対覚めてほしくないよっ! ふふっ、都合いい人間だよね、ぼくってば。

 わははと明るく笑い合い、腕をふりふり足取り軽く、ぼく達は次の場所へ向かっていった。


 第一話 おわり

143: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:15:53
 少し時は進み……ある場所でのこと。

「ぺリッパーー! はいはいはァい、このぼくぺラップが夜七時をお知らせしまァす! ペリッパーー!!」
「シャーーラップ!! 声量を控えろぺラップ。もう夜なんだぜっ!!」
 相変わらずやかましいぺラップに喝を入れながら、俺はある報告を済ませようと廊下を急ぎ足で進んでいた。
 ……向かう先は、我が飛鳥部隊の長の部屋。

「失礼します」

 自慢の鋼の翼で扉をノックし、部屋に入っていく。
 ……我が部隊を治める、いわばリーダー……部隊長、ネイティオ様の部屋。
 ネイティオ様は相変わらず、夜だというのに部屋のライトもつけず
 壁全体を覆うほどの大窓の前に立ち、夜空の満月をただじっと見つめている。
 俺が部屋に入ってきた事に何の関心も示さない。 ……気に入らねぇっ。

「……飛鳥部隊、副部隊長……エアームドでございます」
 名を名乗っても、ネイティオ様は一切何の反応もしようとはしない。
 しかし、これもいつも通りの事。気に入らねぇ。気に入らねぇが……もう慣れっこだ。
 俺は窓を見つめているネイティオ様の背後に立ち、先程部下から受けた報告を部隊長に告げた。
「今朝、我が部隊のオニドリルがサイシ湖にて、人間と新たな竜騎士と思しき者と遭遇したそうです。
……いかがいたしましょう、ネイティオ様。ご命令を」
 ネイティオ様のグリーンの後頭部と、その後頭部から突き出る二本の長く赤い毛の束をじっと見つめながら、返事を待つ。
 ……それなりの沈黙が続いたが、しばらくしてネイティオ様がようやく口を開いた。

「ご命令を……そう言ったな」

 こちらを向かないまま、そう俺に向かって言うネイティオ様。
「言いましたが……それが何か」
 ネイティオ様の後姿に並々ならぬ威圧感を感じながら、恐る恐るそう言うと……

「キミは無能だな」

144: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:19:56
「は?」
 突如投げかけられた厳しい言葉に、思わず感嘆符が漏れ出る。
 ……その言葉に対するネイティオ様の反応は、異常に早かった。

「『は?』……だと? 『は?』といま君は言ったな!?
 何なのだその無礼極まる態度は。それが目上の者に対する言葉かね? 君は礼儀も知らないのかね!?
 そのような言葉を臆面も無くこの私の前で出せるとは、礼儀知らずも甚だしいというものだ!
 目上の者に対する礼儀がっ! 行儀がっ! 君には一欠片もないようだな!
 君のような物こそ、まさに『無能』という呼び名がふさわしい!!」

「!」
 まるで土砂崩れでも起こったかのようにいきなり饒舌になり、やたらめったら言葉を吐き出すネイティオ様。
 ネイティオ様の後頭部が、赤い二本の毛の束が、プルプルと揺れている。
 その説教は、まだまだ続いた。

「先程……君は『命令を』と言ったな。上の者から命令を受けねば君は動けぬのか?
 全くの無能め! それくらい己の脳で判断し動くのが下の者として当然のことであろう!
 私の集中を乱しおって!! 私に無駄な時間を取らせおって!!
 いいか、無能よ。この世界にて最も生きる価値のない者とは何か知っているかね?」

「……」
 俺は、答えずにじっと反応を待つ。しばらく経つとネイティオ様は溜息混じりにこう言った。

「無能な者だ」

145:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 19:30:03
初支援。
俺には文才はないから応援しか出来ないから頑張ってくれ。

