08/09/01 18:53:24 SA9HKP200
勢いで。
(ＰＶのロケ現場の事前確認に、郊外の公園に来た俺と春香。一通り見てまわって、さあ、帰ろうと
した矢先、夕立が…）
「ふぅ。なんとか雨宿りできてよかったな」
「はい♪ でも、ほんと急でしたよねぇ。私、もうずぶ濡れですよ」
「俺もびっちょりだよ。まあ、二人とも傘を持ってないんだし、小降りになるまで様子見だな。
こんな自販機コーナーの軒先じゃ、座る所も無くて立ちっぱなしになるけど」
「あ、私は平気です。電車で事務所に来るときは立ってる事も多いですし」
「ええ！？ 確か片道二時間かかるんじゃなかったっけ？ 疲れるだろ」
「足腰を鍛えるトレーニングと思えば、全然平気です。でも、さすがに帰りは座っちゃいますけど」
「……もしかして、今のトレーニングじゃ、少し物足りない？」
「え？ あぁ、ち、違いますっ。そういう意味じゃなくって、単に時間の有効活用っていうか」
「それならいいけど……もし、レッスンとかで要望があったら遠慮なく言ってくれよ。俺もプロデューサー
としては、力不足なのは自覚してるし」
「そっ、そんなことは無いですよ！ プロデューサーさんはホント、しっかりやってくれてます！
その……私っ、すっごく頼りにしてますからっ」
「春香にそう言ってもらうと、例えお世辞でも嬉しいよ」
「お、お世辞なんかじゃありませんよぉ」
「ははは。……ところで、今、何か困ってる事ないか？ 何でもいいぞ。こんな仕事がしたいとか、
現場でこうしてくれると助かるとか」
「困ってる事ですか？ うーん……特に無いです。でも、強いて言うなら、今……ですかね」
「ああ。この雨の事か」
「はい。やっぱりこんなに服が濡れちゃうと、ちょっと寒いですし……って、ああっ！？」
「ど、どうした？ 何かあった？」
「いっ、いえ！何もありませんっ、ていうか、その、あるというか……」
「寒い？」
「ええっ？ えーと、は、はい。寒いことは寒いんですが、そうじゃなくて……服が……」
「……なに？」
「その、お互い雨で濡れちゃってる……じゃないですか。それで、あのぅ……服がですね……」
「服？…………あっ！？」
「ぷ、プロデューサーさんっ、そんなにじーっと見ないで下さいっ。恥ずかしいじゃないですかっ」
「わ、わるい」
（胸を隠すように俺に背をむける春香。そんなにじーっと見たつもりは無いけど、ちょっとデリカシーに欠けていたか……）
「……ゴメンな、春香」
「え……？」
「俺って、こういうところがダメなんだよな」
「……プロデューサーさん？」
「女の子に対して……いや、春香に対してさ、気遣いが足りないって言うか、ニブいと言うか……我ながら呆れちゃうよ。
さっきのレッスンの話もそうだし、今もそうだけど、春香が何をしてほしいのか、してほしくないのかってのが
分かって無いんだよな、俺って」
「そっ、そんな事ありませんよ！ プロデューサーさんはちゃんと私の事を分かってくれて……あれ？
あー、で、でも……うん、多少はあるのかも？」
「やっぱりな……こんな俺が春香のプロデュースなんか……」
「で、でもでもっ、私はプロデューサーさんが担当で、本当に助かってるっていうか、良かったっていうか、その
嬉しいっていうか……う、嬉しい！？ わ、私っ、何を言ってんだろ？ち、違うんですっ。そういう
意味じゃなくって、た、楽しい。 そう、楽しいんですっ。とにかくプロデューサーさんがっ」
「まてまて、落ち着けって。そんなに興奮しなくたって……」
「こ、興奮なんて、してませっ、あっあわわわっ！？」
─どすん！
（足元の段差を踏み外した春香は、抱きつくように俺の胸に倒れこんできた！ 咄嗟に受け止めたけど危ないところだったな）
「いたたた……」
「春香、大丈夫？」