08/03/23 21:45:21 EJ1w13z40
■ボーカルレッスン(ランクC)
「♪くーもーはーわーきー、ひっかりっあふーれーてー……」
「ちょっと違うわ、高槻さん。あまり短く切らずに、【ひーかりーあふーれーてー】のリズムで。
階段を滑らかに上るような感じで歌うと、その次に繋げやすくなるわ」
「千早、ここの【まなじりは歓喜にこたえ】ってあたりはボク、強めでいいの?」
「そうね。ここは低い声が目立つパートだから、真がメインで……でも、しっかり土台を保つイメージで」
さすがに合唱部経験者だけあって、千早は教えるのも上手いなぁ。
さて、今回俺達は高校野球連盟から依頼を受け、こんな練習をしている。
野球といえば昔は国民的スポーツだったのだが、サッカーなどにも押され、視聴率が低迷してるからなぁ……
そんな状況を打開するため、ちょっとしたイメージアップにアイドルの力を、という事になったらしい。
ギャラは渋いが、それを補ってありあまる効果があると俺は見ている。
「うーん、カッコいいですね千早ちゃん♪さすがは合唱部経験者だわ。はい、お茶ですよ」
「ありがとうございます、小鳥さん。俺がレッスンするとどうしてもプロ的な指導になるから、
こういう時は千早に任せたほうがいいみたいですね」
「そうですねー。それで、明日は埼玉県の川口リリアホールですか?埼玉県で高校野球といえばアレですよねー♪
花井君、三橋君、阿部君たちの……あぁ、いいなぁ……おねーさん、収録スタッフとしてついて行っちゃおうかなー。
スポーツに打ち込む、若さあふれる男の子達って、萌えると思いません?もちろん美形の可愛い子限定だけど。
やっぱ一番は【花×廉】で………【田×廉】もアリよね♪個人的には【阿部×花】がいいんだけど。キャー♪」
小鳥さん。現実と漫画を混同しないで下さい。あと俺の机にある漫画、読みましたね?
そんな小鳥さんの妄想は置いといて、お堅い事で有名な高野連だ。軟派なアイドルを使うなんてのは表向き許されるもんじゃない。
だが、プロ野球ひいては高校野球が廃れては元も子もない。そこで表向きはボランティアという形で。
なおかつ爽やかなイメージを持つアイドルを三人で、地方大会予選トーナメント組み合わせ抽選会会場で、
夏の高校野球選手権大会オフィシャルソング【栄冠は君に輝く】を歌う……というのがスポンサーの欲求だ。
ボランティア扱いなのでギャラは渋いのに、無茶な事を仰るのでほとんどの事務所は手を引いていたが……
野球の好きなやよいと、スポーツ少女のイメージが強い真なら、十分その要求にも応えられる!!
そして残る一人だが、中島みゆき関係のカバーで教員層の支持を集めたわれらが歌姫が抜擢された。
一応、他の候補はというと……
春香:女の子女の子したイメージがありすぎて×。
雪歩:高校球児には受けがいいだろうが、スポーツ好き少女のイメージには程遠いので×。
律子:ダンスをはじめ、身体能力は高いのだが……知的イメージが崩れるから、という理由で断られた。
伊織:『泥臭いのはイヤ』という理由で断られた。
あずささん:……多分、ユニフォーム姿のあずささんを見た健全な高校球児たちが野球どころではないので×。
亜美真美:元気はあってイメージも合うのだが、野球を知らなさ過ぎるので×。
美希:……おそらく今回の仕事で一番イメージが合わない娘だろう。よって×。
そんなわけで、千早を暫定リーダーとして任せてみたのだが……これが意外な事に大当たり。
合唱部経験者でもあるので、複数人での歌い方をよく知っているばかりか、その指導力も大したものだ。
俺の場合、ついついプロの歌手を意識したレッスンになるからなぁ……それじゃスポンサーの趣旨に合わないし。
そして、千早の持つ凛とした雰囲気は、暑苦しい高校球児たちにまみれてもその存在感を失う事は無い。
こりゃ、組み合わせ抽選会に来た野球部のメンバーは勇気付けられる事間違い無しだ!!