04/07/17 00:24
その日は朝から嫌な気分だった。もっとも目が覚めたのは昼近くだが。
一夜の塒とした廃墟のひび割れたガラスから空を見上げて、俺は床に唾を吐いた。
今日もろくでもない一日になりそうだ。
古いラジウスに火を入れ、飲料用水のボトルから水を注いだカップに携帯食料のブロックを放り込むと火にかける。
今朝も糞不味いインスタント・クラムチャウダーとはご機嫌だ。
それが温まるのを待つ間に、俺は軽く相棒のケツをひっ叩く事にした。
――調子はどうだ?
答えはない。まぁわかりきった事だが、たまにはキュートな声で返事の一つくらいする気の利いた真似はできねぇものか。
そう思いながら、俺は「彼女」の鋼鉄のボディに軽く触れ、指先でなぞった。
凹みの一つ一つ、傷の一つ一つまで愛撫するように丁寧に。
ここ二日走りとおしてきたトトリの熱砂にも、句一ついわずに走ってくれた「彼女」だが、流石にややくたびれたらしく
あちこちに砂塵がこびり付き、オイルの豊富な転輪部分等は砂に油が吸われて散々な様になっている。
履帯もそろそろガタがきているし、街に生きて戻れたら新しいのに変えてやらねばなるまい。
砂塵は車体に致命的な欠陥こそ与えてはないものの、一つ間違えればその「致命的な欠陥」とやらになりかねない火種は山ほど作ってくれる。
生憎俺にはメカニックの知識はあまりない。