08/03/31 14:40:12 yb2haOi00
今日は、朝から雨が降ってる
前に一度、萩原さんと話した事が有った。雨の話を。その時に彼女は、文字通り『恵みの雨』だって捉えてた
考え方は、勿論、両親の影響が大きいと思う。お父さんがそう話してくれた事が有って…って言ってて
『少し…、羨ましいな…』って、その時、私は思ってしまった
だって…、私は雨が…好きじゃ無い。涙を思い出してしまうから ――― 雨の粒は、涙の粒を思い出させるから
弟を亡くした時、心にポッカリと大きな穴が出来てしまった事に気付いて
何故なのか判らなかったけど…その穴を埋めたい一心で、布団にもぐって泣いていた事
両親が、少しづつ自分達の事しか見なくなって行く度に、寂しくて、哀しくて、…そして悔しくて泣いた事
私の涙の記憶には、嬉しい思いなどは一つも無い
■
薄雲から降り続ける雨をボーっと見つめながら、そんな事を思い、あの人を待ち続ける
約束の時間を、少しだけ廻っているけど
「あ…」
携帯が鳴ってる。メールだ、あの人からの
『すまん。 もう少しだけ』
あの人からのメールは、何時もこんな風。素っ気無く、本当に簡単な文章でしか来ない
でも ――― でも、必ず来る。必ず、何かの折に、私の所に届けてくれる
「打ち合わせ、長引いたんですか?」
「ああ、すまん。予定ギリギリ一杯まで、先方に引っ張られて。申し訳無い」
「お気になさらなくても、良いですよ。 それはプロデューサーの所為では無いんですから」
「有難う。そう言って貰うと、少しは助かるよ。移動中だと連絡も侭なら無くて。もう少し早く連絡してやれれば良かったんだが…」
「(そのお気持ちだけで、十分です。私は)」
「ん? 何か言ったか」
微笑みながら、黙って首を左右に振る
今、呟いた私の言葉は、この人の耳には届いていない
でも、構わない。私は、この人の気持ちを確かに受け取ってるから
私の事を考えてくれて、私の事をキチンと見てくれて、何時も、アイドルと素顔の如月千早を真っ直ぐ見ていてくれる事を、判っているから
両親が見てくれなかった私を、この人は見てくれてる事を
「あ、いけね。 傘置いて来ちまった…」
「もう…。慌てて出て来るからですよ? ………はい」
「…え? え、えーっと…これって…」
少し腕を上にあげ、私とこの人の間に広げた傘を差す
「私とじゃ、お嫌ですか?」
「い、いや。 決してそう言う訳では無いんだが」
「なら遠慮なさらずに。変装もしてますし、『夜目、遠目、傘の内』、です」
この人が少し溜息を付いた
「意外と…大胆なんだな…」
「何時もなら、こんな事はしないと思います。 でも、今日は特別ですから」
「? 特別?」
「ええ」
ニコリとこの人に微笑むと、不思議そうな表情を浮かべたまま彼が首を少し傾げる
未だ止まない雨の中、私の傘がユックリと動き出す
今の私の気持ちが、恋とかそう言った物かどうかは判らない
ただ、私が手に入れる事が出来なかった物を、この人に求めているだけなのかも知れない
だけど、今はそれで良いかな?って思ってる
若しその気持ちが本物なら、何れ判る事だから。必ず、答えを、それが教えてくれるから
少しづつ…ほんの、少しづつだけど…私は、雨が好きになれるのかな…って思った
こんな思い出が出来るなら
この人と一緒に進んで行けるなら