146: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:33:23
「この世界は神によって作られた物であることは君も知っているであろう!
そして、何故我々は作られたのか? きみは把握しているのかね?
神は何より退屈を嫌う。神は飢えているのだ。全知全能、それ故に神は飢えている。
そこで神は生物を作った。まずは知能というものは存在しない機械仕掛けとなんら変わらぬ物達をだ。
しかし、その知能なき物同士がただ食らいあい生き延びるだけの世界に神は程なくして飽きた。
当然であろう、単純だからな。『知能』のない世界は、弱肉強食……ただそれだけだ。
そこには過去も未来もない。同じ世界が延々と続くつまらぬ繰り返し。
至ってシンプル、単純至極。いかに飢えているとはいえ、すぐに飽き果ててしまうのは当然のこと。
だからこそ神は我々を作ったのだ! 『知能』、つまりは『果てなき可能性』のある我らモンスターをな!
我らは日々その可能性を開拓し続けねばならない。神の退屈を凌ぐためにだ。
我々は神を楽しませるために生きているのだ。だからこそ、可能性を開拓しようともしない……
神を楽しませることのできぬ『無能な者』に生きる価値は一片も無い! これはもはやこの世の真理!!
遥か過去……そして遥か未来……いついかなる時もこれこそがたった一つの真理なのだ!!
よって全ての能なき者は能ある者の糧になるべきである! 強き生物が弱き生物の肉を食らうようにな!
だが、君のその鋼の肉体はとても食らえそうにないな……たとえ餓鬼であろうと口に入れようとはしまい。
ならばバラバラに解体し、あぶり焼き鉄火にでもしてくれようか!?
ふん! 君のような無能がいると『確たる未来』が霞むのだ! 
無能はすべからず私達のような能ある者の足を引っ張る……フッ、これもいわば『真理』だな。
私の見る『確たる未来』。魔王様の理念、『世界が一つになる』という『確たる未来』!! それを揺らがしてくれるな無能よ!!」

「……」
 意味の分からない毒電波台詞を長々と喋るネイティオ様。
 これがコイツの本性なのか? クレイジー。そうとしか表現のしようが無い。
 ともかく、散々無能と言われ俺は少々頭にきかけている。
 年中つっ立ってるだけのお前こそ無能なんじゃないのか……!?

「エアームドよ、仏の顔は何度までだ?」
「え?」

147: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:35:35
 ネイティオは遂にこちらを振り向いた。普段は半開きのはずの目が怒りにかっ開き、異常な威圧感をかもし出している。
 そのまま、ネイティオは俺目掛けて今までにない声量で怒号を吐き出した。

「仏の顔は何度までと聞いているのだこの無能がァァーーーーーーッ!!!
いかに君のような学無き無能といえど、この程度の知識ぐらいはあるだろう!?
それとも君の頭は飾りかッ!? それとも君の耳が飾りなのかッ!? それとも両方飾りかァッ!!!
ほ・と・け・の・か・お・は・な・ん・ど・ま・で・だ? 答えろォーーーーーッ!!!!」

「さ、三度までですっ!!」
 あまりの剣幕に押され、咄嗟にそう答える。
 答えは合っている筈だが、ネイティオは怒りの表情を変えず続けてこう言った。

「そうだ、三度だッ!! 礼儀知らずの発言で一度、
無能ぶりを長く曝け出し私を苛立たせた事で二度、猶予はあと一度だ!!
あと一度無礼を働いてみろ!! その瞬間貴様の体のパーツは四散し、
そして跡形も無く砕け散り、君の未来は完全に消え去るものと思え!!
早く出て行けッ!! そして人間を君の指揮で捕らえ、少しは能があることを見せてみろッ!!」

「うっ!?」
 突如俺の体がフワリと浮いたと思うと、猛烈な勢いで俺の体が後方に飛んでいき、
 部屋の外の壁に叩きつけられたのだ。
「……!」
 衝撃に軋む首を持ち上げネイティオを見ようとすると、
 誰かが閉めたかのように一人出に扉がガチャリと閉まり、部屋の中は見えなくなった。

「……チッ」

 俺は不愉快な気分に荒い鼻息を漏らしながら、
 心中に溜まるどうにもならぬ苛立ちを少しでも発散させるように、力強く舌を打った。

148:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 19:36:49
スーパーネイティオ様タイム来たコレw

149: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:39:24
 何が無能だ、ビークワイエット!!

 廊下を早足で歩きながら、俺は心中でネイティオへ罵声を浴びせる。

 見ろ、俺のこのシルバーに輝く美しき鋼のボディーを!
 この鋼のボディーはいかなる攻撃も通さない。そして圧倒的高度を誇るこの鋼鉄のウィングは、鈍器にも刃にも変わる!
 ネイティオ! アンタが最後に見せたサイコキネシス攻撃は俺には一切効いていなかったぞ!
 いつか……ふんぞり返っているだけのアンタを蹴り落としこの俺が部隊長の座についてやるっ!
 そしてまずは……『俺の指揮』でっ! 人間と竜騎士を捕らえてみせる!
 そうだ、全ては俺の手柄になる! そうなれば俺はアンタの座へ昇格、そしてアンタは自動的に俺の座へと降格だァ!!


