08/05/19 00:30:53 nuGjrxWD0
■ライブ(武道館)ランクB
「はい、千早ちゃん。まずは基本のロースとカルビからだよ。脂が少な目のを取っといたから」
「あ……ありがとう、萩原さん」
こう言っては失礼ですが、輝くほどの笑顔で皿に盛られた牛肉を次々と焼いて、各人に一番美味しそうなのを
取り分ける萩原さんは……正直、別人かと思うくらいにテンションが高く、ある意味怖い気がします。
今日は高槻さん、萩原さんとの合同武道館ライブを終えて、各プロデューサー、場内アナウンスを担当した小鳥さんと
身内で打ち上げ……という事になり、都内の焼肉屋さんに来てるんですけど……
意外にも、ここをプッシュしたのはプロデューサーではなく、萩原さんだと聞いたから驚きました。
萩原さんって、線の細いイメージで焼肉よりもお刺身が似合いそうな感じがするんですもの。
「うっうー!お肉です……いっぱいのお肉ですぅ~!これ、夢じゃないんですよね?音も匂いも、ホンモノですよね!?」
隣の席では高槻さんが、歓喜に涙しながら、焼きたてのお肉にかぶりつかんと狙っています。
今日び外国産牛肉が入ってきた現状を考えると、肉より魚の方が高級な気もするけど……
高槻さんのおうちは、どうもご両親の食材感覚が昭和のそれみたいで、ご馳走=ビーフ。という概念で生きているようでした。
こういう場所なら、音無さんが一番張り切ると思ったのですが、萩原さんの手際のよさに今日は一歩引いているみたいです。
「レバー系は匂いがつくから、中盤以降ね。先に食べたい人はレバ刺しで注文するといいよ。
内臓系はじっくり焼くから時間掛かるけど、本格的なお店ほど、美味しいのを出してくるんだよ。
あと、やよいちゃん……一部のお肉はちゃんとお持ち帰りに包んでおくから、すぐに冷蔵庫に入れて、明日食べてね」
「はわぁ……雪歩さん、すごいですぅ~もうわたし、幸せすぎて今日死んでいいかもっ……」
正直な話、わたしはあんまり焼肉とかが好きではありません。脂っぽいしカロリーは高いし。
でも、萩原さんと高槻さんがこんなに幸せそうな表情をしてるのを見ると……こういうのもありだと思えてきます。
ただ、女性陣のテーブルの方が、プロデューサー達男性のテーブルより勢いよく煙を上げている事に違和感を覚えますけど……
わたしのプロデューサーをはじめ男性陣は、ここぞとばかりに霜降りカルビを食べると思っていたら、
それぞれ普段の食生活があるのか、それともわたし達アイドルに心配されてるからか……ヒレ肉を中心に、
お酒も少々やりながら、大人の雰囲気で軽く反省会、という空気になってるあたりはさすがだと思いました。
「あ、千早ちゃん!タン塩は片面しか焼いちゃダメ!お肉のうまみが網から落ちちゃう!」
「え……あ、す、すみません萩原さんっ!!」
「……珍しい映像ねぇ……千早ちゃんが雪歩ちゃんから注意されてるわ」
「雪歩さん、お茶と焼肉の事は、真剣ですもんね!」
「はぅ……やよいちゃん、お仕事も真剣だよぅ……」
「あ、ご、ごめんなさい雪歩さんっ!!雪歩さんはお仕事も頑張ってます!だから畳に穴はダメですー!」
ここにいると、ライブの心地よい疲れが、成功を祝う空気に染みていくようです……
萩原さんのハイテンションを含めて、皆のやり取りを見ていると、不思議と心が落ち着き、
目の前のお肉が、すごく美味しく感じられます。
「ねえねえ、千早ちゃん。やっぱり焼肉って、男の人だけで楽しむものだと思う?」
「昔はそう思っていましたが……今は少し違いますね。確かに脂分は多いし、カロリーも高く、
お肉とごはんだけでは栄養が偏ってしまいますが……この楽しい雰囲気は、普通の食事には無いものです」
「そこまで分かってくれるんだ……なら、あたしから説明するのも蛇足かもね。
でもあえて言うなら、男の人の食事ってのは、栄養価だけでなく、連帯感を持つものでもあるの。
お肉とかお鍋って……気心の知れた同士で同じものを食べるからこそ美味しいの。
それが、苦楽を共にした仲間内なら、尚更よ。TVスタッフの打ち上げに、焼肉屋が多いのはそういう側面もあるのよ」
音無さんの説明を聞きつつ、ふと周りを見渡すと……幸せ一杯の顔でお肉を食べる高槻さんの笑顔がありました。