08/03/09 01:17:47 py8ccprWO
『秘密基地』
─ ・ ─
「おーい、待ってー」
はしゃぐ子供達の声。
遠くからは橋を渡る電車音。
流れる川のせせらぎ。
吹き抜ける風が気持ちよい。
ここにいるのは俺だけ。
俺だけの空間。
河川敷のグラウンドやジョギングコースから離れた場所。
名前もわからない背の高い草。
それに囲まれた3メートル四方の空間。
周りからは俺が見えない。
俺も空しか見えない。
それがたまらなく心地よい。
オフの日の午後、こうやってのんびりするのも久し振りだ。
暖かい春の日差しが俺を包む。
瞼が重くなってきた。
このまま昼寝を決め込んでしまおうか……。
・
・
・
目が覚めた。
空が茜色に染まりつつある。
ちょっと肌寒いかな。
随分長く眠ってた様だ。
すぐ側に人の気配がする。
「いつから?」
俺は雲を眺めながら話す。
「30分位前から」
「どうしてここが?」
「ご自宅にいらっしゃらなかったし、何処かに出掛けるとも聞いていませんでしたから」
「そうか……」
「はい……」
遠くからまた、電車の音が聞こえてくる。
「こんな所で夜まで寝ていたら風邪引きますよ」
「平気だよ」
「何故です?」
「起こしに来てくれるって思ってたから」
「ふふっ、嘘ばっかり」
雲が流れてゆく。
「あのさ」
「何です?」
「ちょっとだけ……」
「ちょっとだけ?」
「ちょっとだけ、膝枕してくれないかな……?」
俺の頭が優しく持ち上げられた。
「はい……これでいいですか?」
「うん……ありがとう……」
こうしてオフの午後は過ぎていった。