07/11/08 14:59:48 GC8ec7lF
伊豆基地に到着した俺は、まず大きく深呼吸した。
新しい配属先に対する緊張をやわらげるためでもあるが、何よりも、何年ぶりかの日本の空気を味わいたかったからだ。
潮の香る空気をいっぱいに吸い込んだ後、俺は荷物を手に、基地へと入った。
「私がSRXチームの隊長、ヴィレッタ・バディム大尉よ」
隊長執務室。
書類が摩天楼のごとき様相をなすデスク越しに、彼女はそう名乗った。
「予定より一週間も早い配属になっちゃったけど、体の方は本当に大丈夫?」
「問題ありません」
敬礼しながら、俺は簡潔に答える。
「噂通りの、不死身の男のようね」
バディム大尉はそう言って、唇の端をキュッと上げた。
「恐縮です」
俺はまた簡潔に答える。
―その手の噂は、俺にとってはタチの悪い皮肉やイヤミでしかないんだがね。
そこへ、入り口のドアのインターホンが鳴る。
『アヤ・コバヤシです』
透き通るような女性の声が、名を告げた。
「開いてるわ。入ってちょうだい」
『失礼します』
返答の後ドアが開き―そして俺は、入室者に目を奪われた。
ファッションには疎いんで、どう呼ぶのかはわからんが、胸から上がむき出しになった大胆な軍服に、パツンパツンのミニスカート。
しなやかな手足を包む、鮮やかなブルーの手袋とブーツ。
きめ細やかな白い肌は、心なしか光を放ってるようにすら感じられる。
ショートに切られた、クセのある緑の黒髪。
意志の強さを現す切れ長の瞳。
桜色のルージュが引かれた可憐な唇。
体のパーツの一つ一つが特注品で造られているかのような美しさに、俺は不覚にも見入ってしまった。
「彼女はチームリーダーのアヤ・コバヤシ大尉よ」
バディム大尉が彼女を紹介する。
「例えるなら、私が社長で彼女は部長といったところかしら。普段は、彼女の指示に従ってちょうだいね?」
「イエッサ」
―彼女、アヤ・コバヤシ大尉に見とれて、一瞬返事が遅れたのは内緒だ。
「それじゃあアヤ。あとは任せるわね」
バディム大尉はそう言うと、デスクワークに取りかかる。
「では、まずあなたの部屋に案内します。よろしくお願いしますね」
コバヤシ大尉はそう言って手を差し出し、握手を求める。
およそ軍人とは思えない、細くたおやかなその手を、俺は一瞬ためらいはしたものの、軽く握った。