08/03/06 23:04:37 glF8jpV20
「ただいま戻りました」
「お疲れ様、プロデューサーさん。またコンビニに寄ってきたんですか?」
営業から帰ってきた彼を小鳥が出迎える。
「やはり一人だとついついコンビニに寄ってしまいますね」
「それでこれを買ってきたわけですね、プロデューサー」
「うわぁ、千早。どこから？ 今日はオフだろ」
「学校のパソコンの課題で音無さんに教えてもらいたいことがあったので。
それも終わったのでソファで新曲のチェックをしていました」
千早の言葉に彼はため息を付く。小鳥に気を取られ、ソファは死角になっていた。
教えてもらった後に帰らず、わざわざ彼を待っていた千早に小鳥は萌えを感じる。
「そうか。じゃあ、ただいま、千早」
「お帰りなさい、プロデューサー。ところでまたこんな物を買ったのですね」
そう言って千早が持ち上げたのは彼が手に提げていたコンビニ袋。
「中身は豚まん･･････いえ、中華まんですね」
「ああ、そのコンビニが今日で中華まん最終日と聞いてな。買い占めた」
「もう、ジャンクフードは体に悪いと何度言ったら、分かっていただけるんですか!?」
千早の言葉に彼は少し申し訳ないと言う表情をするがすぐに体勢を立て直す。
「そう言うがな、千早。俺には昔から憧れがあったんだ」
「憧れですか？」
「あるマンガで主人公が学校の帰り道に紙袋一杯の中華まんを食べながら歩いているんだ。
それを見た時、俺も何時かはやってみようと思った」
「そのくらいなら、社会人になれば、出来るのでは?」
「甘い、千早。いいか、社会人になってもお金の余裕はそれほどないんだ。
音楽関係の仕事をしているから、勉強のためにCDもよく買ったし。
でも、千早の担当になって、さらにトップアイドルになったことでやっと余裕が出来たんだ。
確かに千早に見つかったら怒られるから、隠れてやろうとしたのは悪かったけどさ」
「千早ちゃんに隠れてやる時点で、お尻に敷かれていますね、プロデューサーさん」
「ちょっと、音無さん。私は自分の面倒を見てくれているプロデューサーの身を案じているだけです」
そう言ってから、千早はため息を付く。
「それならそうと言って下されば、私が作りました」
「違う、千早。確かに千早の手作り豚まんを美味しかった。
おかげで某映画で見た山盛りの豚まんを両手に掴んで食べる夢を実現できた。
しかし、コンビニの中華まんには、値段以上のロマンがあるんだ。
出来れば、高校時代に恋人と歩きながら、袋一杯の中華まんを食べたかった」
「分かるわ、プロデューサーさん。高校時代にやりたかったこと、私にもあるから。
あの時にもっと真剣に将来設計をしていれば･･････」
「プロデューサーも音無さんも言いたいことは分かりましたから離れて下さい」
そう言って千早は彼の手を掴んでいた小鳥を引き離す。
「コンビニの良さについて、一時間は語れる。千早の魅力についてよりは語れないが」
「プロデューサーさん、千早ちゃんの魅力についてはどれくらい語れるのですか?」
「半日は確実ですね。なんなら朝まで生トークをしてもいいです。あいうえお順で行きます。
「あ」は千早の「哀愁」の「あ」。
千早が時々見せる寂しげな表情は、思わず駆け寄って抱きしめたくなります。
「い」は千早の「いじらしさ」の「い」。
帰りが遅くなると連絡したのに、晩ご飯を食べずに待っている姿を見て、絶対にこの娘を幸せにすると神に誓いました」
「それなら、「う」は千早ちゃんの「初々しさ」の「う」ですね。
ちょっと恋愛系の話になるとすぐに照れて、真っ赤になるのには、お姉さん、ハート、ギューよ。
「え」は千早ちゃんの「艶美さ」の「え」ですね。
ネコ耳にゴスロリメイド服を着た時の写真は、大量殺戮兵器と言われたくらいですよ」
「二人とも止めて下さい。もういいですから。コンビニの中華まん、全然OKです」
顔を真っ赤にして千早は二人を止める。このままでは明日からまともに彼の顔を見られない。
「なんだ、まだまだいけるのに。まあ、中華まんも冷めるし、止めるか。好きなのを取っていいぞ」
「では、お茶を入れてきますね」
そう言って出て行く小鳥を見送り、千早も一つ中華まんを手に取る。
「あまり私を困らせないで下さい、プロデューサー」
「いや、別に困らせるつもりはないんだが。本当のことを言っているだけだし」
首を傾げながら言う彼に「もう」と一言言い、千早は中華まんに口を付ける。
あなたが魅力に感じている部分は、あなたにしか見せない如月千早なんですからね、と呟きながら。
コンビニ肉まん一個からこれを思いつくあたり、かなりやられていると実感した