08/04/18 17:17:59 4qAegpeP0
「ねえ伊織ちゃん。プロデューサーさんが、お仕事だから仕方なく伊織ちゃんの世話、してると思う?
もしそうなら、オフに喜んで惰眠を貪ったりゲームに溺れたりするわよ。でも彼はそれをしない……
千早ちゃんもそうだけど、本当に大事な人のためなら、世話を焼くのは楽しいの。どんなに疲れてても、ね。
歌にしか時間を使わなかった千早ちゃんが、アイドル活動が忙しくなる一方なのに料理を覚えて、
たまに文句は言うけど、彼女の担当Pさんの家のお掃除やお洗濯をしてるのは、何故だと思う?」
「そんなの、好きだからに決まってるでしょ?あのバカップル共を見たら、だれだって分かるわよ……あ!?」
「つまり、そういう事よ。だからプロデューサーさんは、時間のある限り伊織ちゃんのために頑張れるの。
もしも、それが気になるなら……正直に気持ちを伝えて『お願い』すれば、彼もきっと聞いてくれるわ。
彼がゆっくり休む事で、伊織ちゃんの心配が一つなくなるって事が分かったら、ね」
小鳥の言いたい事は分かったけど……ちょっと、いや、だいぶ苦手だわ、そういうの。
パパや兄さん達以外は、お願いだろうと命令だろうと、わたしの言う事を聞くのは当たり前だったから。
アイツだって、プロデュースが仕事でなくなれば……それでも、わたしの『お願い』を聞いてくれるのかな?
なんだろう?この気持ち。
仕事や賞罰、しがらみ無しで……『断る』という選択肢を入れてもなお、わたしのお願いを聞いてくれる嬉しさ。
それはきっと、どんなにお金持ちになってもランクを上げても、得られないものかもしれない。
「丁度あさってがプロデューサーさんのオフだけど、伊織ちゃんには小さな取材と学校があるわね。
彼にゆっくり身体を休めて欲しいなら、今日中に言った方がいいかもねー♪」
「ぐっ……わ、分かったわ!超メジャーアイドル・伊織ちゃんを舐めるんじゃないわよ!!
アイツをゆっくり休ませるなんて、ワケないんだからね、みてらっしゃい!!」
健闘を祈るわよー♪なんて言葉を背中に受けて、わたしは仮眠室へと走っていった。もうすぐアイツを起こす時間だ。
うさちゃんを抱きしめる手に汗がにじみ、口の中がカラカラに乾いてる。
なんか、この空気……ランクアップのオーディションに挑む時より、ピリピリしてる……
『休みなさい』じゃなくって『お願いだから、ちゃんと休んで』か……うぅ……やっぱ慣れないっ!
『この伊織ちゃんのお願いなんだから、聞きなさい!』って……ああっ!これじゃ今までと同じじゃないっ!!
難しいよぉ……うさちゃんになら、こんなに普通に言えるのに。
お願い、うさちゃん……応援して。今、たった一言……普通にお願いできる勇気が出るように。
『大丈夫、絶対勝てるぞ!』
「ひゃっ!?」
聞こえたのは、うさちゃんの励まし……じゃなくて、多分、ドアの向こうでのアイツの寝言。
こんな時までオーディション直前の夢を見て……ああもう、まったくしょうがないんだから!!
もう、やるしかない!今のでテンション上がったし、やってやろうじゃないの!!
根拠のない励ましだけど、アンタがそう言うから、信じてあげるわ。にひひっ♪
仮眠室のドアを勢い良く開けて……わたしにとって、最大の勝負がはじまった。
■おまけ
小鳥「伊織ちゃん……さっきの照れ顔、ピピっと来たわ!萌え萌え~♪」
社長「小鳥君……キミの興味ゲージは『減る』という事を知らんようだね」
小鳥「そうでもありませんよ。もしも2週間も前の領収書を持ってこられたりしたら、帰ろうかなって思うし」
社長「ハハハ、ソンナコトアルワケナイジャナイカ。オモシロイナァコトリクンハ」
小鳥「……社長は元から黒いから、興味の量が分かりませんね」