08/08/06 06:32:46 OjO9Y2jw0
■夜の事務所（ランクＡ）
オーディションに合格した日の夜……いつもはアイツの車で帰るんだけど、今日は実家に帰る日なので、
新堂がもうすぐ水瀬家の車で迎えに来る予定。
だから、アイツも電車で帰るとかで……勤務時間が終わってからは、高木のおじさまから許可を取って、
小鳥とぷち宴会なんてやってる。
よく考えてみたら、アイツがお酒飲んでるところって、全然見たことが無いのよね……
「ん？伊織……腹減ったならちょっと食う？今回は合格祝い酒だし、つまみも奮発したぞ！」
ごす。
「はうっ……うわ、伊織！顔はヤバいって、顔は！痛っ、いてて……マジ痛いって！！」
「何よその貧乏くさいチーズ鱈って！レディに、しかもこの伊織ちゃんの合格祝いに出すものかどうか考えろっ！！」
「考えてるとも！！よく見ろ【オランダ王家御用達特製ゴーダチーズ使用】って書いてあるだろ？
王家御用達のチーズを、チーズ鱈に使ってるんだぞ、こんな贅沢あるか！？」
「それ以前に、300円で王室御用達チーズが食べられると思ってるわけ？バッカじゃないの！？
パッケージに【ベームスターチーズ14％使用】って書いてあるじゃない！たったの14％よ！誇大広告じゃない！」
「それは受け取る側の都合よ、伊織ちゃん。メーカーさんはちゃんと真実を記載してるし、
うちらとしては、その謳い文句で高級感を味わいたいのよ。
食べ物っていうのはね……舌とか風味だけじゃなくて、雰囲気や思い込みでも美味しく食べられるものよ。
原材料が高騰してる今現在、材料の質以上に、頭を使って美味しく食べてもらおうって言うメーカーさんの
心遣いを感じるわ……だって、普通のチーズ鱈から50円増しくらいで、高級食材を食べてる気がするなら、
私たちにとってはお安いものだと思わない？」
小鳥が言うと、なんか説得力があるような……そういえば、やよいも高級食材を見たら、その舌と鼻以上に
『うっうー！これは美味しいです、絶対美味しいです！！』と脳内で持って行ってる感じもするし。
「そんなの食べてるくらいなら、わたしに言いなさいよ……ホンモノのオランダ王室のチーズくらい、
用意してあげるから……な、70000人ものファンを増やしてくれたんだし、それくらいは……」
正直、わたしがトップアイドルになれたのは……コイツのおかげだと、本気で思う。
だからこそ、こういう席で惨めな思いはさせたくないのに……
そんな事を考えても言えないでいると、アイツは大きな手をポンとわたしの頭に乗せ、やさしく撫でてくれた。
「ははは、ありがとう伊織……その気持ちはいつも伝わってるよ。でも、俺はこれでも楽しんでるぞ。
別に伊織の家を悪く言う気は無いんだけどさ、お金を積めばいくらでも美味しいものが食えるだろ？
でも、少ない予算で美味しいものを探すのって結構難しくて……でも、本当に美味しいものに出会ったら嬉しいんだ。
俺達の仕事だって、そうだろ？普通は出来ない事を成し遂げる……難関の果てにある勝利が気持ちいいのは、
伊織も分かってるはずだよ。だから……お祝いのつまみを買うのも真剣勝負なんだ」