08/04/18 17:16:51 4qAegpeP0
■昼の事務所(ランクB)
最近、アイツが仮眠室にいることが多くなった。
移動の時はアイツが運転手を務めるので、事故を起こさないためにも最低限の睡眠は社則で義務付けられているみたい。
うちのお抱え運転手である鮫島を使ってもいいと言ったんだけど『俺だけ特別扱いは受けられない』と言って、
アイツは最後まで承諾しなかった。
今日のスケジュールは歌番組の収録と、取材が2本。
でも、アイツはそれ以上に挨拶回りやら打ち合わせやら下準備やら事務作業やらで、ゆっくり休んでるのを見た事が無い。
汚いデスクの上には栄養ドリンクの空き瓶が散乱し、書類の束と同化しそうな雰囲気。
見ていられないので、それらを回収して給湯室にもって行き、水を入れてよくゆすいでから、分別してゴミ箱へ。
昔、やよいに教わった掃除のやり方だけど……慣れてきたのはランクが上がってから。主にアイツのせいだ。
わたしがオフで、友達と遊びに行ったり、寝不足を補うようにぐっすり寝てるときも仕事してる。
ミーティングのついでに、うちでお風呂とベッドを手配してあげた時も、意識を失う直前まで書類とにらめっこ。
……つまり、アイツはオフでも休まない。ならばどうするか?
仕事で休ませてあげればいいんじゃない?
……よし、決めた!!何がなんでもアイツを休ませる!惰眠を貪らせてやる、そう決めた!!
そうと決まれば行動あるのみ。わたしはオフィスでお茶を飲んでる小鳥に聞いてみた。
「ねぇ小鳥。わたしを半日仕事させた時のギャラって、どれくらいなの?」
「あら、珍しいわね。伊織ちゃんがそんな事聞きたがるなんて。えっとね……番組内容によるけど、
伊織ちゃんを半日拘束するなら、打ち合わせ込みで3~4時間くらいのスペシャル枠よね。
で、メジャークラスのBだから……危険手当とか抜きで、最低これくらい。最高で……こんなものかな?」
「はぁ!?」
小鳥のノートPCに映ってる数字は……いちじゅうひゃくせん……って、七桁!!
何ソレ?芸能人っておかしいんじゃないの!?
「勿論、税金とかプロダクションに払う分があるから、伊織ちゃんの手取りはもっと減って……」
「細かい事はいいわ。ソレだけあれば、わたしの時間を買えるのね?」
「そうね。一応番組内容を見て、最後はプロデューサーさんや、社長が決めることだけどね。
……って、まさか伊織ちゃん?お金でオフを買おうとかしてる?」
「わたしじゃなくて、アイツのオフを買いたいの!!半日ずっとわたしと一緒に寝る仕事を命じて、
打ち合わせとかPC使ったりとか出来ないようにしたいの!!半日でいいから仕事を忘れさせたいの!!
そうでもしなきゃ、アイツは休まないわよ!!だから無理にでもやるのっ!!風邪とか、過労になる前に」
アイツの事を考えると、わたしは不覚にも真剣に小鳥に向かってまくしたててた。
仮眠室から心配したアイツが起きてくるかと思ったけど、そこまで大きな声では無かったみたいで一安心。
「……なるほどね。気持ちは分かるけど、プロデューサーさんが後でそれを知ったら、逆に気疲れしちゃうわよ。
それより、お金を使わずにもっといい方法があるわよ」
「本当!それって何!?お願い、教えて小鳥!!」
「……教えるも何も、まさにソレよ。」
「は?」
「伊織ちゃんが今、言ったじゃない。プロデューサーさんにただ『お願い』するの。それだけ」
「そ、そんなの別に、いつもしてるわよ!オレンジジュース買わせたり、肩もませたり……」
「それ、どっちかと言えば『命令』で、仕事のうちじゃないかな?」
うっ……そう言えばそんな気もする。