08/05/25 17:50:43 isZ8LGfU0
>352
不意に彼の肩がポンと叩かれる
ビクリと一瞬体が震えた
可笑しな話だ、こんな時間に乗って来るヤツなど…そう思いながら振り向いた瞬間、頬に激しい衝撃が奔る
頭から吹き飛ばされる様に、その細身の体が春香から引き剥がされて行く「ファンだった」男
「あ…、ああっ…」
春香は声にならない声を上げた
今、自分の目の前に立っているのは、ほんの前まで心の底から一番助けに来て欲しいと願った人
世界中で唯一人しか居ない自分だけのヒーロー
「何してるんだ…?」
電車の規則的な音に、負けそうな位に口調は静かだ
だが、その身に纏う怒気は尋常じゃ無い。激怒、正にその言葉を目の前で見ているかの様だった
「春香に…、大事な春香に何してるって、聞いてるんだよ?」
思わず、這い蹲ったまま逃げ出そうとするファン代表
が、この人がそれを許さない
鈍い音が車内に響く。同時にファン代表の短く上げる悲鳴にも似た呻き
わき腹に、この人の靴先がめり込んでいる
「よこせ」
唯一言だけいうと、それで全てを理解したかの様にファン代表はカメラと手錠の鍵を差し出す
と、彼は無表情で受け取り
「とっとと俺の目の前から消えてくれ。 …これ以上、ここに留まるなら…俺は容赦出来んから」
今度は、本当にファン代表が悲鳴をあげた
一目散に逃げだしながら
「すまん、厭な思いさせてしまって。でも、もう大丈夫だから」
拘束を外し申し訳無さそうに、だが、優しそうに彼が微笑む
「…う…、うう…プ、プロ…デューサ…、うぁあ…ああ…」
彼の胸の中に、涙でぐちゃぐちゃになった春香が飛び込んでいった。嗚咽と共に、その小さな肩が震え続ける
そっと、彼の腕が春香を包み込んだ
「ごめん。ギリギリで間に合ったから会場で声を掛ければ良かったんだが。どうしても今日の出来を、その…褒めてやりたくてな
なら、いっそうの事、春香のトコでと思ってたら…」
ちょっとだけ、照れた様な顔
私は知ってる、今の彼のこの表情には恋愛感情は無いって
だけど構わない
優しさが有るのは十分伝わって来てるから
それで十分だから
今はそれで良いかな、って思ってる
でも、今だけ…、今だけは、もう少しこうさせていて下さい
何時かこの気持ちを、プロデューサーさんに伝える事が出来る日を夢見て
もっと…、もっと貴方の事を好きになりたいから
乙女チックはるるん