「『飛鳥三幹部』!!
ピジョット! ムクホーク! ヨルノズク! 出番だぁっ!!」

 俺は部隊長の部屋のドアを開けた時とは比べ物にならぬほど力強く、『三幹部』の寝部屋のドアを開ける。
 部屋の隅々にそれぞれ巣を作り眠っている飛鳥三幹部。
 俺の呼びかけに、深く眠っていたはずのピジョットとムクホークは瞬時に身を起こす(ヨルノズクは最初から起きていたが)。

「……ワタシ達に、こんな時間に何の用ですかエアームド様? 騒々しい……」
 ピジョットは起き上がると同時に羽を掃除しながら、気だるそうにそう言う。
「こんな夜っぱらに大声出さないでくれねーっスかねー。ちょぉっとビビっちゃいましたぜェーーっ!」
 相変わらずムクホークは柄の悪い態度を取っている。
「ほっほほ。出番とは何かのう? 久しく運動してなかったんで、体がなまっていたので丁度いいのう……」
 くたびれてるかのように、首をコキコキと回しながらそう言うヨルノズク。
 俺は先程のうっぷんを晴らすかのように、大声で三人にまくし立てる。

150: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 19:42:22
「いィか、三人ともよく聞けェッ! 
今朝サイシ湖にて、人間とはぐれ竜騎士が見つかった。
そしてこの事は、俺らと同じ『超人部隊』の傘下である『歩虫部隊』も『光獣部隊』も知らねぇ。
ドゥー・ユー・アンダースタン!? 俺達が他の部隊を出し抜ける大大チャンスってワケよォ!!
俺達飛鳥部隊がっ! 超人部隊……幻霊部隊……岩王部隊……闘神部隊……
奴等と同じ四天王様直属の部隊へのし上がるってわけだっ!」

「人間、ですか……それはそれは、久々に随分と重大なニュースですねぇ?」
「……ノリノリっスねェ~~、エアームドサン」
「場所は……『今朝サイシ湖にいた』。ほっほ。手がかりはそれだけかの?」
「もちろんだ」
 俺はニヤリと笑いながら、演説のような語調で語り始めた。
「だがな、俺らは他の這ったり歩いたり、
つっ立ってるだけしかできねークソどもとは違う……
俺らには! この翼があるじゃあねぇか!!」
 翼を前に突き出し、そして高く上げる。俺の顔も翼と同じくグッと上へ向け、天井を見つめる。
 我ながら芝居がかった演出だなと思いつつも、構わずその体勢のまま演説を続ける。
「俺らは空の支配権がある唯一の部隊だ。オーケイ!? 人探しは俺らのいわば十八番じゃあねえか!
“異世界より来たり者が磁場に近寄りし時、大いなる力は深き眠りから目覚め、その首をもたげる……”
この言い伝え覚えてんだろ? そしてこの言い伝えが差す『大いなる力』が、俺らが魔王様の完全復活には欠かせない物だって事も……
……ハハッ、まぁ覚えてなきゃ魔王軍追放モンだがな」
 三幹部に向かって翼を強く前に突き出し、顔の向きもそちらへ戻す。
 クールに口をニッと歪ませ、一層声を高らかに演説の締めくくりを演出した。

「人間は、魔王様の完全復活に重大な鍵を握っている!!
いいか、テメーら……ぜってー人間を捕らえるんだぜ!!
ディドゥ・ユー・アンダースタン!? さぁ、行けェ!!」

つづく

151: ◆8z/U87HgHc
07/11/29 20:00:06
明日は事情により投稿できないので、続きは明後日です。

支援してくれた人や応援してくれている人、本当にありがとうございます。
何か書き込みがあるだけでも、だいぶモチベーション跳ね上がるなぁ。
ではまた。

152:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 20:54:44
相変わらず飛行タイプ連中はブッ壊れてるな。

153:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 20:55:31
待っています

154:名無しさん、君に決めた!
07/11/29 21:45:27
コウイチくんとフライゴンが可愛過ぎるんだがどうしてくれよう

155:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 00:22:22
主人公はコウキのパラレルキャラじゃなくて、描写的にオリキャラに近いっぽいな。
・12歳
・小柄
・黒髪
・紺色のブレザー着用

まとめるとこんなとこか。

156:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 11:42:38
戻ってきたか、とか小説スレの48、とかみんな言ってるがどういうこっちゃ?
だれか教えよ。

157:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 16:06:12
何スレ前の小説スレに始めに投下したのが48レス目だから…だったはず。

違ったら修正よろ

158:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 17:14:16
>>156-157
初代ポケモン小説スレの>>48だったから
>>500ぐらいまで連載していたが馬鹿が沸いて一時消えた
どこかの有志が小説保存してくれたみたい

そういえばポケモン大戦争の作者は戻ってこないのかなあ…

159:名無しさん、君に決めた!
07/11/30 21:03:14
12竜騎士の設定は面白そうだな。

予想
ガーネット→
アメジスト→
アクアマリン→カイリュー(海に住んでいるから)
ダイヤモンド→ディアルガ(ダイヤのパッケージだから)
エメラルド→レックウザ(エメラルドのパッケージだから)
パール→パルキア(パールのパッケージだから)
ルビー→ラティアス(ルビーで出るから)
ぺリドット→キングドラ(王様だから)
サファイア→ラティオス(サファイアで出るから)
オパール→
トパーズ→
ターコイズ→

後はもう予想も出来ん・・・

160:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 01:56:20
ターコイズ→ガブリアス(何となく狡猾っぽいから)

161:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 11:09:24
期待あげ

162:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 13:30:20
>>159 ラティオスとラティアス逆じゃね?

163:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 13:43:41
逆だけど色から考えるとそっちがいいよね

164:名無しさん、君に決めた!
07/12/01 13:51:11
>7月の石・ルビー!     情熱・仁愛!
>                 炎の如く燃え滾る情熱の心を持つ騎士に与えられし石!


熱血なラティオスってのも何かやだなw

165:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 16:43:58
>>158
いえ、一時期消えたのは事情によりパソコンが使えなくなったからです。
断じて他の人の書き込みのせいじゃありませんよー。
なにか喧嘩さえ起きない限りは、書き込みがあればあるほど嬉しいです。

今日の投下は5時半過ぎからになると思います。

166:1 ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:40:18
今まで鍵カッコ以外の文には必ず頭にスペース入れてましたが、
なんか携帯で読んでみたら少し読みづらかったので、今回は頭にスペース入れないで書いてみます。
スペース入れたほうがいいか入れてないほうがいいか、後で意見を聞かせてください。

167:1/12  ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:44:13
日が暮れかけ群青色に染まろうとしている空の中を、一つの大きい影……鳥が緩やかに飛行している。
その鳥は、何かを探すように目を光らせ地上を見下ろしながら、ブツブツと言葉を呟きだした。

「人間は無意識の内に磁場の元に引き寄せられる……か。
 どこから生まれた言い伝えかは知らぬが、それが真ならば……」
鳥は目線を動かし、地上を濃く染める膨大な木々の群れを見据える。
「サイシ湖から一番近い『磁場』……あの『生命の森』に、人間達はやってくるはずだの。ほっほっほ」
鳥はゆっくりと笑いながら、再び地上を見下ろし何かを探すように視線をギョロギョロと滑らし始める。
……それから数分の時が経った時、地上を見下ろす彼の目線の先に、二つの小さな影が現れた。

「……おっ!?」

鳥はそれを視認した瞬間、期待の入り混じった一声を上げた。
そして鳥は、地上をゆっくりと歩いているその二つの小さな影に向かって目を凝らす。
……数秒後、鳥の表情に喜色が走った。

「……やはり、だっ! わしの予想通り、奴らは『磁場』へ……『生命の森』へ向かっていたっ!」

鳥は顔に浮かばせた喜色をみるみる強めていきながら、不気味に首を横に傾かせ、興奮したように叫びだした。

「さっそく一句できたぞっ!ほほ、快調じゃのォ~~~
 哀れかな
    飛んで火にいる
          夏の虫
 ほほっ! 彼らならきっと……わしにいい句を沢山提供してくれるだろうのォ!! ほほほほほっ!!」

鳥は壊れたような高笑いを残しながら、大きく翼をはためかせどこかへ向かって飛び去っていった。

168:2/12  ◆8z/U87HgHc
07/12/01 17:46:05


「わあ、お空もう暗くなってきたねフライゴン……」
「ですねー。こんな場所だと、暗いとちょっと怖いなあ……」

辺りは暗い闇に包まれようとしている。
夜の始まり、夜行性のポケモンが寝床から起き始める時間帯だ。
―この世界の時間の表現はどうなのか知らないけど……
……いや、この世界の文化が人間から伝えられたものなら、時間の表現もやはり同じなのかな?
ともかく、今の時間を人間の世界の表現で言えばおそらく『8時か9時』と言ったところかな。
いつものぼくなら、旅から一旦帰ってきてごはんも食べ終わり、そろそろお風呂に入り始める時間。
つまり就寝の一歩手前くらいの時間だ。

そんな時間帯だけれど、『今のぼく』はお風呂に入る支度もしていなければ、自宅にもいない。
じゃあ、一体今ぼくは……ぼく達は、何をしていると思う? どこにいると思う?

歩いているんだ。鬱葱と生い茂る『森の中』を。

見回せば木しかない。 見上げれば、濃い群青色の空を黒いまだら模様が覆っている。
……なぜ、ぼくはわざわざこんな森に入ったのか。
自分自身でも上手く説明がつけられないけど、この森には、ぼくを強烈に引き付ける『何か』があった。
ぼくの『予感』や『期待』といった物を刺激し増幅させる魔力めいた『何か』が、この膨大な木の集まりの何処かから染み出していたのだ。
端的に言えば……『ぼくのポケモン』が、あるいは『この世界を抜け出る方法』が。
この森の何処かに存在している……そんな気がしたんだ。


第二話 「不安の流れ」


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