08/02/19 22:38:42 OV9AXYcp0
「プロリューサーさん、聞いていますか?」
「ええ、聞いていますよ、小鳥さん」
彼女にそう答えつつ彼はため息を付く。
知り合いから譲り受けた銘酒「小鳥祭」、那夢湖酒造製造の幻の一本だ。
残念ながら小瓶の方だが、予約しても入手困難な事に変わりはない。
「まさかお猪口二杯でここまでベロンベロンとは・・・・・・」
「何言っているんれすか、プロリューサーさん、私は全然酔ってませんよ」
「ダ行全滅な話し方で酔っていないと言われても」
しかし、ここまで酔った小鳥は彼が知る限り初めてだ。
「うう、そうれすね、私みたいな二十チョメチョメと一緒に飲んれも面白くないれすよね。
やっぱり千早ちゃんとか雪歩ちゃんみたいな若い子が・・・・・・」
「いや、そんなことないですから。それ以前にあずささん以外は未成年です」
とりあえず記憶の検索は後回しにして、小鳥の相手に集中することにする。
「洗い物も終わっていますし、もう寝ましょう」
「は~い、音無小鳥、おねんねしま~す」
明るく言う小鳥に彼はため息を付く。寝る前で良かった、と我が身の幸運を噛みしめる。
「はぁ、小鳥さんの部屋が角部屋で、隣が空き部屋で良かった」
この騒ぎを隣人に聞かれたら、変な噂が流れかねない。
「さあ、小鳥さん、こっちです」
「プロリューサーさんは優しいれすね」
支えられている小鳥は嬉しそうに言うが足下が危うい彼女を放置できないだけだ。
「はい、ベッドですよ」
「は~い、今日はプロリューサーさんも一緒におねんねれ~す」
「いえ、俺は一人で寝ますよ」
「却下。寒いから嫌れす」
そう言って彼女は彼の首に手を回すと彼をベッドに引き倒す。
「ちょ、ちょっと小鳥さん」
「うう、プロリューサーさん、暖かいれす」
「冷たかったら、病院に行かないと駄目です」
体を擦り付けてくる小鳥にそう答え、彼はため息を付く。
酔っ払いに何を言っても駄目だと分かっているが・・・・・・無駄な抵抗でもすることに意味がある、はずだ。
「小鳥さん、いくら何でもマズイですよ」
「そうれすね、ちゃんとお布団に入らないと風邪をひいちゃいますね」
そう言って小鳥は布団を引き上げ、自分と彼の体にかける。
「これなら、らいじょうぶれす」
「いえ、大丈夫じゃないですから」
やることはやったと満足げな彼女に彼は冷静に言葉を返す。
やはり無駄な抵抗は無駄に終わったようだ。
「小鳥さん、俺だって、健全な男性なんですから・・・・・・」
「はい、分かっていますよ。全然もんらいなしれす。オールグリーンれす」
「いや、分かっていないです」
思わず頭を抱え、枕元の時計を見る。もう寝ないと明日が辛い時間だ。
「はぁ、もういいです、お休みなさい、小鳥さん」
「はい、お休みなさい、プロリューサーさん」
彼女の返事に頷き、彼は眠りに落ちた。
「プロリューサーさん、寝ちゃいましたか・・・・・・本当に寝ちゃったみたいね。
うう、これだけ据え膳しても駄目なんですね。
やっぱり魅力が足りないとか・・・・・・まさか、若さが足りないとか・・・・・・ううん、それはないはず・・・・・・」
自分の考えに小鳥はため息を付く。
お酒の力を借りて、一気に大接近を考えたのだが・・・・・・全てが無駄に終わった。
必死に敗因を洗い出していた小鳥は彼の発言を思い出した。
『酔いつぶれた女の人って、社会人として、情けないですよね』
「もしかして、私、やっちゃった?
プロデューサーさん、起きて下さい、音無小鳥、全然素面です、酔っていません」
必死に話しかける小鳥だが、彼の方は酔いと疲労で熟睡状態だ。
「あ~ん、私の馬鹿ぁ」
自分の行為にため息を付き、小鳥は仕方なく、彼に抱きつきなおす。
とりあえず、失点回復は明日になってから考えるとして、今はこの幸せに浸ろうと思いながら。
休日前にコンビニでビールを買う幸福感は未成年に説明しがたいものがある