【相合傘で】天海春香 34周目【らっ↑きぃ!!】at GAMECHARA
【相合傘で】天海春香 34周目【らっ↑きぃ!!】 - 暇つぶし2ch336:SS
08/06/24 01:47:24 dyhN4i7v0
 その日は、登校するなりたくさんの級友に囲まれてしまった。

「コンサート、行ったよ~! すっごい良かった! もう今でも興奮しっぱなし!」
「最後なんか感動して泣いちゃったよー。もう最高!」
「ね、ホントに引退しちゃうの? あんなに素敵なコンサートができるのに」
 
 引退ライブの後の、最初の登校だったから。門の前で待ちかまえられてて、
校舎に入るのもままならないくらい。私は笑って返しながら、なるべく質問に答える。
 応援してくれてる人への感謝のお礼。今までなんどもしたけど、見知った顔の多い
同じ学校の生徒に対すると、不思議な感覚になる。
 同じ年代で、同じ制服を着てる人たちなのに。なのに、私との間に明確な壁や区別が
あるように思えてしまう。

「えっと、ここだけの話だけど……、プロダクションへの登録はそのままだし、
新ユニットでデビューしてアイドルはこれからも続けると思う。安心してて」
 『引退』への質問が多かったためそう返すと、わっと周囲が湧き上がる。

「だよねー! やったぁ、これからも春香の事、テレビで見られるんだ!」
「そりゃそうだ、これだけ有名なトップアイドルになっておいて、
今さら普通の学生に戻るわけないっしょ!」

 その言葉が、ちくりと胸の奥を刺した。普通の学生に戻るわけがない。
私が選んだ事なのに、後悔が僅かに滲み出す。
 私は「普通」の女の子じゃないから。アイドルだから、一緒に居て欲しいってお願いを
プロデューサーさんに断られた。
 プロデューサーさんに会えたのは、私がアイドル候補生という「普通じゃない」子だったから。

 どこにでも居そうな、普通の子だと友達からも言われていた私は、
プロデューサーさんと一緒にアイドルとして成功するために……、その為に、
「普通じゃない」、アイドルとしての輝きを身につけていった。

 だから私はもう、簡単には「普通」に戻れない。戻らないだけじゃなくて、戻れない。
 プロデューサーさんと親しくなれたのは私がアイドルとして成長できたからなのに、
最後にはそのこと自体が、私とプロデューサーさんとの間の壁になった。

「……そうね、これからも頑張っていくつもりだから、応援よろしく!」
 湧き出してしまった暗い気持ちを振り切って、「アイドルの笑顔と言葉」で高らかに宣言。
 周りは一層盛り上がって、けどそれがお開きの合図になる。

 親しい友人たちと一緒に、校舎に入る。私の、「普通」の象徴みたいな場所。
 けど、と思う。
 私が「普通」に戻れたら、今度はアイドルではない、普通の女の子としての夢が
叶うのかといったら、それは違う気がする。
 「アイドルだから」「普通じゃないから」っていうのは、言い訳の部分もあったんじゃないだろうか。
 私にとっても、プロデューサーさんにとっても。

 本当に大事なのは、もっと深いところにあって……、それがわかったら、
アイドルのままでも、あるいはアイドルをやめても、どちらでも「女の子の夢」は叶うんじゃないか。

 難しいけどね。

 私はアイドルでもなく普通の女の子でもない、私自身の顔で小さく笑うと、
制服のリボンを直して教室の扉を開いた。


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