07/06/20 00:03:41 Emqbhura
お久しぶりです。
新参者ですよぅ。
人の姿、人のかたち。
式を打つ時に使う紙の人形、丑の刻参りの藁人形。そして、世間を騒がす機動兵器。どれもこれも、人の姿をしている。
なぜこうも人の形なのか…俺は目を伏せて思う。答えはある。が、それは割愛する。聞きたければ水羊羹をもって事務所へ来るがいい。来月の廿日からなら時間がある。
「…全力で現状から目をそらして、先にある休暇に想いをはせとるとこ悪いんやけどな」
いや、待て。廿日はイルイを町内プールに連れて行かねばならん。その次…廿一日からなら時間がある。
最早、本職が探偵である事など声を大にして言えぬところではあるが、これも仕事。働かざる者、食うべから…
「己に無理矢理な言い訳をしてまで、現実から逃避したい気持ちもわからんではないねんけどな…」
いや、待て…えーと…
「…目の前にある事実から逃げ出すネタが切れたとこで申し訳ないんやけどな…」
「…えぇい!」
俺は目を見開いた。俺の視線の先には、金髪釣り目で狐耳の…要するに妖狐の九重がいる。
「何だ、九重。どうしてお主が不機嫌なのだ。昨夜、痛いのを我慢して精をとらせてやったろうに」
俺は二の腕をさする。絆創膏の下には、九重の歯形がついているだろう。
九重は仏頂面のまま、俺を睨んでいる。九重の目の奥で、たまに緑の火がちかっと光っているところを見ると、かなり怒ってはいるようだ。
「藤原家四十二代目宗家ともあろう人が、式神の腹ん中も覗けんでどうすんねん」
「俺はお主の心は読まん。人の心も読まん」
「だから教師の腹ん中も読めへんねんか?何やねん、この中間考査の結果はぁ!」
「九重、それは中間テストといって…」
「じゃかまし!」
「仕方なかろう、仕事も重なっておったし…」
「何が仕事や!ウチを置いてやれイルイのお付きだ、やれクスハの護衛だ…と。そんなん探偵の仕事ちゃうわ。便利屋やっ!」
九重の平手が卓を叩いた。茶碗が舞う。
「ウチは情けないわ!これでも本家を出る時は七瀬や六道に八雲をよろしくって言われとったのに…」
「七瀬や六道は関係なかろう!」
「何でやねん。八雲の幼馴染みやないかい、七瀬は。六道は…ちょっと変わっとるけど…て、そんなんええわ。何て事や…ウチがついていながら、八雲を人生の落伍者にしてしもうた!」
「誰が落伍者かっ!!」
「ん」
「ぬぐ…主を指さすとは…お主には式神としての自覚が…」
「なーにーがー式神やねん。今必要なんは補習や!そこで、ウチが八雲の為に一肌脱いだる!ウチが教えたる!今後、ウチの事を九重先生と呼ぶようにっ!3、2、1、はい!」
「ちょっと待て、そんなに気合を入れんでもな…」
九重、八重歯が出てる出てる。
「あかん!これも、八雲のためなんやで。ウチもつらいんや…あ、授業中は教師に絶対服従やから。…さて、着替えてこよ」
…。今、結構大事な事をサラッと言ったような…。見ればスーツに眼鏡まで用意する完全武装ぶりだ。
いかん。このままでは…
その時、不意に携帯が鳴った。
俺はこの時ほど、携帯の着信をありがたいと思った事はない。